PR表記あり

音楽劇『エノケン』川越公演 2025年11月30日大千穐楽 ネタバレ感想

音楽劇『エノケン』を観に埼玉県の川越まで行ってきました。この作品を以て2025年の舞台作品観劇は納めとなります。12月は私としては珍しくゼロということに(ライブは1本だけありますが)。今年は変則的な観劇年で…ある月とない月とのバランスが微妙だった気がする(苦笑)。

我が家からは片道2時間半くらいとけっこうな距離があったのですが(乗り継ぎもそこそこ多めw)、市村正親さんの故郷でもある川越でこの作品の大千穐楽を見届けられたことは非常に貴重な経験となりました。

ウエスタ川越は今回初めて訪れましたが、創立10周年とまだ新しい施設だったこともありとても奇麗でした。今回けっこうなサイド席だったので見切れもありましたが、全体的には見やすいホールだったと思います。
1700人収容できる大ホールはほぼ満席。客層は…市村さんファンと思われる方、地元川越の方、そして本田響矢くんファンの方といった配分だったかな。その中でも際立っていたのはやはり響矢くんファン。普段はあまり劇場で見かけない気合の入った服装をされている女性の方が多くてちょっと圧倒されてしまいました(汗)。この中の一握りだけでも観劇に興味を持ってくれる方が出てくれたら嬉しい。

ただ、客席でおもむろに化粧を始めたり髪の毛セットし出すといった方もチラホラ散見された(私の近所にもいたし)のはちょっと引いた…。そういうことはお化粧室でしていただきたい。私も響矢くんのファンとしてこの作品を観に行っているので…常識はずれな行動を見かけた時は哀しかったな。
自分本位な行動は応援している役者さんの印象も落としてしまうことがあるので、注意してほしいです。

グッズ売り場を見ると…開場直後までは全品揃っていました。おそらく客層を見込んで多めに発注かけてたのでは。一度売り切れると最後まで品切れになるパターンも多い中、今回物販関係はかなり優秀だったなと思います。
ちなみに、幕間に様子を見に行ったときは松雪泰子さんのアクスタだけが売り切れになっていました。

以下、ネタバレを含んだ感想です。

スポンサーリンク

2025年11月30日川越公演 大千穐楽 in ウエスタ川越 大ホール (埼玉・川越)

キャスト

  • 榎本健一:市村正親
  • 花島喜世子・榎本よしゑ:松雪泰子
  • 榎本鍈一・田島太一(劇団員):本田響矢
  • 菊田一夫:小松利昌
  • 古川緑波:斉藤淳
  • 柳田貞一:三上市朗
  • 菊谷榮:豊原功補

※市村さんと豊原さん以外の出演者は2役以上を演じています。

上演時間

約2時間45分。
内訳は1幕80分(1時間20分)、休憩25分、2幕60分(1時間)。

11月30日は大千穐楽ということでキャスト全員の挨拶があったので、終演時間はプラス20分前後延長されていました。

あらすじと概要についてはエノケン1回目の観劇レポ参照↓。

スポンサーリンク

全体・キャスト感想

約1か月ぶりの『エノケン』でしたが、さらにテンポよく内容も充実していて没入しながら堪能させていただきました。個人的には自分の2025年締めくくりに相応しい作品で本当に良かったなと。
以下、印象に残ったシーンを中心にいくつか振り返ってみたいと思います。

冒頭は戦後の1952年市村さん演じるエノケンが客席から登場しユーモラスな口上とメドレーを歌いながら現れます。ここのシーンで一気に客席の心を鷲掴みにしていくのはやはり流石だなと思いました。♪エノケンの月光値千金♪を歌う時には1階席の通路を練り歩く演出があって。川越のホールは大きいのでけっこうな距離があったのですが、茶目っ気たっぷりに手を振ったり求められたら握手したりと大盤振る舞い。私はもうこの時点で、市村さんとエノケンが同化して見えましたよ。やっぱりこの方は根っからのエンターテイナーなんだなと思いました。
ちなみに、練り歩いてる時の通路脇のお客さんの反応も様々で面白かったw。響矢くんファンと思しき若い皆さんは拍手のみで見送ってたけど、市村さんファンと思しきご年配のお客さんは市村さんが手をかざすとテンション上げ上げでタッチしたり軽く握ったり。どの方も本当に嬉しそうにされてて市村さんもさらにギア上げてニッコニコになってました。

