ミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』大阪公演 2022.04.21 マチネ

全体感想(2)

ジョンストン家が新天地で新たな出発をしてから数年後、15歳に成長したミッキーは幼馴染のリンダとちょっといい感じの関係になっていました。お互いに想いを寄せ合ってはいるんだけど、ミッキーは恥ずかしさやプライドが邪魔してしまうのか素直な気持ちを伝えることができずにいる。リンダがあんなにラブコール送ってるのにねぇとちょっともどかしい(笑)。

ガキ大将だったサミーはさらに悪さに磨きがかかり傍若無人っぷりもパワーアップ(汗)。もう見ているだけでハラハラさせられっぱなし。その彼がきっかけになり大きな悲劇に発展するわけで…、サミー兄ちゃんにはもう不安しかなかったですねw。

そんな時、ミッキーとエディはついに再会を果たします。最初に出会った少年時代よりもさらに聡明さがアップし凛とした雰囲気に成長したエディ。可愛い女の子に成長したリンダに想いを寄せたものの、彼女の想い人がミッキーだと悟ると切ない気持ちになってしまう。だけど、親友のために黙って身を引いて想いを封印しちゃうんですよね…。

エディにとってミッキーは今も変わらず「義兄弟の契り」を交わしたほどの大切な親友。ということで、”大人の”映画をミッキーと一緒に観に行くことに(笑)。そのことを悟りながらも笑って送り出すジョンストン夫人の肝っ玉の大きさよwww。ライオンズ夫人が聞いたら卒倒してショックで寝込んじゃうところだよね(汗)。

思春期の男の子たちということで、”大人の”映画に興味津々になるのはどこの国も変わらないのかもw。観終わった後の2人の興奮がMAX状態ですごく奇妙な動きをしてるわけですがww、ここからけっこう”放送〇〇用語”的なものがポンポン飛び出してくるw(ガキンチョ時代もけっこう出てきますが)。

初めてこの作品を観た時、女子が引いてしまうようなワードが飛び出しまくっててどんな表情していいか戸惑ってしまったのを思い出す(笑)。海外の作品はこういうのけっこうオープンなので、ある程度覚悟は必要なこともあるんですよね。まぁ、4回目の今回も慣れた…とまではいかないんですがw。なので、こういう場面で動揺してしまう人の気持ちはよく分かる。だけど、これを越えれば濃密な人間ドラマな展開が待っているので、何とか耐えてほしいと思います(汗)。

厳格な男子校に通っていたエディでしたが、反抗的な態度が裏目に出て退学させられてしまった。その原因となったのがジョンストン夫人からもらったロケットネックレスだった…。その中に幼いころのミッキーとジョンストン夫人の写真が収められていることを知ったラオインズ夫人は、再び息子を奪われてしまうのではという深い恐怖の闇へと転落していく。
それはやがて激しい憎しみへと変わってしまうわけで…この時の彼女の表情がとても怖かった…。

激しい感情に駆られたライオンズ夫人はジョンストン家を一人で訪ねるのですが、もうそれは狂気の沙汰。被害妄想が膨らみすぎてまるで脅迫めいたことをしてしまう。それでも納得できないライオンズ夫人は「お金をあげるからここから引っ越して」と迫る。
その態度に恐怖を覚えるジョンストン夫人でしたが、彼女はそれでもお金を受け取ろうとはしなかった。施しは絶対に受けたくないというプライドなんですよね。追い詰められてるのはむしろライオンズ夫人のほうに思えてなりませんでした。

このお金の問題はミッキーとエディの間でもやり取りされてて、映画に行くためのお金がないというミッキーに対してエディは「僕のお金で行けばいいじゃないか」といとも簡単に言ってしまう。まだこの頃はそれに対する違和感を感じていない二人なんだけど、それが後々大きな悲劇へと繋がってしまうので胸が痛いシーンでもありました…。

スポンサーリンク

ミッキー、エディ、リンダの3人は青春時代を共に過ごし絆を深めていきます。14歳から18歳までの様子がナレーターの歌によって紡がれていくのですが、小道具を使った時間の流れを見せる演出が実にスムーズで面白かったです。

