ミュージカル『ケイン&アベル』東京公演 2024年1月24日マチネ感想  松下洸平 × 松下優也

ミュージカル『ケイン&アベル』を観に渋谷のシアターオーブへ行ってきました。

昨年後半は殆ど観劇できなかったのですが、今年は前半この作品から怒涛の予定が入っております。

最初に『ケイン&アベル』がミュージカル化するというニュースを聞いた時はあまり関心が動かなかったんですよね。以前は初見の作品はちょっと気になっただけですぐチケット購入に踏み切る身軽さがありましたがw、コロナ禍以降はチケット代金高騰により冒険することができなくなりました。なので、この作品も「そうなんだ~」程度でスルーするつもりだったのですが…松下洸平くんがグランドミュージカルに初主演と聞いて一気に興味が湧きまして、気が付いたらチケット購入してました(笑)。
私が初めて洸平君を知ったのが2014年の「スリル・ミー」大阪公演。その時「この歌の上手い俳優さんは誰!?」なんて思ってたら…あれよあれよという間に朝ドラ出演で有名になって今や引手数多の役者さんに大躍進。その時以来の彼の舞台をぜひ見てみたいと思ったのが一番の大きな原動力となりました。

『ケインとアベル』は名前だけはなんとなく知っている程度で、大元の物語は全く知りません
これまで初見の作品は舞台を見て新鮮な感動を得たいと思っているので予習はほとんどしなかったのですが、今回は1回きりしか見れないし人物関係も頭に入れておきたいと思ったので、大まかではありますが予習したうえで劇場入り。

見終わってみて…真っ新な状態で見ても理解できるようにはできていますが、1度きりの観劇という場合にはざっとあらすじだけでも頭に入れておいた方が物語が頭に入りやすくより楽しめるのではないかなと感じました。

以下ネタバレを含んだ感想になります。

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2025年1月24日マチネ公演 in 東急シアターオーブ(東京・渋谷)

概要(原作・上演時間など)とあらすじ

作品についての簡単な概要

原作は、1979年にイギリス人作家のジェフリー・アーチャーが発表した同名小説。20世紀前半のアメリカを舞台にした、2人の男性の対照的な人生と運命的な対立を描いた物語です。タイトルにある『ケインとアベル』は旧約聖書の「カインとアベル兄弟」から借用されていますが、小説のストーリーには影響していません。そもそもケインとアベルは兄弟ではないし。
ただ、二人の青年が対立関係になっていく流れはなんとなく旧約聖書の”カインとアベル”兄弟を思わせる展開にはなっているかなと(設定や結末はほぼ違います)。

ジェフリー アーチャー (著), Jeffrey Archer (原名), 永井 淳 (翻訳)

1985年にイギリスでドラマ化され、翌1986年には日本でも吹替版がテレビ朝日系で放送されました。主役の二人の声を平幹二朗さんと山本圭さんが担当されたとのこと。(以降、NHKBSでも放送されたようですが残念ながらディスク化されていません)。

1982年には、続編としてフロレンティナを主人公とした長編小説『ロスノフスキ家の娘』が発表されています。

ジェフリー アーチャー (著), 戸田 裕之 (翻訳)

今回のミュージカルはフロレンティナが過去を振り返りながら進んでいく演出がとられているので、続編小説の影響もけっこうあるのかなと思いました(←読んだことなくてわかりませんが 汗)。「大統領目指したら?」というセリフもあるしね。

なお、韓国(2009年)と日本(2016年)で放送されたテレビドラマ『カインとアベル』とはタイトルの由来以外関連はないようです。そもそも、韓国版と日本版も別物とのこと。

初演:日本(2025年1月・東急シアターオーブ)/ 製作:東宝・キューブ
脚本・演出:ダニエル・ゴールドスタイン
音楽:フランク・ワイルドホーン

2025年1月22日初日(東京) / 2025年3月2日千穐楽(大阪)

