ミュージカル『ハル』を観に大阪へ遠征してきました。
主演はHey!Say!JUMPの藪宏太くん。私はジャニーズなどのアイドルグループ関係に関してはけっこう疎くてどこに誰が所属してる…とかよく分からないんですが(汗)、薮くんがヘイセイ~のメンバーだってことだけは何となく知ってました。
おそらく、熱いファンの方たちが薮くんを見に殺到することになるんだろうなぁと予測。
では、なぜ私はこの舞台に興味を持ったのか…といいますと、栗原英雄さんが出演していたからでして。劇団四季にいた頃から知っているし見てきた役者さんですが、大河ドラマの「真田丸」の頃からSNSやイベントなどで為人を知りファンになってから、ちょいちょい出演作には足を運ぶようにしています。
しかし、今回は大人気のアイドルの子が主演ということで…いつも以上にチケット確保のハードルが高そうだと戦々恐々としておりました(苦笑)。
とりあえず、ダメ元で大手チケットサイトの先行にエントリー。これが引っ掛からなかったら行くのは諦めようと思ってました。
ところが・・・なぜか、いつもチケットくじ運が最悪だったはずなのに、あっさり1回目のエントリーで当選してしまって逆に驚いたww。しかも予想外の良席!!こんなこともあるんだなぁとビックリしましたよ(汗)。これは、栗さんが私を呼んだのに違いない…と少し思ってしまったのはここだけの話(←当選にビビってのただの思い込みww)。
劇場には薮くんと安蘭さん宛ての楽屋花がありました。
安蘭さんへのお花の送り主が福本豊さんでちょっとビックリ!ご縁があったんですね。あと、薮くんはカンテレで「報道ランナー」に出演してるんだってことをこの時初めて知りました。
本当はもっとたくさん届いていたと思うんだけど、表に出ていて目についたのはこの2つだったかな。
グッズはパンフレットとトートバッグのみ。
「ナイツテイル」の時もそうだったけど、Jアイドルの子が出演する舞台だと舞台のグッズ商品は極力抑えめになる傾向にあるのかな?色々権利問題とかあって大変なのかもしれないですな(汗)。
以下、ネタバレ含んだ感想になります。
2019.04.26 ソワレ公演 in梅田芸術劇場(大阪)
主なキャスト
- 石坂ハル:藪宏太 (Hey!Say! JUMP)
- 真由:北乃きい
- 石坂千鶴:安蘭けい
- 神尾:栗原英雄
- 修一:七五三掛龍也 (Travis Japan/ジャニーズ Jr.)
- ハルの祖母:梅沢昌代
- 高野社長:今井清隆
個人的には大河ドラマ『おんな城主直虎』で奥山六左衛門を演じていた田中美央さんの生の舞台姿を見れたのも嬉しかったです!登場されたとき、思わず…「六左だ~~!!」って心の中で叫んじゃった(笑)。人の良さそうなキャラクターがピタリとハマっていて、この作品の中では癒し的存在でした。
筋肉大好きキャラっていう設定も面白かったなw。「筋肉は裏切らない」的なあの名言も飛び出してて思わず吹いたww。
あと、朝ドラ『わろてんか』で万城目歌子さんを演じていた枝元萌さんが出ていらしたのも嬉しかった!!田中さんと並ぶとなんだかすごくしっくりきてて、W癒し系って感じでした。
あらすじと概要
この作品は何もないところから創り上げられたオリジナルということなので、原作本などはありません。脚本は高橋亜子さん、演出は栗山民也さん、音楽は甲斐正人さんです。
高橋さんは過去に『ジャージー・ボーイズ』や『メリー・ポピンズ』など人気作の訳詞に関わってこられた方だそうです。栗山さんは多くの舞台を演出されてきている大御所的存在。栗山演出の舞台はこれまで何度も見てきました。甲斐さんの音楽もいくつかの舞台で拝見しています。
こういった日本の舞台演劇界のトップランナーと呼ばれる皆さんが、ゼロからオリジナルとして構築し創り上げた作品が『ハル』です。
日本ではオリジナルよりも海外の人気作のほうが多く上演される傾向が大きいので、こういった『ハル』のような作品が上演されるということはとても素晴らしいことだと思うし、今後もどんどん出てきてほしいなと思っています。
あらすじは以下の通り。
