ミュージカル『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』を観に東京遠征してきました。
公演が始まったのが(プレビュー含む)6月でしたが、遠征の都合など考慮した結果かなり出遅れた観劇となってしまいました(汗)。これまで常に入ってくる好評だという情報をSNSを薄目で眺めてきたのですがww、これでやっとじっくり見ることができます(笑)。
が、直前に大きな台風7号が日本列島縦断という事態となり…無事に東京までたどり着けるのかハラハラドキドキもので(汗)、天気予報チェックが欠かせませんでした。かなり長いこと待ったMR!観劇だったので、無事に東京に入ることができてホッとしました。
関東に住んでいた頃はかなりの頻度通っていた帝国劇場ですがw、西側に住むようになってからは梅芸がホームグラウンド劇場となりすっかりご無沙汰になってしまいました。以前訪れたのはいつだったかと辿ってみたら…、なんと2020年の『ビューティフル』だった(あの頃はまだコロナ禍真っただ中…)。もはや帝劇の香りすら懐かしい。
相変わらず劇場表の装飾はとても華やかなのですが(梅芸は入口は地味なんですよね)、もっと派手だったのが劇場に入った後。
一歩足を踏み入れた瞬間から”赤い世界”一色です!!毎回帝劇はロビーを華やかに飾ることが多いのですが、今回のはさらに徹底してる感じで圧倒されました。さらに驚いたのが、開演前、休憩時間、開演後の撮影が動画も含めて許可されていたことです。
開演前の写真撮影が許可されている劇場はコロナ禍以降増えたなという印象があるのですが(劇団四季とか)、動画も許可されているというのは今回が初めてだったかも。今回は開演10分前くらいにアンサンブルキャストさんが少しずつ登場してくる演出になっていたのでそこからは撮影禁止となりましたが、舞台に人がいない時間帯は基本的にOKとなっていました。
ただし、撮影する時は自分の席からというのが基本です。通路に立ち止まっての撮影をしている人も何人か見かけましたが、あとから入ってくるお客さんの邪魔になっていた方も…。ご厚意で撮影許可となっているので、せめて基本的なルールは守ってほしいなと思いました。
パンフレットを購入後、いざ客席内へ。たまにSNSで劇場内を写した写真がアップされているのを目にしていましたが、実際に生で見ると”赤”の迫力が本当にすごかったですっ!
ここまで派手な舞台装飾がされているものを見たのは初めてかもしれない。風車は実際にゆっくり回転しているし、青いゾウさんのオブジェもかなりリアルにできていて大きさも半端ない(ちなみに象は動きません)。天井からは豪華なシャンデリアがいくつか下がっているし、スピーカーも新たに設置した感じ。そして開演時間までずっとエンドレスで流れている音楽がどこか退廃的で艶めかしく妖しい。
ここは本当に帝国劇場なのか!?と思ってしまうくらいのリアルな”ムーラン・ルージュ”の世界がそこには広がっていました。今回チケット代がとにかくビックリするくらいの高額設定になっていたわけですが、帝劇に入った瞬間に「これは相当お金かかってるな」というのは直に肌で感じましたね(苦笑)。
以下かなりのネタバレを含んだ感想になります。
2023.08.17 マチネ・ソワレ公演 in 帝国劇場(東京・日比谷)
概要とあらすじ
この作品の原作は2001年に公開されたバズ・ラーマン監督作品『ムーラン・ルージュ』です。主演はニコール・キッドマンとユアン・マクレガーで、当時かなり話題になっていたことを思い出しました。
現在でもWOWOWなど映画専門の有料チャンネルなどでコンスタントに放送してるので見たことがある人も多いかもしれません(ちなみに私はまだ未見 ←ユアンのこと結構好きなのに 汗)。
2018年にアレックス・ティンバースが演出したミュージカルがボストンで初演を迎え、翌2019年にブロードウェイに進出。第74回トニー賞で14部門ノミネートされた内、ミュージカル作品賞や主演男優賞など10部門受賞する快挙を成し遂げ大きな話題を呼びました。