あらすじ

物語は、フロレンティナ(咲妃みゆ)の回想で始まる――。

20世紀初頭——ボストンの名家ケイン家に生まれ、銀行家の父の跡継ぎとして祝福された人生を歩むウィリアム・ケイン(松下洸平)。幼くしてタイタニック号の事故で父親を亡くしてしまうも、父のような銀行家になるべく学業に専念し、名門ハーバード大学に入学。卒業後はケイン・アンド・キャボット銀行に取締役として入行する。

ウィリアムが生まれた同じ日にポーランドの山奥でヴワデク(のちの、アベル・ロスノフスキ)(松下優也)は生まれ、貧困と劣悪な環境で育ち、やがて戦争によるロシア軍の侵略により孤児となる。度重なる苦難を乗り越えて、アメリカへ渡り、アベル・ロスノフスキと名乗るようになる。その後、アベルはウェイターとして働く中で、持前の頭の良さと忍耐力を発揮。のちに、ホテル王、デイヴィス・リロイ(山口祐一郎)に認められ、ホテル経営に携わるようになる。同じ移民仲間のザフィア(知念里奈)と結婚する。

しかし、そんな矢先、ニューヨークが大恐慌に襲われる。株の暴落によりデイヴィス・リロイが非業の死を遂げる。

アベルはリロイのホテルへの融資を断ったウィリアムに復讐することを決意。2人は対立を深めていく。

<ミュージカル「ケイン&アベル」公式HPより引用>

上演時間

休憩を含み約180分(3時間)

内訳は、1幕85分(1時間25分)休憩25分2幕70分(1時間10分)、になります。平日マチネの終演時間はだいたい16時10分前後でした(カーテンコールの回数による)。

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キャスト

  • ウィリアム・ケイン:松下洸平
  • アベル・ロスノフスキ:松下優也
  • フロレンティナ(アベルの娘):咲妃みゆ
  • ザフィア(アベルの妻):知念里奈
  • ケイト・ブルックス(ケインの妻):愛加あゆ
  • ジョージ・ノヴァク(アベルの親友):上川一哉
  • マシュー・レスター(ケインの親友):植原卓也
  • リチャード・ケイン(ケインの息子):竹内將人
  • ヘンリー・オズボーン(ケインの母の2度目の夫):今拓哉
  • アラン・ロイド(ケインの後見人/銀行家):益岡徹
  • デイヴィス・リロイ(リッチモンドホテルの総支配人):山口祐一郎

幼いヴワデク:有澤 奏

幼いウィリアム:小暮大智

ヴワデクの姉・幼いフロレンティナ:山口亜美菜

<アンサンブル>

飯塚萌木、榎本成志、加藤翔多郎、古賀雄大、咲良、佐渡海斗、島田 彩、德岡 明、富田亜希、中村ひかり、廣瀬喜一、堀部佑介、本田大河、町田睦季、萬谷法英、宮内裕衣、宮田佳奈、森下結音、森山大輔、米澤賢人

<スウィング>

磯部杏莉、後藤裕磨

メインキャラではないながらも、何人かのアンサンブルさんは物語に大きな影響を与えるキャラクターも演じられていてとても存在感があり素晴らしかったです。ケインとアベルの両親とか、リロイの娘とか、けっこうメインに近いキャラだったんだよなぁ。皆さんちゃんと見せ場があって、歌やダンスなど存分に楽しませていただきました。

子役さんたちも賢くて可愛らしいし歌も上手い。自然体の子供らしさが出ていて見ていてホッコリしました。

全体・キャスト感想

演出・セットなど全体の印象について

コロナ禍以降は日本発のミュージカル制作に力が入り始めたなという印象が強くなってきましたが、今回の『ケインとアベル』もそのひとつです。世界初演の作品を公演が始まって日が浅いうちに観劇できたのはとても良い体験となりました。

ちなみに、企画は日本側から出たとのことですが主要なクリエイター(演出、音楽、脚本、振付など)は海外から招致されています。日本発信ながらも中身は海外制作ものといった感じなので、”純日本産”と呼ぶのはちょっと違うのかもといった印象はあります。

