ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』を観に兵庫西宮まで遠征してきました。
二年前に東京で初演された時、とても評判が良くて気になっていた作品でしたが、その時には関西での上演がなく観劇することがかないませんでした。日本初演の作品って東京でしかやらないことって結構あるんですよねぇ。そこで評判確かめてから地方に広げていく、みたいなのが多い(苦笑)。
私は川平慈英さんのお芝居がとても好きなので、ぜひとも観てみたいなぁと思っていて。ついに念願かなっての再演で関西にも来る!ということでとても楽しみにしていました。
この時期、ちょっと予定が詰まってはいたのですが(汗)強引に詰め込んで正解w。予想していた以上に感動しました。
劇場外にはたくさんのスタンド花が飾られていてとてもいい香りを漂わせていました(関西2日目だったし)。ここには浦井君と藤井さん宛のが多かったかな。
以下、ネタバレ含んだ感想です。
2019.12.13ソワレ in 兵庫芸術文化センター 阪急中ホール(兵庫・西宮)
主なキャスト
- エドワード・ブルーム:川平慈英
- ウィル・ブルーム:浦井健治
- ヤング・ウィル:佐田照
- サンドラ・ブルーム :霧矢大夢
- ジョセフィーン・ブルーム:夢咲ねね
- ドン・プライス:藤井隆
- ジェニー・ヒル:鈴木蘭々
- エイモス団長: ROLLY
- カール:深水元基
- 魔女:JKim
- ザッキー・プライス:東山光明
- 人魚:小林由佳
あらすじと概要
原作は2003年に上映されたティム・バートン監督によるファンタジー映画『ビッグ・フィッシュ』。ダニエル・ウォレスによる小説『ビッグフィッシュ―父と息子のものがたり』から着想を得て映画化したとのことで、ティム・バートンの自伝的作品として当時話題になりました。この映画で若き日のエドワードを演じたのはユアン・マクレガー。
その後、2013年にミュージカル化されブロードウェイにも進出。日本語版が初めて上演されたのは2017年の日生劇場。演出は白井晃さんです。
簡単なあらすじは以下の通り。
エドワード・ブルーム(川平慈英)は昔から、自らの体験談を現実にはあり得ないほど大げさに語り、聴く人を魅了するのが得意。
自分がいつどうやって死ぬのかを、幼馴染のドン・プライス(藤井隆)と一緒に魔女(JKim)から聴いた話や、共に故郷を旅立った巨人・カール(深水元基)との友情、団長のエーモス(ROLLY)に雇われたサーカスで最愛の女性、妻・サンドラ(霧矢大夢)と出逢った話を、息子のウィル(浦井健治)に語って聞かせていた。
幼い頃のウィルは父の奇想天外な話が好きだったが、大人になるにつれそれが作り話にしか思えなくなり、いつしか父親の話を素直に聴けなくなっていった。
そしてある出来事をきっかけに親子の溝は決定的なものとなっていた。しかしある日、母サンドラから父が病で倒れたと知らせが入り、ウィルは身重の妻・ジョセフィーン(夢咲ねね)と両親の家に帰る。
病床でも相変わらずかつての冒険談を語るエドワード。本当の父の姿を知りたいと葛藤するウィルは、以前父の語りに出ていた地名の登記簿を見つけ、ジェニー・ヒル(鈴木蘭々)という女性に出会う。
そしてウィルは、父が本当に伝えたいことを知るのだったー。公式HPより引用
再演するにあたり、前回に引き続き演出の白井晃さんが続投。メインキャストも子役以外は全員同じメンバーがそろいました。
ちなみに、初演で子役を演じていたのは人気者の鈴木福くんでした。子供の成長は早く、今ではすっかり声変わりして大人っぽくなりましたよね。福くんのウィルも見てみたかったなぁ~。
全体感想
東京で初演された時は日生劇場という大きな箱での上演だったこともありキャストは全部で22人いたそうです。それが、今回は中劇場サイズがベースになっていたことから人数を10人減らして12人にしたんだとか。
"12 chairs version"と銘打って、主演の川平慈英さん以外のキャストはメインの持ち役以外にも複数の人物を演じていました。それゆえ、「あのキャストがこんな場面にも!」って探し出すのもけっこう楽しかったです。
