梅田芸術劇場で上演されたミュージカル『NINE -ナイン-』を観に大阪へ行ってきました。この作品が2020年の観劇納めとなります。
約7年前に生活圏が西に移ってからというもの、私の観劇中心地はほぼ大阪(または兵庫西宮)中心となりましたが、今年は3月のミュージカル『ボディガード』を最後に今日まで来ることが叶わない状況となってしまいました。実に約9か月ぶりの梅芸…!!感極まるものがあった…。
とはいえ、大阪も東京と同じく新型コロナ禍が深刻な地域として報道されており…公演できるのだろうかと気を揉む日々となりました。が、予定通り初日から順調に公演を重ねられていて、私の観劇予定日だった11日も幕が開くことに。今の時期は幕が無事に開くこと事態が奇跡という状況ですから…心底安堵しました。
ほんと、この時期に大阪まで来てくれただけでもカンパニーの皆様には感謝感謝です。
香川よりも陸続きになった分大阪への移動もしやすくなりましたw。とはいえ、感染予防対策だけは抜かりなく。最大限の対策をしたうえでの遠征となりました。
でも、久しぶりの大阪なのに今はまだ気軽にお店に寄ったりできなかったのは少し残念…(劇場までの最小限移動を心掛けたので)。早く安心して街を歩けるような状況に戻ってほしいです…。
ちなみに、帰りの新幹線ホームで「幻」のドクターイエローに遭遇しましたっ!
お目にかかれると思ってなかったので本当にラッキーでした!ご利益あるといいなぁw。
以下、ネタバレを含んだ感想になります。
2020.12.11マチネ in 梅田芸術劇場 (大阪・梅田)
主なキャスト
- グイド:城田優
- ルイザ:咲妃みゆ
- クラウディア:すみれ
- カルラ:土井ケイト
- サラギーナ:屋比久知奈
- ネクロフォラス:エリアンナ
- スパのマリア:原田薫
- 母:春野寿美礼
- ラ・フルール:前田美波里
- リトル・グイド:熊谷俊輝
天使の歌声とも評される熊谷くん、昨年『ラブネバーダイ』で見たときよりも顔つきが少し精悍になってカッコよくなってました。今回の役柄はとても難しかったと思うんだけど(展開的にも子供には酷なシチュエーションだし 汗)リトル・グイドの繊細さを見事に表現していました。
それにやっぱり歌声が本当に素晴らしい!あの美しさは今の時期だからこそ出るのだと思うけど、声変わりした後もすごく良い歌い手さんに成長するんじゃないかな。将来的には海宝くんみたいなミュージカル俳優になってほしいと思ってしまう。今後の成長が楽しみです。
そしてもうひとつ目を惹いたのが、DAZZLEの皆さん!!メンバー9人の統制の利いた動きが見事!!横並びで同じパフォーマンスをするシーンなどは狂いなくキチっと揃った動きで実に美しい。『NINE』の独特の世界観にすごく合ってました。
あらすじと概要
この作品の基になっているのは、1963年に公開(日本での公開は1965年)されたイタリア・フランスによる合作映画『8 1/2』です。この映画を監督した”映像の魔術師”との異名を持つフェデリコ・フェリーニの自伝的作品で、タイトルにはフェリーニが手がけた作品が”8プラス1/2本目”(処女作が共同監督だったのでカウントは1/2ってことで)の意味が込められていたのだとか。
映画『8 1/2』が『Nine The Musical』としてミュージカル化されブロードウェイで初演したのが1982年。脚本にアーサー・コピット、作詞・作曲にモーリー・イェストンのコンビ(二人は私の大好きなミュージカル『ファントム』も手掛けています)で制作され大ヒット。この年のトニー賞5冠(作品賞含む)を達成しました。
さらに、2003年に新演出で再演された折にもトニー賞でリバイバル作品賞など2部門受賞しています。この時に主演のグイドを演じていたのは人気俳優のアントニオ・バンデラスでした(彼自身は受賞していませんが)。私はこの時のCDを買ってて今でも持ってます(バンデラス大好きだったので)。
その後、2009年にはロブ・マーシャル監督によってミュージカル映画化されこちらもヒットしました。ペネロペ・クルスやニコール・キッドマンなど有名女優さんたちが出演していたこともあり、当時日本でもかなり大きく宣伝して話題となっていました。
この映画のためにモーリー・イェストンが書き下ろした♪Cinema Italiano(シネマ・イタリアーノ)♪は最高にカッコイイ楽曲で大好きです(舞台版には出てきません)。
※公開当時の映画感想↓
日本で初演されたのは1983年。その後何度か再演を繰り返していて、日本でも人気が高い作品です。ちなみに私が初めて見たのは2005年バージョン。主役のグイドを別所哲也さんが演じていました。