ブロードウェイ以降はオーストラリア、イギリス、韓国(2022年12月〜2023年3月)でも上演。そして2023年6月(〜8月31日)、ついに7番目の上演国として日本初演が決定となりました。ただ、帝劇のみの公演となったのは少し残念です。
簡単なあらすじは以下の通り。
舞台は1899年、パリ。
退廃の美と、たぐいまれなる絢爛豪華なショー、ボヘミアンや貴族、遊び人やごろつき達の世界。『 ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル 』は激しい恋に落ちたアメリカ人作家クリスチャンと、ナイトクラブ ムーラン・ルージュの花形スター、サティーンの物語。ムーラン・ルージュで二人は出会い、激しい恋に落ちるが、クラブのオーナー兼興行主のハロルド・ジドラーの手引きで、彼女のパトロンとなった裕福な貴族デューク(モンロス公爵)が二人を引き裂く。公爵は望むものすべて、サティーンさえも金で買えると考える男だった。 クリスチャンはボヘミアンの友人たち――
才能にあふれた、その日暮らしの画家トゥールーズ=ロートレックやパリ随一のタンゴダンサー、サンティアゴとともに、華やかなミュージカルショーを舞台にかけ、ムーラン・ルージュを窮地から救い、サティーンの心をつかもうとする。<公式HPより引用>
この作品はジュークボックス型のミュージカルと言われていますが、特定したアーティストの楽曲ではなく、様々なアーティストのポップス音楽がふんだんに織り込まれているのが特徴です(なんと使用されてる曲は70以上なんだとか)。2001年の映画に登場する有名曲(エルトンジョンやマドンナなど)以外にも、ミュージカル上演までの間に生まれたヒット曲(レディ・ガガやビヨンセなど)40曲余りが追加されているそうです。洋楽に詳しくない方でも、数曲はどこかで聴いたことのある旋律が登場すると思います。
また日本版ミュージカルを制作するに当たり、訳詞にヒャダインさんやUAさん、宮本亜門さんなど様々なジャンルから総勢17人のアーティストが参加。特にビッグナンバー♪YOUR SONG♪(エルトン・ジョン作)の訳詞を松任谷由実さんが手掛けたことは大きな話題となりました。
ちなみに、「ムーラン・ルージュ」とは1889年パリ万博の年にモンマルトル開場したダンスホール(キャバレー)で、創業130年以上を誇ります。店名の意味はフランス語で”赤い風車”。劇場の屋根にある大きな”赤い風車”が目印とのこと。現在も絶賛営業中で、店内は真っ赤なルージュ色のライトで照らされ妖艶な雰囲気が漂っているのだとか。フランスの観光名所にもなっているようですが、ドレスコードはあるらしいので興味がある方は事前にチェックしたほうがいいかもしれません。
上演時間は約2時間55分。
内訳は、1幕70分(1時間10分)、休憩25分、2幕80分(1時間20分)となります。
キャスト
- サティーン(Wキャスト):平原綾香(マチネ)/望海風斗(ソワレ)
- クリスチャン(Wキャスト):甲斐翔真(マチネ)/井上芳雄(ソワレ)
- ハロルド・ジドラー(Wキャスト):橋本さとし(マチネ)/松村雄基(ソワレ)
- トゥールーズ=ロートレック(Wキャスト):上川一哉(マチネ)/上野哲也(ソワレ)
- デューク(モンロス公爵)(Wキャスト):伊礼彼方(マチネ)/K(ソワレ)
- サンティアゴ(Wキャスト):中河内雅貴(マチネ)/中井智彦(ソワレ)
- ニニ(Wキャスト):加賀楓(マチネ)/藤森蓮華(ソワレ)
- ラ‧ショコラ(Wキャスト):鈴木瑛美子(マチネ)/菅谷真理恵(ソワレ)
- アラビア(Wキャスト):磯部杏莉(マチネ)/MARIA-E(ソワレ)
- ベイビードール(Wキャスト):大音智海(マチネ)/シュート‧チェン(ソワレ)
<アンサンブル>
宮河愛一郎、乾直樹、高橋伊久磨、酒井航、仙名立宗、加藤翔多郎、茶谷健太、田川景一、三岳慎之助、平井琴望、富田亜希、加藤さや香、加島茜、杉原由梨乃、田口恵那
