ミュージカル『ラグタイム』大阪公演 2023年10月05日ソワレ・06日マチネ

主なキャスト感想

メインキャストからアンサンブルキャストまで歌唱力も芝居力も最高レベルでした。こんなにも実力者揃いの舞台を観れたことが本当に奇跡のよう。

ターテ:石丸幹二さん

今回の作品の中では、石丸さん演じるターテの出番は少ない方だなという印象がありましが、物足りなかったなと思うことはありませんでした。冒頭一人で登場し懐から出した一枚の紙に彼がハサミを入れたところからドラマが動き出す。つまりターテという存在をにして「ラグタイム」という物語が展開していく演出になっていて。”核”の部分がしっかりしていないとこのミュージカルは成り立たなかったかもしれないと思えるほど重要なポジションだったと思います。その役割を、石丸さんは確かな演技力と歌唱力で見事にこなしていらっしゃいました。石丸さんという大きな存在が常にあってこそ、他のキャストの皆さんが自由に羽ばたいているなぁとも感じたかな。本当に凄い役者さんだなと感動させられっぱなしでした。

個人的には、娘のリトルガールを常に大きな強い愛で守っているお父さんとしてのターテがとても好きでしたね。娘のためならばどんな犠牲も厭わないといった想いがひしひしと伝わってきて観る者の心を打ちました。後半少しターテの心が豊かになるシーンではちょいちょいコミカルなお芝居も出てきたりして、このあたりのメリハリのついたお芝居も非常に印象深かったです。

コールハウス・ウォーカー・Jr:井上芳雄くん

一番最初に井上君が黒人の役を演じると聞いた時には正直ちょっと想像がつかなかったのですが、今回の舞台を見て「彼がコールハウスを演じてくれて本当に良かった」と心から思いました。リアルなアフリカ系黒人の雰囲気かと問われればそれとは違うというのは否めないんですけど、ソウルは十分すぎるくらい伝わってきて。人種というよりも”パーソン”としてのコールハウスだったという印象がとても強い。
この役をあのミュージカル『ムーラン・ルージュ』が終わった直後に演じてたっていうのがまた驚愕です。石丸さんが「ハリーポッター」と「ジキル&ハイド」を掛け持ちしてた時もビビったけど、今回の井上君の連ちゃんも常人には出来ない離れ業だったなと。プロの舞台役者さんってホントすごい。

印象深かったのはやはりサラとの場面全部ですね。過ちを悔いてサラに愛情のすべてを伝えようとするシーンでボロボロ涙を流していた姿には胸を打ち抜かれた。あれはもらい泣きしちゃうよ。最初から最後まで愛する人に自分の魂すべてを委ねるような熱さがあって、コールハウスが登場する場面はほぼ全て涙させられました。井上君のお芝居と歌であんなに泣いたの初めてだったかもしれない。

マザー:安蘭けいさん

マザーはこの作品の中で起点となるような存在でしたが、安蘭さんは柔らかく、かつ芯の強さを持った女性を見事に演じ切ってくださってました。
マザーは前半は「あの人は貧しい移民だから」と口走るなど、最初からすべてを受け入れられていたわけじゃなかったんですよね。でも、様々な人との出会いを重ねていくうちに、純粋に人種の区別なく受け入れていくようになる。このあたりの微妙なマザーの心の変化もとても繊細に演じられていて、2幕後半でのターテとの関係性も違和感なく受け止めることができました。

サラ:遥海さん

『RENT』のミミ役で見て以来の遥海さんでしたが、今回のサラ役はそれ以上にドハマり役で…!!もう本当に素晴らしすぎました。おそらく彼女が登場した場面は全部号泣させられましたよ。どのナンバーも魂を込めたソウルフルな歌声で劇場中を圧倒。彼女の歌声の一音が聴こえてきただけで、どうしようもなく心が震えてこみ上げてくる涙を止めることができませんでした。これは本当に凄い事です。

歌だけでなくお芝居も素晴らしくて…!!小さな体で目いっぱいコールハウスに愛情を注いでいる想いがストレートにヒシヒシと伝わってくる。最初のシーンでは彼の過ちを許せずにいましたが、コールハウスの歌が沁みわたっていくうちにどんどん愛しい気持ちが止められなくなって。ボロボロと涙を流しながら彼の胸の中に飛び込んでいく1幕のシーンはめちゃめちゃ泣きました(涙)。
その核の部分がとても繊細に熱くシッカリ演じられていたので、2幕クライマックスでコールハウスがワシントンの言葉に心を動かされる場面も説得力が増していたように思います。

