梅田芸術劇場で上演されたミュージカル『モーツァルト!』を観に遠征してきました。
一時期は舞台も順調に上演されていて少し安堵もしていたのですが、4月後半あたりから感染状況がまた悪化し大阪にも緊急事態宣言が発令される事態になってしまいました。しかも、今私が住んでいる岡山県も深刻な感染者状況となり緊急事態宣言下に置かれることとなってしまった(汗)。まさかこんなことになるとは思わなかったので、本当に色々と気分が落ち込みました…。
それに伴い、昨年と同じようにまた多くの舞台公演が中止へと追い込まれることに…。東京はすぐに規制が緩和されましたが、大阪はかなり深刻な状況だったため約1か月間の舞台公演中止を余儀なくされてしまいました。その中止期間に、私が観に行く予定だった『モーツァルト!』観劇日が含まれることが判明。
しかし、どうしても1回は観に行きたい気持ちが強かったので6月は上演されることを信じ新たに買い足していました。それでもギリギリまで上演されるかどうかハッキリしなくて、正直生きた心地がしなかったです(汗)。
その後、土日公演のみ休演というお報せがきて…平日を確保していた私は何とか観劇に行けることになりました。でも他の舞台の大阪公演はいくつか6月も上演中止になっているので、心境としてはかなり複雑…。
私の住んでる地域も緊急事態宣言が出ていたこともあり、5月はほぼ引きこもり状態で耐えてました。それゆえ、久しぶりに都会へ出ることに少し恐怖もありましたがやはり劇場へ行けるという喜びも大きかったのは事実です。早くこんな心境にならずに舞台を観に行く日が訪れてほしいものです…(涙)。
物販コーナーはパンフレットのほかにもTシャツやタペストリーなどかなり充実していました。私はパンフとクリアファイルを購入。ネットからも注文できるようなので興味があればチェックしてみては。
客席は1階席は7割以上が埋まっているほど盛況。緊急事態宣言真っただ中ということもあり払い戻しもできる公演になっていましたが、私のように生で観劇したい人が多かったように思います(ちらほら前方にも空席がありましたが)。
ただ、宣言前よりもロビーや劇場での会話が増えた印象があったのは少し残念でした。4月は本当に緊張感があってとても静かだったのに、今回はけっこうざわついてて…。スタッフさんは開演前や休憩中にプラカードで「会話はお控えください」と呼びかけていましたが、あまり効果があるようには思えなかった。これはもう、帝国劇場のように「会話禁止」ともう一歩踏み込んだ表現にしたほうがいいのではとすら感じてしまいました…。
大阪は東京より感染状況が悪化していることで、上演中止に追い込まれてしまった作品もあるほどです。東京で公演を打てたものが大阪ではできない事態になっている。そんななかで、『モーツァルト!』のように平日だけでも上演してくれているのはとてもありがたいことだと思います。だからこそ、ちゃんと劇場のルールにはみんな従ってほしい。気が緩んだとかそういう言い訳しないでほしいなと思いました。
以下、ネタバレを含んだ感想になります。
2021.06.02ソワレ公演 in 梅田芸術劇場(大阪)
主なキャスト
- ヴォルフガング・モーツァルト:古川雄大
- コンスタンツェ:木下晴香
- ナンネール:和音美桜
- エマヌエル・シカネーダー:遠山裕介
- ヴァルトシュテッテン男爵夫人:涼風真世
- コロレド大司教:山口祐一郎
- レオポルト:市村正親
日本で初演されてから約20年(2022年で20周年)となりますが、その頃からずっと参加しているメインキャストは市村正親さん、山口祐一郎さん、阿知波悟美さんの3人とのこと。
初演時にアマデを演じた子役さんたちは立派な大人に成長しているであろうなか、あの頃からますます若々しく張りのある歌声で魅了し続けていることに敬意を表したいと思います。「M!」は初演から見ていますが、ホント、年齢を感じさせない張りのようなものを感じさせる熱演でただただすごいなと。そのモチベーションを保ち続けるのも大変だと思いますよ。ここまできたらどんどん記録を伸ばしていただきたい。
