全体感想
久しぶりの『王様と私』だったのでもうすっかり忘れてしまっているかな、と思ったのですが・・・意外と見ていたら記憶が蘇ってきて、懐かしいなぁと感じることも多かったのが意外でした。
この物語って全体的には明るいコメディ的要素が多くて、お客さんの笑う場面も多かったりするんですが…実は暗い影みたいな部分も同時に描かれているんですよね。そういえば後半の展開がけっこうハードな内容だったんだということを思い出しました。
少し深く見てみると…「西洋から見た東洋」という側面がけっこう強く出ていて、”西洋の価値観を東洋に押し付けようとしているのでは?”と感じるようなシーンもいくつか感じられました。
王様の子供の家庭教師として招かれたアンナでしたが、専制君主で尊大な態度を取るシャム王は彼女の理解の範囲を超えている部分が多い。
シャム王も自分を中心に世界が回っているようなところが多々あるのでw、何かと反抗的な態度を取ってくるアンナにいらだちを隠せないのですが・・・どうにかして西洋の進んだ考え方を理解できないものかと必死にもがいていたりもする。その努力する姿は不器用だけど実にいじらしい。
そういう「変わろうとする姿」というのは見る者の心を打ちますが、東洋人としてちょっと「うーん」と思ってしまうのが2幕後半にラムゼイ卿が訪ねてくる場面ですかね。
シャム王は「自分たちは進んだ文化の人間だ」ということを証明したいがために、アンナに手伝ってもらい急ごしらえで西洋式の体裁を整え接待します。ここのシーンは無理に西洋に迎合させてるように見えるので、”東洋を下に見ている感覚があるな”と感じる部分でもあるんですよね。
あとラストシーンもけっこう考えさせられるような展開になってる。これまでのお辞儀の文化を皇太子が西洋的に改善させるわけですが、あれは見ようによっては「東洋の野蛮な文化を西洋のスマートな慣習に直させる」っていうふうにも捉えられる。シャムのお辞儀の形式って、たしかに”奴隷”のようにも見えちゃうけど、”文化”っていう側面もある気がするんですよね。
だから、あの時代の西洋人による「上から目線」的なシーンがちょいちょい感じられる作品でもあるんかなって少し思いました。今はそういった思想は薄れていると思うのですが、上演された当時の環境とかは垣間見える気がしましたね。
と、けっこう堅苦しい感想から入ってしまいましたが(笑)、私はこの作品好きです!
ロンドン版を今回初めて見ましたが、とても見やすかったし演出もシンプルで分かりやすい。場面転換も多いのですが、きれいなカーテン状のものが場面が変わるごとにサーーっと引かれたりして流れを途切れさせているように見せていない。すごく洗練されてるなと思いました。
音楽も良いですよね。ロジャース&ハマースタインの作品はここ最近では日本ではほとんど上演されなくなりましたが、あの懐かしい景色がパぁっと広がっていくような・・・優しく包み込むような古き良き時代を感じさせる旋律がとても心地良かった。
久しぶりだったのでほとんどの楽曲を忘れていましたが(汗)、アンナに子供たちが初めて紹介されるときの音楽や、アンナの授業風景のナンバー、あと♪口笛吹いて♪なんかは聴いていて”そうだった!”と思い出したなぁ。
王様の子供たちもすごく可愛い。あまりはしゃぎすぎてない素直な子供たちが多くて見ていてもストレスがないw。授業シーンはアンナが子供たちに初めて「世界」のことを教えたりするので色んな刺激があるんですよね。その内容に戸惑いを隠せないチュラロンコン皇太子が見どころの一つだったりしました。カメラアングルもすごく良かった!
