劇団四季ミュージカル『ジーザス・クライスト=スーパースター』大阪公演

劇団四季ミュージカル『ジーザス・クライスト=スーパースター ~エルサレムバージョン~』大阪公演を観に行ってきました。2月から3月にかけての全国ツアー公演でしたが、どうにも四国までは来てくれないようだったので😅、遠征という形になりました。

2018年に入ってようやく2本目の舞台観劇(汗)。遠方地ゆえになかなか劇場まで足を運べないのですが、久し振りに見るとやっぱり血湧き肉躍るというか…あぁ、観劇が好きだなぁとシミジミ実感してしまいますね。

今回の上演地は四ツ橋と本町の間にあるオリックス劇場です。観劇の本拠地が関西中心になってから早4年弱になりますが、行ったのは今回が初めて。2012年にオープンしたということもあり、劇場内はとても綺麗で真新しい感じがありました。
コンサートホールにも使われるということで、客席数は多め。これまでジーザスはどちらかというと自由劇場のような小規模な場所での上演が多かったので、久し振りにだだっ広いエルサレムの荒野を見たなと思いました(笑)。

ちなみに販売はパンフレットのみ。四季の会会員価格もなく普通金額での購入となりました😅。

以下、ネタバレを含んだ感想になります。

 

スポンサーリンク

2018.02.22~02.23マチネ公演 in オリックス劇場(大阪)

主なキャスト

  • ジーザス・クライスト:清水大星(22日)・神永東吾 (23日)
  • イスカリオテのユダ:佐久間仁(22日)・芝 清道(23日)
  • マグダラのマリア:谷原志音(22日)・山本紗衣 (23日)
  • カヤパ:高井 治
  • アンナス:吉賀陶馬ワイス
  • 司祭1:佐藤圭一
  • 司祭2:賀山祐介
  • 司祭3:高舛裕一
  • シモン:本城裕二
  • ペテロ:五十嵐 春
  • ピラト:山田充人
  • ヘロデ王:阿部よしつぐ


2月22日(木)マチネキャスト


2月23日(金)マチネキャスト

 

全体感想

『ジーザス・クライスト=スーパースター』(以下JCS)アンドリュー・ロイド・ウェバー(作曲)とティム・ライス(作詞)が手掛けた一番最初のミュージカルです。1971年初演(日本初演は1973年)ではありますが、40年以上経った今でも全く色褪せず観る者に衝撃を与えるものすごい作品だと思っています。
私が一番最初にこの作品に出会ったのが、四季劇場・秋(もう取り壊されたようですが)のこけら落とし公演。オープニングから度肝抜かれまして…衝撃のあまり口が開いたまましばらく見入ってしまったくらいだったんですよね(笑)。それくらい、月日が経ってもパワーを感じさせられるのがJCSの魅力だと思います。

物語は、ジーザス・・・つまり、イエス・キリストが十字架で処刑されるまでの最後の7日間を描いています。
イエス・キリストというと、「神の子」という神聖なイメージが強いと思いますが、この作品ではジーザスを一人の悩める青年として描いていて、感情移入しやすい設定になっています。私は10年以上キリスト教関係の学校に通い続けていたのですが(信者ではないです)、そこで教えられてきた「キリスト像」というのは無機質でこの世の者ではないというか…”お慕いする”といった対象に思えなかったんですよね。それが、このミュージカルを初めて見た時にこれまで抱いていた「キリスト像」がガラリと変わって衝撃を受けました。学校に通っていた時にこの作品に出会っていたら、イエス・キリストに対してもっと違う目で見られたかもしれないのに…と想うと何だか口惜しかったのを覚えています。

最後の7日間だけを描いているので、キリスト教に全く触れたことがない人はちょっと分かりづらい部分もあるかもしれません。分からなくても、音楽だったり『ジーザスとユダ』の関係性を中心に見ると舞台に惹きこまれるところはあると思うのですが・・・もっと分かりたいと思ったら、少しネットなどで予備知識を入れてから観に行くのもいいかもしれません