このショーが終わった後、エノケンのショーを見に来ていた響矢くん演じる息子の鍈一が登場。鍈一のお父さんリスペクトがとても微笑ましい。響矢くんのピュアさが役柄に反映されてるなぁとほっこりしながら見ました。
でも、そのさなかにエノケンの体に異常が発生して…。慌てて介抱する鍈一だけど彼も実は重い運命を背負ってて。これ、ある程度バックボーンを知ったうえで(もしくは2回目以降の観劇)見るとジーンと泣けるんですよね(涙)。

そこから時代は遡って1930年のエノケンの劇団時代へ。
まだ若いエノケンが若い劇団員の田島に演技指導してるわけですが、この田島が響矢くんの2役目。儚さを漂わせる鍈一とは全く違った熱血不器用な青年で必死にエノケンに食らいついていく姿がなんとも愛らしい。大先輩に怖気づきながらも必死にスリッパ叩きを習得しようとするシーンは滑稽でありながらも「頑張って」と応援したくなるような可愛さがありました。なんか、リアル市村さんと響矢くんのやり取りにも思えてきたりして、色々な楽しみ方ができるシーンでもあったかなw。

時代が時代なだけに舞台の内容に警察が介入してくることもしばしば。でもそのイチャモンの理由というのが聞けば聞くほど「なんでそう捉える?」と疑問符が付くような内容ばかり。たぶん実際そういう事も日常茶飯事的にあったのかと思うと…そんな時代に戻ってはいけないなと改めて思った。
警官に果敢に反論していく松雪さん演じる喜世子はめっちゃカッコよかったし、警官役の斉藤さんもゴツい見た目とは裏腹な可愛らしい一面を見せるシーンの可笑しみがとても愛らしくてよかったなぁ。

数年後にエノケンは馴染みの酒屋で生涯の友となる豊原さん演じる菊谷と出会います。飄々としながらもどこか温かみを感じさせるお芝居が豊原さんはとても巧い!エノケンが彼と出会ってから自然と惹きつけられていくのも納得です。
そしてもう一つの大きな出会いとなったのが、松雪さん演じる芸者のあい子。彼女は田島の学生時代の友人という関係という設定だったのですが、ここだけはちょっと違和感あったかも(汗)。何歩か譲って…年の離れた姉弟って感じに見えてしまったw。あい子は松雪さんの2役目でしたが、男前女子な喜世子とは違う、女子力高めで好奇心と可愛さを備えたあい子を見事に演じ分けられていました。妻とは違う女性の魅力にエノケンが知らず知らず引き寄せられていくのも仕方ないかなという説得力がありましたね。

出会ってから意気投合したエノケンと菊谷。二人の会話は実にテンポよく見応えがありました。お互いに見えている先のビジョンが同じで、夢中になってやりたいことを語り合っている時の二人はキラキラ輝いている。エノケンと菊谷のコンビは最強だなって見ているこちらもワクワクしました。このシーンの時の市村さんと豊原さんの空気感がすごく良かったなぁ。

酒場に三上さん演じるエノケンの師匠の柳田がやって来て泥酔しながら斉藤さん演じる古川緑波(ロッパ)と大喧嘩になるシーンの見せ方は面白かった。言い争っていくうちにエノケンやあい子、菊谷たちを巻き込んだドタバタ劇になるのですが、全てスローモーションで演じる演出なんですよね。あえて躍動感として見せずゆったりとしたお笑い劇として見せてくる感じ。
個人的に舞台でのスローモーション演出はあまり好きではないのですが、この『エノケン』ではそれが効果的に作用しているように思えてさほど違和感はありませんでした。

柳田を演じていた三上さんのドーンとした貫禄と茶目っ気と、酔っ払った時の人格豹変の落差の演じ分けがとても面白かった。こういう師匠に育てられたからあの”エノケン”が出てきたんだなというのが納得。緑波を演じている斉藤さんは生真面目で融通が利かない面白みがありながらも笑いのことを真剣に考えている男らしさみたいな部分が滲み出ていてカッコよかった(警官役や酒場のマスター役と全然違うのは流石)。
それから、本役では菊田一夫を演じている小松さんの酒場の店主役も面白かった!動きがちょっとナヨっぽくていちいち可愛らしいんですよ(笑)。

