『大地(Social Distancing Version)』ストリーミング配信観劇 2020.07.12マチネ

三谷幸喜さんの新作舞台『大地(Social Distancing Version)』ストリーミング生配信を観劇しました。

パソコン画面から観劇するのもこれで4作目。まだ慣れはしないけど、出演者の表情も間近で見れるし思っていたよりも臨場感があっていいなと思えるようになってきました。

新型コロナ禍の影響で上演ができるのかどうかも一時期危ぶまれていましたが、三谷さんの「我々が先陣を切る」という頼もしい言葉によって無事に幕を開けることができて本当に良かったなと思います。
演出は当初のものとは違った”ソーシャルディスタンスバージョン”として役者同士が近づいた芝居をしないような工夫が施されたとのことですが、脚本など基本的なところはほぼオリジナルだったようです。

実際に劇場へ行った人のレポートを拝見すると、消毒など感染対策はトイレに至るまで相当しっかりされていた模様。客席の間隔も再販売したことで距離が空いていたようですし、客席内での私語も禁止されていたことから相当張り詰めた空気があったとか。
本編終了後の最初のカーテンコールが行われた後は、三谷さんのアナウンスで「これ以上拍手をしても無駄です」といったカテコ1度きりのお知らせも流すという徹底ぶり(これは配信でも聞こえましたw)。

観劇に来たお客さんも様々な感染対策ルールをしっかりと守っているようですし、そこまで準備してくれていた劇場スタッフさんやカンパニーの皆様には本当に感謝しかありません。それに続くようにいくつかの舞台も少しずつ再開の流れができたことにもホッとする部分はあります。
まぁ、私のような遠方の地にいる観劇ファンは今現在のままではなかなか都会の劇場まで足を運ぶことが困難なのですが…、なんとかいい流れができて遠征できるような情勢になってくれればと祈るばかりです。

「劇場クラスター」が発生したというニュースを最初に聞いた時は私もものすごくショックを受けましたが、あとから調べてみたら感染対策が不十分だったという事実も多かれ少なかれあったようで…。金銭的に十分な対策措置を取ることが難しかったという言葉も聞かれたのがとても残念でなりません。そのときには、潔く勇気をもって上演を中止してほしかった。感染者を多く出してしまう結果になってからでは遅いのです。
二度と同じ事態が起こらないよう、改めて劇場側や主催者には対策を徹底してほしいと思います。

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さて『大地』ですが、大阪公演も予定されていたので最初はチケット抽選購入に参戦しようと思っていました。が、やはり昨今の状況を見るとやはり家族もいるので万一を考えると気軽に大阪まで出ていくことは困難と思いそれを断念しました…。
ちょっと悩んだんですけどね…。でも今はまだ我慢しないとと自分を抑えまして(苦笑)。それでストリーミング配信購入へと至りました。

本当は生で観る舞台のほうが息遣いなどの伝わり方や、何よりも直で伝わってくる言葉にしがたい臨場感があるのは百も承知です。生観劇に勝るものはない、それは重々分かってるしその方がいいに決まってる。
でも、生観劇ができない今は本当にストリーミング配信が頼みの綱でもあるのです。ちょいちょい映像のクオリティが微妙な時や、ここぞという時の観たい役者の表情が映らない…なんていうこともありますが、それもまた生放送の醍醐味だったりすると最近は受け入れられるようになってきました。

それに、客席からはオペラグラスを使ってもちょっと見えないかもっていうような細かい役者さんのアップの表情もストリーミングなら直で伝わってくることもありますしね。今回もたっぷり楽しませてもらいました。

前日の11日もWOWOWでオンデマンド生配信が行われていたので途中まで観ていたのですが、2幕の時間帯に別の生配信舞台を購入していたので全部は見れなかったんですよね(それに、途中でちょいちょい通信不良で映像途切れて繋がらないシーンもあったしw)。

※同じ時間帯に観た配信舞台感想↓

なので結果的には、1.3回観たって感じでしょうかw。でも2度目のStreaming+の時にストーリーが入ってきやすかったので結果的に途中まででも前日に観ておいてよかったなと思いました。三谷さんの作品は複数回見ると味に深みが増してくる作品が多いですからね。

さらに嬉しいことに今回はパンフレットの通信販売もありました!劇場へ観劇に行ったときには私は必ずパンフレットを購入するのですが、ストリーミング観劇では買えないなあと諦めていたんです。自分が見た作品のパンフは手元に置かないと気が済まない質なのでw、通販があったのは本当にありがたかった!