当時は天王洲のアートスフィア(現・銀河劇場)で公演されてて当日券で観に行ったんですよねぇ。懐かしい…。
全体感想
舞台でも映画でも見ていた作品ですが、ストーリー内容は実はあまり覚えてなかったので色々と新鮮に映りました。まぁ、ストーリー内容は主人公のグイドが女性たちを翻弄しまくった挙句に破滅するっていう印象が強いんですけどねw。ちなみにメインキャストは城田くんと熊谷くん以外は全員女性です。それゆえ、傍から見るとグイドが”女難の相に溺れる”ストーリーと思えなくもない(笑)。
たぶん、音楽がモーリー・イェストンじゃなかったらこの作品は積極的に観に行こうとは思わなかったかもしれません。大筋はシンプルですが、精神世界の出来事を描いてる部分も多いので主題が見えづらくストーリー性も薄いので、個人的にはあまり好きな部類ではないんですよね。
モーリー・イェストンの美しいドラマチックな旋律があるからこそ、このミュージカルは成立しているんじゃないかなと思う。『タイタニック』や『ファントム』に登場するような心震える瞬間が散りばめられている音楽は本当に聴き心地が良い。
特に冒頭の♪Overture♪は本当に素晴らしくて(特に女性のコーラス部分)思わずこみあげてくるものがありました。 あそこから一気に『NINE』の世界観へと誘われるような感覚に持って行かれます。
それから、グイードが1幕で歌う♪Guido's Song♪も印象深いですね。ここのシーンだけは15年前に見た舞台の記憶が残ってるくらい。グイードの名前を連呼するくだりとか好きですw。
演出は『ジャージーボーイズ』などで高い評価を得ている藤田俊太郎さん。今回もかなり大掛かりなセットを使ってインパクトの強い舞台演出をされていましたが、個人的にはちょっと…こだわりを詰め込みすぎたんじゃないかなぁと思わなくもなかった(苦笑)。
どちらかというと抽象的な展開の多い作品なので、まるで一つの芸術作品のように見せたいという意図は伝わってきたんですが…全体的に凝りすぎちゃっててただでさえ分かりづらい内容をさらに難解にしてしまってるように思えるところがいくつかあったんですよねぇ。もっとシンプルな演出にしても良かったんじゃないかなと。
あと、映画製作の話ということで舞台上部にスクリーンを持ってくるアイディアはよかったんだけど、歌うナンバーの半分を英語やイタリア語にしてしまったのは個人的に好きじゃないです。
舞台上にはカメラマンの姿があって、その映像がスクリーン部分に白黒映像として歌の字幕と一緒に流れるというスタイル。まるで昔の名画を観ているような感覚をお客さんに感じてほしいという意図は分かります。が、やっぱり日本版なのだから歌は日本語でお願いしたかった。なんであんなに原語に拘った演出をしたのか分かりません。
たしかに城田優くんはバイリンガルだし英語歌も上手い。他のキャストもイタリア語など難しい歌を見事に歌いこなしていました。でも、見てるこちらは歌詞が分からないので上の字幕を見てしまうんですよ。そうすると、どうしても歌っている時の役者さんの表情を見落としがちになってしまう。これが個人的にはすごく嫌でした。
来日公演は本場のミュージカルなので字幕を追いながら見る楽しみもありますが、日本版で字幕を追わなければいけない演出っていうのはちょっとやめていただきたかった。まぁ、私がもっと外国語を学ばなければいけないと言われればそれまでですが(苦笑)。
藤田さんの演出は好きな部分もたくさんあるんだけど、今回に関しては何というか”自己満足”的なものを感じてしまってちょっと残念でした。特に『NINE』のような好き嫌いが分かれるような作品では、もう少しシンプルに見せても良かったんじゃないかなと思います。
主人公のグイードはよく出来た理想的な奥さんがいながら、積極的な愛人カルラや魅力的な女優のクラウディアとも関係を続けています。しかし、彼の女性とのつながり方はどこか幼く破滅的で見ていてとても危なっかしい。思うように映画のアイディアが浮かばず大スランプに陥っているという状況なので、苦しくなるとすぐに彼と関わった女たちに空想の中で救いを求めてしまう…みたいな行動を取ってしまいます。
あんな不安定な男には近づかないほうがいいよって思っちゃうんだけどww、でも女たちはそんな彼に吸い寄せられていくわけで。グイドの持つ男の色気と構ってあげたくなっちゃう幼さとのアンバランスさが逆に魅力に感じてしまうのかもしれません。
この物語の中で一番気の毒なのは、愛人のカルラかなぁ。グイドは都合のいい時に彼女に救いを求めていたんだけど、カルラはその愛情にすがってしまい彼と一緒になるために離婚までしてしまう(まぁ、ダブル〇倫状態だったっていうのも問題アリですが)。しかし、グイドは自分の妻との関係を修復したいがために彼女を無下に追い払うんですよねぇ。大きなショックを受け自ら彼の元を去っていく姿はとても切ないものがありました。