ファーザー:川口竜也さん

今回の作品の中で一番”人間らしい”キャラクターだったなと思ったのがファーザーでした。上辺だけ見ると彼はちょっとヒール的な存在に思ってしまうかもしれないのですが、置かれた立場や環境に想いを馳せると彼のその場その場の心理に悉く共感してしまう自分がいたんですよね。川口さんはとてもリアルで人間的な感情を絶妙な塩梅で魅せて下さったと思います。力強く伸びのあるしっかりとした歌声も本当に最高でした。

この作品のもう一人の主人公ではないだろうかと思うほどファーザーサイドもドラマチックでした。最初は”白人”を絶対的な存在と信じて疑わず、それ以外の人種に対しては見下したような想いを抱いているように見えましたが…でも決して”差別主義者”の顔を持っているわけではない。もし自分が同じ立場だったらファーザーと同じ反応をしてしまうんじゃないかと何度も思わされるシーンがありました。

冒険から帰ってきたら自分が今まで知っている世界とは違う光景があって、そこに対応できない自分に困惑し苛立つ場面もすごいリアルだった。一見すると敵対関係にある人物に捉えられるかもしれないけど、私は彼にすごく同情しながら見てしまって。そう感じさせられたくらい、川口さんのお芝居はとても自然で共感しやすかった。
そんな彼が2幕クライマックスでコールハウスと対面した場面は特に印象深かったです。そこに至るまでのファーザーの葛藤をずっと見てきたので、最後の最後に”変化”を受け入れたと思えた川口さんの表情や言葉の柔らかさに涙が止まりませんでした。

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ヤンガーブラザー:東啓介くん

ヤンガーブラザーは最初のほうはあまり物語の中でも重要ポジションではないのかなといった印象が強かったです。ブランコ乗りの訳ありネズビットに首っ丈になっちゃうお坊ちゃまみたいな感じでw、家族の中でもちょっと異質な存在に見えました。
でも、ずっと「もっと充実した自分を変える世界がどこかにあるのではないか」と探し続けていて。自分を変えて新しい世界に踏み出したいというヤンガーブラザーの想いが東くんのお芝居から滲み出ていました。

そしてある日エマ・ゴールドマンの人権改善を訴える演説を聞いてヤンガーブラザーの視界が開けていく。”変わりたい”と欲していた心に、彼女の演説は強烈に響いたんだなというのがリアルに伝わってきました。東くんの「これだ!」と開眼したかのような目の輝きがすごく印象深かった。
クライマックス、コールハウスと行動を共にした場面。その結末にショックを受け号泣していたヤンガーブラザーにはもらい泣きしまくりでした…。彼は彼なりに命を懸けてコールハウスや虐げられた人々のために必死に闘い続けてたんですよね。その熱い気持ちが東くんのお芝居から痛いほど伝わってきて涙させられまくりました。

エマ・ゴールドマン:土井ケイトさん

エマはユダヤ人の無政府主義者としてアメリカで活動した実在の人物。この作品の中ではターテとヤンガーブラザーと絡む場面が多く、彼らのドラマを後押しするような存在だったのがとても印象的でした。特にコールハウスに対面したヤンガーブラザーが最初言葉に詰まった時に「彼は言いたかった」と歌い背中を押す場面はめちゃめちゃ泣けました。
全体的に、女性らしい柔らかさを感じさせつつ説得力の溢れた力強い言葉の発し方がとても良かったと思います。

イヴリン・ネズビット:綺咲愛里さん

イヴリンは1900年代初頭にアメリカのNYでモデル・女優として活躍した実在の人物です。劇中で不倫相手がダンナに撃ち●されたと歌う節がありますが、これも実際に起こった事件なのだとか(震)。それでも、この作品に登場する彼女は常に明るく能天気。空中にぶらさがるブランコに優雅に座りながら「ウェーーーイ♪」と楽しそうに登場する姿がとても可愛らしく面白かった。でも、ヤンガーブラザーに口説かれる場面では彼女の”本心”が見えるような瞬間があって。劇中唯一厳しい顔を見せたあの場面はとても印象的でしたね。

ハリー・フーディーニ:舘形比呂一さん

舘形さんを舞台で見るのは何年ぶりだろうか!?と思うほどお久しぶりでしたが、今もなおお美しく逞しい肉体が眩しかった。ハリー・フーディーニも実在する人物(ユダヤ人)で、アメリカで活躍した有名奇術師で「脱出王」と呼ばれました。そのため、舘形さんもほとんどのシーンで腕を鎖でつないで一見すると”罪人”のような状態に。でもその姿がさらにセクスィーさを増幅させているように思えてドキドキしてしまった。どこかで女性的な艶めかしさを感じる中世的なキャラクターがとても魅力的。
そしてやっぱり力強くしなやかなダンスシーンには惚れ惚れさせられる。このあたりホントさすがでしたね。

