2幕
魔女が迫る~この幸せ
オズの国の人たちはエルファバを「悪い魔女」と認定して憎悪を膨らませてしまうわけですが、それを煽るよう導いてしまっているのがグリンダの存在だっていうのがなんとも言えないんですよね…。まぁ、一番の黒幕はマダム・モリブルだったりするんですけど(苦笑)。秋本モリブルは八重沢さんよりも悪女味は薄いんですが、笑顔を浮かべながらチラチラとグリンダを軽蔑したような目で見るのがゾクッとしていてけっこう怖いw。
グリンダがオズの国の人たちの中心に立っているのは、おそらく彼女の根底に「多くの人から愛されたい」っていう想いが強いからだと思うんですよね。愛される実感に飢えてるっていった感情が伝わってくる。エルファバのことも気になるんだけど、モリブルの策略にハマって自分中心の感情が優先されてしまったのかなぁとも。
逆にフィエロはエルファバのことだけが気がかりで。護衛隊長になったのも彼女を探すためという大目的があったから。でもグリンダは勝手にフィエロとの婚約を発表しちゃうし(苦笑)彼の知らないところでどんどん話を強引に進められちゃってるのがなんとも気の毒です。
それでも富永フィエロは怪訝な表情は浮かべるもののグリンダに対してはあまり冷たい態度を取ってるように見えないんですよね。自分を想ってくれてる気持ちは痛いほど分かってて、それを無下にできないっていう優しさが滲んでるのが印象深い。でもグリンダに向ける笑顔は痛々しく寂しそうなのがなんとも切ない。ハッキリ自分の気持ちを伝えられればいいのになって思うんだけど…できないんだよね。そんな弱さもフィエロの魅力だったりする。
東の魔女
前回観た時はネッサの部屋のセットがなかなか出てこないトラブルがあったのですが、今回はちゃんとのっけから出てきてホッとしました(汗)。動きもスムーズだったしね。
ネッサの前に現れたエルファバが彼女に助けを求める展開は最初見た時ちょっと意外だなと思ったものでした。1幕では自分を貫くためなら悪役になっても構わないといった強靭な気持ちを見せてくれていただけに、ここにきて妹に助けを求めに来たっていうのがなんかキャラ変したのでは?みたいに思えなくもなくて(苦笑)。
でも、小林エルファバは孤独な環境の中でギリギリの精神力で一生懸命ここまで生きてきたみたいな背景が見えてくるキャラクターなので、妹に縋ろうとするシーンも違和感なく見れた気がします。今回も親友のグリンダが自分を追い詰める側に回ってしまった事で、彼女の気持ちが折れそうなとこまで来ちゃっていたのではないかなと…。頼るのはもう家族しかいない状況になってしまったというのがなんだかとても切ない。
でもネッサはエルファバが「悪い魔女」と呼ばれるようになり自分の立場が悪くなってしまったことで姉を恨んでいて聞く耳を持とうとしなかった。これまでずっと気にかけて世話を焼いてきたネッサに冷たくあしらわれてしまった事でエルファバも苛立ちを募らせてしまい二人の関係も悪化。ネッサは体が不自由だったことで悲劇のヒロイン的に自分を見てしまうところがあったからねぇ…。
でも、エルファバは魔法でネッサの足に自由を与えるわけで。ここのシーンが「オズの魔法使い」本編と絡んでるのが面白い。
ついに歩く自由を手に入れエルファバに感謝するはずだったネッサだったけど…、彼女の頭の中にはボックとの幸せな未来を夢見ることの方が大きかったというのが皮肉だよなぁ。しかもボックはネッサからの束縛からやっと逃れられるって思っちゃって嬉々として彼女から離れていこうとする。これが「東の魔女の悲劇」へと繋がってしまうのがなんとも哀しいのです。姉と妹の関係も拗れたまま終わっちゃうしね…。
ワンダフル
ネッサとの関係がさらに拗れてしまった事にショックを受けたエルファバでしたが、その直後にグリンダとフィエロが婚約パーティを開く現場も目撃してしまう。グリンダはフィエロの気持ちがこれ以上離れないように力業で引き留めようとしてるんだろうけど、あの行動力は良し悪しは別にしてもホントすごいと思う。富永フィエロはそんなグリンダの気持ちを察してかどこかちょっと諦めたような笑顔を浮かべてて…なんだかそれも痛々しい。
で、前回見た時はここで舞台装置のトラブルが発生して突然現実に戻されたわけですが(汗)、今回はスムーズに次のオズ陛下のシーンへ移行していってホッとしました。だけど、物語的にはあのタイミングで途切れたのは不幸中の幸いだったかなと改めて思った。ストーリー的に途切れても大きなストレスにはならないよなとw。