高校生のハルは、再開発が頓挫し寂れてしまった小さな田舎町で、母と二人で暮らしている。子供時代に患った病を乗り越え元気な体を手に入れたものの、本音を話せる友人もおらず、虚しい日々を過ごしていた。
ある日、町にボクシングに夢中になっている真由がやってくる。
真由に誘われて自らもボクシングにのめりこむうち、だんだんと変わり始めたハル。
母との関係、過去のトラウマ、世間との葛藤…ハルが自らの人生と向き合い始めた時、
町にも大きな変化がおとずれようとしていた───公式サイトより引用
大病を患い貴重な青春時代を入院生活に費やしてしまったハルは、ようやく元気な体を手にしたあとも他の友達とうまく接することができず孤立した生活を送っていました。なんとか頑張って外の世界に触れようとしても、自分を腫れ物に触るように接してくる同級生たちや、どこか冷めた目で自分を見ている町の雰囲気に耐え切れず距離を置いてしまう。
そんな心の孤独に悶々としていたある日、真由という謎の少女と出会ったことでハルの人生が少しずつ変わっていきます。真由と過ごしていくうちに「ボクシング」という”生きがい”と出会ったことで外の世界ともかかわっていくことができるようになっていく。
しかし、笑顔で普通の生活を送っているように見えたハルを取り巻く周囲の人々も、実は心に何かしらの”暗い闇”を心に抱えつつ、それを表に出さないようにしながら必死に生きていた。
この作品で印象的だったのは、ハルの住む町の人々にもスポットが当てられ、生きづらい世の中を必死に生きている姿が丁寧に描かれていたことです。それは決して他人事ではなくて、誰の身にもなにかしら思い当たったりするようなリアルな感情で・・・何度か見ていて胸が苦しくなることもありました。
ハルも真由との出会いでボクシングを始めたことで前向きになってはいきますが、周囲に心を開いていくにはかなりの時間がかかっていました。
何かしら心に闇を抱えている人は、そう簡単には前向きな気持ちに持っていくことはできないものだと思います。苦しい想いと向き合いながら一歩ずつ一歩ずつ前に進んでいけばいい…。そんな背中を押してくれるメッセージを感じることがこの作品の中には多かったような気がします。
全体感想
まず凄いなと思ったのが、リアルな町の風景セットです。雰囲気的には昭和の匂いが漂う、ちょっとさびれた空気感がありノスタルジー的なものが感じられました。建物一つ一つも非常に良くできていて、まるで舞台の上に本当の一つの「町の風景」が出現したかのようだった。
そのセットから場面ごとにステージが引き出しのように出てくる仕組みも面白かったです。ちょっとアナログ的でもあったのが逆にあの雰囲気に合ってて違和感なかった。『壁抜け男』の精神科医のセットとちょっと似てるかもと思いながら見てました(あっちは引き出しじゃなくて折り畳み式だったけどw)。
店の名前はリアルをちょっとイジったかんじw。
たとえば、コンビニの「スリーエフ」は「フリーエフ」になっていたりw、ショッピングセンターの「ION」は「LION」となっていてその下に『ライオン通り』みたいな文字が出てたりしてw。あと、今はもうなくなってしまった(イオンに吸収された)「JUSCO」が「JUSTO」になっていたのも面白かったw。あとは、マルエツ風なのもあったかな。
それから印象的だったのが、ステージ上のライトが星空のように見えたこと。どの舞台も同じ数の照明が上に設置されているはずなのですが、今回の『ハル』では今まで気にしてこなかった舞台上の照明のところになぜか目が行くことが多かったんですよね。
物語の冒頭が「日本にやってくる流星群を町のみんなで見よう」というシーンだったこともあってか、梅芸の天井にあるいくつもの照明の明かりがまるで星空のように私には写りました。上の照明も含めてハルの住む町なのかなぁって。
舞台全体がいつも以上にすごく立体的に見えたことがとても印象的でしたね。
音楽はビッグナンバーのような頭に残る曲が出てくる…っていう感じではなくて、どちらかというとBGM的な感覚でした。そういう意味ではミュージカル…というよりも音楽劇という意味合いの方が合ってるのかな?