ただ、いい意味で海外テイストが入った作品に仕上がったていたなという感想は持ちました。とにかく話のテンポがとても小気味いい。原作がかなり濃厚な長編小説とのことなので3時間以内にまとめるのは至難の業だったと思うのですが、主要な部分をギュっと濃縮して説明的なセリフは見ている人がなんとなく理解できる程度にとどめドラマを進ませていく感じ。
日本で作られるミュージカルって、ストーリーの余白部分を丁寧に埋めようという意図が見えてしまい、やたら歌や説明セリフが長く感じることがありがちかなと思ってて(←あくまでも私個人の感想なのであしからず)。でも今回の『ケインとアベル』は、ミュージカルで描かれていない部分は必要最小限の台詞などで補って物語を先に進めていく印象が強かったので、見ていて退屈することが一度もありませんでした。こういう”劇中描いてない部分は想像や原作読むなどで補完してね”的な描き方が海外作品らしくて良いなと思います。

フランク・ワイルドホーンさんの作品はこれまでもけっこう多く見ているので、聴いていて心と体に馴染みやすかったですね。ロイドウェバー作品のように強烈に頭の中に残り続けるビッグナンバーというのはなかったのですが、どの楽曲もバラエティに富んでいて面白かった。
冒頭の重厚で力強いオーバーチュアから観る者を惹きつけますが、この旋律がすごくミュージカル『北斗の拳』っぽいなぁなんて思ったかも。ところどころジキハイちっくな旋律もあったりして、過去のワイルドホーン作品がちょいちょい頭に過ることがけっこうあったかもしれませんw。

それともうひとつ目を見張ったのがセットの稼働。今回の作品は背景に映像を流しつつ巨大なボックス2つを組み合わせ色々な場面(船になったり部屋になったり壁になったり)を見せていくスタイルなので、シンプルと言えばシンプルだったかなと思います。ただ、この主要な2つのボックスセットがとにかく重そうで。
これをなんと、スタッフさんたちが”人力”で移動させていたのですよ!!しかも1ボックスにつき4人くらいしかいない。2幕には巨大ボックスをすごい勢いでグルグル回すシーンとかも出てきて、なんかもう、色んな意味で手に汗握っちゃったよ(汗)!!さらに巨大階段も出てくるんですが、これはなんと女性スタッフさんで動かしてた!!あれも相当重そうで、よくあれをセッティングできるなと感心してしまった。

おそらく機械で動かすセットはなかったような気がします(1度見たきりなのではっきりとは分からないけど)。たぶんそこに演出のこだわりがあるのかなと思いましたが、これはスタッフとキャストが息を合わせないと一歩間違えたら事故につながりかねません。かなり綿密にお稽古されたのではないかなと思います。スタッフとキャスト一丸となって創り上げているといった熱さがめっちゃ伝わってきて、そういう点でも胸アツでした。どうか千穐楽まで怪我ひとつなくいけますように。

オーケストラは舞台中央の一番奥に配置。1幕最初の華やかなダンスシーンの時に後ろが開いてオケの皆さんの演奏姿が客席側に見える演出になっていたのが華やかでとても印象深かったです。

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ストーリーとキャストについて

物語は、アベルの娘のフロレンティナが”ケインとアベル”の人生を過去のアルバムを見つめながら振り返り観客に語り進めていくスタイルで展開していくので、初めて作品を知る人にも見やすい構成だったなと思います。咲妃みゆさんのフロレンティナは可憐で可愛らしい。語り口調も柔らかさの中に意志の強さも垣間見える雰囲気で、見ている側がいつの間にかその世界観に誘われていく感覚がありました。

フロレンティナの語りで場面が変わるごとに「スナップショット」というセリフが何度も出てきます。その度にカメラのフラッシュに見立てた照明が光る演出になっているのがとても良かったなぁ。今回けっこうな後方席からの観劇でしたが、遠くから見るとすごくリアルに見えて場面転換も自然に感じられた。こういう魅せ方は海外的でさすが巧い。
あと、背景に映し出される”ケインとアベル”のスナップ写真が実にリアルで、まるで実在していた二人なのではないかと錯覚してしまうレベル!フィクションの物語というのを忘れそうになる瞬間が何度もあった。