ただ、セットを動かしたりするのもキャストの皆さんがほとんど担当していたので、初演のころよりもだいぶ体力を使っているんじゃないかなぁと。そんな大変ななか複数役を演じ切ってて…ほんと、プロの役者はすごいなぁと感動しました。
舞台セットは比較的シンプルでしたが、映像を使った演出によって場面がとても壮大に見えたりして臨場感がかなりありました。
特に、巨人の住んでいた洞窟や、町に水が流れ込んでくるシーンはすごい立体感があってドキドキした。それから、この作品のテーマでもある”ビッグ・フィッシュ”が泳いでいく映像を舞台全体に重ね合わせて映していたのも印象深かったです。
セットでもう一つ深く印象に残ったのが1幕ラスト。エドワードがサンドラにプロポーズするシーンがもう…圧巻!!舞台一面に咲き誇る黄色い水仙の花がとにかく感動的で息をのみ涙しました。ここは慈英さんの魂の演技力も素晴らしかったのでさらにこみあげるものがありました。
ストーリーについて、私は日生劇場版の初演を観ていないどころか映画も見たことがなかったので、今回観劇するまではどういう作品なのか全くというほど知りませんでした(汗)。事前にはあえて「感動する作品らしい」という情報しか頭に入れてなかったのでw、すべてが初めて触れる物語。
ホロリとくる作品だろうなぁという予測はしていましたが、それどころじゃなかった(笑)。1幕ラストの水仙の場面で最初にボロボロ涙がこぼれ、2幕クライマックスのシーンでは感極まってしまってあとからあとから落ちてくる涙を止めることができなかった。
たぶん、年齢を重ねた人であればあるほど泣けるんじゃないかなぁと思いました。私には子供はいないけどこれだけ泣けたので…子を持つ親(特に父親)の人なんかはさらに心の琴線に触れるんじゃないかなぁと。
この作品の大きなテーマは”家族愛”という側面が強かった印象。ちなみに映画ではどちらかというと”ファンタジー”色が強く感じるという人も多いようです。映像の力がありますからね。
舞台は親と子の心の葛藤にリアルに迫るところに焦点を当てて描いたのかなぁと思います。
1幕の途中まではエドワードの語る体験シーンがファンタジー色強くて「冒険もの」っていうイメージが強め。
魔女に会って自分の最期の姿を教えてもらっただの、洞窟にこもる巨人を説得して仲間になったとか、サーカス団の興行主が実は狼男だったとか・・・とにかく、現実的には起こらなさそうな話がメイン(笑)。そりゃ、大きくなった息子のウィルが「そんなことあるわけないだろう!」って辟易した気持ちにさせられるのも理解できる。
さらに父と子の溝を決定的にしたウィルの結婚式。「婚約者のジョセフィーンが妊娠してることは言わないで」とウィルがあれだけ口酸っぱくして諭されたのに簡単に約束を破ってしまうエドワード。
人の話をまともに聞くことをせず、自分のペースで何でも先に進んでしまう、どこか違う世界に住んでいるかのような父に息子がキレるのも理解できるなぁと(汗)。でも、エドワードは父親として息子へ伝えたい熱い思いがある。うまく意思の疎通ができなくなってしまった父と子のシーンは観ていて胸が痛みました。
しばらく疎遠になった父が倒れ余命が少ないことを知らされたことをきっかけに、エドワードとウィルは再び向き合いますが、ある出来事をきっかけに再び衝突。でも、その真実を悟った時…ウィルはようやく父の想いを飲み込むことができた。
2人が心から分かり合えた時というのが、父の最期が差し迫っていた時だったというのがあまりにも切ない(涙)。
エドワードは息子に「自分の最期の時の様子を魔女に教えてもらった」と常々話していましたが、どんなものかと尋ねても「サプライズにならないから」といって教えてはくれませんでした。見ているこちらもどんなものだったのかがずっとわからずじまいだった。
それが、2幕のクライマックスで明らかになるんですけど…もう、この場面は思い出すだけでも涙がこみあげてきてしまうほど心打たれました(涙)。エドワードはいかにもドラマチックなすごい出来事だったみたいなことをにおわせていましたが、その瞬間が訪れた時に彼の言葉の真意がどうしようもなく胸に迫ってくるのです…!!