でも、思っていた以上に台詞よりも歌の割合が多かったので、やはり”ミュージカル”だったんだと思う。日本オリジナル作品だとなかなかビッグナンバーを生み出すのは難しいのかもしれないけど、これはこれで味があっていいんじゃないかと。まぁ、もう少し記憶に残りやすい曲があってもよかったかなとは思いましたが(汗)。
印象に残ったのは、「シャドウシャドウ、自分の影と戦え」って感じの歌詞。ハルがボクシングの練習をするのに合わせて周りも歌うシーン。登場人物は心に暗いものを抱えている人が多かったこともあり、この歌詞が特に心に刺さりましたね。
ストーリーは一人の青年ハルを通しての人間の再生を描いていくもので、想像していたよりも内容はシビアで少し重かったです。
1幕はどちらかというと明るいトーンで物語が進んでいましたが、2幕になるとハルを取り巻いている人々の表からは見えなかった”心の闇”が浮き彫りになっていくので、気持ちがザワっとすることが多くなりました。それはたぶん、彼らの中に自分が重なる瞬間があると感じることがあったからなんだろうなぁと…。
一番ザワっときたのが、高野社長がボクシングジムの神尾に対して「お前を助けてやればよかった」と後悔の念を口にしながら、「あの時それができなかったのは、お前がヒーローになっていくことに嫉妬してしまったからだ」と告白した場面です。
ハルの父親は町興し事業に力を入れていて、神尾もかつてはそれに賛同し協力していました。が、事業を進めていく途上で町長の不正な金の流れが判明、神尾は知らないうちにそこに加担させられてしまっていた。高野社長はその不正を告発して町のヒーロー的な存在となりましたが、神尾は罪に問われ逮捕される結果になってしまいました…。
ハルの父親はストップした町興し事業をなんとか再開させようと無理を重ね他界してしまい、神尾はそのことに対する罪の意識でハルの家との関わりを避けてきた経緯があります。
高野社長は、かつては親しくしていた神尾が町興しのヒーローに見えてしまったことで嫉妬心が芽生え、彼に相談せずに告発し結果的に神尾を転落させてしまう要因を作ってしまいました。そのことを後になってずっと後悔していたんですよね…。みんなに頼られるいい人そうな高野社長にも実は人間臭い生の感情があったんだなぁと…心に刺さるものがありました。
誰しも、一度は人に嫉妬心を抱いてしまうことある。高野社長の場合、その嫉妬心が親友を追いつめる結果をもたらしてしまった。そこから生まれてしまった溝が二人の間にずっと存在していたのかと思ったらすごく切ない気持ちになりましたよ…。
なので、正直に高野社長が自分の醜い心の内を告白して「一緒に町興しのスポーツイベントを成功させよう」と持ちかける場面はとても感動的でした。このシーンについては後でもう少し触れたいと思います。
町の人の抱えている心の闇という点では、もう一つショッキングだったシーンがあります。それは、ハルの母親が自分の息子が実は陰で酷いことを言われていたと知らされる場面。
表向きには皆、町おこしのスポーツのメインイベントでやるボクシングに出場するハルを応援すると言っていましたが、実はネットの世界では「病み上がりのハルにそんな大役任せていいのか」などといった不安視する声や、「ハルなんかを大舞台に立たせるなんてどうかしている」といった誹謗中傷にもとれるマイナス発言が飛び交っていた。
ここのシーンの演出で、ネット社会の声の部分を舞台うしろの壁をスクリーンのように見立てて、人の影だけで誹謗中傷の言葉を言い交す見せ方してたのがすごいリアルに見えて心が痛かったです…。なんだかまるで自分が非難されているかのような恐怖心さえも覚えたし…。このあたり栗山さん、容赦ないなと思いました。
さらに衝撃なのが、そのネットの中のことを知らせた女性が突然ハルの母親に対して「ハルくんの移植の時に募金しない人は心が貧しいって言われたことが引っ掛かっていた」と告白してくることです。
ハルは心臓に大きな病を抱えていたため、心臓移植の必要がありました。その費用のために母親は必死になって金策を行っていましたが、追い詰められる中で募金を強要するような言葉を発してしまっていたのです。そこには決して悪意はないのだけど、言われた本人の中にはいつまでも楔のようにそのことが残ってしまうわけで…。でも、それを今さら告白されてしまったハルの母親としてはどう向き合っていいのか分からず困惑する。
