ミュージカル『この世界の片隅に』を観に愛知・名古屋の御園座まで遠征してきました。愛知にした理由には単身赴任中のダンナの様子を見に行く名目があって(笑)、かなり早い段階の前売りで購入しました。
御園座を訪れたのは2022年の夏以来…。ちょうどコロナ禍ど真ん中な時期で名古屋に遠征する前日くらいのタイミングで中止が発表されたという苦い経験が蘇る(苦笑)。あの時は直前すぎて交通費も宿泊費もキャンセルできず、特別に開けて頂いた物販コーナーでグッズを買って名古屋名物をヤケ食いしただけで帰ってきたww。
それゆえ、御園座の客席に入るのは15-6年ぶり(建て替えられてからは初めて)ということに。
新しくなった御園座の客席初めて入ったけど、舞台との距離がとても近くて見やすい劇場。今はもう無くなってしまった中日劇場思い出しちゃった。椅子の背もたれ部分には各々クッションが置いてあって腰も楽に見ることができました(畳んで置いてあったので使い方間違えそうになったw)。
約1ヶ月ぶりの”かたすミュ”。東京公演で3回観劇し大号泣しまくった作品だったので、名古屋も追加観劇予定に入れておいてよかったなと思います。しかも今回はメインキャストさんが違う組み合わせで、それも楽しみのひとつでありました(特に海宝くんと唯くんのセットは東京では見られなかったのでワクワクしてた)。
呉市の看板も一緒にツアー回ってて嬉しくなりました。
以下かなり濃いネタバレを含んだ感想になります。
2024年6月29日マチネ/ソワレ 愛知公演 in 御園座(愛知・名古屋)
概要とあらすじは5月14日観劇感想記事を参照してください。
上演時間は25分の休憩時間を含め3時間5分です(カーテンコールを除く)。
キャスト
- 浦野すず:昆夏美(マチネ)/ 大原櫻子(ソワレ)
- 北條周作:村井良大(マチネ)/海宝直人(ソワレ)
- 白木リン:平野綾(マチネ)/ 桜井玲香(ソワレ)
- 水原哲:小野塚勇人(マチネ)/ 小林唯(ソワレ)
- 浦野すみ:小向なる
- 黒村径子:音月桂
- すずの幼少期:澤田杏菜(マチネ)/ 嶋瀬晴(ソワレ)
- 黒村晴美:増田梨沙(マチネ)/大村つばき (ソワレ)
- 森山イト:白木美貴子
- 浦野十郎、他:川口竜也
- 浦野要一、他:加藤潤一
<アンサンブル>
飯野めぐみ、家塚敦子、伽藍 琳、小林遼介、小林諒音、鈴木結加里、高瀬雄史、 丹宗立峰、中山 昇、般若愛実、東 倫太朗、舩山智香子、古川隼大、麦嶋真帆
全体・キャスト感想
東京公演からの変更点について
まずセットについて。日生劇場のときとは少し構造が違うからか正面舞台下に巨大ボックスが置かれる形になってました(東京で見たときはオケピゾーンの上に掘りがあった)。それゆえ、防空壕を掘る場面(♪防空壕ポルカ♪)の立体感は若干薄くなったかなと。東京で見たときには下手前方で穴掘ってた川口さんたちアンサンブルの皆さんはセットの一番後ろで作業する形に。ちなみに、オーケストラの配置は舞台袖に移ったようでした。
変化といえば1幕の呉空襲場面(♪焼き尽くすまで♪)。
たしか東京で見たときには冒頭ナンバーのときと同じく上から何枚もの紙が赤いライトに照らされながら落ちてきていたと思うのですが、今回の御園座では光と映像のみで表現されていました。あの紙の演出が好きだったので、1箇所減ってしまったのはちょっと残念。でも劇場によって事情は異なると思うのでこれは仕方ないかな。