エドワードの最期は、本当に奇跡であり、そしてとてつもなく優しく温かかった。川の向こうへ、まるで魚が水に帰っていくように静かに笑って去っていったエドワードの背中が忘れられない。
現世との永遠の別れの瞬間のはずなのに、明るい希望を感じさせるとても感動的なワンシーンでした。ああ、こんなに泣けるなんて思わなかったよーー(泣)。
メインは父と子の物語でしたが、そのほかにも夫婦の愛情や、仲間との友情、他人を受け入れることの大切さみたいなドラマも深かった。楽しく笑えるシーンも織り交ぜつつ、どこか心が温まる物語がたくさん散りばめられていました。
そんななかでちょっと異質だったのが、エドワードとジェニーの物語だったな。温かいエピソードが多かった中で、この二人の結末だけはほろ苦く切なかった。それを語りたがらなかったエドワードの想いをウィルが悟るシーンはとても深く、心打たれるものがありました。
初演と同じキャストだったからこそ紡ぎだせる物語だったんじゃないかなと思います。素敵な舞台でした。
主なキャスト感想
川平慈英さん(エドワード)
慈英さんの舞台を初めて見たのは1996年のミュージカル『雨に唄えば』のコズモ役。それまでは”テレビでサッカーを熱く語るお兄さん”というイメージしかなかったのでw、この舞台での慈英さんを見た時、ものすごく大きな衝撃を受けました。歌・ダンス・芝居…どれをとっても完璧に魅了された私。ネームバリューは主演の2人には及びませんでしたが、だれよりも一番印象に残ったのが川平慈英さんでした。
それ以来、慈英さんの大ファンとなり出演作品はなるべく見に行くことにしていました。でも最近はちょっとご無沙汰になってしまって(汗)、今回久しぶりに舞台でのお芝居を見ることができるということで本当に楽しみにしていました。
もうですねぇ…本当にこの方は素晴らしい役者ですよ!!まるで慈英さんをモデルにしてこの作品作ったんじゃないの!?と錯覚してしまうほどのハマりっぷりだった。
キャラクターのハマり度もすごかったんですが、何よりも心打たれたのが、すべての芝居にエドワードのリアルな感情がそのまま乗っていたことです。言葉の一つ一つに繊細な感情が息づいていた。
楽しく弾けるような冒険シーンでの躍動感も慈英さんの魅力がたくさん詰まってましたが、最初に泣かされたサンドラへのプロポーズ場面。バックに咲き乱れる水仙の花も泣けましたが、私はそれ以上に慈英さんが演じるエドワードの想いのこもったセリフの一つ一つに心を揺さぶられて涙が止まりませんでした。
あんな想いのこもった言葉を告げられたら、そりゃ、一緒になろうって思えるよ!!その説得力が本当にすごかったです。
そしてクライマックスの最期の家族との時間…。なんて温かいセリフを語るんだろう…!!家族に対する愛情がこれでもかというくらいひしひしと胸に迫ってきた。
そのなかでも、最後に妻のサンドラに対する想いを吐露した場面は涙なしには見られない!!あんなに深く愛されたらどんなに幸せか…!!!慈英さんの演じるエドワードの言霊に激しく心を揺さぶられました。
そのほかにもグッとくる表情やセリフのオンパレードで…久しぶりに慈英さんの舞台を見れて本当に幸せでした。
舞台で見る慈英さんはテレビでは見られない素晴らしい一面をたくさん見せてくれます。観劇が好きな方は、一度はその芝居を見てほしいと思います。
浦井健治くん(ウィル)
慈英さん演じるエドワードのインパクトがかなり強かったのですが、その魅力を引き出していたのは浦井くんの存在感があったからこそでもあったなと思います。
すでに父の誇大妄想のようなエピソードにうんざりしていたウィルではありましたが、どんなに腹を立てたとしても父とつながりたいという想いも強く感じられて…。ジェニーとの一件が出てきたときにエドワードを激しく責めますが、その裏には「本当は信じたいんだ」という想いも見え隠れしてて…複雑な息子の心境をとても繊細に演じていたと思います。
本当の父の姿を知りたいと切望していたウィルがクライマックスでその真意にたどり着いた時、エドワードと最後の冒険をするのですが…この時のこの上なく幸せそうな笑顔がとても印象的でした。
別れの瞬間、ボロボロと涙を流しながらエドワードと向き合ってて…それ見てさらに泣けたなぁ。そしてその後の明るい未来を予感させるラストシーンもとてもよかった。
霧矢大夢さん(サンドラ)
サンドラはどんなにエドワードが枠からはみ出したことを言っても優しく大きな器で受け止めてくれる素敵な女性。霧矢さんは、そんな懐の深い優しさを時に可愛らしく、時に切なく演じられていたと思います。
