いよいよ全国公演が始まったミュージカル『ミス・サイゴン』。最初の上演地は製作発表も行われためぐろパーシモンホールです。私はプレビュー3日目に行ってきました。
前回訪れたときにも劇場までけっこう遠いな…と感じたのですが、やはり我が家からは片道約2時間くらいかかりまして(汗)ソワレ公演は正直かなり遅い時間の帰宅となりました。製作発表会見のオーディエンスに参加するためには今回の目黒公演か厚木公演のどちらかのチケットを購入しなければいけないということがありましたので…日程的にこの日になったわけです
あの日は劇場までの道のりに桜並木ができていてきれいだったのですが、今回はすっかり梅雨の季節。あれからもうそんなに季節が過ぎてしまったのかということを実感しました。
座席はパーシモンホールの2階席だったんですけど、なぜか私が観劇した日はトラブル続きで(苦笑)。
まず座席につくと同時に「どちらでチケットお求めになりましたか?」と係りの人に尋ねられてビックリ。何だかよく分からないのですが手違いからダブルブッキングが発生してしまったらしい。たしかに私と同じ席番チケットを持った人が後から来たよ…(汗)。東宝で購入した人がその座席の優先権があるらしく、わたしはそのまま2階席。後から来た人は1階席の特定された場所に移動させられてました。私的には1階席のほうがよかった気もするんだよな…(後方列ではありましたけど)。いや、2階席は手すりがちょっと邪魔でして…(苦笑)。でも見やすかったですけどね。
さらにトラブルは続きまして…休憩時間のトイレ。なんと、9割の個室の水が流れないと大騒ぎに(爆)。この時間帯のトイレはちゃんと稼働してくれないと困るよ、ほんとに…。劇場関係者が数人駆けつけてきてけっこう混乱しておりました。
そんな出来事があったわけですが…舞台本編はというと、予想以上に素晴らしいもので大満足です。あれがプレビュー!?と思ってしまったくらい熱い熱い舞台だった。久しぶりに聞くサイゴンの音楽…やっぱりいいなぁ。それが流れただけでウルっときたくらいですから。
一番気になっていたのはコンパクトになるという新演出だったわけですが、いやぁ、本当に演出が違うだけで作品の色がこんなにも変わるんですねぇ。たしかに大掛かりなセットがなくなって全体的に狭いところで人が動いている印象でしたが、それがかえって臨場感があって違和感が全くありませんでした。当時のベトナムの息遣いのようなものがリアルに伝わってくる、濃密な空間。これまでの公演のものが大スペクタクルミュージカルっていうイメージだとすると、今回のものはストレートプレイに近い人間ドラマのミュージカルって感じでしょうか。もしかしたらこの作品にはそんな雰囲気のほうが合っているのかもしれません。
胸に迫る人間ドラマの数々に今まで以上に早くから涙腺が決壊した私(汗)。1幕終った時点でもかなり大変なことになりましてw、2幕も引き続き号泣。これ、本公演になったらどうなるんだろうかとますます期待が膨らみます。
主なキャスト
エンジニア:市村正親、キム:知念里奈、クリス:山崎育三郎、ジョン:岡幸二郎、エレン:木村花代、トゥイ:泉見洋平、ジジ:池谷祐子 ほか
以下、思いっきりネタバレを含んだ感想になります。ご注意を…
まずは新演出で気が付いたことをいくつか。
冒頭のサイゴンの町の様子がコンパクトな空間で表見されていて、そこに人口密度がけっこうあるため当時のベトナムがなんだかとてもリアルに感じられました。そこへ突然鳴り響く爆発音。アメリカが攻めてきたことを以前よりもかなり派手にアピールしていて、逃げ遅れて倒れたキムのもとにエンジニアが怪しく近寄ってくるシーンにドラマを感じましたね。
ドリームランドのセットは真ん中の粗末な小屋。下手と上手には鉄骨で組んだそれぞれの部屋がある感じ。帝劇で見たような広々とした空間というイメージではなくなっていました。さらにはセットは基本的に手押しです!でもかなりスムーズに動かしていてドラマも上手く運んでましたね。
