ミュージカル『ラグタイム』大阪公演 2023年10月05日ソワレ・06日マチネ

ミュージカル『ラグタイム』を観に大阪遠征してきました。5日は大阪公演初日でした。

今回の大阪遠征は個人的事情で過密スケジュールの間に挟まることになっていたので(引越し先を探しに関東を回った直後だった 汗)行けるかどうか微妙ではあったのですが、何とか確保していた2公演を観ることができました。最初にチケットを確保した時には自分自身がこんなハードな状況に巻き込まれるとは思いもしなくて(苦笑)、観劇日となっていた2日間は栄養ドリンクで疲労回復を図りながら劇場入りしていた私ですw。

物販は少なめ。今回はパンフレットと一緒にトートバッグ購入しちゃいました。デザインも良いしかなり丈夫で使い勝手が良いので今後ちょいちょい活用していこうかなと。
ちなみに、パラパラメモ(作品を見ればその意味が分かる)は大人気だったようで私が劇場に行けた2日間は「入荷待ち」になっていました。すごくかわいいデザインで買おうと思っていたのですが…残念です。あとクリアファイルも作ってほしかったなぁ。

劇場ロビーには、切り絵作家のてんてんさんによる『ラグタイム』のアートが展示してありました。この作品を象徴するデザインが本当に素敵!!ペンではなく“紙を切って”描かれてるっていうのが本当に凄すぎて感動します。

てんてんさんの切り絵アートは劇中にも随所に登場してくるのですがどれも本当に心が温かくなるような素敵な作品ばかりで、ストーリーにも非常にうまい具合に溶け込んでいました。

また、6日マチネは「イープラス」さんによる半館貸切があったようでロビーにサイン付きの可愛いイラスト幕が飾られてました。

メイン4キャストのイラストがかなり特徴をとらえててホッコリ。ちなみに私はイープラス枠ではありません(某後援会より購入したとき珍しく2階席が割り当てられたのでちょっとビックリしたのですが、この幕を見て納得w)。

以下かなりのネタバレを含んだ感想になります。

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2023年10月05日ソワレ・06日マチネ公演 in梅田芸術劇場メインホール(大阪・梅田)

概要とあらすじ

原作は1975年に発表されたエドガー・ローレンス・ドクトロウによる同名歴史小説『ラグタイム』です。1981年にはミロス・フォアマン監督によって映画化されました。

James Cagney (出演), Elizabeth McGovern (出演)

1996年にミュージカル化されカナダ・トロントでの世界初演を経て1998年にブロードウェイで開幕。この年は『ライオンキング』のミュージカル化が大きな話題になっていたこともありトニー賞での作品賞などは獲ることができませんでしたが、ミュージカル脚本賞とオリジナル楽曲賞、編曲賞、ミュージカル助演女優賞を受賞し注目を浴びました。

作詞はリン・アレンズ作曲はスティーヴン・フラハティ脚本はテレンス・マクナリー。驚くことに、同じ時期に日本で上演されていたミュージカル『アナスタシア』と同じクリエイターたちの作品です。二つは殆どと言っても過言ではないほど違った作風・音楽なので、本当に驚かされます。

2023年9月~10月にかけてついに日本語版上演が実現。演出は藤田俊太郎さん(石丸さん主演の『パレード』は特に印象深い)。長年上演権を巡って交渉はしてきたようですが、人種問題というセンシティブなテーマが深く関わる作品ということもあってかなかなか許可が下りなかったそうです。今回ついにそれを勝ち取ったとのこと、本当に嬉しく思います。

簡単なあらすじは以下の通り。

ユダヤ人のターテ(石丸幹二)は、娘の未来のために移民となり、遠くラトビアからニューヨークにやってきた。黒人のコールハウス・ウォーカー・Jr.(井上芳雄)は才能あふれるピアニスト。恋人のサラ(遥海)は彼に愛想をつかし、二人の間に生まれた赤ん坊を、ある家の庭に置き去りにしてしまう。赤ん坊が置き去りにされたのは、裕福な白人家庭の母親 マザー(安蘭けい)の家だった。偏見を持たず、正義感にあふれるマザーは、夫のファーザー(川口竜也)が長く家を不在にしている中、赤ん坊を拾い上げ家に迎え入れる。マザーの弟であるヤンガーブラザー(東 啓介)は生きがいをもとめる不器用な若者。アメリカ中の注目の的である美人女優のイヴリン・ネズビット(綺咲愛里)に愛の告白をするが、イヴリンは公衆の面前で彼にキスをしておきながら、その後すぐに軽く拒絶する。