女性を翻弄しまくるグイドでしたが、結局は映画製作もうまくいかないし頼りにしていた女優にも逃げられ、妻も自分の元から去っていってしまう。自業自得の男の物語と言ってしまえばそれまでですがw、彼にも「女性」に対する幼き日のトラウマがずっと付きまとってるわけで。あれさえなければ、もっと真っ当な付き合いができていたのかもしれないなぁと改めて思ってしまいました。
タイトルの『NINE』に込められた意味は、グイドの少年時代に起因しているのだそう。9ヶ月で生まれた9番目の息子。そして9歳の時に娼婦サラギーナによって性に関する大きなトラウマを背負ってしまったと。つまり、彼の精神年齢はその時から立ち止まっているところが大きい。
ストーリーのクライマックスで、すべてを失ったグイドは銃で自らの命を終わらせようとします。あのシーンを見たとき、9歳で止まっていた彼の中の時計が動き出したようにも感じられました。彼の命運がどうなったのかについてはハッキリと語られていないので、生きているようにも命を失っているようにも取れるラストシーンになっていますが、最後に残ったのが絶望ではなく希望と思えたところが良かったなと思いました。
主なキャスト別感想
城田優くん(グイド役)
まず驚いたのが、歌がものすごく進化してたこと!もともと上手かったけど、今回はそれにプラスして声に深みが加わっていて「え、これ優くんの声!?」って驚く瞬間が何度かありました。制約の多い稽古場で苦労している様子をテレビで見ましたが、そんな中でもこれだけの進化を見せくれたことが嬉しかったです。
グイドはどちらかというと映画も含めてかなり年上の男という印象が強かったので、優くんはまだその点では若いのかなと思っていましたが、今回の舞台では彼の持つ”素直さ”みたいな部分が前面に出ていて年齢に関する違和感は殆どありませんでした。
キャラとしては、女性を振り回すだけ振り回して結局一人残されてしまう男なのですが、ともすれば嫌悪感すら抱かせかねないのに「それでもどこか愛しくて放っておけない男」として見えてしまったのは彼が演じたからこそだと思います。
それが一番顕著に表れたのはラストシーンかな。グイドから離れていった女たちが最後の最後に彼の元に集まってくるのですが(空想世界の中ではありますが)、その眼差しはどこか温かく包み込むような印象が強かった。そう見えたのは、優くんの演じたグイドが破滅的なキャラでありながらもどこか純粋で放っておけないキャラを演じたからじゃないかなぁと。
『ファントム』のエリックとはまたちょっと違った「幼さ」「純粋さ」が垣間見える芝居が今回の作品の中では生きていたと思います。
咲妃みゆさん(ルイザ役)
スランプに陥ったうえに何度もほかの女性の影をちらつかせるグイドに「もう無理」と限界を覚えても、結局は「夫婦仲を修復したい」という彼の言葉を信じて支える道を選んでしまうルイザ。
優くんの演じたグイドはたびたび精神的迷路に迷い込んでしまうような厄介な男でしたが、咲妃さん演じるルイザはそんな彼を気丈に支え続けていて…時には母親のようにも見える”大人の女”としての逞しさがありました。
グイドの傍らで彼を支える姿は凛としていて聡明で美しく、なぜ彼はこんなデキた奥さんを裏切ってしまうのか不思議に思えるほどでした。
しかし、スパでアイディアが浮かばないまま即興で自分の私生活を切り取ったような映画を撮り始めたグイドを見てついに我慢の限界に達してしまう。自分以外の女性との関係も匂わす内容だったし、あれはキレても仕方ないなと。ルイザが彼に食って掛かるシーンは、彼女の悲痛な叫び声が胸に響いてきてとても切ないものがありました。
すみれさん(クラウディア役)
一時期第一線から離れていらっしゃったので心配したこともありましたが、元気に舞台に立たれる姿を見て安堵しました。以前、彼女がミュージカルに出演した時に歌が上手いと評判になっていたので今回初めて観れるのを楽しみにしていました。
すみれさんの歌声は深みがありつつもどこか影を感じさせるようにも聞こえてきて、ミステリアスな女優クラウディアにすごく合っていたと思います。
彼女もまたグイドに惹かれてしまった一人ではありますが、どちらかというとずぶずぶと恋愛にのめり込むのではなく、どこか俯瞰して見つめているところもあって妖しい魅力がありました。グイドがそんな彼女に心を奪われるのも納得だなと。
土井ケイトさん(カルラ役)
土井さんは今回初めて拝見する女優さん。蜷川演劇ご出身ということですが、一度も彼女の出演作を見たことがなかったので、今回どんなカルラを演じられるのか楽しみにしていました。
