別役実作の二人芝居『受付』を観に東京・新宿方面まで行ってきました。
ちょうどこの時期に実家への里帰りの予定が入っていたので(別の演目を観るために1日早めていたのもラッキーでしたww)、運よく観に行くことができました。たぶんあと1日ズレていたら行けなかった(汗)。遠征だと日程調整とかけっこう難しいんですよね。
村上新悟さんは2016年の大河ドラマ『真田丸』を観たときに知って以来のファンです。ただ、ここ最近は少しウーーンと想うこともあったりしてちょっと距離を置いてたかなというのはありました(というか、見る機会が減ったというのもあるけど 苦笑)。が、今回は久しぶりの舞台でのお芝居ということでチケットを確保。
2回NHKの無料朗読劇に出演されていましたが(1回目だけ観に行った)、あれはどちらかというとイベント色が強い印象があったので実質的には今回が初めて村上さんの舞台姿を見るということになります。どのような顔を見せてくれるのか少しドキドキしながら劇場へ向かいました。
上演された場所はアトリエファンファーレ東新宿。
公式サイトでは「東新宿の駅を降りてからすぐ」とあったのですが…、出口を間違えてしまったせいで逆方向に行ってしまい極度の方向音痴を発動させてしまうことに(苦笑)。早めに到着していて正解だった。
でもちょっと分かりづらい入口ではあったかも。危うくマンションぽい所の入口から入りそうになっちゃいましたのでww。おかしいと思いコンビニを曲がってみるとスタッフさんが数人立っていたのでなんとか辿り着くことができたって感じですww。
チケットは事前にメールで申し込んでいたので、入口の受付で名前を告げてお金を払うスタイルでした。引き換えに頂いたチケットのデザインが可愛らしくてちょっとホッコリ。
狭い階段を降りて左の扉を入るとすぐに劇場になっていて、パイプ椅子が下手と上手に5列ずつ並んでいました(全部で100席弱くらい)。劇場…というよりかはスタジオって雰囲気だったな(ライブハウス的な)。最前列は出演者の一部じゃね!?ってくらいの距離でちょっとビビったww。
全席自由だったのですが、あまり近くで見すぎると物語全体を感じることができないと思い(1度しか見れないし)後方側に座りました。前方に人が座ると少し見づらくなる箇所もありましたが、全体的にはよく見えたし声の響きもよく快適な観劇となりました。
以下、ネタバレを含んだ感想になります。
2021.12.07 マチネ(初日) in アトリエファンファーレ東新宿(東京・新宿)
キャスト
- 村上新悟
- 幸田尚子
#受付2021 、 間もなく15時より初日の幕が開きます!
皆様のお越しをお待ちしております!#村上新悟#高岡事務所 pic.twitter.com/xeCha0p7id— 高岡事務所公式 (@TakaokaOffice) December 7, 2021
村上さんも幸田さんもすらりとしていてモデル体型でカッコいい!ビジュアルのバランスがとてもよかったと思います。
宣伝ポスターだと村上さん、893的な雰囲気ムンムンなんですけど(笑)実際は全然そんなことなくて普通のサラリーマン的な男性でした。なぜあの写真(ご本人もPR動画でツッコミいれてたけどwww)。あ、でも、一瞬だけそれらしきキャラは出てましたけどね(笑)。逆に幸田さんはポスターのイメージとけっこう近かったかも。
お二人とも無名塾出身の役者さん。村上新悟さんは第25期生、幸田尚子さんは26期生ということで先輩・後輩の関係になるようですね。
ちなみに、幸田さんの同期にLE VELVETSの佐賀龍彦さんがいらっしゃったようでちょっとビックリしました。佐賀さん、無名塾に入っていたことがあったのか!現在は病気療養されていますが、じっくり治してまた元気に復帰されることを祈っています。
あらすじ・概要
この作品は、日本を代表する不条理劇の第一人者の別役実さんが1980年に発表した戯曲です。2020年に惜しまれながらお亡くなりになりましたが、多くの作品を世に残されました。そのなかでも『受付』はご本人が特に良くできていると自画自賛するほどだったと言われているそうな。
