音楽劇『エノケン』を観に日比谷のシアタークリエまで行ってきました。前回同じクリエでJBを見てから約1か月ぶりの観劇となります(汗)。
今回この作品のチケットを確保した大きな原動力となったのが、本田響矢くんの出演でした。
4月期に放送されていたドラマ『波うららかに、めおと日和』での響矢くんのピュアでキラキラしたお芝居にどっぷりハマって以降超気になる存在に。彼が演じた瀧昌はホント観る者の心を鷲掴みしましたよ。
※久々にドラマ全話感想書いてるくらい好きだったw。
市村さんの舞台を見るのも久しぶり(今年のホリプロコンでは拝見したけど舞台で芝居してる姿を見るのは3年前のスクルージ以来かもしれない)。
市村さんは生粋のエンターテイナーですから”昭和の喜劇王”と呼ばれるエノケンこと榎本健一役はめちゃめちゃハマるだろうなという予感しかなかったですね。何より、市村さんと響矢くんがどう芝居で絡むのかを想像するだけでめちゃめちゃ心躍るものがありました。
本当は楽になる前に観に行きたかったのですが、響矢くん効果かチケット戦線が予想外に厳しく東京公演は千穐楽しか確保できず(←逆に楽だけ取れたっていうのが驚きでもあるんですが 汗)。なので、東京最後の公演が私にとっての初「エノケン」ということになりましたw。
物販はけっこう色々種類があったのですが、実は、楽しか見に行けないので売り切れるものも出てくると予想し早い時期にシャンテで希望のグッズは事前購入していました(笑)。
チケット戦線が厳しかったということもあってか、グッズ列の長さがハンパなくてビックリしました。私のように楽しか取れなかった人というのも一定数いたのかも!?
楽なのでもうほとんどないのでは…と予想していたのですが(実際JBグッズは殆ど手に入らなかったし 苦笑)、蓋を開けてみれば全商品が揃っているという奇跡!どうやら最初の方にだいぶ売り切れが出たそうですが、いい感じに入荷されていたようです。ありがたや。ちなみに私もこの行列にインし舞台写真2パターンを無事にゲット出来ました。最悪通販かなぁと思っていたのでよかったです。
以下、ネタバレを含んだ感想です。
2025年10月26日東京公演千穐楽 in シアタークリエ (東京・日比谷)
キャスト
- 榎本健一:市村正親
- 花島喜世子・榎本よしゑ:松雪泰子
- 榎本鍈一・田島太一(劇団員):本田響矢
- 菊田一夫:小松利昌
- 古川緑波:斉藤淳
- 柳田貞一:三上市朗
- 菊谷榮:豊原功補
あらすじと概要
浅草でエノケンが結成した劇団「新カジノ・フォーリー」には、妻で花形女優の花島喜世子(松雪泰子)、座付作家の菊田一夫(小松利昌)、劇団員の田島太一(本田響矢・二役)らが集っていた。
絵描きから座付作家に転じた菊谷榮(豊原功補)は、今やエノケンにとって欠かせない朋友だ。
エノケンの師匠・柳田貞一(三上市朗)、エノケンのライバル・ロッパこと古川緑波(斉藤淳)など、賑やかな顔ぶれが浅草の劇場街を盛り上げていた。
一方、エノケンの芸をこよなく愛する芸者のあい子(本名・よしゑ 松雪泰子・二役)も、エノケンたちと行動を共にするようになる。家では喜世子が、息子の鍈一と共に夫の遅い帰りを待っていた。
時代がきな臭さを増す中、日毎に厳しくなる当局の目をかわしながら、エノケンたちは自分たちが信じる喜劇を上演し続ける。だが一九三七年、日中戦争が勃発。菊谷は戦地に召集され、命を落とす。
そして終戦から七年。喜劇俳優として最大の武器である足を病魔に冒されたエノケンは、喜世子と鍈一の励ましを受けて、血の滲むようなリハビリの末に復活を遂げる。その後も度重なる過酷な試練に見舞われながら、何度絶望の淵に落とされても、エノケンは喜劇俳優であることを決して諦めようとはしなかった──。
<公式パンフレットより抜粋>
2025年<初演>:10月7日初日(東京・シアタークリエ)~11月30日大千穐楽(埼玉・ウェスタ川越大ホール)
上演時間
約2時間45分
内訳は1幕80分(1時間20分)、休憩25分、2幕60分(1時間)。カーテンコールの時間は含みません。
全体感想