そんななか、今回コロレドの配下のアルコ伯爵役が長年演じられていた武岡淳一さんから阿部裕さんに変わりました。武岡さんのちょっとヒステリックでコミカルな伯爵に比べ、阿部さんはどっしりと重厚感を漂わせた雰囲気がありました。そんななかでちょいちょいコミカルな表情やセリフ回しを挟んでくるので、面白さが際立っていて楽しませていただきました。
最初はちょっとその雰囲気に慣れるのに時間がかかりましたが、見てるうちにクセになってくる感じ。次回もまた見てみたいです。
ヴォルフガングの分身で天才的頭脳を具現化したアマデ役は、美しい少年をイメージしてか今回は3キャストとも女の子が担当。私が観劇した日は設楽乃愛さんでした。カンパニー最年少の小学4年生とのことですが、とてもしっかりした表情をしていてアマデの冷酷さみたいな部分を巧く表現していたと思います。
あらすじと概要
クラシック界のレジェンドで誰もがその名前を知るところである、オーストリア出身のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。彼の35年という短くも駆け抜けた人生を通して「才能が宿るのは肉体なのか?それとも魂なのか?」というテーマを軸に描いたのがミュージカル『モーツァルト!』です。ミュージカルファンの間では『M!』と呼ばれている人気作で、だいたい3年おきに再演を繰り返しています。
1999年にウィーンで初演、脚本・作詞はミヒャエル・クンツェ、作曲はシルヴェスター・リーヴァイのコンビで製作されました。。ミュージカル『エリザベート』を手掛けたコンビで日本でも絶大な人気を誇っています。日本での初演は2002年10月の日生劇場公演でした。
DVDは、2015年公演の井上芳雄くんファイナルと山崎育三郎くんバージョンが東宝モールで発売中です。(たま~~にWOWOWでも放送されます)
なお、おおまかなあらすじと概要は2018年公演のレポに書いたのでそちらを参照してください。
全体感想
今回はギリギリで取ったチケットだったので、座席が「注釈付き」つまり見切れありという条件がついたところでした。まぁ、これまで何度も観劇してる作品だし多少見えなくても想像で補えるかなと思ってチョイスしたわけですがw、目立って見切れるような場面はなくけっこう快適に見ることができました。
気になった点といえば…端っこの席ゆえに音が聞きづらい箇所がいくつか出たことかな。どうしても端っこだと音の伝わり方にムラが出ちゃうんですよね(汗)。まぁでもこれも想定の範囲内だったし、何より生で観れることだけでもありがたかったのでストレスは少なかったです。
2018年から新演出となってセットが全体的にコンパクトになった印象があるのですが、まだ新しくなって2度目の観劇となるので未だに旧演出の光景が思い出してしまいますね(汗)。ついつい頭の中で比べてしまったw。
以下、印象に残ったシーンをいくつか挙げてみたいと思います。
天才少年アマデウスが大勢の客の前で見事な演奏を披露する冒頭のシーン♪奇跡の子♪は、これから始まる物語の序章という感じで見ていて毎回ドキドキします。目隠ししながらピアノを弾くアマデの動きがすごくきれいなんですよねぇ。その少年に父親のレオポルトは絶大な信頼を寄せるわけで…、これが親子の悲劇の始まりかもしれないなぁ…なんて思いながら見てしまいました。
この冒頭のシーンは旧演出に比べるとだいぶこじんまりした印象に変わりました。未だにあの豪華で華やかな演出が頭をよぎってしまう(笑)。
そこから一気に時代が飛んで、モーツァルトは青年・ヴォルフガングに成長。でも彼の傍らにはいつも「天才」と呼ばれていた頃の少年の姿をしたもう一人の”アマデ”がいる。その姿が見えているのはヴォルフガング自身と客席にいる私たちだけという設定が面白い。
♪赤いコート♪でヴォルフが登場した時に姉のナンネールにおどけて見せるシーンは何度見ても可愛くて好きです。無邪気でヤンチャなヴォルフガングが愛しい。才能は”アマデ”が担っているのですが、目に見えているヴォルフガングはどこにでもいるような明るい溌溂とした青年なんですよね。