それから2幕クライマックスに衝撃的な演出で出てくる巨大背景のセットですが、”動き”が無くなってましたね。呉の焼けた街の光景から「青葉」に形が変化する光景に圧倒された東京公演でしたが、名古屋で見たときは動きがない代わりに白い巡洋艦の形をしたライトが当てられ表現されていました。
視覚的に東京と同じものが見れなかったのは残念でしたが、それ以上に作品の厚みがめっちゃ増々になっていて大いに心が震えました。マチソワ観劇だったので合計約6時間強御園座にいたわけですがw、たぶん5時間以上は涙流してたと思う(泣)。シーン、音楽、お芝居、そのすべてが沁みて沁みて…。これだけ一気見しても疲れを感じないほどのめり込んでいたので、私は本当にこの作品が大好きなんだなと改めて実感しました。
一番印象深かったのが、「居場所」というテーマがよりクッキリと見る者の心に刻まれたこと。
主人公のすずや周作をはじめ、それぞれのキャラクターがより強く”自分の居場所”を意識しているように見えたんですよね。時には見失うこともあるけれど、心が折れそうになるときにはいつも誰かがそっと傍にいて導いてくれる。哀しい場面もあるけど、それよりも「誰かの居場所」を作って待ってくれる登場人物たちの優しさや温かさが愛しくてたまらないと感じる気持ちの方が大きいのです。それがこの作品の一番の魅力じゃないかなと思いました。
マチネは昆ちゃんすず✕村井くん周作✕小野塚くん哲✕綾さんリン。ソワレは櫻子ちゃんすず✕海宝くん周作✕唯くん哲✕玲香さんリン。東京では見れなかった組み合わせなので、あのときとはまた違った雰囲気のシーンも多くより深く楽しむことができました。
以下、濃いめの(長いw)ネタバレ感想になります。
1幕
この世界のあちこちに
上手袖から子すずちゃんが現れて、下手袖奥の高いところから大人すずがやってきて、やがて二人の歌が優しく交じり合う。もうこの冒頭の光景、そしてアンジェラ・アキさんが紡ぎ出した音楽の一音が聞こえてきただけで・・・私の涙腺は見事に崩壊(泣)。
さらに周作、リン、哲が歌詞を紡いでいって次々と人物が登場し劇場中を包み込むような歌声を響かせる。背景に映し出されるすずの描くイラスト(原作者のこうのさんの絵が生きるんですよね!)がこれまた涙腺刺激するんだよなぁ。マチネもソワレもめっちゃボロ泣きしました(涙)。
昆ちゃんすずは「ぽやぁ~~っ」とした感じでおっとり度アップ。東京で見た時よりもアニメに近い雰囲気だなと思いました。だけど、冒頭のナンバーで子すずちゃんと一緒に絵を描くシーンでの目の輝きはとても強くて思わず惹きこまれてしまった。けっこう強いタッチでスケッチしてるように見えました。
櫻子ちゃんすずはボンヤリさんではあるんだけど、語り口はけっこうハキハキしていてとても明るい雰囲気。東京で観た時よりもキラキラしてるなぁと思ったかもしれない。何より笑顔が柔らかくてとても可愛い。子すずちゃんと絵を描くシーンの時は、寄り添いながら柔らかい線で描いてる感じだったかな。
1曲目はビッグナンバーではあるのですが、歌が終わるタイミングでもう次の世界(♪歪んだ世界♪)が見えてくるので拍手するタイミングはありません。っていうか、基本的にこの作品は2‐3回くらいしか手を叩くタイミングが設けられていない。
でも私は、物語に集中できるという意味では拍手のタイミングの入れどころが少ないこの作品のようなスタイルが好きだったりします。シーンとシーンの間の流れがとてもスムーズでどんどん没入できるのも好印象。
広島の橋の上
