東京日比谷のシアタークリエで上演されたミュージカル『RENT』を観に行ってきました。
11月の観劇遠征最後に見た作品です。今年は大阪公演がないことが判明したため東京公演を観ることにしました(愛知より交通宿泊費がお得だったw)。
※3年前の大阪公演感想
本来この日はマチネとソワレでWキャスト全制覇する予定にしていましたが、ソワレは観ることが叶わなくなりました…。マチネが終わって時間を潰した後ソワレ開演20分前に劇場前に到着してみると、多くの人がごった返していて様子が明らかにおかしかった。急いで劇場扉のほうへ向かっていくと、「急遽中止」のお知らせの紙が貼られてて…。
新型コロナ禍の影響が収まらない状況だったため、もしかしたら突然の中止に出くわしてしまうこともあるかもしれないと心のどこかで覚悟はしていました。が、まさか本当に直面するとは想像していなかったし、ソワレキャストにも大きな期待を寄せていたこともあって…やはり心のダメージは大きかったです…。
今回はマチネを観劇できたのでまだ救われるほうですが、もしもこの公演のみを予定していたとしたら…遠征費用もかかっているのでもっと衝撃が大きかったかもしれません。遠征観劇のリスクを改めて思い知らされました(汗)。
開場ギリギリの時間帯での発表だったこともあり、スタッフの方も劇場外で何度も頭を下げてお詫びの言葉を叫び続けていました。なかには体調不良になった役者さんの名前を聞き出そうと詰め寄る人もいて…そんな光景に大きなショックを受けてしまった。
中止になってしまったショックもありましたが、その後にすぐ浮かんだのは…体調を崩してしまった役者さんのメンタル面へのダメージのこと。責任を感じて落ち込んでしまっているのではないかと思うとすごく心が痛んで…。それだけに名前聞きだそうと詰め寄ってた人を見たときにとても哀しい気持ちになってしまいました。
『RENT』を取り巻く環境はその後も大変なことになってしまいましたが、あえて今はあまり触れないでおこうと思います(後述で少し触れますが)。一日も早く、感染してしまった皆様が健康を取り戻されますことをお祈りしています。そのためにも焦らず、ゆっくり静養してほしいです。
※ブログ執筆中に、『RENT』全公演中止が発表されました…。奇しくも、私が観た回が楽になってしまった…。大変大きなショックを受けております(涙)。
以下、ネタバレを含んだ感想になります。
2020.11.16マチネ公演 in シアタークリエ(東京・日比谷)
主なキャスト
- マーク:花村想太(Da-iCE)
- ロジャー:甲斐翔真
- ミミ:八木アリサ
- エンジェル:上口耕平
- コリンズ:加藤潤一
- モーリーン:鈴木瑛美子
- ジョアンヌ:宮本美季
- ベニー:吉田広大
全体感想<1幕>
この作品の魅力は、どんな状況の中でも「生きていくこと」を真摯に見つめ熱いロックな音楽に乗せてそれぞれが突き進んでいくパワーだと思います。たとえ「死」の影がすぐそこに迫ってきていたとしても、葛藤を繰り返しつつ必死に「生きよう」ともがく若者たちの姿にどうしようもなく心を揺さぶられるのです。
新型コロナ禍の影響が色濃い今の時代にこの作品を見て、「今この瞬間を精一杯生きる」という彼らのメッセージがいつも以上に熱く心に響いた気がしました。
印象に残るシーンから振り返りたいと思います。
スタートは1991年のニューヨーク。クリスマスイブだというのに粗末な部屋で寒さと戦うマークとロジャーの二人は、鬱々とした気持ちを抱えながらも各々”創作”に没頭。ところが、頼りない電源しかなかったためにヒューズが飛んで真っ暗な部屋になってしまう。その瞬間にマークが吐き捨てるように
「飛んだよ!!!」
と叫んだ直後、熱く激しいロックナンバー♪RENT♪が鳴り響くんですが・・・これがもう、血沸き肉踊る感覚ハンパない!!マークの叫びがこの作品のスタートスイッチをオンにする、あの瞬間が本当にたまらなくゾクゾクします。
さらに、すべての登場人物が所狭しと現れて舞台上を駆け巡りまくるあの演出もすごいパワフル!ここ数年はほぼ同じセットや演出で上演されていますが、何度見てもオープニングの♪RENT♪は心の奥底から熱いものが吹き上がってくる感覚がしてテンション上がりますね。
