劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘』京都公演 2019.11.06ソワレ

全体感想(2幕)

エジプトへの逃避

下界での騒ぎにエスメラルダが心配で仕方なかったカジモドですが、ちょうどそのタイミングでエスメラルダがフロローによって負傷させられたフィーバスを連れてやってくる。

最初エスメラルダの姿を見たときにはパァ~っと表情が明るくなるカジモドですが、彼女の後ろに傷ついてぐったりしたフィーバスがいるのを見るとあからさまに不機嫌になってしまいます。カジモドにとってフィーバスはフロローの部下であり自分を縛り付ける存在っていう認識があるんでしょうね。
でも、道化の祭りの時にフィーバスが彼を守ろうとしてくれたこともあるわけで(カジは知らないけど)この場面見るたびに「カジ、もそっと優しく接してあげて」って思っちゃう(笑)。

さらに、エスメラルダがフィーバスを匿ってほしいと頼みに来たことで、カジモドの中ではフィーバスが「恋のライバル」と認識してますます邪魔な存在に思えてしまう。でも、大好きなエスメラルダの頼みを断れず渋々ながらもOKしちゃうわけで、そんなところがちょっと可愛くもあるのです。

去り際にエスメラルダはカジモドに自分たちの居場所を示したペンダントを託す。フィーバスの体力が回復した時にその場所へ連れてきてほしいとエスメラルダは頼むのですが、カジモド的にはこの時点で自分の役割をはっきり理解できていないように見えます。
エスメラルダはカジモドのことを「友達」としか認識していないのに対しフィーバスのことは「男」として意識する部分が大きい。ゆえにカジの気持ちには気づいてないわけで…ちょっと残酷なシーンでもあるよなって思ってしまう。

カジモドはエスメラルダに渡されたペンダントの意味が分からないまま混乱しますが、彼女からの感謝の気持ちとしてのキスにますますテンション上がって恋心を募らせちゃう。ほんと、罪なことするよ、エスメラルダは…って思っちゃう(苦笑)。

エスメラルダを追いかけられなかったカジモドに対してガーゴイルたちは「追いかけろ」とハッパをかけますが、カジは自分が彼女にどう接していいのか混乱しているため動くことができない。そこで助けを求めたのが、フロローから聞いていた話に登場する聖アフロディージアスです。

アフロディージアスのは最初首が半分落ちたような状態で登場して、歌ってる間に戻っていくっていう演出が面白いんですよね(人物設定的に面白い、というと語弊はありますが 汗)。これをあのリハ見のときに朴訥な好青年だった佐瀬くんが演じていたのか~・・・と、終わってから感心した私ですw。ええ声でした。

アフロディージアスからエスメラルダが渡したペンダントの意味のヒントをもらうと、カジモドはその場所に行けば彼女に会えるってことでテンションがまた上がる。このやり取りしてる時の達郎カジがとにかく可愛いんです。まるで知識を吸収しようと一生懸命になってる子供のよう。

そのタイミングでフィーバスが目を覚ますんですが、同時にフロローもやってきてしまうので必死にその姿を隠すカジモド。ここちょっとコミカルなところかな。少し笑いも起こるし。
でも、フロローが巧みにカジモドを操縦するような言動を使ってるところは怖い。「本当の息子のように思うよ」と優しい言葉をかけながらも、実際のところは彼を泳がせて利用しようという意図が見え隠れしている。エスメラルダの居場所である奇跡御殿を見つけた、と話すのも「嘘なんだろうな」って勘づくし。川口フロローはそのあたりの表現がすごくわかりやすくて、見ていてゾクっとさせられました。

フロローが去った後、フィーバスは目を覚まし奇跡御殿へ向かおうとする。
でもカジモドはフィーバスを完全に恋のライバル視してて「僕が一人で行く!!」ってムキになってるわけで(笑)この時点で彼は「フィーバスの体力が回復したら連れてきて」というエスメラルダのお願いを忘れてるよねww。ペンダントをフィーバスと取り合おうとするシーンは子供の喧嘩みたいでなんか癒されますw。