ターテと娘はニューヨークに着いてから貧しい生活が続いていた。やがて同胞の女性アナーキストであるエマ・ゴールドマン(土井ケイト)、奇術師にして“脱出王”の名をとどろかせていた、ハリー・フーディーニ(舘形比呂一)と縁を結ぶことになる。

<公式HPより抜粋>

上演時間は約3時間05分(休憩時間含む)

内訳は、1幕90分(1時間30分)休憩25分2幕70分(1時間10分)となります。

1幕が少し長めに設定されていますが、私個人の体感としては…”あっという間”でした。それくらい濃密なドラマが次から次へと展開されていく作品なので長さを感じることは全くなかったです。ハマる人にはものすごく心震える充実した3時間に思えるのではないかなと。

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キャスト

  • ターテ:石丸幹二
  • コールハウス・ウォーカー・Jr:井上芳雄
  • マザー:安蘭けい
  • サラ:遥海
  • ファーザー:川口竜也
  • ヤンガーブラザー:東啓介
  • エマ・ゴールドマン:土井ケイト
  • イヴリン・ネズビット:綺咲愛里
  • ハリー・フーディーニ:舘形比呂一
  • ヘンリー・フォード&グランドファーザー:畠中洋
  • ブッカー・T・ワシントン:EXILE NESMITH

<アンサンブル>

新川將人、塚本 直、小暮真一郎、井上一馬、井上真由子、尾関晃輔、小西のりゆき、斎藤准一郎、Sarry、中嶋紗希、原田真絢、般若愛実、藤咲みどり、古川隼大、水島 渓、水野貴以、山野靖博

  • リトルボーイ:村山董絃(5日)大槻英翔(6日)
  • リトルガール:生田志守(5日)葉嘉村咲良(6日)
  • リトルコールハウス:船橋碧士(5日)平山正剛(6日) 

この作品は”リトル”の存在がとても重要だと感じたのですが、どの子役さんも作品の中で生き生きと躍動。みんな歌もお芝居も上手い!リトルボーイとリトルガールは出番がかなり多いのですが、しっかりと役として生きていることが伝わってきました。リトルコールハウスの場面はもう、涙無しには見られなかった!あの無垢で健気な小さい坊やがこの作品のどれだけ大きな救いとなっていたか。その説得力がすごかったです(このシーンはぜひ多くの方に目撃していただきたいところ)。

全体感想

『ラグタイム』というミュージカル作品の存在は前から知っていたのですが、内容は殆ど知らないままだったので今回見る前にさわりだけ軽く予習しました。その時は、全く立場の違う3つの人種のグループの人たち(冒頭ではそれぞれ全く面識がない状態)がいったいどのようにして関係を結んでいくのだろうかと不思議に思っていたんですよね。なかなか共通点のようなものが見いだせないし、しかもそれぞれ立場も考え方もほとんど違う。正直なところ、これはちょっと難解な物語なのかも(アメリカの人種問題が深く関係してるし)と構えた部分はありました。

ところが…!!!最初に抱いた懸念は冒頭のナンバーを聴いた瞬間から吹き飛び、終わった後は心の中の充実感が半端なくすっかりこの作品の魅力に取りつかれてしまっていました。

見る前までは”少しホロリとする場面もあるかも”なんて思っていたのですが、それどころじゃなかったです。中盤からは特にタオルハンカチが手放せなくなるくらいボロ泣き(1幕クライマックスは体が震えるほど声を殺して嗚咽した)、2幕後半からは息が詰まるほど泣いてしまいカテコの時も余韻が残りまくって涙を止めることができませんでした(泣)。今の混沌とした時代にこそ見るべきミュージカルだなと思った。
いやぁ…、ほんっとに凄いものを観させていただいた!!世の中にはまだこんなにも魂を揺さぶられるような作品があったのだなぁと。もしかしたら2023年観劇作品の中で個人的ナンバー1になるかもしれない。