そしてエディは今の場所を離れて大学に進むことをミッキーに報告。その時、リンダに早くプロポーズをしろと背中を押してやるんですよね。ミッキーに会う直前、リンダと二人きりになった時に想いが溢れそうになるんだけど、それをグッと心の中に押し込めたエディの姿がとても切なくて泣けました…。
そしてミッキーの告白が成功して二人はラブラブな関係になるんだけど、あの姿をエディに見せつけるような格好になっていたのがなんとも胸が痛んでしまう。あれはすごい残酷だと思った。

その後リンダが妊娠したことでミッキーは結婚を決意。この流れ、ジョンストン夫人の時とよく似ている。それがなんだか不幸への入り口を暗示しているようにも見えて不安を感じてしまった。

ジョンストン家にしばらく同居することになったミッキーとリンダでしたが、産まれてくる子供のためにも自立をしなければと一大決心をしたミッキーは工場で働き始めます。満足できる仕事ではなかったものの、給料がもらえるということで今度は真面目に働いていたのですが…時代がそれを許してくれなかった。
あっという間に不況の波に飲まれてしまい、あれよあれよという間に工場を解雇されて働き口を失ってしまった。なんとか新しい勤め先を模索するミッキーでしたが、あまりにも厳しい社会情勢の中でそれを見つけ出すことは至難の業…。結婚して子供も生まれてやっと安定した暮らしに向けて前に進んだところだったのに、運命は本当に残酷です。

そんな時にエディと再会を約束したクリスマスがやってきてしまう。大学時代を謳歌しているエディにはミッキーの荒んだ気持ちを理解することができなかった…。また会おうと約束した時とはまるで様子が変わってしまったミッキーに戸惑い、「しばらくヒッピーみたいに気楽に暮らせばいいじゃないかと」と能天気なことを言ってしまうエディ(汗)。さらには「お金なら僕が持ってるから」とも簡単に告げてしまうという…(汗汗)。
この場面を見て、環境の違いって本当に怖いなと思ってしまった。経済的に苦労したことがないエディには、その言葉の一つ一つが刃のようにミッキーの気持ちを切り裂いていることに気が付かないんですよね…。このことがきっかけであんなに仲が良かった二人の間に亀裂が入ってしまうシーンは見ていて居たたまれなかった(涙)。

就職先が見つからないなかで、ミッキーは次第に焦りを募らせ危ない橋を渡る決意をしてしまう。悪事を極めていた兄のサミーが、強盗の見張りの仕事を持ちかけてきたのです。報酬は50ポンド。その誘惑にミッキーは打ち克つことができなくて…もう見ていて歯がゆくてたまらなかった(汗)。そこだけは絶対いっちゃダメだったのに…。でも精神的に余裕を失い追い込まれてしまってたんですよね。それが哀しかった。
この展開、どこかで見たことあるなと思ったんですが…『回転木馬』のビリーとほぼ同じ状況だということに気が付きました。彼も大切な人のために悪友の誘いに乗って強盗の手伝いしてしまい、悲劇を迎えてしまうというストーリーだった。

サミーと強盗に手を染めてしまったミッキーでしたが、ここで大きな誤算が生じる。サミーが相手を銃で撃ってしまい、二人とも警察に捕まり刑務所に収監されてしまった…。
刑務所の中で絶望し次第に精神の均衡を失ってしまったミッキーは、ヤブの精神科医によって薬漬けにされてしまいますます心の病を進行させてしまう結果に。なんで彼だけにこんな不幸が次々と襲い掛かるんだろうなと思ってしまう。ビリー以上に過酷だよ(汗)。