 奇跡もとめて

お互い牽制しあいながらエスメラルダのいる奇跡御殿にやっとのことでたどり着きますが、クロパンに侵入者扱いされて殺されそうになってしまう。この時のクロパンのダークさはけっこうゾクっとくるものがあります。
それを寸でのところで助けたのがエスメラルダ。「もうすぐフロローがこの場所を襲撃しに来る」というフィーバスやカジモドの言葉を信じます。

渋々その場を立ち去る決断をするクロパンが「今度こそもう少し長く根を張れそうだったのに」と悔しそうにつぶやく場面が個人的にはとても印象深い。流れ者の印象が強いクロパンですが、本当はもっと落ち着いた生活を望んでいたんだなと思うと胸が痛いです。

クロパン一行と行動を共にすることを決断したエスメラルダに対し、カジモドは「鐘突き堂で一緒に暮らそう」と提案しますが、フィーバスは「彼女と一緒にジプシーとして旅に出る」ことを選ぶ。
この場面はカジモドにとって本当に残酷だなぁと毎回思って涙してしまいます。エスメラルダはひとところに留まることを望まず、共に歩んでくれる人・・・つまりフィーバスを自分の意志で選びますからね。外の世界を知らないカジモドにとって、彼女についていくという選択はできなかったんだろうなと。

エスメラルダとフィーバスが二人の世界に入って歌う時、カジモドは絶望と孤独に苛まれてその場を立ち去るんですけど…この時の達郎カジの表情があまりにも悲しすぎて涙が止まらなかったよ(泣)。特に「僕は醜いから」と選ばれなかった理由を自分の容姿のせいにして傷ついてる姿は辛すぎて涙なしには見られない。

さらにそこへ、カジモドたちの後をこっそりつけてきていたフロローがやってきてエスメラルダたちを捕えてしまう。そのことさえも自分の責任だと感じてしまうカジモドがひたすら悲しい。

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 いつか

捕らわれたエスメラルダの牢獄にやってきたフロローは、自分と一緒になることが助ける交換条件だと告げる。断固拒絶したエスメラルダに、さらに「フィーバスも助けるといったらどうする」と迫りなんとしても彼女を自分のものにしたいという執念を見せるフロロー。
これまで、ここのやり取りを見たときはフロローの異常な歪んだ想いが恐ろしいと感じていたのですが、川口フロローの場合は、恐ろしくもあるんだけど…なんだかすごく哀れで見ていられないという感情のほうが大きかった。

特に、エスメラルダから「あなたは本当に怪物ね」と吐き捨てられたときに「違うんだエスメラルダ!!」と叫んで反論するシーンはこれまで見てきたフロローの印象とかなり違いました。

川口フロローは必死なんですよね、自分の気持ちを理解してもらいたくて。今まで体験したことのない感情に戸惑い自分でもどうしたらわからないなかで、必死にもがいてる心の葛藤みたいなものが手に取るように伝わってきたんですよ。
無理やりエスメラルダに迫ってしまう場面も、ただただ悲しくて痛々しくて…。軌道修正できない自分の気持ちのまま突っ走ってしまったが故の悲劇というか…。ここでフロローにこんなに感情移入して観たの初めてかもしれません。

フロローが自己崩壊したまま立ち去ってしまった後、エスメラルダとフィーバスは二人だけの時間を惜しむようにすがるように共に過ごす。この場面見るといつもミュージカル『アイーダ』のラストシーンを思い出しちゃう。
ただこの日は、この二人の別れの場面よりもフロローの哀れさのほうが色濃く私の胸に残ったかもしれません。

石になろう

外に出られないようにロープで足を縛られてしまったカジモドでしたが、どんなにガーゴイルたちが「彼女を助けに行かなければ!」と励ましてもその気力を失ってしまっている。そりゃそうだよ、あんな失恋しちゃったら・・・ねぇ。