でも、父のレオポルトはそんな息子を理解しようとせずに彼に秩序と礼儀を植え付けようとする。まさかあの繊細な少年がこんな自由人に成長するとは計算外だったのかもしれないなぁとw。だから息子の変化についていけなかったんじゃないかと思いながら見てしまった。
で、お互いに分かり合えずイライラしてしまう父と息子のシーンの時、市村レオポルトが古川ヴォルフの額をペチっと叩くんですけど・・・これまで聞いたことがないような音が響くほどけっこうハードにデコピチしてきたwww。
市村レオポルトは叩いた手が痛いとプラプラさせながら退場w、古川ヴォルフは予想外の強さできたことにちょっとビックリしながらグチグチお父ちゃんに不満洩らしてて(笑)。二人のやり取りがあまりにもリアルに見えて面白くて、客席からもけっこう笑いが漏れてたし、私も思わず吹いちゃいましたww。ここは市村さん、見事に仕掛けましたね(笑)。これ、毎公演なんかやらかしてんのかな(笑)。
そんな場面からの♪僕こそミュージック♪だったんですが、古川ヴォルフが見事に歌い上げてくれてて、その姿を見ていたら自然に涙があふれてきてしまいました。めちゃめちゃ心揺さぶられたよ!!
祐一郎さん演じるコロレド大司教様登場シーン♪何処だ、モーツァルト!♪は個人的に大好きな場面の一つでもあります。とにかくロックな音楽がめちゃめちゃカッコイイ!!祐一郎さんもノリノリで歌ってますしね。
そして対峙する古川ヴォルフもめちゃめちゃ生き生きしてるのです。とにかく動きがとても軽やかで奇麗なので思わず見惚れてしまう。特に、階段のところにある細い柱のようなところに飛び乗りながらコロレドを挑発して歌うシーンは見応えありますよね。あれ、よほどのバランス感覚がなければ落ちてしまいかねませんから、古川くん、すごい体感してるなぁ…と感心してしまった。
ただ、演出面ではちょっとスリムになった印象が強いかなぁ。机の数が激減したことで、ヴォルフがその上を伝って歩くアクションもなくなったし、台の上からダイブする迫力のリアクションも見られなくなってしまったのは未だにちょっと残念に思います。
ヴォルフガングは、自分の作曲した楽譜を粗末に扱われたことに腹を立てコロレドに食って掛かってしまう。その行動を目の当たりにしたレオポルトは「俺を殺す気か!!」と息子に激怒。コロレドの庇護がなければ生きていけないという苦しい立場にあったことで、レオポルトとしては何があっても服従するというスタンスでいるわけですが、ヴォルフガングはそれが窮屈で仕方がないんですよね。
それでもヴォルフガングは「自分の才能さえあればコロレドがいなくてもやっていける」と自信満々で、ますますレオポルトを混乱させてしまうのです。お互いに想い合ってるのにどうにも噛み合わない親子が見ていてもどかしい。
でも最後にはお互い必要な存在だと認めて一緒に退場していきます。この時市村レオポルトが古川ヴォルフの額に手を当てて「大丈夫だったか?」みたいに気にする素振りしてたのがすごく微笑ましくてほっこりしましたw。
一方のコロレドは無礼な態度をとったヴォルフにご立腹ではありましたが、彼の作曲した楽譜を読んで「素晴らしい」と感嘆の声を上げオーケストラに当たるよう指示しています。これでヴォルフがもっと従順だったらうまいこと関係が築けてたかもしれないけど、コロレド自身も欲にまみれた人間なのでそれがいいのかどうかは微妙なんですけどねw。
その後ウィーンを出てパリにやって来たヴォルフガングはウェーバー一家と出会います。
ヴォルフと出会う前のウェーバー一家がどんな家庭かを歌う♪マトモな家族♪というナンバーがあるんですが、これがすごく漫画チックで面白いんですよね。M!は本当に多彩な音楽が出てくるので見ていてすごく楽しい。暮らしが安定してない彼女たちは娘をダシにしてお金を調達するといったがめついことをやりながら生活してる。その中で一番宛てにされていない娘だったのが、コンスタンツェでした。彼女の登場の仕方がとてもインパクトあるんですよねぇ。この時の木下コンスタンツェの表情や仕草がめちゃめちゃ可愛かった!