藤田俊太郎さんの演出は今回も見所が多くて魅了されまくりました。幕に映し出されていたそれぞれの人種グループの切り絵からそれに扮した演者グループが抜け出てくる幕開けのシーンで一気に物語の世界に惹きこまれます(ターテ目線からの物語を表現していることを後から知ってちょっと鳥肌でした)。
また、最初の方は違う人種の家族の物語が単独で展開されていくのですが、全く接点がない彼らがやがて何かの縁で結ばれていくのだろうなと予感させるような雰囲気が感じられたのもすごく良かったなと思います。実は彼らのドラマは一本の線で結ばれているのかもと感じることが多かった。それ故、ストーリーが進むにつれて少しずつ不思議な縁で結ばれていく3家族を自然に受け入れることができた気がします。最後はなんだか一枚の美しい絵画を見たかのような感動が。

セットはどちらかというと地味な印象がありましたが、ところどころに切り絵アートの映像をうまく差し入れて物語を立体的に見せていました。あと、幕が横方向に3つに分かれていてそれを上下させることで3つの人種の世界観を分けていたり場面転換していたのも面白かった。
船のシーン汽車のシーンが良かったな。上と下を切り絵アートが映し出された幕で覆い、真ん中の空間でささやかな人間ドラマが展開する光景は印象に残りました。

もう一つ印象に残ったのがそれぞれの人種の見せ方です。今回の物語はアメリカの歴史の「負」の部分でもある”人種問題”が大きなテーマになっていますが、日本人キャストが演じることでそれを表現しきれるのかというのは気になったところでした。
でも、その心配は杞憂に終わりました。黒人役キャストはカラフルな原色で彩られた衣装、移民のユダヤ人役キャストはグレー系の衣装、白人役キャストは真っ白な衣装、というように区別されていたので見ていて混乱するシーンがなかった。

 それぞれのグループの衣装を統一させていたことでドラマの展開も分かりやすかったし、作品が伝えたいテーマもしっかりと見る者の心に届いていたと思います。少なくとも私にはめちゃめちゃ刺さりました。

また、架空の白人とユダヤ人はハッキリとした役名がなく「ファーザー」や「マザー」「ブラザー」などといった抽象的な名称になっているのに対し(石丸さんが演じた「ターテ」は父親という意味に当たるそう)、黒人キャストにはちゃんとした役名がついていたのも興味深かったです。
実在した人物は白人黒人ユダヤ人問わずそのままの名称が使われていました。

「ラグタイム」とは19世紀後半にアメリカのセントルイスで発祥したといわれるピアノ演奏曲で、第一次大戦の頃まで大流行していました。左手で安定したリズムを刻み(マーチ曲調)右手でシンコペーション(リズムの強調)を刻む演奏が特徴的な音楽が特徴です。
アメリカの南北戦争で南部側が勝利し奴隷解放令が出されたものの、それ以降も白人による黒人差別は続いていました。そんなアフリカ系アメリカ人の間でこの「ラグタイム」は特に支持されたそうで、後に”ラグタイム王”と呼ばれるスコット・ジョプリンを輩出したのだとか(映画「スティング」のテーマ曲が有名)。

ちなみに「ラグタイム」の”ラグ”は【ずれ】を意味した言葉だといいます。この物語には、それぞれ違う考えを持ち立場の異なる3つの人種が登場します。時に彼らはそれぞれの意識の【ずれ】を埋めることができず互いに傷つけ憎しみ合う悲劇をもたらしてしまう。だけどそんな中でも、思いやりを持ち歩み寄り理解しようとする人たちもいる。このタイトルには、いつか、異なる立場の人同士が理解し合いながら融和していく世の中になってほしいという願いが込められているのかもしれないなと思いました。

印象に残ったシーンを絞ってあげるのは非常に難しい。もうほぼ全部と言っても過言ではない。深みのある物語ももちろんのこと、それらを彩る音楽がもう本当に素晴らしすぎて…!!こんなにも激しく心を揺さぶる物語と音楽だと思わずに見に行った節もあったので(汗)、すべてに衝撃を受け圧倒されまくりました。

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1幕

プロローグ、白人と黒人と移民(ユダヤ人)が登場しそれぞれ独立した世界観を奏でていく。でも、曲が進むにしたがって接点がないはずの彼らの世界観が徐々に交わっていくように見えてくる。ここの最初の掴みの部分の見せ方が非常にドラマチックで一気に惹きこまれました。ここで歌われる♪Ragtime♪はこの作品の中で唯一聴いたことがあるナンバーでした。おそらく、他にも同じような方が多かったのではないでしょうか。
このナンバーの旋律はその後の様々なシーンでも繰り返し流れてきたので、いつの間にか体に音楽が染みついていくような感覚になりました。