それでも必死にカジモドを奮い立たせようとしたガーゴイルたちでしたが、その言葉は失恋の悲しみや世間の冷たい風に触れて自暴自棄になりかかっていた彼の耳には届かなかった。
そしてカジモドがガーゴイルたちを完全に拒絶する言葉を投げかけたとき・・・彼らは静かにガーゴイルのマントを脱いで”民衆”の姿となりその場を去っていきます。「いいよ、カジモド、好きにしなさい」「どうせ私たち石だものね」という彼らの去り際の言葉が悲しくて涙が出ます…。

誰もいなくなった鐘突き堂の部屋で、カジモドは繋がれたまま「下界への憧れを捨て、一人心を閉ざして生きていく」ことを心に決めてしまう。
達郎くんは他のカジモド役者に比べるとこのシーンの歌は少し不安定なところがあるのですが、私はそれが逆にカジモドの悲しい心の内の叫び声のように聞こえてきて刺さるものを感じます。最後の声の伸びも素晴らしかった。

 フィナーレ(超ネタバレ注意)

処刑の日、最後の最後に「悔い改める気はないか」とエスメラルダに温情をかけようとするフロローですが、断固拒絶されてしまう。唾を吹きかけられたときの川口フロローの何とも言えない失望の入り混じった表情がものすごく印象的だった。彼は火をつけてしまうけど、燃え盛る炎の煙で苦しむエスメラルダの姿を見るのもまた地獄の苦しみだったのではないだろうか…。

エスメラルダの薪に火が付いた瞬間、カジモドは「石」ではいられなくなり我を忘れて救出に向かう。不器用ながらも必死に彼女のもとへ走る達郎カジの姿は非常に感動的です。そして、炎にまかれる彼女を救い出したあと「聖域だ!!!」と叫ぶシーン、圧巻・・・いや、それ以上の鬼気迫る声で思わず涙が出ました。

大立ち回りのあと、エスメラルダにそっと寄り添うカジモド。そんな彼に「あなたは素敵な友達よ」とほほ笑むエスメラルダ。以前のカジだったらその言葉にがっくりきたと思いますが、この時彼はその言葉を丸ごと受け入れて「うん、友達だ」と彼女を優しく抱きしめるんですよね…。それは、カジモドが本当の意味での愛を知った瞬間でもあるように思えてものすごく泣けます。
なので、この後訪れる悲劇は哀しくて哀しくてやりきれない…。

その哀しみの直後、フロローは「これでこの先二人とも安心して暮らせる」と言うのですが…川口フロローはその言葉を、必死に感情を押し殺しながら発しているようにしか見えなかった。彼は自分の行った行為が本当に正しいものだったのか未だに呑み込めてないように思えたんですよ。なので、おそらくこのままではいずれ自ら破滅の道をいきそうな…そんな予感すらした。

すると、カジモドに「おまえに愛が分かるのか」と問われたときに川口フロローは目に涙をブワっと浮かべながらこれまでため込んできた感情が抑えきれなくなったように自嘲したんですよ…。この川口フロローを見た瞬間、ああ、これだ…私が見たかったのは!!!って思った。
愛を問われてあそこまで取り乱したフロローは今回初めて見ましたが、これが一番自然に思えたんです。それと同時に、フロローの「本当の意味での愛がほしかった」という真の想いみたいなのがドドーーっと伝わってきて…ありえないくらい感情移入して泣きました(涙)。

カジモドは「悪人は罰を受ける」という、いつもフロローに言い含められてきた言葉を呟き、彼を突き落とす。その時のカジの感情は「憎しみ」でもあったんだけど、私はこの日は「救い」にも思えてならなかった。カジモドはそうすることで結果的にフロローの心を救ったのかもしれないなと…。

遅れてやってきたフィーバスはエスメラルダのそばへ行きますが、カジモドがすごく優しくその頭を何度も撫でていて…これがまた泣ける(涙)。それに応えるように、フィーバスはカジモドにエスメラルダとの時間を譲るわけで…この二人がもっと早く違う形で出会っていれば本当の友達になれたのにって思えて仕方なかった。

