音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』2023.07.24マチネ 大阪公演 大千穐楽

主なキャスト感想

ロレンツォ・ダ・ポンテ:海宝直人くん

爽やかな正統派イケメンといった雰囲気が強い海宝くんですが、今回の役柄は女性を手玉に取るペテン師といった素行があまりよろしくないキャラクターwでとても新鮮でした。特に前半多くの女性に愛を囁く歌を歌う場面は面白かった。だけど全然厭らしさはなくて、むしろスコーンと突き抜けた爽やかさみたいな空気を感じさせる。仕草の一つ一つも色っぽく、大人になった海宝直人くんを実感しました(笑)。女好きキャラなのに不快感を感じさせないキャラに思えてしまうのは、やはり彼が演じていたからこそだなと。

それから印象的だったのはです。ダ・ポンテは詩の才能がずば抜けていてそれを武器にのし上がっていくわけですが、ものすごい強烈なギラギラした目をしてて。そんな野心家満々な海宝くんをこれまであまり見たことがなかったのでとても衝撃的でした。しかもその目にちゃんとダ・ポンテが辿ってきた生い立ちのドラマが滲んで見えてるっていうのがホントすごいなと思います。このあたりの演技力はさすが。

モーツァルトと出会い才能を開花させていく場面はエネルギッシュでキラキラ輝いてました。海宝くんの類稀な音楽的才能とダ・ポンテの詩的才能とが融合したかのような光景で、見ていてワクワクしましたね。こういう役どころは本当にハマる。

物語の後半で孤独になり弱さを見せるシーンも非常に印象深かったです。特にナンシーの部屋で人目も憚らずにむせび泣く場面は見ているこちらももらい泣きしてしまったほど哀しく切ない…。あの場面にこれまでのダ・ポンテの感情の全てをぶつけているようにも見えてなんだか胸が震えてしまった。

歌はもう、言わずもがなです。上手いなんてもんじゃない。私は海宝くんは世界でも十分通用するほどの歌唱力と表現力のある役者だと思っているのですが、まさにその実力をいかんなく発揮してくれていたなと。ドンジョバンニの場面のソロは圧巻以外の何物でもない。あれは震えます!!すごかった。

そして何より、海宝くん自身がとても楽しんでこの舞台に立っているなというのが伝わってきたのがよかったかな。大楽ということもありちょっとお遊びめいた仕草もあったらしく(私は初見なのでピンとこなかったけどw)終始生き生きとしてました。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:平間壮一くん

モーツァルトというとミュージカル『M!』での印象が強く平間くんがキャスティングされた時は正直ちょっとピンとこなかったんですが、結果的にはこの作品においては超ハマり役だったなと思います。

なんといってもあの天真爛漫な軽やかさがめちゃめちゃ良かったです。まるで少年のような、音楽と遊んでいるかのような純真さ、そしてピュアすぎるが故の危うさみたいなものを平間くんはとても丁寧に魅力的に演じていました。あのモーツァルトだったら、宮廷に息苦しさを感じ自由に羽ばたきたいと渇望するのも納得です。

海宝くんが演じるダ・ポンテとの相性もバッチリ。二人が新作オペラを創り上げていく場面は実に爽快でお互いにお互いを信頼している空気がすごく伝わってきました。平間くん演じるモーツァルトの無邪気さが海宝くん演じる野心家でギラついてるダ・ポンテを受け止め許容している感がありましたね。「また遊ぼう」ってセリフが特に強く印象に残ってます。時に無邪気に、時に寂しげに聞こえたこの言葉をとても繊細に発していたと思う。

アントニオ・サリエリ:相葉裕樹くん

今回この作品を見たいと思ったのは海宝くんともう一人、相葉くんが出演していたからです。以前『蜘蛛女のキス』での彼の芝居と歌を見て大ファンになり、それ以来舞台を経るごとに進化していく姿を見るのをとても楽しみにしているんですよね(2.5やテニミュは未見なんですが 汗)。

サリエリというと、映画「アマデウス」でのモーツァルトのライバルで彼に嫉妬心を抱いてる人物といった印象が強かったのですが、今回の作品では基本的にはプライドが高くてちょっと人を見下すところもあるんだけど、アッケラカーンとした明るさと軽やかさがあってなんだか憎めない可愛いキャラになっていたと思います。特にダ・ポンテへのこだわりや彼に嫉妬心を持ってしまう場面でプリプリ腹を立ててるシーンはどこか可愛らしくコミカルで面白かったなぁ。

劇中ではちょっとした敵対キャラ的位置ではあったんですが、物語後半でダ・ポンテに「お前はいったい何を成し遂げたのだ?」と厳しく詰め寄る場面は緊張感に溢れていてとても印象深かったです。それまではちょっとコミカルでいじわるなキャラって感じだったけど、あの瞬間だけは”音楽を愛し真摯に向き合うサリエリ”の姿がそこにはありました。この芝居のメリハリの付け方がとても良かった。