アンサンブルキャストさんたちのレベルも非常に高く、ダンスの迫力や歌のパワーなど本当にメインの役者さんたちに引けを取らない熱演でした。特に目を引いたのは高橋くん。めちゃめちゃ美形男子で、開演前に登場したときから釘付けになっちゃいました。
出演予定だったICHIさんは今回休演ということでスウィングの茶谷健太くんが入っていました。
今回の舞台では長丁場の上にかなりハードだからか、体調が悪くなってからではなく”大事を取って”役を変えるという方針を取っているそうです。ICHIさんがまた元気に舞台復帰できますように。
全体感想
今回はマチネとソワレを観劇することができました。本当はチケット代金が高額だったこともあり1回のみにしようと思っていたのですが、人気演目になるとは思っていたので2カ所の先行でエントリーをかけてまして。そうしたら、なんと2つ当選してしまい(しかも両方1階席)…これはもう行くしかないとw。
ちょっとお財布的には痛かったけれど(苦笑)、結果的にはマチネとソワレでメインキャストがオール入れ替えとなっていたことで違う雰囲気を楽しむことができたのでそれは良かったなと思います。やっぱり舞台は演じ手が変わることで違う世界観として見えてくるものだということを再確認しました。
全体の感想としては…とにかくゴージャスだったなと。明るい華やかさというのではなく、どこか背徳的な美を感じさせる派手さがあり、物語で押していくというよりかはショー的要素のほうが強い作品だったなという印象がありました。
ストーリーはいたってシンプル。ボヘミアン(型にはまらない自由な生き方)に憧れアメリカからパリにやってきた作曲家志望の青年クリスチャンが「ムーラン・ルージュ」でトップの人気を誇る踊り子のサティーンとひょんな巡り合わせで出会い恋に落ちる。でもサティーンは店の存続のために金が全てという考えの貴族・デューク(モンロス公爵)と結婚しなければならない運命に。果たしてサティーンとクリスチャンは恋を成就することができるのか!?といった内容なので、映画を知らない人でも物語についていきやすいかと思います。
物語が始まる10分前(開演前)からアンサンブルさんたちがスローモーションな動きでゆっくりと登場してくるのですが、そこからしてもう妖しさ満点。女性は超セクスィー衣装に身を包んだ”ムーラン・ルージュ”出演者、男性はスマートにお酒を運ぶ店のボウイさんや気取った貴族客といった感じ。
開演直前まで流れている”ムーラン・ルージュ”のBGM音楽に合わせて踊り子と金持ち貴族との艶やかで危険な(ちょっと大人向け要素も)駆け引きが繰り広げられていて、本編が始まる前から「見てはいけないものを見てしまっているのでは」といった気持ちになりドキドキしてしまったw。
カウントダウンの数字が「0」になった瞬間、袖からクリスチャンが現れ観る者を一瞬のうちに「ムーラン・ルージュ」のショーの世界へと引き込んでいく演出はかなりテンションが上がりました。ここから数分続くショーがとにかく迫力満点だし、楽曲の持つ力強さも本当に凄い。
オープニングの♪Welcome To The Moulin Rouge♪が流れだした瞬間から客席のボルテージが一気に沸騰するような感じで熱気がものすごい(一つのナンバーの中に複数のヒット曲が含まれてる)。「ヒューー!!」といったノリノリの掛け声もそこかしこから聞こえてきてまるで本物のムーラン・ルージュに入り込んだかのような背徳感を覚えました。私が特にテンション上がったのはジドラーが「みんなでCanCan(カンカン)!!」と叫んだところだったかな。あれで気持ちのスイッチが一気にONになる感覚がありました。ダンサーさんたちのカンカンダンスが見事すぎてこれは手拍子せずにはいられない!!ちなみに原曲の♪Because We Can♪は冒頭部分が年末のM-1で芸人さんが登場する時に使われている音楽なので聴いたことある人も多いと思います。
