劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘』を観に京都まで遠征してきました。怒涛の3月観劇月間最後の演目になります(汗)。
1月から月に1回通った京都ノートルダムですが、この日が最後になりました。過去2回は宿泊観劇でしたが、今回は費用の都合上日帰り(滞在時間約5時間w)。現在の居住地である山口からはなかなかに遠かった。
ちなみに毎月開催されていた劇団四季の関西スタンプラリー、この日を以てコンプリート達成しました。どの写真も洗練されていて最高(特に1月のは永久保存)。
思えば今年度最初の京都遠征の日は外出制限が出るほどの大雪の日だったなぁ。あれから2か月、季節も進みだいぶ温かくはなってきましたが、京都はまだひんやり涼しい気候でした。
蒼空に映える京都タワーが美しかったです。
ちなみに、春休み期間中という事もあってか京都の観光客がめちゃめちゃ多くてビックリ(←特に外国からの観光客の方がめっちゃ増えてる印象)。売店の行列もハンパなくて、ちょっとしたものを購入するのに10分並ぶという経験をしましたw。
以下、大いにネタバレを含んだ感想になります。
劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘』これまでの感想一覧
2023.03.29マチネ公演 in 京都劇場(京都)
※概要とあらすじなどについては2019年11月06日観劇記事を参照。
上演時間は約2時間40分。内訳は1幕が1時間25分、休憩20分、2幕が55分となります。
主なキャスト
- カジモド:寺元健一郎
- エスメラルダ:松山育恵
- フロロー:野中万寿夫
- フィーバス:加藤迪
- クロパン:白石拓也
【男性アンサンブル】
野村数幾(フレデリック ほか)、梅津亮(ルイ11世 ほか)、今村綱利、長尾哲平、中橋耕平(聖アフロディージアス ほか)、平良交一、手島章平(ジェアンほか)、松永涼吾
【女性アンサンブル】
岩城あさみ(フロリカ ほか)、久居史子、町島智子、坂井菜穂(マダム ほか)
【男性クワイヤ(聖歌隊)】
柳隆幸、土井夏以、山口泰伸、安田楓汰、井上隆司、持木悠、和田ひでき、橋元聖地
【女性クワイヤ(聖歌隊)】
中村侑佳、新井ちひろ、葛葉かな、瀧本真己、川目晴香、薄井美伽、玉置ともか、吉田瑛美
アンサンブルさんやクワイヤの皆さんのメンバーがかなり変わりましたね。個人的にはクワイヤメンバーの中に最近の『オペラ座の怪人』でピアンジを演じている山口さんの姿があったのが嬉しかったです(すぐ分かった)。
ちなみに、クワイヤの皆さんはシーンのところどころで細かいお芝居をされています。ある時は石像、ある時は民衆、といった感じ。今期のノートルダムでようやくそのことに気づくことができました(←遅っっ 汗)。
全体感想・主なキャスト感想
やはりこの作品は何度見ても頭の中が猛烈に痺れます。濃厚な人間ドラマが展開されるわけですが、どの人物に焦点を当てて見ても色んな気持ちが湧き起こってくるんじゃないかなと。劇中劇のような演出として物語を進行しているのも大きいかもしれません。役者一人一人の観客への訴える力がより増しているというか…。
「答えてほしい謎がある、人間と怪物、どこに違いがあるのだろう」
冒頭に投げかけられるこの問いが最後の最後まで頭の中に響き続ける、そんな作品。善人とは?悪人とは?一言では語れない人間の本質。それらの要素が詰まったキャラクターが、私はフロローだと思ってしまう。どこかでフロローと自分とを重ね合わせながらこの作品を観ているかもしれません。
♪OLIM♪
静かで美しいミサ曲のような歌声から、胸にずしりと響き渡る重厚感あふれる歌声。冒頭はクワイヤさんたちの素晴らしい音色に気持ちが呑み込まれていくような感覚になります。それがとても心地いい。
この導入部分でフロローの辿ってきた道が描かれるのですが、いつ見ても胸がきゅっと苦しくなってしまうんですよね。最初は本当に優しくて真面目で誠実な人物だった。だけどその真っ直ぐさが彼自身を追い詰めてしまっていたのではないかなぁと思えて仕方ない。ヤンチャで遊び好きなジェアンが弟でなかったら、もしかしたらフロローの未来は違うものになっていたのかもしれない。そう思うとなんだかやるせなくて…。
ジェアンが道を踏み外したうえに行方不明になったことで、同じ道を歩むまいと律し教会で目覚ましい出世を遂げていくフロロー。その過程の中で、”自分こそが神の正式な代弁者である”と思い込んでしまったのではないかなと。そうなることで人間としての弱い感情を無理やり抑え込んでしまった悲劇…。生真面目だったが故の悲劇だよなぁ…。