スポンサーリンク

仕事では成功をおさめ絶好調のエノケンでしたが、毎晩のように遅くまで酒盛りしてまともに家には戻ってこない一面もあって(苦笑)。正直、家庭人としては失格のダメダメ夫だったということをこの芝居で知りました。松雪さん演じる妻の喜世子は乳飲み子の鍈一を抱えながらほぼワンオペ状態。夫は明け方近くに自宅の門前で酔っ払って寝てるという体たらく(汗)。これ、現代だったら通用しないよなとちょっとハラハラしながら見てしまった。
それでも喜世子は肝が据わってて、文句を言いながらもチャキチャキと夫の世話を焼いている。まるで大きな子供の世話をするかの如く手際がいいので(笑)、見ているこちらも”仕方ない奴だなぁ、エノケン”といった生ぬるい気持ちにさせられてしまいましたww。

エノケンも心のどこかでは家庭人としての自分の能力の無さを嘆いてはいるのですが、その憂さを晴らすために結局は酒場に足が向かってしまう。まさに悪循環(苦笑)。酒場に行けば馴染みの仲間たちの顔があって解放される。稽古中に叱り飛ばした菊田が謝罪にやってきた時などは、「そんなこと気にするな」と笑い飛ばして仲間に入れて一緒に呑む器の大きさも発揮。エノケンは結婚には向かなかった男なのかもしれないなと思いながら見てしまった。

ところが、またもやエノケンのダメ男っぷりが発動。なんと、劇団員の田島くんの友人だった芸者のあい子を好きになってしまう。そのことを周りに相談するというあけっぴろげなところがまた何とも…ねぇ(笑)。エノケンの気持ちを聞いた瞬間の響矢くん演じる田島のビビりっぷりが実に漫画っぽくて笑っちゃったしww、菊田がビビりながらも記者さながらにエノケンに好奇心満々で質問するシーンも面白かったw(小松さんの変わり身の芝居が最高ww)。
さらに盛り上がった皆は♪私の青空♪を熱唱。このシーン、ミュージシャンの方も数人参加しててとても賑やかなシーンになってましたね。響矢くんの歌が聴けるのはここだけですが、みんなと一緒なのでなかなか声が判別できなかったけど(汗)所々彼の爽やかな音色が聴こえてきました。

二人きりになったエノケンがあい子と共に夜の街を歩くシーンは客席通路で展開されました。私の席のすぐ近くにもお二人が来たのですが、あい子を演じる松雪さんの色香が凄かった!!これはエノケンがフラフラ~~ッとよろめいても仕方がないレベル(←いや、ホントはダメなんだけどねw)。でも、この時二人が語らっている内容は戦争の暗い話題だったりもして…。日中戦争の戦況を語り合いながら間近に迫る太平洋戦争の予感を感じ不安な気持ちを募らせていくシーンは印象深かったです。
そうこうしているうちに、エノケンの自宅が見えてくる。その窓の光が近づくにつれてエノケンは妻と息子の元へ戻ることをひどく躊躇ってしまった。そして結果的に、あい子と一夜を過ごす道を選んでしまうという…。このシーンはなんとも言えない複雑な心境で観ましたよ…。市村さんのラブシーン一歩手前みたいな艶っぽい場面を観れたのは貴重だなと思いましたがw。

この後驚きだったのが、エノケンが妻の喜世子にあい子とのことを正直に話しちゃうシーン。あそこまで正面から謝られたら、喜世子も「じゃあ、欲しかった宝石全部買っていいわね」としか返せないわな(苦笑)。実際のところ、エノケンは喜世子のことをどう思っていたんだろうか。感謝はしているけれども女性としてというよりかは戦友みたいな感覚なのかなぁ。人間臭いと言えばそれまでだけど、何とも複雑な気持ちにさせられました。
そして、あい子さんもエノケンとの一夜のことを旦那さんに正直に告白してるんですよね。ドラマだとそこで旦那が逆上して修羅場…って展開になりがちだけどww、そうはならなくて旦那さんは「あ、そうなのか」と狐に化かされたような気持ちのままフェードアウトしてるww。あい子さんはこの後家を出たのだろうか。

ちなみにこのシーン、松雪さんが二役を行ったり来たりする大活躍(笑)。エノケンの家とあい子の家が同時に出てくるので、最後エノケンの家に戻った時には息が切れてて「お前、何か息切れてないか?」と市村エノケンにツッコミ入れられる展開になってました(笑)。喜世子の「はいはい、すみません!!」というセリフの言い方が最高っだったなw。松雪さん、ホントお疲れ様です!

