音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』2023.07.24マチネ 大阪公演 大千穐楽

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音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』を観に大阪まで遠征してきました。

新歌舞伎座の公演を観るのはおそらく昨年の『ジャージーボーイズ』以来。久々に近鉄電車に乗ってちょっとテンション上がったw。
この劇場は舞台と客席が近く、2階席からもよく見えるので個人的に好きだったのですが、なかなか見たい上演作品がなくてここ最近は遠ざかっていました(汗)。今回はサイドではあったもののかなりの前方席だったので殆どオペラグラス無しで楽しむことができました。

6月の東京プレビュー公演から約1ヶ月ちょっと、この7月24日公演を以て大千穐楽を迎えた音楽劇『ダ・ポンテ』。キャストが実力は揃いだったこともあり観劇予定に入れることは決めていたのですが、諸々予定が付かず”ここしかないかな”と確保した日が偶然楽だったという(購入後に知った汗)。

客入りの方は残念ながら新歌舞伎座大入り満員とはいかない状況でちょっとビックリ。物販コーナーも並ばずに希望のものをあっさりゲットできてしまって(パンフレットとクリアファイルのセット販売があったのは嬉しかった)、大阪ではあまりPR活動できなかったのかなと余計な心配が過ってしまいました(苦笑)。

大千穐楽だし、豪華キャストもそろっているのだから…もう少し客入りがあっても良かったんじゃないかなとは正直思ったかも。

以下、ネタバレを含んだ感想になります。

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2023.07.24マチネ  in 新歌舞伎座(大阪・上本町)

キャスト

ロレンツォ・ダ・ポンテ:海宝直人

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:平間壮一

アントニオ・サリエリ:相葉裕樹

フェラレーゼ:井上小百合

ナンシー/オルソラ:田村芽実

コンスタンツェ:青野紗穂

皇帝ヨーゼフ二世:八十田勇一

【アンサンブル】

岡本華奈小原和彦柴原直樹田村雄一西尾郁海橋本由希子平山トオル吉田萌美

アンサンブルで出演されるはずだった鈴木結加里さんは、残念ながら体調不良とのことで大阪公演でのご出演が叶わなかったようです(涙)。

苦楽を共にしたカンパニーと千穐楽まで一緒に舞台に立ちたかっただろうに…。その胸の内を想うと何ともやり切れませんが、やはり健康第一です。しっかり養生して、また元気な姿で舞台に復帰されますようお祈りしています。

あらすじ・概要

モーツァルトの三大オペラ「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」は誰もが知る有名な大作ですが、この3作の台本を書いた人物については殆ど世に知られていません。かくいう私も全く知りませんでした(汗)。その人物こそが今回の主人公、モーツァルトの影に隠れた詩人と呼ばれるロレンツォ・ダ・ポンテです。

イタリアのヴェネチアで生まれ聖職者の職に就いていたダ・ポンテでしたが、放蕩三昧の生活が災いしそこから追い出され、ウィーンに暮らすこととなりました。そこでアントニオ・サリエリと出会い台本作家としての才能を花開かせたダ・ポンテは多くのオペラの台本(イタリア語)を手掛け成功を収めていったそうです。その過程で出会ったのが、天才作曲家と呼ばれたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトでした。
この音楽劇はモーツァルトとの出会いを中心にダ・ポンテの半生を描いたオリジナル作品で、今回が初演となります。

作劇はテレビドラマなど映像作品の脚本家として活躍する大島里美さん(ドラマ「凪のお暇」など)、音楽は一つの枠にとらわれない多彩な音楽を手掛けている笠松泰洋さん。演出は脚本家でもあり多くの舞台演出も手掛ける青木豪さん。ちなみに、青木さんと笠松さんは2018年に劇団四季のストレートプレイ『恋におちたシェイクスピア』を担当されていました。

なお私は未見ですが、2023年2月~3月にかけてダ・ポンテを主人公にした音楽劇「逃げろ!」がA.B.C-Zの橋本良亮くん主演で上演されています(台本・演出は鈴木勝秀さん)。

簡単なあらすじは以下の通り。

1826年ニューヨーク。年老いたロレンツォ・ダ・ポンテ(海宝直人)が回想録を出したことがきっかけで、若かりし頃を思い出すところから物語は始まる。

1781年ウィーン。女好きで詐欺師のダ・ポンテは、ある事件を起こし、故郷ヴェネツィアを追われ、その才覚と手練手管でウィーンの宮廷劇場詩人の座までのぼり詰める。しかし、宮廷作曲家アントニオ・サリエリ(相葉裕樹)に言われるがままに書いたオペラの処女作を酷評され、行き場を失っていた。そんなダ・ポンテの前に現れた、作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(平間壮一)。彼もまたあふれる才能を持て余していた。二人は意気投合し、革新的なオペラを作ることを決意する――。