あと、何といってもあの聴き心地の良い高めのまっすぐな声が爽快感に溢れていてすごく良いんですよね。どんなに嫌味なキャラっぽい一面を見せても、その声とテンションでちょっとした親近感みたいなものすら感じてしまう。なんというか、少しお間抜けなプライド高い漫画に出てきそうな感じ?厭らしさを感じさせず、むしろ愛らしいとすら思わせるのは相葉くんならではの魅力だなと思いました。

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フェラレーゼ:井上小百合さん

大阪公演中に体調不良で前日までお休みされていたようですが、千穐楽公演に無事出演することが叶って本当に良かったなと思いました。
井上さんは元乃木坂46の一期生メンバーだったとのことで、生田さんと同じ時期に所属したってことになるのかな。現在はシス・カンパニーに所属され多くの舞台で活躍されているようです。

井上さんは今回初めましてだったのですが、豪勢な衣装がとてもよく似合っていて華やかなオーラがありました。フェラレーゼというキャラクターは周りからパッとしないだの歌は音程だけだのかなり酷い評判をつけられてしまっていましたが(汗)、井上さんはそんなことはなく難しいナンバーもしっかり歌いこなしていたし、野心家な一面を持ちちょっとスレた複雑な感情をうまく表現していたと思います。

ダ・ポンテに対しては最初は”女”の顔をしてすり寄っていくものの、最後の最後に斬り捨ててしまう冷酷さを持ったフェラレーゼ。でも実は幼い頃に出会っていて彼の希望になった存在でもあって、彼女はずっとそれを胸に秘めてきたという複雑さがあるんですよね。本当の自分を見てほしいと思いつつそれが叶わなかったことへの虚しさが滲み出ていた場面がとても印象的でした。

ナンシー/オルソラ:田村芽実さん

最近は朝ドラ『らんまん』にも出演して(印刷屋の娘さん)可愛い魅力をお茶の間でも発揮している芽実さん。舞台経験も豊富で最近ではミュージカル『ヘアスプレー』でのハッちゃけたいじめっ娘アンバー役が印象深いです。

今回芽実さんが演じたのは2役。オルソラは若き日のダ・ポンテが初めて恋をした女性で、ナンシーはすべてを失いボロボロに疲れたダ・ポンテを救った女性。この二人のキャラクターを実に繊細に全く違う人物として演じ分けていてどちらも見ていてすごく心惹かれるものがありました。

オルソラは辛い境遇の中でダ・ポンテに出会いそこに救いを見出していた女性でしたが、彼の父親と結婚している身であるが故にほのかに芽生えてしまった恋心を必死に押し殺そうとしている姿がとても切なくて胸が痛みました。一瞬ダ・ポンテのキスに応えてしまう瞬間があったものの、すぐにそれを打ち消すように彼を拒絶した場面はとても人間臭く衝撃的でした。儚い少女のようで”女”の顔も持っていたオルソラを芽実さんさんはとても魅力的に演じていたと思います。

ナンシーは行き倒れたダ・ポンテと出会った頃は明るいチャキチャキとした娘さんといった雰囲気で、オルソラとは全くの別人。戸惑いつつも涙に暮れる彼をそっと見守りながら優しく包み込んでいく雰囲気がとても感動的だった。この女性だったからこそ、ダ・ポンテは彼女を妻にして白髪になるまで添い遂げたのだなというのも納得です。

コンスタンツェ:青野紗穂さん

コンスタンツェもミュージカル『M!』での印象色濃くあって、気が強くて自分勝手な女性といったイメージがあったのですが、今回の作品ではそれとはまたちょっと違った角度で描かれていてとても面白かったです。

青野さんが演じたコンスタンツェはモーツァルトのことをたしかに愛してはいるのだけれど、自分の生活もしっかり守りたいが故に際限なくお金を使い込んでしまうようなキャラクターで。だけど『M!』ほど我が強くはなくてどこかちょっとアンニュイな雰囲気で柔らかく、純粋な夫を受け入れる度量の大きさみたいなものが感じられました。
いつもシレっとした態度を取っていながらも、ダ・ポンテとケンカして悩んでるモーツァルトの心を読んで仲直りさせようと背中を押してやる場面は特に印象的でしたね。

皇帝ヨーゼフ二世:八十田勇一

八十田さんはベテランの俳優さんでお芝居の人という印象が強い方ですね。今回は音楽劇でしたが(八十田さんが歌うシーンは殆どなかったのがちょっと残念)、そのなかでもお芝居の絶妙な間が光っていてとても魅力的でした。

八十田さんが演じたヨーゼフ二世は基本的には穏やかで理解のある人物といった雰囲気だったのですが、飄々としつつもどこか掴みどころがなく御付の人たちがいつも一言一言に翻弄されてオロオロしてる姿が際立っていたのがとても面白かったです。

ダ・ポンテやモーツァルトへの理解も深く、彼らの創作したオペラも受け入れていたヨーゼフ二世。でも、ダ・ポンテの出自がユダヤ人であると知った直後にふと厳しい表情を見せるんですよね。それまではどこかポケ~っとした可愛らしいキャラだったのが、その瞬間に冷たく苦いものへと変わってしまう。ここの表情のお芝居がとてもスリリングで印象深かったです。あの時、皇帝もやはり他の貴族と根本的には変わらないんだなとちょっと背中が寒くなるような感覚を覚えました。

