片岡愛之助さん主演のミュージカル『コメディ・トゥナイト~ローマで起こったおかしな出来事 江戸版~』を観に大阪松竹座へ行ってきました。このところ梅芸へ行くことが増えていたので松竹座は本当に久しぶり。相変わらず道頓堀周辺は人が多くて大賑わいでした。個人的にはあの雑踏がちょっと苦手です。
友達には「ノーマークだった作品」と言われたのですが(笑)何故これを見に行ったかといえば…愛之助さんがミュージカルに初挑戦した作品だったからです。
愛之助さんのファンになってからかれこれもう10年ちょっとになりますが、ファンになった最初の頃からこの人の歌唱力は本物!という噂があったんですよね。ちょっとやそっとの歌手よりも歌が巧いと評判でしたが、なかなか聞く機会がなくて。そしたら数年前に愛之助さんが誕生日会で歌披露してくれることがありまして・・・すっごく上手かったんですよ。特に大ファンだというB'zの歌は絶品でした。
で、愛之助さん的にミュージカルはどうなのかと思っていたわけですが、ご本人もかなり前から「やってみたい」という話をちょこちょこされていたんですよね。数年前には実現しそうな流れになりながらも一緒にやろうと計画していた某お友達の役者さんがスケジュールの都合でダメになっちゃって話がなくなったということもあったようです。もともと歌舞伎役者さんですから、やはり色々とスケジュール的にも難しいのかなと諦めていた頃についにミュージカル出演の話が!
なので、私個人としても念願でした、愛之助さんがミュージカルに出演するの。これはどんな話だったとしても行かねばなりますまい(笑)。
以下、ネタバレを含んだ感想になります。
2017.04.19ソワレ公演 in 松竹座(大阪・なんば)
主なキャスト
- 丁吉:片岡愛之助
- 比呂:内博貴
- お美津:平野綾
- 澤野屋:ダイヤモンド✡ユカイ
- 荒尾正蔵:鈴木壮麻
- 金吉:ルー大柴
- 川端平吉:徳井優
- お高:松田美由紀
- 布袋屋楽右衛門:高橋ジョージ
アンサンブルさんも多数出演。総勢20人以上の大所帯でした。ちなみに愛之助さんの相棒…いや、お弟子さんである愛一郎さんは今回は出演していませんでした。ちょっと残念。
全体感想
今回のミュージカルは1962年に発表された「ローマで起こったおかしな(奇妙な)出来事」をベースにしているようです。ソンドハイムのミュージカルとしてタイトル名だけはかなり前から知っていましたが、トニー賞受賞したほどの有名作にもかかわらずそれがどんなものなのかは全く知りませんでした。
江戸版と銘打たれたこの舞台は、冒頭でも盛んにアピールされていたようにドタバタ喜劇。では「ローマ~」はどんな舞台だったのか気になったのでちょっと調べてみたら…国と時代が違う以外、大筋では設定などほぼ同じストーリーでした(笑)。タイトルだけ見たときはもっと違うストーリーを想像していたので(サスペンス要素あり的な)あまりの落差にちょっとビックリしました。
ストーリーは、招福座という芝居一座が「悲劇は一切なしの喜劇の日」としてこれから楽しい話を上演しますと派手に宣伝しながらやってくるところから始まります。愛之助さんをはじめ皆さん花道から賑々しくやって来て花道脇のお客さんにはビラも配ってくれたり。
ちょうどこの日は花道横の席だったため私ももらっちゃいました(しかも最後の一枚だった…!)
