ミュージカル『ファントム』東京公演 2023年9月7日・8日マチネ

全体感想とキャスト感想 -2幕-

♪君の音楽なしに♪~♪世界のどこに(リプライズ)♪

舞台で倒れたクリスティーヌをエリックが船に乗せてオペラ座の地下室へ向かう場面。ここで歌われるエリックの歌詞一つ一つがとても切なくて毎回ウルウルさせられてました。「君を失えば破滅、滅亡」とか「壊れた怪物」とか…悲しいフレーズばかり出てくる。それを聞くたびに、彼にとってクリスティーヌはかけがえのない最後の”光”的な存在なんだなということを思い知らされました。

そんなエリックに寄り添うように街灯を移動させてる従者たちの動きもなんだかとても物悲しいんですよね。今回従者を演じる皆さんがSNSでその心境などを語ってるのを読んだりしてたので、今までよりも注目して見るようになりました。

彼ら一人一人にもちゃんとドラマがあるんだなと想いを寄せながら見れたので、紹介してくれたことすごく感謝してます。

それから一つ驚いたのが、和樹くんの歌唱力がワンランク上がっていたなと感じたこと。どちらかというとポップス的な歌い方をすることが多かった和樹くんですが(声楽系ではないので)、今回2回見て、声を延ばした時のビブラートがとても奇麗に聞こえてきて心揺さぶられました!公演中もたくさんいろんな仕事して大変だろうに、しっかり歌の努力も続けてたんだなと思ったら自然と涙が溢れてきて…。本当に感動しました。

クリスティーヌを寝かせたタイミングでエリックの元へやって来るゲラールの場面。クリスティーヌの身の上のことを考えて必死に地上へ戻すよう説得する岡田ゲラールですが、以前見た時よりも諭すときの声が柔らかくなってたなと感じたかもしれない。クリスティーヌを助けたい気持ちが一番だったとは思うけれど、それと同じくらいエリックの身の上のことも心配してるんじゃないかなと…。なんか親心みたいなのが伝わってきたような気がしたんですよね。
ゲラールの正体を知ったうえで見ると、彼の”罪悪感”からくる心の葛藤が手に取るように伝わってくるんですよ。岡田さんは今回それを今までよりも強めに表に出してお芝居してるように見えてめちゃめちゃ胸が痛みました(涙)。

エリックはと言えば、クリスティーヌを絶対に失いたくないという気持ちに囚われてしまったが故にゲラールの言葉は煩わしさでしかなくイライラを募らせてしまう。和樹くんエリック、大人になり切れない駄々っ子が激しく抵抗するかのような苛烈さで…。ゲラールを追い詰めていく時も舞台の端まで行っちゃってたし、孤独さゆえに病んでしまった心がものすごくリアルに伝わってきてほんと見ていて辛かった(涙)。
だけど、そんな興奮状態の中でゲラールへの感謝の気持ちも伝えるんですよね。クリスティーヌに対しては絶対に譲れないけれど、彼を信頼する気持ちまでは消すことができなかった。このあたりの複雑な心の揺れも、和樹くん、とても丁寧に演じてくれたと思います。

エリックが♪世界のどこに(リプライズ)♪を歌う場面は恐ろしくも哀しい場面だと思います。大切な人を傷つけた人への復讐を歌う時の激しさはまるで獣のよう。特に「代償を払わせる」というフレーズのとこは歌ではなく感情の爆発のような感じで叫んでた。
だけどそれはすべて、愛するクリスティーヌを守るために彼が決断したことで…。そんな歪んだ方法でしか愛情を表せないエリックの哀しさが見ていてとても辛かったですね(涙)。

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♪エリックの物語♪~♪ビューティフル・ボーイ♪

ゲラールがクリスティーヌに自らの過去を語る場面は、城田くん演出バージョンになってからより深い人間ドラマとして見ごたえのある心揺さぶるシーンになったなと思います。一番大きいのは、ゲラールが愛した女性・ベラドーヴァをクリスティーヌを演じてる女優さんが演じるようにしたことかなと。孤独に打ちひしがれ歪んだ性格となってしまったエリックが心の底で求めている”存在”がより強くはっきり見えるような気がしたので。

