全国公演が始まった劇団四季ミュージカル『エビータ』を観に神戸三宮まで遠征してきました。
兵庫県の舞台というとこれまでは西宮にある兵庫芸術劇場へしか行ったことがなかったので、神戸の中心街(三宮駅前)にこんな立派なホールがあることを知りませんでした。座席や音の響き具合なども問題なく、非常に良い観劇ができました。
昨2018年に亡くなられた劇団四季創立者の浅利慶太さんの追悼公演として、今年の春から5作品が上演されることになりました。
劇場ロビーには、在りし日の浅利慶太さんの写真パネルと小さな白いお花がお供えしてありました。
その第3弾として始まったのがミュージカル『エビータ』です。
東京の四季劇場・愛知の名古屋での公演が終わったあと、8月から全国ツアーが始まりました。神戸公演は9都市目。12月末まで予定が組まれているようなのでまだまだ先は長い。
で、ちょうど最初に全国の予定が発表されたとき、四国での公演地がなかったんですよね。もしかしたら今回は四国に来ないんじゃないか!?と焦りを感じて思わず確保したのがこの日のチケットですw。神戸ならバスで比較的近く出て行きやすかったのでね。
でも、後日ちゃんと四国(香川)の予定もちゃんと入ってて…そちらのチケットも取らねばなぁと(笑)。
以下、ネタバレを含んだ感想になります。
2019.09.11マチネ公演 in 神戸国際会館こくさいホール(神戸)
主なキャスト
- エビータ:谷原志音
- チェ:飯田洋輔
- ペロン:北澤裕輔
- マガルディ:日浦眞矩
- ミストレス:平木萌子
アンサンブルキャストのなかに鈴木涼太さんの名前があったのは少し驚きました。涼太さんといえば、四季の作品ではここ最近はほとんどプリンシパル級のキャラクターを演じる役者さん。それが今回アンサンブルでの参加とは!それだけこの作品に対する思い入れが強いってことなのかな。
涼太さんはアンサンブルにいてもすぐにどこにいるか分かってしまうw。特に印象的だったのがエバが忌み嫌う上流階級の役のとき。シルクハットにタキシード姿・・・もう、ラウルにしか見えない(笑)。
あと、女性のアンサンブルキャストには『壁抜け男』にもメインで出演していた久居史子さんの名前もありました。久居さんといえば、かなり前にエビータを見た時はミストレスを演じられていたんですよね。何だかちょっと懐かしく思い出してしまった。
あらすじ・概要
アルゼンチンの田舎町で育ったエバは、出会った男たちを踏み台にして大統領夫人にまで上り詰めました。そんな実在した彼女の激しくも短い人生をミュージカル化したのがこの作品です。
作詞はティム・ライス、作曲はアンドリュー・ロイド・ウェバー。今年惜しまれつつ亡くなったハロルド・プリンス演出で1978年にイギリスのウェストエンドで開幕しました。ティム・ライスとロイド・ウェバーが組んで最初に成功したのが『エビータ』だと言われています。
1996年にアメリカでマドンナ主演として映画化され、翌年には日本でも上映され話題となりました。
DVDやCDは現在のところ輸入盤のみになってるようです。
ちなみに私はこの映画を見た時、チェ役のアントニオ・バンデラスに一目惚れしましたww。めちゃめちゃカッコいいんですよ、ホント!!