この大盛り上がりのオープニングの流れで主人公のサティーンが登場するのかな…と思いきや、そうならないところが面白いw。その前にまず、ムーラン・ルージュになだれ込んできたクリスチャンらボヘミアンたちの紹介が始まります。アメリカから出てきたばかりのクリスチャンはパリの町で貧乏暮らしをしながらも芸術に邁進する二人の友人に出会う。画家のロートレックと、アルゼンチン人でタンゴダンサーのサンティアゴ。3人が仲良くなるきっかけとなる曲の触りが♪サウンド・オブ・ミュージック♪の一節だというのがなかなか興味深かった(一瞬しか出てこないけどw)。
ロートレックとサンティアゴは新作(ボヘミアン・ラプソディというタイトル名で笑いがあちこちから沸き起こってたのは映画の影響かなw)を「ムーラン・ルージュ」に売り込んで上演してもらうという野心を抱いていました。その考えに「バカげてる」と思いながらも自由への憧れが強かったクリスチャンが二つ返事でOKしちゃうの可愛いかったな。こうして意気投合した3人は現地になだれ込んでいったというわけ。ナンバーの後半に登場する原曲♪We Are Young♪はクリスチャンの伸びやかな歌声が爽やかで希望に溢れた感動的なシーンとなりました(3人の紹介的場面となるナンバー名は♪Truth Beauty Freedom Love♪で、この中に3つの原曲が含まれてる)。
そこを経ていよいよ満を持して主人公のスターダンサーであるサティーンが登場(♪The Sparkling Diamond♪)。三日月をかたどったブランコに乗って天井から現れるサティーンは多くの観衆の目をくぎ付けにして余りあるほどの美しさで本当に魅力的でした。
乗物から下りた後は彼女の独断場となるわけですが、このナンバーにもいくつもの有名な洋楽ナンバーが含まれていてめちゃめちゃ盛り上がってました。私が聴いたことあるなぁと思ったのはビヨンセの♪Single Ladies♪。ここのサビ部分が今回のミュージカルで使われてるんですが、ノリとテンポが最高にカッコイイです。
ナンバーが後半に差し掛かった時にサティーンの身に異変が起こるシーンが出てきます。ブロードウェイのCDで聴いた時は突然息ができなくなったような苦しげな雰囲気が伝わってきましたが、日本版で見た今回は突然力が入らなくなり息切れしたように倒れこむといった雰囲気でしたね。この出来事が物語の後半に大きく関わってくることになるわけです。
ショーを終えたサティーンは「ムーラン・ルージュ」のオーナーであるジドラーから財政難の現状を聞かされ、それを救済するためになんとか金持ちの公爵であるデュークをモノにしてほしいと頼まれてしまう。サティーンが望まない結婚を強いられながらも、ジドラーの気持ちを察して自分を押し殺そうと決意するのがなんだか切なかったです。彼らにとってムーラン~は唯一の居場所だったわけで、これまで築いてきた絆も固いものがある。かけがえのない場所を守るための苦渋の決断だったんだろうなと思うと胸が痛んでしまった(サティーンの心情を歌うソロ♪Firework♪が切ない)。
でも、サティーンがジドラーが紹介したのとは別の人物を「モンロス公爵」だと勘違いしてしまう場面は面白かった。どこかのコントで見たことあるシチュエーションっぽくて好きw。あの時彼女が本物の「モンロス公爵」を見て認識していたら物語は全く違う方向へ動いたんだろうな。サティーンが金持ちのパトロンになる人と思い込んでしまったのは、たまたま目が合ってしまった「クリスチャン」だったのです。ジドラーはまさか彼女が違う人物を見ているとは夢にも思わず”本人”に逢引の方法を享受しちゃってるのがコント的で面白かったw。
さっそくサティーンはクリスチャンをデュークだと思い込んで誘惑開始。ショーを見て一目で彼女に魅せられてしまったクリスチャンはドギマギしまくりでw、その初心な感じがなんとも言えず可愛らしい。自分のことを語ろうとする彼を制すようにサティーンが歌いはじめるのが♪Shut Up and Raise Your Glass♪。徐々にクリスチャンや仲間を巻き込んで盛り上がっていく感じが最高に素敵!特に「Shut Up and Dance with me!」というフレーズがとても印象深くてめっちゃテンション上がりました(原曲はWalk the Moonによる♪Shut Up and Dance♪)。
