主なキャスト感想
大泉洋くん(チャペック)
今回の洋ちゃんの役柄はあまりドタバタした喜劇的なポジションではなくて、どちらかというと一歩引いたところから周囲を観察して動かしている印象が強かったです。コメディ的なお芝居ももちろん随所にあって、そのセリフ回しの面白さはさすがだなと思いましたが、それ以上に、斜に構えた印象のチャペックという人物のあざとい本音部分の表現力が抜群に魅力的でした。
チャペックは「役者」という肩書は持っているものの、捕らわれの身になるまでは端役ばかりで目立つ存在感もなく鬱々とした日々を送ってきた人物。それゆえに、収容所のなかで仲間たちの仲介役を買って出て積極的に動いている日常に満足していた。自分は頼りにされてる、同居人たちは自分がいないと何もできない奴ばかりだ、そんな思いにいつしか支配されてしまっていたのです。
その優越感から、彼は解放されたいという気持ちは持っていませんでした。その本音を一番若いミミンコにだけは打ち明ける。彼の中でミミンコという存在は他の仲間とは違うところにあったのかもしれません。
しかし、最後の最後にチャペックは恐ろしい現実を突きつけられてしまう。この時の絶望感、悲壮感の芝居が、本当に鬼気迫るもので、そしてリアルで・・・見ていてまるで自分がチャペックと同じ気持ちにさせられているかのような気持ちにさせられました。
それだけの強い引力ある芝居が本当に洋ちゃん、すごいなと!彼の目論見が全て崩れ落ちたあの瞬間のシーンはちょっと忘れられないほど強烈でしたね。さらに最後の捨て台詞も印象深かったです。どこかで引き留められることを期待しながらもその言葉がないまま去っていった後ろ姿がとてつもなく哀しかった。ああいう空気感を出せるところも洋ちゃんの芝居力の素晴らしさの一つだと思います。
今回の舞台を観て、改めて私は「俳優・大泉洋」が好きだなぁと実感しました。現在はドラマ『ハケンの品格』撮影も重なって大変なスケジュールだと思いますが(たしか13年前のハケンの時もNACSの舞台と被ってたんですよねw)、頑張って乗り切ってほしいです!洋ちゃん、頑張れ!
山本耕史くん(ブロツキー)
今回の舞台は耕史くん演じるブロツキーが収容所にやって来るところからスタートするのですが、登場した時から視線を釘付けにしてしまうような存在感はさすがだなと思いました。真っ白なスーツで見た目からも異彩を放っていたわけですがw、それ以上に、妙な色気とプライドの高さがその姿全体からプンプン漂っていて。ほとんどセリフもないなかからこれだけ目を惹くものを出せるのは本当にすごいと感動させられました。
ブロツキーは元々は超人気役者(自称もありますがw)ということで、収容所でも最初はチヤホヤされまくり。本人も謙遜はしているもののその声を聴くことに快感を覚えている様子なのが面白かった。
さらに、指導員のホデクまで彼の魅力にやられちゃってる有様でw。ただ政府高官のドランスキーだけには全く通用していなかったのが笑えましたww。
で、何と言っても一番の見せ場はあの「肉体美披露」のシーンでしょう!豚小屋の掃除という強制労働にさっそく駆り出されたことからそれなりのスタイルになって…ということだったのですが、脱いだのはシャツだけでサスペンダー付きのパンツはそのままww。なので、耕史くんの鍛えられた肉体美がサスペンダー越しに露になっているという状態(なのに、全く掃除には加わっていなかったらしい 笑)。
おおーー!と感心していいのか、何じゃあのスタイルは!と大笑いしていいのか、何とも言えない面白さで笑うしかなかったww。
あと、筋肉をピクピクさせる技(?w)も披露してくれるんですが、同時に動かしたり交互に動かしたり自由自在(笑)。同時には分かるけど、交互にはすごいなと感心してしまいましたww。
そんな肉体美がやたら印象的だった耕史くん演じるブロツキーでしたが、スカした一面を見せながらも人間的な「ズルさ」が露になるシーンも印象深かったです。
ツベルチェクのために一肌脱ぐみたいなことを言いつつも、ホデクから「やわらかい枕」を提供すると持ち掛けられると自分の欲を優先させてしまったり、クライマックスでは自己犠牲を朗々と説いておきながら結局は自分を守る行動へと傾いてしまったり。
クールにスカしている時のちょっとクスっとさせる場面もすごく面白かったけど、時折「自己愛」ともとれるような本音を表すシーンもとても印象的でした。こういった繊細な演じ分けがやっぱり耕史くんは巧いなと思います。
栗原英雄さん(ホデク)
今回の栗原さんの役柄は「演者」たちを管轄する指導員ホデク。最初は捕らわれ仲間なのかなと思っていただけに、ちょっと意外な感じがしました。
表向きは「捕らわれの演者」たちと良好な関係を築いているように見えたホデク。芝居好きということもあってか、中身はともかく(かなり酷い内容らしいですがww)脚本まで書いて彼らに演じる場を与えてやろうともしている。
