ミュージカル『カム・フロム・アウェイ』東京公演 2024年3月27日マチネ感想

全体・キャスト感想 その2

その後最初に離陸の許可が出て飛行機が少しずつガンダーを飛び立っていくように。でも、トラブルが発生したりして全部が飛べるわけではなかった。ビバリーの便は結局その日に出発できずいったん元の場所へ戻って待機ということに。一度は乗客たちを送り出してホッと一息ついていた島の人たちでしたが、再度戻ってきたときには疲れた顔を隠し「おかえりなさい」と笑顔で向かい入れてくれる。ちょっと面白いシーンではありましたが、ホッコリしました。
乗客たちは戻ってくる前に”お礼”として金銭を渡そうとしましたが、島の人たちは「お前がその立場だったら同じことをしていただろう」と笑ってそれを受け取らなかった。このシーンはとても印象深かったです。見返りを求めずただ純粋に寄り添い助けてくれた島の人たち…。なんて尊い光景だろう。

出発を待つ間、ダイアンとニックは最後に二人で島の景色を焼き付けに高台へ向かう。お互いに想いを寄せながらも気持ちを確かめることに躊躇い、「もうすぐお別れなのだな」と切ない気持ちになっていた。美しい景色を眺めながら、ダイアンの姿を残そうと彼女に向けてシャッターを切るニックの想いがなんだかとても切なかったです…。彼にとって彼女は自分に目を向けてくれたかけがえのない存在なんですよね。そしてダイアンもいつしかニックの優しさに癒されていることを自覚してる。

 出会って数日という短い時間の中でお互いに心を通わせた二人が別れを予感しながら歌う♪Stop the World♪は爽やかながらもどこか切ない素敵なナンバーでした。

そして今度こそ出発の時。ハリケーンがすぐそこに迫るなかでのギリギリの出発だったことをこの作品で初めて知りました。飛行機が空港に長く駐留すると機体に損傷が生まれるという緊急事態だったことも初めて知った。
この出発の時には島の人たちとの別れの場面は描かれません。気が付いた時にはもう彼らは飛行機に乗り、懐かしい我が家を前に気持ちが昂っていたという感じ。あえて出会いと別れをクローズアップして感傷的に描かないのもこのミュージカルの素敵なところだなと思いました。

飛行機へ乗り込む直前のやり取りは描かれていて…。身体検査の場面。アリは中東の人というだけでとてつもない屈辱的な検査を強制されていた。心に大きく傷を負いながらも受け入れるしかなかったアリの心情を思うと、本当に居たたまれない。目にいっぱいの涙をためながら震えていた万里生くんアリの姿が忘れられません(涙)。そんな彼に「申し訳なかった」と言葉をかけることしかできなかっためぐさんビバリーの姿にも涙が出ました…。

帰宅の途に就いた乗客乗員が歌う♪38 Planes (リプライズ) / Somewhere in the Middle of Nowhere♪は2回目に見た時すごく頭の中に残りました。高鳴る気持ちが手に取るように伝わってくる躍動感あふれるナンバーで大好きです。
目的地が近づくなか、乗客たちは「島の人たちのために奨学金を集めよう」と提案する。率先して言い出したのが和樹くんボブ。他人の家で怯えていた頃の彼はもういない。心の底からの島の人への感謝がひしひしと伝わってきて、あの表情見ただけで泣けました。

このシーンの時に、ホリプロ貸切日でさとしさんが小切手に「ホリプロ」って書いたんだなとちょっとクスリと笑ってしまったけどねwww(こちらのレポ参照)。

帰りの飛行機ではダイアンとニックにある奇跡が舞い降りる。ニックよりもダイアンのほうが積極的だったのねと、なんかちょっと微笑ましかった。

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『カム・フロム・アウェイ』の素敵なところは、別れた後の後日談が描かれていたことです(♪Something's Missing♪)。

島の人たちはようやくいつもの日常が戻りホッとしたはずなのに、”come from aways(外から来た人々)"がいなくなった後の光景にどこか寂しさを感じていた。ふと顔を上げればそこら中に書かれた「THANK YOU」という感謝の文字が目に入ってきたという。それを見ながら彼らはきっと”親しい人”を失ったという喪失感に襲われていたんだろうなと思うと切なくてねぇ…(涙)。
5日間殆ど睡眠時間が取れない状態で心からのもてなしをしてきた島の人たち。彼らはその後もなかなか寝付けずテレビをつけたという。さとしクロード町長が語った「この時初めて泣いた。ずっと泣くのを我慢していた」という言葉に胸を衝かれ思わず号泣してしまいました(涙)。