四季のエビータは浅利慶太氏の演出で上演されています。簡単なあらすじは以下の通り。
1952年7月、大統領夫人エバ・ペロン死去。享年33歳。
厳かに運び込まれる彼女の棺。エバの国葬が行なわれている。国民は希望を失い、悲嘆に暮れている。
その傍らには、この狂乱を冷ややかに眺めているチェの姿があった。
チェは思っていた。
エビータと呼ばれ愛されたエバ・ペロンは、祖国アルゼンチンと、民衆の期待を裏切って、自分ひとりが栄華をほしいままにして、今、世を去ったと。エビータは、1919年5月7日、ブエノスアイレスから150マイルほど離れた、パンパ(アルゼンチン地方特有の草原地帯)の寒村に生まれ、エバ・マリア・ドゥアルテと名づけられた。私生児だった。
1926年、幼い頃から貧困とその惨めさを嫌というほど味わってきたエバ。貧しさゆえ、私生児ゆえに蔑まれた経験は、彼女の中で中流階級への敵意となって根付いていった。
富と名声に憧れ、首都ブエノスアイレスに思いを馳せるひとりの少女が、そこにいた。1934年エバ15歳。生まれ故郷のナイトクラブで知り合ったタンゴ歌手、マガルディと共に、都会ブエノスアイレスに出て来た。野心を抱いたエバは、男から男へと渡り歩きながら人生の階段を登っていく。
ラジオを通じてスターとなったエバは、福祉大臣ペロンとチャリティ・コンサートで出会い、たちまち意気投合。1946年、労働者の心を掌握したペロンは大統領に就任、エバも念願のファーストレディの座を手に入れる。
死を目前にしたエバの脳裏を、過ぎ去った様々なできごと、栄光に満ちた日々、様々な人々の姿がよぎっていく…。
公式HPより抜粋
破竹の勢いで頂点まで駆け上がっていったエバ・ペロンの栄光と挫折が描かれたミュージカルです。
全体感想
最後に『エビータ』を観たのはいつだったか…、でも、最近見ていたような気もするし…と考えてハッと気づいたのが、昨年の来日版。ラミン・カリムルーさんのチェを観たいがために東京遠征して来日版の『エビータ』を観たのを思い出しました。
日本限定でラミンがチェを演じてくれたんですよね。もうほんと、めちゃめちゃ素敵だった!!
で、四季の『エビータ』を観たのはいつだったか遡ってみたら…2006年がたぶん最後だったことが判明(汗)。
四季が再演したのは今回で7年ぶりとのことですが、私はなんと13年ぶりだったということか(汗)。自分で言うのも何なんですがw、そんなに長い間見に来てなかったとはちょっと驚きw。
でもそれには理由もあって。実は私、四季の演出版『エビータ』があまり好みではないんですよね。だからあえて来なかったというのが正直なところ。
浅利演出版ですが、けっこうシンプルで殺風景な印象が強い。分かりやすいと言えばそうなんですが…特にエバが病に倒れてからの展開は暗く湿った雰囲気になるので、演出がシンプルすぎるとちょっと退屈に思えてしまうんです。ラストシーンとかね(苦笑)。
その点、映画のほうがドラマチックに描かれてるし音楽も重厚なので最後まで惹きつけられるものがある。そういった意味で個人的には四季版よりも映画版の方が好みだったりします。
長らく四季演出バージョンを観ていなかったので記憶が乏しく(汗)、舞台セットとかは新鮮に思えました。特に白い巨大な曲線状の壁が場面ごとに回って色々な魅せ方をしていたのは面白かった。なんか、『マンマ・ミーア』の壁を思い出してしまったww。マンマの時もああいった巨大な白い回る壁が出てくるので。
今回の壁の使い方で巧いなと思ったのは♪虹の歴訪♪シーン。
エバが国際親善を目的として一人ヨーロッパを旅するシーンがあるのですが(実際は自分の価値を高めるためという強い野心があってのことですが)、白壁に実際にエバ・ペロンがヨーロッパを訪れている折の映像が流れていました。これが流れることによって、シンプルな演出に臨場感が加わり厚みが出ていたんじゃないかなと思います。
実際のエバの映像が流れることによって信憑性みたいなものも増しますよね。以前もこんな演出だったっけ??ほとんど覚えてない(苦笑)。
あと演出で少し驚いたのが、エバがバルコニーで♪共にいてアルゼンチーナ♪を歌う場面。
以前観た時は舞台の上の高い位置からエバが演説して、群衆がそれを見上げる形でハンカチを振るといった感じだったと思うのですが(たしか来日版もそうだった)、今回は群集役のアンサンブルさんたちのうちの半分が中央客席前方から中程にかけての通路にワーッと駆け出してきて舞台中央でせりあがったエバを見守り熱狂するというスタイルになっていました。
