7月…この夏の酷暑から駆け抜けてきた「ミス・サイゴン」東京帝劇公演がついに千秋楽を迎えました。16年前の初演に1回、4年前の再演に9回観てきましたが…今年はあれよあれよという間に10回に達してしまいました(爆)。それほどこの作品には観る者の心を掴んで離さない吸引力があると思います。まあ、私の場合は「泉見くんのトゥイに会いたい」という猛烈な想いが強かったというのもありますが(笑)。
この、入り口に掲げられた『本日千秋楽』の立て看板がなんだか切なく感じましたねぇ…。9月と10月はほとんど「ミス・サイゴン」しか見てなかったし。4年前以上に感慨深さもひとしおだったかも。
ちなみに、劇場に向かって歩いていた時に後ろからちょっと一般市民とは違うオーラの男性に追い抜かれたんですが・・・ふと横顔を見たら石川禅さんでビックリしました!禅さん、歩くの早っ!どうやら来月から上演される「エリザベート」のお稽古に向かっていたようです。
さて、まずは千秋楽カーテンコールの様子から。
今回はいつもよりも多めの花束が舞台上に投げ入れられたんで「?」と思っていたら、奥のほうからワラワラとたくさんの人が入ってきてビックリ!なんと、前日に一足早く千秋楽を迎えていた赤組アンサンブルの皆さんが役柄の衣装をつけてやってきてくれました。そのなかにはこの日出演していない2人のタムくんも。で、花束投げが始まったんですが、かなりの数が宙を舞ってて迫力ありましたね(笑)。ちなみに私の座席はちょうど花が飛んでこない境界線みたいな場所だったので落ちてくることはありませんでしたが、隣の人は執念で通路まで飛び出してったのでビックリ(苦笑)。そこまでガッツかなくてもねぇ(結局取れなかったみたいですけど)。
花束投げが終わり、客席オールスタンディングになったところで全員が舞台上に整列しプリンシパル出演者一人一人の挨拶がありました。今回の司会はエンジニアの筧利夫さん。テレビでよく見るような、あのハイテンションの筧スタイルで面白かったです。なんか異様にカツゼツがよかったな(笑)。
筧さんは4年前に初めて演じてから今回の千秋楽までで合計86回エンジニアを演じたことを報告。4年前は音程との戦いと言って笑いを誘っていましたが(笑)今年はもう少し掘り下げて演じられたのではないかと語ってました。確かにそれは思ったなぁ。筧さんなりにすごく考えて演じてたと思う。日々進化を続ける「ミス・サイゴン」を博多にぜひとも確認しに来てほしいと筧節で訴えていて会場を盛り上げてました。
池谷さんは涙を必死に抑えながら周囲の人たちへの感謝の言葉を述べてました。
泉見くんはトゥイの激しさが嘘のような穏やかな感じで「あぁ、普段の泉見くんだなぁ」となんがちょっとホッとした(笑)。この4ヶ月間は泉見くんにとってはやはり長く感じたとか。あそこまで熱く演じてたら本当に心身ともに疲れてたと思う。4年前に初めて演じた時は自分にこんな激しい部分があったのかという新発見があったこと、今回はまたさらに掘り下げて演じてみて、日々発見の連続だったことを語ってました。最後にこの日の千秋楽を支えにして博多公演も頑張りたいと締めくくってましたね。あぁ・・・観に行きたいよ、博多での泉見トゥイを~!