一方、待ち望んでいた場所に帰国できた人達も素直に喜ぶことはできなかった。9.11の雰囲気がまだ残るアメリカに降り立った時に彼らが感じたのは安堵よりも恐怖だったのです。あの日、もしかしたら自分たちが犠牲になっていたかもしれないって誰もが感じたのではないだろうか…。その心情を思うと本当に辛かったです(涙)。
ボブは家に戻ったものの「何かが欠けているような気がする」という違和感を拭えずにいる。浦井ケビンと万里生ケビンには思いもよらない変化が起こっていた。ダイアンとニックは電話で交流を重ねていましたが、「私たちの関係はあの恐怖の出来事があったから成り立っているのだ」という罪悪感に苛まれ積極的に付き合うことができませんでした。その気持ち、なんだか痛いほどわかる…。あの事件は全ての人の心に大きな影を落としていた…。

そしてハンナは、ビューラに一本の電話を入れる。このシーンは本当に大号泣しました(涙)。あの二人の島での交流があったからこそ、なんですよね。たった5日間だったけれども、二人の間にはとても固い絆が生まれていたのです。その内容がどんなものだったとしても…。

 このクライマックスのシーンを観てから2回目、3回目と『カム・フロム・アウェイ』を見ると、感極まる場面が増えるかもしれない。私は2回目でしたが、1回目の倍は泣いた気がします。

「何かが欠けた」という想いを抱きながら人々は徐々に日常生活を取り戻していく。そしてクライマックス、♪10 Years Later♪のナンバーに乗せて「再会」の場面が描かれていきます。100分間ノンストップでこのドラマに魅入られたからこそ、胸に迫るエピソードがめちゃめちゃ多かった。
『カム・フロム・アウェイ』はこの「再会」のところを起点として生まれた作品。なんだかとても感慨深い想いが体中を駆け巡りました。

他にも心打たれるシーンが随所にあって、ここには書ききれないです。最高の役者たちによる最高のミュージカルでした。

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後述

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カーテンコールは早い段階からスタンディングオベーションが湧き起こり大変盛り上がりました。最後のミュージシャンの皆さんによる楽しい演奏が終わった後も拍手が鳴りやまなかったのですが、最終アナウンスが流れ続け終演ということに。

本当にカンパニーの皆さん、色々な面で相当な疲労があると思うのでカテコは短いのは「そりゃそうかもな」と納得しました。というか、海外作品では何度も出てくるカテコは見かけないというくらいですし、『カム・フロム・アウェイ』においてはこういうカテコスタイルで良いのかもしれません(千穐楽はもう少し長くやりそうだけど)。

今回この作品を見て思い知らされたことがありました。それは、私の心の中にもまだ”9.11”の時の大きな衝撃と哀しみがくっきりと残っていたのだという事。直接的には語られていませんが、所々の場面(特に乗客たちが帰国するシーン)では何度もあの当時の感情がこみ上げてきて涙を抑えることができませんでした。
あれから20年以上が経過し、日本では殆どあの事件がニュースに取り上げられることもなくなりました。でも、今もまだそこから続く悲しみや憎しみの連鎖は留まるところを知らない。

だけどその一方で「やさしい世界」も確かに存在していた。あの恐ろしい事件があった日と同時進行で、こんなにも温かい交流があったのだということをこのミュージカルで知ることができて本当に良かったです。

憎しみや哀しみをもたらしたのも人間だし、優しさと温かさで包み込んでくれたのも人間だった。

世界中にこのミュージカルに登場するニューファンドランド島のような温かい人たちが増えればいいのに。そんな理想の世界を思い描かずにはいられません。

きっと見れば色々なことを感じると思います。911事件を知らない世代の方達にもぜひ観ていただきたい。心の通った、最高のカンパニーによる最高の舞台でした。大千穐楽まで誰も欠けることなく駆け抜けることができますように。

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