始めは民衆から熱狂的に支持され慕われていたジーザスですが、病人を治癒する不思議な力は最後の日が近づくにつれて衰えていきます。それでもジーザスは人々の想いに応えようとしていて、弟子のユダはそんな彼の姿に違和感を覚え裏切り行為へと走ってしまう。
そしてついにジーザスは人々の要望に応えることができなくなり、それと共に民衆の心も離れ・・・やがて排除運動へと転換していってしまう。こういう結果が見えていたジーザスは「なぜ自分は死なねばならぬのか」と苦悩しますが、神の御心のままにと結局はその運命を受け入れていきます。
ユダは葛藤に葛藤を重ねながらも、金の誘惑に負けてジーザスを裏切る。しかし、ジーザスへの思慕の念は彼の中に生き続けていたために、自分自身を呪いながら悲しい結末へと向かっていくのです。

この作品の主人公はジーザスとユダですが、群衆も極めて大きな存在感を放っています。一番最初に何にビックリしたかといえば、群衆たちの圧倒的なパワーだったんですよね。
序盤から中盤過ぎまでは狂信的にジーザスを崇め奉っているのですが、一人一人から湧き上がってくる強烈な信仰心は観る者の心に突き刺さるものがあるんです。ここまで熱狂的だった群衆が、ジーザスの特殊能力がなくなったことをきっかけに手のひらを返したように蔑み排除しろという方向へと転換してしまう。人間の愚かさをまざまざと見せつけられているようで、ジーザスが逮捕された後の展開は、なんだか自分自身の中にある弱さを見つめ返すといったような気持になります。それだけに、十字架にかけられたジーザスが最後に発する「彼らは何をしているのか、わかっていないのですから」という言葉が重くずしりと響いてくるんです。

これだけ書くとけっこう重いストーリーと捉えられてしまうと思いますが(実際明るい話ではありませんが)、それを重いだけにせずガツンと心をとらえて離さないようにしてくれるのが、ロイド・ウェバーの攻める音楽です。
今回久しぶりにJCSを観劇しましたが、やっぱりこの作品の音楽は素晴らしい!!観ていて心の中が弾けて踊り出すような感覚にさせられる。登場人物の気持ちの高ぶりや苦悩を的確に捉えた、激しくも訴えかけてくるあの旋律は思い出すだけでも胸が熱くなります。これがデビュー作だっていうんだから、やっぱり彼は天才だなと改めて思いました。

唯一ともいえるバラードのマリアが歌う「私はイエスが分からない」や、コミカル調で異質な空間を作り出す「ヘロデ王の歌」、そして地獄へ落ちたユダが美しいガールズたちを従えてノリノリのロックで歌いだす「スーパースター」は、たまに巷でもBGMとして流れてくるような有名曲なので、聞いたことあると思う人も多いのではないでしょうか。
ちなみに私が一番テンションが上がる歌は「狂信者シモン」「ゲッセマネ」。この2曲は不動!!さらに好きなナンバーが「何が起こるのか教えたまえ」
♪なんの、ざわめきですか?何が、起きるのですか?おしえてください♪
っていう群衆の矢継ぎ早な問いかけの旋律が聞いていてなんだかクセになるんですよね(笑)。あと、マリアから♪苦しむのはおよしなさい♪と諭されるときの不思議な旋律も好きです。とにかく、この作品、聴き応えのある音楽がてんこ盛りなんですよ!!なので何度も観に行きたくなっちゃうんですよねぇ~。

そして、もう一つ何度も観に行きたくなるポイントが、ジーザスとユダのドラマです。
特にジーザスとユダが本音をぶつけ合う場面はJCSの中でも肝となっている部分でもあるんですが、今回のツアー公演での二人のやり取りは見ていて久しぶりにシビれました!特に清水ジーザスと佐久間ユダのぶつかり合いは「愛するが故に噛み合わない2人の心」が顕著に感じられて、久し振りに”あぁ、こういう感情のぶつかり合いが見たかったんだ!”と心揺さぶられました。
ジーザスを愛していたが故にその行動を思いとどまらせようと裏切り行為に走ったユダと、そんな弟子の気持ちを理解しながらも裏切られたショックを隠し切れないジーザス。今回美術スタッフの方が「これはジーザスとユダの愛の物語でもある」って仰っていたのですが(こちらのレポはまた後ほど)、それが一番強く感じられるのがこの場面なんですよね。めちゃめちゃ切ないんです、ジーザスとユダの関係って…。