1937年のとある晩の公園、エノケンはやけに機嫌のいい菊谷と出くわして会話を交わす。もうこの時点から私は胸が痛くてねぇ…。菊谷は楽しそうに「エノケンはこれからもっとすごい人に進化していくんだろうな」と笑うのですが、その言葉の裏にはやりきれない思いがどうしたって見え隠れしている。菊谷に赤紙が来てしまっていたから…。
エノケンは衝撃を受けながらも力強く「菊さんはこれからの演劇界にとって欠かせない大事な人なんだから、必ず戻ってくるんだぞ」と言い含める。戦地から戻ってくる脚本を書いて上演することを約束させるエノケンの言葉が胸に刺さったなぁ…(涙)。菊谷はその言葉に励まされながらもどこか今生の別れも感じているような雰囲気があって、このシーンの市村さんと豊原さんのお芝居は本当に切なかったです。

その数日後の新宿で舞台を行っている最中、エノケンたちの元に菊谷がその日に品川から旅立つという情報が入る。エノケンは客席に1時間だけ見送りの時間が欲しいと懇願し許しをもらったうえで急ぎ品川まで仲間と駆けつけました。これ、史実だそうで…そう思いながら見るとなおさら泣けて仕方なかったです(涙)。
雑踏の中で菊谷を見つけたエノケン、柳田、菊田、田島。菊谷は一人一人に感謝の気持ちを伝え懸命に笑顔を作って旅立とうとするのですが、最後に交わしたエノケンとの短いやり取りが切なすぎる。

「ケンちゃん、あの約束忘れてないからな」

「俺もだ!!」

この二人の言葉に必ず生きて再会するんだという祈りの気持ちがこれでもかというほど詰まっていて、思わず涙してしまいました(泣)。
それでも運命は残酷で、二人がその約束を果たせる日はついに訪れなかった。戦場で自分が考えていたアイディアを書き留め、仲間たちを想い最後の最後まで希望を抱いていたであろう菊谷のシーンは涙無くしては観れなかったし、哀しい知らせを伝えた後崩れ落ちるように号泣する響矢くんが演じる田島の姿も本当に辛く切なかった(涙)。

スポンサーリンク

2幕冒頭は1幕冒頭エピソードの続きとなり1952年へ。地方公演の最中に突発性脱疽(血流障害で体の組織が腐ってしまう恐ろしい病)を患い右足の指を切断せざるを得なかったエノケン。歌って踊る芸を得意としていた彼としては大きな痛手です。やはり若い頃から家庭を顧みないほど飲み歩いていたことが祟ってしまったんですかねぇ…。
しかし、喜世子も鍈一もエノケンのことを必死に励ましてリハビリに向かわせます。本当にこの二人は心が広い。喜世子さんは思うところもたくさんあっただろうに…。

特に息子の鍈一。本当によくぞあそこまで素直な息子に育ったと感心してしまうレベル。興行に忙しく時間が空けば酒盛りに出掛けあまり家庭に顔を出さない父親だったのに、誰よりもリスペクトして支えようとしてた。エノケンが一度は絶望して命を絶とうかと考えた時にも無我夢中で必死に止めてたしね(ここはけっこうコミカルに描かれてたけどw)。
きっと、鍈一は父と会えない時間の寂しさよりも、多くの人を笑わせるために身を削りながら努力を惜しまなかった父への尊敬の気持ちの方が大きかったのかもしれない。ただ真っ直ぐ一途に父を応援する鍈一を響矢くんはとてもピュアに演じてくれました。

あと、やっぱり喜世子さんの功績も大きいと思います。たぶん彼女は息子の前では多少愚痴はこぼせども、父への忸怩たる気持ちみたいなものを見せなかったんじゃないかな。エノケンが鍈一にとって偉大な父のままであってほしいという気持ちが強かったと思う。
息子が寂しそうにしている時は、童謡「あかとんぼ」を歌って気持ちを和ませていた喜世子さん。小さなピアノを弾き語る姿は尊くて慈愛に満ちていてグッとくるものがありました。松雪さん、本当に演奏されていたそうですし、歌声も優しくてめっちゃ泣けたよ…(涙)。鍈一に寄り添う母心がこれでもかというほど伝わってきた。