<公式HPより引用>

上演時間は約2時間50分

内訳は第一幕65分(1時間5分)休憩20分第二幕85分(1時間25分)でした。

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全体感想

今回の作品はミュージカルではなく”音楽劇”とのことですが、これまで見てきたものよりかなり”ミュージカル”寄りじゃないかなと思いました。この2つのジャンルは特に大きな線引きはないとのことなんですが、あえて言うなら”ミュージカル”は主に登場人物の心情やストーリーが動くドラマチックな音楽で構成されていて、”音楽劇”は主にお芝居が中心で物語の流れの中に音楽が組み込まれているといった感じらしい。
音楽劇『ダ・ポンテ』は全32曲によって物語が紡がれていきます。どちらかというとミュージカルのように登場人物の心情を歌で表現するといったスタイルで、全体的にはセリフ劇と半々くらいといった印象でした。

実は私がこれまで見てきた日本産のミュージカルや音楽劇はちょっと説明セリフが長すぎたり(クドいと思うことも 苦笑)必要性を感じない場面が挟まっていたりすることが多くて、今回も見る前はちょっと不安に思う部分もあったりしたんですよね(汗)。いくらキャストが豪華でも、脚本や演出によって魅力を感じられない残念な印象が残ってしまうこともある。
ですが、今回の音楽劇はそれぞれのドラマがちゃんとしっかり成立していたし、物語の流れも分かりやすくクドクドとした部分が感じられなかったのがとても良かったと思います。音楽の入り方とか盛り上がりどころとかもしっかりしていて約2時間30分があっという間に感じました。

音楽劇なのでいわゆる”ビッグナンバー”と呼べるような場面はなかったと思うのですが、そんななかでも印象に残った歌曲がいくつか。

サリエリ先生がダ・ポンテにドヤ顔でイタリアオペラの素晴らしさを歌う♪ヴィヴァ、イタリア♪

 1幕ラストで「フィガロの結婚」を成功させたときにモーツァルトとダ・ポンテが歓喜を歌う♪最高の相棒♪、そしてオペラ2作めの「ドン・ジョバンニ」の設定づくりに熱を入れるダ・ポンテが歌う♪僕の中のドン・ジョバンニ♪。この3曲は特にドラマを盛り上げる素晴らしい楽曲だと思ったのですが、その中でも海宝くんが歌い上げた♪僕の中の〜♪はマヂで凄まじかったですね!!心ごと持っていかれる感じで、曲が終わったあとはショーストップ状態のすごい拍手がしばらく鳴り止みませんでした。あのシーンだけは”ミュージカル”色が色濃く出てたような気がする。

物語は老年のダ・ポンテ自叙伝を出したところから始まり、それを読んだ妻のナンシーが「モーツァルトとの話をもっと聞かせて」と告げたのがきっかけとなり過去を回想していくといった構成。おじいちゃん海宝くん、めっちゃイケメンだったんだよなぁ。

将来もあんな感じだろうかと思わず想像してしまったw。

ダ・ポンテはもともとイタリアのヴェネチア育ちでしたが、素行の悪さが災いして(オンナ関係 苦笑)追放処分を受けてしまう。史実ではこの作品で描かれてること以上にドン引きするようなオイタをしまくってたらしいとのことですが(苦笑)、海宝くんは実に爽快に軽やかに演じていて”ダメ男”なんだけどどこか許せちゃうみたいな魅力ある人物に見えて仕方なかったです。あれは女性陣が”その気”にさせられて踊らされるのも納得(←きっと私も騙される 笑)。

ダ・ポンテのすごいところは転んでも決してただでは起き上がらないところ。どんなマイナスな出来事が起こっても、そこから這い上がっていくんだという野心を秘めたギラギラした目をしている。そんな彼を見ていると、不利な展開になってもどうにか挽回できちゃうんじゃないかという気持ちになって見てしまう。このあたりのキャラの説得力のもたせ方も、海宝くん本当にすごいなと思いました。