ケインとアベルは同じ日に全く違う環境で誕生したという設定なので、二人の対比の物語がこの作品の中では重要となってきます。まるで光と影のような彼らの人生を、舞台上で同時に見せるシーンがたびたび登場するのですが、照明の使い方やケインとアベルの配置、そして影を使った演出など…そのどれもが本当に巧み。同じ舞台でケインとアベルそれぞれのドラマが描かれますが、全く違うように見えて実はどこか芯の部分では惹きつけ合っているように感じられるのです。
それゆえ、初めて二人がホテルのレストランで接触する場面も”出会うべくして出会った二人”という印象がとても強く唐突感みたいなものがなかった。これがなんだか新しい感覚で見ていて面白かったですね。

ケインを演じる松下洸平くん、ミュージカルで見るのは本当に久しぶりだったのですが…大劇場でも十分通用する澄んだ歌声がとても良い!!洸平君の歌声ってご本人の人柄が滲み出てるようなどこか癒し系の雰囲気があるのですが、それだけじゃなくて多くの人に訴える力強さみたいなものもひしひしと感じられる。あと特筆すべきは1幕最初のクラブでの♪最高の時代♪の中で登場するダンスシーン!!彼がダンスもできることはなんとなく知っていましたが、あそこまでキレのある軽やかな動きができるとは!!めっちゃカッコよかったのでファン必見だと思います。
さらに華やかそうに見えながらも生真面目で誠実ゆえな繊細さが滲み出るお芝居も最高でした。なんだか時折抱きしめてあげたくなるようなw、母性本能くすぐられる表情も多くてグッと来たなぁ。

そんなケインの親友マシューを演じた植原卓也くん。お金持ちのボンボンで遊び人的な雰囲気がプンプン漂っていましたがw、如何せんスタイルバッチリでダンスも超クールでカッコいい。それに、チャラいように見えて実はケインのことをちゃんと思いやってるいい奴なんだよね。ケインもそんなマシューだから信頼して楽しい時間を一緒に過ごせたんだろうなっていう説得力がありました。

ケインはお坊ちゃま育ちでチヤホヤされているように見えますが、実は厄介な叔父の存在に苦悩を抱えている一面があります。叔父のヘンリーを演じたのが今拓哉さん。今さんのねっとりした不気味な悪を感じさせるお芝居がスリリングで何度もヒリヒリさせられました。外面は良いんだけど、内面は真っ黒で野心家、みたいな。こういう役柄、今さんめっちゃハマりますよね。
それにしても、ケインのお母さんが…っていうシーンの展開は正直ビックリした(汗)。ケインだけが彼のどす黒さを理解してるんだけど、ママはヘンリーを信じ切っちゃって”そういう”ことに(汗汗)。ヘンリー、ヤバすぎっしょ!!

アベルを演じる松下優也くん、もうこの役柄にピッタリすぎて!!登場は船の上からということだったのですが(巨大ボックスの一番上)、スコーーンと突き抜ける力強い澄んだ歌声にまず圧倒されました。
ミュージカルでは会話の中でサラリと触れられた程度でしたが、アベルってあの船に乗るまで相当過酷な体験してきてるんですよね(←大まかなあらすじ頭に入れておいてよかったと思った)。艱難辛苦を乗り越えた末のあの船の上なので、ようやく自由への切符を手に入れられたというアベルの喜びと感動が歌声からひしひしと伝わってきました。あとキラッキラした力強い目力が本当に良い。今までの不幸な出来事を吹き飛ばす勢いでのし上がるぞ!といった確固たる意志があの瞳からビシバシ伝わってきます。洸平くんケインとはまた違ったキラめきが二人の対比をより鮮明にしていたように思いました。

そんなアベルの親友ジョージを演じた上川一哉くん。劇団四季退団後の上川くんは主人公の”マブダチ”的な役柄で見ることが多いのだけど、今回も本当に見事なくらい”ヤンチャ坊主なお友達”感がバリバリで最高でしたねw。一見チャラ男的な雰囲気があるんだけど、アベルのことが本当に大好きすぎちゃって彼のためならどんなサポートも惜しまない、みたいなキャラが大ハマりしてました。
特にホテルのウェイターやってる時代の場面が見所満載!歌って踊れる上川くんの真骨頂と言いますか、キレのあるスマートな動きで軽やかにボーイを務める優也くんアベルとのコンビ感が素晴らしい。どの動きも本当に緻密でコミカルで見ていてワクワクする。この二人のバディが作品に明るさをもたらしていて本当に楽しかったです。

