ミュージカル『ミス・サイゴン』大阪公演 2022.09.15 ソワレ

ミュージカル『ミス・サイゴン』を観に再び大阪まで遠征してきました。

本当は前回観劇のときに連チャンで見るのがベストだったのですが、それだとなかなか希望キャストに当たらなくて…。行ける回数は財政的にも2回が限界と決めていたので、キャスト重視で別日に確保することにしました。交通費はちょいかかりますが、1回目とはほぼ全員違うキャストを見ることができたので良かったかなと思っています。

先週は2階席中央からの観劇でしたが、今回は1階席サイドブロックの中央寄りとなかなかの好ポジション。板の上に映るライトは見づらい感じにななりましたが(アメドリのシーンでのドル束の表現とかは2階席からのほうが面白いと思います)、キャストさんたちの息遣いをすぐ近くに感じられるという点ではとても刺激的で前回以上に登場人物たちの感情がストレートに迫ってきたように思います。

以下、ネタバレを大いに含んだ観劇感想になります。ご注意を。

これまでのミスサイゴン感想記事

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2022.09.15 ソワレ公演 in 梅田芸術劇場メインホール(大阪・梅田)

主なキャスト

  • エンジニア : 伊礼彼方
  • キム : 高畑充希
  • クリス : チョ・サンウン
  • ジョン : 上原理生
  • エレン : 松原凜子
  • トゥイ : 神田恭兵
  • ジジ : 青山郁代

概要とあらすじについては9月10日観劇記事を参照してください。

全体感想

アンサンブルさんも含め前回とは違うキャストさんが多かったこともあってか、見える景色や感じ方が違ってとても新鮮な気持ちで堪能させていただきました。演じ手や組み合わせが変わると受ける印象が変わるのが複数キャストの面白いところ。以下、印象に残ったシーンをいくつか。

サイゴンのいつもの雑然とした町の雰囲気の中にポツンと佇み途方に暮れているキム。その冒頭の光景を見るだけでも何だかグッと来るものがあります。あの日、あの爆撃が起こる前まではみんな普通の日常を生きていて、キムだけがそこから取り残されてる…みたいなすごく悲しい景色に見えるんですよね(涙)。始まりの静かに始まるベトナムを感じさせる音色からも心を持っていかれます。

そこからの♪ドリームランド♪での乱痴気騒ぎを見ると、戦争の愚かさみたいなものをひしひしと感じてしまいます。明日をもしれない兵士たちが、今このときだけの快楽を求めてハチャメチャな行動をする。テンションも異常に高く女性への接し方も最悪。だけど、戦争さえなければ本当はみんな理性を保てる普通の紳士な人たちばかりなんだろうな…と思うと悲しくて虚しくてたまらなくなってしまった。
女性たちはG.Iにひどい扱いを受けながらも、彼らに見初められて一緒に今の地獄から抜け出すことだけに希望を持ちながら必死に堪えている。そんな中で歌われるジジを中心とした♪わが心の夢♪はこれまで以上に痛々しく切ない響きに聞こえてきました(涙)。

それにしても、ジジの相手に選ばれたのがジョンになったことは未だにちょっとショッキング(汗)。旧演出までは違う兵士が相手だったからなおさら。それにジョンのジジに対する仕打ちはかなり残酷ですからねぇ(ちなみにミス・サイゴンに選ばれたジジをやっかんで他の女の子たちが彼女に食って掛かるシーンは今回からなくなっていました)。
でも、ジジに袖にされた上原ジョンがしばらくサンウンクリスに延々とその愚痴を話しまくってたように見えたのはちょっと面白かったw。

ジョンは結局違う女の子をお持ち帰りするわけですが、去り際に高そうな葉巻をエンジニアにプレゼントしていきました。エンジニアはこの葉巻を”アメリカ”の産物としてずっと大切に持ち続けることになるわけで…後半になってもその葉巻が登場するたびに何だかグッときちゃいました。

クリスはジョンや他のG.Iたちに比べると消極的で店から帰りたい気持ちが強いのですが、今回の公演では最初の方は意外とテンションは低くなかったんだなというのが伝わってくる気がします。多少なりとも憂さ晴らしする場所を求めていたんじゃないかなって。戦争でだいぶ精神やられてるでしょうから、そのほうが自然なのかもしれないと逆にリアルに感じました。
そんななかで出会ったキム。最初は「変わった子がいる」くらいの感じだったのが、ジョンに無理やり連れてこられたあと必死に自分を殺して相手をしようとする彼女を見て「この子を救わなければ」という気持ちが強まっていったんじゃないかと思ったかな。