お客さんの層は大きく分けてだいたい3グループといった印象。本田響矢くんのファン(私はぬるいファンですがこれに含まれますw)、演劇が好きな方(市村さんファンや又吉さんの本が気になる方も含む)、そしてエノケンさんご存命の頃を知っているであろう方、といった感じ。特に、ご年配の方がけっこう多かったかも。
ちなみに、客席には吉田鋼太郎さんのお姿も。演劇を愛する役者さんの顔をされていてとても素敵でした。
この作品は昭和の喜劇王と呼ばれたエノケンこと榎本健一さんの半生を描いた物語。第1幕は戦前から戦中に突入した時代のなかに生きる群像劇、第2幕は病との闘いと家族、そして挫折から再生といった構成になっていました。全体としては、エノケンの輝かしい経歴を追うものではなく、エノケンと彼と関わる人間模様に着目した内容に特化していたように思います。
事前に予習しなくても分かりやすい内容なので誰でも楽しめる演劇となっていますが、エノケンの本業である笑いを扱う仕事の変遷に関しては削いだ印象があったので(劇団の仕事や映画の仕事、古川ろっぱとの仕事のエピソードなどはサラリとしか描かれていません)、そういった知識をササッと事前に入れておけばさらに物語への理解が深まるんじゃないかなと。
ちなみに私は観劇する直前にネットでエノケンさんのことを検索してサラ~~ッと概要だけ頭に入れていたので、舞台では描かれていない部分なども想像しながら見ることができてより楽しめました。
脚本の又吉直樹さんはお笑い芸人(ピース)でありながら文学的才能を発揮され芥川賞まで受賞された方。ここ最近は大河ドラマ『べらぼう』にも出演されてますね。
私はこれまで又吉さんの作品を読んだことがなく今回が初めてその作品に触れる機会となったのですが・・・、とても分かりやすく登場人物たちに寄り添うような柔らかく温かな雰囲気が感じられる内容で本当に感動しました。
時間軸が先に進んだり後に戻ったりといった多少複雑な構成にはなっているものの、混乱するようなところもなく。むしろどんどんと世界観に包み込まれていくような感覚すらあったほど。観劇前は”ちょっとホロリとする物語かな”、なんて思っていたんですが1幕後半あたりからボロボロ涙が止まらなくて…2幕は中盤から最後まで号泣状態に(汗)。まぁ、これは私が年を取った証拠かなとも思うのですがww、それでも、心の琴線に触れてくるグッとくる展開やセリフがとても多く私の中に刺さりまくりでした。
セットは想像以上に大掛かりなもので、昭和の懐かしの風景そのものが現実世界に出現した感じ。なので、視覚だけでも『エノケン』の世界に惹きこまれる感覚だったし、ご年配の方にはあの光景だけでも刺さるものがあったのではないでしょうか。
冒頭はエノケンの歌謡ショーからスタート。客席扉からエノケンに扮した市村さんが登場して客席とのコミュニケーションを重ね場を温めていく。この日は東京千穐楽ということもあってか「千穐楽にようこそおいでくださいました」というアドリブ(←たぶん)な言葉も飛び出したりして臨場感たっぷり。このあたりの乗せ方は市村さん、本当にさすがだなと思った。
そして、ショーが終わった後の展開でエノケンの体に異変が起こるシーンが出てくる。これからどうなってしまうのかと心がざわついたところで時代が遡り、戦前の波に乗り始めた頃のエノケンと仲間たちとのエピソードに。時代の境目には垂れ幕でそのシーンの年号を教えてくれるので、分かりやすい演出になってると思いました。
第1幕を見て思ったのは、エノケンさんは仲間たちに非常に恵まれていたんだなということ。たまに破天荒な一面が出てきたりもするんだけど、皆そんな彼を理解しフォローし受け入れてくれる。誰に対しても基本オープンマインドで、いつの間にか初対面だった人も彼の人生のなかに取り込まれていく。
特に印象深かったのが、豊原功補さんが演じられた菊谷榮との出会いです。きっかけは「似顔絵を描いてもらう」というお遊び的なものだったけれど、なんやかんやドタバタしているうちに意気投合してエノケン一座の専属作家として受け入れられる。その後は一座にとって欠かせない大切な仲間となり、エノケンとは唯一無二の信頼し合える朋友へ。