基本的に四季ではあまり客席を使った演出はしないものが多かったと思うので(ライオンキングくらいかなぁ)今回の客席降り演出はちょっとビックリしました。でも、そうしたほうが観ている私たちも群衆と同じ気持ちでエバの演説に熱狂しているという臨場感があってよかったと思います。客席参加型みたいな雰囲気があってちょっとテンション上がりましたw。
以前私が観た時にはそんな演出ではなかったような気がするんだよなぁ…。忘れてるだけかもしれないけど(笑)。個人的には客席降り演出はあまり好きな方ではないけど、今回のように舞台を大きく臨場感たっぷりに魅せる効果があるものは好感が持てます。
四季のエビータで退屈してしまう場面は、個人的には「椅子取りゲーム」「ミストレスを追い出すシーン」「病に倒れてから亡くなるまで」の3つなのですが(苦笑)、エバがのし上がって頂点に達するまでのシーンは好きなものが多いです。
♪ブエノスアイレス♪、♪ニュー・アルゼンチーナ♪、♪金は出て行く湯水のように♪の3つは特にお気に入り。見ていて思わず体が動きそうになる衝動すら起こる、テンション上げ上げなナンバーとダンスが素晴らしい!!ここは映画よりも舞台の方が好きですね。自分の中の熱いものがグワーーっと登っていくような感覚にさせられます。
特に♪金は出て行く~♪が個人的ベストナンバー。シーンタイトルの日本語訳は何だかちょっとイケてない感じですがww、貧しい人たちに金持ちからぶん取った金をばら撒き配るエバやそれに熱狂する群衆たちのエネルギーはとてつもない爆発力がある。
これを聴くためにお金払ってると言っても過言じゃないくらい好きなナンバーです。
ただ、ここが終わると急速にエバがトーンダウンしていきますからね(汗)。金のばらまきが彼女にとっての最高のピークだったわけで、そこを過ぎるとどんどん体が病に蝕まれて衰退していってしまう。エビータという人は、あまりにも激しく生きすぎた故に燃え尽きていくスピードも速かったのかもしれないなと…ちょっと切ない気持ちにさせられました。
終盤はひたすら暗い(汗)。ステージの上もすごくシンプルでほとんど何もない。
そこに、彼女の命が消えていくかのごとく天から花弁がヒラヒラ落ちてくる演出は幻想的で美しいのですが…ここからがどうにもちょっと暗すぎてねぇ。疲労が残る体で観に行くと見ているこちらの電池も切れそうになってしまうかも(苦笑)。
久しぶりに四季のエビータ見たけど、やっぱりラストシーンだけはちょっと退屈に思えてしまったのでした(汗)。
キャスト別感想
谷原志音さん(エビータ役)
谷原さんはこれまで「リトルマーメイド」のアリエルなど、可憐で可愛い少女の役が多かったと思うのですが、今回のエバ役はその真逆を行くタイプ。志音さんの引き出しの中にはこんなにも激しいものがあったのかと非常に驚かされました。
これまでエビータ役は野村玲子さんでしか見たことがなかったのですが、その時に感じた激しさを超越するような迫力があって終始圧倒されっぱなしでした。とにかく歌声の力強さがハンパない!!まさに野心の女・エビータという色合いがとても濃かったです。
特に♪共にいてアルゼンチーナ♪のナンバーでのエバの二面性を見せる芝居はすごかった。さっきまで「共にいて」と群衆に涙を見せていたのに、それが終わるや否や「勝った!!」ってすごい目をぎらつかせながら歌ってて。あれは正直、こわっっ!!って背筋寒くなりましたよw。
そんな激しい気性を前面にガーーーっと押し出したお芝居だったので、病魔に侵されて命の火が消えようとしているときでも、なんか、目を見開いて復活してしまうんじゃないかとすら思ってしまった(笑)。
玲子さんのエビータも迫力あったけど、志音さんのほうが力強さは上だったかな。
飯田洋輔くん(チェ役)
何を隠そう、あまり好きではなかった四季の『エビータ』に足を運ぶ気にさせられたのは、洋輔くんがチェ役に抜擢されていたからです。これがなければたぶん観に行ってなかったw(しかも神戸までだし)。
それにしても、まさか洋輔くんがチェ役に選ばれるとは…正直ちょっとビックリしました。エビータの中だったら…どちらかというとペロン役の方が近いかなって気持ちもあったのでね。