捕えられたあとのジーザスはもう、痛々しいの一言ではあるんですけど(鞭打ち39回シーンとか)、その果てのラストシーンの十字架はただただ息を呑むような美しさが感じられます。
十字架を立てる場面は今回も観ていて「ちゃんと穴にはまるんだろうか」みたいなドキドキ感があったんですが(兵士役の皆さん、本当に毎回お疲れ様です 汗)、徐々に明かりが暗くなってマリアや弟子たちが静かに泣きながら見守るラストシーンは、もう何も言葉がいらないって感じになる。光の使い方がとにかくものすごく印象的。大きな見どころでもあるので最後までぜひ注目していただきたいポイントです。

 

主なキャスト別感想

2月22日(木)マチネ

清水大星くん(ジーザス)

このツアー公演からジーザス役に抜擢された清水君。彼は『ノートルダムの鐘』でフィーバスを演じていたことしか知らなかったので、いったいどんなジーザスなのだろうと興味津々でした。実は22日は観劇予定になかったのですが、週明けのキャスト発表を見て急きょお泊りコースでこの日を入れてしまったんですよねw。久しぶりに登場した新キャストですから、ここはやっぱり見ておきたくて。
清水ジーザス、私はものすごく好感度上がりましたよ!!フィーバスのときにはそんなに心が動くキャラじゃなかったので正直ちょっと不安はあったんですけど(ごめんなさい 汗)、こんなにもジーザス役がハマるとは思いもよらず嬉しい発見となりました。

彼の何が素晴らしかったかというと、まずですね。もともと良い歌声だなぁと思っていましたが、ジーザスになるとそれがますます抜きん出ていて・・・「こんなに伸びのある良い歌うたえるんだ!」と驚きました。特に【ゲッセマネ】のナンバーは圧巻の一言です。歌いながらも感情がほとばしっていて…ものすごく胸打たれるものがありました。

そしてもう一つ個人的好みだと思った点は、ジーザスの感情表現の芝居です。
私は秋劇場のこけら落とし公演で初めて見た時の柳瀬大輔さんのジーザスがものすごく好きだったんですよね。凛として周囲を制するようなオーラを持ちつつ、内に秘めた苦悩や葛藤をチョイチョイ表に出してくるような…いうなれば、分かりやすい人物像を見せてくれていたんです。なので、そういったジーザスの痛みに観ているこちらも共感して涙することも多かった。柳瀬さんが退団されてからのジーザスもそれぞれ素晴らしかったのですが、正直私の好みとするタイプではなかったんですよね。
それが、ここにきて、やっとその片鱗を感じさせる清水ジーザスに出会えた気がして本当に嬉しかった。清水君のジーザスはカリスマ性を見せながらも感情を割と表に滲ませるタイプで、ゲッセマネを歌っているときには内から湧き起るどうしようもない絶望感をガーっと出してきて涙も見せていた。あの激しさが私はものすごく好きだし本当に感動しました。
さらに、ユダに感情をぶつける場面・・・柳瀬ジーザスの時に毎回泣かされてきたあの芝居が思わず蘇ってくるような演じっぷりで・・・私、久し振りに涙出ましたよ・・・。特に、「ここを出ていけばいい、さぁ!!」と言って倒れこむ場面で清水ジーザスは目にいっぱい涙をためていました(泣)。実に人間らしい・・・!こういうジーザスに会いたかった。

まだ粗削りな部分や未完成な感情表現かなって思える部分もあったけど、将来的に、かなり私好みの完成されたジーザスになる予感がプンプンしました。今後も期待してます!!頑張れ、清水ジーザス!!

 

佐久間仁くん(イスカリオテのユダ)

私が急きょ遠征した理由のもう一つが、新・ユダの佐久間くんを観たかったことです。佐久間くんも『ノートルダムの鐘』でフィーバスを演じていて、その感情表現の芝居に大いに感銘を受けたんですよね。ちなみに今回の清水君との共演はWフィーバス。ノートルダムでは同役の二人を同時に舞台の上で見られるのも楽しみの一つでした。
佐久間くんは最初、ジーザスもイケるんじゃ?と思っていましたが、とある情報筋によれば彼はユダを熱望していたそうで。つまり今回は念願かなっての配役ですよね。

フィーバスのイメージが強かった佐久間くんだったので、今ひとつユダの想像がつかなかったんですが、今回実際に観て・・・あぁ、こういうスレたタイプの役もハマるもんだなぁと好感触を持ちました。声質はちょっと、キムスンラさん(一時期は金森勝さんと名乗ってましたが)に似てる感じかな。
清水ジーザスが朗々と伸びのある美声を響かせていたこともあって、歌唱力という点ではちょっと佐久間くんは弱いかなぁと思う部分もあったんですが、ユダは基本的にガンガンとロック調で歌うナンバーが多いので特には気になりませんでした。でももう少し強めに押し出すような勢いで歌ってもいいかなって思う部分はいくつかあったんですけど…そこはたぶん演じる回数重ねていけば良くなるんじゃないかな。