やがてミッキーは出所しますが、薬に依存する体質になってしまいいくらリンダが止めてもやめることができなくなってしまう。それでも何とかミッキーの再生を模索し続けたリンダは、彼に内緒でエディに相談を持ち掛けてしまった…。もうこの時点で悪い予感しかしないわけですよ。
薬への依存がやめられないミッキーは、無理やりリンダから瓶を奪い取りむさぼるように錠剤を口の中へ入れていく。この時ミッキーの手がガタガタ震えていたせいで、何粒か舞台の上に零れてしまうんですよね。だけど彼は狂ったようにそれを拾い集めて口の中に放り込んでた。その姿がなんだかひたすら哀しくて胸が詰まる想いがしてしまった…(涙)。

さらに胸が痛むのが、リンダが議員になっていたエディにこっそり生活についての相談していたのをミッキーが知っていたことでした…。まだ無邪気だったころはエディから物をもらうことに何も違和感を覚えていなかったけれど、どんどん生活環境の差が広がっていくにつれて彼に対する嫉妬心や憎しみが膨らんでしまったミッキー。だからこそ、家や仕事のことで彼の世話には絶対なりたくなかった。

でもリンダは子供も生まれたばかりで生活をしていかなければいけないという現実を見ていた。ミッキーが薬漬けで働こうとしないなかでどんどん困窮していき、やむにやまれずエディに相談してしまったんですよね…。どちらの気持ちもすごくよく分かるだけに本当に辛かった(涙)。

スポンサーリンク

ミッキーとの生活に疲弊してしまったリンダは、エディに心の救いを求めるようになってしまった。これが最後の悲劇への大きな引き金に…。エディはリンダに想いを寄せているわけで、彼女が来てくれることは嬉しい。その感情が残っていたからか、ついキスをしてしまう。だけど、それ以上のことは思い止まりそうな雰囲気ではあるように見えたんだよなぁ。リンダが本心ではミッキーを愛していることを悟ってしまっているから…。

しかし、その現場をミッキーは目にしてしまった…。導いたのは、狂気の鬼と化していたライオンズ夫人だったというのがもうホラー的展開(怖)。激しい衝撃を受けたミッキーは、実家から兄のサミーが密かに隠した犯罪に使用した拳銃を持ち出し一目散に駆け出していく。それを煽るかのように歌うナレーターが見ていてゾクっとさせられる。まるで「最後の仕上げだ」と叫んでいるようだった。
ジョンストン夫人はミッキーの暴挙を止めるべく、慌ててその後を追いかけていく。ここで彼女が追いかけなかったら、というか、ミッキーが駆けだすのを知らなければ、もしくは違う運命が待っていたのかもしれないと思ってしまいます。

正気を失ったミッキーは、議員として演説をしていたエディの前に突然立ちはだかる。そのただ事ではない様子に周りはざわつき、武装警官も駆けつけてくるのですが…エディが落ち着き払っていたのがとても印象深いです。
泣き叫ぶように心に溜めこんでいたマグマのような感情をぶつけまくるミッキー。それを静かに受け止めるエディ。そして駆けつけたジョンストン夫人。そしてついに冒頭の”その時”が訪れる。皮肉にも、彼らを一番愛していた母親・ジョンストン夫人の「一言」によって…。それがなければ、違う結末が待っていたような気がしてならなかった(涙)。

「なんで俺のほうを手放してくれなかったんだ!!」

最後に涙ながらに訴えるミッキーの言葉があまりにも哀しすぎて涙が止まりませんでした…。この場面は何回観ても泣けてしまう。その言葉を母親に投げつけてしまった彼の気持ちを考えると、胸が締め付けられるような気持になります(涙)。あまりにも哀しすぎる、階級社会が生んだ悲劇でした…。ジョンストン夫人から始まり、ジョンストン夫人で終わるという展開も切なすぎます。

ラストシーンは悲劇なのですが、とても美しい景色が映し出されていて…それを見てまたさらに泣けてしまいました。鋼太郎さんの細部にまで行き届いた演出が素晴らしかったです。

スポンサーリンク

主なキャスト別感想

柿澤勇人くん(ミッキー役)