で…ドリームランドでの乱痴気騒ぎが…かなりすごいことになってました(汗)。実際の娼婦宿もあんな感じだったんだろうなと思いますが…、これまでの公演のものよりもさらにリアルを追求したような雰囲気でして個人的に見ていて戸惑いを感じてしまった。あれはちょっと小学生以下のお子様には見せられないかも…みたいな(苦笑)。
前の演出でもドリームランドではかなり大騒ぎしてたんですが、どちらかというとパーティーしてるような雰囲気があったんですよね。ミュージカルということで派手な楽曲でオブラートに包んでいたような感じだった。それが今回取っ払われたような気がします。思わず目を背けたくなるような退廃的な光景が広がってて…正直、日本人はああいう演出受け入れるの苦手な人多いかもって思わなくもなかった。
ただ、ああいった世界があるからこそ伝わるんですよね、キムの戸惑いと苦しみと悲しみが…。そしてそんな光景に嫌気がさしたクリスの気持ちも今まで以上にリアルに感じられます。なので、二人が結ばれて歌うシーンはなんだか胸に迫ってきて涙が溢れてしまいました。あそこで泣けたの初めてかも。ちなみに初めての夜のシーンのキムはTシャツを着てません(汗)。その代り見えないような肌着はつけてました。あ、これ、いらない情報かw。
ビックリしたといえば、ジョンのドリームランドでの振る舞いです。ジョンは2幕で心変わりする役なので娼婦宿でもテンションは上がっていてもどこかちょっと紳士的な雰囲気はあったと思うんですよね。ところが…今回の新演出ではビックリするくらいの肉食系といいますか…野獣化してて戸惑ってしまった(笑)。テンションが上がってる、どころじゃなくて…もう、心からあの空間を満喫しちゃってる感じw。女性に対するふるまいもヒドイもんでしたよ。
ジジを射止めるのは以前までは違うGIが担当していたはずなんですが、今回はなんとジョンが射止めてて。「アメリカに連れてって」とすがるジジを「うるせぇっ!」って感じで突き飛ばしてる野蛮な男に成り果ててビックリしてしまった。さらにはクリスにキムを買うわけですが…その時のキムに対する態度も以前よりも酷くて。女性を扱うというよりもモノとして品定めしてる感じ。さらには最後にサックスも吹いちゃうというww。
ちょっと、ジョン!こんなんでなぜ2幕であの心変わりが!?って思いましたよ(苦笑)。彼のサイドドラマが知りたい。
キムがクリスを招待して婚礼の歌を歌うシーン。セットが以前よりもコンパクトではありますが飾りがたくさんついていてリアルなアジアンスタイルのお部屋って雰囲気になってます。
変わったなと思ったのは婚礼の歌を歌うキムの元へクリスが行くときに仲間が儀式を教えるシーン。以前は「靴を脱いで」っていうリアクションだったんですけど、今回は靴はそのままで「手を清めて」って感じになってました。
モーニングオブドラゴンでの巨大ホーチミン像は今回登場せずに…ホーチミンの胸像の部分だけが後ろにドーンと出てくる感じになってます。その代わりにナンバーが始まってすぐにパチパチパチっと舞台上で突然爆竹が弾け、それと同時にドラゴンが鼻から煙を吐きながら出てきますw。あの冒頭の爆竹はけっこう派手に火花が散っててビックリしました。なので、どちらかというとこのシーンは新演出のほうが派手かも…って思っちゃった。
難民に紛れたキムとクリスと一緒に眠るエレンが歌うシーンは基本的に形は変わっていませんでした。エレンは上でキムが下のスタイルは同じです。ただ、クリスはパンツ一丁で眠ってましたww。
エンジニアが急いで自分の宝物を持ち逃げしようとするシーン。以前までは人気のないところで余裕をもって鞄にいろいろ入れてましたが、今回は後ろのほうで兵隊が慌ただしく行き来したり偵察に来たりする緊迫感あふれる雰囲気になっているのでエンジニアはものすごい慌てた感じで動いてましたw。
