演出と音楽について
前回も思ったけれど、セットの魅せ方が本当に巧くて視覚的にずーーっとワクワクしながら見ていられる。特に冒頭の劇場セットがあれよあれよという間に全く違う次のシーンへと変化していく演出なんかは、まさに匠の技です。見てる側はごっそり心を掴まれる。
野戦病院のセットも臨場感たっぷりだし、そうかと思うとフローの執務室はこじんまりしていて彼女の苦悩がより見ている側に伝わりやすい雰囲気になっていて。シーンごとの切り替えも本当にスムーズでストレスを感じるところがありません。
興味深かったのが傷病兵の魂が体から離れる場面。ネタバレになりすぎても良くないので詳しくは書きませんが、あの表現は最初見るとちょっとビックリします。ちょっとマジックみたいな見せ方になっているので是非ご注目を。
2幕の最後に向かうシーンでもこの手法がすごく生きてくるのですが、本当にとても神々しく美しいです。個人的にはミュージカル『エリザベート』のラストシーンがちょっと過りました。
もう一つ印象深いシーンは2幕の後半にフローたちがクリミアへ移動した場面。熱の籠った場面から一気に”寒さ”を感じさせる景色の魅せ方が見事。降りしきる雪も本当にリアルで、アナ雪の氷の城にやってきたのでは!?と錯覚するほどの冷気を感じました。
そしてなんといってもラスト。最後のグレイの台詞を聞いて、見ている側は改めて”冒頭のシーン”との繋がりにハッとさせられる。この作品には原作に登場する学芸員は出てこないのですが、あのラストがあることによって原作の世界観がハッキリ見えてくるんですよね。一本筋の通った構成が本当に素晴らしい。
ディズニー作品のようなハッピーエンドという雰囲気ではありませんが(ノートルダムは除く)、私にはとてもキラキラした未来を感じさせるエンディングシーンに思えました。フローとグレイの二人の想いが胸に迫り、今回ついに涙。見終わった後も心が震えるあの光景はぜひ多くの方に見ていただきたい。
この作品の中に登場する曲数(ナンバー)はセリフ劇も交じるミュージカルとしてはかなり多い方だと思います。富貴晴美さんの音楽はドラマチックなものが多く、物語の雰囲気を盛り上げる重要なパートになっていました。特に壮大なメロディーは私好みなものが多くて本当に心地が良い。
1回目に観た時はその音楽の素晴らしさに吞まれてあまり頭に残る楽曲がなかったのですが、今回はいくつか記憶に刻まれるナンバーがありました。
フローが募集した看護師たちと共に負傷兵が収容されている野戦病院へ旅立つ時に歌われる♪走る雲を追いかけて♪は、見ているこちらも彼女たちと一緒に行進したくなるような凛とした力強いナンバー。2幕のリプライズでも効果的に登場して心が湧き立ちます。
野戦病院で奮闘するフローたちが自らを奮い立たせるように歌う♪世界一効く薬は♪。緊迫したシーンながらも明るくポップな曲調で見ていて活力が湧いてくるのが良い。
1幕ラストに歌われる♪不思議な絆♪はグレイとフローの心の距離が近づくのを肌で感じられる壮大なナンバー。別々の場所にいながらお互いを感じ合う演出ともマッチしていてとても感動的なシーンです。重厚で本当に美しいメロディが印象深い。
2幕のヴィクトリア女王による♪限りなき感謝を♪。フローへの手紙に登場してくるのですが、派手で威圧感のある女王に相応しい気品のあるナンバーです。アイリッシュな旋律もあったりして「イギリス」が感じられるのも面白い(「あぁあぁあぁ・・・」っていう御付きの人たちの歌い方もツボ)。ヴィクトリア女王はこのシーンのみの登場ですが、クセツヨな雰囲気もあって見応えがありました。
フローとホールが直接対決する時に歌われる♪偽善者と呼ばれても♪のナンバーは凄まじいの一言!この作品の中で一番熱く激しい場面に相応しいすごいナンバーだと思います。役者の全魂がこのシーンと歌にドカーンと投げ込まれたような…圧巻としか言いようがない一曲でした。
2幕は半分以上がリプライズ曲なのですが、どの楽曲も最初に聞いたものとは違うドラマが見えたしオリジナルとリンクしてるのを感じさせるもの揃い。ミュージカルとして一本筋が通った素晴らしい構成だと思います。
2024年8月にCDが発売されるそうです。名曲揃いなのでぜひともゲットしたいところ。
印象的な場面とキャスト感想
プロローグのしょっぱなの大きな音は、前もって構えていればちょっとビクッとする程度で問題ないと思います。