ストリーミングで観て2日後くらいに届いたんですが、文字が大きくてびっくりしましたw。非常に読みやすかったです。

まだ上演期間が多く残っているので感想アップはどうしようかと悩みましたが、中日を過ぎたようなのでレポ投下したいと思います。

かなり多くのネタバレを含んだ感想になっていますので、ご覧になる予定の方はご注意ください。

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『大地(Social Distancing Version)』Streaming+

2020年07月12日(日)マチネ 12時~ PARCO(パルコ)劇場より生配信 

作・演出:三谷幸喜

出演者:

  • チャペック:大泉洋
  • ブロツキー:山本耕史
  • ツベルチェク:滝星涼
  • ピンカス:藤井隆
  • ミミンコ:濱田龍臣
  • ズデンガ:まりゑ
  • ホデク:栗原英雄
  • ドランスキー:小澤雄太
  • ツルハ:相島一之
  • プルーハ:浅野和之
  • バチェク:辻萬長(”つじ”の漢字は一つ点)

あらすじ:

とある共産主義国家。独裁政権が遂行した文化改革の中、反政府主義のレッテルを貼られた俳優たちが収容された施設があった。

強制的に集められた彼らは、政府の監視下の下、広大な荒野を耕し、農場を作り、家畜の世話をした。

過酷な生活の中で、なにより彼らを苦しめたのは、「演じる」行為を禁じられたことだった。

<公式HPより引用>

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全体感想

この作品は、ある収容所を舞台に”演じる”ことを権力によって抑えつけられた「演者」たちの人間模様が描かれているのですが、驚くべきは、三谷さんが約1年前に脚本の構想を練り上げていたということです。
今まさに新型コロナ禍の影響でまさに”役者”たちが演じることを封印させられている現実がありますからね。現状は「権力」ではなく「ウィルス」に抑圧されてるという違いはあれど、表現することを禁じられてしまった役者さんたちの心情とかなり重なる部分もあったかと思います。三谷さんは予知能力者!?と周囲がざわつくのも納得w。

私個人としては、三谷さんの時代劇ドラマはあまり好きではないのですが(感動シーンの最中にちょこっとコメディ要素を挟んでくるとことか苦手 苦笑)、現代劇に関しては、特に舞台作品は素直に面白いと思えるものがたくさんあります。
今回の『大地』もとても面白かった。特に、11人の出演者全員に大きな見どころをちゃんと設定させていたことがすごく良いなと思いました。”脇役”と呼べるようなキャラは一人もいなかった。そういう意味では、群像劇だったのかもしれません。役者さんを信頼し、愛している三谷さんならではの作品だなというのを強く感じました。

ソーシャルディスタンス版に演出を変えての上演ということで、セットも舞台全体に各々の居住スペースを囲ったようなものになっていました。後ろの観客にも見えるような配置になっていたので、舞台奥に設置されていた部屋の役者さんたち(辻さん、浅野さん、藤井さん)はけっこう傾斜きつくて大変なんじゃないかなぁと。

舞台セットの雰囲気は以下の記事に写真が掲載されているのでそちらを見たほうが早いと思います。ただ、記事の内容はネタバレを含んでいるので知りたくない方は薄目で写真だけチェックしてみてはw。

役者同士が近づかないような演出の工夫も随所にみられました。動きは皆さんけっこう多くて部屋と部屋の間に設けられている狭い迷路のような通路を行ったり来たりしている。でも、ぶつかりそうでぶつからない、近づきそうで適度に離れているという…まぁ、よくぞここまで計算して動いているなと思えるような絶妙な距離感で!