手島くんが演じたジェアンは軽やかな遊び人って感じ。彼が夢中になるジプシーのフロリカを演じる岩城さんは小悪魔的で艶っぽくて可愛らしい。そんな二人に翻弄され運命を狂わせてしまうフロローを演じる野中さん。前回見た時よりも冒頭からなんだか苦しそうだったし狂気をはらんだ雰囲気のように見えました。
そして最後に現れるカジモドを演じる寺元くん。青年俳優として登場した時は感情を表に出していないのですが、フロローから”布に包まれた赤子のカジモド”を渡され背中に括り付けるあたりからどんどんスイッチが入っていくのがめちゃめちゃドラマチック。鐘を衝く頃には登場した時とはまるで違う”カジモド”の顔になっているのが本当に感動的です。
ちなみに、最後に鐘を鳴らしてるメンバーの中にフィーバスで登場予定の加藤くんの姿があったのを今回初めて発見しました(遅っ)。中央に立つ寺元カジモドを優しい笑顔で見つめながら鐘を鳴らしてる加藤くんがとても印象的だった。この後登場する時はそんな視線でカジを観れないしけっこうこれは貴重w。
♪陽ざしの中へ♪
ガーゴイルたちと楽しくおしゃべりしているカジモド。この石像たちの中で特に目を惹くのが平良さん。ついこの前までフィルマンとして見てきただけにすごく新鮮。カジのお友達としてその場にいる姿はなんだかとても愛らしかったです。
それにしても今回の野中フロローはなんだか最初から怖かったんだよなぁ。トーンとしては抑えてるんだけど、行儀が悪いカジや「聖アフロディージアス」の名前を言えないカジに対しての叱り方がめちゃめちゃ厳しい(汗)。威圧的で見ているこちらも身が縮んでしまいそうになるほどだった。これまで見てきた野中フロローの中で一番怖かったかもしれない。
でも、「僕がご主人様をお守りしますから」と告げたカジを笑った後の「すまん、笑ったりして」の言い方はどこか父性を感じるんですよね。あそこのセリフ回しは野中さんが一番好きかもしれない。
寺元カジの♪陽ざしの中へ♪はもうなんか、見ているだけで涙スイッチが入ってしまう(泣)。今回で3回目になりますが、外の世界への憧れを歌詞に乗せている時の表情がものすごくピュアで可愛らしいんですよ。「僕は行きたい、陽ざしの中へ」の盛り上がりどころからどんどん彼の中の気持ちが解放されていくわけですが、カジモドの思い描いている世界観が手に取るように伝わってきました。
そんな彼をガーゴイルたちが優しい眼差しで見守ってて、サポートしてって…もう、その光景見るだけで涙がボロボロ出て止まらなかった。
寺元くんの歌声、本当に素晴らしいです。やっぱり今回もちょっと「海宝くんに似てるな」なんて思っちゃった。
♪トプシー・ターヴィー♪
京都公演最後の観劇でついに新しいクロパン・白石拓也くんに会うことができました!白石君はこれまで東宝などの大型ミュージカルでアンサンブルとして頑張っている姿を見てきたのですが、昨年1月に劇団四季に入団したと知ってぜひ四季の舞台の上の彼を見てみたいなと思っていたんですよね。それが今回ようやく叶いました。
パット見た第一印象は「若いっ!!」ってこと。これまで見てきたクロパンはどちらかというと年齢がちょっと上の方で世の中の酸いも甘いも知って飲み込んできたような達観した雰囲気があったのですが、白石クロパンは若々しくそれでいてどこか軽やかでところどころ爽やかさすら感じました。これまでにない新しいクロパンだなぁと。
だけどなんか、舞台の中央でメインキャストとして輝いてる白石くん見たら…それだけでちょっと感極まるものがあったなぁ。役名の付かないアンサンブルとして観ることが多かった役者さんだけに、舞台の真ん中でソロナンバー歌ってグイグイ皆を引っ張ってる姿を目の当たりにできたことがとにかく嬉しかった。
クロパンに続いて加藤フィーバスも登場。女性たちに良い顔しながら寄っていく姿が実にセクシーでちょっと遊び人器質的なところがあるのが良い。その反面、戦場でのトラウマに憑りつかれているという設定のフィーバスですが、加藤くんはその記憶が浮かんできそうになるたびに振り払うように打ち消してる印象が強いです。佐久間くんは苦悩の色を表にけっこう出すんですが、加藤くんは過酷な思い出に囚われてる自分というのをあまり表に出していない感じかな。
トラウマを思い浮かべたくない気持ちが強いが故に女性たちと遊ぼうとしてるっていうバックボーンが感じられるのがとても興味深いです。
♪タンバリンのリズム♪
エスメラルダが初登場する♪タンバリンのリズム♪はカッコ良すぎて何度見てもテンションが上がります!松山エスメはどこか男前でさっぱりしててめっちゃ魅力的。そりゃ男たちの目が彼女に釘付けになるのも分かるよ!!
