ミュージカル『キンキーブーツ』を観に大阪まで遠征してきました。10月大阪に来たときは暖かかったけれど、1ヶ月経って秋らしい涼しさを感じられるようになりました。
ここ最近またしても新型コロナが勢いを増してきて舞台がストップしてしまう胸の痛むニュースも多く目にするようになってきました。それ故、劇場に到着するまでは内心けっこうハラハラしてしまう。特に今回は泊りがけ遠征なので無事に公演されるようにと祈るような気持ちだった(汗)。いったいいつまでこんなスリリングな状態が続くのだろうか。この先も観劇予定がちょいちょい詰まってるので落ち着きません。遠征者にとってこの状況は特にキツイ…。早く安心して劇場に行ける世の中になってほしいものです。
大阪が以前よりも遠くなってしまい交通宿泊費もちょっとキツくなってきてしまいまして(JB大阪公演もそれが原因で諦めた…)、少しでも安く抑えようとしたところ新幹線の到着時間がけっこうギリギリで(汗汗)。昼食を現地で摂る時間がないので車内でパパッと済ませ、新大阪着いてから四ツ橋のオリックス劇場まで私としてはかなりの早足で向かうことに。その甲斐あってか予定よりも少し早く到着できて一安心。おかげで涼しさを感じることなくいい汗かくことになりました(笑)。
劇場に着いてみるとすでにグッズ売り場には長蛇の列が。開演20分前には”コスチュームキューピー”が完売ということになり、数人の方が列から抜けられるという光景が見られました。私も興味あったんだけど…とりあえずはパンフとクリアファイルがゲットできたのでそれで良し。
通販でも楽翌日までの申込みができることになっていたので(受注生産扱い)キューピーちゃんはそこで購入しました。
客席に入ってみるとみんなカメラで撮影してて。スタッフさんに聞いたら「開演前はご自由にどうぞ」とニッコリ。ということで、前の方にお邪魔して撮ってきました。
もうすぐこのセットから物語が始まるんだなぁ、と思うとちょっと胸アツ。近くで見ると結構な迫力の表看板。
前回公演のときはチケット参戦に出遅れてしまいかなーーーり苦労してGETした苦い思い出があったので、今回は早くからチェックしてなんとか先行発売のときに手に入れることができました。が、けっこうな後方席(汗)。いやでも、前回は3階席だったから1階席に座れただけでもマシだと思うことにw。やっぱり人気ある作品なんだなぁと改めて実感(当時の素直な席の感想はこちらw)。
オリックス劇場であそこまで後ろの席に座ったことはなかったのですが(休憩時間のお手洗いはすぐに行けるっていう距離ww)、オペラグラスがないと裸眼では表情が見えないくらいの遠さだったな。
この作品は化粧が濃いキャラがたくさん登場してくるのですが、それでもちょい厳しい感じ。途中から少し目が慣れてきた感覚はあったけど、半分以上はオペラグラスに頼ってました。それだけこの劇場が大きいということか。
以下、ネタバレ含んだ感想です。
2022.11.16 マチネ 大阪公演 inオリックス劇場(大阪)
主なキャスト
- チャーリー・プライス:小池徹平
- ローラ:城田優
- ローレン:ソニン
- ニコラ:玉置成実
- ドン:勝矢
- ジョージ:ひのあらた
- パット:飯野めぐみ
- トリッシュ:多岐川装子
- ハリー:施鐘泰(JONTE)
- ヤングチャーリー:古澤利空
- ヤングローラ:高橋繊束
- ANGELS:穴沢裕介、森雄基、風間由次郎、遠山裕介、浅川文也、佐久間雄生、シュート・チェン
前回公演から殆どのキャストが続投ですね。ANGELSのメンバーが一人変わられましたが、皆さん今回も抜群のチームワークで素晴らしいパフォーマンスを魅せてくれました!私よりも全然「女」だったよ!!本当にめちゃめちゃキュートで綺麗で挙げ句にスタイルが良い!!ファッション雑誌のモデルさんクラスではないでしょうか。
特に目を惹いたのが、アーモンドちゃん(劇中では名前呼ばれてないけど)を演じてる佐久間くん。2幕でラウンドガールとして登場するシーンがあるんだけど…まるで彫刻のような肉体にびっくり!!可愛らしいのに見事に鍛え抜かれたスタイル抜群の体つきに衝撃受けましたわ。遠方席からもバッチリ見えたよ。他のガールズたちも本当に素晴らしい肉体美で…いったいどんなストイックな体力づくりをされたのだろうかとドキドキしてしまいました。