つまりは劇中劇という感じなんですね。このオープニングの『コメディ・トゥナイト』の歌がすごく軽快で楽しく、同じ旋律が巧い具合に繰り返し流されていたのでけっこう頭の中に残りました。若い頃のソンドハイムの曲ですがこの時から才能があふれてたんだなってことが分かります。
彼らが上演した劇というのが、薬問屋のお坊ちゃん・比呂(内くん)と隣の置屋の少女・お美津(平野さん)との恋愛を巡って繰り広げられる超ドタバタ喜劇。
お坊ちゃんの恋が成就した暁には自由にしてくれるという約束の元、丁稚の丁吉(愛之助さん)は張り切って二人を結び付けようと奔走しますが…そこにいろんな人が絡んできてなかなか上手く引合すことができない。ようやくいい感じになってきたと思ったところへ今度は高額の見受けするための金銭を払ったというムキムキの侍・荒尾(壮麻さん)が現れて事態が複雑に。比呂とお美津は出会ってすぐに惹かれあったため、それを何とか成功させたい丁吉は荒尾に偽のお美津(丁稚頭の金吉=ルーさん)を仕立てて誤魔化そうとしますが、ついにすべてがバレて万事休す。とそこへ、盗まれた双子の子供を探し放浪を続けていた薬問屋の隣に住む川端(徳井さん)がフラフラになりながら現れる。事態は予想外の展開へ…!
全編通してシンミリするような場面は一切ありませんでした(笑)。最後の最後は大団円となり、一座が全員で♪コメディ・トゥナイト♪を歌い上げて、丁吉の満面の笑顔の垂れ幕がバサーっと現れたかと思うとそれをバックに愛之助さんがフライングして〆るという派手な幕切れが目を惹きました。愛之助さんはフライングに関しては歌舞伎で慣れていますから実にスムーズでしたね。
ストーリー的には置屋が主な舞台になっているので、ネタ的にはけっこうシモ系。なので、好き嫌いは分かれるかもしれないなぁとは思いました。ちょっとお下品なドタバタ喜劇って感じでしょうかねw。
私個人的には・・・正直なところ、好きなストーリーではなかったです。ルーさんの女装とかww入れ替わりから起こる喜劇とかw、断片的に見たら面白くてけっこう笑ったんですけど、男たちのバカな欲望みたいなシーンとかはちょっと、苦笑いだったかも(苦笑)。まぁ、笑いましたけどね、「こいつら馬鹿だなあ」ってww。特に♪女中に夢中♪ってナンバーがなんともおバカ感満載でww。何度も同じフレーズや旋律が出てくるので覚えちゃったよ(笑)。ソンドハイムにしてやられたって感じ。
でもやっぱり、置屋系での喜劇っていうのは…なんか素直に笑えない部分とか多いから苦手かなぁ。オリジナルではローマの売春宿が舞台になってて丁稚は奴隷という設定らしいんだけど、海外版と時代劇版とではまた見え方も違うのかもしれない。向こうの人はこういうネタにあまり抵抗ないような気もするし。
劇中劇という設定なので舞台の両端が楽屋みたいな構造になってたのが面白かったです。上手側にはちゃんと「めくり」があって、曲が出てくるたびに裏方役の人がナンバー紹介してめくってくれるのが分かりやすくてよかった。下手では一度ハケたはずの人たちがたまにこっそり舞台の様子を覗きに来てたりして、そういう細かい設定もなかなか楽しかったです。
あと、楽団の人たちもちゃんと江戸風に扮装してて、指揮者の方は途中までずっと役者だと思い込んで見てしまいました(笑)。いや、上手舞台袖で指揮棒振ってたんですけど…後姿があまりにも舞台と馴染んでいたもので。こういう遊び心満載の宮本亜門さんの演出は面白くていいなと思いました。
ただねぇ・・・なんていうんだろう。これ時代劇をベースにしてるからかもしれないけど、なんかちょっと、ストーリー全体がお下品に思えちゃうとこがあったんだよなぁ。まぁオリジナルの設定がそういう話だから仕方ないっちゃそうなんだけど、日本的に描いちゃうとところどころ素直に笑えない…っていうか引いちゃうようなシーンになる気がする。これは完全に個人の好みの問題なんですけどね。再演したら見たいかと言われれば…たぶん答えは「もういいや」ってなると思う。
