ミュージカル『ミセン』を観に東京・目黒のめぐろパーシモンホールまで行ってきました。
ここ最近は舞台(特にミュージカル)のチケット代が高騰したことで新作を観に行く機会が減りました。そんななかで、なぜ世界初演となるこの作品をチョイスしたのかについて少し触れたいと思います。
2024年から2025年2月にかけて深夜帯で放送されていた日テレ系ドラマ『私をもらって』という作品をご存じの方いらっしゃいますでしょうか。私はこれにめちゃめちゃハマってしまい、ついにはシーズン2放送が待ちきれず先行配信していたHuluにも登録したくらいのめりこみました(実は原作ウェブマンガも購入して全話読破した 笑)。Huluで全話配信中なので興味のある方はぜひ。
このドラマで主人公の一条稜英を演じていたのが前田公輝くんだったのです(そういえばこのドラマの彼の設定は囲碁が趣味だったなw)。彼のお芝居が個人的に悉くずぼずぼとツボにはまりまくりまして・・・、もっと彼の芝居を見たいという欲求が強くなりました。そんなタイミングで知ったのがミュージカル『ミセン』でした。
これはもう行くしかない!!と勢いでチケットをゲット。本当は貸切公演1回きりの予定でしたが、『私をもらって』シーズン2での前田くんのお芝居を見てさらに沼ったことでww勢いづき千穐楽チケットも追加で購入(笑)。
正直、感想として吉と出るか凶と出るか分からない不安もなくはなかったのですが(韓国ミュージカルに少し苦手意識もあるので)、出演キャストの布陣がかなり強力だったのと前田公輝くんの生の芝居は絶対に響くはずという確信もあったことで思いきりました。
余談ですが、偶然にもゲットしたチケットの座席が9日と11日全く同じ場所でしたw。こんなこと初めてww。少し遠い位置ではありましたが、段差があり遮るものもなくとても見やすかったです。
めぐろパーシモンホールへ行くのは何と2012年のミュージカル『ミス・サイゴン』以来13年ぶり!!
あの時も自宅から2時間近くかけて行きましたが、今回もそれと同じくらい時間かかりました。1日おきに都立大学駅まで出るのはちょっとハードではありましたがww、作品そのものが本当に素晴らしかったので何の後悔もありません。
ちなみに、あの当時お手洗いトラブルがあった思い出が強かったのですが(苦笑)今回は大丈夫だったのでホッとしました。
※ホリプロステージ会員、前田公輝・安蘭けい・石川禅FC限定合同貸切公演の日に開催されたアフタートークショーのレポは以下のリンクを参照↓。
以下ネタバレを含んだ感想になります。
2025年2月9日マチネ公演・11日大千穐楽公演 in めぐろパーシモンホール大ホール(東京・目黒)
概要(原作・上演時間など)とあらすじ
作品についての簡単な概要
原作は韓国のユン・テホさんが2012年から2013年にかけてウェブコミックWEBTOONで連載した漫画『末生(ミセン)』で全146話。日本では2016年にピッコマで連載されました。なお、この続編が韓国で2015年から2024年にかけて連載され単行本化されているそうです。
2014年に韓国でドラマ化され大ヒットし多くの賞を受賞。放送後には”ミセンシンドローム”と呼ばれる社会現象が起こるほどの人気を博しました。日本に輸入されて放送されたのは2015年で、その年のドラマアワードで海外作品特別賞を受賞。
ちなみに日本では、2016年に韓国オリジナルをリメイクしたドラマ『HOPE~期待ゼロの新入社員~』(フジテレビ系)が中島裕翔くん主演で放送されました。
3年前、ホリプロのプロデューサーさんがこの作品に感銘を受けたことで世界初演のミュージカル化に向けたプロジェクトが始動、韓国のトップクリエイターを中心としたチームで創り上げられました。原作の世界観をできる限り再現するため、韓国を舞台とした設定にしたとのこと。
2025年1月10日プレビュー・11日初日(大阪) / 2025年2月11日千穐楽(東京)
あらすじ<公式HPより抜粋>
主人公のチャン・グレは子供の頃から囲碁のプロ棋士になることを目指し厳しい修練を重ねてきたが、囲碁のプロ棋士になる夢を諦めざるを得なくなり、社会に放り出されてしまう。