佐久間ユダの何が一番よかったかといえば、やっぱり表情の芝居です。彼の芝居での表情の作り方は実に繊細で観る者にもわかりやすい。
特にグッと来たのが、冒頭でジーザスを批判した時の場面。女たちが高い香油をジーザスに使っているのを見て「貧しいものを救うことが何より大事なのだ」と咎めても逆に「貧しい者を救えると思うのか」と言い返されるユダ。マリアたちにジーザスが導かれて去っていくとき、佐久間ユダは捨てられた仔犬のような目をして立ち尽くしていたんですよね…。あの表情見た時、ものすごくキュンときましたよ(涙)。明らかにあの時、ジーザスに捨てられたと感じて裏切りに走るんだなっていう予感ができる表情だった。

そして、あの、ジーザスとの本音をぶつけ合う場面。「私が今見捨てるのはあなたの望みなのだ!」と叫ぶときは涙の絶叫…。ジーザスを責めながらも必死に自分の想いをぶつけている姿が痛々しすぎて涙が出ましたよ(泣)。裏切りに走り去る瞬間まで、ユダの心の痛みがこれでもかってくらいにストレートに見ている者に訴えかけてくるようで…清水ジーザスの痛みも感じつつ本当に泣けました。
佐久間ユダは今まで見てきたユダと比べても、心の繊細さが緻密なような気がしましたね。たぶんそれはまだ演じてる佐久間くんが初々しい部分を併せ持ってるからだとも思うんですけど、繊細で痛々しい惨めなキャラがかえって浮き彫りになっていて…私は感情移入ものすごくできたし愛しく思いました。

クライマックスの自殺場面とスーパースターはまだちょっと慣れていない感じも否めなかったけど、回数を重ねていけばもっと私好みの痛々しくて泣けるユダへと成長していくんじゃないかなと思います。今後も大いに期待してます!!

 

谷原志音さん(マグダラのマリア)

谷原さんのマリアも今ツアー公演からの登場ですね。谷原さんといえば『リトルマーメイド』でのアリエルといった印象が強いんですけど(ちなみに私はこの作品が好みに合わなかったので1度しか見てませんが 汗)、綺麗な歌声をしているのでマリアは適役だなと想っていました。
ちなみに、ここでいう「マリア」はイエスの母親のほうではなく、娼婦でかつてイエスに救われたことのある人物です。”罪のない者がいれば石を持て、この人を打て!”というジーザスの歌詞がここでも出てきますが、聖書では民衆から蔑まれたマリアをイエスが庇う時に言い放った言葉として出てきます。(モーセの教えでは娼婦は石を投げられてしかるべき存在とあったようです)

いつもジーザスの傍に控えて彼の気持ちを落ち着かせるマリアですが、谷原さんはまさにその役に適任。傍にいるだけで癒されるような雰囲気を醸し出してました。丸く柔らかい印象って感じだったかな。
【私はイエスが分からない】のナンバーも柔らかくも強いマリアの意思が感じられる歌声でとても良かったです。恋をする女を感じさせてくれました。

 

2月23日(金)マチネ

神永東吾くん(ジーザス)

久しぶりに神永ジーザスを観ましたが、貫録がついたなぁというのが第一印象です。神永君のジーザスの魅力といえば、とにかくカリスマ性が全身からあふれ出てること。芸名に「神」がついているだけあって、彼のジーザスは本当に登場した時から神々しいです。
そのためか、表情はあまり大きく変わらないんですよね。常にどこか遠くの方を見ている感じ。周囲の声も受けている感じではなくて流しているような雰囲気かな。

今回神永ジーザス見て思ったのが、「カリスマ」に知らず知らずに持ち上げられてしまった悲劇の青年像です。自分ではそんなつもりはなかったのに、いつのまにか熱狂的に祭り上げられる存在になってしまったことへのやるせなさというか、哀しみみたいなものが感じられて切なくなってしまいました。この世ではないところに向いているかのような、あの視線が・・・特にグッとくるんですよね。
これまでは、あまり表情が変化しない神永ジーザスに物足りなさを覚えている部分はあったんですけど、今回はこういった発見があったので以前よりも受け入れて見ることができたかもしれません。ただ、感情表現の点からいうと、清水ジーザスの方がやはり私の好みかなぁ。「静」を貫いているような神永ジーザスも魅力的ではあるんですけど、これはもう好みの問題。