自然体でさりげない展開ながらも、確実にその温かな関係性が観る者の胸に迫ってくるんですよ。突出してその部分を目立たせなくても、エノケンと菊谷が特別な見えない絆で結ばれていることが伝わってくる。こういった描き方もすごく良いなと思いました。
菊谷には1幕ラストに過酷で哀しい運命が待ち受けています。このくだりのエピソードは事前に予習した時に呼んで頭に入っていたので泣けるだろうなと思っていたのですが、予想した以上に涙が止まらなくて…。そこに至るまでの菊谷とエノケンを中心とする仲間たちとの関係性が本当に優しくて心温まるような雰囲気だったので、特にあの品川駅でのシーンは号泣してしまった(涙)。お互いがお互いを大切に想っている気持ちがものすごく溢れてて…思い出しただけでも泣ける。
1幕でもう一つ印象深かったのが、エノケンとあい子の関係。あい子は劇団員の田島(本田響矢くんの二役)と同級生として登場しますが、正直ちょっと見た目の年齢差が無理あるかも…とは思ったかもしれない(汗)。というのは置いといてw、驚いたのが妻子あるエノケンが彼女に惚れてしまったというエピソードです。ここは予習の範疇に入れてなかったのでちょっとビックリ。これも本当にあったことのようですね。
女性的目線からすれば、あんなに優秀な奥さんと生まれたばかりの幼い可愛い息子がいながら…とは思いますが、これもエノケンの人間味の一部だったのかなとも。まさか舞台で市村さんのラブロマンス的なシーンを見られるとはw。けっこう艶っぽい展開寸前みたいな場面も出てきてドキドキしちゃったよ(←全年齢OKレベルだけど 笑)。これ、めっちゃ貴重だったなと思ってしまった。
その展開になる直前の、エノケンが自宅の家の明りの奥に映る妻と子供の影を見て罪悪感を抱きながらもあい子に惹かれてしまう、みたいな演出も印象深かったです。セットを見た時に上部にある少し変わった形の造形物が気になっていたのですが、こういう使い方をするためだったのかと思わず心の中でガッテンしてしまった。
2幕はエノケンの病と家族の絆について深く描かれていました。エノケンは予想外の大病を患ったことで心が折れかけ、一度は命を絶つ寸前まで精神的に追い詰められます。エピソードとしては重い部類ですが、舞台ではけっこうコミカルに描かれていたのがとても良かった。
1幕では家族をないがしろにしがちだったエノケンが多く描かれてきましたが、2幕では自らの病と向き合う中で妻と子と過ごす時間が増えていきます。一度は折れかけた心を救ったのは、やはりなんだかんだ言っても妻の喜世子と息子の鍈一の存在だったのではないかなと。
特に息子の鍈一は病弱な身でありながらも父にずっと寄り添い続ける。あれだけ家庭を顧みなかった父親だったのに、よくぞここまで純粋で素直で優しい息子に育ったなというのはめっちゃ思いました。本当は父と会えない時間の長さに寂しさや複雑な感情も抱いていたこともあっただろうに、その気持ちを最後まで親に見せることがなかった。きっと、その寂しい感情以上に父のことを尊敬する気持ちが強かったのかもしれない。
それもこれも、喜世子さんが人の何倍も愛情をこめて育てたからこそなんだろうなと…。そう思うとなんだかめちゃめちゃ切なくてジーンときちゃったよ(涙)。
家族の応援を受けたエノケンは見事にステージに復帰できるまでに回復(リハビリの過程でエノケンが足を高く上げるシーンも登場。あれは市村さんだから取り入れた演出だろうなと思ったw)。
しかし、エノケンの体調が回復することと反比例するように鍈一の体調はどんどん悪化していく。自らの寿命を悟ったであろう鍈一が父に「去る人と去られる人とではどちらが辛いと思う?」と尋ねるシーンが非常に切なかった…。息子の気持ちを敏感に察したエノケンの答えに涙が止まらなかったよ(泣)。
エノケンは鍈一に自分の復帰姿を見てほしい一念で稽古に励みますが、その願いは叶わなかった。このエピソードも事前予習の時に読んでグッとくるものがあったのですが、舞台で見せるエノケンの張り裂けそうな哀しみをグッと堪えながらステージに立つ姿にはさらに泣かされました。急遽歌う楽曲を変更するんですが…、それがまたホント涙涙な展開でねぇ(泣)。