ほのかさんは16年ぶりのオリジナルキャストとしてプレッシャーを感じながらの日々だったそうで、本当にとても感慨深げでした。初演の時はエレンに近づこうと必死に演じていたことが今回の公演ではエレンが自分のほうから近づいてきた気がすると語ってたのがとても印象的でした。
面白かったのがサカケンさん・・・もとい、坂元さん。19歳の時に初めて観たミュージカルが「ミス・サイゴン」だったということで、その時の裏話を披露(笑)。初演の「サイゴン」を見て興奮状態だったサカケンさんは一人カラオケボックスにサイゴンCDを持ち込んで大熱唱してたんだとか。周囲からはかなり不審な目で見られてたということで・・・そりゃそうだろうなぁ(笑)。それほどこの作品に対する想いが深かったということで夢が叶って本当に嬉しいと語ってましたね。来年博多座では自分は1月しか出演しないので、もしもこだわりがなければ1月の「サイゴン」を見に来てほしいと言って最後まで笑いを誘ってました。
サカケンさんのあとでは語りづらいという言葉から入ったのは藤岡くん(笑)。印象的だったのがおじいさんの話。藤岡君のおじいさんって特攻隊訓練生だったんですね・・・。終戦がもし1週間伸びていたら出撃していたかもしれない、ということは、自分も生まれてこの場にいなかったかもしれないということを考えたと語っていたのがとても印象的でした。最後に周りの人への感謝の言葉を丁寧に述べてましたね。
知念ちゃんは本当に最初言葉が出なかったくらい感極まってました。彼女はここまで来るのに色々ありましたからね…。それだけに作品に対する想いも深かったと思います。キムを演じることはかなり辛かったけれどもいつも周りの人から優しくされて本当にとても感謝していると噛みしめるように語っていた姿がとても印象的でした。
最後は客席も含めてみんなで「アメリカン・ドリーム」を大合唱。1000回記念の時にはアンサンブルのみんなと振り付きで踊ってた泉見くんですが、今回は手拍子のみだったのがちょっと残念(笑)。筧さんはけっこう感極まっていたようで、エンジニアのソロ部分は歌えなかったみたいで代わりに他のキャストの皆さんが歌ってました。
そのあともカーテンコールは盛り上がり・・・舞台後ろから全員が二人ずつの行列になって登場。二人が挨拶してからその後ろというふうに延々とお辞儀の列が続いてました(笑)。アンサンブルさんたちは赤組と青組がセットになっててオーナーさんやNo.66役の人たちは二人で同じポーズをしたりして沸かせてましたね。一番最後は海宝くんと藤岡くんとあとアンサンブルさん数人が肩組んで「ありがとうございました~」と満面の笑顔で挨拶してて可愛かったです。
しかし、その大行列挨拶が終了してもまだ拍手は鳴りやまず、筧さんが一人で土下座状態(笑)。三つ指ついて丁寧に頭を下げてました。が、それでもまだまだ収まらず、再び全員集合。あるアンサンブルさんはもう着替えちゃってましたし(笑)筧さんは片手にビール持ってましたよ(笑)。半ばお祭り状態の皆さんの挨拶でようやくおさまった感じだったかな。幕が下りた後に「お疲れさまでした~」という声が響いてきたのでそのあと舞台上で打ち上げが行われたんだと思います。
やっぱり千秋楽のカーテンコールはいいよなぁ。参加できてよかった。
主なキャスト
エンジニア:筧利夫、キム:知念里奈、クリス:藤岡正明、ジョン:坂元健児、エレン:鈴木ほのか、トゥイ:泉見洋平、ジジ:池谷祐子 ほか
キャスト別舞台感想は追記に続きます。
筧利夫さん(エンジニア)
4人のエンジニアの中ではおそらく一番オーソドックスな演じ方をしているように思えた筧さん。それが時にちょっと物足りなく思えたりもしたんですが、千秋楽の筧エンジニアはとても素晴らしかったです。楽だからと言って特に浮かれる演技もなく、とても真面目に正攻法に演じてくださいました。楽特別バージョンだったのはムーランルージュで登場する時に「髪切りました」っていう前に「今日はめでたいねぇ~」と付け加えたくらいだったかな。ただ、アンサンブル青組オーナーとのやりとりはちょっとくど過ぎたかも(苦笑)。なんか二人とも切り時を失ってしまったような感じでちょっと客席も引いてたような・・・。「混血野郎」と言われたあとに筧さんが一言「長すぎるんだよっ」とツッコミ入れてたのが笑えましたけど。