エノケンはリハビリを続けながら、これまで見過ごしてきた家族の様々な顔を知っていくことになります。喜世子と鍈一のやり取りを少し離れた場所からじっと眺めていたシーンはとても印象深い。このリハビリ期間の間に家族の大切さに気が付いていくかのようだったな。
エノケンは家族の支えもあってか見る見るうちに体力が回復。片足を高く上げたりターンをやってのけたりするリアクションは市村さんならではです。足上げやターンは動きに無駄がなく本当に綺麗でビックリする。ちなみに、エノケンが回復していく過程の演出は細切れに暗転を入れる方式がとられていました。そうすることで時間の経過を見せていく感じで、すごく映像的で面白かったです。

しかし、エノケンが回復していくにつれ鍈一の体調が日に日にどんどん落ちていく。気力を取り戻し元気になっていくエノケンに対し、咳きこんだり胸の痛みの回数が増え弱っていく鍈一の姿を見るのはとても切なかったし辛かった。声の張りも衰え存在そのものも透明になっていくかのよう…。いつもキラキラ元気に輝いている本田響矢くんが儚く薄くなっていくように見えてなんだかとても胸が痛んでしまった。このあたりの変遷、すごく繊細に演じてましたよね。
それでも鍈一は親の前では自分の弱った姿は見せまいとする。直前までどんなに苦しそうにしていても、リハビリに励んでいる父の前では笑顔を作ってひたすら応援してた。その健気な姿がとにかく泣けて泣けて仕方なかった(涙)。

エノケンはリハビリで家族との時間を取り戻していく中で、鍈一との会話も重ねていました。印象深かったシーンが二つ。

エノケンは鍈一に「お前は何をしている時が一番楽しいんだ?」と尋ねる。すると鍈一は少し考えた後に「生きていられるだけで幸せだよ」と微笑む。
その言葉の重みを想うと…切なすぎて涙せずにはいられなかった(泣)。きっと鍈一は、自分の命の残り時間がもうあまり残っていないことを悟ってたと思います。エノケンも心のどこかでそれを察していた。だからこそ、このリハビリ期間の家族の時間はとてもかけがえのない幸せなひとときでもあったのではないだろうか。

そしてしばらくして鍈一はエノケンに尋ねる。

「去る人と去られる人とでは、どちらが辛いんだろうね」

エノケンは言葉を噛みしめるように答える。

「それは、去る人の方じゃないのか?」

この親子の台詞も本当に涙が出ましたよ(泣)。エノケンは息子が自分が去ってしまった後の親のことを気遣っていることを痛いほど分かっていたと思うのです。だからあえて、「去る人」だと告げたのではないだろうか。鍈一はその言葉を聞いて父が自分の気持ちに寄り添ってくれたことを感じたように少し微笑んでいましたが、その表情は儚くてどこか寂しげで…本当に哀しかったです(涙)。

スポンサーリンク

やがてエノケンはリハビリを終え仕事に復帰。大きな仕事をいくつもこなせるまでになった。しかし、1957年…ついに鍈一の病が深刻な状況に陥ってしまう。舞台稽古中に息子の危篤を知ったエノケンは急いで病院に駆けつける。
鍈一は苦しい息の中でも父と母の前では気丈にも必死に笑顔を浮かべていました(涙)。エノケンは「こんな病気早く治して、一緒に銀座の店で食事をしよう、約束だ」と必死に息子を励ます。今稽古している作品は自信作なので絶対見に来てほしいと告げるエノケンに、鍈一は気力を振り絞って「絶対見に行くよ」と笑う。このやり取りも本当に泣けた…。エノケンも、喜世子も、そして何より鍈一自身も、その約束は果たせないだろうことは悟っているのだけれど、必死に明るい未来を手繰り寄せようとしているんですよ(涙)。切なすぎてもう号泣…。

エノケンは鍈一を元気づけようとしてこれまで何度も話してきた「さるカニ合戦」の芝居でのエピソードを語ろうとする。鍈一は弱々しく笑いながらも「今日は聞きたい」とせがみました。話を続けた市村エノケンも、病床で必死に耳を傾けていた響矢くん鍈一も涙を流していて…本当に胸が張り裂けそうになってしまった(涙)。