特別な学歴やスキルがない彼は、働くことに対して強い不安を抱えながらも、知人の紹介で大手貿易会社「ワン・インターナショナル」のインターンシップに参加することとなる。
入社早々、グレは厳しい現実に直面する。熾烈な争いを勝ち抜いてきたエリートばかりの同期インターンたち。企業社会での経験が皆無のグレは、明らかに遅れを取っている。エリート街道を歩んできたアン・ヨンイや、地方出身で努力家のハン・ソギュル、学歴もありプライドも高いチャン・ベッキ、といった個性的なメンバーが揃い、それぞれが異なる課題に直面しながらも競い合っている。
グレが配属された第三課は会社では日陰の存在。この課を率いるのが、情熱と人間味あふれるオ・サンシク課長。オ課長は、表向きはぶっきらぼうで口が悪いものの、部下たちを思いやり、仕事に対する強い誇りを持つ姿は、「会社員としての生き方」をチャン・グレに教えていく。彼の指導の下、グレは自分の経験や囲碁で培った戦略的思考を仕事に応用し、少しずつ成果を上げていく。インターン生たちもそれぞれの試練を乗り越え、個々の成長だけでなく、互いに支え合いながら成長する重要性を学んでいくことになる。
前知識はあったほうがより深く楽しめるかもとは思いましたが、私は原作もドラマ(リメイク含め)も全く知らないまま行って存分に堪能できました。原作を知る方によれば、舞台で描かれていない部分も感じることができる内容だったとのこと。オリジナルドラマは全20話あるそうなので、それをギュッと上手く凝縮された作品になっているのではないかと思います。
上演時間
休憩を含み約150分(2時間30分)。
内訳は、1幕60分(1時間)、休憩20分、2幕70分(1時間10分)、になります。
キャスト
- チャン・グレ:前田公輝
- オ・サンシク課長:橋本じゅん
- アン・ヨンイ:清水くるみ
- ハン・ソギュル:内海啓貴
- チャン・ベッキ:糸川耀士郎
- パク・ジョンシク課長:中井智彦
- キム・ドンシク課長代理:あべこうじ
- 居酒屋店長/協力会社社長(2役):東山光明
- チェ・ヨンフ専務:石川 禅
- ソン・ジヨン次長/グレの母(2役):安蘭けい
<アンサンブル>
伊藤かの子、岡田治己、加賀谷真聡、加藤さや香、工藤彩、熊澤沙穂、田村雄一、俵和也、照井裕隆、永松樹、早川一矢、MAOTO
<スウィング>
加藤文華、りんたろう
全体・キャスト感想
演出・セットなど全体の印象について
まずタイトルの『ミセン(末生)』の意味について。この言葉は囲碁用語で”死に石に見えていてもまだ生きる可能性を秘めている石”という意味を持つそうです。崖っぷちに思えてもまだ一発逆転がある可能性を持っているということ。
また劇中でもたびたび登場するワード『ワンセン(完生)』とは、囲碁用語で”完全に生き残っている強い石”という意味があります。
舞台セットはとてもシンプルで、2階建てに組んだ鉄骨の簡易セットがシーンに沿って動くくらい。会社のシーンになると碁盤に沿って社員分の机と椅子が並べられてそれぞれの部署の忙しさが表現されていました。
主人公のチャン・グレはプロの囲碁棋士を目指していたという設定からか床面は囲碁の碁盤をイメージしたものになっていて、重要な局面になるとその上を登場人物が碁石のように動いていく演出になっていました。
序盤でその上を動く人物は白のシャツの会社員と黒のジャケットを着た会社員に分かれていて、彼らの中央の位置に前田くんが演じるチャン・グレが立っているというポジショニングが多かった。アンサンブルさんや前田くんの動きがとても滑らかだったのがすごい。会社の厳しい世界を囲碁の対局に見立てた演出が見事でした。
背景にはシーンに合わせた映像が出てきて舞台に奥行きを与える効果がをもたらしています。
一番印象深かったのはステージ上の碁盤を人が動く時に上から映した映像も一緒に流れていた光景です。あれって生中継なのかな!?と思うほど舞台の人の動きと映像とが見事にマッチしていて、リアルな囲碁の勝負の模様が展開されているように見えるほど立体的でした。