ドラァグクイーンが登場するミュージカルはここ最近増えてきた印象ですが、キンキーのANGELSさんたちはその中でもトップクラスの美しさだと思います。
ジョンテさんは初演からの続投組ですが、今回もライブシーンで素晴らしい歌声を響かせてくれていて思わず聴き惚れてしまいました。徹平くん演じるチャーリーとの掛け合いもテンポよく、親友同士のやり取りとして自然に見えたのも良かったです。
パット役の飯野さんとトリッシュ役の多岐川さんはどっしりと構えた存在感で大いに魅了されました。飯野さんは役作りの為かかなり体が大きくなってたような。♪女が欲しいもの♪で「男、男」と連呼して歌いながらローラとちょっと不器用なダンスを披露するシーンは面白かったです。
多岐川さんは工場の中の肝っ玉母ちゃんといった雰囲気で何もかもがダイナミック!でもチャーリーを息子のような眼差しで見つめるシーンや複雑な感情を見せるシーンもグッと来るものがありました。お芝居のメリハリが効いていて見応えありましたね。
それから、チャーリーのお父さん役の松原剛志さんも印象深かったです。松原さんの歌声はとても柔らかくてそれでいて凛とした響きがとても聴き心地いいんですよね。息子に店を継いで欲しい気持ちを押し殺しつつ温かく見守るお父さん役がピッタリハマっていました。幕開けソロの歌いっぷりも観客を惹きつける歌唱力で本当に素晴らしかった。
簡単なあらすじと概要は2019年公演の感想を参照
触れていない情報を追記として少し。
初演は2012年のアメリカ・シカゴ。2013年にはブロードウェイに進出しました。作詞作曲はグラミー賞受賞などいくつもの栄冠に輝いているシンディー・ローパーが担当しています。ブロードウェイで成功したことで2013年のトニー賞では13部門ノミネート・6部門受賞という快挙を成し遂げました(ミュージカル作品賞、オリジナル楽曲賞など)。なお、『キンキー・ブーツ』のプロデューサーに一人だけ日本人の方が関わっていらっしゃいます。
日本での初演は2016年。チャーリーを演じた小池徹平くんはその年の菊田一夫演劇賞を、ローラを演じた三浦春馬くんは読売演劇大賞の優秀男優賞と杉村春子賞を受賞するなど高い評価を得ました。2019年の再演もほぼ同じキャストで制作されチケット入手困難な作品として人気を呼び話題となっています(本当に取るの苦労した 苦笑)。
2021年には松竹ブロードウェイシネマがNYで2018年に上演された舞台映像を映画化して上映。各地で多くの人を魅了しました。私は映画館へは行けませんでしたが、WOWOWで放送があるそうなのでそちらを楽しみにしたいと思います。
そして2022年秋に3演目として東京と大阪で上演。数人のキャストが変わりましたが、そのなかに春馬くんの姿がなかったことは本当に残念というか…無念というしかありません。彼あっての『キンキー〜』といった雰囲気もありましたから、今回の上演を決断するまでにはおそらく色々な葛藤があったかと思われます。
なお、日本版のCD(初演時のもの)は一旦生産中止となり入手できなくなっていましたが、春馬くんの出来事があって以降再販が決定し通販で購入できるように。今回の劇場でも販売されていました。ただ、いつ生産中止になるかは不透明なところでもあるので、興味がある方は早めに通販サイトをチェックされたほうが良いと思います。
上演時間は約2時間5分となります。内訳は1幕約70分、休憩20分、2幕約55分です。
ミュージカル作品としてはちょっと短めの時間設定ですが(体感時間は本当にあっという間!)、その分濃密なエンターテイメントがぎゅっと凝縮されていて存分に楽しめる内容になっていると思います。
全体感想
久しぶりにキンキー観たけど、もう本当に素晴らしい作品だなということを再確認しました。躍動感のある音楽、パワフルなダンス、「受け入れることの尊さ」を教えてくれるストーリー、どこをとっても本当に最高だった。