最初の方に物語の後半を持ってくるスタイルは初めて見た時ちょっと戸惑ったのですが、さすがに4回目以降のリピーターになるとw馴染んできた感じはありました。心を閉ざしたすずが周作の昔話にボンヤリ耳を貸すシーンは個人的にとても好きです。「キャラメル」がすごいキーワードになってるんですよね。
すずは忘れていても周作はしっかり覚えていた”出会いの日”。子すずちゃんと子周作くんのやりとりが原作の世界のまんまでとても可愛くて癒されました。あの舞台演出もほんとよく考えついたなと思います。最初見た時はあんな表現があるんだって心の中で拍手しましたからね。
村井くんの周作は東京で観た時よりも武骨度がアップしていてすごい不器用な男というのが伝わってきました。だけど言葉の一つ一つはとても優しいし、すずを見つめた時の視線も愛情深く熱いのがとても印象深かったですね。
海宝くんの周作は東京で観た時より明るさがワンランク上がったなと感じました。不器用なんだけど笑顔がすごく柔らかくなってて。すずに対する温かい愛情がじんわり伝わってきたのがとても良かった。
ぼーっとしちょるお嫁さん
祝言のエピソードはとても微笑ましい。この時点ではまだ二人ともお互いについてほとんど知らないし、すずに至っては幼い日に出会ったことすら覚えていないのでただ流れに任せてるだけって感じ。周作は表情を表に出さないまでも、すずとの昔の思い出を覚えてるからかちょっとドキドキした雰囲気が伝わってきて可愛らしいんですよねw。
それから、式の間の川口さん演じるすずお父さんのハメの外しっぷりがこれまた最高w。やたら体幹の良い歌舞伎ポーズがめっちゃ好きでした。
初めての夜に「傘は持ってきてるか」と周作が尋ねるシーン。村井くんは俯き加減でなかなかすずの方を見れない感じだったけど、海宝くんは落ち着きなく新聞をめくってたなw。二人の反応の違いが面白かった。
ちなみにあの「傘」については前のレポの時も書いたけど”新婚の夜にかわされる定型文”的なものらしいです。すずはその意味を理解できないままあの夜を迎えたんだろうなと今回も思いましたw。
焼き尽くすまで
私は「この世界~」舞台版大好きなんですけど、何回見てもちょっと違和感を感じてしまうのが呉空襲の場面が登場するタイミングなんですよね。これだけはリピートしても最後まで慣れなかったかもしれない。
個人的には、序盤よりも2幕以降の戦争が色濃く時代に出した方がしっくりハマるように思うんだよなあ。特にリンさんのドラマがこのナンバーの中でかなり重要になってくるので…。最初に”あのシーン”を見せてしまうのがなんだかとても勿体ないというか(汗)。すずとの交流が生まれた後に出した方がドラマチック性は増すような気がして…。
ナンバーは本当にめちゃめちゃ良いんですよ。恐ろしい場面のはずなのに美しくて…でも悲しくて。
「美しく命が燃える」
というフレーズがものすごく胸に刺さります。あのシーンは何度見ても涙が止まらなかった。
そこから時代は遡ってすずが実家に里帰りする場面へ。ここで泣けるのがすずのお父さんが娘にお小遣いを手渡すシーンです。お父さんを演じる川口さんが遠慮するすずの手にお金を握らせながら目にいっぱい涙が溜まってるんですよ(泣)。本人の前では口にしないけど、内心は慣れない土地で娘が苦労しているんじゃないかとすごく心配してる気持ちがこれでもかというほど伝わってくる。
すずの見えない場所で涙をぬぐうお父さんの肩を微笑みながらポンと叩いて一緒に袖に帰っていく家塚さん演じるお母さんの温かさもこれまた涙を誘いました(泣)。ほんと、優しくて温かい家族…!
