『わが魂は輝く水なり -源平北越流誌-』2008.05.27千秋楽

シアターコクーンで上演されていた『わが魂は輝く水なり』を観に行ってきました。

チケット発売当初は興味はあれども予定に入れていなかったので購入しなかったのですが、観劇した方たちのあまりにも好感触な感想を読んで猛烈に行きたくなりまして(笑)・・・なんとかチケットを入手。急遽手に入れた今回のチケットは・・・なんと楽でございました。そんなわけで、初見にして千秋楽というなんとも贅沢な観劇をしてしまいました。

観劇するまで細かいあらすじなどはあえて読まずに真っ白な状態で観劇したのですが・・・いや~・・・噂で聞いていた以上に素晴らしい舞台でしたよ!!
源平合戦という時代背景も個人的に好きな分野でしたし、主演級役者さんたちの美しく素晴らしいお芝居もすごかったし、コクーンを自在に操っている蜷川演出の面白さにも釘付けになったし(今回のセットも素晴らしかった)・・・とにかく自分の中ではドンピシャな最高の舞台でした。まだ前半だけど今年感動した舞台ベスト3に入るかも。前回苦い想いをしたコクーンでしたが(苦笑)今回は本当に観に行って正解だと思いましたね。

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カーテンコールは千秋楽特別仕様

一番ビックリしたのは菊之助くんが出てくる時に思いっきり舞台中央でコケてたこと(笑)。あれには客席や共演者からすらも驚きのどよめきがおこってましたよ。もしかして菊之助くん・・・最後ということで何かをやろうとしていたのではなかろうか?それで勢い余ってダイブになっちゃったとか?あれは狙ったというよりも素に近かった感じだし(本人も苦笑い状態 笑)・・・でも、いいもの見せてもらいました(笑)。

萬斎さんは老齢の役を演じていたのでカーテンコールのときに思いっきり若さ溢れるジャンプを見せてくれました(笑)。相変わらずこの方は本当にオチャメで可愛い。

2回目のカーテンコールの時にはオールスタンディング状態。もちろん私も立ちましたよ~!これはスタンディングするに値する舞台でしたから。
3回目の時には萬斎さんや菊之助さんが袖にいた蜷川さんを激しく手招きして呼び寄せて大盛り上がり。蜷川さんも役者さんたちも本当に感無量と言った表情で・・・達成感の喜びに満ち溢れていました。前方の客席の上からはものすごい量の紙ふぶきが舞い降りてきてすごかったなぁ。私は比較的後方席だったのでそれを浴びることはありませんでしたがちょっと羨ましかったです(←舞台上の役者が見えなくなるくらい降ってた 笑)。

合計で5-6回位カーテンコールで出てきてくれたかな。最後は全員舞台上で一列に手を繋いで客席に挨拶してました。久しぶりに私も手が痛くなるくらい拍手してしまった。帰り際に浴びることができなかった紙ふぶきを少しだけ拾ってきました(笑)。これもいい記念。

主な出演者

  • 斎藤実盛:野村萬斎
  • 斎藤五郎:尾上菊之助
  • 斎藤六郎:板東亀三郎
  • 藤原権頭:津嘉山正種
  • 巴:秋山菜津子
  • ふぶき:邑野みあ
  • 中原兼光:廣田高志
  • 中原兼平:大石継太
  • 郎党・時丸:川岡大次郎
  • 郎党・黒玄坊:大富士
  • 平維盛:長谷川博己
  • 乳母・浜風:神保共子
  • 城貞康:二反田雅澄
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物語の舞台は平安時代末期、平家軍が水鳥の音に驚いて逃げ出したことで有名な富士川の合戦の後くらいですからかなり源氏が台頭している頃ですね。

ストーリーは倶梨伽羅峠の戦いで平家軍が壊滅的な敗北を喫したあたりから始まります。この時対峙していたのが源氏が木曽義仲軍平氏が平惟盛軍。源平合戦といえば今までは平清盛と源頼朝、または義経や木曽義仲にスポットライトが当ることが多かったのですが今回主人公になっているのは平家方についていた斎藤別当実盛です。
ちなみに木曽義仲は名前だけの登場で劇中に出てくることはありません。こういったところもこの話の面白いところでしたね。