正直なところ、あの哀しい出来事があってからあまり時間を置かずに「3演目が決まった」という話が出てきたときには複雑な心境になりました。それは、初演から今回まで出演しているキャストの皆さんもきっと同じだったのではないかというのは想像に難くありません(徹平くんも前向きな気持ちになれなかったとコメントしてますしね…)。どうしたってみんな、春馬くんと過ごした濃密な思い出が蘇って公演する気持ちに持っていけるのか不安だったと思います。
再演を1度しか見ていない私ですら春馬くんのローラは鮮烈な印象として残っているし、この心躍る作品を素直に楽しむことはできないのではないかという不安がありました。
でも新生『キンキー・ブーツ』を観て、最初に抱いていた不安が一掃されました。やはりこの作品は今後も上演を続けていくべきなのだとハッキリ思えた。キンキーを愛してやまなかったという三浦春馬くんの想いがしっかりと受け継がれていることを実感できたのはとても大きな収穫です。”良いものは良い”。きっと彼がそれを教えてくれたのだと…。
今回の舞台を見ていて、何度も春馬くんの魂がカンパニーの皆さんを大きな愛で包んでいるかのような感覚を覚えました。見えない大きなその力が皆さんを支えているようで、彼が一緒に舞台の上で躍動しているようで…そう思ったらなんだかところどころグッときて泣けてきてしまった。
『キンキーブーツ』はシンディ・ローパーの心沸き立ち胸躍るような素晴らしい音楽が非常に印象に残るのですが、今回はそれともうひとつ、物語にも何度も心を掴まれ涙するシーンも多かったです。
チャーリーとローラが「父親が望む息子になることができなかった」という共通の心の痛みを共有するシーンは印象深い。
チャーリーは”靴工場を継いでほしい”という父の望みに応えることができずに一度家を出ています。父の気持ちは分かるしその望み通りの息子でいたいという気持ちはありながらも、どうしてもその期待に応える想いを持つことができなかった。これはすごくリアルな感情だなと。お父さんは息子に未練を残しながらも最後は彼の選んだ人生を応援してくれたというのがまた切ないんですよね(幼い頃のチャーリーは父の仕事に興味を持ってくれていただけになおさら…)。
だからこそ、チャーリーの心にはいつまでも「申し訳ないことをしてしまった」という後悔の気持ちが染みついていたわけで…。靴工場の社長を引き受けたのもそういう感情があったからだったのだろうなと納得できてしまいました。
一方のローラは幼いころから”女の子”に興味と憧れを抱き、女物の真っ赤な靴を履いて喜びに浸る時もあった。でもボクサーである父は息子に”男”であることを望み続け必死に”矯正”を試みようとする。ローラ(=サイモン)はそんな父の期待に必死に応えるために「女性でありたい」という本心をひた隠し”男”としてプロのボクサーとして活躍するまでになる。そうすれば父に愛してもらえると思っていたからではないかなと考えると、なんとも切なくなります…。
でも、ついにローラ(サイモン)の中でもそんな生活に限界がきて”本当の自分”を世間に晒した時に父親から感動され会うことすら拒まれてしまう。チャーリーに父に拒絶されたことを面白おかしく語っていたけれど、本心では哀しくて辛い気持ちがあるんだろうなと思うとすごく切なかった…。
父親への愛情がありながらも、その期待に応えることができなかったチャーリーとローラ。そんな二人が心の距離を縮めて共感していく♪Not My Father’s Son♪は観ていて心が震える感動的なシーンでした。きっとこの時間で二人は「あるがままの自分」で進んでいこうという気持ちを強くしたんだろうなと思ったな。
チャーリーとローラが意気投合してから靴会社「Price & Son」は”キンキーブーツ”の生産が軌道に乗って経営も上向きになります。そんな時、どうしてもローラや仲間のドラァグクイーンを受け入れることができなかった従業員のドンがボクシングで勝負を挑んでくる。でも、ローラはかつてプロとしてボクシングで輝かしい成績を残したこともある本格派。それを知らないドンは予想外の苦戦を強いられてしまう。でも、最後の最後にローラはドンに華を持たせるためにわざと敗北するという道を選びます。