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全く違う人生を歩んできたケインとアベルがホテルのレストランで初めて接触する場面はサラリと描かれていますが、一瞬だけスポットライトが当たって二人のドラマを予感させるドラマチックな演出になっていました。
この時点でケインはアベルをウェイターという認識しかしていませんが、他の人とは違う何かを察している。一方アベルはウェイターの仕事を通してどうにかのし上がろうという秘めた野心を抱いているわけですが、ケインに給仕した時に彼を只者ではないと認識した瞬間がある。お互いに積極的なコミュニケーションを取らないながらも意識し合う関係が生まれる展開にワクワクさせられました。

でもここは何といっても、ワイルドホーンの楽曲♪ゲームのルール♪がめちゃめちゃ良いんです!!軽やかにアベルがジョージと結託してお客の情報をキャッチしていくシーンがテンポよく描かれてるし、視覚的にも聴覚的にもホント楽しめました。
アベルとジョージの最高のコンビネーションシーンはこの後に出てくるナンバー♪最高の右腕♪でも見られます。優也くんアベルと上川くんジョージの息ぴったりな流れるような楽しい動きは一見の価値あり!

アベルにチャンスを与えるリロイを演じる山口祐一郎さんが本格的に登場。リロイってホテル王と呼ばれる周りが一目置くようなキャラなのですが、祐一郎さんが演じると威厳だけじゃなくてどこか親しみやすく自然とワールドに惹きこんでしまう独特な包容力のある人物像に思えて仕方ないんですよね。しかもなんか、楽天的で明るい。オモロイおじさん、なんだけど、圧倒的な存在感もあってw・・・なんなんだろう、あの不思議な魔力は(笑)。
ホテルの経営を一緒にやらないかと誘われチャンス到来で目を輝かせるアベルですが、祐一郎さんリロイを前に優也くんのギラギラした野心が少しずつ削られていってた気がするw。最終的にアベルはリロイの人柄に惹きこまれて道を定めたように見えました。

ケインは後見人であるアランと銀行経営の方針で対立。
アランを演じた益岡徹さん。稽古場でも演出家から絶賛されたという存在感は本当にさすがの一言。益岡さんがその場にいるだけで、シーンに緊張感が生まれます。最初はケインを息子のように可愛がっているおじさんって雰囲気だったのが、時代が進むにつれて意見が対立し彼の考えに苛立ちを募らせていく展開は非常に危うくスリリングでした。

ケインとアベルの恋愛については、このミュージカルではあまり長く時間を取らなかった印象。ケインとケイトの関係は出会いからちょっとキュンを交えた展開を魅せていましたが(特に洸平くんのキョドっぷりが可愛くて最高w)、アベルとザフィアはあるきっかけからかなりスピーディーに恋愛関係に至ったなと。まぁ、アベルとザフィアは冒頭の移民船からの仲でしたから(ジョージもチャカしてるシーンあったしw)結ばれる予感ぷんぷんでしたけどね(笑)。
ケインとアベルはそれぞれ別の場所で愛する人との時間を過ごし関係を深めていきますが、♪愛が始まる時♪のナンバーでの演出がとても美しくて思わず息を飲みました。二人は全く違う場所で恋愛を深めているのですが、時折その人生が舞台上で交錯するんですよね。まだ本格的に出会っていない二人の運命の絆みたいなものが可視化されていて、それがなんだかとても尊くもあり哀しくもある。とても素敵な演出だったと思います。

ケイトを演じた愛加あゆさん、最初はちょっとツンとした雰囲気だったけれどケインの実直さに心が動いて彼が気になってしまう過程がとても可愛らしかった。ちょっと姉さん女房的な感じかな。

ザフィアを演じた知念里奈さん、アベルたちと同じく苦しい時を経ているにも拘らず明るくて前向きでとても魅力的でした。アベルは最初リロイの娘に近づこうとしていましたが、目が覚めた後はザフィアの優しい愛に惹きつけられたかんっじだったな。