歌声は以前よりも太く貫禄のある伸びのある歌い方になってて素晴らしかったです!あの歌声だけで周囲を制してしまう迫力がありました。今まで見た中では一番熱い神永ジーザスだった気がします。

 

芝清道さん(イスカリオテのユダ)

私が最初にJCSを見た時からユダを演じ続けている芝さん。もうベテランのユダで、貫録十分でしたね。さすがです。一時期ジーザスを演じられていたことがありましたが(当時、ご本人的には突然役替えを言われて衝撃だったと戸惑いを告白されてましたがw)、やっぱり芝さんはジーザスじゃなくてユダのキャラだなということを再確認しました。

「静」を貫いているイメージの強い神永ジーザスとのコンビだったこともあって、芝ユダの必死の訴えがスルーされていくことへの苛立ちというものがより顕著に見えた感じがありました。言葉をぶつけても手ごたえがなく、次第に哀しみ、絶望、裏切りへと走っていくまでのユダの感情の動きがとてもリアルで痛々しかった。このあたりの感情表現は、さすが長い間ユダを演じられてるだけあって深みがありましたね。

芝ユダの真骨頂は、自殺の場面だと思います。ジーザスとぶつかり合う場面もグッとくるのですが…個人的には芝ユダと柳瀬ジーザスの身を焼くような激しさが一番印象深いものがあったので、それと比べると今回はやはりちょっと薄く見えてしまう。
拷問を受けるジーザスを目撃して、自分の犯した行為に耐えられなくなったユダは「神」に切々と訴えます。「なぜ、あなたは、私にこの役目を与えたのか」と。もうこの問いかけの時の芝ユダは見ていて涙が出るほど切なくて痛々しいんですよ(涙)。「なぜだ」と繰り返しながらエルサレムの荒野に消えていくシーンは思い出すだけでも辛いです…。ここの魅せ方は本当に芝さん上手いなぁと思いました。
(イエスを裏切ったユダはその罪の意識から自らの命を絶ったと聖書にはあります)

ベテランの貫禄たっぷりな芝さんのユダでしたが、ジーザスの年齢が若くなっていることもあってちょっと年齢差も感じることもあったり(汗)。歌声も少し弱くなっているなと感じるところもちょいちょい…。頑張ってほしいです。

 

山本紗衣さん(マグダラのマリア)

紗衣さんは昨年『オペラ座の怪人』でのクリスティーヌが非常に印象的で美しいソプラノに魅了されたこともあったので、今回のマリア役も期待していました。

マグダラのマリアはJCS内ではあまり大きく目立つ存在として描かれてはいないのですが、ジーザスが疲れ果てたり心を病んだりしたときの休息場所の存在としてとても重要なポジションではあると思うんですよね。
紗衣さんのマリアは癒しの雰囲気もありましたが、どちらかというと志音さんのマリアとは違って姉さん女房的に支えるタイプかなって思いました。ジーザスの苦悩をまっすぐに受け止めて、その痛みを鎮めるための防波堤になっているかのような、ちょっと逞しさすら感じさせる凛としたマリア像がとても印象的でした。

【私はイエスが分からない】のナンバーは力強く美しいソプラノに魅了されました。やはり紗衣さんの歌声は聴いていてとても心地がいい。
最後、十字架の前で静かにうずくまって涙を流す後姿がとても悲しくて印象的でした。影になっていて見づらいんですけど、存在感を感じさせるラストシーンだったと思います。

 

そのほかのキャスト

高井治さん(カヤパ)・吉賀陶馬ワイスさん(アンナス)

このお二人もだいぶベテランキャストの域に入ってきて、安定度は抜群でした。
高井さん、久し振りに拝見しましたがお元気そうでよかった。歌声も心地いい低音をしっかり響かせていましたし、ジーザスをジワジワ追い詰めていくかのような厭らしさも出ていて印象的でした。個人的には22日の「分からんか!?」と周囲の司祭たちを一喝するときの迫力が好きだったなw。
ワイスさんのアンナスもしっかりと高音が出ていて良かったです。この役は音域が広いので歌いづらい部分が多く、歴代のアンナス役者さんたちかなり苦戦していたんですが…ワイスさんはそういう意味ではかなり安定しているのではないでしょうか。
ちなみに、アンナスってカヤパの義理の父にあたるんですよね。最近この関係性に気が付いてちょっとビックリしましたww。