実盛のことは名前だけは知っているけれどもその人物についてはほとんど皆無状態だったので観劇前にちょこっと調べてみました。サラッとその人生を見ただけですが・・・この人本当にドラマチックな人生を歩んでいたんですなぁ。
はじめは源氏についていながら後に平氏に寝返り。しかし源氏の恩も忘れてなくてこっそりと源氏縁の子供を助けてやったりしている(これが後の義仲)。実盛の息子たちは父の元を離れ源氏へ寝返り成長した長男の五郎は義仲や巴と兄弟のようにして育つ。息子に去られながらも最後まで平氏の武士として戦い抜き、最期は白くなった髪を染め黒髪にして戦い散った猛将だったそうです。このことを頭に入れていたのでなおさら今回の観劇が面白く感じられたのかも。

観る前はそのタイトルからしてかなり重々しいものを想像していたのですが・・・意外や意外、笑えるシーンがけっこう随所に散りばめられていました。特に面白かったのが実盛と不慮の事故(後に真実がわかりますが)で死んでしまった息子・五郎の亡霊との会話。
萬斎さんと菊之助くんの贅沢なガチンコ芝居だったんですが、これが絶妙な空気感を醸し出していて本当に面白かった。特に萬斎さんは狂言師、古典とはいえ笑いの芸をやっている人ですからセリフのテンポや間など本当に上手かったです。菊之助くんをガッチリと受け止めているといつたような感じだったかな。また五郎は亡霊なので他の人には見えないわけで・・・傍から観ると実盛が一人芝居をして入るように見えてしまうんですよね(笑)。その時の見えない人とのやりとりも滑稽で本当に面白かったです。

面白いといえば、もうひとつのコメディ的役割を担っていたのが長谷川くんが演じる平惟盛
実際に惟盛は公家のプライドが高く戦に関しては弱腰な人だったとされていますが、まさにそんな感じ!ひとりだけ異彩な雰囲気が出ていて惟盛が出てくると皆脱力してしまいそうな・・・(笑)。戦のなかで人々がおかしくなっていくという中での一服の清涼剤のような存在でした。

と、こんな風に笑いどころもあったんですが・・・源平合戦のさなかに人々がどんどん狂気に支配されてしまう悲劇もしっかりと描かれていました。特にはその象徴だったのではないでしょうか。木曽義仲は登場せず巴が義仲の化身となって戦うみたいな展開だったのがとても興味深かったです。
今までは義仲と巴は固い絆で結ばれた夫婦以上の関係のように描かれることが多かったのですが、今回は義仲の気が狂ってしまい巴との関係にヒビが入っているといった新しい展開になっていました。心の病に陥ってしまったとされる義仲の代わりに戦場の先頭になって悪魔のように残虐な戦を仕掛けていく巴・・・。そんな彼女の心の内はもうボロボロで戦場以外の場所ではどんどん精神を病んでいってしまう。なんか見ていて本当に切なくなってしまった・・・。

そして実盛。齢60過ぎでありながら戦いの中で自分の存在を誇示してきたような人・・・。戦に出ると年齢を感じさせない身のこなしで勇猛果敢に戦うのですが心の中には裏切られた息子への想い源氏方だった頃の巴への想いが渦巻いています。亡霊となった五郎が見えるのは実盛だけ。口ではしつこい消えろと叫びながらも存在が感じられなくなると「五郎~!」とその姿を捜し求める弱さを持っています。戦はものすごく強かったけれども、心の中はものすごく脆い人だったんだなと思いました。その落差がとても魅力的でした。

源氏を裏切った理由を幻で見た巴に「若者に嫉妬したから」と語ったシーンは印象的でしたね。 クライマックス、平家軍が逃げる間の時間稼ぎを買って出る実盛が生かされることを嫌い若者姿に無理やり変装してまで戦いの場へ行こうとします。白髪だった髪を真っ黒く染め、嫌いだった平家の公達のような白塗りメイクまでして変装するシーンは五郎との掛け合いが面白くて笑いどころ満載。でも、死に場所を求めての出陣であったというところがなんとも切なかった。

ラストシーン、を感じながら静かに横たわる実盛の周りを敵が取り囲みます。亡霊の五郎はなんとかしてその敵を追い払いたいのにそれができない。必死に父親を助けようと泣き叫ぶ五郎と、水の気配に自分の魂を想い重ねて静かにその時を待つ実盛の姿・・・この哀しくも美しいシーンに思わず涙が溢れてしまいました。
ちなみに史実では黒髪の実盛をその人と知らずに討ち取った義仲軍が首を洗って初めて“実盛”と悟ったんだとか。敵とはいえかつての恩人を討ち取ってしまったと知った義仲は涙を流して哀しんだそうです。今回の舞台では義仲は出てきませんが、巴が義仲の役割を担っていたので上手い具合にこのエピソードと絡んできたなぁと思いました。巴は実盛を慕っていて殺すなと最後叫んでましたからね・・・。

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野村萬斎さん

以前はよく狂言の舞台を観に行っていたのですが最近ご無沙汰になってしまって・・・現代劇の萬斎さんも『オイディプス王』初演以来。本当に御久しぶりの萬斎さんのお芝居だったのですが(汗)・・・いやぁ・・・ほんと、さすがとしか言いようのない名演技でした!