ヴォルフガングが見事にウェーバー一家の口車に乗せられてお金を提供しちゃうんですけど、娘のアロイズィアの歌声にクラクラっときちゃって罠にかかるヴォルフガングの単純さには毎回「あぁ~~」って苦笑いしてしまうww。でもこれ、本当にあった話らしいのでね。
そういえば、ヴォルフとアロイズィアがイチャイチャした雰囲気になった時にコンスタンツェが大きな音を立てるシーンがあるんですが、釜が爆発するのではなくて食器が割れるになってましたね。未だにあの釜が爆発するシーンが印象深くてちょっと物足りなく思ってしまった(笑)。
レオポルトがヴォルフガング不在の中不安を募らせている頃、その予感が的中するように彼の身には不幸が襲ってきていました。お金も無くなり病の母親を病院へ連れて行くこともできない状況。そしてそのまま母親は亡くなってしまいます。
この一連のシーンはけっこうあっさりサクサクと進んでいるのですが、母親の死に直面したヴォルフガングは全身に恐怖が襲ってしまい取り乱しちゃうんですよね。お母さんはなにもセリフがなくベッドに横たわったままという設定なのですが、かえってそれが「死」をクローズアップさせててゾクっとさせる展開になってるなと改めて思いました。
母の死を受けて歌う♪残酷な人生♪はヴォルフガングの揺れ動く不安な心境がリアルに感じられて観ていて心が痛くなります。古川ヴォルフの切々とした鬼気迫るような歌唱もすごくよかった。
失意のままパリから戻ったヴォルフは居酒屋で町の人たちが自分を嘲り笑っている現場に居合わせてしまいます。怒ったヴォルフが突っかかっていくと、どさくさに紛れてスマートにシカネーダーが登場してくるのが面白いw。
そして自己紹介を兼ねて歌われるのが♪チョッピリ・オツムに、チョッピリ・ハートに♪です。客席と一緒に盛り上がれるのがこのナンバーなんですよね。私が観劇した日も自然と手拍子が起こっていました。この一体感が何といっても楽しいのです。新演出から導入されている銀橋で、シカネーダーとアンサンブルキャストが一列並んで歌うシーンは特に圧巻で観ていてワクワクしました。
その後、ヴァルトシュテッテン男爵夫人がモーツァルト邸を訪れてヴォルフガングをウィーンへと誘う。レオポルトは自分の手元に息子を置いておきたい一心でそれを断ろうとしますが、ヴォルフガングは外の世界へ飛び出せるチャンスだとしてその話に乗ろうとする。そんな二人に男爵夫人が歌って聞かせるのが♪星から降る金♪。
このナンバーはすごく壮大なバラード曲なのですが、子離れを促す内容になっているのでレオポルトにはけっこう酷な歌なんですよね…。そんな親子の狭間に立って家族の絆を繋ぎとめようとしているナンネールの姿も泣けます。
アマデに導かれるまま強引に父の元から旅立とうとするヴォルフガングでしたが、♪私ほどお前を愛するものはいない(リプライズ)♪を切々と歌う父の姿を目の当たりにして気持ちが揺れてしまう。
ヴォルフは父から卒業したいと思う一方で、父に認められ愛されたいと思う気持ちも強いんですよね。なのでこの時はアマデの誘惑を断ち切って留まることを選択する…。でも「時が来たら僕は行く」と外の世界への野望も捨てていない。モーツァルト家の複雑な感情が絡み合う切ないシーンでした。
その後出てくるコロレドとアルコ伯爵の馬車のシーンで、ヴォルフがウィーンに行けたことが分かるわけですが…、コロレドはヴォルフの自由を許さない画策を練っています(♪神が私に委ねたもの♪)。
これ、旧演出では馬車は舞台の下で展開されていたのですが…新演出になってから高台の上に設置されるようになっちゃってだいぶ印象が変わったんですよねぇ。何が一番残念かって、コロレド猊下のおトイレタイムが「馬の餌やりタイム」に変わっちゃったことなんですよ(笑)。っていうか、高台に馬車が設置されてしまった時点でもうおトイレできなくなっちゃってるしwww。