ヘンリー・フォード&グランドファーザー:畠中洋さん

畠中さんはニューロシェルの家のおじいちゃん役と、実在した自動車会社の創業者ヘンリー・フォード役の二役を熱演。メイクの助けもありましたが、それ以上に全く違うキャラクターを見事に演じ分けていた芝居力が本当に素晴らしかったです。

グランドファーザーの時はお金持ちのちょっと気難しいおじいちゃんといった感じ。真っ白なおひげで覆われた表情がなんだかとても可愛らしかった。
白人としてのプライドも高く黒人を下に見る傾向はありましたが、ファーザーよりも柔軟性があってマザーがコールハウスの家族を受け入れることも戸惑いつつ許してくれてるんですよね。初めての出来事(黒人を受け入れること)にオタオタする姿は可愛らしく思わずクスッと笑ってしまうことも多々ありw。コールハウスにピアノ曲をリクエストしたとき、過ちを厳しく指摘されながらもそれを認め彼のピアノを素直に楽しんでいた姿がとても印象深かった。

ヘンリー・フォード役の時は一転してギラギラした勢いのあるアメリカ人といった雰囲気。おじいちゃんの時との落差がすごくて同一人物が演じているとは思えないほど。自動車工場でコールハウスに車を紹介する時の畠中さん演じるヘンリーはめちゃめちゃ精悍でカッコ良かったです!

ブッカー・T・ワシントン:EXILE NESMITHくん

EXILEとして活躍するNESMITHくんのことは時折テレビで見て知っていましたが、ミュージカルの舞台で役者としての姿を見るのは今回が初めてです。ブッカーTワシントンはアメリカの黒人指導者であり教育者としても活動していた実在する人物。この作品の中で黒人役のキャストは肌の色をそのまま見せて演じていますが、NESMITHくんはハーフということもあり見た目のリアルさがやはりダントツでした。

全体としての出番としては少ないのですが、登場する場面すべてその存在感に圧倒されまくり。驚いたのは歌声の深みと力強さです。彼がソロで歌うのをほとんど見たことがなかったのですが、今回の舞台を見てめちゃめちゃ心揺さぶられました。ブッカーの黒人としてのプライドがリアルに胸に迫ってきたし、発せられる言葉の力も半端なかった。
2幕後半でコールハウスを説得するシーンでのお芝居も素晴らしい!!頑なに投降することを拒んだコールハウスがブッカーの言葉に思わず心を動かされてしまうのも納得の説得力。魂をかけた大熱演で本当に素晴らしかったです。今後ももっと舞台で見てみたいなと思いました。

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後述

上演が決まった時、石丸さんが出演されると聞いて観に行くことは確定していましたが1回にしようか連ちゃんで2回見るか悩んだのですが、結果的に2回にして大正解でした。1日目はサイドながらも前方席、2日目は少し後方寄りの2階席と全く違う位置から観れたことも良かったなと。見え方が変わることで多面的にドラマを堪能できたことは幸運でした。

1日目はちょうど大阪公演初日だったのでカーテンコールでキャストを代表して石丸さんからご挨拶がありました。最初の言葉を発しようとした時に珍しくカミカミになってしまって照れ笑いしながら「大阪に戻ってこれたことが本当に嬉しくて」とハニかんでた石丸さんがめっちゃ可愛くて萌えましたw。「東京を経て今が一番熟して良い頃なんですよ~、みなさん」とニンマリ営業トークから切り出してたのも笑ったww。

ミュージカル『ラグタイム』に関しては、「社会派で少し重い作品ではありますが、音楽が本当に良いんですよね」と(ここで大拍手)。ブロードウェイで初めて見た時(たぶん初演の頃かな)この作品に出たいと思ったという石丸さん。当時トニー賞で「LK」と競り合った結果、作品賞は譲ることになってしまったけれど「僕はラグタイムのほうが好みでした」と正直に告白されてたのが微笑ましかった(LKももちろん良い作品ですがと前置きもされてたけどね)。
ついに日本で上演できたこと、そして関西でも上演できたことを心から嬉しく思うと満面の笑みを浮かべていた石丸さん、本当にこの作品のことを愛しているんだなぁと伝わってきました。素晴らしいキャストとオーケストラ(幕の後ろに配置)を嬉しそうに紹介されながら「まだ名古屋チケットあるのでぜひ」と熱く宣伝されて〆てました。

日本版『ラグタイム』、この作品なら少し高いお金を払ってでも見に行きたいと思える舞台でした。できれば同じキャストで、必ずまた再演してほしいです(なるべく短いスパンで)。

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