一見するとすごい善良な物わかりのいい指導員という印象なのですが、よく観ると目は殆ど笑っていない。笑顔を見せながらも目の中には冷徹な光が宿っていて、彼らの言動や動きに関して「監視」しているかのような恐ろしさも醸し出していました。
さらに、ツベルチェクがドランスキーに差し出された後、その報酬として「ゆで卵」を持ってくるシーンも非常に印象深い。顔は笑っていながらも、ツベルチェクの気持ちを慮ってそれを口にしようとしない演者たちに「君たちの気持ちはよくわかる」と言いながらも、「私の”善意”を拒絶することが許されると思うのか」と言わんばかりの脅迫にも似た雰囲気を醸し出した表情をしていた。
みんな、ホデクの表向きの”親切心”の裏には自分たちを”支配”するダークな素顔が隠れていることを察して実は恐れているんです。
今まで、色んな栗原さんのお芝居を見てきましたが、ゾクっとするような恐ろしさを感じたのはこれが初めてかもしれません。
今回の役柄は表の顔と裏の顔(というか真実の顔)をシーンごとに分けて演じることも多く、役者として相当高いレベルを要求されている難しい役だったと思います。柔和な表情を浮かべながらも威嚇の意思を滲ませる、みたいな場面も多々あったし。
三谷さんは栗原さんの演技力をかなり信頼してこの役を書いたんじゃないかな。それに見事に応えていた栗さんはやっぱりすごい役者さんだと思います。すごく生き生きとホデクを演じていた姿がとても印象的でした。
濱田龍臣くん(ミミンコ)
大河ドラマ『龍馬伝』で福山雅治さん演じる龍馬の少年時代を演じていた頃から知っているだけに、濱田君、大きくなったなあ~~というのが第一印象。たまにクイズ番組やドラマでも観ていますが、そのたびにどんどん少年から青年へと表情が変わっていって…、いやぁ、人の成長って本当に早いなと実感しますw。
濱田くん演じるミミンコはこの舞台の語り部のような役割を担っていました。なので、収監者のなかで最年少のミミンコという青年という立場と同時に、客観的に周囲を見つめる観客目線の立場という違った側面も持つ難しいキャラクターでした。
今回が初舞台とのことですが、セリフ回しも良いし、動きも軽やかで繊細なシーンも上手くこなしていてすごかった。声もよく通ってたし、舞台に向いてるんじゃないかな。もう少し表情にバリエーションが加わればもっと舞台映えする役者になれると思います。
滝星涼くん(ツベルチェク)
ツベルチェクは女役をこなしてきた役者ということで、動きも女性的な色気のあるキャラでした。美男子の滝星くんにはピッタリ。女性の格好をさせたらホントに似合うだろうし、ドランスキーが囲いたいと申し出てくる気持ちも分からなくはない説得力がありました。
しかし、ツベルチェクは見た目や行動は女性的なのに、実際はそう見られてしまうことに苦悩もしている。彼の意外な経歴が明かされる場面はけっこう衝撃的でした。最初は庇ってくれた仲間たちが、自分たちの身に危険が及ぶかもしれないと思ったとたんに掌返しのようなことになってしまうシーンでのツベルチェクは辛かったなぁ。彼の心の叫びが本当に痛々しかった。
女性的な一面と男性的な一面とをうまく演じ分けていて見ごたえがありました。
辻萬長さん(バチェク)
最初に驚いたのが、三谷作品に萬長さんが出演されることです。どちらかというと重厚な作品に出るベテラン俳優さんという印象が強かったので(こまつ座公演の出演が一番多いですが)、三谷作品にと聞いた時にはすごいな~と感動してしまいました。
萬長さんを呼ぶことは三谷さんにとっても念願だったそうで、かなり気合入れて今回の役を当て書きしたらしいですw。
バチェクは皆から「座長」と呼ばれているくらい重鎮的存在ではあるのですが、貫禄はあるのにどこか小ズルいところもチラホラあって尊敬できるキャラというわけではなかったのが面白かったです。
というか、萬長さんがコメディタッチの芝居をしていることがなんともレアで得した気分だなぁと思いながら見てしまったw。可愛がっていた豚に「フランチェスカ」っていう名前を付けてやるお茶目っぷりもあったり。
ドランスキーを引き留めるための芝居をするシーンでは三谷さん流のコメディが炸裂しまくっていたんですが、ここでの萬長さんのお芝居が最高に面白かった!渡された台本通りのことしか言えないバチェクは、臨機応変なアドリブが全くできない。それゆえ、マイペースに覚えたセリフだけを言いまくって相手の言葉を全く受けない芝居が展開されてしまう。
このときの、萬長さん演じるバチェクのいっぱいいっぱいな”芝居”っぷりが実に滑稽で吹き出してしまいました。まさか萬長さんの芝居で大笑いする日がこようとは(笑)。
でも、クライマックスの一言の重厚感はさすがです。あのセリフを萬長さんに言わせたというのがこの作品の一番の肝だったようにも思います。あの重みは、萬長さんだからこそ出せたものでした。
藤井隆さん(ピンカス)