ちなみにこのシーンの時にエノケンが歌った曲「モンパパ」は、NHK朝ドラ『虎に翼』で主人公の寅子が度々歌っていたものです。このドラマに本田響矢くんがゲスト出演した週があったんですよね(←私はこの時彼のことを知りました)。この舞台で響矢くん演じる鍈一の哀しいシーンで「モンパパ」が登場したことに少し運命的な何かを感じてしまいました。
それから数年後、エノケンは再び病が再発し右足の切断に踏み切り大きな喪失感に襲われ引きこもりがちになってしまう。誰がどんな言葉を書けても、頑なに心を開こうとしないエノケン…。
このエピソードの時にはすでに伴侶が喜世子からよしゑに変わっています。よしゑは、かつてエノケンが猛烈に惹かれていたあい子です。このあたりはサラリと語り程度で表現されていましたが、実際の喜世子さんは愛息を失った後にエノケンに離縁を申し入れたものの長い間受け入れてもらえなかったそうです。協議離婚が成立したのはエノケンが足の切断をした後だったと…。
おそらく喜世子さんは、鍈一を失ったことでエノケンと生きていくモチベーションを失ってしまったんだろうなと思います。離縁が成立した時、エノケンは全ての財産を喜世子に託し身一つでよしゑと一緒になったようですから、これが彼にできる唯一の罪滅ぼしだったのかなとも…。
誰の言葉も受け入れず自暴自棄になり引きこもっていたエノケン。そんな彼の気持ちを変えたのはある人の気配だった。実際は病床を訪ねた喜劇王ハロルド・ロイドの励ましで奮起したと伝わっていますが、舞台版では”あの人”の言葉が大きくエノケンの心を揺さぶります。その言葉はとてもさりげないものだったけれど、温かみがあってめちゃめちゃ泣けました…。
そして再び義足を付けてステージの上に復帰する華やかなエノケンのステージが繰り広げられる。これがラストかなと思いながら見ていたのですが、その直後に予想外のワンシーンが出てきました。もうホント、不意打ちとはこのこと…!!
それまで何度もエノケンが自慢話として吹聴してきたあのエピソードをここに生かすとは!!!もうねぇ…、ここまでずっと食い入るように世界観に浸りながら見てきた私としては、嗚咽級に泣きましたわ(号泣)。
クスクスっと笑いながらも、いつの間にか心揺さぶられ心を揺さぶられる。そんな舞台だったと思います。観に行けて本当に良かった。
キャスト感想
この舞台は、市村さんと豊原さん以外のキャストの皆さんは全員2役以上を担当されています。演技派の役者さんたちだからこその妙技と言いますか。時に物語の中心に位置し、時に背景となって溶け込むといったお芝居が本当に素晴らしくさすがだなぁと感動させられっぱなしでした。
途中でキャスト以外の方が数人登場するシーンがいくつかあったのですが、あれはミュージシャンの方たちではなかったかと。セリフもあったりして意外と出番も多かったのですがなかなかの名演技だったと思います。
榎本健一:市村正親さん
まさに昭和の喜劇王・エノケンを演じるに一番ふさわしい方だったなと心底思いました。緩急つけたセリフ回しで観る人の心をガッツリ掴むお芝居は圧巻で、さすがという他ありません。
下積み時代から長い間ずっと芸能の世界に生き、酸いも甘いも体験してきたであろう市村さんだからこそ出せる味をそこかしこに感じました。舞台の上のエノケンと市村正親さんという俳優との人生がダブって見えてくるような瞬間も何度かあって。セリフに市村さんが辿ってきた芸能人生が沁み込んでいてその説得力は半端なく強かった。
たしかに年齢と共に活舌がちょっと不安定かなと思う箇所もありましたが(市村さんは元々少し活舌が怪しいことがある方なんですけど 汗)、それ以上に圧倒されることの方が多くて何度も心揺さぶられました。
花島喜世子・榎本よしゑ:松雪泰子さん
今回の座組では紅一点の松雪さん。最初舞台の上の声を聴いた時「あれ?こんな低かったっけ?」とちょっとビックリしました。でも、その台詞や佇まいの中に静かに宿る艶っぽさがとても魅力的で大いに魅了されてしまった。