あと、面白かったのはサンティアゴがダンサーのニニに目を付けて口説こうとした時に「どっか行って」の冷たい一言であっさりフラれちゃう場面w。見事な惨敗っぷりで逆に清々しい(笑)。だけどこれで終わりじゃなかったっていう2幕には驚かされたんですけどね。
勘違いによる悲劇(いや、喜劇かw)はまだ続いてるんですが、サティーンの楽屋が「象の中」っていうのがすごい。「あの中で密会してるのか!?」と思わず劇場にいるデカい象さんオブジェに目が行っちゃったよw。
この場面、サティーンはやって来たのがモノにしなければならないデュークだと思っているのでめちゃめちゃセクスィーに誘惑しまくっていくのですが(でもどこか可愛らしい)、実際その場にいるのはクリスチャンなので会話が成立してるようでしていない光景になっちゃってるのが面白いところですね。クリスチャン本人はまさか自分が金持ち公爵として見られてるなんて夢にも思ってないわけで、憧れの人を前に緊張しまくりでドギマギしながら言葉を紡いでいく。で、ようやくサティーンが「??」と違いに感づいていく過程がまさにコント(笑)。特にクリスチャンが「学校でも習ったし今日もたくさん練習したんだ」みたいなことを言ったところで「は!?」となった場面は思わず笑っちゃいましたww。
でも、このオモシロな流れの中であの超有名ナンバー♪YOUR SONG♪(エルトン・ジョン)になるのは意外でした。
私が今回このミュージカルを観たいと思ったきっかけのひとつは、コンサートなどでよくこのナンバーが歌われていたのを聴いて”あの派手そうな作品のどこにこのバラードが入り込む余地があるんだろうか”と疑問に思っていたことでした。映画も見てないし事前に予習もしていなかった私は♪YOUR SONG♪はラストシーンあたりで感動的に流すのかな、なんて勝手に思ってて(汗)。なので想像していたよりもかなり早い段階で登場したことにちょっとビックリしてしまった。
実際に見たかった♪YOUR~♪の場面を見てようやく腑に落ちるものがありましたね。目の前にいる人物は本当に「モンロス公爵」なのかと混乱し始めたサティーンの前で、彼女のために想いを込めてクリスチャンが歌う。その純粋さがとても際立っていてコメディ場面が一気にロマンチックな感動場面へと様変わりしたように感じました。相手がだれか確信が持てないなかでもサティーンが心打たれ吸い寄せられるように彼を受け入れ抱き合いキスをするシーンはとても情熱的でピュアな愛に溢れていて胸が熱くなったな。
この楽曲の日本語訳を担当したのがユーミンこと松任谷由実さん。コメント中でユーミンさんが「このナンバーを訳せるのは自分しかいないという覚悟で臨んだ」みたいなことを述べていたのですが、本当に素敵な言葉で綴られていてめちゃめちゃ感動しました。どのフレーズもとても素直でストレートに気持ちを言い表していてストンと心の中に落ちてくる。特に、
「How wonderful life is while you’re in the world」
を
「なんて素晴らしい、君のいる世界」
と訳されていたのがものすごく心に響いて…、自分の推しとかいろいろ頭に浮かんできて思わず涙が溢れてしまいました(泣)。ユーミン、ありがとう。
だけど、物語的にこのシーン見るとものすごく直情的すぎて危なっかしさすら感じてしまう。その場の熱い感情の盛り上がりで恋するすばらしさを知ったサティーンとクリスチャンだけど、もうこの時点から破滅に進んでしまうのではという嫌な予感がずっと頭から消えませんでした(汗)。
案の定、二人の仲が成就したかに思われた直後に本来やってくるべきだった人、つまりモンスロ公爵デュークがジドラーの手引でやってきちゃうw。ここでようやくサティーンは一緒に歌った人物が思っていた人と別人だったことを確信するわけですが、時すでに遅し。一度共鳴し合った恋心はそう簡単には引き離せないというのが世の常です(苦笑)。
