全体感想 1幕
♪月のない夜♪ ~ ♪遠いあの日に♪
グスタフが寝室へ行きクリスティーヌが一人になったのを見計らったかのように、ついにファントムが登場。その登場する演出はやはり『オペラ座~』でのインパクトをどこか引き継いでいるような感じになっているなと思いながら見ていました。
『オペラ座~』では鏡の中から浮かび上がってきて連れ去るといった感じでしたが、『ラブネバ~』は外の扉が突然開いて現れる。まさに、ドーーーン!!って感じにセンセーショナルに出てくるわけですが(笑)、扉の感じが”鏡”っぽいのでやはりオリジナルを想定させるものはあります。
まぁ、それにしても、どうやって外から!?みたいな神出鬼没っぷりは相変わらずだなと(笑)。
クリスティーヌはファントムが「死んだ」と聞かされていてそれを信じ込んでいたため、目の前に突然現れたことに衝撃を受け過ぎて気を失ってしまいます。
この場面も『オペラ座~』でクリスが隠れ家に最初に来たときに自分そっくりの人形に驚いて気を失うシーンと被るものがあって面白いですよね。
しばらくして気を取り戻したクリスティーヌは「すべて罠だったの!」と憤りをぶつけますが、ファントムはそれに対して「10年前に密かに訪ねてきた日のことを忘れたのか!?」と衝撃の過去をぶちまける。最初このシーン見た時はそりゃビックリしましたよww。クリスティーヌが自分からファントムのところへ出向いていったなんて『オペラ座~』の時は思えなかったものでねぇ(汗)。
しかも、ラウルとの結婚式前日だってことが英語の歌詞では歌われているわけで。日本語歌詞ではその部分を歌ってないので「クリスはいつラウルを裏切ったんだ!?」の謎でいっぱいになる(苦笑)。まぁ、個人的にはその前に「どうやってファントムのいる場所を掴んだのか!?」っていう謎の方が大きいけどww。
でも、この場面はそういった細かい点を吹き飛ばすような情熱的なやり取りがファントムとクリスティーヌの間で繰り広げられるわけで。
この時の石丸ファントムと市村ファントムから受ける印象もかなり違っていました。
石丸ファントムはクリスティーヌと愛し合った日のことが歌っている間に蘇ってきて気持ちが高ぶっていって、最終的には目をウルウルさせながら彼女を自分のものにもう一度したいという想いに支配されてすがりついていくような感じに見えました。その必死さがすごい心を打ったんですよね。
最初に石丸ファントムを見た時に「孤独な子供」といった印象を持っただけに、彼にとってクリスティーヌがどれだけ大きな救いになるのかということがまざまざと伝わってきた。
市村ファントムは「ついに見つけた!!」といった激しい執着心が前面に出ていて、クリスティーヌとの一夜のことを歌いながら「もう逃さない」といった執念を感じさせました。必死さというのではなく、クリスティーヌを何としても自分のものにしてやるといった迫力が伝わってきて…これ本当に市村さん!?って思うくらいゾクっとさせられました。
こういう芝居を魅せられると、さぞかし『オペラ座~』での市村ファントムはセンセーショナルな芝居をしていたんだろうと思わされて見てみたかったという想いが募ってしまいましたね。
市村ファントムと濱田クリスの組合せで観たので、このシーンでの二人の激しい駆け引きがものすごい濃厚で圧倒されまくってしまった前楽でした。
ファントムがクリスと愛し合った後に姿を消したと語るシーンでも受け取り方が違いました。
石丸ファントムは「クリスの幸せのためには自分はいない方がいいんだ」的な軟な感情に支配されたんだろうなと感じさせたのに対し、市村ファントムは「自分の顔の現実というものが最後の最後に邪魔をして悼まれなくなって立ち去った」的なニュアンスに感じられたかな。
♪遠いあの日に♪のナンバーは打って変わって本当に哀しくて美しい。あんな旋律を書けるロイド・ウェバーはやっぱり天才だと思いますね。
ファントムもクリスも今は違う現実を生きていると歌いますが、二人はその時に残した想いは全く消えてなくて悶々としてる。クリスは必死にラウルとの生活を守らなければと歌っていますが、ファントムは「もう一度あの日を取り戻したい」といった未練を歌う。この人間臭い感情のズレみたいな部分が、美しい音楽に浄化されていくような印象を受けました。
市村ファントムはこの時もクリスを取り戻したくてメラメラした雰囲気を残していますが、石丸ファントムはクリスへの止まらないあふれる愛情に呑みこまれてどうすればいいかと苦悩している雰囲気がありましたね。
どちらかというと、石丸ファントムの方が人間的な感情が濃いなという印象です。市村ファントムはなんかもう、次元が違う感じw。
そのやりとりの最中、グスタフが「恐い夢を見た」と母親に抱きつく場面がありますが・・・この「恐い夢」というのがクライマックスで大きな意味を持ってくる展開になるのが興味深かったです。不吉な予感をここで暗示していたんだなということでね。
♪懐かしい友よ♪
ファントムの「歌ってくれなければ報復してやる」といった脅迫に負けて「1曲だけ」の約束で引き受けてしまったクリスティーヌ。ラウルにも上手いこと説明して納得してもらえたようですが、そう易々といくわけもないw。