宮廷音楽家のサリエリ先生のところまでなんとかたどり着けたダ・ポンテでしたが、逆に手玉に取られるような形で共作したオペラは失敗作に。今回登場してくるサリエリはこの出来事が後を引いたからか、ダ・ポンテに対して感情が動くことが多いように見えたのが面白かったところです。映画『アマデウス』ではモーツァルトにライバル心を燃やしてる印象でしたが、この音楽劇ではそのあたりはサラリと触れてるって感じだった感w。

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モーツァルトの方はザルツブルクでの挫折を経験してウィーンへと出てきているわけですが、このあたりのドラマが展開されている時は自然と脳裏にクンツェ&リーヴァイのミュージカル『モーツァルト!』が頭の中に浮かんできたので状況を把握しやすかったですw。

今回の音楽劇はあくまでもダ・ポンテ中心なので彼と出会う前のモーツァルトのドラマはサラリと触れる程度。ちょっと時間を割いたのはコンスタンツェと再会して結婚に至る場面くらいだったかな。本当はそれまで諸々葛藤や苦労たくさんあったよね、みたいなのがミュージカル『M!』のおかげで脳内保管されていたので彼の人物像を理解できたのは大きかったかもしれません。
あのミュージカルと違うなと思った点は…モーツァルトとコンスタンツェのちょっぴりバカップル的な描かれ方(笑)。

 『M!』では結婚後の二人の関係がラブラブ期間よりすれ違い期間のほうに重きを置いていた印象があったのでww、今回の音楽劇を見てちょっと救われたような気持になりました。

ダ・ポンテはサリエリとの共作で挫折を味わい酒場で飲んだくれるのですが、その場にたまたま居合わせたモーツァルトと会話を重ねていくうちに新たな創作意欲を掻き立てられていく。モーツァルトもウィーンでの仕事が思うようにいかなかった時期で、ダ・ポンテのアイディアや詩の世界に大いに刺激されていく。二人がこうして出会ったのはまさに神の導きがあったとしか思えないなと。
グチグチ荒ぶってた二人が新しいオペラ『フィガロの結婚』を生み出していく酒場のシーンは希望に溢れ心躍るものでした。ダ・ポンテとモーツァルトの芸術家としての魂が迎合していく過程はとてもドラマチック。新作上演が間近に迫ったある日、酒場でモーツァルトが「6歳の頃に陛下の妹にプロポーズした」ってアッケラカンと打ち明けてダ・ポンテをビビらせる場面は面白かったw(後の悲劇のフランス女王、マリー・アントワネットだからね)。

ヨーゼフ2世の前で上演された『フィガロの結婚』は貴族をあざ笑うような内容だったにもかかわらず、上手い事オブラートに包んだ二人の創作が功を奏し(ダポンテの美しい詩とモーツァルトの軽やかな音楽)割れんばかりの大拍手が湧き上がるほどの大成功を収める。その光景を目の当たりにした二人が初めての成功に感極まる姿には胸打たれるものがありました。

ところが、これと並行するようにダ・ポンテの過去の暗い経験が浮かび上がってくるわけで。貧しい家庭に生まれた上に母親が亡くなった後に父親が再婚した相手が4つしか年が離れていない少女のような女性・オルスラだった。夫婦生活は幸せなものとは程遠いものでしたが、そんな中彼女の唯一の救いとなったのが年齢の近い義理の息子・ロレンツォとのちょっとした交流でした。この初心な青年・ロレンツォこそが今のダ・ポンテだったというわけ。

これはもう、なんだか破滅的な予感しかしないなぁと思いハラハラしながら見たシーンだったかもしれない(汗)。オルスラは夫に忠誠を誓いながらも徐々にロレンツォに心を寄せている雰囲気があって…。彼もそんな彼女にいつの間にか惹かれ目で追うようになっている。それは温かい恋愛ではなく、危なっかしい胃がキリキリするような関係に見えてしまって心がざわついてしまった(汗汗)。
しかも、モーツァルトとの共作で大成功を収めた『フィガロの結婚』にテンションが上がった直後にオルスラの幻が出てきて「私たち、地獄に堕ちるわ」みたいな衝撃的な言葉が響き渡りますからね(震)。そこで1幕が終わるっていう、かなりスリリングな展開でございましたw。

『フィガロの結婚』大成功により一気に名声を高めたダ・ポンテとモーツァルト。そんな彼らを…というか特にダ・ポンテを苦々しい思いで見ていたのがサリエリで。自分と組んだ作品は失敗作と酷評されたのをきっかけに彼を斬り捨てケチョンケチョンに見下してましたからねw。だけどライバル視してたモーツァルトと組んだ作品は成功しちゃったわけだから面白いはずがないw。とはいえ、流れに乗れとばかりにダ・ポンテに再び仕事を依頼しにやって来るちゃっかりっプリが面白かったです(←しかも今度はダ・ポンテに踊らされちゃってたし 笑)。