一番動きが激しかったのは2幕、小澤雄太くん演じるドランスキーをとある理由で外に出さないように皆で小芝居を打つシーン。ドランスキーが滝星くん演じるツベルチェクに近づこうとするとスルリと逃げられまくってしまったり、浅野さん演じるプルーハの摩訶不思議な行動(笑)に翻弄されまくっていたりw、藤井さん演じるピンカスの妙な芸に近づこうとしながら引き離されたり、みたいなw。
このシーンはひたすらドランスキーさんが面白哀れで、三谷さんのコメディ真骨頂みたいなドタバタ劇になるんですが、あの激しい動きのなかで距離が適度にちゃんと保たれていたのは笑いながらもすごいな~と感心してしまいました。あれは職人芸に近いと思う。

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演じることを禁じられた「演者たち」が、細かいイザコザは起こるもののけっこう平和にみんな過ごしていて重苦しい悲壮感はありません。みんななんだかんだ文句を言いながらも、ちゃんと自分の時間は持てている感じ。
豚小屋の世話をさせられ不満も募っている様子はありますが(特に全部を押し付けられているらしいピンカスはかなーり文句言いまくってましたがw)、暴動を起こそうっていうほどでもない。

だいたいこういう抑圧された環境が舞台の作品は、収監者たちが権力者に痛めつけられて大きな不満を抱えて怒りの感情が強く渦巻くっていうパターンが多いんですが、『大地』にはそういう雰囲気が一切ありませんでした。それも斬新で面白いなと思った要素の一つです。

しかし、1幕後半になって最初の、彼らを大きく揺るがす事件が起こる。女性役を演じる役者で雰囲気も色っぽかったツベルチェクが、政府役人のドランスキーに目を付けられ「囲い者」として呼ばれそうになってしまう。
仲間たちはいっせいに「行くことはない!」と彼を守ろうとしますが、洋ちゃん演じるチャペックは支配者と裏取引をしていたことから「決まったことだから」と彼を差し出す考えを述べる。しかも、ドランスキーを怒らせると劣悪な環境の収容所に全体責任として行かされ死の危険と隣り合わせな生活が強要されるとも…。

その話を聞いたチャペック以外の仲間たちはコロリと態度を豹変させてツベルチェクをドランスキーに差し出そうという考えになってしまう。耕史くん演じるブロツキーも、自分は人気俳優だから(とは自画自賛系キャラゆえw)指導員の栗原さん演じるホデクに巧いこと逃げられるよう交渉するといいつつ、結局は甘い言葉に乗せられてその役目を果たすことはなかった。
いざ自分たちに危険が及ぶかもしれないと考えた時、人間の”本性”みたいなものが露になるものだなということを痛感させられた印象深いシーンでもありました。すごくリアルなところを三谷さん突いてきたなと思いました。

戻ってきたツベルチェクは仲間たちを気遣い「大したことはなかった」と笑顔を見せますが、それが偽りのものであることは皆薄々察していました…。
そこへホデクがツベルチェクの”働き”の褒美と称して「ゆで卵」を人数分持ってくる。ロクな食事をさせてもらっていない彼らにとっては御馳走なはずですが、それがツベルチェクの犠牲によってもたらされたものだと思うと誰も食べる気持ちにはなれませんでした。

しかし、表向きは彼らの味方であるように振舞っていた指導員のホデク(彼のおかげでこの部屋の人たちはマシな生活ができている現実があった)の機嫌が見る見るうちに悪化していく。「施し」を素直に受けようとしない彼らの態度にプライドを傷つけられ黒い本性が徐々に浮かび上がってくる。
それを察したチャペックは場を治めるために率先してゆで卵に食らいつく。しかし、ほかの仲間たちはそれに応じようとせず、パントマイムで食事を始めてしまう。そこに加わることができずひたすらゆで卵に食らいつくチャペックが痛々しくて見ていられなかった。