波のウサギ
哲くんとすずの一番の思い出深い場面。アニメ映画を見た時から哲くんのキャラクターが大好きだったので、ここはもう、最後まで彼が登場しただけで泣きましたね(涙)。
実際には子供の頃のエピソードなのですが、舞台版で演じるのは大人になったすずと哲。その二人を少し高い位置から見守りながら子供のすずが♪波のウサギ♪のメイン旋律を歌う演出なんですよね。子すずちゃんはこのあとも大人すずの代弁者のように様々な場面で”影”のように登場します(M!のアマデ的な感じ)。これがめちゃめちゃストーリーの雰囲気にマッチしていて胸を打つんですよ(涙)。
大好きだったであろうお兄さんを不慮の事故で失い、家庭の状況も一変し一匹狼のように孤独だった哲くん。そんな彼の心の隙間を埋めてくれたのが、すずのさりげない言葉と優しさでした。兄の命を奪った海の波を「ウサギ」に見立てて彼女が描いてくれた”宿題の絵”はどれだけ彼の救いになっただろうと…。それを考えるだけでも涙が溢れて止まらない(泣)。
アニメ映画見た時もボロ泣きしましたが、舞台版ではさらに二人の心の距離がじんわり近づいていくのが伝わってきてめちゃめちゃ心震えてボロボロ泣きしました(涙)。すずはあのとき、哲くんの「居場所」を作ってあげたんだろうなと…。
その場面の最後に歌われるフレーズが「海の底に眠る愛しいあなた」っていうのが、私にはすごく辛くてねぇ…。温かいんだけど痛くて…大号泣してしまう。
小野塚くんの哲は、豪快さの中に孤独が滲んでいる雰囲気がすごく原作に近くて本当に感情移入させられました。すずが描いてくれた宿題の絵を見て「海を嫌いになれんじゃろっ」とぶっきらぼうに背を向けるのですが、反面すずの優しさが嬉しい気持ちもこみあげてきて一気に彼女に惹かれていくお芝居がとても印象深かったです。
唯くんの哲は東京で観た時よりも豪快さがちょっとアップしましたね。すずと二人で過ごす場面の時も言葉に荒さが混じっていて逞しくなった感じがした。でも兄を失った悲しみと家族が壊れてしまったことへの孤独の気持ちはすごく深くて…。だからこそ、すずの優しいタッチの絵が彼の心に一筋の光として刺したのかなと思いました。鈴の絵を見てじっと立ち尽くす姿がめっちゃ泣けた。
隣組のマーチ
隣組トリオによるこの歌はめちゃめちゃ聞いていてクセになります。上手側の高台からそれを見てるアンサンブルさんも一緒に「トントントンカラリン」のポーズしてたりしててめっちゃ可愛い!
あと、楠公飯を周作たちが食べる場面も本当に癒し。特に食べた後の「うーーーん」っていう表情がすごいアニメで観たキャラクターと雰囲気似ててめっちゃホッコリしてしまいました。
で、この♪隣組のマーチ♪の楽曲ですが・・・映画版を見たら同じ楽曲が流れてるシーンがありまして。つい最近知ったのですが、原曲は1940年(昭和15年)に発表された國民歌謡だそうです。映画ではコトリンゴさんアレンジで流され、ミュージカル版ではアンジェラ・アキさんが「マーチ」として編曲されたものが歌われたということになりますね。
呉に戻ったすずと周作が高台から軍港を一緒に眺める場面も好きです。特に戦艦ヤマトを二人で見つめるあの時間がとても良い。でも、周作がさりげなく寄り添おうとするとすずはササッと逃げて…みたいなのを繰り返しててw。ストレスからの円形脱毛症を気にして周作に見られたくない一心のすずさんがなんとも可愛らしい。
だけど彼は逃げられてる理由もちゃんと悟ってて、ついには「気にしよったらハゲはよけい酷くなるで」と言い当てちゃうんですよねww。言わんでいいこと言っちゃう不器用さが観ていて「もぉーーー!!」となるんだけど(笑)でもなんかそれも愛らしくて許せてしまう、みたいなね。
防空壕ポルカ/スイカの歌
戦況が悪くなる世の中ですが、呉の人たちは色んなことを受け止めつつ逞しく前に進む。このシーンで登場する♪防空壕ポルカ♪が本当に明るい曲調で、演じてる役者さんたちもすごく楽しそうに演じているのがとても印象深かったです。特に「ぼうくうごう、ぼーくーごー」のリズムは聞いていてクセになります。