特に、余命が幾ばくもなく気弱になっていたエドワードを膝に抱きながら歌うシーンはとても感動的でした。
サーカス団にいたときにエドワードから一目惚れされたサンドラでしたが、しばらく会わないうちにその存在を忘れ別の人(エドワードの幼馴染)と婚約をすることになっていた。
そこへようやくサンドラの居場所を突き止めたエドワードが現れて心のこもったプロポーズを受けます。その想いを戸惑いながらも徐々に心を開きやがて彼の想いを受け止めていく過程のお芝居がとても印象に残りました。このベースがあったから、サンドラは最後まで夫を信じ愛することができたんだなと納得できました。
夢咲ねねさん(ジョセフィーン)
ねねさんは今年の初めに「ラブネバーダイ」で見て以来でしたが、役柄としては今回のジョセフィーンのほうが合ってるなぁという印象です。
出番的にはあまり多くはなかったのですが、明るくサバサバした雰囲気で父との関係に悩む夫のウィルを精神面で支えていたと思います。ウィルの心が荒れている時にもそれを責めることなく、そっと寄り添うように彼の心が向かう方向を導いているような、そんな雰囲気もあったな。すごく出来た奥さんって感じだった。
芯のあるしっかりした歌声もよかったです。音程がすごく夢咲さんに合ってた気がする。
藤井さんはちょっと傲慢でコミカルなエドワードの幼馴染役をユーモアたっぷりに熱演。弟役の東山君との凸凹コンビっぷりも可愛かったです。
面白かったのはサンドラに婚約破棄されてエドワードに逆切れした場面。あれ、藤井さんのアドリブ炸裂してたよねww。脇で立ってた霧矢さんが吹き出しそうになってた(笑)。
それとは逆にお医者さん役はすごくシリアスで…この役柄の演じ分けも見事だった。
東山君はヤンチャなドンの弟役がハマってて可愛かった。強引な兄にいつもひっついてて、その陰にいられれば安全…みたいな弟っぽいしたたかさも見え隠れしてたのも面白かったです。
ジェニーを演じた蘭々さんは老齢になってからのお芝居が絶品だった。ジキハイで見ていたころよりもまた更に落ち着いた大人の雰囲気が漂っていて、思わず見とれてしまいました。
ウィルに過去の出来事を告白するシーンはとても儚くて…エドワードの近況を聞いた時に思わず顔を覆った時は思わず涙してしまった。
ROLLYさんはメイクが非常に個性的なのでサーカス団の団長役がめちゃめちゃハマっててインパクト絶大。でも、想像していたよりも抑え気味のお芝居をしていて物語から逸脱するような派手さを感じさせなかったのが素晴らしかったです。断腸の正体が明らかになるシーンはけっこう「!?」ってなる場面でもあるんですが、それすら自然に見えたくらい。
他の役でも濃いメイクのままで演じられていましたが、全体的にすごく自然で見事に作品の世界観に溶け込んでいたと思います。
魔女を演じたJKimさん、初めて聞く名前だなと思ってたら…元劇団四季の金志賢さんだと知って驚きました。いつの間に改名されていたのか!それゆえあの独特の存在感と迫力の歌声…納得です。
巨人のカールを演じた深見さんはあの扮装で出るとさらに迫力が!!まさに”巨人”にピッタリ。エドワードが洞窟にこもるカールを説得しにやってくるシーンは個人的にもとても好きなエピソードでした。閉じこもりがちだったカールがエドワードの言葉に導かれるように心を開いていく場面はとても感動的でした。
それにしても、あの扮装じゃないときでも深見さんの身長の高さは群を抜いてたな!!いろいろ驚いたw。
鈴木さんの人魚役はとても可憐で体の動きがしなやかで美しかった。魚のしっぽをつけたままであの動きができるのは本当にすごい!
ヤング・ウィルの佐田くんは好奇心溢れる少年役を好演。父の話す物語に違和感を感じながらもその世界観に入ると楽しそうな少年らしい表情を見せていたのが印象的でした。
後述
カーテンコールはとても盛り上がり、客電がついてアナウンスが流れてもスタンディングしているお客さんたちが帰る気配がないくらいだった。
その光景を目の当たりにした慈英さんがもう、感極まったような嬉しそうな表情をしてて…なんかそれ見ただけでもまた泣きそうになっちゃったよ~。お客さんへの感謝の想いがとてもストレートに伝わってきた。
マイクに乗らない生の声で「ありがとうございますっ!!」って何度も口にしてて胸打たれるものがありました。
そんな、エンターテイナーな川平慈英さんのことがますます好きになった舞台でもありました。慈英さんあっての『ビッグ・フィッシュ』だったなとも思うので、次に再演されるときにもまたぜひ出演してほしいと思います。