ミュージカル『CROSS ROAD ~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』2022.06.21マチネ・ソワレ

ミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』を観に東京遠征してきました。

6月2度めの東京遠征w。退院後のここ2ヶ月は体力回復とともに一気に観劇予定が増えて飛び回っております(ちなみに今月はあと1本)。

シアタークリエに行くのはなんと2020年以来2年ぶり。あまりに久しぶりなので、場所の位置関係とかが少しごっちゃになったほど(汗)。関東に住んでいたときはあんなに足繁く通ったのにww、今ではすっかりご無沙汰になってしまいました。

今回の演目を購入した理由は、昨年のミュージカル『蜘蛛女のキス』で私の心を大いに揺さぶった相葉裕樹くんが出演すると知ったからです。次の作品も是非見たいと猛烈に思い、今回のチケットを早い段階に購入。
客入りはどんな感じかなと思っていたのですが、実際に行ってみるとマチネもソワレもほぼ満席状態。リピートする方も多いようでチケットも残りわずかというほどの盛況っぷりで少し驚きました。乃木坂46のメンバーの子が出演しているということもあってか、男性のお客さんの割合も多かったように思います。

シアタークリエは半分より後ろの席でも割と舞台が近く端っこでもストレスなく見れるというのが良いですよね。座席の段差も付いてるし。ただ、前との感覚が狭いので座っている人の前を通るときは一苦労なんですが(汗)。

クリエのロビーは狭いので、感染対策の一環で物販はパンフレットのみ。ポストカードやアクリルボードといった他のグッズはお隣の日比谷シャンテの期間限定エリアで購入ということになっていました。ちなみに私はパンフレットとポスカをお買い上げ。美形キャストが多いので写真がとても綺麗です。そういえば、ここ最近アクリル板グッズが増えた気がする。

開演前から劇場には雨の音がずっと聴こえていて舞台の世界観を演出(5-6分に1度の割合でビクッとなるような雷の音も鳴り響きます)。また、開演25分前くらいに行くと注意アナウンスの後にこの物語に登場する”ニコロ・パガニーニ“についての簡単な解説を聞くこともできます。
クラシック音楽が好きということもあってパガニーニの名前は以前から知っていましたが、人となりは全く知らなかったので「え!そうだったんだ」と驚くエピソードもありました(悪魔伝説が強烈すぎてお墓が建てられなかったこととか)。開演前のこうした粋な演出は個人的にとても良いと思うので、他の演目でもやってほしいなと思います。あと、「雨が上がれば、物語が始まります」というアナウンスも素敵でした。

以下、ネタバレを含んだ感想です。少し辛口気味になっているのであしからず(あくまでも個人の感想です)。

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2022.006.21マチネ・ソワレ公演  in シアタークリエ(東京・日比谷)

主なキャスト

  • アムドゥスキアス:中川晃教
  • ニコロ・パガニーニ:相葉裕樹(ソワレ)水江建太(マチネ)
  • アーシャ:早川聖来(乃木坂46)
  • エリザ・ボナパルト:青野紗穂
  • コスタ/ベルリオーズ:畠中洋
  • アルマンド:山寺宏一 (ソワレ)戸井勝海(マチネ)
  • テレーザ:香寿たつき

アンサンブルさんのレベルは皆さんとても高かったと思います。メインを張れるような歌唱力や演技力の方もたくさんいらっしゃった。むしろ、そうあってほしかったくらいです。

日本の演劇界(特にミュージカル)は、実力があるのに名前が売れていないだけでなかなか上のほうにキャスティングされない方が多い。まだまだ演劇後進国といってもいい日本では知名度に頼らざるを得ない事情があることも分かりますが…、名前と人気だけでメインにキャスティングするという風習はできればなくなってほしいと思っています。

有名ではなくてもキャリアを積んだ将来性のある役者さんはたくさんいます。その方たちにどうかもっと目を向けていただきたい。新しいスターが誕生する可能性だって大いにある。少なくとも、知名度だけで明らかに実力が伴っていない人よりもずっと魅力的なパフォーマンスが見られると思うので。そんなことを今回の公演ではとても強く感じました。

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あらすじと概要

原作は、2012年に上演された藤沢文翁さんによる音楽朗読劇”VOICARION(ヴォイサリオン)”シリーズ”の『CROSS ROAD ~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』です。