ロジャーはエイズで失った恋人のことを想い続けていて、自分も同じ病を抱えていたことから命が消える前に「生きたことの証」を残そうと心が焦るばかり(♪One Song Glory♪)。
そんな時に下の階の部屋に住んでいたミミが「ろうそくに火をつけて」と歌いながら強引にやってきます(♪Light My Candle♪)。ロジャーは彼女が死んでしまった恋人と似ていたことから興味を抱きますが、自分の病気が足枷になってその想いを彼女に向けることにブレーキをかけてしまう。そうとは知らないミミもロジャーに恋心を抱いてグイグイ迫ろうとするのですが追い出されてしまう。
そんな二人の駆け引きみたいなのが面白いのですが、個人的にはミミが”クスリ”中毒だと察したロジャーが彼女が落とした”袋”を隠し誤魔化しぬこうとする場面が印象に残ってます。途中で蝋燭の火を消したりと、ロジャーはなにかとミミを気遣う行動するんですが彼女はそれに反発しちゃうんですよね。
”クスリの袋”を巡る攻防の結果、ロジャーがミミの妖艶なリアクションに童謡してる隙に見つけられてしまうわけでw。してやられてしまった感のあるロジャーが可愛くて好き。
しばらくして、マークとロジャーの部屋にコリンズがやって来る。コリンズはもっと早くに彼らの部屋を訪ねる予定でしたが、その途中で暴漢に襲われ歩くことが儘ならなくなってしまいます。それを助けたのが、この作品のキーパーソンでもあるエンジェル。
エンジェルがちょっと躊躇いがちなコリンズを優しくサポートしながらも口説いていく過程が可愛くて好き!特に「Non、なんて言わせない」っていたずらっぽい笑みを浮かべるエンジェルはグッとくるくらい可愛い。コリンズがその魅力に自然にはまっていくのも納得です。
クリスマス衣装に身を包みキュートに歌い踊るエンジェルのシーンでは客席から手拍子が沸き起こるほど盛り上がります(♪Today 4 U♪)。
このエンジェルの歌詞の中で「秋田犬のエビータが云々」ってくだりが出ているのですが、けっこう残酷な内容なので犬好きな人はちょっと苦手なシーンかもしれません。歌詞が本当に独特なんですけど、「秋田犬」というのは貧富の差が激しかった当時のアメリカで大富豪たちの多くが飼っていたことから出てきたもので、「エビータ」という名前はアンドリュー・ロイド・ウェバーの作品が全盛期だったことへの違和感を作者のジョナサン・ラーソンが抱いていたことを表してる、という説があるらしい(エビータはロイドウェバーの作品名)。
モーリーンは金持ちの娘と結婚してから態度がデカくなってしまったベニー(上から目線で貧困層に対して恫喝したりします)への抗議集会パフォーマンスを開くことになりますが、その準備を任されたのが彼女の恋人のジョアンヌでした。
ところが、音をリフレインさせる機械をうまく動かすことができなくて困惑してる時にマークがやって来たことで複雑な気持ちにさせられてしまいます。なぜなら、マークはモーリーンの”元カレ”だったから。つまり、モーリーンは男性も女性も愛す”バイセクシャル”なのです。この作品の中で一番自らを解放して自由に生きていたのは彼女じゃないかなと思います。
ジョアンヌと同じく童謡を隠せないマークでしたが、「エンジニア呼んでるから来なくていい」という彼女の強がりを感じてちょっと面白そうにする。ここの反応はマークを演じる役者さんによって色々なのですが、花村くんは思わず吹き出しちゃうっていうリアクションしてて「そう来たか!」と新鮮に感じました。元カレの立場としては、今カノが困ってる姿を見るのはちょっと面白くて気分良かったのかなって思ったw。ほとんどのマークはこの場面では「あ、そうですか」みたいに渋い表情してたので、花村マークの反応は面白かったです。
最初はギクシャクした関係のままマシン修理をしていきますが、モーリーンについて語り合っていくうちにいつの間にか意気投合しちゃう(♪Tango: Maureen♪)。そのきっかけになった「プーキー」って呼ばれるっていうくだりのシーンが個人的には二人の反応が面白くて好きですw。
エンジェルとコリンズはHIV患者が集い想いを告白する「ライフサポート」の会合に参加します。「死」の恐怖と戦いながら「今」生きることへの複雑な感情を語る若者のシーンは見ていてとても心が苦しくなる。この時代、エイズは不治の病と呼ばれていましたから、いつ自分の命が終わってしまうかという恐怖の中で生きるというのは本当に想像を絶するほど孤独で苦しかったと思います。