このあと二人の様子を見守ってきた友人のロートレックやサンティアゴも部屋に乱入してきてまさにカオス状態にw。サティーンやジドラーはムーラン・ルージュ存続のためになんとかデュークは抑えておきたい下心があるし、なんとかその場を収めなきゃならなくなって。で、ここで頭角を見せるのがロートレック。うまいこと話を繋げて「新作ステージを考えたんだけど、それを上演するためのパトロンをデュークに依頼したい」と機転を利かす(ある意味本当にそれも狙いだったけど)。この突然降ってきた仕事の話にデュークはどんな返事をするのかドキドキしてしまいますが、あっけないほどあっさりOKが出て丸く収まっちゃうw。修羅場になるどころか、商談がまとまるというラッキーな方向へ話を導いたロートレックとサンティアゴのチームプレーが最高でしたねw。
このあと部外者は全員ゾウの部屋から出るようにということとなり、クリスチャンもあっさりおいだされてしまうことに。そしてようやくサティーンは本物のデュークと二人きりになるのですが、デュークは自らを”金が一番と考えている男”と言い切り自信満々の表情で彼女を口説きにかかる。これ、文字だけだとめちゃめちゃ嫌味な男って映ると思うんですが(汗)、意外にも私はこの場面のデュークは主張がハッキリしてるしむしろ清々しさすらあるなと思っちゃったんですよね。金は持ってる、だから君のすべてを自分の物にしたいと包み隠さずアピールしまくる彼はただの貴族じゃないなと。
それに何と言っても彼の歌う♪Sympathy for the Duke♪がめちゃめちゃカッコいいわけですよ!!超ノリノリでサティーンにグイグイ迫りながら「君のすべてが欲しい」と訴え続けるデュークは魅力的です。ま、今の感覚に照らし合わせると「金をちらつかせて口説くオトコ」として女に嫌われるタイプに思えるのですがw、サティーンはデュークを受け入れることにすると。
追い出されたクリスチャンはフラれてしまったとガックリ肩を落として戻ってくるわけですが、そんな彼をロートレックは自らの経験を交えて語りながら勇気づけていく。ここで驚くべきことは、ロートレックがサティーンと知り合いだったことでしたね。彼は彼女に恋心をいだいているようでしたが、自らの身体のこともあり告白するのを断念してしまったのだと。だからクリスチャンには自分の分までサティーンを諦めないでほしくないと励ましその背中を熱く推してやるのです(彼が歌うナンバー♪Nature Boy♪は切なくも熱い)。
ちなみにロートレック(本名はアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック)は実在する19世紀末の画家です。「ムーラン・ルージュ」に通い続けていた彼が描いた芸術的ポスター画は高い評価を受けたのだそう。
しかし彼は幼少期の骨折が原因で足の成長が止まってしまい身長が150センチしか伸びなかったことで差別的な目で見られていたと。劇中でロートレックが足を引きずりながら杖をつき歩いていたのはそう言うことだったのかと後から合点がいきました。そんな彼にとって、ムーラン・ルージュは唯一の居場所であり大切な場所となったようで、描く絵にはその愛情が注がれていたそうな。
ロートレックに励まされもう一度サティーンにアタックするクリスチャン。最初は「私にとって公爵と結ばれることは最後のチャンスかもしれない」と彼を拒んだサティーンでしたが、熱心な愛の告白を聞いているうちに惹かれていくことに。
二人が愛を深めていくこの場面は♪Elephant Love Medley♪というナンバーで彩られているのですが、この中に色んなヒット曲の要素が含まれていました。いいとこどりメドレーみたいな感じかな。知ってるなと思ったのは、ビートルズの♪All You Need Is Love♪、a-haの♪Take on me♪、映画『愛と青春の旅立ち』の主題歌だった♪Up Where We Belong♪くらいかな。ナンバーのクライマックスには夜空に浮かぶエッフェル塔が出てきてそれを挟んでサティーンとクリスチャンが♪Your Song♪(エルトン・ジョン)と♪I Will Always Love You♪(ホイットニー・ヒューストン)のサビをドラマチックに歌い上げます。これがものすごく感動的で胸が熱くなりました。
