主なキャスト別感想
水樹奈々さん(キャロル・キング)
3年前は平原綾香さんのキャロル・キングで観たので、今回はWキャストの水樹奈々さんを選択しました。水樹さんは3年前のこの役が初舞台だったということですが、抜群の歌唱力と声優で培ってきた演技力が舞台上でも生きてて素晴らしかったと思います。
特に、ティーンエイジャーの頃のお芝居では声色を変えて「17歳の多感な少女」を見事に表現。このあたりはさすが声優さんだなぁと感動しました。後半の「成熟した女性」とのメリハリも効いてました。
平原さんのキャロルの歌はどちらかというと大きな懐に包み込まれる感覚がありましたが、水樹さんのキャロルの歌はまっすぐでパァっと周りが明るく開けるような爽やかさを感じさせるものでした。二人とも素晴らしいキャロルだと思います(きっと平原さんもさらに進化していたに違いない。今回見れなかったのが残念です)。
『ビューティフル』が始まってすぐの頃に水樹さんが妊娠されているというニュースが流れたからか、劇中で妊娠を告げるシーンがやけにリアルに感じられました。少し体型もふっくらしてきてるかなとは思いましたが、かえってそれが役に上手く反映されていて違和感なかったです。また、子供をあやすシーンなどでは(舞台上には子役は登場しませんが)母性も滲み出ていて、キャロルの母親としてのお芝居に真実味が加わっていて感情移入しやすかった。
また子育てが落ち着いた頃にキャロル・キング役として帰ってきてほしいです。それに舞台にかなり向いてると思えたので他の役でも見てみたいな。
中川晃教くん(バリー・マン)
バリーはこれまでアッキーが演じているような中央で強烈な光を放つような役ではないのですが、そんな少し引いた芝居も難なくこなしていてそのポテンシャルの高さに驚かされました。バリーのドラマになるシーンでも、ちゃんと自分の立ち位置をわきまえていてはみ出すことがなかったので、二組の関係性がとても見やすくなっていたと思います。
とはいえ、やっぱりソロで歌うシーンの存在感はピカイチ!!どんな楽曲でも全く苦も無く歌いこなしてしまうのはさすがです。アッキーの歌で不安に想うことってホント無いもんなぁ(まぁ、たまに歌うリズムに注文は付けたくなることもあるけどw)。
歌も素晴らしかったのですが、個人的には軽やかなセリフ回しのほうが印象深かったかも。ソニンさん演じるシンシアとの会話のやり取りのリズムがとにかく心地よくていつまででも聞いていたくなるくらい面白かった。
さらには芝居に余裕があって、水樹キャロルが1ヵ所セリフを噛み噛みになってしまうハプニングがあったのですが、それを受けて「もっと落ち着いて」って優しいアドリブを飛ばしてその場を笑いに変えていました。あれはナイスフォローだったなぁ。アッキーの貫禄も感じられた今回の舞台でもありました。
伊礼彼方くん(ジェリー・ゴフィン)
ジェリーはキャロルが大学で一目で恋に落ちてしまうほどの魅力的な男子なのですが、伊礼君が演じるとものすごいリアルで「これは一目惚れされても納得だわ」という説得力がハンパなかったです(笑)。ちょっとスカしたキザっぽい雰囲気がやたら色っぽい。
そんなジェリーは最初は真面目女子で地味目なキャロルを軽くあしらうのですが、彼女の曲を作る才能にいち早く気付き急速に惹かれていきます。一度スイッチが入ると後先考えずに行っちゃう危うさも秘めてる雰囲気があり、子供ができたと知らされたときに思わず躊躇ってしまう芝居が真に迫っていてとても印象的でした。
ジェリーは彼なりにキャロルの良き夫であろうと努力をするのですが、いつも心のどこかで「もしも子供ができていなかったらもっと自由に振舞えたのに」っていう想いが燻ってる雰囲気を醸し出している。ちょっとそれ酷いんじゃない!?って女性の立場からは思ってしまうんだけど、なぜか激しい嫌悪感は感じなかったんですよね。
