『東京原子核クラブ』配信観劇 2021.01.17 千穐楽

劇場へなかなか足を運べない期間となってしまいましたが、配信観劇という選択肢もできる世の中になってきてありがたい限りです。権利の関係などで配信できない作品で涙を飲むこともありますが(特に『イリュージョニスト』が配信されないと知った時はかなりショックが大きかった 涙)、できる限りこういった取組はしばらく続けてほしいなと思います。特に県外住みの私のような観劇ファンにとっては命綱みたいなものなので(行ける環境にある人しか見れないといった格差はできるだけ生まれてほしくない…)。

2021年最初の配信観劇は、マキノノゾミさん作の『東京原子核クラブ』です。

ありがたいことに、1週間のアーカイブ配信設定にしてくれていたので終わった後も見直すことができました。生配信舞台はアーカイブされないことも多いのでホント感謝です。

なぜ今回この作品をチョイスしたかというと、加藤虎ノ介くんが出演しているから。朝ドラ『ちりとてちん』以来、ひっそり(?)応援し続けている虎ちゃんの久しぶりの舞台が配信される!!とあっては、これはやはり見るしかないでしょうw。
それから、ミュージカルの舞台で観ることが多かった水田くんの本格的なストプレお芝居もすごく興味がありました。元宝塚の霧矢さんも出演されてるし、本格的なストプレでありながらもミュージカルファン的に美味しいキャストが配役されてるのが嬉しかったです。

新型コロナ禍の影響で本多劇場もかなり苦しい経営を余儀なくされているようですが、何とか踏ん張ってほしいと思っています。本多劇場へはもう何年も行ってないんですが、見やすい劇場だった思い出があるので事態が落ち着き機会があればまた足を運びたい…。頑張れ…劇場…!!

以下、ネタバレを含んだ感想になります。

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2021.01.17マチネ千穐楽 in 本多劇場 (東京・下北沢)

主なキャスト

  • 友田晋一郎:水田航生
  • 箕面富佐子:霧矢大夢
  • 狩野良介:久保田秀敏
  • 早坂一平:加藤虎ノ介
  • 谷川清彦:石田佳央
  • 武山真先:上川路啓志
  • 小森敬文:荻野祐輔
  • 大久保桐子:平体まひろ
  • 橋場大吉:大村わたる
  • 林田清太郎:石川湖太朗
  • 大久保彦次郎:小須田康人
  • 西田教授:浅野雅博

知っている役者さんよりも初めて知る役者さんのほうが多かったのですが、皆さん実力派揃いで素晴らしい熱演でした!

橋場の野球仲間である林田を演じた石川湖太朗君はまだ20代と若いにもかかわらず、演劇団体を創設してマルチな才能を発揮している期待の新人さんなのだとか。出演時間はそんなに多くはありませんでしたが、物語後半のシリアスなシーンでの胸の底から湧き上がるようなセリフは胸を打つものがありました。今後も多くの舞台で活躍してほしい役者さんです。

野球一筋の訳あり青年・橋場を演じた大村わたる君も今回初めて知ったのですが、かなり多くの舞台に出演されているだけあって惹きつけられるものが多かったです。1幕最後のほうでトイレに籠城してしまうシーンでの感情を絞り出すかのように涙していたお芝居は特に印象深かった。
ちなみに、現在チオビタドリンクのCMで水川あさみさんの旦那さん役で出演されているのが大村君だそう。画面にはあまり映らないけど、見かけたら注目したいと思います。

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あらすじと概要

「東京原子核クラブ」はマキノノゾミさんによるオリジナル作品で、初演は1997年の東京国際フォーラムこけら落とし公演として上演され読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞しました。その後もパルコや俳優座など様々なところで再演が繰り返されている人気作。戯曲本も発売されています。

Bitly

簡単なあらすじは以下の通り。

昭和七年、風変りな住人が集う下宿屋「平和館」。理化学研究所で働く若き物理学者の友田は周囲のレベルの高さに自信を失くし故郷に帰ろうとしていた。そこに、同僚の武山が朗報を持ってくる。海軍中尉・狩野は理研の研究で新型爆弾がつくれるのではないかと思いつき…。

大家と娘、ピアノ弾きや新劇青年、謎の女に野球に熱中する東大生……平和館に集う愚かしくも愛おしい人々を描いた青春群像劇です。

<公式HPより抜粋>

今回は約20年ぶりにマキノノゾミさんご自身が演出されての上演ということで話題になりました。出演者はすべてオーディションで選出したのだとか。再演組、新キャスト組と実力派の役者さんたちが揃った見応えある作品になっていたと思います。