チェ・ジョンユンさんの創られた楽曲はどれもポップで爽やかでとても聴き心地が良かった。アニメ音楽的な雰囲気を感じさせる音色や、ちょっと前に聞き覚えがあるようなJーPOP系な音色もあったりとバリエーションも豊かで、すんなり心の中に浸透していく感覚がありました。リプライズ(メインの楽曲の旋律をアレンジしてリンクする場面に使う技法)もいくつか散りばめられているので、終演後も頭の中に残るナンバーがいくつかありました。
派手にバーンと突きつけるようなものがなかったのも個人的にはポイントが高かった。見る人の心に軽やかに寄り添い、いつの間にか魅了されていくといった親しみやすさがあったのがとても良かったと思います。
ストーリー全体について
私はどちらかというと韓国産ミュージカルに少し苦手意識があって、今回の作品も正直・・・前田公輝くんの芝居が観たいと思わなければスルーしてしまっていたと思います。2回分のチケットを取ったはいいのですが、ハマらなかったらどうしようという不安もあったんですよね(汗)。その不安が1回目に観た時にすべて吹き飛んだ。韓国クリエイターが作ったミュージカルを見てここまで深く感動したのは今回が初めて。心底観に来れてよかったと思える作品に出会えたことがとても嬉しかったです。これはもう、きっかけとなった前田公輝くんに感謝だな。
『ミセン』という名前だけは知っていたけれど内容は全く知らないで観に行きました。ストーリー展開がとてもスムーズでテンポよく、あっという間に惹きつけられ気が付いたら終演を迎えていたといった爽快感がすごかったです(1幕、2幕とも秒で終わるような体感だった)。
全体的に見て一番良いなと思ったのは、テーマが一貫してブレていなかったこと。タイトルの持つ「たとえ崖っぷちに立っていたとしても、まだどちらに転ぶか分からない可能性がある」というテーマを軸としたシンプルで分かりやすいストーリー仕立てになっていたので、もがきながらも成長していく主人公を含めたキャラクターたちにどんどん感情移入していくことができたと思います。没入感が半端ない。「ワンセン(完生)」、つまり”完全に勝ち残る強い自分”を目指し傷つきながらも前進しようとする彼らの姿に何度も心打たれました。
この作品の舞台は大手の企業という設定になっていますが、会社で働いている人でなくても(私のような主婦にも)心の琴線に触れるシーンはたくさん散りばめられていたと思います。
心に響く台詞もたくさんありましたねぇ。禅さん演じるチェ・ヨンフ専務がコネ入社してくる主人公のチャン・グレに対して「ここに来るならあのビルの明りのひとつに責任を持ちなさい」という冒頭のシーンからめちゃめちゃグッときたし。
それからじゅんさん演じるサンシク課長やあべさん演じるドンシク代理がグレに何度も「お前は一人じゃない!」と叱咤激励するセリフも非常に刺さる。会社で働くことを囲碁の勝負に見立てて冷静に振舞うことが多かったグレが、営業3課の二人の上司から投げかけられる血の通った温かくも熱い言葉に内面を揺さぶられていく過程は本当に心動かされることが多かった。
以下、場面ごとに振り返ってみようと思います。
1幕
囲碁棋士のプロ試験に落ちてしまい、コネで超一流企業のインターン生として入ることになったチャン・グレ。ずっと囲碁と向き合ってきた彼は会社の雰囲気に戸惑うばかりでコピーを取ることもままならない(♪ワン・インターナショナル♪)。
まず驚いたのは、冒頭からのグレを演じる前田公輝くんの佇まいの美しさです。私は「ミセン」の原作もドラマも知りませんが、”あ、チャン・グレがそこにいる”ってすごい惹きつけられた。淡々としていて自分の感情を表に出さず熱気あふれる雑然とした会社の雰囲気に飲み込まれていくのですが、決して埋もれないんですよね。あれだけバタバタしたなかでも一人異彩を放ち主人公として凜としてそこに存在している。あのお芝居は本当に凄いなと思った。
そしてもう一つ驚いたのが、歌唱です。前田くんのミュージカルは2021年に観た『ロミオ&ジュリエット』(←詳しくはこちら)以来4年ぶりだったのですが、あの頃よりもさらに進化していてビックリです。舞台よりも映像のお仕事が多かったことで少し不安もあったのですが、全くの杞憂でしたね。朗々と歌うタイプではありませんが、清々しいほどまっすぐで透き通るような綺麗な声にグレの魂がしっかりと宿ってた。本当に感動しました。