病床のシーンでの八十田さんのお芝居は重みがありながらもどこかちょっとコミカルな雰囲気を醸し出していたのがとても印象的だったし面白かったです。特に、「もう寝る」と言い一呼吸おいてから急に真面目なセリフを言い出したシーンは思わず笑ってしまった。相葉くん演じるサリエリの動揺っぷりの可笑しみが際立ったしね。こういうお芝居の余裕みたいなのはさすがだなと思いました。

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後述

大入り満員とはならなかったものの、カーテンコールはオールスタンディング状態で大いに盛り上がりました。今回は大千穐楽ということで、海宝くんから「キャスト全員からのご挨拶をお届けしたいと思います」とのコメントがあり一旦客席も着席することに。アンサンブルの方の挨拶はなかなか聞ける機会がないので、今回はとても貴重な時間だったと思います。

皆さん、この日本発のオリジナル作品への熱い思いを一言一言丁寧に語られていたのが印象的でした。なかには「これが初めてオーディションに通った作品」と感無量の表情で語ってた方もいて(西尾君だったかな)海宝くんたちも「そうだったんだ!」みたいに驚いた顔をしてたのが印象的でしたね。
あと、井上さんがお休みの間フェラレーゼの代役を演じられていた吉田さん「大変なこともたくさんあったけど、無事にやり遂げられてよかったし何より彼女が楽に戻ってきてくれたのが嬉しい」と感慨深そうに語っていた姿にも胸熱くなりました。それを聞いた井上さんが思わず涙してしまって隣にいた芽実さんや青野さんがウルウルしながら彼女の肩を抱いていたのも感動的だったな。
また、この作品を最後にいったん女優業から引くといった話をされた方もいて(岡本さんだったかな)皆さんそれぞれ熱い思いでこの作品と向かい合っていたんだなぁと感動しました。

メインキャストの皆さんのコメントも個性に溢れてましたね。

八十田さん「みんな本当に温かいカンパニーだったので、皆さんにもパンフレットを見てぜひアンサンブルの顔と名前も覚えてほしい」とコメントしてたのがとても印象的でした。

青野さん「コロナ禍を越えて客席の皆さんの声を直に聴けたことが嬉しい」という趣旨のコメント。あと、井上さんが戻ってきてくれたことが本当に嬉しいと涙ぐんでいましたね。

芽実さんはテンションが高くて面白かったw。カテコの時の衣装は「劇中では3分しか着れないんだけど気に入ってます」とのこと(笑)。最後に客席に向かって投げキス連発してたのが可愛かった!

井上さんはもう挨拶前から涙が溢れてて。特に大阪公演を休演してしまった事をとても気に病んでいる様子でなんだかちょっと気の毒に思ってしまった。そんな彼女をカンパニー皆が温かく受け入れてくれてて優しい空気が流れていたのがとても印象的でした。

相葉くんはめちゃめちゃ明るい爽やか笑顔で、もうその表情見てるだけで幸せになれそうって感じw。「今までのサリエリ像とは違う新しいタイプのサリエリを演じられたことが嬉しい」と満面の笑みで語ってくれてました。そして芽実さんと同じく最後は客席に向かって…今回は「VIVA」連発ww。しっかり浴びてきました(笑)。

平間くん「日本発のオリジナル作品ならではの苦労もあったけれど一人一人の愛が詰まった作品に仕上がったと思う」と感慨深そうに語ってた姿が印象的でした。意見がたくさん出て削らなければならないシーンが出たことへの苦労も語ってて、「それでも皆さんを笑顔にできた作品になったのは良かったなと思います」という趣旨のコメントをしていましたね。熱い思いが伝わってきました。

最後に海宝くん。本当に頼もしい座長っぷりで皆をしっかりまとめ上げてる貫禄みたいなのがすごく感じられました。この作品に関してはやはり平間くんと同じく「日本発故の苦労がたくさんあった」と振れていて。「それでも、時間がきたから帰ろうとか言い出す人が一人もいない熱い稽古場にいられたことがとても幸せだった」という趣旨のことを感慨深そうに語ってた姿がとても印象に残りました。逆に、他の稽古場では帰宅時間優先する人もちょいちょいいるんだなとも(汗)。海宝くんが立派に見えたのは、色々な現場を経験したからこそなんだろうなと胸が熱くなりました。
最後に「オリジナル作品をこのカンパニーと一緒に創り上げられたこと、お客様にそれを見ていただけたことが何よりも嬉しい」としっかりした口調で挨拶していた海宝くん。本当に頼もしかった!

カンパニーの皆さん、本当に素晴らしい舞台をありがとうございました!

今回は大千穐楽1度きりの観劇になりましたが、またいつかブラッシュアップさせたこの作品を見てみたいなと思います。

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