オズ陛下への不信感しかないエルファバでしたが、オズ陛下は陽気に「ワンダフル」と軽快な歌とダンスで魅了する。ここのシーンの涼太さんがホントに爽やかで可愛らしくてねぇ。あんな姿見たら、そりゃエルファバだって拍子抜けして一緒に「ワンダフル」って歌い踊りたくなっちゃうよなと納得してしまった(笑)。
でも、最後の最後にある事実が彼女の前で明るみになってしまい…二人の関係はまた険悪なものになってしまう。エルファバが一番気にかけていたことが最悪の形で表れたわけですから…あれは仕方ないよなぁと。
逃げようとしたエルファバの前に現れたのは護衛兵のフィエロ。一芝居打った後、怯えるエルファバの手を取り一緒に逃げる彼は頼もしい。でも、その一部始終を目撃してしまったグリンダにとっては悲劇的なシーンでもあるんですよね…。彼女が一番恐れていたことが起こってしまったわけで。エルファバが無事だったことに対する喜びは、フィエロを失ってしまうという不安と失望で嫉妬心へと変わってしまうのですが…その気持ちは理解できるんだよなぁ。そこからネッサの悲劇に繋がっていくっていうのがなんとも辛い(涙)。
グリンダが1幕でエルファバが歌った♪私じゃない♪のリプライズを歌うのも印象深いです。1幕でエルファバが感じた孤独を、2幕でエルファバが味わうことになるなんてね…。
二人は永遠に
追手から逃げたエルファバとフィエロは二人きりになってからお互いの気持ちを情熱的に打ち明け合う。この場面、前回見た時よりもさらに濃厚になっててドキドキしながら見てしまった。特に富永フィエロのエルファバに対する愛情の濃さが増しに増しててものすごくセクスィーに。
二人のキスシーンもかなり大人な雰囲気になっていて、後ろの方の学生さんたちがざわざわと色めきだってたくらいでした(笑)。
富永フィエロ、ちょっとまったりした話し方をするのが特徴的で恋愛もソフトなイメージがあっただけにこのシーンにおける彼の情熱の芝居には驚かされます。ギャップがすごいww。もう心底エルファバのことが大好きで、体全体で彼女に「愛している」と叫んでる感じ。割れ物を扱うように大切に優しく強く抱きしめる場面は見ていてドキドキするしグッとくるものがあります。
闇に生きる
ネッサの危険を察知し、フィエロと後で落ち合う約束をしたエルファバは急ぎ現場に駆けつけますが…時すでに遅し。この現場にいたのが「善き魔女」としてドロシーを導いた存在とされるグリンダだった。フィエロの一件で嫉妬心が消えないグリンダと、ネッサを失った悲しみやグリンダの浅はかさに苛立っていたエルファバは取っ組み合いの大喧嘩に。でもここがすごいコミカルでいつも見ると笑ってしまうw。特にグリンダが大きな杖をグオングオン回す姿は豪胆で見た目とのギャップが面白くてたまらない(笑)。
この喧嘩で良いなって思うのは、二人とも最後は「武器」を捨てて素手同士で取っ組み合いになることなんですよね。お互いにイライラした気持ちを抱きながらも心はまだ繋がったままなんだなって思えるホッコリ場面でもある。
ところが、その最中にエルファバは捕らわれてしまいグリンダの罠にかかったと誤解してしまう展開になるのが悲しい…。「信じてたのに」っていうエルファバの言葉がめっちゃ切ないんだよねぇ。どんなに大喧嘩になってもやっぱり彼女にとってグリンダはかけがえのない親友だったんだなって。
そこに助けに入るフィエロ。ここの登場の仕方は何度見ても思わず吹き出しちゃう。今回も客席からかなり笑いを取ってましたww。だけどここって本来笑うところだったりするのかな?と毎回吹き出しながら我に返ってしまう私ですw。
エルファバを救うためにグリンダに銃口を向けるフィエロ。グリンダはその時の彼が本気で自分を傷つけようと思ってないと悟っていたはずです。そんな彼の気持ちに応えるためにエルファバを逃がしてやるグリンダの場面はグッとくるものがある。あの時彼女は本当の愛がどんなものなのかを悟ったのかもしれないなと…。
エルファバの代わりに裏切り者として囚われの身になったフィエロ。グリンダの気持ちに応えられなかったことに謝罪する彼の姿はとても哀しい。だけどグリンダは赦すんですよね…。「ただ、彼女を愛しているだけなのよ」という言葉はとても印象深い。
一方のエルファバは自分の代わりに囚われた愛するフィエロが傷つけられているのではと気が気ではない。あらゆる手段を使ってでも、たとえ自分が悪の魔女”ウィキッド”と呼ばれるようになっても構わない。なりふり構わず、ただフィエロを助けたいという一心で呪文を唱え続けようとする小林エルファバの姿に涙が出たよ…。彼女も全身全霊でフィエロのことを愛してるんだなっていうのがこれでもかというほど伝わってきて本当に泣けました(涙)。