今回の公演以外でもこれまで多くの劇団などが上演している人気作品。今年9月には柄本明さんの劇団乾電池でも『受付』を上演していたようです。
公式HPにあった簡単なあらすじは以下の通り。
「えーと、ここですか受付は?」
眠れぬ悩みを抱えヨシダ神経クリニックを訪れた男。
話をはぐらかして、なかなか受付をしない女。女が受話器を取るたびに何かが起こる。
現実とリアリズムに翻弄される男へ付きまとう38とは…
<公式HPより引用>
キャストは全部で6人。二人劇ということで3パターン(村上新悟さん×幸田尚子さん、海部剛史さん×小林麻耶さん、山﨑崇史さん×吉越千帆さん)が楽しめるというシステムになっていました。
演出を担当されたのはかつて無名塾に所属していた大江祥彦さん。海部剛史さんとは同期に当たるのだそうです。
全体・キャスト感想
舞台が始まる直前にスタッフさんからスマホの電源に関する注意事項喚起があったのですが、最後に「もっと見たいと思ってもたった50分で終わってしまいます!」みたいな気合のコメントがあって思わずクスっとなってしまいました。舞台初日でもあったので皆さんかなりテンション上がってるんだなというのが伝わってきましたよ(毎日仰ってたかもしれないけど)。
ステージ上にあるのは下手側に黒いソファと中央に受付嬢が座る机と椅子のみ。黒電話が懐かしかったw。それから上手側にキャストが出入りする(といってもほぼ二人とも出ずっぱり状態ですが)扉がありましたね。
登場する二人(厳密に言うとそれ+2人w)には名前がありません。名前が出てくるのは二人の会話の中で出てくる人物ばかり(厳密に言うと1名は名前のある人が出てくるww)。
役名はそもそも必要ないなと思ってしまうほど二人のセリフの量がとにかく膨大でビックリしました。約50分間ノンストップで駆け抜けていくセリフ劇って感じですね、これは。動画でお二人がコメントしてましたけど、本当に覚えるの大変だったと思う(汗)。役者さんってすごいなぁと改めて感じました。
まず最初に登場するのが「吉田神経クリニック」の受付嬢。『受付』と書かれたプレートを置く位置にもこだわりを持っていたようですが、さらに彼女の頭を悩ませていたのがペン立ての置き場所でした。ミリ単位で調節したり、置き直したりとめっちゃ神経質で次第に見ているこちらの笑いもこみあげてしまった(笑)。
そんなタイミングで男性の患者がやってきてしまうわけで…、彼としては災難としか言いようがなかったですね(笑)。男性は精神的なことを診察してもらうためにクリニックを訪れていた。職場である会計事務所には内緒にしているため、一刻も早く診察をしてほしい状態です。
ところが、受付の女性はペン立ての置き場所に拘りまくっていてなかなか取り合ってもらえない。それどころか、まくし立てるように喋るなかでどんどんと話が脱線していくという面倒くささ(笑)。
この脱線内容で突然「カンボジアの恵まれない子供たち」の話題が出て来た時はちょっとビックリしました。ペン立ての位置で神経質になっていたところからよくもまぁ、強引にそんな深刻な話題に持っていったなぁと。この力業ともいえる話の持っていき方が見ていて違和感を感じさせなかったのは幸田さんのセリフ回しの巧みさにあるなぁと感心させられました。
男性は1分1秒でも早く診察してほしい気持ちを抱えながらも、どうしても受付嬢の次から次へとまくし立てる話から逃れることができません。あれよあれよという間に自分の家族構成まで話さなくてはいけなくなり、挙句の果てに「子供を産ませすぎだ」と責められて踏んだり蹴ったり状態(笑)。
男性を演じる村上さんは、なんとか話を診察のほうに戻そうとしながらも結局は女性の話に絡めとられてしまう情けなさを面白く演じられていたと思います。焦って徐々に苛立ってくる気持ちも伝わってきました。
貧しい子供たちに援助することをいつの間にか強いられ受け入れざるを得なくなってしまった男性。診察への道が近づくならばとヤケッパチでOKしてしまうのですが、それが悲劇の始まりになっていくのがなんともすごい展開です。