その頃、モーツァルトの妻のコンスタンツェは浪費癖が激しくなり生活がどんどん厳しさを増していくことに。ところがモーツァルトは惚れた弱味からかなんだかんだで奥さんの言われるがまま納得しちゃうww。このあたりが『M!』で描かれてたヴォルフと違うなぁと。今回の作品ではひたすら奥様ファーストな子供っぽいモーツァルトが危なっかしくも可愛らしかったですw。
それと同時期にダ・ポンテも運命の女性・フェラレーゼと出会っていました。ところがこの彼女、人妻であり歌手としての実力も褒められたものではない曰く付きで、モーツァルトやサリエリは「やめておけ」と忠告しまくるのですが彼の耳には入らない。かつてはあんなに女性を手玉に取ってたダ・ポンテがこんなにもいとも容易く一目惚れしてしまうとはww恋はホント分からんもんだなと思った(笑)。20回以上も『フィガロの結婚』を見たっておだてられたのも大きかったかもねw。

フェラレーゼは甘い言葉でダ・ポンテのテンションが上がるようなことを言ってくるわけですが、どこか打算的で本当に彼を愛しているのか読めないところのある女性と言った雰囲気でした。実力がないことは自覚していたようですが、そんな自分をのし上がらせるためにはどんな手段も厭わないって感じ。だけどダ・ポンテはそんな本性を見抜けるはずもなく、彼女の美しさにズブズブとはまり込んでしまうw。フェラレーゼからすれば、こんなに扱いやすい男はいないって感じだったかもね(苦笑)。
彼女との劇場契約を持ち掛けるまでになったダ・ポンテをモーツァルトは必死に諫める。彼からすれば、フェラレーゼがダ・ポンテの才能を低下させてしまうんじゃないかと直感的に思ってしまったのかもしれないよなぁと。だけどモーツァルトも奧さんとの関係をもう少し冷静に見たほうがいいんじゃね?とは見てるこちらは思ったけどねww。

結局ダ・ポンテはモーツァルトの忠告に耳を貸さずフェラレーゼ愛一直線で、どんなに「あれは魅力のない歌手だ」と言われても「彼女の歌に僕は感動を覚えるんだ!」と盲目的に突っぱねる始末。まぁ、その気持ちは分からなくはないかな。たとえ周りがダメって酷評してたとしても、自分には心に響くんだよって役者、いることあるし。
モーツァルトは自分よりもフェラレーゼとの恋愛に意識が向いてしまったダ・ポンテに苛立ち、「君になんか出会わなければよかった!」と厳しい言葉をぶつけてその場を立ち去ってしまう。この言葉にダ・ポンテは深く傷つき、それと同時に淡い初恋を抱いていたオルソラのことを回想します。

夫との関係を築けず苦しみながらも「いつか神が救ってくださる」という信仰心に縋っていたオルソラ。そんな彼女を間近で見ていたロレンツォ(青年期のダ・ポンテ)はますます彼女への想いを昂らせ、一緒に逃げようと説得し思い余って口づけをする。オルソラは最初驚いて拒もうとしていましたが、次第にふっと気持ちが揺らぎ彼に身を任せる瞬間がある。それでも必死にそこから逃げ出し、激しくロレンツォを自分から遠ざけようとした。この時彼女が彼にぶつけた言葉が「あなたになんか出会わなければよかった」というものだったと…。
これがおそらくずっとダ・ポンテの心の傷として残り続けているんだろうなと思ったらなんだかとても切なく胸が痛みました。彼がペテン師として女性を弄ぶようになった原点ももしかしたらここにあったのかもしれないと思うと、最初の展開がちょっと違う景色に見えてくるような気がしたかな。でもそれと同時に言葉の力もついていったわけで…、人生本当に何があるか分からない。

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ダ・ポンテとケンカしてしまった事をずっと気に病んでいたモーツァルトは、コンスタンツェに背中を押されるような形で彼と再び向き合い仲直りに至る。浪費癖が激しく問題の多いコンスタンツェだけど(汗)それは彼女の天才の妻が故の寂しさでもあったわけで。それでも彼のことを愛してるからこそ、ダ・ポンテとのことで悩んでる気持ちも敏感に察することができたのかもしれないなと思いました。ここはコンスタンツェ、グッジョブw