魔女を殺せ
その頃オズの国の民衆たちは魔女狩りに執念を燃やすようになっていた。それを先導していたのが、変わり果てた姿のボックとエルファバにかつて助けられたはずのライオン(劇中にはしっぽしか出てこないけど)だというのが切ない…。ボックがエルファバに恨みを抱いてしまうのはなんだかお門違いな気もするんだけど(汗)、ネッサから長いこと束縛されていたことが彼の気持ちを捻じ曲げてしまったんだろうなと思うとすごく切なくもあるんですよね。
そして彼らを煽るように掻き立てていたのがモリブル。この時グリンダはようやく彼女の異常さに気が付くわけで。だけど何も打つ手がなくて愕然とするグリンダを罵倒するモリブル。「お嬢ちゃん」って侮蔑した時の憎々しい声が秋本さん最高でしたw。
あなたを忘れない
エルファバを救いたい一心で彼女の隠れ家に駆け込んできたグリンダ。このシーンのちょっと前にエルファバとチステリーがやり取りする場面があります。エルファバはチステリーたちに「もっとしゃべる努力をしてちょうだい!!」と苛立ちをぶつけるんだけど、あの時点で彼らはまだ”言葉”を発することができていない。ここが最後の場面の時にすごく意味を持ってくるのが泣けるんですよね…。
駆けつけたグリンダはたとえ自分が”悪い魔女の仲間”と呼ばれても構わないとエルファバを救おうとする。このシーンは色んな経験を経てグリンダが精神的に成長したことが実感でき胸が熱くなります。今までは自分が愛されたいっていう気持ちが強かった彼女だけど、大切な親友を守るために一生懸命になれる子になったんだなって…すごい感慨深い気持ちになる。
だけど、エルファバはグリンダに「あなたにはみんなに愛されたままでいてほしい」と告げる。グリンダはエルファバにとって一番最初にできたかけがえのない大切な親友。どんなにケンカしてもその気持ちだけは彼女の中で揺るがなかった。その想いがまた泣けるんだよねぇ(涙)。
「私の友達はあなただけ」
「私には友達がたくさんいたけど、大切なのはあなただけ」
お互いがお互いを想うこのセリフは何度聞いても涙が出ます。こんなに大事な存在なのに離れ離れにならなければいけない運命になってしまったのが本当に切ない…。
エルファバがドロシーに「水」をかけられる場面は影絵で描かれますが、これに関しては2幕の最初の方でフィエロが「悪い魔女が水に溶けるなんて馬鹿なことだ」と憤慨するシーンがあったのが過るんですよね。あえて”その瞬間”を直に見せていないというのが上手いなと思います。
泣けるのはすべてが終わった後にチステリーがグリンダの元にやってくる場面。エルファバの気持ちがちゃんと彼らに届いていたんだと思うと胸が熱くなってこみ上げてきてしまう(涙)。それを彼女が見てくれていればと思わずにはいられない…。
フィナーレ
ラストは一番最初のシーンに戻るわけですが、同じことが起こっているにも拘らず全く違う光景として見えてくる。国民たちが「悪い魔女は死んだ」と喜びに沸いているなか、一人魔法の本を抱きしめ大切な親友のことを想い続けているグリンダがとてもとても切ないです(涙)。
その後の展開はネタバレすぎるので書けませんが…、二人の運命に改めて涙が出ます。ここでの富永君の動きのお芝居は一見の価値あり。あと、最後に交わされる会話も前半とリンクしてるのが巧いなと思います。
後述
2回目の『ウィキッド』も大満足の内容でした。先月とほぼ同じメインキャストさんたちでしたが、前回からさらに進化した姿を見れたことが嬉しかったです。
東京公演は来年1月まで。これだけ人気があるのにほんと勿体ないなぁ。ただ、その後は大阪公演も控えているということなのでそこから暫く上演が続いていってほしいと思います。1回くらい遠征して観に行ってしまうかもw。
次回の『ウィキッド』観劇は1月の前楽になります。
これまでの『ウィキッド』感想
2023年、なんだかんだと色々な出来事が多かった一年ではありましたが(汗)素晴らしい作品にたくさん出会うことができました。この一年、私のダラダラした長文観劇感想にお付き合いくださった皆様、ありがとうございました。来年はもう少し簡潔に分かりやすく書けるよう努力したいと思ってます…が、結局長くなっちゃうのかもw。よろしければまたお付き合いくださると嬉しいです。
2024年が皆様にとっても素晴らしい観劇の一年となりますように。