毎回、祐一郎さんの奇妙なリアクションからのおトイレタイムへの流れが面白すぎて楽しみにしてたんですよねぇ。しかもここの演出って、欲にまみれていたコロレドを皮肉る意味合いもあるって聞いていたので、馬の餌やりじゃそのニュアンス伝わらないじゃないかとちょっと未だに納得できないところではあります(苦笑)。
でもまぁ、相変わらず馬車揺れの時の祐一郎さんの暴れっぷりは傑作で(笑)そこだけは楽しむことができたので良しとするかなww。
その頃ヴォルフガングは、ウィーンでウェーバー一家と再会してしまいます。この場面も新演出になってからずいぶんコンパクトになったなぁという印象。セシリアさんの新しい旦那さんの登場は、旧演出の時には熊のぬいぐるみ被って出てきてたのですがw、新演出になったら普通に彼女の隣に立ってる(笑)。しかも、胸の筋肉がハンパないご主人でついついそっちに目が行ってしまいますwww。
ヴォルフを監視していたアルコ伯爵が現れた後のロックナンバー♪並の男じゃない♪は何度見てもカッコいいです!マジックの仕掛けは縦置きに変わりましたが、横になっているのよりも見やすくなったのでこちらは新演出のほうがいいかも。古川ヴォルフの生き生きとした表情と軽やかな身のこなしに、見ているこちらも心が踊って手拍子も自然と沸き起こっていました。
アルコ伯爵を追い払った後、ヴォルフガングは初めてコンスタンツェとまともに向かい合います。急速に距離を縮めていく二人なのですが、ヴォルフって本当にすぐに惚れちゃうんですよねぇww。それだけに危なっかしいなと思ってしまうのですが、コンスに対してはそれまでとは違った愛情を感じてのことのように見える。きっとこれが彼の初めての恋だったんじゃないかなと。
しかし、コロレドの妨害工作によって皇帝陛下の前での演奏ができなくなったヴォルフガングは激高して抗議に訪れる。ここの♪僕はウィーンに残る♪のロック調のナンバーでのコロレドとヴォルフによる丁々発止のやり取りがめちゃめちゃ聴いててゾクゾクするんですよ!1幕クライマックスで特に気持ちがグワーッと盛り上がるシーンでもあります。
そして激怒したコロレドからクビを言い渡され「お前はもう終わりだ」と吐き捨てられたあとの、「いや、始まりだ、自由だ!!」と叫ぶヴォルフガングへの流れがめちゃめちゃカッコイイ!!
でも、はしゃぐヴォルフに対してアマデは全くそれに乗ろうとしない。天才的な才能の呪縛から逃れられないもどかしさと忸怩たる想いを歌う♪影を逃れて♪は名曲中の名曲です!特に、狂ったように楽譜に向かうアマデがペン先をヴォルフの腕に突き刺し、その血で譜面を書き連ねていくシーンは何度見てもゾクゾクしますね。今回も本当に圧巻で、1幕終わった後思わず落涙してしまいました。
2幕冒頭の、ヴァルトシュテッテン男爵夫人とアンサンブルが歌う♪ここはウィーン♪は新演出によりコンパクトになった印象を一番強く感じるシーンかなぁ。旧演出は横に広くてセットも豪華だったしピアノが浮いたりする派手な場面もなくなってちょっと寂しい。
中央に設置された台が巨大ピアノのようになっていて、蓋が上に上がったり下がったりする仕組みなのですが、3年前に観たときも思ったけど…、蓋が下りてくるの見ると「事故がありませんように!!」って思わず手を合わせたくなってしまうスリルがあります(汗)。
1幕ではとっかえひっかえいろんな女のこと付き合ってきたヴォルフガングでしたがww、2幕冒頭では「コンスタンツェのことしか考えられない」と彼女にぞっこん状態になってる(笑)。完全なのぼせた状態になってるのがかえって危なっかしいんですよねぇ。