そんな時に周作の姉の径子が娘の晴美と一緒に木材を引っ張って実家に戻ってくる。サバサバと「離縁してきた」と言い放って皆をびっくりさせるのですが、このあたりも漫画チックにえがかれていて面白かった。
でも、このあとの径子の歌詞を聞いてみると彼女の苦しい事情が滲んできて切なくなるんですよね。表には見せない葛藤や哀しみがじわじわと胸に迫ってくる。だけど、ポルカの明るい曲調が径子と屈託のない娘の晴美をそっと包み込むような空気感があって…。こういうところがホント素晴らしい作品だなと思いました。
もう一つ印象深いのが♪スイカの歌♪。防空壕作りの休憩時間に周作のお母さんがスイカ(本物)を持ってくる。皆けっこうパクパク本気食いしてるのが可愛くて好きだったなぁ~。
そのスイカを見て、幼い日に祖母の家で出会った謎の少女とのエピソードを思い出すすず。映画では後半最後の方にならないとその正体はハッキリしないのですが、ミュージカルではもうこの時点で明かしてしまうんですよね。最初に見た時はビックリしたけど(汗)、でも、シーン的にはめちゃめちゃ温かくて泣けるのです。
身なりがボロボロだった自分に自然に接してくれた少女。新しくスイカを持ってきてくれたり、自分の着物をそっと置いていってくれたり。その思い出を糧に生きていこうと去っていく彼女のかつての姿がとても感動的。あのときすずは、彼女の居場所もそっとこしらえてあげてたんだなと…(涙)。
そして遊郭の場面。迷子になり遊郭街に入ってしまったすずが途方に暮れている時に声をかけてくれたのがリンだった。優しく道案内をしてくれた彼女に、すずは「御礼」として彼女の食べたいものの絵を描いて贈ろうとするんだけど時間がなくてその時は渡すことができなかった。
「今度描いて持ってきますね」と笑顔で告げるすずに、リンは暗い口調で「こんなとこ来るもんじゃない」と忠告。少し前まで和やかだった二人のシーンに一気に緊張感が走る印象的な場面でした。一見穏やかな場所に見えるけれど、リンがいる場所は彼女が本当に望んで居たところではないんですよね。そう思うと彼女の哀しいそれまでの道のりが浮かんできて胸がチクリと痛くなる…。
平野さんのリンは大人の色香がフワッと漂ってくる艶があってとても美しかったです。すずとの会話の時に見せる楽しそうな表情が本当の彼女なんだろうなと思うと切なかったな…。優しさの中にも社会の厳しさや冷たさを味わったからこその棘のようなものも見え隠れしている雰囲気がとても印象深かったです。
玲香さんのリンはものすごく儚い。遊郭での生活の中で色々と削り取られてしまい魂がフワフワ飛んでいるような女性のように見えた。そんな環境の中で出会えた、気兼ねなく笑って語り合えるすず。彼女との会話をしてる時の玲香ちゃんリンの表情はとても柔らかい笑顔でそれがなんだか哀しくも見えて涙を誘いました。
醒めない夢
すずと二人きりの時間を作りたくて、わざと”帳面"を家に忘れ彼女に届けさせた周作。そんな回りくどい誘い方しかできない彼が何とも不器用で愛らしい。すずはその真意に気づいてなかったけど、ピンときた径子が「早く着替えて」と促してくれる場面はとても印象的ですね。いつもツッケンドンな態度ばかり取ってきたけど、一緒に暮らす時間が長くなるにつれてすずに思いやりを持てるようになっていた径子さんの本音が見えた気がしてホッコリします。
いつもよりきれいな服と厚めの化粧で周作の元へ駆けつけたすず。そんな彼女を見て「顔の色が白いけど具合でも悪いんか?」と正直な感想を口にしてしまう周作が不器用すぎて面白いw。言われたすずも本気で「そんな白いですか?」と慌てて化粧を落とそうとしててww。そんな二人だからこそ相性が合うんだろうなと思ったな。一番の肝は
「しみじみニヤニヤしとるんじゃ!」
というすずさんの恥じらい。あの時の表情、昆ちゃんも櫻子ちゃんも、めっちゃ原作のすずさんに似ててすごく良かった!