以前、どこかのトークの中で「今までとは違う激しい役を演じてみたい」って語ってたことがあったのでチェ役に抜擢されたと知った時にはファンとしてものすごく嬉しかったです。これまで見たことのない洋輔くんに会えるかもしれない!ってテンション上がりましたよ。
ただ、四季は直前までキャストを発表してくれないので(苦笑)私が確保している日に出演があるかどうかはギャンブル状態w。なので、今回会うことができたのはとても嬉しかった。
最初に洋輔くんが客席からチェとして舞台に上がって♪こいつはサーカス♪を歌い出した時にはなんか、感極まって思わず涙目になった。いつものまろやかな歌声からちょっと棘が加わった攻めた歌い方。ソンダンのときにもチェのナンバーなどちょっと激しめなの歌ってたから、その時の経験がここで生きてるなぁって思いました。
それに、歌詞もとても聴き取りやすい。四季の発音法は独特で違和感覚える役者も多いんだけど、洋輔くんは実に上手く使いこなしてるんじゃないでしょうか。
これまで私が観てきたチェというキャラはエバに対して皮肉の想いしか抱いていない印象がとても強かったんですが、洋輔くんが演じたチェはそれだけではなくて激しい生き方をするエバを気遣うような…見守るような…ちょっとソフトな一面をチラチラと垣間見せていたのが非常に印象的でした。これは新しいチェの解釈ではないかなと。
特に♪空を行く♪のシーンでは、エバを皮肉りながらもどこか彼女の生き方を心配しているような、軌道修正させたがってるかのような、そんな空気を感じたかな。何だかとても新鮮だった。
軍人さんたちとのダンスではちょっと動きがもっさりしてる感じだったけど(笑)洋輔くんならではの新しいチェの形を観れたことは本当にとても嬉しかった。
『エビータ』はあと2-3回予定しているので…なんとかまた洋輔くんのチェに会いたいですっっ!!もっと見たいもの!!
北澤裕輔さん(ペロン役)
北澤さんは『ウィキッド』のフィエロ役を観た時からファンだったので、今回ペロン役で会えたことはとても嬉しかったです。北澤さんもどちらかというと紳士やイケメン枠での出演が多かったと思うので軍人大統領のペロンというのはあまり見られない役柄だなと思いました。
太い歌声の北澤さんも初めて見たので思わず「こんな声も出るのか!」と驚きましたね。新しい一面が観れてワクワクさせられました。
それにしても、大人の男の色気がすごかったな~~!特に冒頭でエバの棺を見つめているときの表情がめちゃめちゃ色っぽくて思わずドキリとさせられてしまった。静かなたたずまいに思わず引き込まれました。
あと、♪エリートのゲーム♪での貫禄もすごい。北澤さんってあんなにどっしりとした雰囲気だったけ!?とちょっと驚いてしまった。でも、最後のイスにズルして座る場面は、なんか、とても、可愛らしい(笑)。音もなく優雅にちょんって横を向いて座るんですが、あんなに可愛いペロンは初めて見たぞww。
キャラクターとしてはドッシリしているんだけど実際のところは何を考えているのかよく分からないタイプって感じだった。頂点への野心もあるんだけど、エバに背中を押されなければ大統領まで上り詰めずリタイアしていた可能性も高い。「大統領にならなくても、君とコーヒーを飲んでいた方が性に合ってる」みたいな弱気な態度も見せるんですが、実際のところはどう思っているのかイマイチ読み切れない、ちょっとミステリアスな雰囲気だったのが印象的でした。
日浦眞矩さんは初めて見る役者さんでしたが、色気ムンムンで野性的で歴代マガルディのなかでも一番カッコいいと思えたキャラだったかもしれない。♪星降る今宵に♪のナンバーのネチッこい歌いっぷりも圧巻で「俺が俺が」的な雰囲気が滲み出てたのが面白かった。
平木萌子さんも初めて見る役者さんでしたが、北澤ペロンが選んだ愛人というのが納得いくようなちょっとミステリアスで可愛らしいミストレスだったと思います。歌声も綺麗でした。
後述
四季の『エビータ』は久しぶりの観劇でしたが、いろいろ新しい発見もあったりしてとてもいい観劇となりました。
が!!ひとつ残念なことが…。なんと、舞台中にも拘らずおもむろにスマホを取り出して写真撮ってた人を見てしまったんです。2幕とカテコで。ちょうどスマホの明るさが目線に入ってくる位置で…あまりにも堂々とやってるから気になって仕方なかった。
劇場係の人!!!ちゃんと見てっ!!!
いかなる場合も、劇場内での写真撮影は御法度です。ダメ、ゼッタイ!!
これがホントに残念だった。次の観劇のときにはそんな人に遭遇しませんように…。