その後アメリカ大恐慌時代がやって来る。投資家たちが好景気に調子乗って投資しまくっていた時代、突然大暴落した株に人々は翻弄され多くの人が路頭に迷いました。ケインの銀行には慌てて預金を引き出そうとする人が殺到し経営のピンチに。この最中にケインにとって衝撃的な出来事が起こってしまいます。この展開は予習にも出てこなかったので私もショックでしたねぇ…。まさか”彼”があんな哀しい運命辿るとは思わなかった。
ただ、この展開ちょっと強引すぎたなという気もしなくはない(汗)。尺の問題で入らなかったんだろうけど、二人の関係をもっと際立たせる展開があればあの顛末ももっとグッとくるものになったんじゃないかと。

さらにアベルにも大きな悲劇が。この展開は予習の範疇だったので見ていて「ついに来たか」と思ったのですが、祐一郎さん演じるリロイの錯乱っぷりが独特で。絶望してるんだけど、まだやり直せるとどこかで奮い立たせているようでもあり、空元気装ってるんだけど精神的に追い込まれてるようでもあり。
♪潮時♪の場面でリロイを必死に鼓舞する優也くんアベルがなんだか健気でねぇ…。やっぱり彼はリロイの人柄に惹きつけられて一緒にやって来た感が強いんじゃないかなって思えた。最終的には希望を抱いたかのように見えたので、あの急転直下の展開と演出には前知識はあっても「えぇ!??」と絶句(汗)。そりゃないよ、リロイさん。アベルがひたすら気の毒だった。

哀しい経験をした二人はついに対面を果たしますが、それは長い憎しみと苦悩の旅のはじまりだった。1幕クライマックスで初めて面と向かって対面するわけです、舞台上では二人の人生がリンクして交わる演出が多かったので、憎しみと苛立ちを募らせていく二人を見るのは辛かった。感情が不安定な状態で会ってしまったというのも最悪のタイミングだったよなぁ。二人とも悪くないだけになおさら切ない。
アベルは自らの経営計画を熱弁しますが、ケインは自分の銀行を守るため彼に助けの手を差し出せない。それが原因で関係が悪化してしまうのですが…ラストに繋がる伏線がちらっとここで出るんですよね。私その時に”察して”しまって(苦笑)。そこを最後まで匂わせる程度に収めるような展開だったらもっと良かったかなとも思ったかも。ストーリーの展開上、ちょっと難しいけどね(汗)。

1幕ラストで歌われる♪命ある限り♪で洸平くんと優也くんのデュエットをガッツリ堪能できます。二人の声の相性がとても良くて、一気に世界観に惹きこまれました。スリリングでドラマチックなナンバーになっていたと思います。

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2幕冒頭、フロレンティナが後ろに映し出されたアルバムを見ながら「この中に飛び込んでこの頃の二人に声をかけられたらどんなにいいか」というような台詞がありました。この言葉がここから先の展開を暗示しているかのようでめちゃめちゃ切なかった…。二人がお互いを理解できないまま対立を深めていく未来が語られていて胸が痛くなりました。
大恐慌を乗り越えた二人は自信に満ち溢れ、やがてお互いに片方を潰して乗っ取ってやるという欲と野心に飲み込まれてしまう。

第二次大戦がはじまり国のために家族の反対を押し切って戦争に行ってしまうケインとアベル。戦場へ赴こうとする二人が兵士の隊列で行進していく中で戦闘服へ着替える場面は圧巻です!!あの演出は演じる側は大変そうだけど見ているこちらとしては「そうくるか!」となる。ケインとアベルはそれぞれの場所から出征するのですが、これまで対立軸にあった二人が”国のために”という同じ方向を向いて進んでいく姿にグッとくるものがありました。
洸平くんと優也くん、そしてアンサンブルさんたちの動きが綺麗に統制がとれていて迫力があります。あそこまで揃った動きで魅せるの、すごいと思った。