私は一度も観に行ったことがないのですが、こういう公演をやっているというのは知っていました。2016年から始まりそれ以降帝劇やクリエ、全国の大きな劇場で定期的に公演しているそうで、2022年には14シリーズ目となる作品が上演されたとのこと。豪華な出演者や独創的なストーリー展開、そして生演奏が大きな評判を呼び人気を集めていて、一部では”歌わない音楽劇”ともいわれているらしい。

※過去の公演のCDやDVDも多数発売されています。

ちなみに、”VOICARION(ヴォイサリオン)”の名前は「VOICE」とギリシャ神話に出てくる天馬「ARION」を融合させた言葉とのこと。

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簡単なあらすじは以下の通り。

19世紀はまさに音楽に魅了された時代だった。
数多の音楽家が誕生し 人々はその才能を愛で その美しい調べに酔いしれ 音楽が世界を支配したその時代に突如として音楽史に登場し音楽の世界を支配した漆黒のヴァイオリニストがいた。

ニコロ・パガニーニ

彼には常にある噂がつきまとった。悪魔と契約し、魂と引き換えに音楽を手に入れた・・・・と。

街外れの十字路で悪魔アムドゥスキアスと血の契約を結んだ彼は100万曲の名曲の演奏と引き換えに、命をすり減らしてゆく事になる。

19世紀ヨーロッパの華麗なる音楽黄金期を舞台に 音楽を司る悪魔と悪魔のヴァイリニストと呼ばれた男が奏でるメロディーは ヨーロッパを そして世界を熱狂させてゆく・・・

<公式HPより引用>

 

上演時間は約3時間15分(内訳は、1幕65分、休憩25分、2幕105分)です。2幕に多く時間を取っている作品です。

パガニーニは1782年に誕生したイタリアのヴァイオリン奏者。他にもヴィオラやギターも弾きこなし作曲も手掛けていた天才音楽家です。劇団四季の『アンマスクド』公演で登場した「ヴァリエーション33」はパガニーニの”カプリース第24番イ短調”の変奏曲としてアンドリュー・ロイド・ウェバーがアレンジしたものでした。

ヴァイオリンの猛特訓の末に特殊技能を身に着けたパガニーニは、当時誰も見たことのないような神業的な演奏で人々を圧倒しますが、逆に「その才能は悪魔に魂を売った代償として得たものだ」という噂を立てられるようになってしまいます。
このエピソードを基に描かれているのが今回のミュージカル作品。パガニーニの人生について色々と興味が湧くエピソードも盛り込まれています。事前に何も知らなくても理解できる内容ですが、パガニーニの人となりを少し頭に入れておくとなお楽しめるかもしれません。

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主なキャスト別感想

今回は、訳あって先にキャスト感想から書いていきたいと思います。

アムドゥスキアス:中川晃教くん

登場しただけで只者ではないオーラを強烈に放ちまくっていたアッキー。ストレートロングヘアに眉毛を消したメイクになっているので、なおさらこの世のものではない感が強い。そしてやっぱりすごかったのが歌いこなしっぷりです。全体感想でも触れた通り、このミュージカルは非常に難解な曲が多い。まるでアッキーに挑戦状をたたきつけてるかのようだなとすら感じたほどw。
ところが彼は、それらをものともしないほどの歌唱力で感情豊かに歌い上げていました。特に冒頭のナンバー♪CROSS ROAD♪はファルセットで歌わなければならない箇所があるのですが、あの声はきっと、アッキーにしか出せないとすら思うほど甘美で美しい。改めて彼の歌の力の凄さを思い知らされたような気がします。悪魔だけど天使の歌声。

また、キャストによって歌のテンションや声の調子を自在に変化させていたのもすごい。どうしても歌唱力が平均点まで到達していない人もいましたが、ちゃんとその人に合わせた技法で歌ってて前に出ないところはちゃんと相手を立てていました。ホント素晴らしかった。

それから、緩急をつけた芝居がとても魅力的。特にパガニーニを弄んでいる時の、まるで楽しいおもちゃを見つけたかの如くカラカラした笑みを浮かべながら翻弄する場面は可愛らしくもあり恐ろしくもあり。表情がころころ変わって面白く、目が離せない。
さらにはパガニーニのお母さんと話している場面も印象深い。最初は上から目線的に余裕で接していたのに、母親の息子を想う言葉を受けたとたんにサッと顔色が変わって悪魔の表情を見せる。この切り替えがとても素晴らしかったですね。