作者のジョナサン・ラーソンもその一人でした(彼はRENTの開幕直前に天に召されました)。このシーンに登場する若者の告白は、実際にジョナサンが聴いたエピソードと同じだそうです。
その会合に、映像作品を撮影する取材としてマークがやって来るのですが(エンジェルにも誘われちゃったしね)よそ者感がハンパない(汗)。部外者としての自分を痛烈に感じ居たたまれない気持ちになりながらもその場から離れるわけにいかなくなったマークの場面は、毎回見ていて身につまされる…。
彼は健康体で一見一番幸せな人物に思いがちですが、実は何かしらを抱えている仲間たちの中に自分の存在感がハマらない感覚をずっと抱えているんですよね。あのモヤモヤした孤独感みたいな気持ち、すごくよく分かるだけに近年、マークにすごく感情移入してみるようになりました。
一人部屋に籠るロジャーの元へ、仕事(男性を喜ばせる妖艶な職業をやってます)を終えたミミが「今夜、私を外へ連れ出して!」と強引にやって来ますが(♪Out Tonight♪)、ロジャーは自らの病であるHIVを彼女に悟られることが怖くて激しく拒絶してしまう(♪Another Day♪)。
『RENT』の中でも特に心揺さぶられる一つが、ロジャーが激しい葛藤のままミミを拒絶してしまう♪Another Day♪のシーンです。「別の場所、違う時に出会っていたら誘いに乗るかもしれないけど、今はダメなんだ」と歌う場面が特に抉られる。ロジャーの激しい心の揺れが伝わってきてとにかく切ないのです。
ナンバーの後半には、もがき苦しむロジャーに対してほぼ全員のキャストが「No Day but Today」と歌い励まし背中を押そうとする。「今、この時を生きなきゃ!」って皆でロジャーに力を与えようとする姿が本当に泣けて…。それに素直に応じられずに苦しむロジャーの姿も切なくて…。毎回ここは号泣ポイントですね(涙)。
しかし、ミミが去って行った後に「ライフサポート」の若者たちの想いとロジャーの想いが重なる瞬間があるんですよね。
「尊厳なくして死んでいくのだろうか。明日は目が覚めるのだろうか」
これも、実際にジョナサンが聴いたHIV患者の言葉を引用した歌詞とのこと…。言葉の一つ一つの重みがズシリと心に響く。ロジャーが「今を精一杯生きなければ」と前向きな気持ちを奮い立たせてミミを追い外へ飛び出していく場面はとても感動的です。
一方マークは、警官に暴行されている女性を助けたのに逆に責められたことで激しく落ち込んでしまう。女性は「芸術家気取りの若者にネタにされる」ことに対する嫌悪感をいだいてしまったんですよね。その気持ちも分からなくはないけど、マークは彼なりに社会を見つめ現状を記録する意欲を持っていただけなので落ち込んじゃう姿を見るのはとても切ない。
そんな彼をエンジェルとコリンズは温かく励まします(♪Santa Fe♪)。ここのシーンはコリンズの低音を響かせた歌声が聴きどころ!その歌声や彼の語る夢にマークは元気を取り戻していくんですよね。
マークが一人去った後、エンジェルはコリンズへの愛を高らかに歌います(♪I'll Cover You♪)。「やっと二人きりになれた」っていうエンジェルのセリフは毎回聞くたびに「マーク、哀れ(苦笑)」って思っちゃうんだけどw、エンジェルも命の期限を感じる中でようやく寄り添える相手として見つけたのがコリンズだったわけなので仕方ないかなと最近思うようになりました。
コリンズも惜しみない愛情をエンジェルに注ぎ、二人はさらに固い絆で結ばれていく。このナンバーも愛情に満ちた優しい雰囲気がふんだんに詰まっているので、見ているこちらも癒されます。
モーリーンのパフォーマンス時間が迫るなか、雪が降りだす中でそれぞれの時間が過ぎていく。
ロジャーはミミが”クスリ”の売人に近づこうとしたときに彼女と再会しそれを阻止。ミミはロジャーが自分のところへ来てくれたことに喜びを感じますが、ロジャーはまだ少し吹っ切れていない感情を持ってる。この微妙な関係性が見ていて危うい。一方のコリンズとエンジェルはラブラブの雰囲気のなかある1着のコートを購入。暴漢に襲われたときに奪われたコリンズのコートが売られているのを見たエンジェルが、彼のために新しいのを買ってあげるんですよね。ここも印象に残るワンシーンです。