それにしても、チュラロンコン皇太子役の役者さん、けっこう大人だったのでびっくりしたw。私が前に見た時はアンナの子供と同い年くらいだったので。
個人的にすごく好きだな~と思ったのが、1幕ラストのアンナと王様のやり取り。「自分より高い位置に頭を置くな」と命令する王様に対し渋々それに従って姿勢を変えていくアンナ。この時の二人の表情や動きがすごくコミカルで可愛くて萌えます!まるで兄妹みたいにも見えちゃうんですよね。
謙さんとオハラさんの息がぴったりで、お客さんも大いに沸いていたし、とても素敵なシーンだなと思いました。
そして何といっても、『王様と私』といえば♪Shall We Dance?♪でしょう!!ここの場面は2015年のトニー賞中継の時のパフォーマンスでも見ましたが、やっぱり物語の流れの中でこの曲が出てくるとテンションが上がりますね。ケリー・オハラさんをリードしてる渡辺謙さんってすごい!!という意味でも感動してしまいました。
でもそれと同時に不安な気持ちも過ってしまうのがこのシーン。ハッピーエンドの予感をさせておいたところで急転直下な展開が待ってるのでね(汗)。
アンナと王様との距離が縮まっていくほのぼのしたドラマと同時進行しているのが、悲恋の予感が強く漂い続けているタプティムとルンタのドラマです。アンナは王様を理解し受け入れようとするのに対し、タプティムは最後まで王様を憎み続け許そうとはしませんでした。
彼女は敵対していたビルマからの”贈り物”として王様に進呈されてしまう身だったが故に、王様以外の人との恋愛は決して許されないことだった。それでも恋人のルンタへの想いは止められず、隠れて愛を深めていた2人…。
一方の王様は気に入っていたタプティムが他の男性に想いを寄せることなどは夢にも思っていなくて、「なぜか彼女の心を感じられない」と困惑している。このすれ違いが最後まで尾を引いて悲劇へと向かってしまうんですよね…。
初めて日本版を観た時、タプティムを演じていたのは今は亡き本田美奈子さんでした。彼女の鬼気迫るルンタへの愛と王への憎しみの芝居は非常に突き刺さるものがあり、物語の展開の無常さにショックを受けたことを思い出しました。
クライマックスからラストシーンにかけては、色々な解釈の仕方があると思います。前述したようにちょっと「うーん」って感じるところもあったけど、でもここはアンナと王様の心のドラマという視点で見ていくととても泣けます。二人のやり取りは温かい心の通うものになっています。
悲しさと同時に希望も感じさせる人間ドラマ的なラストシーンだなと思いました。
主なキャスト感想
ケリー・オハラさん(アンナ・レオノーウェンズ役)
さすがトニー賞の主演女優賞を取った人は違うなと思いました!どこからどう見ても、”家庭教師のアンナ先生”そのもの。柔らかく包み込むような深さのある歌声はヒーリング効果すら感じさせるもので、あのアンナだったら傍若無人な態度の王様も心をほぐされて「約束した覚えはないけど(ホントは覚えてるかもw)家を与えてやるか」って気持ちになるよなと思いました。
母性愛も素晴らしくて、自分の子供に対してと王様の子供たちに対しての愛情が均等に与えられているのが分かる。たとえ自分たちが「信じたくない」現実を見せられてしまったとしても、「この先生が言うんなら間違いないのかも」って納得してしまう説得力もありました。
きっと王様もアンナの生徒の一人だったんだろうな・・っていうのも感じましたね。
そして何より表情が本当に素晴らしかった!映像だったので細かい顔の動きがよく掴めたのですが、本当にコロコロと様々な表情を見せてくれています。とても魅力的でございました!!
渡辺謙さん(シャム王役)
謙さんが2015年にトニー賞にノミネートされたと知った時には本当に誇らしく思えたし、いつかそこまで評価された王様役をこの目で見てみたいとずっと願ってきました。思いもかけず映画という形で王様役を演じてる謙さんを見れてとても嬉しかった。
もうねぇ、想像以上でした、謙さんの堂々たる舞台姿!!こんなにも舞台で映える役者さんだったとは!!しかも、全編英語だし少ないけど歌もある。セリフも膨大で動きも多いなか、よくぞここまで役柄を自分のものにされたなと・・・本当に驚きました。なんかすごく日本人として誇らしかった!