クライマックスでパガニーニと対決する場面は見応えあり!余裕をかましていたアムドゥスキアスが初めて動揺を見せるわけで、ギラギラとした敵意を剥き出しにしていく。これまで彼の奥に潜んでいた本性が出る瞬間といった感じで迫力があり、見応え充分でした。
この作品は色々な意味でアッキーに救われていたところが大きかったと思います。

ニコロ・パガニーニ:相葉裕樹くん(ソワレ)

昨年のミュージカル『蜘蛛女のキス』でのヴァレンティン役が本当に素晴らしく私の心を大いに震わせた相葉くん。今回はそれ以来の彼の舞台ということになりましたが、もうホントに、圧倒的な存在感とパフォーマンスにビックリ致しました!!こんなにも強烈な光を放つ役者に進化したとは!

パガニーニは演奏シーンになると踊ることがとても多い役だったのですが、相葉くんの体全体を使ってエネルギーを解き放っていくような激しく美しい動きに終始圧倒されました。それはそれは鬼気迫る雰囲気で、目力もハンパない。頭の先から足の先まで神経が行き届いていて、キレッキレの動きで舞台が狭く感じてしまったほど。特に髪留めを華麗に投げ捨てる仕草は最高にカッコ良かった!あれだけで、パガニーニの狂気めいた演奏というのが伝わってきたよ。本当はヴァイオリンを弾いてパフォーマンスしてる姿も見てみたかったけどね。

さらに歌声の力強さがまた一段とアップしていたのにも驚かされました。彼の紡ぎ出す一音一音にパガニーニとしての魂がちゃんと宿っている。ヴァレンティンで見た時よりもまたさらにパワーが上がったのではないだろうか。すごい、すごいよ、ばっちくん!!彼の歌声には何度も心が震えました。

それから芝居が本当に魅力的。アムドゥスキアスと悪魔の契約を交わしてしまった後からのパガニーニの芝居がとにかく圧巻で。演奏会を重ねるごとに命をすり減らしていく様がとてもリアルに伝わってきました。時間の経過と共に命が削られていく様が分かって、その刹那な姿に胸が痛んでしまった。
そんな彼が、親しい人の前でだけ本音を見せる。その時の力の抜けた素顔の表現がまたとてもよかった。命を全部使いきったという充実感のようなものすら感じられ、ラストシーンの安らかな表情もとても感動的でグッときました。

公演直前に体調を崩してしまったことが信じられないような素晴らしい熱演だったな。元気に回復できて本当に良かった。これからの舞台も期待しています!

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ニコロ・パガニーニ:水江建太くん(マチネ)

水江君は今回が初めましてな俳優さん。東宝系の本格的なミュージカル作品はこれが初めてになるのかな。

ビジュアルは本当に美しく、目の輝きもとても奇麗。まるで少女漫画から抜け出した美形キャラのようでした。ダンスも、力強さはあまり感じなかったけれどしなやかでなかなか見応えがあったと思います。

水江君のパガニーニで一番印象的だなと思ったのが、アルマンドの前で見せるあどけない少年のような表情でした。外向きは傲慢で冷たい表情を見せることが多いのですが、執事のアルマンドとのシーンになると人が変わったように無防備で幼い顔になる。それが本当に可愛らしくて儚くて、寝顔を見つめながら「これが悪魔か!?いや、違う!!」とアルマンドが歌う歌詞がものすごくリアリティを持って響いてきました。

ただ残念なのは歌唱力が追いついていなかったこと。目立ってズレてるわけではないんだけど…、微妙に正しい箇所ではない音で歌っているのが分かってしまうシーンがいくつか。それが聴いていてすごい違和感で(汗)。楽曲が難解なものばかりなので、歌のシーンになるとそこに一所懸命ついていくのに必死になってるように見えてしまったのがとても残念。まぁ、あのナンバーを完璧にこなせるのはアッキークラスじゃないと難しいだろうなとは思うけど(汗)。

その歌の難しさにくらいついていくのに必死になってるからか、お芝居の細かいところまで神経が行き届いていなくてたまに淡泊に見えるセリフ回しもちょいちょいあったのも気になったかなぁ。
ただ、経験を重ねていけばもっと魅力的な役者さんに成長する素質はあるかもと感じるところもあったので(とても奇麗な良い目をしていたので)、さらに努力を重ねて頑張ってほしいと思います。