勝利したものの勝ちを譲られたということに納得がいかないドンはローラに「なぜわざと負けたのだ」と詰め寄る。あくまでも「男であること」にこだわり続けるドンにローラは意味深な言葉を残しました。
「あるがままの他人を受け入れる」
この言葉に最初は混乱するドンでしたが、どんな他人をも受け入れる度量の大きさが彼の求める理想の男像なのではないかと感じ始めるんですよね。ここの場面もすごく印象深かったです。きっと彼はこの後色々考えたと思います。
「あるがままの他人を受け入れる」ことは言葉で聞くほど簡単なことではない。それは今の時代も同じだと思います。自分とは違う他人を受け入れることって、実は勇気のいることでもあるし難しいことでもある。だけど、外見ではなく内面を見つめることでその人の本質を見抜き受け入れていくことってすごく大切なことだと思うんですよね。ドンはローラとの勝負を通してそのことを学んだわけで、ストーリーの後半で”彼女”を受け入れる。その変化がとても愛しくてなんだか泣けました。
そして物語が後半に進む頃に訪れる「Price & Son」のチャンスとピンチのエピソードも心に刺さります。会社のさらなる飛躍のためにミラノでのファッションショーのチャンスを得たチャーリーでしたが、資金不足で参加できるかどうか怪しくなってしまう危機に直面。自分の手でさらに会社を大きくしなければというチャーリーの焦りとプレッシャーはやがて他の従業員たちへの苛立ちとして出てしまい、次々と皆の気持ちが離れていってしまう。
さらに「資金がないなら無償で参加できるドラァグクイーンの仲間たちを使ってほしい」と提案してくれたローラにも苛立ちの矛先が向いてしまうわけで…。この時チャーリーは”ショーに失敗できない”という追い詰められた気持ちが強く、ローラたちのような奇抜なモデルを使う心の余裕が持てなかった。その話が拗れに拗れ…、ついにはローラを激しく侮辱した言葉をぶつけてしまったチャーリーの場面はものすごく心が痛くなりました。
一度は父親との関係のことで心を通わせ意気投合していた二人でしたが、チャーリーの気持ちの中では実はローラや彼女の仲間たちのことを完全に受け入れられてはいなかったのです。そのことが明るみに出てしまうこの場面はとても残酷で…。人と人とが本当の意味でお互いを受け入れることの難しさを突きつけられたような気持になりました。それはなんだかすごく身近でリアルな出来事のようにも思えて、とても痛いところを衝いてきたなと思ってしまう。
チャーリーの周りから多くの人が離れてしまった後に唯一傍で支えになってくれたのが、従業員のローレンでした。彼女はいつもチャーリーが心の底で欲していた言葉を授けてくれる存在だったように思います。それ故、ラストシーンの展開は少し急に見えても納得できたんですよね。
そしてもう一人、人を受け入れることについてずっと考えてきたであろうドン。彼の存在もとても大きかった。きっと、チャーリーやローラの痛みを少しでも感じ取ることができたのではないだろうか。
ラストシーン、一度はチャーリーの元を離れたはずのローラが「あなたに泣きつかれたから来たんじゃない」と強がりを言いながら救世主のように登場する場面はとても鮮烈で、スーパーヒーローのようにカッコいいです。
ローラはチャーリーと大喧嘩をした後、老人ホームで弱り果てた父親の前で渾身のパフォーマンスを披露していました。あの最後の最後に父が息子を受け入れたのではないかと感じさせるシーンはとても感動的で泣ける。そこを経てのあのショーの登場ですから、きっと心の中の父への気持ちに決着をつけたことが彼女の中ですごく大きかったのではないかなと思いました。誰になんと言われても、「あるがままの自分」でこれからも生きていく。そんな決意表明のようにも思えたな。