カルラはグイドにぞっこん状態でとにかく色気を前面に押し出してくる女性。数多くの女たちが登場してくるなかで一番セクシーなキャラですが、土井さんは体当たりで大胆に演じられていました。
カルラの歌う♪A Call From The Vatican♪は目を見張るものがありましたね。舞台の下から登場してくる演出も面白かった。彼女の歌によってグイドの周りのものがプカプカ浮いて官能の世界に入っていくのですが、その場を一気にピンク色に染めるような大胆なセクシーさを土井さんは巧く演じられていたと思います。歌もセクシーヴォイスでカッコよかった。
そんなカルラが、撮影にアップアップとなってるグイドから激しく拒絶されたシーンは切なかった。体がビクっと硬直して悲しげに俯く土井さんのお芝居に心打たれるものがありました。
前田美波里さん(ラ・フルール役)
映画プロデューサーのラ・フルールを演じられた美波里さんの圧倒的な存在感と迫力は強烈で、彼女が登場するだけで舞台全体のパワーがさらに一段階アップするかのようでした。
フルールはグイドに映画製作を急がせてプレッシャーをかけ続ける剛腕さがあるのですが、その一方でちょっとお茶目な一面も垣間見えたりして本当に魅力的な女性でした。
特に、客席に向かって「私に花を贈ってくださったのはあなた?」と問いかけるシーンは面白かった。ちゃんとマスクの色まで見てて「グレーのマスクの方が多いようですね」なんてアドリブも飛ばしたりして茶目っ気たっぷりな可愛さも全開。思わず笑っちゃいましたw。
さらにはグイドの映画にも出演して派手派手な衣装でダンスまで踊っちゃう!あそこはもう完全に美波里さんの一人勝ちみたいなところがありましたね。全くお年を感じさせないパワフルな若さにビックリしました。
そんなフルールが映画製作が破綻してすべてを失ったグイドに銃を渡すシーンはゾクっとするほどの冷たさがあってとても印象に残りました。数分前まであんなに陽気に踊っていたとは思えないほどの冷酷さで…このあたりのお芝居のメリハリの付け方もさすがでしたね。
サラギーナを演じた屋比久知奈さん、あんなにワイルドな魅力があったんだとビックリ!最初は彼女が演じてるって気づかなかったほどでした。リトルグイドを誘惑しまくる迫力はインパクトがありました。
ネクロフォラスを演じたエリアンナさん、美波里さん演じるフルールの秘書という設定でしたが、あの迫力に負けじと食らいつくような圧巻の歌声はさすがでしたね。エリアンナさんくらいのパワーがないと美波里さんとは太刀打ちできなかったかも。
スパのマリア役の原田薫さん、この物語のストーリーテラー的な役割もありましたが、落ち着いた語り口調がとても印象的で、舞台全体を良い感じで締めていたと思います。
グイドの母を演じた春野寿美礼さん、温かく包み込むような優しい雰囲気が漂っていましたが、ある事件をきっかけにそれが一変。「息子には真っ当な道を歩いてほしい」という願望が強かっただけに抑えきれない苛立ちとショックが伝わってきて、母親としての複雑な感情を見事に表現されていたと思います。
後述
東京公演のみという作品が多いなか、大阪まで来てくれて全公演全て休むことなくやりきってくれたことにまず感謝したいです。本当にお疲れ様でした、そして、ありがとうございました!
心の底から、ありがとうございました。#NINE pic.twitter.com/EJlN6usE1r
— Yu Shirota(城田優)🇯🇵🇪🇸 (@U_and_YOU) December 13, 2020
梅芸の感染対策もかなりしっかりしていて、ロビーや客席での話し声は東京よりも少なく皆すごくマナーに気を付けているなと感じられて安心して観劇することができました。
ちなみに、私は今回1階席後方席だったのですが隣の座席は座れないように設定されていました(1席飛び配置)。前方席はどうなっていたのか分かりませんが、新型コロナ禍の影響が濃いなかで隣に人がいない配置というのはやはりどこかホッとします。
今公演はDVD化が決まっています。特典映像も満載らしいので(さらに13日までに予約すると特典もプラスとのことで早めに注文済ww)届くのが楽しみです。詳しくは公式サイトをチェックしてみてください。
万人受けする作品ではありませんが、モーリー・イェストンの多彩な音楽を楽しめる点ではお勧めできるかも。まぁでも、作品的には『タイタニック』や『ファントム』のほうが断然好みではありますがw。
2020年の観劇はこれを以て終了です。新型コロナ禍の影響を受けたこともあり、3月~9月はほとんどの作品が中止になってしまい哀しき払い戻しをする羽目となりました…。色々な意味で印象深い一年でした。この一年の総括は、別記事で改めて書く予定。