個人的には、平良さんがエスメラルダのダンスに鼻の下伸ばしながら声を上げて見入っている姿がツボでした(笑)。あと、エスメラルダからタンバリンを受け取った後に「え?どうしたらいいのコレ?」みたいにオタオタしてる加藤フィーバスも可愛くて萌えww。
エスメラルダのダンスが最高潮になるところで、彼女はフロローに赤いスカーフを挑発するように投げ渡してしまう。この時の野中フロローは嫌悪感を表情に浮かべていましたが、それと同時に言いようのない動揺が広がっていくのも伝わってきて複雑な気持ちになってしまいました…。あの時彼女があんなことをしなければ…っていつも思ってしまう。
この後、エスメラルダを間近で見て魅了されてしまったカジモド、フィーバス、フロローが「誰だ?あれは??」と三重唱を奏でるのですが、ここのシーンが個人的にめちゃめちゃグッとくる。旋律もすごいドラマチックなんですよねぇ。
ここでカジモドとフィーバスはエスメを「天使」のようだと感じているのに対し、フロローは「悪魔」のようだと歌ってるわけで…。このあまりにも捻じ曲がった彼女への感情が後に悲劇をもたらすと思うと何とも言えない気持ちになってしまいます。3人の男たちの心に火を灯したことなど思いもよらぬエスメラルダが超カッコよく歌い上げて〆てるのが最高なんだけど切なくもある。
道化の祭りが始まり、嫌悪感丸出しでフロローがその様子を見つめるなかカジモドは魅了され舞台の裏側に回り込んでしまう。ちなみに前回の道化の王様を演じてたのは平良さんでしたね。変な顔だけどダンディーでカッコよかったw。
カジモドに声をかけたエスメラルダは最初驚いたものの、その正体を知らなかったが故に「あなたも王様になってみない?」と彼に参加を促してしまう。初めてのことだらけで戸惑っていた寺元カジでしたが、松山エスメの優しい言葉に勇気をもらい思い切って祭りに飛び込んでいく。この一瞬ぱぁっって彼の心に明かりがともったような表情がとても印象的だったな。
一瞬周りの空気が張り詰めたところを、クロパンの機転によってなんとか軌道修正。エスメの行動に面倒くささを感じながらも、白石クロパンが場を収めるために必死に盛り上げようとしてるのがなんだかイジらしくて可愛かったです(ここでカワイイなんて思ったの初めてかもw)。
それでも結局カジモドは町の人たちの悪意を一身に浴びることとなってしまいます。この場面は何度見ても本当に複雑な心境になってしまいます。カジモドのような個性的な見た目を初めて観た人たちが暴徒化するっていう展開…、決して他人事のようには思えない。普段は善良であろう人たちですら、初めて目にする光景に恐怖し攻撃性を抱いてしまうわけで…、これって現代にも当てはまる出来事だろうなと感じずにはいられません。「あなただったらどうしていたか?」と投げかけられているような気がして胸を抉られるような気持になります。
騒然とする町からクロパンとエスメラルダが消えた時、フロローは「魔術だ!」と恐れおののき十字を切る。彼にとってそれは邪悪なものでしかない。だけど、去り際にこっそりエスメラルダが落としていった赤いスカーフを拾いそっと匂いを嗅いだ後持ち去る行動をしている。彼のエスメに対する歪んだ感情があそこで芽吹いたような気がしてちょっと背筋が寒くなるシーンでもあります。
♪神よ 弱き者を救いたまえ♪
傷ついたカジモドを追いかけてエスメラルダはノートルダム寺院の中へ足を踏み入れます。そこで彼女はフロローと遭遇。エスメを見た瞬間にハッとして彼女の赤いスカーフをコソコソ隠す野中フロローの密かな慌てっぷりはちょっとツボw。
この日の野中フロローと松山エスメの最初のやり取りはちょっとスリリングでしたね。野中フロローはどこかイラついたような口調で前回よりも彼女への当たりが強かった気がします。それに対して松山エスメも真っ向から受け止め持論を展開していてカッコいい。
そして、エスメラルダはフロローに「あなたがしてほしいと思う事を、あなたが人にしてあげればどうかしら」というキリストが言ったのと同じ言葉を投げかける。この瞬間、彼の中でエスメラルダに対する見方が大きく変わってしまう。