主なキャスト別感想
片岡愛之助さん(丁吉)
念願の愛之助さんのミュージカル舞台が観れて…それだけでも行った甲斐はあったと思いました!ストーリー的には微妙だったけどw、この舞台で愛之助さんがミュージカルでも十分通用するんだってことが分かって嬉しかったです。
丁吉はほぼ出ずっぱりのハードな役柄。ミュージカルのソロナンバーもかなり多く、若い二人を引き合わせるために右往左往する役どころだったので動きもけっこう激しかったのですが、歌声にはブレがなくちゃんと物語の感情に乗せて演じていたのはすごいなぁと思いました。ソンドハイムの作品の歌ってけっこう難易度が高そうなものが多いのですが、愛之助さんは見事に軽々と歌いこなしていて改めてその才能に感動。
時代劇という慣れた設定もあってか所作もドタバタしながらもピシっと筋が通っていたし立ち姿も綺麗。たまに歌舞伎的な動きをするシーンとかではものすごく生き生きしてたのが微笑ましく思えたりw…なによりもこの作品をすごく楽しんで演じているんだなっていうのが伝わってきました。あと、この人はやっぱりエンターテイナーだなっていうのも感じました。
愛之助さん、またミュージカル挑戦してくださいね!!次は海外モノっぽいやつでの出演をぜひお願いしたいかも(笑)。
内博貴くん(比呂)
内くんの舞台を観るのは久しぶりでしたが、なんだかちょっと顔つきが大人っぽくなったなぁと思いました。役柄的にはおバカな世間知らずのお坊ちゃんだったんですけどねw。
カッコよさを封印してのバカっぷりがなかなかハマってて面白かったです。ポケェ…っとしてたり、駄々をこねたり、軽くチューしただけで舞い上がって恥ずかしがったりwwもう、本当に超お子様なお坊ちゃま。聞くところによると、10歳くらいの設定だったんだとか!!まぁ、あのガタイで10歳というのはあまりにも無理があると思うんですけどww、それでもほにゃ~っとしたおバカっぷりがなかなかに可愛らしかったです。
それにしても10歳で置屋の少女に…って思うと…今の世に換算したら大変なことだな
平野綾さん(お美津)
もともと童顔で可愛らしい平野さん、和服姿がとにかく華奢でとても愛らしかったです。モジモジした初心な少女っていう役柄がピッタリ。でも何も世間のことがよく分かってないので内くん演じる比呂との恋愛シーンはまるでおままごとのよう(笑)。そういうのが見事にハマってて面白かったです。
そんなポワァっとした雰囲気のお美津さんがソロナンバーを歌う時には突然爆発力を発揮w!!いやぁ、彼女が歌い始めると舞台が一気に江戸から西洋の世界に飛んじゃったかのようなあ雰囲気になっててビックリw。すっかりミュージカル女優の風格が出てきましたよね。
ダイヤモンド✡ユカイさん(澤野屋)
ユカイさんのミュージカルは『ミス・サイゴン』に続いて2回目。サイゴンのエンジニア役を見たときに「けっこうミュージカルを楽しんで演じられてるな」って好印象を持ったので、今回の舞台も楽しみにしていました。
演じられたのは置屋の主人。赤いおかっぱの髪型と派手な着物が実によく似合ってて美しい…とすら思ってしまったw。さすがはロックンローラーだなと(ちなみにセリフの中にもロックンロール!って言うの今回もちょこっと入れてきてましたwww)。コメディ芝居にも結構柔軟に対応していて、置屋でのコレクションシーンの時には愛之助さんに「背が高いのが好みだったんじゃないの?」みたいなアドリブとも思えるセリフを言ってタジタジにさせるなんて言う一シーンも(笑)。なかなかに楽しませてもらいました。
鈴木壮麻さん(荒尾正蔵)
壮麻さんの出番は冒頭からずいぶん時間が経ってからでしたね。しかも、見た目のインパクトが衝撃的!!あの衣装は、本当に吹っ切らなければ着れないって思っちゃいました(笑)。ムキムキの筋肉は肉襦袢みたいなものを身につけて表現ww。荒くれ者の侍という設定でしたが、侍というよりかは見た目から・・・バイキングって感じ(しかもちょっとシモ系の)。いやぁ、壮麻さん、振り幅大きい役者になりましたなぁ~。