筧エンジニアでとても印象深かったのがしたたかさの中に時折見え隠れする「情」の部分。ドリームランドの時にジジがGIに「アメリカにつれて行って」と迫って拒絶されたとき、3人のエンジニアは「余計なこと言うな!」とか「クビにしてやるぞ!」と威嚇するんですが筧エンジニアは「焦るな!」と言うんですよね。そのシーンが本当にすごく好きだった。それから今回楽で初めて気づいたんですが「生き延びたけりゃ」のナンバーの時にミス・サイゴンは自分が作り出したんだと歌ったあと「あいつらどうしてるかなぁ」と気にしていたり、ムーランルージュの踊り子さんに向かって「お前も(アメリカに)連れて行ってやりたいなぁ」と言ってやったりしてるんですよね。このあたりものすごくグッときました。
さらに1幕ラストでキムとタムを迎えにくるシーン。涙を必死にぬぐう知念キムとタムの二人をしっかりと抱きとめてた筧エンジニア!!あれは胸が熱くなりました・・・(涙)。とてもよかったです。
知念里奈さん(キム)
前回観劇した時はあまりクリスへの愛が感じられず、感情がタムにだけ偏っているように思えたことや「命をあげよう」で歌声が雑に感じられたことなどからちょっと避けていた知念キム。個人的にあまり合わないなぁと思っていたので今回の楽も正直不安のほうが大きかったのですが・・・その不安はすぐに打ち消されました!前回観た時とは別人かのように想えてしまうほど素晴らしかった!歌う時も言葉の一つ一つをとても大切にしていたし、ちゃんとクリスへの深い愛情も伝わってきました。
この日に観た知念キムは芯はとても強いんだけど心根がとても優しくて暖かい。クリスに向けた穏やかで優しい笑顔にはドキッとさせられたし、全身全霊をかけてクリスを愛している想いも痛いほど感じました。それからトゥイに対する時も前回とは全然違ってましたね。トゥイの想いとも知念キムは真剣に向き合おうとしてた。トゥイが自分の部下を入れる前にキムの手を取るシーンがあるのですが、その時に「ごめん」と言って手を下させる知念ちゃんのお芝居がものすごく印象的でした。トゥイを撃ってしまったあとも彼女はそのことにものすごく慟哭してたし・・・それを見て私も涙が止まりませんでしたよ(涙)。
それから前回気になった「命をあげよう」ですが、今回は本当にものすごく丁寧に歌ってくれてた。しかも、ずっと涙を流しながらワッとなりそうなのを必死に我慢しながら歌っているので見ていてものすごく泣ける・・・。クリスがバンコクに会いに来ていると知って着替えている時も嬉しさの余り涙ぐみながら歌ってたし、タムとの最期の別れもあふれる涙を止めることが出来ない感じだった知念キム(涙)。本当に楽の日に彼女のキムを見られてよかったです。最高のキムを見せてくれました。
藤岡正明くん(クリス)
観れば見るほど愛しさの増す藤岡クリス。他の3人のクリスに比べると「普通の青年」っぽさを感じてしまうのですが、だからこそリアリティもあるのかもしれません。歌声もすごくきれいなんですが、それよりも芝居の部分をとても大切に演じているのが好印象でしたね。1幕でキムに心を許す時の表情がとにかく無邪気でものすごく可愛い。ベトナム戦争で傷ついた心がキムに会うことで彼に活力を与えていく様子がとてもリアルに伝わってきます。
そんなクリスだったからこそ、3年後の苦悩も共感して見ることができる。エレンと寝ていた時に悪夢で目を覚ました後、藤岡クリスは再び布団に入ることなくずっと頭を抱えて苦しんでいたのがとても印象的だったなぁ・・・。あれは見ていてものすごく悲しくなりました。それからナイトメアでのベトナム脱出シーン。ヘリに乗り込む直前にキムを探し叫びまくっているときの藤岡クリスの表情はものすごく泣ける(涙)。最後は血を吐くような叫び声をあげてたし・・・。
エレンとの会話の中で自分の過去を告白するシーンも迫真の演技でした。なんかものすごく感情移入しやすいんだよなぁ、藤岡くんのクリスって。
坂元健児さん(ジョン)
久しぶりのサカケンさんのジョンでしたが、岡さんとは違ってクリスとの距離がものすごく近く感じられる気がしました。戦友・・・というか、もう腐れ縁みたいな悪友同士って感じ。藤岡クリスだったからかもしれませんがものすごく対等な関係に思えました。
歌声は相変わらず抜群の安定感。4年前もすごいなぁと思いましたが、改めて「どんな喉してるんだろう」って思っちゃいますね(笑)。ブイドイの熱唱は相変わらずものすごく熱い!まさに熱弁です!アンサンブルとのコラボになると独自のアレンジも入ったりして・・・サカケンさんの「ブイドイ」私は好きですよ。
面白かったのは対エンジニア。特にムーランルージュで再開した時の筧さんとの細かいコントみたいなやり取り(「また出た~」とか「あ~もうっ!」とか)は笑っちゃいました(笑)。
鈴木ほのかさん(エレン)