アーシャ:早川聖来さん(乃木坂46)

見た目はとても可愛らしかった。あと、声はよく出ていた。良かった点はそれくらいかな…。もう一度舞台に立つための基礎を頑張ってから(特に歌)次に臨んでほしいと思います。

エリザ・ボナパルト:青野紗穂さん

常に”ナポレオンの妹”という目でしか見られず、寄ってくる人たちは自分たちのメリットのことしか考えていないという環境の中で育ってきたことに苛立ちを感じていたエリザ。その孤独な心を青野さんはとても丁寧に演じていたと思います。

そんな彼女が初めて「エリザ」と名前で呼んでくれたパガニーニに心惹かれてしまう気持ちはとてもよく分かってしまった。個人としての自分を見てくれた彼に何とか尽くしたいという気持ちが募り、アムドゥスキアスと血の契約を交わしてしまう場面はとても印象的でした。
パガニーニを世界的な有名な演奏家として広めたい一心で、どんどん世界各国の演奏会の仕事の予定を入れまくるわけですが、逆にそれが彼を追い詰めてしまう結果に。まるでボロ布の様に疲れ果て眠る姿を見た時に大きな罪悪感を覚えてしまうシーンも印象深かったです。「愛しただけ、ただ愛しただけ」というフレーズがとても哀しかったな。

ただ、高貴な女性というよりかはカッコいいキャリアウーマン的な女性に見えたのは少し違和感あったかも。皇帝の妹としてのオーラをもう少し出しても良かったかもしれない。歌は多少揺れるところはあってもさほど気にならなかったです(ほかに不安定な方がいましたので 苦笑)。

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コスタ/ベルリオーズ:畠中洋さん

いつ見ても畠中さんは本当に素晴らしい存在感を発揮してくださる。今回は2役を演じられていましたが全くの別人で、初めて見る方の中にはそれが畠中さんが演じていると気づかなかったというコメントも見受けられたほどです。その繊細な演技力と美しく澄んだ心に響く歌声が大きな魅力。

コスタはパガニーニのヴァイオリンの指導者。最初の内は母親のテレーザから「あの子は天才でしょう」と興奮気味に持ちかけられても「はいはい、その通りです」みたいに冷めた目で受け流してる。彼女がいなくなった後に「自分の演奏に限界があることを知っていること自体が才能」とバカにしたような笑みを浮かべながら本音を告げるシーンは特に印象的でゾクっとさせられました。
ところが、パガニーニが悪魔と契約を交わした直後の変わりように大きな動揺を見せる。母親が大喜びする中で「私はあんなことは教えていないっ!!」と大混乱しまくるシーンがダイナミックでとても面白かった。このあたりの緩急つけた芝居はさすがです。

2幕からはパガニーニに興味を抱いたベルリオーズ役として登場。1幕のコスタ役ではあんなにもクセの強い人物だったのに、ベルリオーズではすっかりその毒気が抜けていて別人としか思えない。穏やかで少しおどおどしながらパガニーニに演奏を依頼するも、激しい言葉で罵られ拒絶され大いに憤りを覚えてしまう。この時の怒りの感情の芝居を、コスタ時のエキセントリックなものとはまるで違って、普通の人間が抱くような苛立ちといった自然な感情を表現されていました。

後半、再びパガニーニと顔を合わせたシーン。また罵られるのかと身構えたものの、自らの運命を受け入れる決意をしたパガニーニの以前とは違う血の通った言葉を受けて徐々に彼への温かい気持ちが湧いてくる。この過程のお芝居が畠中さん、本当に魅力的でめちゃめちゃジーンときました。特に「あなたとはもっともっと話がしたい!」と訴える場面はとても感動的でしたね。

アルマンド:山寺宏一 さん(ソワレ)

山ちゃんの舞台は過去数回観たことがありますが、意外にもミュージカルは今回が初出演とのことです。ディズニー映画の吹き替えで歌っているのを観たことがあるので(アラジンや美女と野獣)、実際のミュージカル舞台にも出演してる感覚があったんですよね。
声優としてのキャリアは申し分なく、生身のお芝居も上手いし歌も安定感抜群であることを知っていたので今回の出演はとても期待していました(余談ですが、私は20代だった頃の山ちゃんからのファンでイメージCDや音楽CDも何枚か購入して持っていたほどでしたw)。原作となっているVOICARIONにも出演されていて、その時にはアルマンドのほか6役を演じたのだそう。さすがです。