そのタイミングで家族からひどい目にあわされそうになっていたコンスタンツェが逃げ込んでくるので、さらに二人の間でLOVEのテンションが燃え上がってしまう。♪愛していればわかり合える♪はすごくきれいなデュエット曲でとても好きなのですが、毎回見ながら「その想いはいつまで続くのやら」と冷めた目でも見てしまいます(汗)。
その頃ザルツブルクではレオポルトとナンネールがヴォルフガングが好き放題やって帰ってこないことを嘆いていて、レオポルトはナンネールの結婚資金も出せないほどの窮状を綴った手紙を送ります。それを読んだヴォルフは「僕は家族を見捨てはしない!」と稼いだお金を送金しようとするのですが…、そのタイミングでシカネーダーが遊び仲間を連れてやってきてしまう。
最初は「家族」のことが頭にあってお金を彼らに持っていかれそうになるのを阻止していたヴォルフだったのですが、新しい曲が書けたテンションから「持ってっていいよ」と渡してしまうんだよなぁ(苦笑)。ここ、何度見ても「あーーーー!!」と歯がゆくて仕方ないww。最後の最後で「家族」への想いを捨てちゃうんだもんなぁ…。
で、シカネーダーたちと遊びに行ってしまったあとに、コンスタンツェがダンス会場から戻ってくる。誰もいなくなった部屋を見てヴォルフが悪友たちと遊びに出て行ってしまったことを悟り孤立感を深めていくコンスタンツェ。まだ新婚のはずなのに、もうすれ違ってしまうこの展開(汗)。
孤独と苛立ちを込めて歌うコンスタンツェの♪ダンスはやめられない♪はカッコいいロックナンバーなのですが、聞いていて胸がざわついてしまいます。もうこれは結婚した相手が悪かったとしか思えないんだよなぁ(苦笑)。
一方ザルツブルクではコロレドがモーツァルトの音楽の才能に言い知れぬ興奮を覚えていました。ここでコロレドのソロ♪神よ、何故許される♪が歌われるのですが、新演出から高台の上少し上手寄りの位置に変更になったんですよね。個人的には、舞台中央で暗がりの中朗々と歌う旧演出のほうがコロレドの威厳が伝わってきて好きだったなぁ…。新演出だとちょっとカリスマ性が薄まったように見えてしまうのが残念です。
コロレドは再び自分のためにヴォルフガングに曲を書かせるためウィーンから呼び戻すようレオポルトに命じるのですが、レオポルトは「自分の孫にその役目を!」といってそれを固辞しようとする。でもコロレドが欲しいのはあくまでもレオポルトの血を引いた孫ではなくて、ヴォルフガング自身だったことで怒りを爆発させてしまう。ここはレオポルトの父としての息子への複雑な感情が伺える印象的なシーンでもあります。
ウィーンを訪れたレオポルトはヴォルフガングが大衆の前で見事な演奏を披露して喝さいを浴びる姿を目の当たりにしますが、そこに驕りを感じてしまい息子の成功を喜ぶことができない。そんな父の姿が哀しくて♪何故愛せないの?♪と歌うヴォルフガングがとても切ないです…。彼は彼なりに父を愛していて認めてもらいたい一心なのに、その想いが届かないんですよねぇ。
そのまま分かり合うことなく別れ別れになってしまう父と息子の姿が泣けました…。
父と分かり合えなかった寂しさを抱えたヴォルフガングは再びコンスタンツェの元へ戻ってくる。ここで夫婦仲が戻ったように見えたのですが、ヴォルフガングは悪夢に魘されて精神的バランスを乱されていき…、もうほんと、コンスタンツェは夫選びを誤ったとしか思えなくてねぇ…。
ヴォルフの妙な夢に出てくる仮面の人々が歌う♪誰が誰?♪は不協和音が響く怪しい調べなのですが聞いているとなぜか癖になってくる面白いナンバーです。
そして夫婦のもとにはウェーバー一家が押しかけて借金を迫ってくるなど悪いことが起こるのですが、そのさなかに父が亡くなったという知らせも受け取ってしまう。ついに分かり合えないまま永遠の別れとなってしまった父を想い歌う♪父への悔悟♪でのヴォルフガングの憔悴した表情がとても切なかった。ここの旋律、レオポルトが歌っていた♪心を鉄に閉じ込めて♪と同じなのがまた泣けるんですよね…。