それから程なくして、リハーサル中のエノケンに哀しい知らせが届く。舞台を中止した方がと気遣う菊田に対し、エノケンは「もう別れは済ませてきたから」とそのまま稽古を続行する決断をします…。このセリフも本当に哀しくて切なかった(涙)。
エノケンは、その日に歌う予定だった♪東京節♪を急遽変更させ♪モンパパ♪を選曲しました。それはささやかな家族の一幕を歌った楽曲…。私には息子に捧げる追悼歌に聴こえたよ(涙)。リハビリ中に過ごした家族3人のささやかだけど穏やかで幸せなひとときが浮かんできて、涙無しには聴けなかった(泣)。♪モンパパ♪は朝ドラ『虎に翼』でもたびたび出てきた歌だけど、こんなに号泣しながら聴く日が来るとは思わなかったよ…。

そして時は流れ10年後の1967年。エノケンはかつて一度だけ男女の関係になった「あい子」こと、よしゑと再婚していました。

喜世子さんとしては、鍈一がいなくなってしまったことで何か心の中でプツリと切れてしまったものがあったのかもしれません…。鍈一という存在がエノケンと喜世子の関係を繋ぎ止めていたように見えたのでね。あれだけ家庭を顧みず仕事や飲み仲間との遊興に没頭してしまう夫ですから…愛する息子という支えがなくなって夫婦関係を続けるというのは難しかったに違いない。
史実を調べると、喜世子さんは鍈一亡き後もなんとか夫を支えようとしていたようですが(エノケンが足の切断後に絶望した時も助けたそう)徐々に精神を病んで宗教に傾倒していったそうです…。そこまで追い詰められていたのかと思うと胸が痛んで仕方ありません(涙)。

ただ、喜世子さんとよしゑさんの関係は悪いものではなかったそう。エノケン全盛期のときも喜世子は彼女との交際を認めていたり相談に乗ったりしていたというから驚きです。

あい子は脱疽の再発で右足を切断したあとすっかり気落ちしてしまったエノケンを懸命に支えます(史実では再婚の5年前に切断)。それでもなかなか心を開いてもらえない。菊田も心配して何度も訪ねて来ていたようですが、昔のように腹を割って話してもらえない状態。このシーンはかなり重い雰囲気ではあったのですが、菊田を演じる小松さんがよしゑの名前をつい昔の芸者名である「あい子」と呼んでしまってアワアワするリアクションはめちゃめちゃ面白かったですw。

全てにやる気を失い老け込んでしまったエノケン。彼ももうここで終わってしまうのだろうかという空気になったところに背後から懐かしい声が聞こえてきた。それは、志半ばで戦争に命を奪われてしまった菊谷の魂だった。菊谷はエノケンの苦しみに理解を示しながらもある言葉を伝える。

「ケンちゃん、君はこれまで誰よりも観客の魂を震わせてきたじゃないか。それをやれたのは、若い頃の右脚じゃないだろう」

エノケンは体の一部を失ったことで再起不能になってしまったと思い込んでふさぎ込んでいましたが、菊谷は観客の心を掴んできたのはエノケンの中にある根っからの芸人魂なのではないかと語り掛けたのです。腹を割って心から信頼し合った友だからこそ知るエノケンの心の神髄に触れることができた菊谷。このシーンはとても幻想的でシンプルな演出だったからこそ胸にジーンときました。

菊谷の魂に触れたエノケンは奮起しよしゑに義足を取り寄せるよう頼み再びステージの上へ戻ります。彼に関わってきたすべての人たちの想いを乗せて、エノケンは再び走り出したのです。そのショーはこれまでのものよりさらに華やかに見えました。

と、ここで幕になると思っていたら・・・なんと続きがあって!!