喜世子役の時はきりっとした男前でカッコいい女性。エノケンをフォローする時の場面はカッコ良すぎて拍手したくなるほどでした。その一方で夫が家庭を顧みないことへの複雑な心境を滲ませつつ息子に愛情を注ぐ儚い女性の一面も繊細に演じられていて。最初の大病を経た夫を気を強く持って励まし続け、一方で病弱な息子に「赤とんぼ」を歌って聞かせる優しさを見せ。とにかく感情移入できるシーンがたくさんありました。
一方のあい子(よしゑ)役はちょっと声色を柔らかめに変えてエノケンに寄り添い続ける雰囲気に。見た目的には喜世子さんと大きく変わらないんだけど、中身は違う人だなというのはハッキリ伝わってきました。時折見せるあい子の色香にはドキリとさせられたし、エノケンがそちらに惹かれてしまうのも仕方なかったのかなと思える説得力がありました。
榎本鍈一・田島太一(劇団員):本田響矢くん
朝ドラや民放の『めおと日和』を見てファンになった響矢くん。生の舞台ではどのような存在感を見せてくれるのかとても楽しみにしていました。
鍈一役はもうピュア一直線!!その清々しいほどのひたむきな純粋さにある種大きな衝撃を受けました。父親のことをひたすら信用しエノケンが一番苦しい時にずっと寄り添い続けた鍈一。その気持ちには一点の曇りもなく、見ているだけでこちらの心も浄化され癒されていく感覚すらあった。
徐々に病が進行し弱っていく過程のお芝居も秀逸で。シーンが移り行くなかでゆっくりとジワジワ生命力が薄らいでいく様子が手に取るように伝わってきて見ていて胸が張り裂けそうになりましたよ(涙)。どうか神様あの子を連れ去らないでと祈る気持ちにすらさせられた。あの儚くも繊細なお芝居は本当に素晴らしかったと思います。
対して劇団員の田島役は駆け出しの必死感がすごく前面に出ていて。必死だからこそ空回りしてしまう可笑しみを大熱演。特に市村さん演じるエノケンにスリッパで挑んでいく冒頭のシーンはめちゃめちゃ面白かった(直前に登場していた鍈一役とのギャップに驚かされた)。
でもこの田島もすごく純粋でとにかく一生懸命に必死に食らいついてく人物で。響矢くんが本来持っているであろうピュアさがすごく役の中に生きてるなぁとも思いました。
今回、周りは芝居巧者なベテランの方たちしかいないなかでの生のお芝居で緊張することも多かったと思います。でも、『めおと日和』で注目を集めた直後にその環境に身を置けたのは彼にとってとても幸せなことだったのではないかなと。次回作以降の役者としての響矢くんの活躍も本当に楽しみです。
菊田一夫:小松利昌さん
小松さんは朝ドラや多くの民放ドラマで光る名演を何度も見せて下さる素晴らしきバイプレーヤー。今回の舞台でのメインの役柄はエノケンと共に行動を共にしやがて大物へと進化していく菊田一夫役でのご出演です。
まず驚いたのは、写真でよく見る(あと帝劇にあった銅像←今はクリエにいます)ご本人とかなりビジュアル的に似ていたなぁという事。特に1幕で一座と居酒屋で飲んで盛り上がっていたシーンでの姿は、当時もあのような感じだったのだろうなというのが伝わってくるほどリアルに見えました。2幕では心を閉ざしたエノケンを何度拒絶されても気にかけて寄り添おうとする優しさ滲むお芝居が泣けたなぁ。
他にもいくつかの役を演じられていましたが、その中でも秀逸だったのが2回目に出てきた居酒屋のおやじ役。佇まいが喜劇役者のようでめちゃめちゃ面白く、スローモーション演出の時とかかなり笑ってしまったw。
古川緑波:斉藤淳さん
”ろっぱ”を”緑波”という字を書くことを今回初めて知って勉強になりました。古川ろっぱはエノケンとライバル関係にあったとされる人物ですが、実際にはエノケンとコンビで仕事をしたりしたことでも知られているようです。ただ、今回の舞台では居酒屋でエノケンやその師匠と張り合うドタバタ劇での登場に納まっていたのがちょっと残念。斉藤さんが演じられてたろっぱは豪胆で面白いキャラだったので、エノケンと一緒に仕事してるシーンでも見たかったなと思いました。
斉藤さんはこの舞台ではおそらく一番多く役を演じ分けられていたと思うのですが、一番印象深かったのが警察官。市村エノケンとのやり取りが面白くて何度もクスっと笑わせてもらいました。特にドキドキしながらサインをもらうシーンは最高でしたねw。
柳田貞一:三上市朗さん