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全体感想

時代は昭和7年の戦争の足音がひたひたと近づきつつある時代から、戦争を経て終戦後の昭和21年までが描かれています。

物語はレトロな下宿屋「平和館」でのシーンがほとんど。2階建て構造で創りも緻密、まるで本物の下宿アパートが舞台上に建っているかのようでした。建物セットは2幕の後半でかなり崩れた形に変化します。戦争の爪痕をリアルに視覚化させ時代の移ろいを表現していたのが印象的でした。
友田の職場である理化学研究所のシーンも少し出てきますが、ライティングなどをうまく使っていて研究室としての違和感を感じさせなかったですね。このあたりの魅せ方も巧いなと思いました。

下宿屋『平和館』の住人は一癖も二癖もある人ばかりでまとまりもなくマイペースっぷりを発揮しまくっているのですがw、バラバラのようで心のどこかでは絆を保っているようなやり取りが多く見ていて前半はホッコリ楽しませてもらうシーンが多かった。

特に謎めいていたのが霧矢さんが演じる富佐子。毎回カッコいい言葉を残して下宿屋を去っていくのですが、しばらくすると全く別の姿になってシレっと舞い戻ってくる(笑)。あの時代に女性があそこまで自由に振舞えていたっていうのがけっこう驚きでもありました。
でも、後半に行くにしたがって暗いシリアスな展開になっていくなかで富佐子の存在はかなり救いになっていたと思います。最初から最後までキャラがぶれてなかったですからね。色んな意味ですごいキャラでしたw。

それから、東大野球部の学生…だったはずの橋場が実は「偽物だった」というエピソードも印象深いです。ニセ東大生であることがバレて公式試合が没収試合になっちゃって、そのショックのあまり橋場はトイレに籠城。いつもはマイペースな住人達もさすがに彼のことが心配になって、皆で出てくるように必死に説得します。この待ってる間のみんなの反応がけっこう漫画チックで面白かった(生存確認しようと耳をそばだてたらトイレ中の音がして安堵した、とかは笑ったww)。
そこへ本物の東大野球部の林田がやって来ると、橋場はゆっくりと扉を開けて外に出て涙ながらに自分の非を詫びるのです。でも林田は橋場を責めることなく「非難されてるお前を庇えなくて悪かった」と頭を下げてウィニングボールを手渡す。めっちゃ良い奴すぎて泣けました。でも、最終的には皆で一緒にキャッチボールしようって流れになって外に飛び出していっちゃう顛末は面白くて笑った(笑)。

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面白いシーンといえば、もうひとつ。理研の西田教授に不満を抱いていた友田武山小森が「誰も見てないから」って言って酒飲みながら教授の悪口を並べ立てた替え歌を大声で歌うんですよね(しかも「しょうじょうじのたぬきばやし」のメロディww)。この、「誰も見てない」って展開の時にはだいたい、来ちゃうもんなんですよ・・・本人が(笑)。それが読めてはいたんですが、ハッと気づいて時すでに遅しと悟った瞬間の友田君たちの反応が可愛すぎてやっぱり笑っちゃいましたw。
だけど西田教授「その歌、よくできてる」って穏やかに返すのみなんですよね。全く嫌味じゃなくてほんとにそう思ってる風だったので、器が大きい人だなぁと思いました。それに引き換え、歌い始めた武山君は「彼が作りました!」って小森君に責任転嫁させちゃってwww。器が小っちゃい男だなぁと笑ってしまった(笑)。

そうそう、場面が変わるごとに机の上に置かれている友田君作の「盆栽」もキテレツすぎておもしろかったなww。みんなそれを気味悪がってどけちゃうんだけど、それが「盆栽」だと判明した時の「え!??」っていうビビった反応が面白すぎたw。

他にも色々面白いシーンがちょいちょい出てくるのですが、戦争が本格化してきたあたりからストーリーはどんどんシリアスな方向へと舵を切っていきます。

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一番切なかったのは、海軍の狩野と下宿屋の娘・桐子の関係です。
二人は1幕でお見合いをした仲でお互いに好印象を抱いていたような雰囲気があったのですが、軍人という立場を気にしてか狩野は縁談の話を断ってしまう。そして数年後に再会した時、二人はまた再び会いましょうと約束をしてそっと別れる…。お互い好意を抱きながらその気持ちを打ち明けないままでいるこのやり取りが無性に切なくて泣けました。狩野も桐子も、きっとその約束は果たせないとどこかで悟っていたのではないかと…(涙)。