山ちゃんはやっぱり声が抜群に良い!最初にアーシャが忍び込んできたシーンで「誰だ!??」と声を上げたときの威圧感はさすがの迫力。思わず惹きつけられてしまいます。アーシャの正体を疑ってかかっている時の山ちゃんアルマンドは相手を警戒し威嚇するような雰囲気で怖さを感じさせるほどでした。
やがて話していくうちに彼女と打ち解けると、徐々にコミカルな一面が滲み出てくる。威厳ある人物からチャーミングな人物への変化の過程のお芝居がとても面白かったです。

アルマンドと接する時のパガニーニはいつも飾らない素顔の部分を見せて甘えてくる。そんな彼に対し、執事でありながらもどこか父性を感じさせるような温かさで接している姿がとても印象深い。さらにとてもユーモアもあるので見ていて楽しめる。
特に面白かったのは、パガニーニの恋人となったエリザの悪口をまくし立てる場面。後ろに彼女が建っていると気づいた時のリアクションがめちゃめちゃマンガちっくで思わず笑っちゃったよww。そこまでコミカルにしなくても…とはちょっと思ったけどね(笑)。

それから、「オペラを観に行ってくる」とウキウキ気分で出掛けていくシーンではオペラ歌手のまねをしてノリノリで歌いながら袖に入って行っててww。それを見たばっち君が「良い声してるな」と思わず本音を漏らしてしまったのが面白かった(笑)。

クライマックスからラストシーンにかけての山ちゃんアルマンドは本当に感動的でした。パガニーニの本来あるべき姿を知っているが故に、世間に向かって声を大にして「彼は悪魔なんかじゃない!!」と必死に訴えているようで…。その熱い想いが痛いほど伝わってきて本当に泣けました。
そしてラストシーンの嘆きっぷりがもう、見ているだけで悲しみが伝播してきたというか…。あの表現力は本当に素晴らしかった。

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アルマンド:戸井勝海さん(マチネ)

これまで色々な戸井さんの出演する舞台を見てきたけど、そのなかでも今回の役は特に心打たれたかもしれません。山ちゃんがユーモアさを表に出すことの多いキャラクターだったのに対し、戸井さんは少し不器用ながらもとても生真面目なキャラクターという印象が強かった。その真面目さゆえに、たまに見せるちょっと力を抜いた場面がとても愛らしくアルマンドという人物により深みを与えていたように思います。

私が見た回のパガニーニ役は水江君だったのですが、彼はアルマンドの前ではひたすら無防備で少年のような幼さを見せていました。そんな彼に翻弄されながらも、愛しくてたまらないという温かい気持ちが戸井さんのお芝居からこれでもかというほど感じられて、何度も胸が熱くなりました。繊細で壊れやすいパガニーニを守り抜きたいという気持ちが痛いほど伝わってきたよ。その優しさが本当に泣けた。

クライマックスの場面。お酒に酔って眠るパガニーニを見つめながら「これが悪魔か!?いや、違う」と歌う時、山ちゃんアルマンドは客席に向かって訴えかけるようにしていたのに対し、戸井さんはずっとパガニーニの無防備な可愛い寝顔を見つめながら彼に語り掛けているようでした。悪魔などと噂する人たちから自分が身を挺してでも守ってやらなければという覚悟のような気持ちすら感じさせられて、その親心にも似た温かい想いに思わず涙が溢れてしまいました。

そしてラストシーン。あのバックハグがあまりにも父性愛に溢れすぎてて…めちゃめちゃ感動した!!あんな優しい戸井さんのお芝居見たの初めてかもしれない。本当に素晴らしかったです。

テレーザ:香寿たつきさん

愛情溢れるお母さんの役を演じると、香寿さんは本当にハマりますよね。今回の役柄も息子への尽きせぬ愛が本当に温かく、何度も心がジーンとさせられました。

産まれた時から体が弱かったパガニーニを溺愛するテレーザは、息子にヴァイオリンの天才的な才能が生まれつき備わっていると信じて疑わない。パガニーニ自身は限界を悟っているが故に、母親からの過度な期待が逆に重荷になってしまい悪魔と契約するきっかけになってしまうわけで…。このシーンを見た時はなんだかとてももどかしい気持ちになってしまった。この、盲目的に息子を信じ重い愛情を与えてしまうお芝居がすごくリアルで何とも言えない複雑な心境に。