ダ・ポンテは既に2作目のオペラ『ドン・ジョバンニ』の詩を書き進めていて、あと一歩で仕上がるというところまで来ていた。それを聞いたモーツァルトは詩を読みながらインスピレーションを高めていきどんどん曲を生み出していく。ここはまさに二人の才能が共鳴し合う象徴的なシーンだなと思いましたね。この二人だからこそ、この二人にしか編み出せなかったアイディアがどんどん形になっていく様は観ていてとてもワクワクします。

 印象的だったのは、ラストシーンをどう描いていいか悩むダ・ポンテにモーツァルトが「好きに描けばいいじゃないか!」と真っ直ぐな眼差しと笑顔で告げた場面。観客に媚びる内容ではなく、ダ・ポンテの思うがまま自由に曝け出して表現すればいいんだとモーツァルトは背中を押してくれた。彼はこんな風に自分を解き放ってくれる”最高の相棒”をずっと待ち望んでいたのかもしれない。

ダ・ポンテが自らの人生と照らし合わせながら物語の中に登場する”ドン・ジョバンニ”像を完成させていく場面は圧巻で見応え充分。海宝くんの突き抜けるようでいて力強い歌声がさらにドラマを盛り上げてくれました。

ところが、二人の共作オペラ第2弾『ドン・ジョバンニ』はウィーンでの成績が芳しくなく、目をかけてくれていたヨーゼフ2世からも「ウィーンの人の口には合わなかった」と遠回しにダメ出しを食らってしまった。その言葉に対して反論しようとしたモーツァルトをダ・ポンテは必死に制し、次回はもっと大衆的な作品を作ると約束する。この出来事が二人の間に亀裂を生むきっかけになってしまうとはねぇ…。
モーツァルトとしては誰に媚びることなく自分の音楽を自由に発信していきたい気持ちが大きい。しかしダ・ポンテは現実的なところを見ていて、次の仕事を絶やさないためにも妥協もやむなしと思っている。何でも分かり合えているようで、実は根本的なところでは目指すところが違っていたのかなぁと思うと何ともやり切れませんでした。権力者との関係にうんざりしていたモーツァルトとしては、宮廷の注文を受けようとするダ・ポンテの考えをどうしても受け入れることはできなかったんだろうな。どちらの気持ちも理解できるだけに辛い。

その後ダ・ポンテはサリエリから「コジ・ファン・トゥッテ」というオペラ作品を作らないかという打診を受けていた。少しでも明るい作品で病がちな陛下の心を慰めたいというサリエリの心遣いがちょっとホッコリしますね。ところがダ・ポンテは共作相手としてモーツァルトではなくサリエリを指名する。思わず「いいのか!?」と驚いて聞き返してしまうサリエリ先生が印象的だった。一度コンビ失敗した過去もあるしモーツァルトのほうが気が合うだろうし、みたいに思ってた節はあったんだろうなと。
一方のモーツァルトは相変わらずコンスタンツェの突拍子もない行動に目を白黒させられていたw。それでも許しちゃう的な雰囲気出してるのがこの作品ならでは。『M!』ではヴォルフが諦めて彼女に深く関わらないようになってた頃だったような(汗)。でも、それと時を同じくしてフランス革命のニュースが飛び込んできて民衆の機運が高まる出来事が起こる。ヨーゼフ2世も崩御してしまい、ウィーンでも時代の変わり目を迎えようとしていた。

ヨーゼフ2世の崩御はダ・ポンテにも暗い影を落とすことに。用済みの人間として宮廷から追い出されたダ・ポンテはなんとか留まらせてほしいとサリエリに縋りますが、冷たく突き放されてしまう。この時ダ・ポンテが「私がユダヤ人だからですか!?」と食って掛かるのに対しサリエリが「そんなことはどうでもいい!」とキッパリ否定する場面があって。これがすごく心に刺さりましたね。
サリエリはちょっと的外れなプライドの高い宮廷お抱えのテンションが高い音楽家としての印象がここまでは強かったけど、音楽の才能に関してはちゃんと見る目を持っていた人物なのかなと思いました。だから、人種問題なのかとダ・ポンテに詰め寄られた時も毅然としてそれを突っぱねてて、それはなんだか胸アツだったな。つまり、サリエリから見たダ・ポンテは詩を書く才能はあるけれどそれ以上に野心家であり”音楽”と真摯に向かい合っている人物ではないと見抜いていたのではないかと。ここにきてサリエリがしっかりと音楽家の顔を見せてくれて嬉しかったです。