あ、そういえば。♪ドリームランド♪のナンバーが終わって静寂が訪れたシーンのときに僧侶が寄付金を集めに回ってくるんですけど、エンジニアもちゃんとそこにお金を入れているのを見てちょっとびっくりしました。あんな金にガメつい彼でも、僧侶に対する時は真人間に戻るのかなぁ…なんて。

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キムと一夜を明かした後に歌われる♪神よ、何故?♪はクリスのソロで名曲中の名曲。ただ、なんでこのナンバーの最後の旋律を短縮しちゃったかなぁ。それだけがすごい違和感あって。素晴らしい歌声と壮大でドラマチックな音楽の伸びがあってこその名曲だと思うんだけどなぁ。ここだけは最初に戻してほしいです。

キムがクリスに身の上話をぶちまける場面。ここでクリスは彼女の孤独を初めて受け止めて自分自身の孤独と重ね合わせていくわけですが、充希キムとサンウンクリスはそのベクトルがあまり”恋愛”の方に大きく動いていないなという印象が強かったです。♪サン・アンド・ムーン♪のナンバーは二人の心がどんどん近づいてキスの回数もこれまでの公演の中で一番多いんじゃないかというほどのレベルなのですが、恋に依存していくというよりも現実逃避のためにお互いが必要なんだという…互いに縋るような雰囲気にすごく思えたんですよね。
これはあくまでも私個人の感想ではあるんですけど(汗)、今まで見てきたサイゴンの中でこの場面に”恋愛”を強く感じなかったのはちょっと驚きで、でもそういう視点もありだなという新鮮さもありました。

クリスがジョンに電話する場面、話す中でクリスがキムのことを幸せそうに語るのですが…たしか以前は「蓮の花」と表現していたのが今では「月のよう」に変わりましたね。前回公演のときもそうだったか記憶が定かではないのですが、♪サン・アンド・ムーン♪のナンバーでキムとクリスが心を通わせている場面があるので「月」のほうがしっくりくるような気がします。

♪ウェディング♪の婚礼の歌の歌詞がほぼ変わったのはまだちょっと聴き慣れないかなぁ。未だに頭の中には最初の「トゥヴァイベイ、ドゥダイマイ」という音が色濃く残っているので全く違う歌に聞こえてきてしまう。でも、どちらも響きがとても美しくてクリスが魅了されてしまう気持ちもよく分かるんですけどね。
結婚式で歌う歌だと聴いた瞬間にクリスが驚いてしまう場面は、サンウンくんの場合は「そうだろうな」ってすごく腑に落ちる部分が大きかった。キムに自分を重ね合わせ希望の光を見出しはしたけど、結婚するというところまでは心が大きく動いていないように見えたのでリアルに思えた。だけどその横でちょっと戸惑い気味な笑顔を浮かべた充希キムが切なかった…。

♪世界が終わる夜のように♪は『ミス・サイゴン』の中でもスタンダードナンバーといってもいいほどの大名曲。この時点でクリスにとってキムは本来の自分でいられる唯一の相手でもあるし、天涯孤独なキムにとってはクリスだけが生きる支えとなっている。何度も何度もキスをして見つめ合って語り合いながら歌うたびにお互いの気持を高めていく姿は、その先の悲劇の展開を知りながら見るとものすごく泣けます(涙)。
充希キムとサンウンクリスの場合はここでもあまり”熱い恋愛”という雰囲気には思えなかったかな。ただただお互いが”必要”な存在でどちらか片方がいなくなったら生きていけなくなってしまうという脆くて痛々しい関係のように見えて仕方なかった…。

♪モーニング・オブ・ドラゴン♪は前回は2階席から見たけど、今回かなりの前方席から見てその迫力に圧倒されまくりました。分かってはいても、のっけの舞台上から炸裂する爆竹音にはビビってしまう(私の周りの席からもビクッという空気がめっちゃしてたw)。鼻から煙をはくドラゴンとかすごいよなぁ。ホーチミン像は胸像だけになったけど(旧演出では立ち姿の巨大像だった)、アンサンブルサンたちの迫力満点の歌とダンスだけで十分圧倒されます。
印象的なのは2種類のアメリカの旗が出てきたところ。真新しい旗と、その直後に焦げてぼろぼろになった旗が出てくるんですよね。これによって北ベトナムが南ベトナムを支援したアメリカに勝利したことを表現してる。時代の変化を視覚化したうまい演出だなと思いました。

もうひとつの見どころは、ドラゴンダンサーさんたちの迫力のアクロバット。今回けっこう前方席で見たのですが…その筋肉の美しさにビックリ!!