ラストシーン、カジモドの姿を上からジェアンとフロリカ両親の魂が見つめている光景がとても美しい。

そして「普通」の人たちが顔に泥を塗り体を歪ませていく中で、「怪物」と呼ばれた一人の青年が汚れを落としまっすぐな体で振り返る。この逆転現象がこの作品の肝でもあり、一番メッセージ性を感じる瞬間でもあります。
”役”から解放されたその場にいる全出演者が歌うノートルダムの鐘の音楽はこのうえなく美しく荘厳でした。

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主なキャスト別感想

飯田達郎くん(カジモド役)

達郎くんのカジモド、久しぶりに見たけどまたさらに役が深まっていて本当に素晴らしかったです。セリフの時のカジモドの声と、歌う時のカジモドの声の使い分けも微妙に変わっててよりリアルに思えたし、セリフのように歌う場面が増えていたこともすごく印象深かった。
音楽に忠実にっていう劇団の方針も分かるけど、時には感情の高ぶりをこうしてセリフ調のようにして歌に取り入れていくことも表現方法としては必要なんじゃないかなと私は思います。

宮田愛さん(エスメラルダ役)

宮田さんのエスメラルダはカッコいい身のこなしも魅力的ですが、女性らしい柔らかな側面が感じられるところも大きな見どころの一つだと思います。特にフィーバスに対する恋心が滲むシーンでの少し乙女な表情が個人的にはとても好きです。
フロローに思いを寄せられてしまうっていうのも、宮田エスメラルダのこうした女性らしい側面にビビっとこさせられたからなんじゃないかなって今回思いましたね。そういう意味ですごい説得力がありました。

川口竜也さん(フロロー役)

川口さんといえば『レ・ミゼラブル』のジャベール役。人間の弱さの表現がとても繊細で伝わりやすく、本当に大好きだったんです。なので、役柄の立場的にちょっと似た部分のあるフロロー役に川口さんが配役されたと知った時に「絶対にハマるはず!!」という確信がありました。そしたら…その想像をさらに超えてきていた!!!
もう感想の中でさんざん語ってきたのであまりここでは長くは書きませんがw、川口さんは人間の弱さや心の葛藤を演じることが本当に長けている役者さんだなと改めて感動しましたね。要所要所で「こういうフロローに会いたかった!!」って思わせてくれたし、新しい風を運んできてくれたなと。

ちょっとこれ見たら…しばらく川口フロロー以外受け入れられないかもしれない…(汗)。あまりにも私好みの役作りされてたのでね。もっともっと会いたい…そう思わせてくれる川口フロローでした。

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清水大星くん(フィーバス役)

清水フィーバス、以前見たときよりもだいぶ表情が豊かになって歌詞にも感情がすごい乗ってるなと感じることが多くなりました。特に道化の祭りに初登場した時のチャラっぽい力の抜け具合がすごく良かった。
エスメラルダに対する恋心も一気に加速してくところがいい。強引なところの中にもちょっと優しさが滲んでいたりしてとても魅力的でした。

吉賀陶馬ワイスさん(クロパン役)

久しぶりに見たワイスさんのクロパン、またさらにダークっぽさが増してるなとも思いましたが、それと同時に軽やかさというか…ちょっとソフトになった印象もあってなかなかに面白かったです。
道化の祭りの時の仕切りっぷりは特に楽しく、カジモドが王に選ばれた後不穏な空気になった時も機転を利かせて丸く収めたシーンでの躍動っぷりも見事でした。

後述

川口フロローは私の好みに合うはず!とは思っていましたが、ここまで感情移入させられるとは思ってもいませんでした。いつもはどちらかというとカジモドの物語といった視点で見ることが多かったけど、今回はフロローサイドのドラマとして見てたかも。

京都公演のチケットはこの日しか持ってなかったのですが・・・京都公演中にまた川口フロローが出ていて私の時間とお金の都合がつきそうな時は・・・突発で行ってしまうかもしれないw。ちょっと、1回じゃ足りない(日帰りできるし 笑)。

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