そして、歌の爆発力がまた素晴らしい!!平野さんの時と同じように、壮麻さんが歌い始めると江戸の世界観が一気に西洋のミュージカル的な空気に変わるのを感じましたw。このあたりのアンバランスさが面白かったです。
ルー大柴さん(金吉)
ルーさんの舞台を観るのは今回が初めて。なんだろう、あの不思議すぎる魅力はww。芝居も上手いとは決して言えないし、歌も正直・・・かなーり微妙でしたw。が、なんだかわからないけど注目させてしまうオーラがあるんですよねぇ。あの異質さがこの舞台の肝だったのかもしれません。
ちなみに女装姿が予想外にもけっこう似合ってたのが衝撃的でしたw。
徳井優さん(川端平吉)
徳井さんがこの舞台の中では一番出番が少なかったかもしれません。劇中劇での役どころが、薬問屋の隣人で双子をさらわれたので探しに出かけているっていう設定。江戸の町を10周回れば見つかるみたいに巧いこと騙されてひたすら歩き回るってことだったので、1周終わるごとに舞台のひょこっと出てきてヨロヨロになりながら「○周目~」と宣言してまた居なくなるんですよww。この登場の仕方が実に絶妙で、ドタバタがピークになった時に出てきて客席の興味を全てさらってました。あの独特の存在感は徳井さんならではですね。
そしてクライマックスでは驚きの展開の重要人物にいつの間にかなっててww、あんなにみんなでドタバタしてたのに最後は平吉さんがごっそり持ってっちゃった的な面白さがありました。なんじゃそりゃ、な終わり方wだったけど、それがこの作品の核にもなってたかな。
松田美由紀さん(お高)
松田さんの見た目のインパクトもかなりの衝撃でした!白塗りにお歯黒、濃い~~化粧とおっきなカツラ…そして迫力の威嚇ww。まさに鬼嫁そのものw。そのめちゃくちゃ迫力のある存在感からか、出番が少なかったにもかかわらずかなり記憶にインプットされるキャラでした。これも振り切らないとできない役かもなぁ~。
カーテンコールではあまりにカツラが大きすぎるためか頭を下げるのがとても大変そうでしたねw。お疲れ様でした~。
高橋ジョージさん(布袋屋)
ジョージさんの舞台を観るのもこれが初めてでしたが、なかなか面白かったですね。最初は鬼嫁のお高さんに怒鳴られまくってチンマリして老け込んでいたのが、奥方がいなくなって羽を伸ばし始めたときの変わりっぷりが特に笑えましたw。おバカな色におぼれちゃう旦那さんって感じで、暢気にお風呂につかって鼻歌歌いながらゆーーっくり障子を閉める時の表情と動きは絶妙で客席も大爆笑でした。
そしてクライマックスではジョージさんの実生活を意識してそのシーンを書いただろうって思える場面も登場。好きな人同士が云々って良いこと言ってるんだけど、それをジョージさんが言うとなんとも見てる側は例の事件思い出しちゃってどうしても妙な笑いがこぼれてしまうってね。ちょっとした罰ゲームみたいで気の毒にも思えたけど、本人は楽しそうだったから結果オーライってことですかね。
後述
カーテンコールでの客席のテンションも大いに盛り上がっていました。そんな中、愛之助さんがカンパニーの中の一人、カピタン役(遊女役)の咲良さんがこの日誕生日を迎えたことを告げると舞台袖から誕生日ケーキが出てきました。舞台上でバースデーソングが流れ、咲良さんがすべての蝋燭を消すと会場も大きな拍手で包まれました。
そんな中、ジョージさんと内くんがケーキに「19」の文字があるのを注目したらしく「え!19歳??」とまじビビりwww。「いや、今日が19日ってことなので」と苦笑いされると「そうだよねぇ~」と二人でワチャワチャ安心したようにド付き合ってて客席も大笑いでした。コラっwww。
そんななか、「こんな大勢の人に祝ってもらえる誕生日は初めてです」と感無量の表情を浮かべていた咲良さん。本当におめでとうございました~。
この後はアフタートークショーがありました。次の記事で紹介したいと思います。