ジェリーの抱える心の弱さや脆さを伊礼くんがかなり繊細に演じていたので、物語的にもトゲトゲしくならなかったんじゃないかなと思います。
ソニンさん(シンシア・ワイル)
ソニンさん演じるシンシアはひたすらキュートで本当に愛らしい!!特に会話のテンポや間が絶妙でとても魅力的でした。めちゃめちゃハマリ役ですよ、これは!バリーとの関係に悩んでいる時も、あまり暗くなりすぎずに微妙な感情のラインを丁寧に演じていて、誰もが彼女を応援したくなってしまうのではと思えるほど。
あっきーとのコンビネーションもバッチリ!二人のウィットに富んだ会話のやり取りが本当に楽しくていつまででも見ていたいくらいだったよ。すごく相性合ってると思う。
パートナー以上恋人未満の関係を続けている中で、本当はバリーのことを愛しているのに親と同じ轍を踏みたくないという気持ちからずっと尻込みし続けてしまったシンシア。そんな彼女がついに彼の想いを受け止める決意をするシーンはとても爽やかで感動的でした。
武田真治さん(ドニー・カーシュナー)
この3年の間にすっかり「筋肉のお兄さん」として有名になった武田さんですが(笑)舞台姿もとても魅力的なんですよね。今回はほとんどソロで歌うシーンが無くセリフ劇が中心なのですが、キャロルやバリーたちを上手く乗せてヒット曲を量産していくプロデューサーっぷりが実に爽快で面白かったです。
キャロルがニューヨークを去る前に♪You've Got a Friend♪を披露して一緒に歌に参加するシーンでは、途中で感極まって涙を拭う姿もあったのが印象的です。キャロルのことをすごく買っていたし大切な仲間だと思っていたんだなというのが伝わってきてグッときました。
剣幸さん(ジニー・クライン)
キャロルの母・ジニーは娘にお堅い職業(教師)になってほしいと強く願っていましたが、彼女が音楽の世界で成功するとそれを受け止め支える懐の大きさのある素敵な母親でした。キャロルとジェリーの夫婦仲が微妙な時も、あまり口出しをせずに見守る姿勢を取っていたのが印象深い。
普段はあまり前面に出ていかないまでも、いつも娘の幸せを想っている優しく温かい母親像を剣さんは見事に演じられていました。特にジェリーとの別れに傷ついた娘を抱き寄せるシーンは感動的でした。
あと、個人的にはカーネギーホールのコンサート直前に「私が音楽の道にあの娘を勧めたのよ」みたいにドヤ顔するシーンも好き(笑)。調子が良いお母さんだなって笑えるんですけど、自分の希望通りの道に進まなくても温かく見守り続けてくれた優しさも滲んでいて素敵だなと思いました。
後述
3年ぶりの再演となりましたが、またさらにブラッシュアップされてキャロル・キングの半生に輝きが増した舞台となりました。どの楽曲もとても魅力的だし、それを完璧に歌いこなすキャストが揃っているのも素晴らしい。
カーテンコールはほぼスタンディング状態となって大いに盛り上がりました(声は出せない状況ですが)。たくさんの熱い拍手に包まれて、カンパニーの皆さんが弾ける笑顔を見せてくれたのがとても嬉しかったです。
新型コロナ禍の影響がないときに再演されていればなぁとつくづく思います。ぜひとも状況が落ち着いて安定してきた頃にもう一度再演してほしいです。そのときには、せめて、大阪公演もお願いしたいっ!梅芸なら帝劇と似た雰囲気だしいいと思うんですよねぇ。より多くの人に観てほしい作品なので検討してほしいところです。
帝劇を出た通りがライトアップされていてとても奇麗でした。『ビューティフル』カンパニーが無事に完走できることを心から願っています。