見事な割れっぷり!あれだけハードな動きをしますから相当訓練されたんだと思います。もう本当にすべてに拍手喝采。

♪今も信じてるわ♪はキムとエレンのそれぞれのクリスを想う心情が切々と歌われるナンバー。高畑キムは必ずクリスが自分の元へ帰ってくると信じていて、エレンはクリスが何のトラウマに苦しんでいるのか分からないながらも支え続ける決意を歌う。こんなにも二人の女性から想われるクリス…ほんと幸せ者だよなぁとも思わなくはない。でも状況的にはみんなすごく苦しんでるから切ないんだけどね。

トゥイとキムが3年ぶりの再会を果たす場面。トゥイが必死に自分の想いをキムに打ち明けるなか、エンジニアが自己主張を挟んできてちょっと面白いような不思議な場面なんですよね、ここ。伊礼エンジニアが本当に伸び伸びと演じているので、ついついそちらの面白さにも注目してしまうw。ここの雰囲気は市村さんの演じる方向性とちょっと似てるなとも思いました。
トゥイのシーンについては、キャスト感想の神田くんのところで語りたいと思います。西川くんが演じたトゥイとかなり演じ方や雰囲気が違っていたのがとても印象的でした。

トゥイを撃って逃げてきたキムとエンジニアが遭遇する場面。最初エンジニアは「俺関係ない」と言ってシレッと立ち去ろうとしますが、キムがアメリカ兵だったクリストの子供を産んだと知るとコロッと態度が変わる。こういう変わり身の早さがエンジニアの面白いところでもありますね。
伊礼エンジニアはものすごくアメリカへの執着が強く見えたので、キムとタムの家族という設定にしようと思いつくまでの流れがとても自然でした。自分の目的達成のためならどんな手段も使ってしまおうというガメつさが良い。だけど、タムに対しての態度はなんだかとても柔らかくも見えたな。タムがエンジニアのキスの直後に口を拭った後、伊礼エンジニアは「こいつぅ」とちょっと小突いたりしててw。その行動がすごく自然に見えて、キム、タム、そしてエンジニアが自然と家族のように見えてしまったのが不思議だった。

♪命をあげよう♪からファイナルアクトへの流れは、1幕クライマックスの一番ドラマチックに見える場面。ここの演出が実に見事で、特に最後の最後にキムが一人後ろを振り向く姿がとても美しく見る者の心を揺さぶります。そういえばこの列の中にジジらしき人物の姿もあったな…。彼女も脱出できたのかもしれないと思ったらちょっとホッとしたり…。

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2幕冒頭の♪ブイドイ♪は何度聞いても胸打たれるものがあります。特に今回はこれまでになかったフレーズ(たぶん)が加わったことでジョンの描かれなかった3年を想像できるようになったのが大きいです。歌の後半でジョンが一緒に歌っている仲間たちに向かって「さぁ、一緒に前に出よう」と促して歌い上げる場面もとても感動的でした。

クリスがジョンからキムが子供を産んでいたことを知らされる場面。たしかこれまではクリスが動揺している時もジョンはあまりリアクション取ってなかったと思うのですが、今回見たら「妻に話していない」とクリスが打ち明けるとジョンが「なんで言っていないんだ!」みたいな苛立ちを見せるリアクションを取っていました。こちらの方がすごく自然だし表現が分かりやすくなって良いと思います。

バンコクでエンジニアとオーナーがケンカする場面。大津オーナーが「客はどうした!?」と聞くと伊礼エンジニアが「ぎょうさん入ってます」と関西弁のアドリブをかますサービス精神を発動ww!!これには梅芸のお客さんも大喜びで、それに応えるように大津オーナーも「満席じゃないか!!」と客席を見渡しながら感動しまくるリアクションしてて(笑)ここで客席からは二人に対して感謝の大きな拍手が沸き起こっていました。私も思わず手を叩いちゃったよww。すぐそのあとに大津オーナーが「店のほう満席にしろっ」ってすぐに話し戻してたけどね(笑)。