同じ頃、宮廷音楽に見切りをつけたモーツァルトは「フランス革命」に刺激を受け新たな仲間たちと新作の創作に打ち込んでいた。この展開はミュージカル『M!』にも描かれてたな。聴く者に迎合する音楽ではなく、自らの想いを託した自由な音楽を志したモーツァルト。体を悪くしながらも様々なアイディアを出しオペラ『魔笛』の制作に没頭する彼の姿を目の当たりにしたダ・ポンテはかける言葉を失ってしまう。立ち尽くしたままその現場を見つめる姿はなんとも寂しげで孤独で切なかったです(涙)。
それでも二人きりになった時、ダ・ポンテはモーツァルトに「田舎者のための音楽なんか創るものではない」と吐き捨ててしまう。あくまでも自分の才能を生かし権力者に上り詰めるという野心家としての夢を諦めきれない彼は何とも痛々しい…。その夢に一緒についてきてくれると信じていたモーツァルトは、「もう誰の拍手もいらないんだ」と告げそれを拒んだ(♪僕が拍手するんだ♪)。富や名声よりも”真の音楽家”であることを選んだんだよね…。この時ダ・ポンテはついに孤独になってしまったんだなと思ったら胸が痛みました。「妥協なんかしない」と強がる背中もどこか頼りなく、でも目はギラギラ前を向こうとしていて…それがなお悲しい。

そんな”相棒”にモーツァルトは出会って意気投合していた頃と同じ言葉を贈るんですよね。あのセリフをこの場面で聞くことになろうとは…。心躍るような言葉だったはずなのに、二人の距離ができたことで寂しそうな哀しい言葉に聞こえてなりませんでした(涙)。
さらに心を奪われた恋人のフェラレーゼは縋るダ・ポンテを冷たく突き放し去ってしまった。彼女は彼の立場を利用して名声を得ることに成功したようでしたが、幼い頃に出会ってたエピもあったわけだし少なからず愛情もあったように思いたい(←ただあまり話は膨らんでなかったけど 苦笑)。権力への野心を捨てきれないダ・ポンテと向き合う事に疲れてしまったというのもあるんじゃないのかなぁ…とも。

モーツァルトと決別し孤独な旅を続け闘い続けてきたダ・ポンテ。その最中にモーツァルトの死を知ってしまった場面は哀しかったなぁ…。あんな別れ方をしてしまっただけにその複雑な感情を自分のなかだけに収めることはできなかったのではないだろうか。
自分は彼のようにはならないと無我夢中で再起の道を探り続けたダ・ポンテでしたが、ついに力尽き道端で行き倒れ状態になってしまう。そんな彼を介抱したのが後に妻となるナンシーでした。彼女の包み込むような明るい優しさと出会わなかったら、もしかしたらダ・ポンテも早逝の運命にあったのでは…。権力は握れなかったけれど、運は持ってたのかもしれない。

そして時間は再び冒頭の時代に戻る。ここでナンシーが「私が一番聞きたかった話をまだしてくれていないじゃない」と促します。その違和感は私もここまでずっと持っていて。モーツァルトとの共作オペラはたしか3つだったはずなのに2つしか描かれていないのはなぜかというのが引っ掛かってたんですよね。
それが、クライマックスになってようやく語られることになるわけですが…。それを見て、このエピソードを最後に残していた意味を悟りウルウルっときました。

 どのタイミングでこれが入ってきたんだろう?とは思いましたが(汗)、それ以上にダ・ポンテのモーツァルトに向けた本当の感情が明かされたラストシーンは本当に感動的でしたね。この終わらせ方はドラマチックでとても良かった。

と、全体的にはかなり満足度の高かった音楽劇だったのですが一つだけ…。

あのラストシーンの意味をもっと大きく持たせるためにはあと一歩、ダ・ポンテとモーツァルトの踏み込んだドラマの描写が欲しかったかもしれません。途中でダ・ポンテの若かりし頃の苦い恋愛エピソードが挟まるわけですが、これがちょっと消化不良のまま終わってしまった感も否めず(苦笑)。ダ・ポンテの心の傷と音楽との関連性が殆ど感じられなかったんですよね。
そこに時間を割くなら、もう少しダ・ポンテとモーツァルトの音楽の交流物語に分厚さを加えても良かったんじゃないかなと。それだけはちょっと惜しかったなと思いました。

ちょこっと長くなったのでキャスト感想やカテコ挨拶については次のページにて。

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