全体的に三谷コメディを一番強く前面に出していたキャラだったと思います。豚小屋の世話を自分一人に押し付けられて文句言いまくっているシーン、彼の必死の訴えがなぜか見てるものには滑稽に見えてしまうという不思議。あの面白さを醸し出すことができるのは藤井さんならではだったんじゃないかなと。
あと、「権力者に似てると評判のモノマネ」シーンも面白かったです。仲間たちにはウケが悪かったのに、あるシーンでそれが意外な形で役に立ってたりね(笑)。
相島一之さん(ツルハ)
理屈っぽく政治家的な演説をしたりととにかくセリフ量が多かったので大変だったと思います。冒頭の「座ってる」と「しゃがむ」と「かがむ」の違いを必死に実践するシーンは面白かったw。その力説っぷりがとにかくすごかったです(笑)。
ホデクの脚本をボロクソに言いながらも、結局は彼の芝居の演出に口を出して芝居を作り上げようとしてしまうシーンも印象的でした。なんだかんだ言いながらも、彼もやはり芝居からは離れられない人物だったんだなと。
浅野和之さん(プルーハ)
見た目的にけっこう年齢が上の設定で、口うるさいおじいちゃんみたいなキャラだったのが面白かったです。ちょいちょいツッコミ発言が入るのですが、そのたびにツッコミ返しされて結局は安全な場所へ戻ってしまうという、ちょこまかしながらもどこか計算高いような一面を見せていたのも印象的。
でも何と言っても大きな見せ場はパントマイムの場面でしょう。インタビューでも語られてましたが、本当にそこにモノが見えてくるかのようなリアリティがあって驚かされました。その中でも一番面白かったのが、”風に立ち向かう老人”(笑)。あの動きは本当にすごかった!
小澤雄太くん(ドランスキー)
この作品のなかで一番権力を振りかざしていたキャラ。いうなれば、”みんなの敵”といったような立ち位置だったんだけど、冷徹な雰囲気を前面に出しながらも実は抜けてる一面も持ってるシーンも多々あったので”憎みきれない存在”だったと思います。特に、「演者」たちに翻弄されて情けない姿をあらわにしてしまう場面は可愛くて仕方なかったww。「おかーさーん!!」は絶品!!まさにギャップ萌えしました(笑)。
でも、クライマックスの場面では彼の一番鋭い一面が前面に出てくる。さっきまでの可愛さを全く感じさせない非情な表情がとても印象的でした。
まりゑさん(ズデンガ)
この芝居のなかで紅一点の女性キャラ。ミュージカル『ジャージーボーイズ』のコンサートと被ってしまい見れなかったのは残念でしたが、『大地』でのぶっ飛んだキャラもすごく面白かったです。
ミミンコの彼女ということで、仲間たちは彼女のことをすごく清楚な女性と想像していた節がありました。私も、ちょっと大人しめなミミンコの彼女だからおしとやかな女の子なんだろうなって思ってたよw。それが、全く正反対のグイグイ迫る系だったので驚いた(笑)。なんか、観終わった今でも、本当にズデンガはミミンコの彼女だったのか!?と疑ってるくらいww。パワフルで肉食系なキャラがめちゃめちゃ笑えましたw。
ちなみに、舞台の始まりを告げる銅鑼を叩いていた黒子の人物、まりゑさんだそうです!
本日も『大地』マチネ公演🐖✨
昨日夢の中でも『大地』の座組みの皆様が総出演されてたので休演日だった気がしません。笑
今日も想い込めまくって、銅鑼の音、劇場いっぱいに響かせます🔥
三谷さんの楽屋前でセクシーショットをプルーハさんが撮影してくれました📸👈セクシーか#待ち合わせは劇場で pic.twitter.com/XodWS3lvWz— まりゑ (@maruimarie) July 20, 2020
後述
なかなか劇場へ足を運ぶことができない昨今、こうして配信で見れる環境を作ってもらえたのは本当にありがたかったです。洋ちゃん主演の三谷舞台ということで、本当は大阪まで観に行く気満々だったんですけど…今回はストリーミング観劇のみで楽しむことに。まぁ、ソーシャルディスタンスということで客席も大幅に減少させてのチケット販売なので、チケットを取ること事態が厳しいという現実もあるのですがね(苦笑)。
今回のソーシャルディスタンスバージョンの『大地』を見て、もしこういう事態になっておらず普通に上演できている時だったら、いったいどんなセットになっていたのかなという興味は沸きました。それぞれの部屋ももしかしたら二段ベッドとかになっていたのかな・・・とか。そっちも見てみたかったかも。
あと、絶妙な距離感で演じられていたことに感動もしたんですけど、やっぱり人と人とが直接触れるような芝居もちょっと恋しくはなったかな。このシーンでは本当だったら掴み合いになったり顔が近づいたりしてたんじゃないかとか…色々とオリジナルが気になってしまった。
でも、おそらくこういった距離感を重視するような演劇は今後も続けていかなければいけないと思います。私たちもそれに慣れていかなければいけないなと…。
面白い舞台だったので、WOWOWさんで後日放送されることを期待したいと思います(オンデマンド生放送もやっていたので実現する可能性高いんじゃないかなとw)。