ファンタズマの楽屋をクリスティーヌ一家が訪れると、そこにはジリー母娘がいて久しぶりの再会を果たします。10年ぶりと言っているので、ファントムが姿を消したあのラストシーンから一度も会っていないことになるのかな。
クリスとメグは最初は無邪気に久々の出会いに大喜びするんですが、てっきり観光でやってきたものだと信じ込んでいたメグはクリスがファンタズマで1曲だけ歌うと知らされた瞬間に「なんで!?」といった嫉妬心が芽生えてしまう。
夢咲さんのメグは感情表現がとても豊かだったので、不安な気持ちがストレートに伝わってきて胸が痛くなりました。ファントムへの承認欲求が人一倍強いメグとしては、自分よりもスター性のあるクリスティーヌが舞台で歌うことになったと知ればそりゃ心中穏やかにはいられないよなと。
それでも、そんな自分の嫉妬心を必死に隠してクリスと一緒の舞台に立てることの喜びを歌う姿がまた健気で泣けます…。クリスはそんな彼女の想いに全く気付いていませんから素直に受け止めて喜んじゃってるし(汗)。
そして心中穏やかではなくなるのはマダム・ジリーやラウルも同じ。ジリーはラウルに「このことを仕組んだ黒幕」の存在を話してしまうわけで。ラウルは最初その「黒幕」の存在を全く想定していなかったので「ミスターYって誰だか知らないけどお金たんまりくれそうだからまぁいっか」的にしかとらえてないww。それ故に、ジリーから「ファントム」の存在に気付かされた時の衝撃がかなり大きかったと思いますよ。
万里生くんのラウルは感情表現を実に分かりやすく演じてくれていたので、そこの落差の表情がすごく面白かった。
不吉な予感と、再会できた喜びと、複雑な感情が4人の間に生まれて重なる歌声がこれまた実に絶妙!ロイド・ウェバーはこういった曲の構成が本当に見事です。
この場面は『オペラ座~』で支配人やカルロッタやラウルたちがそれぞれの感情を歌うシーンとも重なりますね。特にラストの「乾杯!」のところは『オペラ座~』でいうところの「歌え~!」とリンクしているようにも聞こえてくるのが面白かったです。
♪美の真実♪
グスタフを約束通りファンタズマの世界に案内するこのシーン、個人的にはラブネバの中で1-2を争うほど好きでした。
最初はグスタフを紳士的に案内するファントム。ワクワクするグスタフに「冒険の準備をしているから少々お待ちを」っていうセリフがなんだか「らしくない」響きがあってホッコリしてましたw。
ここのセリフ回しも、石丸さんがマイルドなのに対して市村さんは何か企んでる風だったという違いが感じられて面白かったです。
そして、グスタフがピアノで頭に浮かんだメロディーを奏で…次第にその旋律がかつてクリスティーヌが歌っていたものへと変わっていく。ここの演出も非常にドラマチックです。『オペラ座~』と一番リンクしてるって感じられるシーンでもあるんですよね。色々整合性ないとこも多いけどw、やっぱり続編なんだなって思えるw。
クリスティーヌと同じ旋律で歌うグスタフに興奮を隠せなくなるファントムは「歌え!!私のために!!!」と叫ぶ。ここはもう完全に『オペラ座~』を意識した演出。おそらくこの時にファントムはグスタフに自分と同じ何かを感じたんだろうなと感じることもできます。
そして、ガラリと音楽の色が変わる♪美の真実♪。最初聴いたときはこれまでのものとあまりにも毛色の違う超ロックな音楽が出てきてビックリしましたが、聴いてるうちに気分がファントムと同調するように高揚してくるんですよね。この時の胸の高まり感が本当に最高だった!!
グスタフが自分と同じ感覚の持ち主だということを感じ、ファントムの中である葛藤が生まれる。
「彼にはもしかしたら自分の血が流れているのではないか?」
それでも、自分の顔は醜い極みなのでそんなことはありえないはずだと必死に否定する。この彼の心の中のせめぎ合いがもう見ていてものすごくゾクゾクさせられましたね。最終的にはその葛藤を超越して確信めいたものに囚われていき、彼なら自分の真実=本当の素顔を受け入れてくれると思い込んでしまう。でも、グスタフはその意に反して恐怖を感じて逃げてしまった。
ここの展開は、この冬上演されるミュージカル『ファントム』と似ているなと思いました(グスタフは出てきませんが)。
石丸ファントムのロックな歌いっぷりはセクシーでめちゃめちゃカッコいい。特に「あ」音がすごく色っぽかった。
グスタフへの疑惑を強めていくときの困惑っぷりがまた母性本能をくすぐるような芝居っぷりでたまらなかったよなぁ。それを超越した後の喜びに似た感情が止められなくなり興奮状態で自分の素顔を明かしてしまう、といった印象。その「喜び」に似た感情が見えるので、拒絶されたときの衝撃はいかばかりかと思うとものすごく切なくて泣けました。激しい絶望感と、自分の息子じゃないかという疑惑とのせめぎ合いの中で感情がごっちゃになっておかしくなりそうになっているのが手に取るように伝わってきた。
市村ファントムは石丸さんよりもさらに棘を感じさせるような攻撃的な歌いっぷりでものすごい迫力がありました。市村さんの年齢(古希を迎えられたんですよね)であの攻めた歌声を出すってホント驚愕ですよ!