出世した友田がライプツィヒへ旅立つ日に『平和館』の住人達は集まって記念撮影をします。しかしそのシーンの後に橋場が出征する前の寂しい記念撮影のシーンが出てきます…。シャッターを切った林田は思わず橋場に「生きて帰ってきてほしい」と叫んでしまい、その場にいた狩野に「戦時中に何事だ!」と激しく非難される。そんな林田も赤紙が来て直に出征という身の上でした…。

結局、この撮影の場にいた橋場・林田・狩野の3人は帰らぬ人に(涙)。この二つの集合写真の場面はシーン的にも落差が大きくて胸衝かれる思いがしました…。
戦後、久しぶりに「平和館」へやって来た友田。そんな彼に桐子は橋場から届いていた手紙を手渡します。その手紙を読み上げながらピアニストの早坂に「別れの曲を弾いてほしい」と訴えるシーンもグッときました。でも、早坂は無念の気持ちから曲をまともに弾くことができなかった…。渡された演奏料を友田に返すシーンも切なくて泣けました(涙)。

そんな胸つぶれるような想いをしていた彼らでしたが、これからは前進していかなければならないと必死に前を向こうとリセットしていく。そんなラストシーンに笑いと希望が見えたのも良かったです。

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この作品のなかでは、日本がかつて原子爆弾製作に着手していたという過去も描かれています。友田や西田教授は実際にそれに関わった人物をモデルとしているのだとか。その資料や証拠の多くは戦後になって処分されたようですが、たしかにそんな恐ろしい事実が存在していたというのは衝撃です。

2020年夏にNHKで『太陽の子』というドラマが放送されました。柳楽優弥くん、三浦春馬くんが出演し話題となりました(春馬くんはこのドラマの完成を見ないまま亡くなってしまいました。残念でなりません)。この作品の中では、日本人研究者たちが純粋な気持ちから研究に没頭していた「原子核」が、やがて戦争に利用されていく残酷さを丹念に描いていました。『東京原子核~』でも、友田たち研究者の知識や技術が戦争によって翻弄されていく様が描かれました。

舞台のクライマックスで、友田が「原爆が落とされたときに研究者として興奮する自分がいた」という衝撃的な告白をするシーンが出てきます。どうあがいても完成には多くの時間がかかると言われていたものが、こんなにも早くに完成させられてしまっていたことに驚きと興奮を覚えてしまったのだと…。もしかしたら、当時の研究者たちも同じ気持ちを抱いた人もいるかもしれない。
しかし、その言葉を信じがたい気持ちで受け止めた桐子に対し友田は「それは真っ当な人間から出たごく当たり前の感情だ」と告げる。本当は真っ先に原爆への憎しみの気持ちを抱かなければならないはずなのに、自分はその考えに最初に至ることができなかった。そのことに苦しむ友田の気持ちを考えると非常に重い気持ちにさせられました。

今回の作品は、『太陽の子』と重なる部分もあり色々と考えさせられるシーンも多かったです。『太陽~』は映画化も決まっているそうなので興味があればチェックしてみてください。

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主なキャスト別感想

水田航生くん(友田晋一郎役)

水田くんはこれまでミュージカルの舞台でしか見たことがなかったので(たしか…)、がっつりストプレでのお芝居をどう演じるのかとても興味がありました。結果、本当にすっごく良かった!!
特に、最初は自信がなくウジウジしていた友田が研究者として認められるにしたがって見違えるようにハキハキとした青年へと成長していく過程での芝居が素晴らしかったです。1幕と2幕では全然表情が違ってましたからね。こんなにも丁寧なお芝居ができるんだってなんか感動してしまった。クライマックスで研究者としての苦悩を語るシーンも印象深かったな。真っ当な人間としての感情を持てなかったことへの複雑な胸中が手に取るように伝わってきた。

水田くん、これからもストプレの舞台どんどんチャレンジしてほしいよ!あ、もちろんミュージカルでの姿も見ていきたいけどね。良い役者さんになったなぁと色々胸熱くなりました。

霧矢大夢さん(箕面富佐子役)

神出鬼没で出てくるたびに色々な格好で登場する超個性的な富佐子をカッコよくチャーミングに演じられていてとても面白かったです。彼女の存在は戦争でどんどん雰囲気が暗くなっていく中でも凛としていて、ストーリーの中では救いになっていたと思います。

一番印象的だったのはやっぱり、男装の麗人として登場したシーンでしょう。もう宝塚の男役トップスターが出現!!っていうオーラがムンムンしてましたわ(笑)。本物感ハンパなかったですw。あの場面って歴代の富佐子を演じられてきた皆さんも演じてたのかな?