この戦争シーンでクローズアップされていたのがケインの戦闘場面。彼は戦場で生死を彷徨う体験をしますが、♪また会う日まで♪を歌う洸平くんケインの歌が本当に素晴らしくてウルッときたよ(涙)。階段の上から切々と歌う姿はなんとなくミュージカル『ミス・サイゴン』のクリスの姿に重なるものもあったように見えた。もう年齢的に無理なのかもしれないけど…見てみたかったなぁ、洸平くんのクリス。
さらにこの場面の直後に感動的な場面が!!アベル―――(涙)!!ってなりましたよ、ほんとに。余談ですが…一瞬、アベルがバルジャンに見えたw。戦争の混乱でお互いが誰だか分らない状況のシーンではあるんだけど、これがクライマックスでちょっと生きてくるんですよね。

戦後、再び社会に復帰したケインとアベルは再びお互いを潰し合うことに夢中になっていく。二人とももはや意地になっていて周囲が見えない状態で、ついには愛する家族の心がどんどん離れていってしまうという悲劇…。
ケインは一幕ではあんなに慎重で真面目だったのに、アベルを凌駕したいという欲に飲み込まれてから相手の株を奪う事しか見えなくなってるのが悲しい。アベルは戦争中にグッとくるような行動をとっていたのに、結局はケインを叩き潰すことに意識が向いてしまって常軌を逸していくのが辛い。ザフィアに子供ができたと知った時にはあんな泣きそうな顔で愛しい人をバックハグしてたのに…(あのときの優也くんの表情がめっちゃ泣けた)

やがて形勢はアベルの方に傾きケインが不利な状況に追い込まれていく。これまで苦い顔をしながらなんとかフォローしてくれていたアランからも「もう限界だ、お前を切り離さなければいけなくなるかも」と見放すようなことを言われてしまうわけで…。
そこで苦渋の決断でアベルに連絡を取り事態を収拾させるため話し合いをしたいと提案しようとするケイン。初めて対面した時はアベルのほうが立場が下だったのに、ついにそれが逆転してしまったというのがなんとも切ない。

アベルはかつてケインから融資を断られたことの仕返しのように冷たく和解の提案を切り捨てる。そのことでさらに二人の関係は悪化。万事休すに思われたケインでしたが、最後に秘策を打ち出したことで(そこに前半暗躍したヘンリーが関わってる 苦笑)盛り返すことに。まさに食うか食われるかの関係になったケインとアベルが競うように歌う♪今が瀬戸際♪はめっちゃスリリングで迫力満点でした。

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やがて時代は進んでケインとアベルの子供たちが成長

このタイミングでようやく最後のメインキャストの竹内將人くんがケインの息子・リチャード役として登場。たぶん私、ミュージカルで竹内くんを見るの初めてかもしれない(テレビではあるんだけどね)。爽やかな歌声と笑顔が可愛らしくて、殺伐とした展開の中でホッとさせてくれるような存在感がありました。
リチャードは好きになった女の子には一途な息子で。一目惚れしたフロレンティナの気を惹くために彼女が働く店の手袋を50着も購入して機会を狙ってたっていうのがすごい(笑)。ついに彼女に告白するときはもう突撃あるのみなアタックでグイグイ行きまくりww。可愛い見ためであの積極性といったギャップが面白かった。

フロレンティナは最初はリチャードのグイグイなアプローチに引き気味でしたが、彼の熱烈さに気持ちが動いちゃっていつの間にか恋してしまうんですよね。私だったら引いたままだったかもって思うくらいのレベルだったけどww、フロレンティナはああいう男の子に弱い女の子だったのかもとほっこりしました(笑)。

でも、リチャードはケインの息子フロレンティナはアベルの娘。これはまるで”ロミオとジュリエット”な関係ではないですか。当然アベルはフロレンティナの恋を猛反対するわけですが、彼女の熱心な説得にほだされてしまう瞬間が訪れるんですよね。この時の優也くんの娘を想う繊細な表情がすごく感動的だった!
一方でケインはリチャードの恋愛を決して認めようとはしませんでした。まさに「親が憎けりゃ子供も憎い」といった心境でしょう…。どうしてそこまでお互いに憎しみに囚われてしまったのかと思うと悲しくなる、本当に。結局リチャードとフロレンティナは親同士の憎しみ合いを止められず駆け落ち。