歌は上手いとは言えませんが、それをうまくセリフ調にして目立たせないようにしていたのもよかった。意外にも謙さん、声はすごく良かったのでもう少し訓練すればいい感じになりそうだったなぁ。
謙さんが演じた王様は傍若無人さの中にも常にどこかチャーミングな一面がチラチラしていて、感情を顕にするシーンでも時々子供のわがままみたいに見えて可愛いのです。コロコロと変わる表情やセリフの抑揚(英語だけど雰囲気から伝わる)がすごく魅力的で「この人は本当は暴君なんかじゃないんだよな」って素直に思えるんですよね。
そして何より社会から寸断されたような環境の中で、必死に勉強してシャムを良い国にしていこうと、自分も変わらなければともがいている姿がとても胸を打ちました。あの姿を見たら、アンナが心を開くのも納得できてしまう。
あともう一つ印象的だったのが、タプティムへのクライマックスでの対応。しきたりだからと鞭を手に取りますが、アンナの目線を感じてそれを振り下ろすことができず胸を押さえて立ち去ってしまう場面。この時のシャム王の葛藤が見ていてものすごく泣けました…。そういった感情表現も本当に素晴らしかったです!
大沢たかおさん(クララホム首相役)
2年前のファンミの時に「舞台が決まりそう」って話していて大喜びしていたら、まさかのロンドンでの出演で驚かされたんですよねぇ(苦笑)。いつも予想の斜め上を行く人だっていうのは分かってたはずなんだけど、海外だったとは・・・みたいなw。たびたび観劇遠征に出かける私でも、さすがに海外は無理と泣く泣く諦め。
その後『王様と私』ロンドン版カンパニーがツアーで日本に来ることが決まり、「今度こそ大沢さんの舞台が見れるっ!」と大喜びしたのも束の間w。「イギリスで舞台に立つことが目的だったから日本ツアーには出演なし」とのことらしく(苦笑)。まぁね、ストイックな大沢さんらしいよ…って諦めの境地に(苦笑)。
そんな時に、この、3日間限定上映の話が来てテンション上がりましたよ!!もう2度と見れないと諦めていただけに、本当に嬉しかったです!!ということで、念願の大沢さんの『王様と私』出演舞台を目にすることとなりました。
それにしても、『ファントム』を演じた後に「もうミュージカルはトラウマだからやらない」みたいな話を以前してたこともあったのでw(ちなみに私はその舞台で大沢ファンにどっぷりとなりましたww)、『王様と私』に…しかも演劇の聖地であるウェストエンドで出演すると知った時には本当にびっくりしました。あれ、大沢さん、ミュージカル苦手克服できた!?みたいなww。
さて、実際にクララホム首相役の大沢さんを見た感想ですが・・・今まで見たことがなかったかのようなドッシリとした存在感と迫力があって思わず「うわ~!!」と声が上がりそうになってしまった(心の中では歓声あげてましたがw)。もともと体を普段から鍛えられていましたが、あそこまで体格が立派な大沢さんを見たのは初めてかもしれない。
体格だけではなく、声もすごく太くて重い。柔らかい声が印象的な大沢さんのイメージが強いですが、それとは本当に真逆と言ってもいいくらい。あそこまで創り上げるのに相当苦労されたのではないでしょうか。頭が下がる思いがしました。
そして、大沢さんの英語も初めて聴いたんですけど、あれはたぶんわざとカタコトっぽいテイストを出した話し方されてるんじゃないかなと。基本的にシャムの人たちは英語が得意っていう感じでもないし、アジアの人というのを表現するのには流暢じゃない方がリアルでいいのかなと思いました。
それでも、大沢さんの英語はとても滑舌が良くて聴き取りやすい。声の抑揚もすごく分かりやすく演じていて、イギリスのお客さんの笑い声も随所に入ってました。英語圏のお客さんの笑いを誘うセリフを語れるなんて…それだけでもう尊敬しかありません!!