ただ、このお知らせ表記は開幕後に作ったものだと思われるためあまり目立ったところに置いていないので知らない人も多いかも。あの音が鳴った後の「うわっ!ビックリした~」というざわめきが私の周りの席ではけっこう聞こえてきたので。でも、一昔前はこういうアナウンスない演目けっこうあったから親切になったなと思います。
♪奇跡の夜に♪でグレイと客席がキャッチボールするような場面があるのですが、この時の泰潤くんの語り掛けがめっちゃ良いんですよね。お客と役者の垣根を越えるようなヤンチャ坊主系でw、親しみやすい雰囲気を作ってくれる。「みんな、俺が見えるのか!??」って食い気味にいってるところが最高。前の方の列の人はドキドキしてしまうのではw。
それと改めて思ったんですが…、泰潤くんは本当に歌が上手い。どんな音程でも軽々と楽に歌っているように聞こえるので、歌詞のフレーズが心の中にすーーっと入ってくるし感情移入しやすい。
真瀬さんのフローは登場した時のすこし上の空な表情のまま「私を●してください!」とグレイに迫る姿が非常に印象深いです。看護の仕事を家族に反対されたことで、自らの進むべき道を完全に見失い魂が抜けてしまったかのよう。そんな状態で詰め寄るので逆にすごく鬼気迫ったものを感じました。グレイがビビるのも納得w。
フローに興味を持ったグレイが彼女の家までついていく♪俺は違う♪の場面。色んなお化けが出てきてちょっとミュージカル『スクルージ』っぽい演出になってるのが面白い。泰潤くんグレイの歌いっぷりも楽しくてワクワクします。
が、ちょっと長いなというのはやっぱり感じてしまったかも。2番までで良くないか?みたいな(汗)。これは個人的な感想なので悪しからず。
フローが家族から看護師になることを大反対されることの意味は原作漫画を読んでようやく腑に落ちたところがあります。フローはお金持ちのお嬢様なので、当時は卑しい身分の人がなると認識されていた職業を希望するってことは彼らにとってはプライドを傷つけられることと同じなんですよね。
猛反対する家族を力業でグレイが収める場面も、原作を読んでようやく意味が呑み込めました。演出で「影」をクローズアップしてるのも納得。グレイはあの”生霊”に攻撃してたわけですな。
ペ・ジェヨンさんのアレックスは誠実そうなんだけどどこか頼りない青年といった感じ。もし仮にフローと結婚したとしても上手くいかずに別れちゃうかもしれないなという予感がありました(苦笑)。歌声は柔らかくてとてもきれい。
野戦病院に到着直後にフローたちが追い返されそうになる場面。女性たちの存在を疎ましく思う兵士・メンジーズ役の塚田拓也くん、前回見た時は髭面で気づかなかったけど今回はしっかり注目。敵役ではあるけど、綺麗なお顔立ちとよく通る声は魅力的だしカッコいい!フローたちの迫力にタジタジになってる姿とかも可愛くて最高だ~、と惚れ惚れしながら見入っていた私ですw。
1幕はどちらかというとフローの奮闘記が中心でグレイはぶつぶつ文句言いながらも傍観者に徹してるところがある。なので前回見た時は後半の恋愛エピに今ひとつ釈然としないものを感じたのですが、今回はフローが絶望することを面白がって見ていたグレイが、彼女の頑張りにジワジワと引き寄せられてるなという空気を感じたんですよね。
それゆえ、病院内でのささやかなクリスマスパーティで二人が見つめ合って心がざわめく描写がとてもリアルに思えたしキュンとくるものがありました。泰潤くんグレイと真瀬さんフローの絶妙な距離感が最高。
瀧山さんのジョン・ホールは登場した時からものすごい存在感で圧倒されます。尊大な態度をとるキャラクターではあるんだけど(フィッツジェラルドを顎で使ってたりね 汗)、感情が表に出ることがほとんどなくて何を考えてるのか腹の内が読めない氷の男って感じだったかな。ああいうタイプの人間が一番怖いわけで…、瀧山さんは見事にそれを体現してるなぁと。何度も背筋寒くなりましたからね。陽気なジーニーを演じてる方と同一とはとても思えません。
執務室でのフローとグレイの束の間の優しさが漂う時間はとても素敵なシーン。少し前までフローへの自分の気持ちが変化したことに戸惑い必死に打ち消そうと荒れ狂ってたグレイでしたが(泰潤くんによる♪あの女は最悪♪の歌いっぷりがツボすぎた!!好きっ)、改めて二人で向き合った時には「物語を描いてみたい」って夢まで語ってしまうところがなんとも可愛らしい。