真彩さんのベラドーヴァはクリスティーヌとは違った雰囲気で凛とした輝きを持った女性といった感じ。目の輝きがクリスティーヌの時よりも強いように見えた。ダンスも柔らかさとキレとのバランスが絶妙で、殆どセリフのないベラドーヴァの気持ちを体全体で表現していたのが本当に素晴らしいなと思いました。
生まれたばかりのエリックを抱きかかえながら歌う♪ビューティフルボーイ♪のシーンは本当に穏やかで温かい笑みを浮かべていた真彩さん。ゲラールは「薬のせいで息子の顔が分からなかった」と語っていたけれど、私には心の底から息子を愛している母親の姿にしか見えませんでした。

ゲラールがベラドーヴァと付き合う中で「なぜ僕と付き合ってくれるの?」と尋ねるシーンも印象的でした。岡田さん、この時だけ爽やかで穏やかな若者の声色を出すんですよね。たった一言だけなんだけど、あの瞬間に過去の二人の関係がより鮮明に見えたような気がしました。その表現力、ほんとにすごいしさすがだなと感動。

ゲラールとベラドーヴァの物語は、何度見ても本当にもどかしいというか言葉がないというか…。おそらくゲラールはその当時の奧さんとは上手くいってなかったのではないかなと(そうじゃないかもしれないけど)。ふと生まれた心の隙に、自分を真っ直ぐ見つめ愛してくれるベラドーヴァが入ってきて愛しく思う気持ちを抑えきれなかった。
彼の真実を知ったベラドーヴァは精神的に病んでしまい結果的に薬草に溺れる羽目になってしまったし…おそらく奧さんもかなり傷つけたはず。だけどゲラールは決して女にだらしのない男ではないわけで…。なんというか、心の弱さに打ち克つことができなかった非常に人間臭い人物でどうしても憎い存在だと思えなかったんですよね…。彼の罪は許されるものではないけれど、それを一番自覚してるのは彼自身であって…ずっとその弱さと向き合いながら生きてる。この物語の中でゲラールに抱く感情が一番複雑かもしれない。岡田さんのお芝居がとにかくとても丁寧で、見ていて”その気持ちわかる”って思わせてしまう何かをずっと伝えてくれてたんですよね。

少年エリックが仮面をつけられてから毎晩慟哭するシーンは涙無しには見られませんでした。野村君星君も本当に美しい歌声で、繊細で、狂ったように泣きわめく声は見ているこちらの胸の内を引き裂くような痛みを伴っていた。本当に素晴らしい子役さんたちだったと思います。

カルロッタの最期

この場面だけはすごいホラーだと思いながら見てた。理性を失い、カルロッタへの憎悪の気持ちだけで突き進んでいく和樹くんエリックは背筋が寒くなるほど冷酷で狂気的で恐ろしかったです。そこに迷いは全くなくて、おそらくカルロッタがオペラ座を去ると言ったとしても凶行に及んだんじゃないかなと思うくらいだったし。

ニコルカルロッタも、麻帆カルロッタも、最後まで生命力に縋りつこうとする姿が凄まじかったな。でもあのシーンはほんと、よくそこまで粘ったと思ってしまう(汗汗)。何度見ても「普通なら2撃目で絶命だよ」ってツッコミ入れずにはいられなかったし(怖)。でも、一番最後の「お願いだからもうやめて…」って叫びはとても哀しく響いてきて切なかったですね…。そんなこと言える力がまだあるのかとは思えども(汗)、カルロッタには彼女なりの信念があったんだろうと思うと辛くなってしまった。

エリックの恐ろしい凶行シーンの後にピクニックデートの場面がくるっていうこの展開のジェットコースターっぷりがすごい。つい数秒前まで悪魔のようだったエリックがまるで少年のような無邪気な笑顔を浮かべて愛するクリスティーヌの横でドギマギしながら嬉しそうにしてる。このときの和樹くんの表情がほんとにピュアで、その笑顔が可愛ければ可愛いほど見てるこちらはなんだか居た堪れない気持ちに苛まれてしまってたよ(涙)。