パガニーニが親元を離れ独り立ちしたあとも、テレーザは一途に息子を心配し手紙を送り続ける。父親の具合が悪くなったと知らせるシーン、本当は帰ってきてほしいという切実な思いを滲ませながらも無理強いはできないという葛藤も垣間見えて非常に切なかったですね。声色がまたとても優しくて温かいからなおさら感情移入してしまった。

一番印象的だったのは、死の間際にパガニーニの演奏会を訪れる場面。一番後ろの安い席に座った時、その隣にはアムドゥスキアスが座ってくる。やたらと話しかけてくる彼に対し「演奏中は静かに聴くものでしょ」とさりげなく釘を刺すときの表情がとても印象的でした。全く隣の存在に臆することなく凛とした態度を貫く香寿さんのテレーザの姿はとても逞しく美しい。
そして、アムドゥスキアスが「十字路の悪魔」だという正体を知ったうえで息子には勝てないと告げる場面。険しい表情でその理由を訪ねるアムドゥスキアスに対し「あの子が私の息子だから」と誇らしげに静かに微笑む姿はとても感動的でグッときました。最後の最後まで息子を愛し抜いた素敵なお母さんでした。

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全体感想(良かった点について)

有名な音楽家は天才肌で苦悩を重ねる人が多い印象なので、ドラマチックな展開を描きやすくミュージカル作品にするにはもってこいの題材だと思います。「悪魔に魂を売った」とまで言われたニコロ・パガニーニの人生を描くというアイディアはとても良い。観劇前は期待度のほうが高かったです。

ただ、蓋を開けてみれば…十分に満足できるような作品とは思えませんでした。違和感を覚えることの方が多かったかもしれないので…、最初に良かったと思う点だけ挙げてみます。

まず素晴らしいと思ったのは、ヴァイオリンソロ演奏を担当されていた粟津惇さんです。パガニーニが超絶技巧でヴァイオリンを弾きこなすという表現の場面では、粟津さんの奏でる音楽がソロで流れてくるのですが…これが本当にとても素晴らしい音色で魅了されました。あのシーンを毎回演奏するのはかなり労力がいると思います。

パガニーニが悪魔と”血の契約”を交わした後に命を削るがごとくの演奏の数々をこなしていくという展開も見応えがありました。才能に限界を感じてしまったパガニーニが、悪魔・アムドゥスキアスの甘い言葉に乗せられて「命と引き換えに100万曲の名演奏を得る」契約を結んでしまうという展開は非常に面白かった。
心が迷い行くべき道を見失った時に立つという”人生の十字路”。これが「クロスロード」という今回のタイトルにも由来しています。その十字路で出会う悪魔とどう向き合うかによって先の運命が決定づけられてしまうということ。もしもあの時、パガニーニがアムドゥスキアスの誘いを突っぱねていたらどんな人生が待っていたのだろうか…、とか、いろいろ思いを巡らせてしまいます。こういう想像ができるのも楽しい。

1幕ラストの演出もとてもダイナミックで素晴らしかったと思います。逃れられない運命に雁字搦めにされるパガニーニの苦悩を、アムドゥスキアスが放った数本のロープで縛りあげていくことで表現したシーンはとてもドラマチックで見ていてゾクゾクしました。

演奏するごとに命の時間を削っていくパガニーニが、執事であるアルマンドの前でだけは素直なありのままの姿を見せるシーンもとても印象深い。
どんどん迫る自分の命の期限に怯える彼にとって、いつも温かく大きな心で受け止めて心配してくれるアルマンドは唯一の救いだったと思います。パガニーニが酔っ払いながらも「長生きしてくれ」と彼のことを気遣ったり、眠りに入る直前に「ありがとう」と告げた言葉には思わずこみ上げてくるものがありました。そして、アルマンドが泣きながら「怖かったでしょう」と語り掛ける場面も泣ける。二人の信頼関係のドラマが温かくてとても良かった。本当はもっとここを掘り下げてほしいと思ったくらいです。

キャストについては、一部の方を除いて皆さん個性的でとても見応えがありました。中劇場ということもあって客席との距離も割と近いので、舞台上からその熱量がひしひしと伝わってきました。

個人的に良いなと思った点はこんな感じかな。以下は辛口がメインになると思いますので、この作品が好きでマイナスな意見は見たくないという方は回れ右でお願いします。

ということで、続きは次のページにて。

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