最初に彼女を見た時から気づかないところで恋情を抱いてしまっていましたが、あの言葉を聞く瞬間まではまだそれが突き出てくることはなかったと思うんですよね。でも、エスメラルダがキリストと同じ言葉を発したことで、彼女と自分は通じ合えるのではないかという希望を持ってしまったんじゃないかなと…。
もしもあの後、ミサの時間が訪れずにフロローとエスメラルダが語り合う時間があればといつも思ってきました。そうすることで悲劇は避けられたんじゃないかなとも。だけど、今回はたとえ語り続けたとしても結果は同じところに辿り着いてしまったのかもしれないと感じてしまいました。それほど野中フロローの中の邪な感情が伝わってしまったんですよね…。
独りになったエスメラルダが聖堂で祈りを捧げる♪神よ~♪。松山さんはとても丁寧に、一言一言神と会話するように歌っていてとても感動的でした。「私は大丈夫だけど、飢えた人たちにお慈悲を」と願うエスメラルダの美しい心がストレートに伝わってきました。
フィーバスとエスメラルダが聖堂でけん制し合う場面。フィーバスはこの時点でもう彼女に特別な感情を抱いているけれど、エスメラルダはそのテンションに至ってない。でも「私のような汚いジプシー」と自分で自分を卑下する言葉を彼女が言ってしまった後に「自分で言ったんだぞ。僕じゃない」と突きつけたフィーバスを見て彼女の中で彼への印象が和らいだ気がしました。ちょっとしたやり取りの場面だけどとても印象深いです。
♪世界の頂上で♪
カジモドの気配を感じて彼のいる鐘撞堂まで追いかけてきたエスメラルダ。そんな彼女とどんな顔をして会えばいいか分からずにびくびくしながら縮こまっている寺元カジはとても可愛らしい。松山エスメはそんな彼を怯えさせないようにそっとゆっくり近づいている感じがとても良いですね。男前な彼女の優しさがジンワリと沁みてきて感動的です。
エスメラルダが一生懸命自分とコンタクトを取ろうとしてくれていると感じたカジモドは徐々に気持ちを解放していき、緊張の表情から喜びの表情へと変わっていく。生まれて初めて自分と真摯に向き合おうとしてくれているエスメラルダにどんどん惹かれて心が躍る寺元カジがあまりに無邪気でピュアで泣けてきます(涙)。
高所恐怖症のエスメラルダが欄干の上をおどけて歩くカジモドにドギマギしながらも楽しそうにしている様子はとても爽やかで温かい。♪世界の頂上で♪の最後、ガーゴイルたちに背中を押された寺元カジがありったけの勇気を振り絞って「エスメラルダ」と彼女の名前を呼ぶシーンは心がジンワリ沁みて今回もボロ泣きしてしまいました。
あまりの嬉しさに興奮して鐘をガンガン鳴らしまくってしまったカジモド。それさえしなければもっとエスメラルダとの時間を大切に過ごすことができたのにと思うと何とももどかしい(苦笑)。だけど、生まれて初めての喜びの瞬間でもあったから仕方ないよね。
鐘を鳴らしまくった音に血相を変えてフロローが飛び込んでくるわけですが、その威嚇した叱り方がまたちょっと怖い。でも、エスメの姿が目に入った瞬間に「お・・・・おや」とめちゃめちゃ動揺しちゃう。あの時の野中フロローはちょっと萌えw。バツの悪さと彼女に再び会えたことへの喜びが入り混じったような複雑な反応が面白い。
カジモドを去らせた後、フロローは再びエスメラルダと話を続けようとする。自分と通じ合うものがあると信じて疑わないフロローが大聖堂での今後を語ろうとした場面。この時彼は「この大聖堂に一緒に住むほうがいい」と彼女を誘ってしまう。表向きは”神の教えをじっくりと学ばせたい”といった正当な理由があるように思えますが、実際のところは心の中で確実に育ち始めた”エスメラルダが欲しい”といった男性的欲求の気持ちがそう言わせているわけで…。彼女はその本心を鋭く察してしまったが故に「分ってるの、私を見るその目で」と冷たく突き放してしまう。
フロローとしては“善意”から誘ったことを信じて疑っていないため、彼女の思わぬ否定に逆上して激しく追い払ってしまった。エスメラルダへの歪んだ欲望といった気持ちが盛り上がってきたことをどうしても認めたくなかったんだろうなと。それが見えそうになるのを必死に逸らそうとしてる気がしてならない。こういうところが本当に”人間”らしいなとも思います。