こういった演出もなんだか当時の世界観が演じられてて臨場感ありましたね。エンジニアの危機を潜り抜けて生きる逞しさみたいな部分が見えて面白かった。
2幕のバンコクの歓楽街セットは意外にも以前までとあまり雰囲気は変わっていません。ただ、びっくりしたのが男性バージョンの店がリアルになってたこと。えぇっと…とてもここでは書けませんが…お子様に見せられないような姿の方がけっこう派手にリアクションしたりしてました(爆)。あと、日本の中小企業の社長さんがやってくるのは変わらないんだけど、1人になってたなw。縄張りのボスが今まで以上に存在感を増していてカテコでもその他大勢ではないところで挨拶してました。
ちなみに、キムが仕事中にタムの面倒を見ていたのは職場仲間の女性。こういう細かい演出もありましたね。キムがなかなか戻らないことにイライラしてる様子で「遅い!」とか言いながら男と去っていきました。
そして悪夢のシーン。これが一番メインで変わってるところですかね。ヘリコプターです。これまでは実際に舞台の上から巨大なヘリが降りてきてそこにGIが乗り込んでいく感じだったんですが、如何せん、トラブルが多かった。ヘリが上から降りてこなくなっちゃって公演がストップするなんていう事態になったこともあったらしいです(汗)。
で、今回は全国ツアーということなのでヘリはデジタル映像で表現。これがどう見えるのか観劇前から気になっていたわけですが…違和感がほとんどなかった!デジタル映像なのでけっこうリアルなんですよ。そしてうまい具合に着陸してGIが乗り込む様子が演出されてて思わず「おおっ」と唸ってしまった。…って私このシーンでけっこう号泣しちゃってたんですけどねw。それにしてもあの描き方は上手いなと。
バンコクでのエレンとクリスの部屋。以前までは洋風っぽい雰囲気だったんですが、今回はとてもアジアンな雰囲気になっています。
そしてここも大きく変わったところでもあるのですが…キムと対面したエレンが傷心のまま歌うナンバーが新曲になっていました。とてもドラマチックな旋律で花代さんが素晴らしい歌声を披露してくれていたんですが…以前までのナンバーに馴染んでいたためにちょっと慣れなかったというのはあるかな。なんであそこだけ曲が変わったんだろう?なんとなくサイゴンの作品の色と違うような感覚があったもので…。たぶん、何度か聞いてると慣れてくるんだと思うのですが、私はあと2回だけなんだよな(汗)。
ちなみにエレンとクリスは結婚してから「1年」に変わっていました。以前までは「2年」だったんですが…クリスが戦争から戻って結婚するまでの期間が延びたというのは現実的に腑に落ちるなって思います。
キムが戻るまでタムのお守りをしているエンジニアですが、今回は二人が何をして過ごしていたのかがはっきりわかるような演出になっていました。シクロで二人で仲良く町を見てきたようですw。
そしてアメリカンドリーム。ここではキャデラックがどうなるのかが気になるところでしたが…これだけは映像ではなくちゃんとこれまで通り出てきてホッとしました。あのナンバーにはやはり本物のキャデラックは欠かせないなと思うので。で、変わった点が、後半になって再びデジタル映像が活躍することですかね。アメリカ国旗にある☆が最後に夢と共にはじけ飛ぶ、みたいな雰囲気。これ、なんか漫画チックに描かれてて個人的にはちょっと違和感あったかも(汗)。趣旨としては面白いんだけど、アメリカンドリームはちょっと切ない歌だとも思っているのでね…。
そしてラスト、キムとタムの別れのシーンですが…タムに赤い帽子をかぶせていたのが今回なくなりました。その代りにクリスがタムに白い帽子をかぶせてやってます。その直後にあの哀しいシーンへ…。泣きました(涙)。
変わったなと思ったのはザッとこんな感じですかね。まだもう少しあったと思うのですが…それは次回青山公演の時に再び確認したいと思います。
で、このプレビューのみしか見れないキャストが何人かいるのでその人たちを中心に少し感想を。