映画館の場面、椅子に二人で座った時に漂ってくるお互いを想う気持ちがあったかくて…見ていてとても沁みます。直接口に出して想いを伝えあうことはないんだけど、その時の歌う二人の心情は見事にリンクしてて…。なんとなく察してるけど確証にまでは至らないっていうもどかしさもあったりして温かいんだけど切なさもある。
村井くん周作はドキドキが見てるこちらにも伝わってくるかのような緊張の面持ちですずの手に自分の手を重ねていたし、海宝くん周作はすずと一緒に居られる嬉しさが表にダダ洩れしてて頬を緩めながらすずの手に自分の手を重ねてましたね。二組の違う雰囲気を一日で満喫できるなんて本当に贅沢な時間だったな。
映画を見終わった後もさらに二人の心の距離は近づいていて。
「あと少し、このままでいさせて」
という歌詞の説得力が以前見た時よりもすごく増したなと思いました。この時点で二人の「居場所」は明確になっているわけですが、一方で”選ばなかった人”の居たかった場所は彼らの中に無くなってしまったんだなとも感じられて…、そこはなんだか切なかったですね。
変わっていく世界
ふたりの心の距離がぐっと近づいたのも束の間、すずは自分と結婚する前の周作の過去を悟ってしまう。きっかけは、破れた帳面の裏表紙。そのことを訪ねたすずに対しサラリと「昔字が書けなかった人に名札を作ってやったんだ」と事情を話した周作。彼の中ではその人への気持ちは”過去”になりつつあった(というか、もう過去になってたのかも)から普通に教えたんだけど、これがすずの心に影を差すものになってしまうとはねぇ…。
リンのところに約束の絵を持って行ったすずは、リンが”どこかで見たことのある名札”を大切に持っていることを知ってしまった。この時彼女の中に渦巻いた気持ちというのは、周作の元カノがいた、ということのショックではなく「自分が嫁いだのは彼女の代用品としてということだったのかもしれない」という疑念だったんですよね…。彼はそんな人ではないと思いたくても、ハッキリと自分への気持ちを言葉で聞いたことがない故に信じることができなかったすず…。その気持ち、痛いほどわかってしまって本当に切なかった(涙)。
平野さんリンは周作の名札に口づけをして大切にしまい込んでいて、未だに彼への想いが彼女の中で色濃く残ってるんだなと思えるお芝居をしてました。
対する玲香ちゃんリンは、すずが描いてくれた絵と同等の扱いで周作からもらった名刺を大切にしてて。平野さんリンよりもすずへの友情の気持ちの方が大きいかもしれないなという印象を持ちました。
それから、1幕最後ですずの苗字を知ったリンとの対峙場面も印象深い。昆ちゃんと平野さんは一瞬火花が飛んでんじゃないかというくらい「オンナ」のバチバチ感があってすごくスリリングで。櫻子ちゃんと玲香ちゃんは驚きの中じっと見つめ合うんだけどそこには敵対心はなくて、玲香ちゃんの方が悲しげにスーーッと消えていくのが切なかったな。
やっぱり長くなってしまったので(汗)、2幕の感想は次のページにて。