ほのかさんのエレンの包み込むような優しさが大好きでしたね。今回千秋楽を見て、エレンのクリスに対する深い想いを改めて感じたのですが、キムとの関係にはいつも以上に複雑な胸の内が表現されていたと思います。キムに対する思いやりのほかに、やっぱりクリスの妻としてのプライドみたいなものがあった。息がつまりそうなキムを見ていながらも「クリスと私の子供が欲しい」と反論するシーンはエレンの強さを感じました。より人間的になってたかな。
それにしてもオリジナルキャストで16年ぶりに演じたとは思えないほどのしっかりとした役作り。ほのかさんの素晴らしさを改めて実感した公演でした。
泉見洋平くん(トゥイ)
本当に毎度毎度感動させられっぱなしだった泉見くんのトゥイ。今までも散々語り倒してきましたが(笑)、なんというか、そうしないといられないくらい愛しいトゥイでしたよ。
千秋楽はいつも以上に泣けたなぁ…。たぶん、今まで私が見てきた泉見トゥイの中でも一番切なくて哀しいトゥイだった。今回かなりの上手席だったので後ろ姿しか見えないシーンがいくつかあったのですが、歌声や背中の震えなどからものすごく伝わってくるんですよね・・・キムへの愛が(涙)。なんかこの日はいつも以上に泣きそうな想いでキムへの愛を訴えていたような気がする…。冒頭の「裏切り者、呪うぞ」の時には今にもワッと泣きだしそうなくらいの表情で走り去って行って・・・見ているこちらも思わず落涙でした(涙)。
印象的だったのはやはり3年後のキムとの対峙。今回は知念キムが神が降りてきたかのように素晴らしかったので泉見トゥイにもいつも以上に感情移入して見てしまった。熱い想いでキムにプロポーズしながらも彼女はそれを受け止めた上で拒絶する。そんなキムの顔をものすごく悲しそうな目をして見つめているトゥイ・・・、イエスと言ってくれないキムへのもどかしさから部下に乱暴させてしまっている時も鞭で打たれているような痛みを感じているトゥイ(部下たちを「もういい」と言って止める時の必死さがさらに泣ける 涙)・・・。「お前は俺と」と祈るような気持でキムに愛を告白しているときのあの愛しさと哀しさが入り混じったようなあの目は思い出すだけでも涙が出てきますよ(涙)。
そしてタムの登場になるんですが、タムが出てくるまでキムの言っていることがまったく理解できずにただただ哀しげな顔で見つめていた時の芝居がまたものすごく泣けました…。そんな状況の中でタムを見せられて、ヘナヘナと座りこんで絶望の涙を流す泉見トゥイ…あの時の表情も忘れられないなぁ。キムからタムを引き離してナイフを振りかざしながらも今一歩その行動に踏み切れないような仕草を見せたのもすごく印象的だった。もう彼はこの時点から生きていることが苦痛でしかなかったんじゃないかな。キムに自分を撃つならためらうなと歌っている時の狂気のまなざしに毎回ゾクッとさせられてきましたが、今回はその狂気の中に「殺してほしい」というような悲しみの色が見えた気がしました。
そして撃たれたとき・・・知念キムは撃ってしまったことに衝撃を受けてしばらく震えているのでトゥイが「キム!」と叫んで倒れこんでくるのを抱きかかえることが出来ないんですよ(涙)。それがなおさら悲しみを誘い・・・駆けつけてきたキムの頬を必死に触れようとしながら死んでいった姿に大号泣(涙)。エンジニアが出てきてもしばらく涙が止まらなかったよ・・・。
亡霊シーンは相変わらずこわいんですが、やっぱり「俺は死んではいない」の時の泣きそうな顔を見るとウルッときますね・・・。
とにかく今年の泉見くんのトゥイは見るたびに胸を熱くさせられました。4年前よりもさらに感情移入させられた感じ。観ていて「壊れちゃうんじゃないだろうか」と心配になるほど全身全霊でこんなにも愛しいトゥイを演じてくれて本当にありがとうと言いたいです。泉見くんのトゥイがいなかったらたぶんここまで通わなかったと思うし(笑)。
こう色紙に記していた通り、最後の最後まで愛を貫いた素晴らしいお芝居を見せてくれました。ありがとう。博多にも行きたいなぁ・・・。これからご覧になる方、ぜひ一度、泉見くんのトゥイを見てください!
池谷祐子さん(ジジ)
久しぶりに池谷さんのジジを見たのですが、前回観た時よりも貫禄があって「おおっ」と思いました。ドリームランドでの男を惑わすような魅力がとてもよかった。そしてアメリカへの想いを歌うジジの切ない感情・・・これもジンワリ伝わってきました。ストレートのロングがとてもきれいで可愛い池谷ジジでした。
結局10回通ってしまった・・・。4年前を越えちゃったよ(爆)。そうさせたのはやっぱりこの作品の音楽と演出の素晴らしさ、そして泉見くんのトゥイ、これに尽きるよなぁ。本気で博多に行きたくなってる自分がいますから(笑)。たぶんそれはないと思いますけど、そう思わせるほど私が観た今年の「ミス・サイゴン」は素晴らしかったです。また戻ってきてほしいな。