42歳の萬斎さんが60過ぎの老将をどんな感じで演じるのか楽しみにしていたのですが、メイクだけではなく雰囲気そのものが爺(笑)。まさに見事な化けっぷりでビックリしてしまった!たぶん最初のうちなどは萬斎さんだと分からない人もいたんじゃなかろうか。老人でありながら気品もあり立ち姿は美しい。殺陣のシーンでは本領発揮とばかりの見事な刀捌きも披露。それを観れただけでもこの舞台を観に行った甲斐があったというものです。とにかく本当に素晴らしかった!

尾上菊之助くん

歌舞伎の舞台では最近観ていたのですが、現代劇の菊之助君を見たのは実に『グリークス』以来!あれからもう10年近く経っているんだ・・・。歌舞伎役者としての菊之助くんも大変美しく見応えがありますが、今回の舞台での五郎役もまさに適役!

聞き取りやすい澄みきった声と立ち居振る舞いの美しさが亡霊の五郎にピッタリでした。菊之助くんが出てくるとそこだけなんだか一服の清涼剤のような潔い雰囲気にガラッと変わるんですよね。あんな空気を出せる役者さんってそんなにいないと思います。コミカルなシーンもありましたし、色々な顔で楽しませてくれました。やはり彼の気品溢れる存在感は素晴らしい。

坂東亀三郎くん

歌舞伎の舞台はあまり見たことがなかったのですが・・・泥臭くてダイナミックな六郎を大熱演した亀三郎君、すごい迫力でビックリしました!歌舞伎役者ではなくて普通のストレートプレイをずっとやってる役者さんみたいだった。存在感溢れる大きな演技も魅力的だったし、六郎の心の葛藤を表現するお芝居も素晴らしかったです。

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秋山菜津子さん

この舞台における巴の存在はものすごく大きいんですが・・・その大役を見事なまでの緩急ある演技で魅せてくれた秋山さんは本当にすごい女優さんだと思いました。義仲の化身として戦場で陣頭指揮を執る巴はまるで鬼のようなのですが、ひとたび戦から離れると凛々しかった姿が一変して弱さを露呈してしまう。それなのに実盛の夢の中に出てくる巴は可憐で女性らしい明るさに溢れている。なんか同一人物とは思えなかったですよ。

実盛の夢に出てくる巴は女性的であるのに現実の戦と直面している巴は残虐な一面を持っています。そして戦が続くたびにどんどん精神を病んで気が狂っていく・・・。もう秋山さんの巴から目が離せなかった。

長谷川博己くん

たぶん彼の演技を観るのは初めてだったと思うのですが・・・ものすごく印象に残る名演技を魅せてくれました!惟盛ってこんな人だったんだろうな~って納得できちゃうようなリアリティがあった。戦場にいながらどこか浮世離れしていて常に貴族であろうとしている・・・こんな人が大将だったら戦には赴きたくなかっただろうなぁと思わせてくれるような名演技(笑)。

でも憎めないんですよ、長谷川君の惟盛。頼りないんだけどなんだか守ってあげたくなるような感じ。しかしただ頼りないだけではなくて一度裏切った六郎の心を読んで再び迎え入れようとする策士的な面も見せる。このあたりを本当に上手く演じてくれたと思います。

津嘉山さんは重鎮的な存在でしたがどちらかというとコメディ担当っぽかったのが意外。あまり出番も多くなかったのですが要所要所で締めてくれるのはさすが。

邑野みあちゃんはハスキーな声ながらも大熱演してくれましたが、ちょっと固いかなぁと思うこともチラホラ・・・。

テレビドラマでよく見かけた川岡大次郎くんも熱演だったのですが1幕の早い時間帯で死んでしまったのがちょっと残念でした(苦笑)。

この作品、NHKで舞台中継の放送はされてはいましたが…、蜷川さんがご存命の間にもう一度再演してほしかったです。ディスクも欲しいなぁ。

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