印象的なのはクリスティーヌがふと見つけた花を摘んでエリックの胸ポケットに入れてあげる場面。「ちょっと待ってて」と無邪気な笑顔で一瞬彼女が離れた時、和樹くんエリックがすごく不安そうな表情でソワソワしてて…。たとえ一時でも愛する人がそばを離れてしまうことが怖くて仕方ないんだろうなと思うとほんとに切なかった。それだけに、お花をもらった時にものすごくホッとした表情で幼児のような笑顔を浮かべた場面は胸の奥がツンと痛んでしまったよ…。真彩クリスティーヌの無垢な無邪気さが逆につらい。
で、この場面の時にエリックの一番近くにいた従者さんが嬉しそうにクリスティーヌと同じように小花を摘んで彼に渡そうとしてたんですよね。エリックはそれに気づかず去ってしまったけど、従者さんのそういう寄り添うお芝居がめちゃめちゃグッときて泣けました。あれはどなたが担当してたんだろう?

他にも鳥や獣の鳴き声も彼らが生声で担当してたので、より一層温かい優しい雰囲気になっていたと思います。

♪まことの愛♪

おそらく物心ついてから初めてであったろうエリックにとっての幸福の時間。でもその中で彼がクリスティーヌに好きな詩人の本を見せる場面はとても胸が痛む。綴られてるのはまるでエリックの生い立ちそのもので「僕は闇でしか生きられない」という内容。彼は自分と同じ境遇の詩を読んでなんとか孤独な自分を慰めるしかなかったのかと思うと…クリスティーヌじゃなくても言葉を失ってしまうよね(涙)。この時彼女は意を決しって切り出そうと踏み出したのかもしれないよなぁ…。

絶対に受け入れられない頼み事を愛する人から告げられてしまったときの和樹くんエリック、もうほんとに息ができなくなりそうになってて…今にも泣きそうな顔しながら逃げてるのが本当に辛すぎた(涙)。それでもまるで聖母のような優しい笑みを浮かべながら♪まことの愛♪を歌いエリックに寄り添おうとする真彩クリスティーヌの声にどうしようもなく引き寄せられてしまう自分もいて…、逃げたいのに気持ちが動いてしまうといったような葛藤に苦しんでいた和樹くんエリック(涙)。
歌が転調してさらにクリスティーヌの言葉が胸に迫り来た時、彼は持っていたバスケットを落としてしまうほどあふれる感情を抑えられなくなってしまうんですよね。あの姿を目の当たりにした時、胸が激しく揺さぶられて体が震えるほど号泣してしまった(涙涙)。これまでいろんな舞台で和樹くんのお芝居見て魅了されてきたけど、あんなに震えるほど涙させられたの初めてだったかもしれない。エリックの心の葛藤が手に取るように伝わりすぎて…ほんと堪らなかった…。

最後のダメ押しは真彩クリスティーヌに優しく抱きしめられた時だろうなぁ。あの瞬間まで彼女はエリックを受け止められる絶対的自信を持ってたと思うと…。
エリックは溢れる涙を拭いながら彼女を信じて仮面を外し無邪気な笑顔を見せる。でも、その瞬間にクリスティーヌは立っていられないくらいの衝撃を受けてしまう。このシーン本当に残酷極まりないんだけど…、真彩クリスティーヌは必死にエリックを受け入れようとしてるのが痛いほど伝わってきたんですよね。目にいっぱい涙をためながらも、本当に必死にエリックの方を見ようとしたんだけど、結局そうするだけの勇気を持つことができなかったという悲劇…。