キムが久しぶりにジョンと再会して喜びにあふれる場面。お客さんがキムにちょっかいを出そうとした時に以前は彼女が「ほかにいるでしょ」とあしらっていましたが、今回からエンジニアが「ほかにいるだろう」とあしらうようになりましたね。エンジニアはアメリカへの夢が近づいたことに興奮しているので、一刻も早くジョンとキムに話をつけてもらいたい一心であることがよりクローズアップされているように見えました。

ジョンがキムにクリスの現状を話そうとする場面。「やがて彼は国で生きると言った」とジョンが切り出し始めた時、キムが「どういうこと?」と不安そうなリアクションを取るようになりました。これまでは全くジョンの言葉が耳に入らないほどの興奮状態に陥っているように描かれていたけれど、今回キムの不安げな表情というリアクションが増えたことによって、彼女がジョンの話を聞こうとする姿勢があるように見えてきました。このあたりの変更も自然で良いなと思います。
だけど結局キムはクリスの過去の苦しみを自分と照らし合わせるように解釈してしまい、彼も自分と会いたいと思っているに違いないと思い込んでしまう…。「切り出せない」と苦しい心情を歌うジョンも切ないし、キムの盲目的なクリスへの想いも哀しい(涙)。

トゥイの亡霊がキムを脅した後に去っていく場面。以前はトゥイが後ろ向きに去っていく途中でクリスが舞台中央奥から現れ交差するような演出になっていましたが、今回からトゥイの姿が完全に見えなくなった直後に(回想の)クリスがキムの元へ駆け込んでくるというものに変わりました。ここは個人的にちょっと寂しくなったなぁという印象かな。クリスとトゥイの相反する二人が重なり合う姿がとてもドラマチックだったのでね…。

サイゴン陥落の場面は日を追うごとにどんどん熱くドラマチックになっているなと思いました。やっぱり何度見ても、昨年の現実世界で起きた「アフガン」での出来事が過ってしまって…涙なしには見られなかったな(涙)。キムとクリスの引き裂かれてしまう運命も哀しいんだけど、最後のヘリコプターが去っていく中で残された人々が泣き叫ぶ姿が哀しくて苦しくてたまらないです…。ある女性は恐怖心のあまり全身痙攣させながら泣き叫んでて…もう見るのが苦しくなるレベルだった(涙)。
これは決しておとぎ話ではなく、現実に起こった事件なんですよね。残された人たちはこれから自分たちの身に起こるかもしれない恐ろしい出来事に怯えなければならなかったわけで…場合によっては命の保証すらない。そして今もそんな状況に置かれている人たちがたくさんいると思うと本当にやりきれない気持ちでいっぱいになりました。

キムとエレンが遭遇してしまう場面は今回から殆どがセリフ劇になったのでなおさら辛い気持ちが湧いてきて仕方なかったです…。真実を知ってしまったキムと、彼女の表情を見てクリスがキムと本気で愛し合ったことを知ってしまったエレン。どちらも真剣に真っすぐ同じ人を愛していたわけで…ホント切なすぎる。
キムは最後にタムを引き取ってほしいと狂ったように懇願して立ち去っていきましたが、この時に彼女自身のクリスへの想いをエレンに告げなかったのが余計哀しかったな。真実を知った時にキムは自分の幸せを諦めて息子にすべてを託す決意をしたのかもしれない。

♪アメリカンドリーム♪はまさに伊礼彼方エンジニアの最高のショータイムでございました!あぁ、彼のエンジニアをこの目で見ることができて本当に良かったと心から思ったもんなぁ。その感想などは伊礼くんの感想のところでもまた書きたいと思います。

キムの最後の決断のシーンは何度見ても衝撃だし、哀しくて哀しくて分かっていてもやっぱり涙してしまう…。戦争という行為は、たとえ戦闘が終わった後だったとしても多くの人に計り知れない大きな傷跡を残すものなのだと改めて思い知らされた気がしました。キムも、クリスも、エレンも、ジョンも、タムも、エンジニアも・・・そしてあの日取り残された人たちも、「戦争の犠牲者」なのです。
ベトナム戦争から約50年近くが経った現代も、それと同じような悲劇が世界のどこかで繰り返されている。人はなぜ傷つけあうことをやめようとしないのか…。今回の『ミス・サイゴン』は本当に色々なことを考えさせられました。次に再演される時には、世界がもっと平和と向き合えるような世の中になっているようにと祈らずにはいられません…。

キャスト感想は次のページにて。

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