エノケンが事あるごとに自慢話として語ってきたデビュー当時の「さるカニ合戦」のお芝居シーン。それが再現されていたのです。さるの役はエノケン、師匠や菊田や緑波たち(その他数人)はカニ。よく見るとそのカニ役の中に鍈一もいるんですよ…!!「カニカニ~~」ってはしゃいでる響矢くんがめっちゃ可愛かったなぁ。
エノケン猿は、彼が語っていたエピソード通り零してしまったお櫃の中の米を拾い集めて食べるリアクションをする。逃げていくカニのなかで鍈一が演じるカニがそれに気づいて戻ってきて猿と一緒に米をつまむ。その姿を、後ろから喜世子が微笑んで見つめていて…いつの間にか「さるカニ合戦」のステージは家族団らんの温かなシーンに見えてくるのです。

私はこのラストシーンを初めて見た後大号泣してしまいましたが…、大楽でもやっぱり号泣してしまいました(涙)。こうくるって分かっていてもやっぱり泣けて泣けて仕方がない。
最後にクローズアップされたエノケン、喜世子、鍈一の3人の微笑ましい姿を見た時、この物語はエノケンの一代記であると同時に家族の話でもあったのだということを悟ったんですよね。最後の光景は、おそらく鍈一が亡くなるまで望んでいた幸せな家族像だったのではないだろうか。現実世界では彼の死と共に壊れてしまったけれど、最後ファンタジーの世界の中でこの景色を見せる演出にはホント泣かされました。

スポンサーリンク

後述(大千穐楽カーテンコール)

川越公演最終日には、カーテンコールの時にキャスト全員からの挨拶がありました。

斉藤さん

最初「古川緑波のショーにお集まりくださいまして」とジョークを飛ばして場内を温められてました(笑)。その後は全方向に感謝の気持ちを告げられ、カンパニーの一員になれて本当に嬉しかったと感無量の表情で挨拶されてました。さいごの「あーーりーーがとーー」の熱唱、素晴らしかったです(面白かったけどw)。

小松さん

菊田役とは違ってどこか飄々とした語り口が印象深かったです。小松さんも全方向に感謝の気持ちを伝えられた後、意外なエピソードも。役者をはじめられた頃に演出家から「この映像を見て勉強しろ」と渡されたDVDが、なんと市村さんのお芝居ものだったそうです。それがまさかこうして一緒の舞台に立つことができるなんてと感慨深そうにコメントされていました。

三上さん

しょっぱなの挨拶が「カニBの役をやりました」といって笑いを取られてましたねww(あれってABCがあるんだww)。個人的に三上さんは25-6年前に見た小劇場のお芝居の印象が未だにあるので、本当に貫禄ある素敵な役者さんになられたなぁと惚れ惚れしてしまいます。毎回満員御礼の舞台に立つことができて役者冥利に尽きると感謝の気持ちを語られていました。この舞台を見て芝居が気になった方はまた是非劇場に来てくださいともコメント。これはきっと、響矢くんきっかけで劇場に足を運んだ方へのメッセージの意味もあったんじゃないかなと思いました。
ちなみに、この日は「お風呂リフォームあるので応援してください」と笑いを誘われていましたが、後日SNSで無事に終了したと報告がありました(笑)。

スポンサーリンク

響矢くん

呼ばれて前に出てきたときからもう目がウルウルしてて。その後コメントしようとしたんだけどもう堪えきれなくて涙な響矢くん…、今回彼にのしかかっていたであろうプレッシャーが相当大きかったんだろうなということを悟り見ている私も思わずもらい泣きしちゃいました(涙)。前日の打ち上げの時に豊原さんから「泣いちゃうんじゃないか」みたいな話をしたんだけど、その通りになってしまったと泣きながら苦笑いしてたのは可愛かったけどね。
稽古が始まった時から不安との闘いだったそうですが、先輩たちのおかげで乗り切ることができたと感無量の表情。初舞台のつもりで頑張ってきた中で、芝居の楽しさを実感したという響矢くん。「まだまだ役者としては未熟なので、しっかり努力して精進していきたいです」と目を真っ赤にしながらも力強く語ってくれたこと、本当に嬉しかった。

豊原さん

前に出てきたときから「いえーーい!!」とロックなノリで笑いを取られていたのがさすが(笑)。全公演完走できたことへの感謝と感動を伝えている途中で目頭を押さえる仕草を始めたときは、後ろの仲間たちから「おい!」「嘘をつけっww」とツッコミが入りまくるという一幕も(笑)。響矢くんや市村さんは面白がって「がんばれーー」って盛り上げたりしててホント楽しいカンパニーw。このあとの豊原さんの「(響矢くんの涙とは)全く綺麗さが違った」と苦笑いしながら自己ツッコミしてたのも笑っちゃったよww。あと、もらった手紙の中に数十回観に来たと書いてあったのも驚いたってコメントがありましたね。