最初に配役を聞いた時ドンピシャだなと思ったのですが、それ以上でした。特に悪ガキ時代のハッチャケっぷりがすごいリアルで、あれは芝居なのか!?と思ってしまうほど違和感なかった。ライオンズ家にお邪魔して暴れまくるシーンは、常連っぽいお客さんから笑いが漏れていたので相当アドリブが入っていたのかもしれません(笑)。
思春期に入ってカッコつけたがるミッキーも可愛かったなぁ。リンダへの告白が特にツボw。あんなツンデレっぽい感じでこられたら、女冥利に尽きるんじゃなかろうかと思うレベルだったww。

仕事を解雇された後どんどん不幸に向かって転がり落ちていく芝居もすごく印象深かったです。学生時代まではあんなに無邪気に笑ってたミッキーが、犯罪に手を染めてしまったことで感情を失い狂っていく様は切なすぎて見ていられなかった…。このあたりの芝居が本当にリアルで、めちゃめちゃ惹きこまれました。

今後も再演があった時にはぜひミッキー役を演じてほしいです。

ウエンツ瑛士くん(エディ役)

イギリス留学から戻ってから、ウエンツくんすごく良い表情になったなぁと思っていたのでぜひとも舞台で見てみたかったんですよね。かつての相棒・WaTの小池徹平くんは観たことがあるのですが、ウエンツくんは今回が初めてだったのでとても楽しみにしていました。

まず驚かされるのは歌の上手さ。前々からイイ感じだなと思っていたけど、さらにそれ以上に進化していたように思います。言葉も聴き取りやすいし、何よりエディの心が一つ一つちゃんと伝わってくる。特にリンダへの秘めた思いを歌う♪言わない気持ち♪のナンバーはとても感動的でした。

そしてお芝居も本当に魅力的。ガキ大将のミッキーに対してクッキリと世間知らずのお坊ちゃま感を出してました。ミッキーから色んなものを吸収して無邪気に笑ってる少年時代の芝居は特に印象深いです。
そんな彼が、お金の苦労をしたことがないゆえに引き寄せてしまった悲劇が哀しかったな…。全く悪気はないのにミッキーの心を抉るような言葉を普通に告げてしまうシーンなどはものすごくハラハラさせられた。こういったエディの残酷な無垢さをウエンツくん、非常にうまく表現していたと思います。

スポンサーリンク

木南晴夏さん(リンダ役)

木南さんの舞台を見るのはこれが初めて。ミュージカル出演ということで歌はどんな感じかなと思っていたのですが、よく考えたらリンダはソロナンバーがほぼ無い役でしたね。

でも、お芝居は本当に巧い!少女時代のお転婆娘のリンダは男の子か?と思うほど活発で、いつもサミーにいじめられるミッキーの味方になってくれる逞しさがあってカッコイイ。思春期に入るとちょっとおませな雰囲気になるものの、とにかくキュートで可愛くて目が離せない。そんなリンダにあんな一途に想いを寄せられてるのに、何でミッキーは早く告白しないんだろうって思ってしまうレベルw。
だけど、エディの自分への気持ちも知ってしまって戸惑いを見せる乙女なところも魅力的だったな。嬉しいんだけど、でもやっぱりミッキーのほうが好きって気持ちがブレてないところがすごくよかった。

結婚した後はとても辛いこと続きで…薬漬けになるミッキーを必死に立ち直らせようとする姿は痛々しくて胸が痛んでしまった…。精神的にも限界を迎えた彼女がエディに思わず救いを求めてしまったのも責められないよなぁという説得力もありました。

今度はぜひソロナンバーを歌う役で見てみたいかも。

内田朝陽くん(サミー役)

朝陽くんの舞台を見るのは2018年の『サイケデリック・ペイン』以来。このところ音楽活動に力を入れているようですが、私は役者をしている朝陽くんも好きなんですよね。

いやぁ、予想していたよりもめちゃめちゃワイルドで手の付けられない悪ガキっぷりでビックリしました(笑)。あんなすごい破天荒な朝陽くん見たことなかったから、ものすごく新鮮だったな。特に飴玉を口に含んでそれを周りの人にぶちまけまくるシーンはインパクトありまくり(笑)。あれ毎回やるのホント大変だったと思う。ガタイも大きいので、よけいすごんだ時のサミーの”怖さ”や”迫力”が際立っていました。