2幕頭では超色っぽいアルゼンチンダンサーのサンティアゴが登場するのですが(♪Backstage Romance♪)驚いたのが、1幕であんなに冷たくフラれた相手・ニニと恋仲になっていたことです!いつの間に(笑)。さすが情熱の国の人は違うなぁと妙に感心してしまったww。次第にアンサンブルさんもたくさん出てきてめっちゃ盛り上がりました。特にレディ・ガガの♪Bad Romance♪のナンバーが出てきたところは手拍子が湧き起こりテンション最高潮って感じでした。
あと驚いたのは、クリスチャンがやけに積極的になってたことw。1幕では初心な青年の印象が強かったのに、サティーンと気持ちが通じ合ってデュークに秘密で付き合いだしたことになってる2幕冒頭からはグイグイ系で。秘密の恋っていうのがさらに彼らを盛り上がらせてるって感じだったな(汗)。これ、バレた後が怖いぞと思いながら見たけどねw。
このあとロートレックの新作稽古が始まるのですが、敵役を演じることになってるらしいジドラーのたどたどしい芝居が面白かったww。で、サティーンが演じる女性の想い人役をクリスチャンが演じるというややこしさ(汗)。この稽古の様子をパトロンでもあるデュークが見てますから…なおさら背徳感がすごい。
で、デュークは芝居の内容や衣装のことにまで口を挟んでくるわけで。何でも自分の思った通りに事が運ばないと気が済まない厄介な金持ちの彼は嫌味な人物として描かれてるけど、たしかに結婚する相手の衣装が娼婦モノってなると良い気持ちはしないというのは理解できる(苦笑)。でもロートレックも一歩も引かずデュークとバチバチで険悪な雰囲気に。なんとかジドラーがその場を収めたけど(中間管理職みたいで気の毒だったw)、今後の稽古が極めて不安な状況。っていうか、これ、演じるキャストあれじゃトラブルが起こる予感しかしないよって心の中でツッコミ入れちゃったよ(苦笑)。
ニニはデュークと結婚する予定のサティーンに「あいつは危険な男よ」と忠告。ライバル視していた相手を気遣うニニがなんだかイジらしくてジーンときました。なんだかんだ言っても彼女のこと家族だと思ってるっていうのがいいよね。
一方でロートレックから「クリスチャンと会うのはやめとけ」と忠告されるサティーン。デュークにバレたら大変だと思うからこそ彼は止めてるんだよね。そんな心遣いを嬉しく感じているサティーンですが、ロートレックに対しては恋愛感情ではなく友情止まりだというのが伝わってくるのがなんだかちょっと切なかったです。彼はずっと片想いしてますからね…。自分は叶わない恋だけど、クリスチャンには幸せになって欲しいと応援してしまう気持ちも切ない。
クリスチャンはサティーンと思うように付き合えないことに苛立ちを感じていましたが、彼女の気持ちは自分だけに向いていることを知るとさらに恋心を燃え上がらせていきます。「何があろうとも君を愛している」と二人が歌うナンバー♪Come What May♪はドラマチックなバラード曲で心に響きました。この歌を訳したのは松尾潔さんだそうですね。とても素敵な言葉が並んでいてとても良かった。
オリジナル曲”Come What May”の日本語詞を書くという栄に浴しました。
舞台や映画を一度でもご覧になった方であれば、同曲がこの物語において特別な意味をもつことはお分かりのはず。
1曲のなかに人生がある、そんな曲です。#MoulinRougeTheMusical #ムーランルージュザミュージカル #帝国劇場 https://t.co/S68ofBhseH
— 松尾潔 (@kiyoshimatsuo) June 1, 2023
クリスチャンと本気の恋愛をしながらもデュークとの付き合いも続けているサティーン。ところが彼は彼女を自分色に染めていこうと様々な制限をしようとしていてますます彼女を追い詰めていってしまう。今の時代からしたらとんでもないモラルなんとかで訴えられるぞと思いながら見てたけど(汗)当時の金持ちの男性はああいった自分本位な考えの人が多かったんだろうなとも思いました。