ホデクの機嫌を取ろうと必死になるチャペックと、ほかの仲間たちの心の距離感みたいなものが浮き彫りになる心がチクチクするシーンでした。この時に見えた人間関係のバランスの乱れが、後半の悲劇への伏線になっていたような気がします。

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幕間時間は25分間。配信ではその間に三谷さんと日替わり出演者によるトーク映像が流れていました。その中で印象的だったのは、三谷さんが野田秀樹さん主催の「夢の遊眠社」にすごいライバル心を抱いてたってエピソードw。若い頃はけっこうメラメラと意識してたらしいですww。知らなかった。

この日は浅野さんと相島さんがゲスト。二人とも三谷さんとは付き合いも長く(相島さんは東京サンシャインボーイズ時代からの付き合い)色んなトークが弾んでて面白かったです。ちなみに、浅野さんはパントマイムがもともと得意だったそうで、今回の舞台で三谷さんがそれを当て書きしたという裏話もあり興味深かったです。

休憩明けの寸前には舞台セットが組みあがっていくまでの映像が早送りで流れていました。かなりの大掛かりな作業だったことがうかがえてこちらも面白かった。

2幕では、ホデクがシェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女たち』を参考に脚本を書いた『ウィンザーの陽気な兵隊さん』の稽古が本格的に始まるところからスタート。
ところが、一番張り切っているはずのホデクが、やたらセリフの声が小さいっていう設定には思わず笑ってしまったww。普段はあんなに声張ってるのに、なんで芝居になるとそんな小声になっちゃうの!?みたいな(笑)。こういうギャップ的な設定はいかにも三谷さんらしい。

結局演出的なことは元演出家の相島さん演じるツルハが口を出さざるを得ないような状況になり、無事に最後まで演じられるのかは前途多難な状況。そんななか、チャペックは一人場を仕切るのみで演者には加わっていませんでした。彼はかつて役者も経験していましたが、ほかの仲間たちほどの経験はなく特に演劇的才能に秀でているものは持っていなかったのです。
ということで、外野からあれやこれやと指示を飛ばしまくってアクセクしてるのですが、どこかちょっと空回りしているようにも見えた。

稽古が終わった後、再び大きな展開が訪れる。最年少だった濱田くん演じるミミンコの恋人が女性収容所にいることを知った仲間たちが、引き合わせてやろうと秘密裏に連れてきてしまう。
これまでずーーっと男性出演者しかいなかったのですが、ようやくここで紅一点の女性・まりゑさん演じるズデンガが登場します。けっこう長かったな~w。

彼女は仲間たちが想像していたようなキャラではなかったのですが、それでも恋人であることには変わりないってことで、彼らはミミンコのためにある大胆な計画を実行する。それはあまりにも危険すぎるものでしたが、チャペックたちは必死にそれを遂行する(それがドランスキーさんの面白悲劇の場面w)。

ところが、成功したと思った計画にある綻びが発生していたことが判明。第2の大事件へと発展してしまう。一番若いミミンコを守ろうとみんな必死になるところがなんともイジらしかった…。

このあと、1幕途中でミミンコが意味深なことを告げていた顛末が起こるのですが…、そのシーンも、すごく心が痛かった。
最初はみんな正義感を口々に説いて自己犠牲の精神に従おうとするのですが、最後の最後になって「自分を守る」方向へと動いてしまう。人間って、「残酷な生き物」だなぁと実感させられたと同時に、もしも自分が同じ立場だったらどうしていただろうかと自問自答してしまった。やはり私も彼らと同じ意見に辿り着いてしまうような気がします…。

クライマックスシーン、萬長さん演じるバチェクが放ったセリフは見る者の心を貫く威力がありました。あのセリフに込められていた三谷さんの想いがものすごくストレートに私の心に響いてきて思わず涙が出た。それは、舞台演劇には欠かせない大切なピースなのだと…。そういう気持ちで舞台演劇に携わってくれる心意気が私は嬉しかった。

そして俳優たちはまた前を向き進んでいく。たとえ明日地球が滅びるとしても彼らのやるべきことは変わらないのだというミミンコの言葉がとても印象的でした。

次のページではキャストについての感想を少々。