ミュージカル『CROSS ROAD ~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』2022.06.21マチネ・ソワレ

全体感想(違和感を抱いた点について)

最初にも書いた通り、”パガニーニ”という題材はとても良かった。ただ、全体的にちょっとストーリーの流れがだなぁと思ってしまったんですよね(汗)。非常にもったいない。元々朗読劇として公演していたものをミュージカル化させたとのことなのですが、朗読としてのほうがすんなり入ってきやすかったのかもしれない。

シーンとシーンの間のメリハリがなく、同じ空気感のまま違うシーンに飛んでるような場面ばかりで物語の世界に入りづらい。特に、パガニーニが演奏へ向かおうとしている場面と演奏を終えた後の場面の切り替えがすごく分かりづらかった。
パガニーニが演奏へ向かう場面は舞台中央の扉の奥に消えていくことで表現していますが、演奏するシーンもなくそこから割とすぐに戻ってきてしまうので「え?もう終わっちゃったの!?」みたいなw。しかも、よく台詞を聞いてみるといつの間にやら時間が進んでいた、なんてこともあって混乱することもしばしば(苦笑)。

それから、パガニーニが自分の才能に限界を感じて苦悩するという描写や、悪魔と契約して狂気のような演奏を駆使して人々に恐れを抱かせるという描写がとても弱い。それはたぶん、パガニーニが実際に演奏をする場面があまり登場してこなかったからかもしれない。その演奏を通して彼が苦悩していく姿を見れると思っていただけに、肩透かし感を食らったようで違和感を拭えませんでした。
なんというか、パガニーニという人物を叙情的に描きすぎてるんじゃないのかなぁと感じたんですよね。朗読劇ならばそれでもいいんだけど、ミュージカルではもっと視覚的にも人物像を伝える工夫がほしい。私としては、もっと立体的なパガニーニ像が見たかったのです。

パガニーニのヴァイオリン演奏の場面はほぼダンスのみで表現。実際に弾いているような描写を想わせたのはクライマックスシーンくらいだっただろうか。ダンスで表現するのは悪いとは思わないんだけど、これ、バレエ作品じゃなくてミュージカルだからねぇ…。せめてヴァイオリンを手にしてのパフォーマンスにしてほしかった。
なんというか…、パガニーニのヴァイオリンに対する執着や狂気めいた部分が描き切れてなかったように感じちゃったんだよなぁ。時々登場する悪魔のアムドゥスキアスと言い争って、でも結局その要求を受け入れざるを得なくなるだけ。なんだか意志の弱い青年の物語みたいに思えることも(苦笑)。もっと音楽との関連ドラマを深めるような脚本にできなかったのだろうか。

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演出では暗転が割と多く出てくる。ここ最近はシーンとシーンの間の繋ぎ目を感じさせないような流れるようなテンポのいい作品を多く見ていただけに、ちょっとぶつ切り感みたいな違和感も覚えてしまったかなぁ。
一番気になったのは、暗転の暗さが薄いので後ろの方の席でも次のシーンに向けてスタスタと異動するキャストさんの姿が見えてしまっていたこと。グッとくるようなシーンに浸っているとフッと暗くなって、それと同時に準備のために動く姿が見えちゃうっていうのがすごいテンション落ちるんですよ(苦笑)。ある程度は仕方ないとは思うけど、今回はそう感じるシーンがけっこう多くてすごく気になってしまった。もう少し余韻を残せるような転換方法にしてほしかったよ…。

あと、ドライアイスの演出が多かったけど…出る前のプシューーー音がめっちゃ響いていたのも少し興醒め(苦笑)。せっかくドラマチックな場面になりそうだったのに、あの音がすごい耳障りで度々集中力が切れそうになりました(苦笑)。なんで今回のドライアイスはあんなに音が目立っちゃってたんだろう?

それから音楽について。ドラマチックで壮大な旋律も多かった。リプライズの使い方もなかなか良いなと思うシーンもあった(♪アンコーラ♪のナンバーは特に印象深かった)。
でも、「長くて退屈」と思ってしまうナンバーも多かった。これは今回の作品だけではなくて日本産ミュージカルを見ていて時々感じてしまうことなのですが、歌詞の内容がクドいんですよね。語りたいことを詰め込みすぎる。もっと簡潔にストレートに訴えるような歌詞にすればいいのに。ここが盛り上がりどころだなとテンション上がる適度な箇所ですっぱりと切り上げたらもっと心に残るナンバーになるのに…と思うこともしばしば。

あと、音が複雑すぎる。美しくドラマチックな音楽をという意気込みは伝わるけれど、一音一音がなんとも難解で登場人物たちの心情を描き切れていなかったように感じて仕方なかった。今回の音楽に浸りきれなかったのはここに理由があるかなぁ。もっとシンプルでも人物の心に寄り添うようなドラマ性のある曲があっても良かったのではないだろうか。ほとんど難解な音楽ばかりだと聴いていて疲れてしまう。

あと、これは必要な場面なのだろうか?と首を傾げたくなるようなシーンもいくつかあったのも残念。特に、私個人としては…、アーシャが突然踊りだす必然性がよく分からなかった(苦笑)。あの子のパフォーマンスを見せたかっただけのシーンじゃないのか…とすら。あくまでも個人の感想なので悪しからず。