そしてついに、ケインが起こした起死回生の行動がアベルの感情にさらに憎しみの火をくべることとなり…、フロレンティナの恋愛は全否定されることに。アベルは残された自分の憎しみの感情を全てケインに注ぎ込む。そしてついに決着が…。すべてが終わった時、二人の間に残った感情はただ「虚しさ」だけ。
年月を経てすれ違った二人が言葉を交わさないまでもそれまで見えなかったお互いの本当の姿に気づいていく場面♪何のために♪は本当に切なくて哀しかった…。本当は分かり合えたはずの二人だったのになと思うと、本当にやるせない。洸平くんと優也くんの枯れたお芝居も上手かったな。洸平くんはすべての感情が削ぎ落されてしまったかのように疲弊した雰囲気だったし、優也くんはダンディーな雰囲気を纏いながらも虚しさと共に生きてる雰囲気だった。

そしてラストシーン。私は1幕ラストで”察した”ので展開に驚きはなかったのですが、あの、「真実」を初めて知った時の優也くんのアベルのお芝居にめっちゃ泣いた(涙)。もう本当に一気に涙がボロボロこぼれ落ちてしまって…。それを見守る洸平くんのケインの姿もあって…最後の最後にこんな泣かされるとは…!!リチャードとフロレンティナの息子に纏わるエピソードも感動的でした。

欲を言えば、一番最後の♪フィナーレ♪の音の伸びをもう少し長くしてほしかったかな。途切れる感じで音が無くなって、私の周囲のお客さんも一瞬「!?」ってなってたし(汗)余韻がもう少しあればなとは思いました。

全てが完璧、という感じではなかったけれどストーリーのテンポがよく完成度の高い見応えある作品だったと思います。なんといってもキャストが皆さんレベルが高くて本当に素晴らしかった。

洸平くんと優也くんのW松下コンビならではの世界観が感じられたのも良かったです。劇中でケインとアベルは壮絶な潰し合いを展開していきますが、なぜか彼らの気持ちの根底では共に手を携えたい想いがあるのではないかと感じることが何度もあったんですよね。見えない運命によって対立する関係になってしまった二人だったけれど、もしも違う世界があったなら良き相棒になれていたような気がしてならなかった。そんな雰囲気が2幕クライマックスに生きていたと思います。

洸平くんと優也くん、二人の築いてきた素敵な関係性が作品の中に溢れてました。また彼らが共演する作品を見てみたいです。

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後述

カーテンコールは2回とここ最近のミュージカルの中では少ない方でしたが、1回目からスタンディングオベーションする方が多数で(私も途中から立った)2回目にはほぼ総立ちの大拍手で大いに盛り上がっていました。洸平くんと優也くんもその光景を見て感極まってたなぁ。

カンパニーの皆さん、最後まで怪我のないよう無事駆け抜けてください!

ちなみに、シアターオーブの後方席ですが…意外と見やすかったです。段差も十分あるので視界良好(以前、中央近くで座高の高い人の後ろに座ってしまい舞台の3分の2が見えない悲劇っていうのも体験しましたが、今回はそういった心配は皆無でホッとしました 汗)。表情を見るにはオペラグラスは欠かせませんが、全体の演出の美しさや迫力は遠くからのほうが伝わりやすかったように思います。あと、かなり高い位置でのお芝居もけっこう多かったので(ボックスセットの最上階)前方席すぎるともしかしたら見づらいと感じた方もいたかもな…とも(汗)。

物販グッズは今回は種類少なめです。

そのなかに「ジェットストリーム多機能ペン」というのがあったのですが、まだ公演始まって3日も経っていないのにもう売切れててビックリしました(休憩時間には無くなってた 汗)。そんなにすごいペンなのだろうか!?
ちなみに私は今回パンフレットのみのお買い上げです。

そういえばロビーにはこんな貼紙があったな。

私は全く気にならなかったんだけど(っていうか、どの部分かすら分からない 苦笑)、今はこういう注意喚起しないといけないのかなぁと複雑な心境になりました。大変な時代になったものだ。

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