成長してもじゃもじゃ頭からロックンローラー風になって登場したサミー兄ちゃんは超カッコよかった!おぉ!朝陽くんじゃ!!みたいな(笑)。だけど、悪さのレベルはさらにパワーアップしていて弟を悲劇に巻き込むきっかけを作ってしまう。なんていうか、更生の余地なし的な凄味があって…色々と衝撃的でした。

スポンサーリンク

伊礼彼方くん(ナレーター役)

ジョンストン家とライオンズ家の二つを結び付け、悲劇の道へと誘っていく怪しい存在のナレーター。今回伊礼くんを見て思ったのは、まるで死神のような役回りだったんだなということでした。しかも、『エリザベート』のトート閣下よりもエゲつないタイプ(汗)。どんな展開が訪れようとも、必ず不幸の道へと軌道修正できてしまう、みたいな恐ろしさがあった。

それを際立たせていたのがあの張りのある迫力の歌声です。ロックなナンバーが多いのでなおさら凄味を感じましたね。伊礼くんらしさが存分に出てたと思います。

ナレーターは時に違う人物に姿を変えて登場したりするのですが、その時は死神的な要素は抜いてちょっとコミカルな感じになってる。このあたりも伊礼くんの真骨頂といった感じ。色んなシーンで楽しませてもらいました。

鈴木壮麻さん(ミスター・ライオンズ役)

壮麻さんはライオンズ役になる前に、ミスター・ジョンストンも演じているんですよね。イケイケな適当男を軽やかに演じられてて面白かった!っていうか、壮麻さんご自身がめっちゃ楽しんで演じているというのがすごい伝わってきて微笑ましくすら思いました。何より、劇団四季時代の仲間・堀内敬子さんとダンスするシーンはなんとも胸アツな光景でございました。

過去公演を見た印象だと、ミスター・ライオンズってとても印象が薄かったんですよね。特にナベさんの時は「この役って必要なのかな」とすら思ってしまったくらいだったww。なので、壮麻算が演じるにはもったいないんじゃないかと最初懸念があったんですが…、めちゃめちゃ存在感があってビックリしました。
ミスター・ライオンズはとても優しい旦那様なんだけど、あまり家庭に干渉しないタイプっぽい。仕事が第一で、夫人に求められるままお金もポンポン渡してしまう。そうすれば家族円満でいられると信じちゃってる感じがすごく危うかった。

ミッキーが勤めていた工場長を演じている時はひたすら冷酷。ライオンズ家での優しいお父さんの顔はみじんも出さない。このあたりの演じ分けもさすがだなと思いました。そういえば、生徒役では登場してこなかったな。壮麻さんのヤンチャな学生もちょっと見てみたかったw。

スポンサーリンク

一路真輝さん(ミセス・ライオンズ役)

子供を熱望しながらもなかなか授からなくて、逆にすぐ子供ができてしまうという家政婦のミセス・ジョンストンに嫉妬心を抱いてしまうミセス・ライオンズ。強引に生まれた双子の片割れを引き取ったものの、常に奪われてしまうのではないかという恐怖に怯える姿は、哀れを通り越して恐怖すら感じさせる大熱演でした。あれは、ガラスの仮面の月影先生役の狂気を越えてたと思うw。

あんなに気が狂うほどジョンストン夫人とエディの接触を恐れるくらいなら、引き取らないほうがよほどよかったのにと思わずにはいられなかったなぁ。自分を見失い、最後には悪魔に魂を売ってしまったかのような表情を見せたときには背筋が凍るような気持にさせられてしまった(汗)。一路さん、この役ハマりすぎ!!特に正気を失った目線がめっちゃ恐ろしかったです。
普段は明るい笑顔を浮かべる素敵な一路さん、カテコの姿にものすごくホッとしてしまいましたw。またあの恐怖を見てみたいのでw、再演でもぜひお願いしたいです。

堀内敬子さん(ミセス・ジョンストン役)