精神的バランスを崩したヴォルフガングは何かに憑りつかれたように「曲を書かなければ」と錯乱状態に陥り、再びコンスタンツェと距離を取ってしまいます。
その頃町はフランス革命の話でもちきりになっていました。ウィーンの人々もその流れに乗れと機運が高まっている。それを見たシカネーダーとヴォルフガングは共にオペラを作り社会に抵抗しようと意気投合します。これが有名なオペラ『魔笛』の始まりだったんですねぇ。
で、このあとなぜかコロレドが現れてヴォルフガングと対峙するというシーンが出てきます。これが新演出から新たに加えられた♪破滅への道♪。自分の為だけに曲を書けと迫るコロレドに対し、革命へ向かおうとする市民のために曲を書くと真っ向から対峙するヴォルフガングのヒリヒリするような丁々発止のやりとりが刺激的なロックナンバーです。
ここで二人は「最後には破滅が待ち受けてる」と歌うのですが、ここで不思議と思いが交錯して重なるのが面白いなと思います。コロレドは実はヴォルフガングの危うさを理解してるんだろうなと感じさせられるのが印象的。でもまだ新しいナンバーなので体に馴染んでこないんですけどね(汗)。あと2回くらい見たらスタンダードになっていくかも。
そしてシカネーダーが用意した小屋で作曲活動に集中していくヴォルフガングなのですが…、またもや遊び仲間を引き連れたシカネーダーが押しかけてきてしまいよからぬ雰囲気に(苦笑)。あれよあれよという間にまた彼が連れてきた女性にクラクラっときそうになるのですが、寸でのところで思い止まったのは今までと違うところ。
しかし、それにホッとしていたら同じタイミングでコンスタンツェが旅行から戻ってきてしまうという間の悪さ(苦笑)。作曲活動してるかと思えば女に現を抜かしていると勘違いした彼女はついにヴォルフの元から去る決意をしてしまいます。はじめから危うい結婚生活でしたが、最後もなんだかやりきれない形で終わってしまったのが切ない。
『魔笛』が成功した後、ヴォルフガングのもとに謎の男が作曲依頼に現れます。史実でもこの依頼者が誰だったのかは定かではないようですが、ミュージカルではレオポルト風の仮面の男という設定になっているのが面白い。前金を払った男は「自分一人の力で作曲するように」と言い残して去っていきます。
これまでアマデの才能をフル活用して作曲してきたヴォルフガングが、この時は生身の青年としての自分自身で曲作りを開始するのがとても印象的です。しかし、アマデの力を借りない自分は思うように曲を紡いでいくことができない。いくらペンを自分の腕に突き刺しても「もう一滴も血が残っていない」と嘆く場面は観ていて心が痛くなります…。
そして自らの限界を感じたヴォルフガングは、アマデにペンを託しそれで自分の胸を貫かせ息絶える。ヴォルフの死と共にアマデも死を迎えるこのシーンはなんだかとても神々しくて…見ていて自然とこみ上げてくるものがありました。
そんな事切れたヴォルフのもとへウェーバー夫人がやってきて金を盗み出していくシーンが挟まってるのがすごく不気味で、妙な気持ちのままラストへ(汗)。ここで終わったらホント後味悪いんですがw、ちゃんとフィナーレは用意されていてホッとしますw。
♪影を逃れて(フィナーレ)♪は毎度毎度めちゃめちゃ感動するんですけど、最後ヴォルフとアマデが登場するときに上の台がめちゃめちゃ斜めになってて見ていてハラハラしてしまいます(汗)。あの高さで、しかもけっこうな斜度を降りながら歌うの、ほんとすごいと思うよ!!
あ、なんだかんだでほぼ全編振り返り感想書いてしまった(汗)。キャスト感想は次のページにて。