そして…キャストについても少しだけ…。これはあまり書きたくないんだけど、言わざるを得ないといった心境がどうしても抜けないので書きます。かなりの猛毒ですのであしからず…。

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どうして、あの子がメインキャストとして選ばれてしまったのか…、すごいです。あの役は、物語の一番冒頭でソロの歌がある重要なポジション。その第一声を聴いた時…、あまりにも不安定で音程がズレすぎていて背筋が凍りました(汗)。久しぶりに椅子から転げ落ちるかと思うような感覚にさせられた。

それでも、芝居で何とかカバーできればと薄い期待を持ちながら見続けましたが…それも裏切られた(汗)
舞台の上に立つからには、ちゃんと、作品の…物語の世界を理解して周りのキャストさんとの息を合わせてほしい。一人だけ異空間で芝居をしているようにしか見えなかった。他のキャストの人たちと彼女の中で見えている世界とのズレを猛烈に感じてしまって違和感でしかありませんでした。悪く言えば、独りよがり。今回私がこの舞台に違和感を強く感じてしまった大きな原因のひとつが残念ながらこれだったと思う。彼女が出てきただけで物語がすごいチグハグに感じられてしまって…1幕などは殆ど内容が頭に入ってこなかったほどでした。

頑張っているのは分かる。それなりに努力しただろうし、実際の彼女はとてもいい子なのだろうとも思う。でも、それと舞台の上に立つこととは話が違う
私はこの舞台を見るために決して安くないチケット代と遠征費用を出して劇場に来ています。そういう人もたくさんいると思う。それ等のことも考えてキャスティング・演出をしていただきたい。選ばれてしまった彼女にとっても不幸だったと思うし。

カンパニーの皆さんにとってこの作品に携わっている人達は大切な仲間だと思うので、個人的にはあまり悪い事は書きたくありません。でも、今回ばかりはあまりにもショッキングだったので触れざるを得ませんでした(これでもかなり控えめに書いてます 苦笑)。個人攻撃する意思は毛頭ありません。あしからず…。

※追記

精神的に追い詰められて舞台続行できなくなってしまったことを知りました。事情を少し調べたところ、舞台公演中にも他の仕事をかなり入れていたとのこと…。まだ舞台経験浅いのに、そこに集中できない環境を作ってしまった管理側に非常に大きな不快感を覚えました。
ご本人にも精神的な限界を迎えさせてしまったし、キャストやスタッフをはじめ多くの関係者も大きなショックを受けたと思う。そして何より、楽しみにしていたお客さんにも哀しい想いをさせる結果になってしまった。私のように遠征費用をかけて劇場に足を運んだ人はさぞショックが大きかったのではないでしょうか。そう思うと胸が本当に痛いです。

こういう不幸を二度と起こさないためにも、キャスト選びや管理は事務所側には本当に慎重にやっていただきたい。せめて舞台の仕事がある時はそこに集中させるような環境を作るべきです。追い詰められて役に集中できない状態になってしまっていたのだとしたら…こんなやりきれないことはない。私たちは、舞台の上でその役を生きる人物を観に行っている。そういうことも真剣に考えていただきたい。

とにかく、ご本人の精神的健康が第一です。どうかお大事にしてください。

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後述

カーテンコールはマチネもソワレも盛り上がってスタンディングオベーションもありました。最後のカテコの時にはアッキーがパガニーニを演じたマチネの水江くんとソワレの相葉くんに投げキッスを飛ばしまくってて面白かったなw。

水江くんは最初それに気が付かなくて、アッキーがそれでも諦めずにチュッチュ送り続けてたら「あっ」ってなって少し遠慮気味に投げキス返してたのめっちゃ可愛くて萌えた(笑)。それくらい無我夢中で演じてたってことだよね。
ばっち君はカテコではとても朗らかでアッキーの投げキス連打も余裕で受け止めて「ずきゅーん」みたいに撃ち抜かれたリアクションを取りながら負けずに投げキス連打で打ち返してました(笑)。二人のフランクな関係性が垣間見えてホッコリしました。

今回の『CROSS ROAD』、題材は本当にすごく良いなと思ったんですよね。パガニーニと悪魔の関係性や、母親や執事のアルマンドとの心温まるやり取りのドラマも素敵だったし胸を打たれるシーンも多かった。
ただ、不安定だと感じてしまうキャストさんの存在が本当に残念過ぎて…。後半パガニーニの心の成長を思わせる印象的な場面で大きく絡んでくるだけに、違和感が強すぎて物語に入り込みづらかったことが本当に無念。ドラマチックな展開だっただけになおさら…。

演出的な点でも音楽についても違和感を覚える箇所がちょいちょいありましたが、修正を重ねればまた違った景色が見えてくるのではないかという希望も感じました。良かったと思う要素もたくさんあったので、ミュージカル作品としてさらに成長できるものになってほしいなと思います。
ただその時には、くれぐれも慎重にキャストを選んでいただきたいです。これだけは本当に切にお願いしたい。

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