久保田秀敏くん(狩野良介役)

久保田くんの名前はよく2.5次元系舞台で見かけていましたが、今回のようにがっつりお芝居しているのを見るのは初めて(AZUMIやスカピンは観てたんですがあまり印象がなかったもので 汗)でした。

久保田くんが演じたのは海軍の良介だったわけですが…もう、理屈抜きにカッコよかったです!!やはり2.5次元舞台の経験が多いこともあってか立ち姿や仕草などが本当にすごくきれいで惚れ惚れした。それだけじゃなく、お芝居もしっかりしてて…、ストイックな軍人でありながらも心のどこかにちょっと寂しさのようなものも滲んでいて、桐子との微妙な関係性のシーンなんかはめちゃめちゃ感情移入してしまった。なんていうか、萌え要素満載でございましたよw。

思うようにならない軍人としての葛藤といった感情なんかもすごく丁寧に演じてて、久保田くんを目で追うシーンも多かったです。今後も色々な舞台にチャレンジしてほしい俳優さんだなと思いました。応援してます!

加藤虎ノ介くん(早坂一平役)

久しぶりに虎ちゃんの出演作を観たわけですが、やっぱり彼には舞台の上がよく似合うなぁと思いました。なんていうか…水を得た魚のようでしたよ!ちょっと恰幅も良くなったせいか(役作り・・だよね!?ww)貫禄もあって、扉の向こうから早坂が登場するたびにシーンがさらに強く色づいていくような感覚がありました。

早坂はピアニストという設定なのですが、ギャンブル狂いなのでまったく紳士に見えない(笑)。登場した時のステテコに腹巻状態な姿は役柄とのギャップが大きすぎて思わず吹き出したほどww。でもなぜかあれも似合っちゃうんだよねぇ、虎ちゃん(笑)。常にギャンブルのことで頭がいっぱいなので、口調も関西弁でまくしたてるような感じでほんと、赤ペン指してるおっちゃん状態ww。
でも人情家でもあって、橋場がトイレに籠城していたときにはブーブー文句言いながらも彼なりの方法で激励してやったりもする。そして、そんな橋場が戦争で命を落としてしまったあとピアノ演奏するシーンでは、彼を思いやってまともに演奏することができなかった。途中で扉を開けて出てきたときに友田に顔を背けて涙をこらえる早坂のシーンがめちゃめちゃ泣けました(涙)。

やっぱり虎ちゃんの舞台姿は良いなぁ~。舞台が好きって気持ち、伝わってくるもの。これからも色んな作品にチャレンジしてほしいです。

芸術家気取りの谷川を演じた石田佳央さんは、豪快さの中にも危うさを秘めたお芝居が印象的。常に友田を気にかけてくれる研究者の武山を演じた上川路啓志さんはこの作品の中でのエンジンのようで常に物語を前に押し進める力強さがありました。いつも構ってほしげな小森を演じた荻野祐輔さんはウザいキャラっぽいんだけど憎めない微妙なラインを好演。下宿屋を切り盛りするしっかり者の桐子を演じた平体まひろさんはセリフの活舌も良く全力投球のお芝居が印象的です。大村君と石川君の野球部コンビも面白かった。

彦次郎を演じた小須田康人さんは第三舞台の看板役者さんでしたが、すっかり重鎮らしくなられて。今回の作品では、ギスギスしそうな雰囲気の中でも温かく皆を見守る良きお父さんのような安心感があってとても癒されました。大きな愛で包み込むような雰囲気が最高でしたね。
西田教授を演じた浅野雅博さんは過去公演でも違う役柄でこの作品に参加していたそう。教授の出番はあまり多くありませんが、飄々とした中にも確固たる信念や強い意志みたいなものも滲み出ていて(研究員の命を守るために彼らを留め置くエピソードなど)心に残りました。

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後述

今回、久しぶりにガッツリと本格的なストプレを見ましたが、ストーリーも分かりやすかったしそれぞれの人物にスポットが当てられてドラマもしっかりしていたのでとても見応えがあり面白かったです。どのキャラクターも個性的であり、それでいて愛しく…感情移入しやすかった。

コロナ禍の影響で数公演が中止になってしまったのは残念でしたが、公演中に誰一人欠けることなく完走できたのは本当に良かった。カーテンコールでの、皆さんのやりきったという表情がとても印象的でした。本当にお疲れ様でした!良い公演をありがとうございました。

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