ゾワゾワさせられたのは、女性がどんどん話を勧めるなかで同じビルの知り合いの受付女性に電話しまくる場面だったかもしれない。男性が既婚者だと知りながらも、難民救済の受付をしている女性との結婚を勧めるように言ってきたり、なんとかそこを逃れられてもまた次のアイバンクを担当している受付の女性との付き合いを勧めてきたり…。どんだけ知り合いの受付嬢がいるんだ!?と思ううちに、このビル全体が受付嬢ネットワークで支配されているのではないかという恐怖心すら湧いてくる。
アイバンクを男性に進めるくだりも、「目の角膜を提供するのは亡くなった後ですから」と何度も前置きをしながらなぜか”すぐにでも死んで角膜を提供してほしい”といったような意味に聞こえてくるのが不気味です。会話劇としては翻弄されている男性の動揺っぷりが面白いので思わず笑ってしまうような場面が多いのですが、よくよく冷静になって聞いてみると女性の話す内容はかなりホラーだったりする。笑いながらも背筋が寒くなる感覚がなんだか新鮮でした。
そして究極が「白菊会」。遺体解剖のための体が不足している大学病院などにそれを提供しているという団体…。これまで数々の不条理な頼まれごと(難民救済やアイバンク登録)を拒絶しながらも流されて承諾してしまった男性でしたが、最終的に死んだ自分の体を提供するって話になるともうこれは全力で拒否ということになりますわな(汗)。
しかもこれ、アイバンクに角膜を提供するために早く死んで体提供しなさい…みたいな話にも聞こえてくるわけで、下手したら抹殺される案件にも思えるわけです(汗)。
それでも受付嬢の暴走はかなり加速。「白菊会」に入ると年1の全身検診を無料で受けられるという特典があると言ってきたり、亡くなった後は必ず誰かがお参りしてくれると言ってきたり。セリフ回しが面白いので思わず笑ってしまう場面でもあるんですけど、つまるところは是が非でも「白菊会」に入会して早く体を提供しろと迫っているようなもの(汗)。
もう見ていて、村上さん、今度こそ何とか逃げてくれーーーー!な心境になっちゃったよww。「白菊会」は聴けば聞くほどヤバすぎる(笑)。
今回こそはなんとか拒絶できそうかなという雰囲気になった時、1本の電話が入ってくる。しかし受付嬢はその内容を教えてくれようとしない。男性は話の内容が気になって仕方がない。その心理を受付嬢は巧みに利用するのです…。こわっ!!!!
そしてついにかかってきた電話の相手が判明。今度こそ本当にヤバいやつ(震)。もはや犯罪の匂いがプンプンしてくる(汗)。
とうとう受付嬢とのやり取りに限界を感じた男性は早く医者を呼んできてくれと訴える。ここはもう懇願というか命がけというか、まさか入口はいった時には想像もしなかった事態に追い込まれて疲れ切ってしまっている。すると、突然女性はスイッチが切れたかのように無の状態になり…、一番最初のペン立ての置き場所に拘り始めてしまう。明らかに精神に異常をきたしているのは彼女の方だと見ている方も気づいていく。
この後、男性は強行突破してある行動に出ます。そこで驚愕の事実を知ってしまう。このクリニックの本当の怪しさに気づいた時、女性は真の目的を語り始める。ここから先はもうコメディ要素ゼロで、超ホラーな展開に(汗汗)。照明も音もそういう雰囲気を創り出していてめちゃめちゃ背筋寒くなってしまいました。ひゃ~~、こう来るのかと。
男性が優位に立ったのも束の間ですぐに受付嬢のワールドに取り込まれてしまう。どんなにあがいても一度絡み取られたら一貫の終わりみたいな恐怖があるなぁと思いました。
が…!!そこで終わるかと思ってたらそうじゃなかった(笑)!!あれ!??と思うような出来事が最後の最後に怒涛のようにあって、ポカーンとなったところでTHE END(笑)。別役実、おそるべしっ!!なんだか狐につままれたような気持ちにすらなってしまったw。
幸田尚子さんは初めて拝見する女優さんでしたが、とても華やかで美人な方でめちゃめちゃ舞台映えしていました。美しい顔から繰り出される奇妙な世界観が素晴らしく、一気に妖しい世界に誘われる気持ちにさせられました。