 

本城裕二さん(シモン)・五十嵐春くん(ペテロ)

本城さんのシモンもかなりベテランになってきましたね。相変わらず【狂信者シモン】のナンバーでの激しい歌いっぷりが爽快です。このナンバーもかなりお気に入りなので、いつもしっかりと迫力の声量で歌ってくれる本城シモンが嬉しい。
ペテロ役の五十嵐くんは今回が初めましてだったんですけど、とても良い歌声を持っているなというのが第一印象。綺麗で素直な歌声が魅力で思わず注目してしまいました。顔つきも可愛い。ジーザスを裏切ってしまう場面すらもキュンときましたww。
(聖書によれば、ペテロは鶏が鳴く前に「イエスのことを知らない」と3回言うだろうとジーザスが予言してそれが的中したとされています)

 

山田充人さん(ピラト)

今回のキャストの中で印象に強く残った内の一人が山田さんのピラトです。ピラトはジーザスを最終的に十字架にかける裁定を下す人物になるのですが、「罪のないであろうジーザス」を裁くことに激しい葛藤を抱えています。これまでイエスを奉っていた人々が手のひらを返したように「奴を殺せ」と口々に叫ぶ有様を目の当たりにして戸惑いを見せるんですが、この時の激しいピラトの心の葛藤と苦しさが山田さんはものすごくダイナミックに、そして繊細に演じられていたんですよね。
歌声が素晴らしいのは「キャッツ」で見て知っていましたが、そのほかの役であまり見たことがなかったので、こんな大胆なお芝居をされるんだと今回知ってものすごく感動しました。
群衆からの圧力と、ジーザスの頑なな態度に耐えかねて「お前が望むのなら、死ね!!」と叫んでしまう場面は大きな見どころの一つですが、ここのピラトに私はものすごく衝撃受けてきてて。山田ピラトは私が望んでいたのとドンピシャな表現力でこのセリフをぶつけてくれて・・・もうほんと、心が震えました(涙)。また会いたくなるピラトでした。

 

阿部よしつぐくん(ヘロデ王)

よしつぐ君が四季に入団して適役だなと思ったのが『ノートルダムの鐘』のクロパンでしたが、今回また一つ適役が増えましたね。いやぁ~~、めっちゃハマってました、彼のヘロデ王。なんというか、下村ヘロデをちょっと彷彿とした感じで懐かしさすらあった。
何といっても、見た目が本当に美しい。ヘロデってJCSの中では異質の存在として衣装も登場の仕方も異次元な感じがするんですけど、そこに見事にマッチしていたと思います。下村さんのようなコミカルさはあまり感じられなかったんですけど(あの味は下村さんしか出せないだろうけどね)、ジーザスを歌声で刺していくような感じがものすごく刺激的に見えました。
特に「ヘイ!!どうした!?」とイライラを爆発させるシーンは鮮烈。美しさと裏腹にものすごく神経質で子供っぽい部分が顕著に出ていて面白かったです。

 

後述

今回、ツアーの大阪公演で違うキャストを運よく見ることができて、とても充実したジーザス観劇となりました。休憩なしで一気に突っ走るJCSですが、やっぱり大好きな作品だなぁと再確認。3月までの限定公演ということですが、また近い将来上演してほしいです。
特に、清水ジーザスと佐久間ユダは回数重ねてさらに進化した姿で再び戻ってきてほしい。この二人のキャストには大いに期待しています。

ちなみに、今回全国ツアーされているのはエルサレムバージョンですが、もうひとつジャポネスクバージョンというのも存在します。大八車を縦横無尽に動かした舞台演出がとても斬新で、役者も白塗りの歌舞伎メイクで登場します。さらに音楽も尺八や鼓や笛の音が入ってきたりと『和』のテイストがふんだんに感じられて面白いんですよね。

個人的にはどちらもお気に入りなのですが、音楽はどちらかというとジャポネスクの方が好きだったりします。最近めっきり上演されなくなってしまいましたが、近い将来、また復活させてほしいなぁと思ってます。

23日の観劇後にはJCSの美術セミナー講座のイベントがありました。その様子は次の記事で紹介したいと思います。

error: Content is protected !!