♪酒場の歌♪
カジモドに対して険しい表情で「エスメラルダのことを考えては絶対にいけない」と命じたフロロー。その時の野中フロローの鬼のような形相は背筋が寒くなるほど恐ろしい。エスメラルダともっと話がしたいカジモドにとってはあまりにも残酷な”命令”なわけで…、あまりの怖さに頷くしかなかったというのが可哀そうすぎて胸が痛んでしまいます。
ところが、フロロー自身はどうしても自分の心の中で増大していく彼女への邪な欲求を抑えることができずに一人でこっそりその姿を求めていかがわしい店に入ってしまう。この店の名前の意味が”イヴのリンゴ”というのが本当に皮肉が効いてるなと(苦笑)。
音楽に合わせて軽快でキレのあるダンスを披露する松山エスメはここでも本当にカッコイイ。
そこへ彼女に恋するフィーバスが来店し、大胆に近づいていく。「あなたを見つけたあなたはこのあとどうするの?」と問われた後「僕は皆が思うほど良い人じゃない」と返して情熱的なキスをする加藤フィーバス。この「良い人じゃない」感が加藤くん、すごくよく出ててw。ちょい悪イケメンが思いを寄せた子に突然キスをするっていう行動がすごく腑に落ちてしまった(笑)。
だけど、エスメラルダも彼に対して嫌な気持ちは抱いてなくて…、むしろあの情熱的なキスでフィーバスのことを意識しちゃう。ただの強引な口づけじゃなくて、彼女への恋心がめっちゃ伝わったんだろうなと。
で、この一部始終をフロローはバッチリと目撃してしまうわけで。「下品で恥知らずなことを」と二人の行為を汚らわしい目で見る一方で「でも目を逸らすことができない」といった抗いようのない感情にも直面してしまう。エスメラルダに対する自らの邪な気持ちを何としても認めたくないフロローですが、封じ込めようとすればするほどそれは大きくなってしまうというのが彼の悲劇だよなぁと思います。逃げるようにその場を立ち去る背中がなんだかとても哀しかった。
♪天国の光♪~♪地獄の炎♪
フロローがこっそりエスメラルダを求めて夜の町へ出たとは夢にも思わないカジモドはエスメラルダへの温かい気持ちを思い返しながら歌っている。ここで彼が歌う「僕は醜いから諦めてたんだ」というフレーズが刺さるんですよね…。これまでどんなに孤独な日々を過ごしていたんだろうと思うと切なくなる。それゆえに、この後に続く「でも天使が微笑みかけてこの顔に触れたんだ」というフレーズがめっちゃ泣ける。「もしかしたら好きになってくれたのかな」というほのかな期待すら抱いてて…。見てるこちらとしてはエスメラルダがフィーバスに心惹かれてしまった現場を目撃している故になおさら切なくてたまりません(涙)。
♪天国の光♪を歌ってる時の寺元カジは本当に幸せそうでとろけるような笑顔で…それがなおさら涙を誘うんですよね。出来ることならその願いをかなえてあげたいって何度も思ってしまう。彼の歌声も天使のように美しい。
一方、自分を神の代弁者として人々を教え導く気高い存在だと信じて疑わないフロロー。それゆえに少しの邪な想いが芽生えることも許せなかっただろうなと。若い頃にジェアンから紹介されたジプシーのフロリカが誘惑してきたときは何とか抑えることができたように見えます。だけど、エスメラルダに関しては邪な男性的欲望を否定しようとすればするほど底なし沼のようにズルズルと引きずり込まれていってしまった。
生真面目すぎて人間としての素直な感情を悉く否定し抑え込もうとしてきたけれど、エスメラルダに関してはそれが通用しなくなった。そしてついには自分をコントロールすることすらできなくなったのではないだろうか。「彼女が手に入らないのなら地獄の炎に焼いてしまえ」という恐ろしい考えに辿り着いてしまう彼の心の弱さが痛々しい。
カジモドの純粋さと、フロローの邪な黒い感情とがクッキリと見えてくる印象深いシーンです。
♪エスメラルダ♪
国王ルイ11世に直訴して強引にエスメラルダを捕らえる許可を得てしまったフロロー。この時許可証を読み上げてた平良さん、渋カッコよかったです。