さらに稽古が続くなか、デュークのサティーンに対する要求がエスカレート。ただでさえ彼のことを苦々しく思っていた(というか嫉妬)クリスチャンはとうとう怒りを直接ぶつけて修羅場寸前に。ジドラーが小道具のナイフ持たせてもらって喜んだ矢先の出来事だっただけにお気の毒って感じだったw。
クリスチャンの怒りの暴走に対してはロートレックも我慢できず「即興をやめろ!!」と厳しく制しようとしますが全く耳を貸す様子がない。ロートレックとしては自分の芝居が憧れのムーラン・ルージュでかかるかどうかの瀬戸際なわけで、クリスチャンが芝居を忘れ我を失いデュークに怒りをぶつけたことはものすごく腹立たしかっただろうなと思いました。
結局印象を悪くしたデュークはパトロンを降りると言い出し大ピンチに。ジドラーはデュークの資金援助を充てにしまくっていた為、サティーンに今すぐ彼好みの女を演じろと怒鳴ってしまう。ところがその時、ついに病が本格的に彼女の体を蝕みだしてしまうという悲劇…。
サティーンの命がもう残り少ないことを知ったジドラーはさすがに絶句し、クリスチャンの素晴らしい歌を世に広めたいと願う彼女をサポートしていくことを決意。理不尽なことを押し付けることもあったけど、ジドラーはサティーンのことを妹のように大事に想ってるんだなと思えて切なかったです(涙)。
その後ついにデュークはサティーンとクリスチャンの特別な関係を察知。自分の思い通りにいかない彼女に対する苛立ちをこれでもかというほどぶつけてくる公爵は恐ろしい。ニニが言ってた通りかなりヤバイ奴だなと背筋が寒くなりました(震)。
そこへクリスチャンが「一緒に逃げよう」と助けにやって来るのですが、サティーンは冷たく拒絶してしまう。クリスチャンに危害が加えられることを避けるための苦渋の決断だったわけですが、そんな彼女の切なる気持ちに彼は気づかずただ大きなショックを受けて立ち去ってしまった。この時のサティーンの気持ちを想うと本当に胸が痛みました…。彼女は自分の病気のことも愛する人に告げてないし、ただ一途にクリスチャンの成功を願うことで愛する気持ちを表現してるんですよね(涙)。
何とかムーラン・ルージュでの芝居を打つ計画は継続できたようでしたが、サティーンの体力は限界に近づいていて…。心配するジドラーに彼女が「私の葬式には下品な歌をかけてね」って告げる場面がなんとも言えず切なかったです。そして死を前にしたサティーンはデュークに「私は誰のものでもない」と別れの言葉を告げる。デュークはそれでも自信満々に「君は必ず戻る」と冷たく微笑んで去ってくんですけどね(ここで彼の出番終わりだったのはちょっと拍子抜け 苦笑)。
何があってもサティーンを愛し続けると決めたクリスチャンと彼女が歌う♪Crazy Rolling♪のナンバーで刻まれるビートがすごくカッコ良かった。まるで二人の鼓動の音のように聞こえたかも。
そして本番が訪れる。サティーンとクリスチャンは同じ舞台に立つ。そして二人の愛は永遠に・・・。この時初めて愛する人の運命を知ることになったクリスチャンはあまりにも哀れ。残された時間知らなかったものね…。舞台の上の二人を見つめる仲間たちが歌う♪Your Song(リプライズ)♪はとても感動的です。
ここで終わりではなく、その後のクリスチャンも描かれています。それでも人生は続いていく。あれは冒頭のシーンに戻るという演出になってるのだろうか。ラストシーンにあのナンバーの冒頭を持ってくるのがものすごく印象に残ってグッときました。
音楽の力がとてつもなく強い作品だと思います。ただ、物語主体として見ると正直物足りなさも残ったかもしれない。っていうか、サティーンとクリスチャンの恋愛があまりにも直感的で破滅的すぎてちょっとついていけないところはありました。マチソワ観劇はパワー負けしてしまった感じで(苦笑)ちょっと私にはキツかったかもしれない(←あくまでも個人的意見なのであしからず 汗)。
ハマる人はすごくハマる作品だと思います。特にノリノリなショーが好きな方にはお勧め。私はどちらかというと音楽と共にじっくりストーリーを堪能する作品が好きなので、そういう意味ではちょっと合わなかったような気がします。
キャスト感想他は次のページにて。