フローも彼が自分の絶望を待っていると知りながらいつも一緒にいてくれることに悦びを感じてるところがあって。真瀬さんフローは凛としてとてもカッコイイ女性なんだけど、どこかちょっと抜け感があって可愛らしいし親しみやすさを感じるんですよね。あの柔らかさがいいなと。
フローへの複雑な自分の想いに抗いながらも戸惑うツンな泰潤くんグレイと、素直で柔らかい優しさが滲んだキャラの真瀬さんフロー。凸凹なようで実はすごく相性が良いというのが伝わってきて、ランプを手渡す場面はジーンときてしまいました。
病院の外でグレイとボブがフローを巡っての小競り合いを繰り広げる場面も面白いです。ボブはフローへの恩義に熱く彼女を守りたい気持ちが強い。死の淵から蘇ったことでフローに憑りついてるゴーストのグレイが見えてしまい、必死に追い出そうとするんですよね。それをグレイが軽くあしらって逃げまくってるんですが、この時の泰潤くんの身のこなしや「そんな興奮するなよ~」といったあしらい方が何とも言えず魅力的で萌えてしまった(笑)。ボブのことを軽視してるというよりも、弟みたいな視線で見てるように感じられたのがすごく良かった。
ボブを演じていた平田くん、どこかで見たことあるなぁと思ったら…『ウィキッド』のボックだった!好きになった人を守ろうと一生懸命になる姿がなんとなくボックと重なるところがあるなと。笑顔がとってもキラキラしていて可愛らしいです。
グレイとデオンのやり取りはとてもスリリングでヒリヒリする。ジョン・ホールが去った後に後ろ向きになっていた椅子に座ったグレイが現れるという演出は、『エリザベート』のトート閣下を思い出しましたがw。
デオンが自らの生い立ちを語るシーンは印象的です。宮田さん、『ノートルダム~』のエスメラルダとはまた違ったカッコよさ!!女性であったが故の悔しい経験をタンゴ調に合わせて歌う(♪呪いと栄光♪)姿は本当に魅力にあふれてました。あの細い体から繰り出される力強い剣舞、悪の華の香りをプンプンさせた立ち振る舞いなど、どこをとってもイケメン女子そのものです。
物語が進む中で「!!??」と違和感持ってしまうのがエイミー。演じてる木村さんは、可憐で一生懸命看護仕事に食らいつこうとしながらも追いつけないもどかしさをうまく表現されていたと思うのですが、キャラクター設定そのものがちょっと浅いかなぁと。なにもフローが運営面で苦悩してたあのタイミングで…とどうしても思っちゃう(汗)。
しかも、立ち去る理由っていうのがアレックスとのLOVEだったという顛末があまり感情移入できなかったんだよなぁ(苦笑)。エイミーもアレックスも原作に登場しない舞台オリジナルキャラですが、その中で生かしきることの難しさみたいなものを感じてしまいました。その後の、”フローが絶望しちゃうのも無理ないよ”と思える展開には繋がったけどね(苦笑)。
グレイが自らの過去を語る♪裏切りの人生♪は非常に人間臭い。あのシーンを見れば見るほどグレイの過酷な人生が胸に迫ってきてとても切ないです。人生に失望したあのタイミングで出会ってしまったドルーリー・レーン劇場で輝いていた女優・シャーロットの存在。凹んだ時期に「これは!!」という衝撃を与えてくれた存在って本当に神様級に尊く思えてしまいますよね。なので、グレイが形振り構わず彼女にのめりこんでいってしまう気持ちはすごく理解できた。
ただ、あまりにものめりこみすぎたが故に予期せぬ大きな落とし穴にハマってしまったというのが本当に哀れで。なんだか今の時代にも通じる教訓のようにも感じてしまった。グレイの場合は推し活に留まらずその先の危険な恋愛に進んでしまったというのが運の尽きというか…。
この場面を演じてる時の泰潤くん、めちゃめちゃ激熱で全力出しまくってるのが伝わってきました。あの熱さが本当に魅力的。感情の動きを包み隠さず放出してる感じがすごく好き。
ただですねぇ…、酒場の場面はやっぱりちょっと”長い”と感じてしまいます(汗)。役者の見せ場を作りたい意志は分かるのですが、もう少しコンパクトにまとめても良かったかもしれないなと…(←長文ブログばっかり書いてる私が言うことではないですが 苦笑)。
グレイの過去の話を聞いたフローが「できればジャック(グレイの生前の名前)の傍にいてあげたかった」と呟く場面はとても印象深かったです。漫画でもこのシーンはドラマチックに描かれているんですよね。孤独な人生を終えた彼に想いを馳せるフローの優しさが心に沁みる。