今回の『ブラッド~』を見て、本当の主役はジョンストン夫人なのではないかとものすごく思ってしまいました。なんていうか、その場に立っているだけで圧倒的な存在感と力強さがあって…オーラが本当に凄すぎる。かといって、周りの役者さんたちともきちんと調和しているところが本当に素晴らしい。突出した存在感を出す役者さんの中には、あまりに光が強すぎて変な意味で浮いて見えてしまうこともあったりするのですが、堀内さんには一切それを感じませんでした。

なんといっても、冒頭の涙ぐみながら立ちすくんでいる姿が神々しい。本当に圧巻で一気にその姿に惹きこまれ…気が付いたら涙がボロボロ溢れてきてしまった。あの場に立っているだけで、ジョンストン夫人の辿ってきた悲劇の道のりが見えてしまったんですよね。ものすごい説得力だった。なかなか立ち姿だけでその人のドラマを感じさせる役者さんっていないと思うんです。

双子の一人を手放すときのお芝居も圧巻。ここは一路さんのライオンズ夫人も狂気の一端を見せていて、二人のせめぎあいがとにかくスリリングで目が離せませんでした。そして、引き渡してしまった後の悲しみに暮れる表情がまた泣ける…!!ジョンストン夫人ってこんなにも切ない人だったのかと初めて思いました。

ヤンチャ盛りの子供たちと接する時は肝っ玉母ちゃんを発揮しているんだけど、堀内さんが演じるとその中にものすごい母性を感じるんですよね。だから極貧生活でもこの家族は幸せもあったんじゃないかと思える。一人一人の子供たちをしっかり愛しているのが伝わるのが素晴らしい。
エディと接する時は、最初は秘密を悟られまいと遠ざけようとしたけれど、やはり母性のほうが前に出てしまい彼を抱きしめてしまう。いけないと分かっていながらも、我が子として接してしまうジョンストン夫人の切なさが本当に胸に迫りグッときてしまった…。

ミッキーが警察沙汰を起こし精神を病んでしまった後、ジョンストン夫人にも悲劇が訪れる。息子の名前を叫びながら、拳銃を持って駆けだすミッキーの後を追いかけていく必死の形相に胸が痛む。
そして、自分の最期の一言がきっかけで二人を失ってしまうシーン。その瞬間、驚くほど冷静にその場に立ちすくんでて…ゆっくりと悲劇を自分の中に吸収していく感じだったのがとても印象深かった。最期、胸が張り裂けそうに涙を流しながら絶唱する場面は観ているこちらも涙無くしては観れなかったです…。

あと、「マリリン・モンロー」の歌があるんですが、シーンが変わるごとに自分とモンローを重ねて歌うんですよね。こんなにもジョンストン夫人の人生とリンクしていたのかと4回目にして初めて気が付いた。その説得力、堀内さんの魂のこもった歌声に何度も大きく胸揺さぶられました。
ぜひともまた上演される時にはさらに進化したお芝居で魅せてほしい。改めて、堀内敬子さんは最高の女優さんだなと実感することができて嬉しかったです。

スポンサーリンク

後述

大阪初演にしては、少し客席が寂しい雰囲気もあったのですが…そんなことを忘れさせるくらいの第大熱演の連続で予想を超える感動を体感することができました。時間があればもう1回観に行きたかったくらいです。

カーテンコールでは早い段階からスタンディングとなり、まるで満席の客席になっているんじゃないかと思うほどの熱い熱い拍手がかなり長い時間鳴り響いていました。挨拶とかはなかったけれど、舞台の上の役者さんたちの、やり切ったという満足感と充足感に溢れた表情がとても感動的だったな。

吉田鋼太郎さんの演出は、出演者それぞれに愛情が注がれていると感じるシーンが多かったです。次回もぜひ鋼太郎さんでお願いしたいな。

そして、コロナが落ち着いた頃の再演になった時はもっと多くのお客さんに足を運んでこの物語を感じてほしいと思いました。また会える日を楽しみにしています。

error: Content is protected !!