そして、モーリーンのパフォーマンスの時が訪れる(♪Over the Moon♪)。ここのシーンは、初めて見た人にはかなり分かりづらいんじゃないかなと思います(汗)。富裕層(特にベニー)に向けた強烈な皮肉と批判をガーーっとモーリーンがまくしたてるんですが、歌詞があまりにも抽象的過ぎるんですよね(後にジョアンヌもそうツッコミ入れてますw)。
ここの場面の元になっているのは童謡『マザー・グース』だそうで、そもそも内容には大きな意味がないらしいです。そこに出てくるフレーズに様々な皮肉の意味を込めているとのこと。なので、ここはあまり深くは考えずに「モーリーンが貧困層を粗雑に扱うベニーに対して猛烈に怒ってるんだな」くらいの認識で気楽に見るくらいでいいんじゃないかなと思います。
このライブのクライマックスで、モーリーンが客席を集会に集まっている聴衆に見立てて「みんな、牛の鳴き声で抗議しよう!!」と促す場面があります。これまではそれに呼応した客席が一斉に「ムーーーー!!!!ムーーーー!!!」とモーリーンに煽られるまま声を上げるという演出になっていたのですが、新型コロナ禍の影響が続くなか”客席では声を出さないように”とルールが徹底されているためできなくなりました。
というわけで、それに代わる新たな方法が登場しました。それが、MooMooボード!!
1枚400円で劇場、または日比谷コテージかネットで販売中です。けっこう大きいです。これを開演前に開封してジグザグに折り曲げます。
そして、劇中でモーリーンが「さぁ、みんな一緒に!!!」と合図のセリフを叫んだ時にこれを取り出してバシバシと思い切り手で叩きまくります(笑)。7割くらいのお客さんがこれを購入していたようで、劇場中がすごい音で包まれていて迫力ありました!!
個人的には一人で声を上げることには毎回ちょっと恥ずかしいという気持ちが先行してしまっていたのでww、今回の試みは今まで以上に参加しやすくて楽しめました。次回もこれでやってほしいくらいです(世の中的には叫べる環境に戻るのが一番ですが)。
パフォーマンス後、仲間たちは興奮そのままに「ライフカフェ」レストランに終結。みんなテンション上がりまくってるので店員さんはかなーり迷惑してる様子なのが気の毒だったりしますw。
一足先にはベニーとその知り合いが来ていたため、モーリーンたちはそこでも彼を痛烈に皮肉る行動をとる(♪La Vie Bohème♪)。ここも歌詞がとても抽象的なので一つ一つ追っていると混乱する場面でもあるかなw。日本語にしていることからさらにややこしくなってると思うんですが、英語歌詞を見ると「韻」を踏んだ言葉遊びのようになっているそうな。なのでここは、ノリと勢いでポップなロック音楽に素直に身を任せて楽しんでみるのがいいんじゃないかなと。
ちなみに、歌詞の中に「クロサワ」という名称も出てきます。数々の偉大な芸術家の名前が出てくるんですが、その中に日本の「黒澤明」も入っていることがすごいなぁと毎回感動しちゃいます。日本よりも海外からの評価が非常に高い映画監督だったそうですしね。
歌詞についてもう少し触れると…内容は訳があまり分からないながらもフレーズが「NGワード」なものがけっこう多いww。ここには書けないような言葉も惜しげもなく出てくるのであまり深くは考えないで見るようにしてるのですが(笑)、ただ、「生」と「性」に対する爆発的なエネルギーは圧倒的なパワーで迫ってきます。色んな意味ですごく「人間」というものが生々しく迫ってくる。なので、嫌悪感を持つような厭らしさがない。その突き抜け感がすごいなと思います。
個人的には「ケツレヘム」でモーリーンが実際にベニーに対し衣装を半分下ろしてお尻を突き出す場面が強烈に印象に残ります。今回の鈴木モーリーンも思い切りがよかった!っていうか、あれはためらったら負けですしね(汗)。
ただ、新型コロナ禍の影響を受けたと感じさせる演出が♪La Vie Bohème♪でもあって。やはり、キスシーンは”しているように見せる”感じにトーンダウンせざるを得ませんでしたね。以前は相当濃厚にちゅ~~とやってた場面もかなりライトな雰囲気に修正されていました。
ロジャーとミミがお互いの病を知り関係を深めていく場面のキスシーンも”フリ”に変わっていて…仕方ないとは思いつつもちょっと寂しいなと感じてしまいました。
長くなったので2幕感想は次のページへ。