営業3課の場面では橋本じゅんさんが演じるオ・サンシク課長の熱血仕事っぷりがめちゃめちゃ面白い!あそこはもう、じゅんさんの本領発揮と言いますか。大量の資料やせわしなくかかってくる電話に必死に全力対応してるお芝居はマンガちっくなんだけどどこかリアルで、見ていて思わず応援したくなってしまう。途中でストレス解消に懸垂始めたりするのとかめっちゃ面白かったww。
そんなサンシク課長の補佐であるキム・ドンシク課長代理を演じるあべこうじさん。お笑いの方だそうでこれが初ミュージカルとのことですが、そうとは思えないくらい堂々とした立ち居振る舞い。見事なムードメーカっぷりで楽しませてくれました。グレに対してグイグイ惹きこんでいくタイプで、淡々とした雰囲気の彼に感情を表に出させていくキーパーソンにもなっていたと思います。
何より随所に飛び出すアドリブが最高ww。最初の挨拶のところからグレを翻弄しまくってて「ソの音で言ってみろ」とか「ラの音出して言ってみろ」とか無茶振りしまくりw。千穐楽はなんと圧巻のロングトーンを手本として見せてくれて!!あれはすごかったなぁ。それに対して前田くんはすぐに終わらせちゃってて(あれ真似したら最後まで持たないだろうしww)、あべさんが「みじかっっ!!」とツッコミ入れる一幕もあり笑いましたwww。
グレが疲れ切って家に戻る場面。彼は淡々と一日を振り返るのですが、ここのシーンでの前田くんのセリフ回しも実に自然体で。冷静に振り返っているようでも表情から明らかに疲弊しているのが伝わってくる、でもそれを表に出しすぎない…みたいな。冷静さを求められる囲碁の世界にいた子なんだなっていうのがすごく伝わってきた。このあたりの繊細なお芝居も素晴らしかったと思います。
そんなグレに明るい笑顔で接してくれるオモニ(韓国語でお母さんという意味)を演じた安蘭けいさん。美人な方なのに天パのカツラが本当によくお似合いで違和感全然なかったのがすごい。多くを語らなくても息子への愛情がストレートに伝わってくる雰囲気で、とにかく温かい。明るく元気な、日本でいうところの大阪のおばちゃん、みたいな感じ。
面白かったのは、父親の形見というネクタイをグレに巻いてあげる場面。この結び方が実に独特でww、千穐楽は「カンナム(江南)風だから」とめっちゃノリノリで演じていた安蘭さんが面白すぎた(笑)。それに対する前田くんの「母さん、この結び方…」って自然に吹き出しちゃうお芝居がまたいいんだよねぇ~。
チャン・グレが新しい世界で「ミセン(未生)からワンセン(完生)になるべく邁進するのだ」と自分を奮い立たせながら歌う♪ミセン♪も印象深かったです。あまり感情を表に出さなかった彼がここでは秘めた闘志を滲ませながら懸命に前を向こうとしてるんですよね。前田くんの歌いっぷりが実に繊細で見事で。あの澄んだ歌声からグレの隠し持っている強い想いが溢れだしていて非常に胸打たれました。
碁盤を模した演出もすごく良かったです。アンサンブルさん、スーツ姿でよくあれだけキビキビ動けるなと感心しきりだった。
インターン生たちが正社員になるチャンスとなるプレゼンを乗り切るためにパートナーを選ぶ場面(♪おはよう、チャン・グレ♪)。パンフレットを読んで初めて知ったのですが、韓国の就職制度は日本よりもかなり過酷なようですね。あちらでは実戦経験が重視されているため大学を4年で卒業する生徒は少なく、企業インターンで実務を経験する時間に多くを割いている人が多いという実情には驚かされました(新入社員の大卒男性の平均年齢が30代というのもビックリです)。
そういう社会背景を念頭に置いてみると、インターン生たちの必死さがリアルに伝わってきます。みんな自分の能力をより強くアピールしたいがために社会経験がないグレと組もうとするっていうのがなんとも…。でもグレ本人はダシに使われそうになっていることも「あ、そうなんだ」程度の冷めた目で見ているわけで、そのコントラストが奇妙で面白かったですね。