三上さんはドラマで存在感のあるキーパーソンを演じられることの多い魅力的な役者さん。とにかくめっちゃ精悍でカッコいい方で、昔から変わらないその魅力に惚れ惚れしてしまいました。
メインで演じられたのはエノケンを最初に見出した師匠と呼ばれる柳田貞一。豪胆でちょっとテキトーながらもしっかり人間性を見抜いてる大物感が出ていて圧巻のお芝居でした。そのくせお酒には弱くて酔うと余計なことをべらべらぶつけて相手を怒らせてしまう面倒な人で(笑)。この酔っ払いのお芝居がめちゃめちゃコミカルで面白かったです。
菊谷榮:豊原功補さん
豊原さんを初めて知ったのはドラマ『妹よ』の敵役。あの時めちゃめちゃカッコイイ人が出てきたなと衝撃受けて。ちょっと斜に構えたような役柄がすごくハマる人だなという印象があり大好きな役者さんです(特に民放『グッドラック』や大河『平清盛』での敵役は最高だった)。今回久しぶりに舞台で拝見できるということもあってとても楽しみにしてました。
豊原さんは市村さんと同じく1役のみ。エノケンと朋友関係となる座付き作家の菊谷榮。登場した時から飄々とした雰囲気で、あまり前の方に出て行かないタイプのキャラクターなのが意外性があってとても良かった。一見するとサラ~っと風のように生きる男のようにも見えるのですが、心の中では演劇への情熱やエノケン、そして仲間たちに熱い気持ちを抱いている。そういう気持ちを役柄ににじませるのはとても難しいと思うのですが、豊原さんは自然体で違和感なく演じられていて本当に素晴らしかったです。
大きな見どころは1幕のクライマックス。召集令状が届いたとエノケンに告げた時の菊谷はどこか少し他人事のようにも映るのですが、本当はまだ彼らと一緒に演劇に携わっていたいという寂しさや哀しみがふとした表情に滲んでて…。そして品川駅…一人一人に別れの言葉を告げるシーンはもう号泣もの。特にエノケンに賭ける最後の台詞は涙が止まりませんでした。
戦地で手紙を書いている時の表情も忘れられません。あの、一座を想いながら楽しそうに手紙を綴る表情は思い出しただけでも涙がこみ上げてくるレベル。2幕での登場シーンもグッとくるものがあったし、飄々としながらも感情を滲ませたお芝居がとても素晴らしかったです。
後述(東京千穐楽カーテンコール)
この日は東京公演の千穐楽ということもあり、市村さんからキャストを代表してのご挨拶がありました。
シアタークリエがあった場所は、かつて芸術座という劇場が建っていて多くの名優がその舞台を踏んでいました。私は”芸術座”があった時期を知る最後の方の世代になるのかもしれません。エノケンさんもその芸術劇場に何度も立った経験があるそうで、市村さんのコメントでも触れられていました。
「エノケンをはじめとする多くの名優の魂がこもったこの地で公演でき、無事に千穐楽を迎えられたことは彼らの想いが自分たちに届いたからじゃないかと思います」
こういった趣旨のコメントをされてた市村さんにジーンときてしまった。『エノケン』は新作舞台ですが、またいつかクリエでこの作品を上演できればうれしいと感慨深げに語っていらっしゃいましたね。どうか市村さん、その時までお元気でいらしてください!!本当にエノケンは市村さんの新たな当たり役だと思うので。
本田響矢くんの舞台を観たくて取ったチケットでしたが、想像以上に作品に感動してしまった。響矢くん、エノケンと出会わせてくれてありがとう。
「エノケン」東京千秋楽無事閉幕
シアタークリエは本当に素敵な劇場です
劇場スタッフ皆さんで作品を支えて下さいました我が俳優座の創設者千田是也先生の言葉
「演劇は瞬間の芸術」その瞬間のために尽力して下さった全ての方に(お客様もです)
感謝して次は大阪!
エノケン魂!✨#エノケン pic.twitter.com/omiYsm9SAd— 斉藤 淳 (@Jvjl6aZCfD33008) October 26, 2025
このあとツアー公演が約1か月続きますね。皆さんどうかお元気で無事に完走されますように。で、実は…川越での大千穐楽にも行くことができる予定になってまして。もう一度この舞台を観れるのがとても楽しみです。

 
  
  
  
  