彼女が倒れた瞬間はとっさに「大丈夫?」と手を差し出して笑みを浮かべてた和樹くんエリックだったけれど、彼女が自分を受け入れる体制を取ることができないのだと悟るとまるで彫像のように固まってその場に立ち尽くしてしまうわけで…。このときの背中が哀しくて哀しくてたまらなかった(涙)。
さらに、彼女の姿が見えなくなった後に体の力が抜けたようにゆら〜〜っとその場に膝から崩れ落ちてくのがもう…ほんっとに辛すぎて息ができなくなるくらい号泣してしまった。その後泣き声を上げながら必死に仮面をつけて胸の奥から沸き起こる絶望を従者に当たり散らしてしまうエリック。7日だったかなぁ、和樹くん「なんでだよぉ!!!」って何度も叫びながらかなり強く当たり散らしてて…その声が私の胸に痛いほど突き刺さってきた。あの日は何度も「なんで」を繰り返してたよなぁ…。

♪母は僕を産んだ♪

幸せな空間だったはずの森の垂れ幕を「うわぁぁーーーー!!」という絶叫とともにエリックが引き剥がし、上から壊れたガラスの欠片のような白い吹雪が落ちてくる演出、あの光景が本当に哀しくて美しくてめちゃめちゃ心に刻まれるんですよね。前回公演の時もそうだったけど、あれを編み出した城田演出本当に素晴らしいなと思います。あの瞬間にエリックのバラバラに砕け散った心の中がこれでもかというほど胸に迫ってくるので…。
この後の和樹くんエリックはもう…慟哭。思い出すだけでも、ほんとこれ書いてても涙があふれるほど切なすぎて…。見ている私の心もエリックと一緒に引き裂かれていくような感覚に襲われたほどだった。

激しく息ができなくなるくらい泣きじゃくる和樹くんエリックが、必死に一生懸命♪母は〜♪の最初の一言を絞り出そうとしてる姿も本当に辛すぎて…。今回から息が整う前に歌い出す演出になってるので、最初のフレーズのところはほとんどセリフなんですよね。これがまたさらに辛いんですよ…。特に「闇にしか生きられない」と涙ながらに力なく告げる姿は、もう、見ていて引き裂かれた心にさらにナイフを突き刺されるような痛みを感じたほどだった(号泣)。

この場面は私が壊れるくらい涙しまくってたので殆まともに見れなかったんですけど(汗)、エリックが母との思い出を蘇らせながら幼さを露呈していく姿が痛々しくてとても切なかったです。そして最後クリスティーヌに想いが及ぶと、自分を受け入れてくれなかった彼女への相反する2つの気持ちをぶつけるように歌う。
呪いたいという激しい感情に揺り動かされながらも「愛している」という心のほうがどうしても勝ってしまう複雑な苦しい胸の内。それを激しくも繊細に表現してた和樹くんの魂の歌声にこれでもかというほど心を揺さぶられ嗚咽しました(涙)。

♪まことの愛♪も♪母は僕を産んだ♪もエリック自身にとっては身を引き裂かれるような哀しいドラマが展開されるシーンではあるのですが、ただ、そこに流れるモーリー・イェストンの音楽は優しさで満ち溢れている。まるで傷ついた彼の心に寄り添うかのように柔らかく温かい雰囲気がそこにはあって…。哀しいけれど、辛いけれど、そこに流れてくる音楽に心を癒され不思議な充足感が心の中に広がっていくし、エリックに対する愛しさがどんどん膨らんでいくのを実感する。そんな瞬間が私は堪らなく好きでした。やっぱりモーリーさんが紡ぎ出す音楽の力は素晴らしいものがある。

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クリスティーヌは泣きながらフィリップのもとに帰ってきますが、エリックの心を傷つけてしまった自分に混乱してて「謝りに行かなければ」と半狂乱になってる。
この場面、以前はゲラールが「なんて罪なことを!」みたいに彼女を責める言葉をぶつけていたのですが、城田演出になってからその言葉がカットされましたね。ゲラールもエリックに対する罪の意識は誰よりも痛感するところでもあると思うので、あのセリフはなくてもいいんじゃないかなと思います。それから、クリスティーヌがエリックをなんとか受け止めようと努力する姿勢を見せる演出になっていることも、この場面との繋がりがスムーズになっていいなと感じました。