ショーに登場したローラを目の当たりにしたチャーリーは、真っ赤にコーディネートした彼女の姿を見て眩しく感じたのではないだろうか。「本当の自分」で生きていくと決めたローラはチャーリーにも大きな心の変化をもたらしたように思います。あの瞬間、彼はローラへの信頼と友情の気持ちを確固たるものにしたのではないでしょうか。二人が固くハグをするシーンはものすごく胸アツでした(徹平くんチャーリーと優くんローラの身長差がまた良いんだよねぇ)。
この作品の中で個人的にめちゃめちゃ気分が上がるナンバーについて少し触れたいと思います。
♪The Most Beautiful Thing♪
幕開けの社歌に続いて歌われるナンバー。従業員たちの生き生きとした姿や、自分の会社に誇りを持つミスター・プライス(チャーリーの父)の高らかに歌う声がとても爽やかで感動的です。さらに少年時代のチャーリーとローラの父親との関係性のドラマが見られるのも印象深い。
♪Land of Lola♪
ローラとエンジェルスたちのショーナンバー。ここはもう本当に凄い!!としか言葉が出ない。ローラの圧倒的存在感が光る楽曲とパフォーマンス。
♪The History of Wrong Guys♪
ローレンが思いがけずチャーリーに恋してしまった時の戸惑いを歌うナンバー。とてもコミカルで楽しいのですが、『キンキー~』の中で一番シンディ・ローパーの色が出ているなと感じられる曲でもあります。
♪Everybody Say Yeah♪
ローラ指導の下、ドラァグクイーン用のブーツが完成した時の喜びを爆発させる時のナンバー。『キンキー~』の中では私はこのシーンが一番好きと言っても過言ではありません。チャーリーの「Say Yeah!?」という問いかけに思わず「Yea!!」と歌ってしまいたくなる衝動を抑えるのに必死になる(笑)。心と体が一気に熱くなるような素晴らしいロックナンバーだと思います。
♪What a Woman Wants♪
ローラと従業員たちが「男と女」について議論し、ローラ派とドン派に割れて対立する時のナンバー。これ、英語で聴くほうが曲に馴染んでいるとは思うのですが、日本語訳での「男、男・・・」と連呼するフレーズもなんだか聴いてるうちにクセになってくるんですよねww。なんだか耳から離れない不思議な曲です。
♪Soul of a Man♪
周囲と意見が合わず苛立ちをぶつけてしまったことで孤独になったチャーリーがその葛藤を歌うナンバー。会社を豊かにするために必死に頑張っているのに誰にもその気持ちを理解されないといった苦しい心情を吐き出すように歌われているのがとても切ない。プレッシャーと彼自身のプライドが垣間見える複雑で印象深い楽曲だと思います。
♪Raise You Up/Just Be♪
ラストの大団円で歌われるハッピーで躍動感にあふれたナンバー。皆の気持ちが一つに重なり、華やかなローラたちのショーから始まり次々に主要キャストが”キンキーブーツ”を履いて現れる。その光景は圧巻で心震えます。このミュージカルを観に来てよかったと心から思えるような素敵な楽曲。
『キンキーブーツ』からは人を受け入れることの素晴らしさを教えてもらっているような気がします。今後も何度も上演してほしい作品です。
主なキャスト感想
チャーリー・プライス:小池徹平くん
この作品ではどちらかというとローラのほうが注目されがちではありますが、私は徹平くんのチャーリーにものすごく感情移入して見てしまいます。彼の芝居と歌の進化は本当に素晴らしくて目が離せない。こんなにも舞台向きの役者さんになるとは最初の頃想っていなかったので本当に嬉しい驚きです。
一番グッと来たのはチャーリーが苛立ちからローラに侮辱的な言葉をぶつけてしまってからの場面です。過去の共通点を見出してから二人は心で繋がった言い仲間に慣れていたと思っていたのに、会社の将来を左右する大事なショーイベントにローラがドラァグクイーンの姿で参加しようとすることを真っ向から拒絶してしまったチャーリー。「免許証と同じ姿で来るように」と冷たく言い放つシーンは特にゾクっときたしショッキングでもありました。