初日ということで多少台詞を噛んでしまう個所もありましたが、それよりも男性を追い詰めていくあの怒涛の緩急つけた語りっぷりは実に見事。何度受付嬢のじわじわと追い詰めていく雰囲気に背筋がゾクッとさせられたか分かりません。コメディ的なお芝居と、ホラー的なお芝居のメリハリも効いていて大変見応えがありました。もっといろいろな作品で見てみたい女優さんだなと思いました。
村上新悟さんの舞台はNHKの朗読劇で見て以来。あの時はどちらかというとイベントという印象が強かったし、久しぶりということもあってか硬さが目立った印象が強かったんですよね。でも今回数年ぶりに”演劇”のお芝居している村上さんを見て、とても生き生きしてるなぁと感じるところが大きかったです。
まずすごいなと思ったのがセリフです。村上さんの役もかなり膨大な量だったのですが、一度も噛むことなくまくし立てる言葉も全く不安がありませんでした。滑舌も素晴らしくとても聴き取りやすい。あと、相手との会話のテンポ感がすごく良かった。受付嬢はけっこうな分量を喋りまくっていてその合間合間に男がツッコミを入れるといった会話劇だったのですが、隙間に入り込んでくるタイミングが心地よく、面白い会話劇として成立していたと思います。
ただ個人的にちょっと惜しいなと思ったのが…、表情のバリエーションが少なかったこと。これはドラマを見ていても思うことでもあるんですけど、なんかワンパターンだなって感じてしまうんですよね。場面場面によってもっと細かく繊細な表情をみせてもよかったんじゃないかなと。あと、言葉の表情ももっと大胆になってもよかったかもしれない。
仕草的には可愛いなと思うシーンもけっこうあったし(貧しい子供たちを囲うような仕草や、両手で思わず顔を覆ってしまう姿は萌えたw)、セリフの聞こえもすごく良かっただけに細かい感覚的な芝居が惜しかったなと思ってしまいました。もっと貪欲に芝居の奥の部分を追求していってほしいです。あくまでも個人的意見なので悪しからず。
久しぶりの商業演劇で慣れないところも多かったかもしれません。でもどちらかというと舞台の方が村上さんに合っているような気もしました。今後はあまり間を置かずにちょいちょい色々な舞台作品にチャレンジしてほしいと思います。ほんと、頑張ってほしいです。
私は行かれませんでしたが、12月10日は村上さんのお誕生日でカーテンコールでささやかなお祝いがあったそうですね。
#受付2021
10日の終演後、皆様にサプライズで誕生日をお祝いして貰った村上新悟、満面の笑みでした。
本当にありがとうございます‼️
似顔絵描いてくださった海部剛史さんにも感謝感激です‼️#村上新悟#高岡事務所 pic.twitter.com/3YDkdT9IQP— 高岡事務所公式 (@TakaokaOffice) December 11, 2021
村上さん、お誕生日おめでとうございました。味のある海部さんのプレゼントの似顔絵 がとても素敵です。この一年こそは、もっと多くの場所で活躍できますように…。
後述
今回の作品は3組のキャスティングが楽しめるようになっていましたが、小林麻耶さんがご出演される回はほぼ全席売り切れ状態だったようです。
舞台『受付』公演1ヶ月を切りました。1ヶ月後の明日は千秋楽ですよ!
今日は稽古後に麻耶さんとチラシにサインを書きました‼️
上演時間は1時間を切りますのでソワレ終わりでも遅くなりませんよー#受付2021 pic.twitter.com/zPUdwoP9Kp— 海部剛史 かいべつよし (@kaibetty1600) November 11, 2021
たしかに、麻耶さんがどんなお芝居するのか…私も興味はあったんですよね。時間があれば3組を見比べてみたかった。おそらく今回見た村上さんと幸田さんのペアとは全く違う雰囲気だったと思います。 個人的には、久しぶりに海部さんのお芝居も観たかった(海部剛さんは朝ドラ「やんちゃくれ」にご出演されていた頃に注目した役者さんでした)。
私はめったに小劇場系のお芝居は行かないのですが、今回村上さんきっかけで久しぶりに観ることができてとても新鮮な体験をすることができました。客席と距離が近いことでお互いの熱量みたいなものを感じられるのも良かったです。たまにはこういう雰囲気で芝居を観るのもいいなぁと思いました。