ハルの闘病生活に関してこんなやりとりが存在していたことが非常にショックでした。しかも、それが実際にも起こりうるような出来事だろうなって感じたことがさらにキツかった…。どちらの苦しみも理解できるだけに何とも言えない気持ちにさせられてしまった。
ただひとつ、よく理解できなかったのが「本当はハルの移植のためではなく、故郷の福島へ募金したかったのに」と女性が母親を責めた場面。”福島に”というのは、東日本大震災のことを指していたのだと思います。が、気持ちは分からなくはないけど、そこで震災関連の話題を口にしてきたことがどうも腑に落ちない…。なんか、こじつけみたいに聞こえちゃって…それはすごい違和感だった。
この物語の中にちょいちょい東日本の震災の件が台詞として出てくるんだけど、今ひとつストーリーに絡んできたような感覚がなかったんですよね。だからなおさら違和感に思えてしまったのかも。
ハルと真由の関係については、最後に予想外のドラマが待っていました。劇中ちょいちょい「?」と思っていたことが最後に結実していく構成は見事でした。
物語の中でストーリーの本筋とはあまり関係がなさそうな夫婦が時々横切るシーンがあって、でもそれに関しての説明は何もないままクライマックスへいく。「あれは誰なんだろう?」って心のどこかに引っかかりを持っていたのが、最後の最後に”そうだったのか!”と腑に落ちるわけで…その時涙がぶわっとこみ上げてきました。
真由は登場した時には都会から来た転校生みたいな雰囲気の元気な女の子だった。ボクシングが大好きな彼女の姿は鬱々と生活していたハルにとっては「希望」の象徴みたいに思えたんだろうなと思いながら最初は見てたんですよね。
でも、後から考えると「そういえば…」と思い当たることが多かった。ボクシングジムにハルと一緒に顔を出しているはずなのに、そこにいた人たちはいっさい真由のことを語らなかったし、ハルが同級生と顔を合わせた時に真由のことも見ていたはずなのに誰も彼女に声をかけていなかった。
印象的だったのは、ハルがボクシングの楽しさに目覚めて生き生きとしていくなかでなぜか真由が浮かない表情を見せていたこと。真由はハルがそうなっていくことを望んでいたはずなのに、なぜあんな複雑なもどかしそうな顔を見せるんだろうって疑問に思いながら見ていたんですよね。
それが、クライマックスの告白によって明らかに…。そこには、真由のハルへのどうしようもない”想い”があった。彼女はハルに恋をしていたからなんだろうなって…。「真由」としてもっと彼の近くに居たかったんじゃないのかな…。そう思いながら見たらすごく切なくて涙がこみ上げてきました(涙)。ハルの成長は即ち、彼との”別れ”を意味していることを悟ってたんだろうね。
町興しイベントのボクシングの試合、ハルは善戦したものの敗北をしてしまう。
っていうか、対戦相手はハルと同じくらいに始めた「初心者」って設定だったようだけど…その割にはけっこうバリバリやってます的な雰囲気でビビった(笑)。まぁ、実際に戦ったら見かけ倒し的なところはありましたけどねw。
ハルは敗北を喫したことに激しく落ち込んでしまいますが、真由の予想外の告白・・・そして”別れ”を経て自分自身の中で何かが変わるのを感じる。
この後、冒頭でハルが誰に当てて手紙を書いて苦悩していたのかが明らかになるわけです。その手紙にはいつも「相手が喜ぶような作り話」を綴っていたハル。他人の心臓で生きている自分の存在価値にずっと苦しんできた彼は、これまで偽りの姿を装い何とかやり過ごしてきました。
でも、これからは違う。ハルは”2人分”の人生を生きる気持ちを固める。その決意の現れとして、あの夫婦の元を訪れ、これまでの正直な自分の気持ちを告白します。
自分の暗い部分を彼らの前でさらけ出したことで、ハルは新たに生まれ変わることができるんじゃないかなって思えました。おそらくギクシャクしていた同級生たちとの関係も変わっていくことでしょう。きっと真由が背中を押してくれたからだよね。
ただ、真由の顛末についてはちょっと疑問は残ったかな。ハッキリと原因が語られてなかった気がするので(もしかして聴き逃したか!?)。
その他にもチョイチョイもやる設定などはあったので、再演をするとしたらもう少しスッキリ分かりやすくまとめた方がいいかもしれません。でも、全体的にはとても素敵な作品だったなと思います。