でも実際のグレはプレゼンに対して無関心だったわけじゃなくて、ちゃんと冷静に周囲を見て機を狙っていたことが分かります。コピー機が動かないトラブルに直面した時、助っ人として対応しにやって来たハン・ソギュル(←テンションだけやたら高くて何の役にも立たないシーンは面白すぎたww)に一緒に組もうと声をかけるシーンはとても印象深い。
グレはちゃんとソギュルのバックボーンも心得ていて、そのうえで彼と組むことでメリットを生むことを計算してるんですよね。何も考えていないようで実は思慮深く頭がキレるグレに痺れました。この時の前田くん、すごい勝負師の目をしていてすごいなと思った。
石川禅さんが演じるチェ・ヨンフ専務がサンシクを昇進させようと熱弁をふるう場面もスリリングで面白かったです。禅さんとじゅんさん、ベテランお二人の少しヒリヒリするような会話のやり取りがこの作品の中でいいスパイスになっていて見応え十分。
この時点では、専務は出世が遅れているサンシク課長やドンシク代理のことを親身に考えてくれる懐の深い上司っていう印象が強いんですよね。最初に見た時は、禅さん、悪役かと思ったらいい人じゃないかと思いましたもの(笑)。口調はちょっと荒いけどw、サンシクが手柄を立てられるようお膳立てしてくれてるわけですからね。ところが、その後の♪力を見せろ♪のナンバーは歌詞を聞いてるとちょっと不穏な雰囲気が漂ってて(旋律もちょっとダークだし)、やはりただの良い人じゃないのかもという予感が(笑)。こういう見ている人の心を翻弄とさせる禅さんのお芝居は流石です。歌声も言わずもがな、最高。
専務から与えられた中東ビジネスを手掛けることになった営業3課に”助っ人”として現れたのが、中井智彦さん演じるパク・ジョンシク課長。いやぁ~~~、登場からめっちゃ嫌な奴オーラ全開ですごかったです(笑)。ラテン系の濃さはちょっと『ムーランルージュ』を彷彿とさせるような雰囲気に悪い意味での俺様気質がべったり染みついたキャラって感じww。かつてはサンシクの部下だったようですが、「今は同じ課長同士だろう!」と圧かけまくってきて遠慮するどころか下に見まくっているヤバ男で、それはもう振り切ったお芝居でございましたよ(笑)。
超ドヤ顔で後ろにイエスマンなサラリーマンダンサーを従えながら歌うソロナンバー♪俺は中東通なのさ♪は清々しいほどに濃厚(笑)。キャラクター的には実際に近くにいたら絶対関わりたくないタイプなんだけどw、ミュージカルとしてのパク課長を見るとなんだかコミカルで面白い奴って見えてきちゃう不思議。中井さんの演じっぷりが突き抜けてたのがすごくいい効果を生んでいたような気がする。
でもこのパク課長、パワハラ気質だけじゃなくて●クハラ気質も持ち合わせてるからタチ悪い(苦笑)。インターン生のアン・ヨンイがその餌食になりそうになった時、咄嗟にグレが彼女を庇い立ち向かった姿はとてもカッコいい。相変わらず淡々として表に表情を出していないんだけど、静かで落ち着いた口調の中にパク課長への嫌悪感がすごく滲んでた。
清水くるみさんが演じるアン・ヨンイはいつもハキハキしていて、どんなパワハラな上司の前でもグッと耐えながら虎視眈々とチャンスを狙う頼もしさがよかったと思います。セリフが聴き取りやすく凛と響き渡る声も素敵。可愛らしい見た目と逞しい内面とのギャップもいい。
ヨンイが助けてくれたグレを飲み屋に誘う場面は二人の「間」がすごくリアル。初めて二人きりになったんだけど、お互い何を話せばいいのか分からなくて”空白の時間”ができちゃったりするのが印象深い。ああいうことってあるよね!!って共感した人も多いのでは。その二人が仕事の話を通じて探り探りしながらも少しずつ理解を重ねていくシーンもすごく良いなと思いました。そんな二人と同じ居酒屋にインターン仲間が入ってくる。
内海啓貴くんが演じるハン・ソギュルは自信家で面倒な資料作りはパートナーのグレに丸投げしてしまうような困った君なんだけどw、なぜか憎めないんですよねぇ。最初は一緒に仕事したくないタイプってキャラなのに、あの屈託のない笑顔と嫌味のない明るさが可愛くて嫌いに慣れない。