でも、色々な困難にぶつかって右も左も分からなくなった余裕のない状況に追い込まれてしまったが故の彼の苦しい心境も痛いほど伝わってきたんですよね。だから、ローラを傷つける言葉の一つ一つがチャーリー自身をも切り裂いていくような気がしてものすごく哀しくもあった。そう思わせてくれるような繊細かつ激しいセリフ回しが本当に徹平君素晴らしかったです。自分はどう振舞えばよかったのだろうと歌う♪Soul of a Man♪は圧巻だった。グイグイその心情に引き寄せられて気が付いたら私泣いてましたから。
♪Everybody Say Yeah♪や♪Raise You Up/Just Be♪といったこの作品を代表するようなポップでロックなナンバーの歌いこなしも完璧。力強く、生命力に満ち溢れた明るさがこれまた心を打ちました。徹平君、本当に良い舞台役者になったね。
ローラ:城田優くん
今回ローラ役のオーディションを受けて見事に認められた優くん。そこに至るまでには多くの葛藤とプレッシャーがあっただろうなと思います。きっと、外野からの心無い言葉なども耳に入ってしまっていたかもしれない…。それでも、このローラという役を春馬くんから受け継いで演じ抜いたことは本当に賞賛に値すると思います。葛藤の末に掴んだ優くんのローラは、それはそれは圧倒的な存在感と光を解き放っていました。歌声も実に力強く聴き取りやすかった。
優くんのローラは春馬くんと比べると少し男性的な印象が強かったかもしれない。女性に成りきるというよりかは、女性であり続けたいという願望を持った青年といった印象を持ちました。それ故、ちょっとした台詞の端々に出てくる「男性的」なセリフ回しもとても自然に聞こえました。また、ローラの心の繊細さもとても丁寧に表現していて、お父さんの前で渾身の想いを込めて歌う♪Hold Me in Your Heart♪は特に圧巻で涙が止まらなかった。
また、チャーリーとの関係もすごく印象深い。後半彼からかなりひどい侮辱的な言葉を投げつけられたにもかかわらず、それを赦しもう一度チャーリーを受け入れようとするラストシーンは感動的だった。「閉じこもっていた私を外に連れ出してくれた恩人だから」といったニュアンスのセリフは特に泣けました。ローラはチャーリーに一度は絶望しながらも彼を心から排除することなどできなかったんだなと感じられてねぇ。このあたりの演じ方はすごく難しいと思うんだけど、優くんはすごく丁寧に演じてくれたと思います。
きっと春馬くんは、自分が演じることができずに悔しいとちょっと思いながらも優くんのローラを応援し賞賛し続けていてくれたはずです。相当な覚悟で臨んだはずのローラ役、本当に素晴らしかった。また次回もぜひ会いたいです。
ローレン:ソニンさん
ソニンちゃんのローレンはコケティッシュでとても楽しい。金髪ヘアもすごくよく似合っていて、物語の世界観に一番馴染んでいると言っても過言ではないほどです。
一番面白いのは、思いがけずチャーリーに恋心を抱いてしまう場面。今までは全くそんな気持ちがなかったのに、急に気になりだしてしまう戸惑いがものすごく良く伝わってきました。だけど彼には恋人がちゃんといるわけで、必死に自分の気持ちを抑えようと頑張るんですよね。それがシリアスにではなくコミカルに、でも繊細に表現されていてとても見応えがありました。チャーリーへの恋心を彼に悟らせないようにしつつ、苦境の時にはそっと寄り添って優しくアドバイスを送ってあげるローレンの優しさにもグッと来たなぁ。最後に彼が彼女を選ぶという結末も納得です。
ニコラ:玉置成実さん
玉置さんのニコラは前回見たときよりもすごく自立した自分の意見をしっかり持った女性という印象が強くなったように思いました。彼氏がいなくてもじゅうぶん一人でやっていけるんじゃないか的な空気すらw。だけど、チャーリーのことも本当に大好きっていう気持ちはすごく伝わってくる。だからこそ、彼に自分と同じ方向を向いてほしいという想いが強く出すぎちゃってるのかなというのも感じられてちょっと痛々しくもあったかな。