王様の忠実な部下としていつも勤勉に役目を果たすクララホム首相。でも、王様がアンナと接するうちに「王様は変わってしまったのか」という戸惑いも覚えていて・・・後半の「アンクルトムの小屋」シーンあたりから表情も浮かないように見えていました。こういった細かい感情変化を出してくるのも大沢さんならではだなと。
そして一番グッとくるのが、アンナに対して初めて自分の溜め込んできた感情をぶつけてしまうシーン。「あなたのせいで王様は変わってしまった。あなたなんか来なければよかったのに!!」と悲痛な泣きそうな表情で激しく思いの丈を叫んでいたシーンは見ていて心が痛かったし、見ているこちらも思わず泣きそうになっちゃいました。
あの芝居は、大沢さんの真骨頂でもあったなと。それをいかんなく海外の舞台で発揮していることにすごく誇らしい気持ちも湧きました。とても素晴らしかったです!
こうなってくると、期間限定で王様役を演じた大沢さんも見てみたかった…!!って猛烈に思っちゃいますよねぇ。謙さんがコミカルに表情豊かに演じたあの王様を、大沢さんはどんな雰囲気で演じていたんだろう!?おそらく今まで見たことない表情で演じていたに違いない…。
そういえば、王様役は歌唱力はあまり問われないけどソロナンバーもあるんですよね。大沢さん、それを海外の舞台で歌うことになったとは…!トラウマみたいになったって言ってたのに(笑)。ますます聴いてみたかった!!
ちなみに、個人的な小さなツボは・・・カーテンコールの時に大沢さんが子役の肩を優しくタッチして前の方に誘導していたとこ。めっちゃ萌えたww。
大沢さん、次こそは、日本での舞台・・・どうかお願いしますね(笑)。
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独占プレミア上映まで
あと3日!
*+†+*――*+†+*――*+†+*チャン夫人役を演じ、本作でトニー賞 助演女優賞に輝いた #ルーシー・アン・マイルズ。圧巻の歌声と表現力に世界中の観客が魅了されています✨https://t.co/OcshUTMbRY#ロンドン版王様と私 #王様と私 pic.twitter.com/NZZBqYuwGV
— ロンドン版『The King and I 王様と私』公式 (@KingandIMovieJP) February 19, 2019
チャン第一夫人を演じたルーシー・アン・マイルズさんもとても素晴らしかったです!日本版で見た時はあまり印象がなかっただけに、こんなにも存在感ある役だったのかとビックリさせられました。ルーシーさんもたしか、2015年のトニー賞で助演女優賞を取られていたんでしたよね。ほんと、納得です。
深みのある素晴らしい歌声に加え、王様の興味を惹いたアンナに対する「女」としての複雑な気持ちをにじませた後半のお芝居がとても印象に残りました。
タプティムを演じたナヨン・チョンさんも繊細で力強い歌声が印象的。鋭い視線を王様に向けて「アンクルトムの小屋」のクライマックスで痛烈な非難の言葉を浴びせるシーンはドキリとさせられました。
ルンタを演じたディーン・ジョン=ウィルソンさんはとても綺麗な歌声でしたね。体格はすごく立派なのに、タプティムとのデュエットの時の歌声は甘くて美しかった。
その他の出演者の皆さんもとても素敵な方たちばかりで、大変見応えのあるお芝居でした。
後述
2019年7月から8月にかけて『The King and I -王様と私-』ロンドンカンパニーが来日することになっています。大阪での上演があったら行きたかったけど、東京のシアターオーブのみということなので今回は断念…。いや、チケット代金の値段設定が相当強気なこともあるので交通費が(苦笑)。
なので、映画館で観ることができて本当によかったです!本場の素晴らしい舞台を目にする機会が少ないので、こういった試みは今後もやってほしいなぁ。
あと、この映像は3日間オンリーにしておくにはあまりにも勿体ない!!もっと多くの人にも見てほしいし、ぜひともディスク化してほしいところです。実現しますように…!!
生の舞台はたぶんさらに感動的なものになると思います。ぜひ余裕のある方は実際に劇場へ足を運んで体感してみてください。