松雪さん

前に出てきて「ありがとうございました」と挨拶した瞬間からもう涙が溢れてしまって言葉が詰まってしまった松雪さん。今回のカンパニーでは紅一点でしたし、重要な役を2役も演じられましたからプレッシャーも大きく完走されたことへの達成感はとても大きかっただろうなと思いまたまたもらい泣きしてしまった(涙)。「前日の打ち上げの時に挨拶でなくネタやろうとか笑ってたのに、本当に泣いちゃってどうしよう」と狼狽えられていたのは可愛らしかったですw。最後は「すべての関係者とお客様に感謝」と涙をこらえながらのご挨拶でした。

音楽監督の和田さん

今回は生演奏でのお芝居だったのでミュージシャンを代表して和田さんからもご挨拶がありました。バンドメンバーはとても仲良しだったそうで、ゲネプロも合わせて全47公演だったことから日本地図に色を塗っていたんだとか。それがこの日に完成したと嬉しそうに語られてました。

最後に、川越には参加できなかったメンバーの名前も含め全員を紹介されていて、すごく愛を感じホッコリしました。

市村さん

挨拶の最初の方で全公演満員御礼だったことへの感謝を告げた後、後ろを振り返って「本田くんの力のおかげです」と頭を下げていたの笑いましたw。響矢くんはビックリして「違いますよ」と恐縮しまくりで可愛かったw。こういう挨拶がサラリとできるのはやっぱり市村さんさすがだなと。
エノケンについては、父親が川越出身で母親もそのすぐ近くの村の人だったとのこと。市村さんご自身の出身地も川越なので「歌って踊って芝居するエノケンとルーツが被ってる自分がこの役を演じるのは運命に導かれたような気がした」と語られていたのはとても印象深かったです。制作側も再演を視野に入れているとのことなので「その節は皆さんまたお願いします」と後ろの役者さんたちに挨拶する律儀な市村さん。まだまだ元気でこの役を続けていけるよう頑張ると力強く挨拶されて幕となりました。

その後のカテコ、3回くらいあったかな。市村さんが一番元気いっぱいだったよ。活舌はちょっと落ちてきてる感はあったけど(元々少し悪いというのはありますけど)、それをカバーして余りあるエンターテイナーとしての演技力は流石の一言しかありません。カンパニーの皆さんがリスペクトされていたように、お稽古中もとても良い雰囲気を作られていたんだなというのが伝わってきました。一言ずつ挨拶するキャストを見つめる目が慈愛に満ちていたのも印象的だった。

最後、本田響矢くんについて

今回の舞台、響矢くんが出演していなければ舞台に足を運ばなかったと思うので、この素晴らしい作品に出会わせてくれた彼にはとても感謝しています。響矢くんのカテコ挨拶の涙を見た時に感じたけど、ドラマでブレイクした後に注目度が増したことで今回の舞台に出演することに関してのプレッシャーはこれまで感じたことないくらい重かったんじゃないかなと想像します。しかも、共演者の皆さんは芸歴も長く舞台での場数もたくさん踏んでいらっしゃる猛者ばかり。その中に経験の浅い響矢くんが飛び込むことは、すごく勇気のいることだったのではないでしょうか。

たしかに、全体としてお芝居を見るとまだ未熟だなと思う部分があったり(セリフ回しとか)気になる点も少しありました。でもそれ以上に、響矢くんの芝居に対するひたむきさやピュアさが役柄からひしひしと感じられたことに大きく胸打たれるものがあったんですよね。
板の上で大先輩の役者さんに交じってお芝居している響矢くんはとても生き生きしていたし、何よりも楽しそうだなと思った。今回の経験は今後の響矢くんの役者人生にとっての大きな財産となるのではないでしょうか。挨拶でも触れていたけれど、役者として今後もっと頑張りたいという気持ちも伝わってきたし、なんだかそれがとても嬉しかったな。私は響矢くんのモデル的な魅力も癒されるし大好きだけど、やっぱりもっと”役者”をしている響矢くんを観たいという気持ちが強いので。

これからも応援してるよ!頑張れ、本田響矢くん。
ちなみに歌もとてもうまいと評判なので、近い将来ミュージカルとかにもチャレンジしてほしいなと思います。

2025年最後のお芝居が『エノケン』でよかったです。2026年も良い作品とたくさん出会えますように。

error: Content is protected !!