グスタフが自分の息子かもしれないと確信していく過程も、石丸さんよりも早い印象がありましたね。「そんなはずはない」って否定もするんだけど、それよりも強い確信みたいなものに支配されてる感じ。あの子供好きな市村さんが演じているとは思えないほど、グスタフに対する歌い方はどこか脅迫じみた狂気みたいなものが見え隠れしていてゾクゾクさせられました。
拒絶された後は絶望感よりも怒りみたいな感情がガっと出たような感じだったかもしれない。
ちなみに、逃げる時のグスタフの悲鳴が、まるでソプラノ歌手の高音のような美しさにも聞こえたのも印象的でしたね。
慌てて駆け付けたクリスティーヌに、ファントムは「打ち明けることはないのか!?」と迫る。
ここの迫り方も、石丸ファントムと市村ファントムとでは雰囲気が違ってたなぁ。石丸ファントムは困惑するなかで何としても真実を聞き出したいという気持ちが出ていたのに対し、市村ファントムはそれよりも強い確信を得たうえで脅迫しているようだった。
そして”真実”を知った時の反応。
石丸ファントムは告白を受けた瞬間に「父性」のようなものが芽生えたように見えたんですよね。告白できなかったクリスティーヌの気持ちを察して謝るときも「本当にすまなかった」という謝罪の気持ちが垣間見える。以前のファントムならあり得なかった感情が湧き起っていたんじゃないかと感じさせる芝居は石丸さんならではだなと思いました。
そして、孤独でどうしようもないと思っていた心に一筋の光が挿したのを感じて泣き崩れるわけで…。この日見た時の泣きっぷりがもう見ているだけでもらい泣きするレベルだった(涙)。これまでどんだけクリスに恋い焦がれ別れたことを後悔しながら生きてきたのかがあの涙に集約されてた気がします。
市村ファントムは「父性」のようなものは感じられなくて、それよりも、自分の遺伝子を継いだ存在が現れたことへの歓喜の方が大きく、その喜びから涙を流していたという印象がとても強かったです。クリスティーヌへの愛情がもう狂気に近いものへと発展していってしまっているので、人間的な部分が非常に少ないなと感じたのはすごく意外でした。あの市村さんが!?って感じで信じられない気持ち(笑)。
でも、”真実”を知った時の叫びがあまりにも痛切なものに聞こえてきて…あの声を聴いただけで心がギュって締め付けられて気が付いたら涙を流してましたよ。彼の背負ってきた重く暗い歴史が報われる時が来たというのを感じさせられたからかなぁ。
全てを知ったファントムがクリスに「グスタフを連れて立ち去れ!」と叫ぶ場面は『オペラ座~』のクライマックスシーンでラウルとクリスを逃がす時を思い起こさせる演出となっているのも興味深かったです。
あの時は訳の分からない感情に支配されて気持ちが整理できないファントムだったけど、今回はクリスの愛を確かに感じたから言えた「行け!」なのが感動的。
そしてクリスティーヌが”真実”を告白した後に「歌う約束も果たす」と言ってくれたことにさらに気持ちを高ぶらせるファントム。
この場面は『オペラ座~』の♪ポイント・オブ・ノーリターン♪のクライマックスでファントムが「君が全て」と歌い終わらないうちにクリスに仮面を剥がされるシーンと少し被るものを感じました。
『ラブネバ~』ではクリスはファントムの気持ちを受け入れているので情況的には違うのですが、「1曲歌ったら帰る」といった部分は譲っていない。完全には心許していない状態なんですよね。
それでもファントムは”真実”が自分を救ってくれたと喜び溢れ、「もう二度と会えなくても良い」とまで歌います。これは本心だとは思うけど、実際にその時が来たら耐えられないんじゃないのかなと…。だけどこういう歌詞が出てくることじたい、ファントムの心の成長みたいなものも垣間見える気がしましたね。
で、ここで終わると思いきや・・・ラストにこれまた狂気じみたマダム・ジリーが登場してくる。
香寿ジリーは女性としての嫉妬心に狂っていく様子みたいなものが感じられたのに対し、鳳ジリーはこれまでの功績を無にされることへの怒りに狂っていくようなものを感じました。あの勢いならファントムに勝っちゃうかもしれない!?と思わせた鳳ジリーの迫力がすごかったよw。