フロローから警備隊長としてエスメラルダを捕らえるよう命令を受けてしまったフィーバス。上官には絶対に従わねばならなかったこの時代、彼の心中を想うと辛い。でも、彼女が隠れている可能性の高い宿を焼き払えと命じられた時にフィーバスの心に迷いが生じる。この場面の時の加藤フィーバス、まるで独り別世界にいるかのような表情をしていたのがとても印象的でよかったです。天上の声を心で聴いて自分を取り戻す彼の行動に説得力がありました。
裏切り者のフィーバスを攻撃するよう命令されてしまったフレデリック。演じている野村さんは「オペラ座の怪人」のアンサンブルで時々見てきましたが、今回ノートルダムでしっかりとそのお芝居を堪能することができました。
これまでのキャラに比べるとちょっと年上な印象ですが、フィーバスとの関係を大切にしていて、フロローの命令が下った時にも複雑な気持ちのまま剣を振るってるのが伝わってきてなんだかとても切なかったです。
騒がしい町の様子にエスメラルダのことを想い心配を募らせていくカジモド、何としてもエスメラルダを捕らえて自分のものにしたいという執念を見せるフロロー、自分を庇うために傷ついたフィーバスを心配するエスメラルダ、そんな彼女の身を案じるフィーバス。それぞれの想いが重なる歌声が本当にドラマチックすぎて、1幕ラストは何度見ても涙が止まりません。
♪エジプトへの逃避♪
傷ついたフィーバスを匿ってほしいとエスメラルダに懇願されたカジモド。最初はそのことに戸惑いを感じていましたが、彼女の「お願い」という真剣な眼差しに抗うことができず渋々フィーバスを隠してやることに。この時、「なんでこいつがっ」と思い切り気を失ってるフィーバスに敵意を向けた寺元カジがなんかちょっと可愛らしかったw。
少ししたら「奇跡御殿」にいる自分の元を訪ねてほしいと地図のペンダントをエスメラルダから託されたカジモド。去り際に彼女から「ありがとう」のほっぺチューを受けてホワッとした嬉しい気持ちが勝ってしまう姿も萌えます。
今回の聖アフロディージアスは中橋くんが演じてたんですが、首の落ち方が絶妙(←言葉で書くとホラーですがw)!本当に落ちたかのような動きに思わず「おぉ!」と心の中で拍手を送ってしまいましたw。歌声もとても素敵です。
正気を取り戻したフィーバスを突然やってきたフロローから隠そうとするカジモドの慌てっぷりがちょっと面白い。彼はフィーバスを守りたいんじゃなくて、エスメラルダとの約束を守りたい一心なんですよね。だからフィーバスの扱いはかなり粗雑だったりするw。
様子がいつもとは違うカジモドに気づきながらもあえていつも通りに接するフロロー。エスメラルダの居場所を尋ねた時にカジモドが心臓バクバクさせながら「知りません」と嘘をついてしまう場面はとてもスリリングです。この時の寺元くんの緊張感あふれる目の動きがすごく印象深い。
野中フロローはこの後「時々本当の息子のように思うよ」とカジモドを抱き留めるのですが、その時の目はどこか空虚で何か違うことを考えてるように見えた。このシーンのフロローの言葉は時によって”本心かな”と思うこともあるんだけど、この日は取り繕うための言葉のように感じたかもしれません。あくまでも意識はエスメラルダを自分のものにしたいという邪な欲望に向いている印象が強かったです。
気が付いたフィーバスと張り合おうとするカジモドのシーンはどこか兄弟げんかのようでちょっと微笑ましい。だけど二人とも「エスメラルダ」を巡ってのライバルだとおもってるわけだからけっこう本気で言い合いしちゃってるんですけどねw。語りの「カジモドは」のあと加藤くんが「フィーバスとっ」とめっちゃスネ顔で付け加えるのがツボでした(笑)。
このあと二人は「奇跡御殿」に向かって歩みを進めるわけですが、ようやくはっきりと”入れ替わり”の仕組みが分かりましたw。けっこう早めに捌けてたんですね。
♪奇跡もとめて♪
奇跡御殿に到着したもののすぐにクロパンに捕らえられてしまうカジモドとフィーバス。これまでのクロパンは二人を本気で始末してやるみたいな怖さを感じたのですが、白石クロパンはどちらかというと二人を小ばかにしたような軽やかさがあるなといった印象かな。絶対に知られてはいけない秘密の場所にやってきた侵入者として排除しなければという想いはあるものの、”まだ俺の方が何枚も上手だぜ”みたいな自分に酔ったような雰囲気もチラリと感じられて面白かったです。白石君のクロパンはなんだかとても見やすい感じ。