グレイはまさか彼女がそんな反応をするとは夢にも思っていなかったので「え…」と動揺してしまって。あの瞬間に彼の心の中に育っていたフローへの恋心がブワッと湧き上がったんじゃないかなと思いながら見ました。この場面での真瀬さんと泰潤くんの芝居の「間」がすごく良かった。
そして決定打となったのがグレイとデオンの決闘の際に起きた悲劇。あの瞬間のグレイの激しい動揺と悲痛な叫び声は忘れられません…。それまでフローが絶望するのを待ち焦がれていたグレイだったけれど、まっすぐ信念を貫き看護に邁進し惜しみない愛情を注ぐ彼女の姿を見ているうちにいつの間にか「守りたい人」へと意識が変わっていた。そのことをはっきり自覚したのがあの場面だったんじゃないかなと思います。
フローを助けるためにグレイが起こした”奇跡”のシーンは、こみ上げるものを感じるほどロマンチックでした。そういえば、最近沼ってる華流ドラマでも似たようなシーンけっこう見るなw。あのシチュエーションはベタだけど、ホント萌える。
その後回復したフローがスクタリよりもさらに厳しいクリミアへ向かう場面。ここでフローは彼女を妬み排除しようと企むホールと対峙するのですが、それと同時にグレイとデオンの死闘も並行して展開されています。
ここの魅せ方についてですが…個人的には”フライング”演出はないほうがよかったんじゃないかなぁと思ってしまうんですよね(汗)。真剣勝負のシーンなので、あそこはもう少しスピード感が欲しい。フライングだと地上では取れない動きはできるけれども、どうしてもスローモーション的になってしまうので入り込みづらい。あの演出だけは好きじゃなかったなぁ。
フローがホールの凶器の前に堂々と立ち塞がるシーンは圧巻すぎます!!彼女のあの強さはきっと、グレイへの強い気持ちと信頼があったからこそだったのではないかなと。その凄まじさを前にこれまで威圧した態度を取ってきたホールが恐れおののいてしまう場面も印象深い。
あまり表情を表に出さず冷酷な怖さを感じさせていた瀧山ホールでしたが、この時初めて心の底から湧き上がってきた恐怖心を露にする。あのお芝居の繊細さが本当に素晴らしく、さすが瀧山さんだと心の中で拍手しました。
フローとグレイのその後の物語は何度もクライマックスが押し寄せるような流れになっていて。「ここで終わるのかな」と思わせておいてまだ続きが…みたいな展開。何も知らないで見た1度目の観劇の時はそれにちょっと戸惑いもあった私ですw。
フローの生涯が終わる時のボブの反応は面白い。17歳の時に死の淵から蘇った時にゴーストが見えるようになったという設定がこのシーンの時に生きてくるんですよ。こう繋がっていたのかとちょっと鳥肌きました。
ラストシーン、泰潤くんグレイは涙を必死に堪えてて…そのあと目を真っ赤にしながらフローへの想いを込めた明るい笑みを浮かべていました。それを見た瞬間、ついに私の涙腺が崩壊。あれは泣いた…!!そんな彼を照らすフローの光景も本当に美しかった。
前回観た時よりもグレイとフローの”恋愛”面が色濃くなっているように感じられたのが個人的にとても嬉しかったし、観に来れてよかったなと思いました。
後述
カーテンコールも客席スタンディングで大いに盛り上がっていました。リピーターの皆さんはフローとグレイの二人のイチャイチャが最後にあることを分かっている様子w。
前回見た時はツンな泰潤くんグレイがいったんそっぽ向いた後に真瀬さんフローをバックハグしてラブラブみたいな萌え展開でしたが(笑)、今回は泰潤くんグレイが正面からガバっと真瀬さんをハグしてのっけからラブラブ環境となっていましたww。
そのあと泰潤くんがウキウキのまま舞台袖に帰って行ってしまい、真瀬さんのラスト投げキスを受けることができずTHE END(笑)。この時の真瀬さん、「あれ?いない!?」ってちょっと残念そうな笑顔されてて可愛らしかったなぁ。
このやり取りが最近のお約束になってるのかは分かりませんが、最後まで楽しませてもらいました。
『ゴースト&レディ』は2024年11月までの限定公演ですが、その先のチケットは実は手元になくて。本当は今回で見納めになるかな…なんて思っていたのですが、初回に観た時よりも気持ちが乗って楽しめたし萌えどころも増えたのでw、また行きたくなってしまった。
萩原さんグレイと谷原さんフローをまだ見たことがないので一度はお目にかかりたいし、泰潤くんグレイと真瀬さんフローにもまた会いたいという気持ちが強い。タイミングを見て何とかチケット手に入れたいところです。