糸川耀士郎くんが演じるチャン・ベッキはインテリな雰囲気がすごく出ていてカッコいい!彼は2.5次元舞台を中心に活躍している役者さんだそうで、さすが魅せ方をよく知っているなといった感じ。ツンキャラも堂に入っていて眼鏡をクイッとさりげなく上げる仕草も素敵です。そんな彼が居酒屋でインターン生と鉢合わせた時に「ゲッ」と気まずそうな表情をしたのが個人的にかなり萌えポイント高しでしたw。
居酒屋でお酒を飲み進めていくうちに酔いが進み、いつの間にか仲間意識が芽生えて盛り上がる4人のインターン生たち。ここも唐突感がなくて自然に絆が結ばれていくような魅せ方がとても良かった。
ここで大活躍するのが東山光明くんが演じる店長さん。「いらっしゃいませ~」の掛け声からしてもう、居酒屋さんそのものでビックリしたよ(笑)。軽やかな身体能力を生かし次々とお酒や食事を出していくシーンとかも漫画ちっくで楽しいし、♪君を慰める夜♪でインターン生たちと一緒にはしゃいで「飲もう!!」と歌うシーンも最高。もはや店員を越えて”同志”としてそこに居るみたいな存在感もすごく良かったです。
でも一番面白かったのは、パク課長がダンサーズを従えながら♪俺は中東通なのさ♪を居酒屋で熱唱してる時の店長さん。中井さんたちの後ろでちょいちょい扉から色んなリアクションしながら顔を出してたのが最高すぎて思わず吹き出しまくったwww。
プレゼンの場面。コンビを組んだグレとソギュルは居酒屋で少し仲良くなったかに見えましたが、この時はバチバチ状態でお互いの意見が全く嚙み合わない。っていうか、あれはソギュルのほうに非があるよなぁ。完全にオフィスワークのグレのことを見下してる態度だったし。
ところがプレゼン本番で、グレはこれまで表に出してこなかった感情を見せてくるんですよね。ソギュルは製造現場での経験を重ね苦労してきたが故にオフィスで仕事をしている人たちを苦々しく思う節があったけれど、前田くんが演じるグレはそんな彼の考えを改めさせるだけの説得力が半端なかった。♪それぞれの戦い♪のナンバーの中で、次第に歌う熱量のギアを上げていくのですが、その匙加減が本当に絶妙。特に「それぞれの戦場でみんな頑張っている、オフィスだって現場なんだ」というフレーズを熱く前のめりに訴える姿には胸衝かれるものがありました。モノクロだったグレの心に血の通った色が灯ったようにも見えて本当に感動的だった。営業3課でサンシク課長たちと必死に頑張るうち仕事に対するプライドをちゃんと根付かせていたんだなと思えて涙してしまった私です。
サンシクが過去のトラウマを思い出す場面。かつて手掛けた仕事で相手に犠牲を出させたことを今でも悔やんでその十字架を背負い続けているのがとても切ない…。じゅんさん、少し音程は揺れてるんだけど、お芝居が熱くて魅力的なのでグッと見入ってしまうんですよね。すごい人間味が伝わってきて感情移入してしまいました。
一方のパク課長は雑な仕事しかしてないくせに自信過剰で余裕綽々。あの自分中心に地球が回ってる的な中井さんの突き抜けた悪っぷりがいいww。ちなみにパク課長が不正取引してた相手会社の社長を演じてたのが東山くん。店長の時とは打って変わってキザで裏のありそうなキャラを漫画チックに演じていて面白かったww。
パク課長の仕事に疑いをかけ相手会社を調査するように指示したサンシク課長の「過ちを追求する時は人を憎んではいけない、過ちが見えなくなるから」というセリフはとても印象深かったです。サンシクの冷静で真面目な人柄がすごくよく表されてるなと思いました。なかなかあんなこと言える人いないんじゃないかなとも。じゅんさんの重みのあるトーンでのセリフ回しは流石でしたね。
1幕中盤から暗躍wし続けてきたパク課長がここで失脚。そのダメ押しになる証拠を見出したのがグレの一言だというのも印象的だったし、その背景で専務室にいるヨンフが無表情で静かに証拠物件が書かれた書類をピリピリと破り捨てるシーンもゾクっとしました。あの時の禅さん、めっちゃ怖かった!!
長くなってしまったので…(汗)2幕の感想、千穐楽カテコについては次のページにて。