エスメラルダに助けられた二人は、奇跡御殿がフロローに知られたことを忠告する。「今度こそもう少し長くいられると思ったのに」というセリフ、白石君はちょっと間を置いた感じで無念そうに唸っててなんだか切なくなってしまいました。
クロパン達と一緒について行くと告げるエスメラルダに、カジモドは鐘撞堂で匿うから一緒に住もうと提案。でも、フィーバスはすべてを捨てて彼女と一緒に旅をする道を選ぶと告げる。その決断に何も返す言葉が見つからず、泣きそうになりながらそっと立ち去る寺元カジの背中がめちゃめちゃ哀しすぎて泣けました(涙)。エスメラルダはそんな彼に気づくことなくフィーバスの決断に彼への愛を自覚しちゃうわけで…ほんと、こんな残酷な失恋ってないよなぁと思ってしまいます。
♪天国の光♪の時には「僕は醜いから諦めていたけれど、天使が微笑みかけてくれたんだ」と希望を歌っていたカジモド。その時と同じ旋律でもう一度ここでカジモドに「僕は醜いから諦めてたんだ」というフレーズを歌わせるっていうのも本当に残酷だよなぁと(涙)。泣きながら叶わぬ夢を歌う寺元カジが切なすぎてボロ泣き…。
そこへ突入してくるフロロー。ただでさえエスメラルダとの未来が夢破れ傷ついているカジモドに、フロローにこの場所を知られるきっかけを与えてしまったことを突きつける展開がまた辛すぎます…。連行されてしまった彼女を目の当たりにして心を閉ざしてしまうのは当然の流れだよなぁと…。
♪いつか♪
翌日の死刑を前に、牢獄に閉じ込められたエスメラルダの元を訪ねたフロロー。彼女との意思疎通ができないやり取りを続けていくうちに、ついに彼の中で邪悪な欲望が弾け”言葉”として表に出てしまうわけで…。もはや”抑えなければ”という自制の気持ちすら失ってしまいただ自らの欲を満たすためだけに暴走してしまうフロローの姿が恐ろしくも悲しい。
この時のエスメラルダの断末魔がものすごくリアルで、あの声を聴いただけでも自分が襲われるのではないかという恐怖心が襲ってしまうほどだった。
この後フロローはなぜかエスメラルダの元に同じく囚われの身となっていたフィーバスを呼び寄せ二人だけの時間を作ることに。フィーバスの存在を見せることによって彼女の心変わりを期待したのだろうけれど、二人はここでさらに愛情を深め運命を共にする覚悟をするのでフロローにとっては誤算だったのではないかと思ってしまう。
エスメラルダは最初は死への覚悟を気丈に語りますが、歌っていくうちに恐怖心が襲ってきて泣き崩れてしまう。そんな彼女を切実な思いで包み込むようにしっかり抱きしめるフィーバス。残された時間が少ない中で必死にお互いの存在を刻みつけようとする二人の姿があまりにも哀しすぎて苦しいです…。
♪石になろう♪
抱いていたほのかな希望を打ち砕かれすっかり心を閉ざしてしまったカジモド。どんなにガーゴイルたちが叱咤激励してもその声は彼の耳には届かない。「君たちを信じた僕が間違いだった」「ご主人様の言葉を信じていた方がマシだ」そんなカジモドの心の叫びが痛々しい…。だけど、そういう想いに囚われてしまう気持ちはすごく分かるんですよね(涙)。
自分たちの声が届かないことを悟ったガーゴイルたちは「いいよ、カジモド。好きにしなさい」「どうせ私たちは石だものね」「信じてたのに、君は強いと…」と失望の言葉を残し何も語らなくなってしまう。この時ガーゴイルを演じていた役者さんたちはグレーのベールを脱ぎ捨てて民衆の姿に代わるんですよね。そうすることでカジモドの孤独がより際立っていくという演出が毎回ものすごく刺さり泣けます。
誰の声も聞こえなくなった鐘撞堂で、カジモドは自暴自棄になりながら「もう憧れるのはやめた。ここで一人心を閉ざして生きていく」と叫ぶ。このシーンの時の寺元くんの鬼気迫る表情と激しい感情をむき出しにした歌いっぷりが本当にすごくて哀しいながらも鳥肌が立ちっぱなしになってしまいました。本当に素晴らしい表現力!