完全に心の均衡を失ったエリックは暴走し、多くの罪を重ねていく。人の命をがむしゃらに奪っていく彼の姿は狂気でしかないんだけど、とても哀しく見えてしまうのです…。
そしてもう一つ哀しいのが、ショレが愛する妻・カルロッタのあまりにも残酷なこと切れた姿を目撃してしまった場面。その光景は舞台上には出てきませんが、あんなにも彼女を愛していた彼が受けた衝撃は例えようもなかったことは容易に想像がつきます…。カルロッタの名前を泣き叫び崩れ落ちる加治くんショレの姿には本当に胸が痛んで涙がこぼれました…(涙)。

♪君は私のすべて♪

警官との銃撃戦で重傷を負ってしまったエリックをゲラールが匿う場面。ここも本当にどこを切り取っても心揺さぶられるシーンの連続で涙腺が修復不可能なくらい大決壊してしまう(泣)。

ゲラールはエリックのことをこれまでずっと陰ながらサポートしてきたつもりではあったけれど、本当の正体を明かし彼を受け止める勇気を持てず曖昧な態度で接し続けてきてしまった。エリックの闇に飲み込まれるのが怖いというのもあったかもしれない。その一方で、自分がベラドーヴァを裏切ってしまったが故に息子を不幸に突き落としている事実も受け止めていてずっと罪悪感を抱え苦しんできた。その彼の”弱さ”が恨めしくもあるんだけど、同時に”人間”らしさも感じられてなぜか親近感すらいだかされるんですよね。
全ての始まりはゲラールの行いが原因になっているはずなのに、どうしても責める気持ちが湧いてこない。それどころか愛しく、寄り添いたいという想いすらこみ上げてくる。これは偏に、岡田浩暉さんがゲラールの罪を丸ごと受け止め苦しみつつもエリックに惜しみない愛情を与え続けるお芝居をされていたからに他ならないんじゃないかなと思いました。

ずっと自らが父だと名乗る勇気を持てなかった岡田ゲラールでしたが、エリックの怪我の程度が重く共に過ごせる時間が少ないことをいやが上にも悟ってしまったことで真実を告げなければという気持ちに逆らうことができなくなったように見えた…。もっと早くにそれを告げていればと何度も思って見てきたけど、臆病だったゲラールにはあれが精いっぱいなのかもしれないのかなとも感じられて…それがなんとも言えず切なかったです(涙)。
対する和樹くんエリックは1幕の時から自らの素直な感情をゲラールにぶつけていた印象がとても強かった。無防備に心の内を明かしたり、湧き上がってくる怒りをそのままぶつけたり…、傍から見るとすごく”甘え”ているように見えて仕方がなかったんですよね。たぶん、彼はかなり早い段階からゲラールが”父”ではないかと察していたんだと思う。だけどそのことを切り出してもしも拒絶されたらと思うと恐ろしくて切り出せなかったんじゃないかな…。クリスティーヌが現れるまでは彼にとってゲラールだけが唯一の望みの綱みたいなところあったはずだから。

それゆえ、ゲラールがついに「お前は私の子だ」と初めて告白した時に「やっと聞けた」と涙を浮かべつつホッとした穏やかな笑顔を浮かべた和樹くんエリックの表情に涙が止まりませんでした(泣)。
ようやく親子の名乗りを上げられた二人が笑い話として昔のことをざっくばらんに語り合う時間も本当に泣ける…。内容はエリックの自虐的なことに関するものばかりなんだけど、それよりもお互いに包み隠すことなく本音を言い合って心の底から楽しいと思えていることが二人にとっての至福の時間だったように見える。

「バリトン歌手向きの顔じゃないと思った」と冗談めいた顔で告げるゲラールにちょっとムスっとしながらも嬉しそうに笑ってた父を小突いてた和樹くんエリック。だけどそこからこみ上げてきた涙と一緒に出てきた「でも、声は良いよね」ってセリフは涙無しには聴けなかったよ(号泣)。そんな彼に対し岡田ゲラールはこれまで見せてきた中で一番優しい温かい笑顔で「ああ、とても良い!素晴らしい歌手になれた」とエリックの手を握り締める。この瞬間、二人は本当の親子になれたんだと思うと…もう、思い出すだけでも涙が溢れて仕方ないよ(号泣)。