そんな彼女の想いにチャーリーはなかなか追いつけなくて、予期せぬ会社経営を継いだことによってますます二人の距離が離れていっちゃう。ニコラはなんとかそんな彼を繋ぎ止めたくて会社を売る話を進めて自分の方へ引き寄せようとするんだけど、その必死さがなんだかちょっと切なくもありました。一見すると自己中心的で強引な女の子って感じなんだけど、チャーリーを好きという気持ちに嘘はなかっただろうし、なかなかうまく行かないものだなぁと。もしかしたらチャーリーのお父さんのことがなかったとしても長続きはしなかったかもしれないなって思えたニコラでした。
ドン:勝矢さん
ドンはぶっきらぼうで思ったことをすぐに表に出してしまうタイプなので見ていてハラハラさせられますw。特にドラァグクイーンのローラたちに向ける偏見からくる敵意の視線は鋭くてちょっと怖い。だけど、ドンのように自分とは違う人を受け入れることに拒絶反応を示すのは珍しいことではなくて、むしろそういう人のほうが多いような気がします。
そんな彼がボクシングの試合を通してローラたちを少しずつ受け入れようと気持ちが動いていくシーンはとても感動的。”これまでとは違う感情”みたいなものが表情から滲み出ていて、ドンは不器用だけど人を受け入れる器は決して小さい人ではないんだろうなというのを感じたな。勝矢さんのお人柄がキャラクターに反映されている雰囲気もあってとても魅力的でした。
ジョージ:ひのあらたさん
ひのさんが演じるジョージはどこかオドオドしていてどちらかと言うと消極的なタイプに見えるんだけど、ちょいちょいオモシロ可愛い反応があったりしてこの作品の中の大きな癒やしの存在でした。ミスター・プライス(チャーリーの父)が亡くなったあとはジョージがその役割を担うような雰囲気になるのですが、決して前に出すぎず一歩引きながら見守る感じがすごく良かったです。ちょっと空回りするようなところもあるけれど、チャーリーのことをいつも愛しそうな眼差しで見守っていて発する言葉も常に柔らかく優しい。会社の経営が大変でバタバタしていたチャーリーはなかなかその優しさに気づかないけれど、彼が頑張れるのはジョージという存在があるからなんだろうなというのが伝わってきました。
後述
11月20日に無事全公演を駆け抜けた『キンキーブーツ』カンパニー。コロナ禍のご時世の中で全公演やり遂げられたのは奇跡だったかもしれません。観劇された方の千穐楽カテコのレポートを読んで、なんだか胸が熱くなってしまった。
最初のほうにも書いたけど、今回の『キンキーブーツ』を上演するにあたってはカンパニーの皆さんそれぞれに色々な葛藤があったと思います。特に初演からずっとこの作品に携わっていたキャストさんやスタッフさんは複雑な想いがあったはずです。そして、今回新しいローラに挑戦することを決断した城田優くんも…。
でも、そういう一つ一つの想いを乗せて、乗り越えて、こんなにも素敵な最高の舞台になりました。きっと見えない力…三浦春馬くんの魂も今回の公演のなかで生きていたはずです。
上演を重ねていくうちにキャストが入れ替わるというのは舞台(特にミュージカル)ではよくある話。オリジナルのキャストのほうが好きだと思う人もいれば、新しいキャストに魅力を感じて改めてファンになることもあります。それは見る人それぞれの自由。そうやって作品は受け継がれ生き続けていくのだと思う。
日本版『キンキーブーツ』は哀しい出来事が起こってしまいましたが、再び輝きを放って立ち上がった。春馬くんのローラをもっと見ていたかったという気持ちもあるけれど、優くんのローラを今後も見て行きたいという気持ちもある。きっと春馬くんも応援してくれていると私は信じたい。
本当にとても素敵な作品なので、数年おきに上演を続けてほしいと思います。
㊗️ #キンキーブーツ 大千穐楽 終了🎊
ここにいる仲間や今はいない仲間、応援してくださった全国のファミリーの皆様すべてへの思いを込めた本日11/20大阪最終公演のカーテンコールの模様をダイジェストでお届けします👠✨
ぜひInstagramからご覧ください👞#kinkybootsjphttps://t.co/wONHqSowWy— BWミュージカル「キンキーブーツ」 (@kinkybootsjp) November 20, 2022
2022年公演カンパニーの皆さん、本当にお疲れ様でした!!また会える日を心から待ち望んでいます。