キム@知念さん
前回公演までで見てきて正直ちょっと苦手意識があったんですが、今回の知念さんはそれを見事に払拭してくれました!歌声、表情ともに素晴らしかったしたくさん泣かされました(涙)。特にキムの苦しみの表現がとても臨場感あふれてて…彼女の中の心の傷みみたいなものがストレートに伝わります。タムへの愛情はやはり実生活でもお母さんというだけあって一番リアルに表現してるのかもしれません。1度きりの観劇になるのがちょっと残念だなと思えるくらいのキムでした。
クリス@育三郎くん
GI役ということですっかり短髪になったいっくん。彼の短髪姿は私はこれまで見たことがなかったので、2階席からだといっくんだって気が付かなかったくらいですww。ずいぶんこれまでとイメージ違うんだなぁと思いました。歌声でいっくんだってわかったほどなので(笑)。
凄い熱演でした。一番グッと来たのはエレンにキムとのことを告白するシーンですかね。あの時のクリスの苦しみが手に取るように伝わってきて泣けました…。それから悪夢の中でのキムとの別れも。最後絶叫に近い形でキムの名前を呼ぶシーンでは涙が溢れて止まらなかったくらい。ただ、欲を言うならもう少し声量が欲しいかも。2階席からだとちょっと歌声がかすれて聞こえ辛いなと思うところがいくつかあったので…。それ以外はとても良かったです。全国公演頑張ってほしいな。
ジョン@岡さん
岡さんのジョンはもう貫禄ですね!それに立ち姿が美しいのは相変わらず。冒頭でのジョンの肉食っぷりにビックリしたんですけどw、岡さん、かなりヒドイ男を熱演しておりました。以前は紳士的な雰囲気だった岡ジョンでしたが今回はどちらかというと前半のそんなシーンもあるからかちょっと人間臭い雰囲気で通してましたね。
それにしてもあのサックス!明らかに舞台の上から聞こえてきたんですが…岡さん、練習されたんでしょうか!?この人は本当に器用だなと感動してしまった。
それからタムを演じたのが加藤憲史郎くん。人気子役の加藤清史郎くんの弟さんで、今回が見納めになります。いやぁ、お兄ちゃんとかなり顔つきが似てきたねぇ。子供が苦手な私ですらちょっと萌えちゃうくらい可愛かったよ(笑)。もう一度見たかったな。今後はお兄ちゃんと一緒にミュージカル俳優…なんてこともあるかも?頑張ってほしいです。
市村@エンジニアは前回公演の時よりも俄然パワフルで若々しくてビックリしました!あのテンションを長い全国公演でもぜひ発揮していただきたい。一つ一つの動きやセリフ回しにとにかく魅せられる。改めてこの人はエンターテイナーだなと思いました。
木村@エレンは製作発表で見たときよりもビックリするくらいの存在感を発揮していてこちらも驚きました。花代さん、四季の時代には一度だけマコ役で見たきりなんですが…今回退団して初めての大舞台作品参加。十分これからもやっていける方だなと思います。
池谷@ジジは前回公演よりも演出効果もあって存在感がとてもありました。特にわが心の夢のナンバーでの歌いっぷりがドラマチックでとても良かったです。
そして…今回一番楽しみにしていた泉見@トゥイ!久しぶりの洋平くんのトゥイ!!もう、登場した時からキムへの愛情が感じられて…最初から最後まで泣かされっぱなしでした(涙)。やっぱりこの役は彼しかいないと再確認。キムに撃たれた後の瀕死の芝居なんかもう号泣でしたよ…。洋平くんのトゥイについては語りたいことだらけなんですがw、あと2回見る機会があるのでその時に書こうかなと思います。
プレビュー公演で号泣したので青山公演のチケットをもう1枚買い足してしまった(笑)。なのであと2回見れます。それまでに全国を回る『ミス・サイゴン』チーム。今回は東北のほうにも行くそうですね。
悲劇的なストーリーではありますが、後味は不思議と悪くないのです。哀しいけれども見終った後になんだか心の豊かさを感じられるような…そんな作品です。多くの人にぜひこの作品を見てほしいと思います。