死期を悟ったエリックが「最後はあなたの手で眠らせて」と笑みを浮かべると、岡田ゲラールはその手を自分の懐に入れて温めてやるようにしながら強く彼を抱きしめ「お前は私の子だ」と慟哭する。その言葉を聞いた和樹くんエリックは「分っていた」と歌いながら最後はゲラールの体に思い切り身を預けてしがみつくように「父さん!」と言いながら慟哭してた…。
岡田ゲラールの神がかった父性愛に包まれて泣く和樹くんエリックの姿は、本当に忘れることができないくらい私の心を激しく揺さぶり続けました。なんて優しい、温かい、そして愛しい時間だったのだろう…。体中の水分が干からびるんじゃないかってくらい泣いた(涙)。

追跡3

ゲラールはエリックをそっと抱き起し彼の住処であるオペラ座の地下へと向かおうとする。この時に岡田さん、ものすごく和樹くんエリックを気遣う言葉を一生懸命かけてくれてるんですよね。「ゆっくりでいいぞ」とか「がんばれ」とか…。これまで息子の前で示すことができなかった父としての愛情が胸の中で泉のように湧き出てきているんじゃないかと思うと心が震えまくって涙してしまった…。ホント、もっと早くに自分の正体を明かせていればと思わずにはいられなかったな…。息子の命が消えかけてるときにようやく胸に秘めていた優しい言葉を素直にかけられたなんて…あまりにも切なすぎる(涙)。

ところが、少し進んだところでクリスティーヌを連れたフィリップと鉢合わせしてしまう二人。父親に甘えていた和樹くんエリックの目の色が、クリスティーヌの姿を捕らえた瞬間に激しい嫉妬の感情へと変わっていってた。体の痛みも忘れ、クリスティーヌの傍に寄り添うフィリップに憎悪の感情を闇雲にぶつけていく姿はあまりにも痛々しく見ていられないくらい辛かったです…。岡田ゲラールもそんな彼を泣きそうな顔で呆然と見つめるしかないというのがまた…。

でもこの時、城田フィリップはエリックに対して殆ど敵意を向けていないんですよね。自ら攻撃を仕掛けるようなことがなくて隙を見て武器を奪おうとするくらいの行動しかとっていない。それに対して剣を振り回し襲い掛かってくる和樹くんエリック。そんな彼に「もうやめてくれ!!」と懇願するように訴えた城田フィリップ。あのセリフに、私は城田くんのエリックへの思いやりみたいな気持ちをすごく感じてしまって思わず涙が零れました…。
彼が荒れ狂うエリックに向けて伝えたかったのは、「これ以上罪を重ねてほしくない」という気持ちと「もう苦しみ続けないでくれ」という切実な思いだったのではないかな…とも。ひたすら受け身に徹している城田フィリップが本当にすごく印象的だった。まるでエリックの苦しみを自ら受け止めに行ってるかのようにも見えてしまった…(これは物語を超越した感情になっちゃうかもしれないけど)。

フィリップを追い詰めたエリックがとどめを刺そうとした瞬間、クリスティーヌの「やめて!!!」という決死の言葉が耳に入る。その声が入ってきたときの和樹くんエリック、めちゃめちゃ苦しそうに葛藤してて…思い出すだけでも泣けてしまう(涙)。
だけど結局彼女の声に逆らうことができなくて、窮地に陥ったフィリップを助け起こすことになるわけですが…あの時に彼はもうこの世から決別する道を歩む決意をしたんじゃないかなと思った。すべてを終わらせる準備を着々と整えていく姿が本当に哀しくて胸が痛くて仕方なかったです…。