そして翌朝、まずエスメラルダの処刑が行われようとしている。最後にフロローはもう一度彼女の意思を自分に向かせようとしましたが、それに対し最大の侮辱を込めた回答を突きつけられ凶行に及んでしまいます。もう自分の心に巣くう悪の欲望から逃れることができなくなってしまったフロロー…。ここからさらにどんどん悪が加速していく(大聖堂を襲う指令を出したり)。彼は欲望に支配された行動に手を染めながら、自分は人を導く聖職者ではなく一人の弱い人間だったことをいやがうえにも認めざるを得なかったんじゃないかなと思いました。
エスメラルダの命の危機を目の当たりにしたカジモドは、「石」ではいられなくなる。ただただ、大切な人を守るために無我夢中で行動する彼の姿には激しく胸を打たれます(涙)。そして町が鎮まった後、カジモドはエスメラルダが自分に向けていってくれた「言葉」を心の底から素直に受け止める。このシーンは涙無くしては見れません(号泣)。本当の意味で心が繋がった瞬間は本当に美しく、そしてとてつもなく哀しい。
そしてカジモドの前に現れるフロロー。「元通りの生活に戻れる」と告げる彼を嫌悪しこれまでにない激しい怒りの感情に囚われるカジモド。たぶんあの時フロローは「元通りの生活」に戻れないことを自覚してたような気もするんだよなぁ・・・。だけどあえてそう告げることで自分を落ち着かせようとしたのではないかと。
でも、カジモドはそれを赦そうとはしなかった。「悪人は罰を受ける」とかつてフロローが告げた言葉をカジモドが発するクライマックスのシーンは背筋がゾクッとするほど鮮烈で恐ろしい。純粋無垢だと思っていた彼の中に潜んでいた憎悪の気持ちに初めて触れたような気がして本当に辛い。
「僕が愛した人たちは、みんな横たわっている」
そう告げて泣き崩れるカジモドの姿があまりにも辛すぎて涙が止まらない…(泣)。その言葉のなかにフロローも含まれていると思うともう何とも言えない気持ちになる。この後彼は、自らの罪と向かい合い受け入れるためあのような決断をしたのかもしれないな、とも…。
♪フィナーレ♪
全ての物語を終えた時、舞台の上にこれまでの物語を紡いできた”役者たち”が静かにたたずんでいる。そして、もう一度、最初に問いかけたあの言葉を客席に向かって投げかける。
「答えてほしい謎がある。人間と怪物、どこに違いがあるのだろう」
私はやはり今回も、人間と怪物は表裏一体の存在ではないかと感じました。誰しも人は自分では認めたくないような弱い感情を抱えている。それとどう向き合っていくかで”人間”でいられるか”怪物”に変わってしまうか分かれるのではないかと。ちょっと『ジキル博士とハイド』の物語にも似てるかなとも思ったかな。
後述
この日は2階席に学生の団体さんが来ていてカーテンコールの時大いに盛り上がった様子が聞こえてきました。彼らの中にもきっと様々な感想が生まれたんだろうなと思うとそれだけでグッと来たし、伝わったんだなと確信したかのような嬉しそうな役者さんたちの笑顔もとても印象的でした。
今回の京都遠征でひとまず『ノートルダムの鐘』は終了。ただ、東京公演に行くつもりなかったんですが…1回だけ購入してしまったので6月にもう一度だけ遠征予定。京都では達郎くんのカジモドにタイミングが合わず会えなかったので、東京公演で見れればいいなぁと。あと、もう一度道口フロローも見てみたいかも。