♪ビューティフル・ボーイ(リプライズ)♪~フィナーレ

そして最期の時、エリックはゲラールに「約束しただろう?」と必死に訴える。父の手で人生を終わらせてほしいという切なる願いが辛すぎて…。だけどゲラールは銃口を向けたものの愛する息子の人生を終わらせることができず思わず顔を背けて泣いてしまう。そりゃそうだよね…。
だけど、エリックにはもうこの世で生きる選択肢は微塵も残ってなくて…。最後に自らの身を切り裂かんばかりの声でゲラールの名前を絶叫し、その声に弾かれたように「うわぁぁーーー!」と叫びながら息子に銃弾を放ったゲラール…。あの瞬間、エリックはホッと安堵した気持ちが大きかっただろうけど、ゲラールは息子を手にかけてしまったという更なる罪の意識が重くのしかかるわけで、そう思うと本当にめちゃめちゃ辛かった(涙)。

衝撃を受けたルドゥ警部は部下たちにエリックを連行させようとしますが、ゲラールは必死にそれを思い止まらせるためあることを耳打ちする。あれはおそらく、エリックが自分の息子であると告げたのでしょう…。ルドゥさんとゲラールは親友同士という設定があるが故のシーンだったかな。
ゲラールから真実を聞かされさらにショックを受けた西郷ルドゥ警部と、その場に崩れ落ちながらも必死にルドゥの足首を掴んで泣きながら懇願する岡田ゲラールの姿が哀しくて切なくて仕方なかった(涙)。

そしてこの一部始終を見つめていた城田フィリップ…。クリスティーヌに救いを求め、愛し、激しくその命を散らした和樹くんエリックをどんな想いで見つめていたんだろうかと思うと、胸の奥がキューッと苦しくなってしまった…。彼はこの先クリスティーヌと一緒に人生を歩いていけるかもしれないけど、エリックの存在は生涯消えることはないだろうなと思ったかな。
一方の岡田ゲラールは…もしかしたらこの先生きていくのは難しいのではないかと思わざるを得なかった。愛する人を苦しめてしまった罪悪感、息子を長い間孤独の闇に閉じ込める結果となってしまった事への罪悪感、それに加えて命も奪ってしまった(エリックにとっては救いだったけど)罪悪感と…その先の人生で背負うにはあまりにも荷物が重すぎる(涙)。贖罪のために生きる道を選んだとしても、表舞台には出ることはできないんじゃないかな…。最後まで蹲って涙してる姿を見て彼の今後に想いを馳せ切なさで胸が苦しくなってしまった(涙)。

そしてエリックは、愛するクリスティーヌの腕の中で最期の時を刻んでいた。深い傷口に苦しみながらも、その表情はとても穏やかで優しく、そして幸福感に満ち溢れてた。和樹くん、ホントになんて繊細な表情なんだよ…って。もしかしたら彼にとって人生の終わりが一番幸福を感じられた時だったのかもしれないなと思わずにはいられなかった。
真彩クリスティーヌはそんな彼を優しく抱き、共に歌い、そして一人きりになった時にエリックの仮面をそっと外し額にキスを捧げていました(涙)。その光景はライトが暗くなる最中に展開されるのですが…あの時に私はエリックに初めて「よかったね」と心の中で声をかけることができたかな。クリスティーヌがエリックを本当の意味で受け止めることができたのが彼の人生が終わる時だったというのがとてつもなく哀しいんだけど…、でも、その光景が見れただけで穏やかで温かい想いが胸の底から湧き上がってくるのを感じることができました。

本当にこの作品は、何度見ても心があり得ないくらい揺さぶられるし愛しくてたまらない。2008年に初めて見て大きな衝撃を受けたこの作品を、こんなにも素敵な分厚い人間ドラマとして昇華してくれた城田優くんには感謝しかありません。

それと、この時期個人的に色々とあって沈み込むことが多かったのですが…今回の『ファントム』に触れてすごく心が救われたんですよね。欠けていた心のピースをそっとはめてもらったような感覚。作品そのものもそうだったし、作品を通して今回のファントムカンパニーの皆さんの熱意と優しさと愛を感じられたこともすごく大きかった。この観劇がきっかけで少し前を向くことができました。ありがとうございました。本州の端っこからではありましたが、大阪、東京と遠征し、配信まで見届けることができて本当に幸せでした。

長くなったので(汗)後述、配信で見た千穐楽カテコの感想などについては次のページにて。

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