ファーザーが冒険のため船に乗り込んでいく場面。ここで白人であるファーザーとマザー、ユダヤ人移民であるターテと娘のリトルガールが同じ空間に登場します。それを見せることによって、将来的に彼らが何らかの関わりを持つのではないかと予感させる感じ。ファーザーの大型船とターテたちが乗り込む小型船がすれ違うシーンを動く切り絵の映像で見せていたのも面白かったです。
ここで特に印象深かったのは、ファーザーが紹介された航海士との握手を拒んだシーン。白人としてのプライドが高い彼は、自分よりも立場が下の人と触れ合うことを嫌っているように見えました。一見するとすごく冷たい嫌味な人物のようにも感じますが、あの時代、裕福な白人世界しか知らなかった環境に身を置いていた人にとってはすごく自然な反応だったのかもと思うんですよね。もし自分が同じ立場だったらファーザーと同じ対応をしてしまったかもしれない。外の世界を知らない、受け入れないといった風潮は今の日本にも根付いているところがあるわけで…色々と考えさせられました。

あと、ファーザーを送り出したマザーは夫を愛しながらも「自分の人生はこれでいいのだろうか」という違和感も持っているというのが印象深かったです(♪Goodbye, My Love♪)。彼女のそんな小さな違和感がこの物語の大きなカギになっているような気がしました。
ファーザーはターテたちが乗る船とすれ違う時に「彼らに神のご加護を」と気遣う歌を歌いますが(♪Journey On♪)、本音では「アメリカに来ても良い事はないだろう」と見下すような気持を抱いていた。このあたりもすごく人間らしさが出てて印象的でしたね。

庭先でマザーが生まれたばかりの黒人の赤ちゃんを見つける場面。大きく動揺した彼女が「にこやかに夫を送り出したけど本当は不安でいっぱい」と歌う♪What Kind of Woman♪はリアルな心情がストレートに表現されていてグッときましたね。その後すぐに母親のサラが連行されてきて、マザーは深刻な様子の彼女に同情し家で保護することを決める。この時初めてマザーは黒人との接点を持つわけで、ここから大きくドラマが展開していく予感がして心をざわつかせました。
面白かったのは、マザーの決断にオタオタしながら何もできなかったグランドファーザー。その時の仕草がめちゃめちゃ可愛かったw。

NYに到着した移民ターテとリトルガールが商売を始める場面(♪A Shtetl Iz Amereke/Success♪)。最初はみんな夢と希望を抱き意気揚々と商売を始めるわけで音楽も明るく弾むような旋律で。ターテは通りがかったアナーキストのエマ・ゴールドマンに自作の切り絵を購入してもらったことでさらに明るい夢を抱いてしまう。ターテが弾ける笑顔で喜びを語るほど、見てるこちらとしてはなんだかその後に来るであろう”現実”が恐ろしく感じてしまって…。
その予感は的中し、やがてターテの切り絵商売も行き詰まりを見せることに。しかもようやくお客がやって来たと思ったら「娘はいくらで売ってくれるのか」と切り出され大きなショックと怒りを感じてしまう悲劇。ターテはただ娘により良い世界を見せたいという一心で働いている気持ちが痛いほど伝わってきたので、この人買いに遭遇してしまった場面はめちゃめちゃ悲しかったです。

コールハウスが恋人のサラを探しに行くことを決意する場面。黒人仲間と楽しくピアノで歌い踊っていた彼ですが「サラを失ってしまった心の穴が埋められない」と改めて彼女の存在に気づかされるシーンは印象深かったです。♪Gettin' Ready Rag♪の明るく弾けたナンバーにも心躍らされました。「ヘンリー・フォードの新車を買って彼女を迎えに行こう!」と皆の前で宣言するコールハウスの笑顔も眩しかった。
フォードの工場の場面で流れる♪Henry Ford♪のナンバーはなんだかすごく独特のリズムを刻んでいてめちゃめちゃ脳内に残りました。工場の人々が規則正しく働く動きが音楽と見事にリンクしててたのもすごかった!

ターテとマザーが初めて出会う停留所の場面(♪Nothing Like The City♪)。ターテは娘が人買いにさらわれないよう自分の体とロープで結んでいて…。あんな出来事があった後ではそれも止む無い選択だよなぁと胸が痛みました。その様子をマザーと息子のリトルボーイが目撃してて。好奇心旺盛なリトルボーイは母が止めるのも聞かずにターテ親子に積極的に関わっていこうとしてしまう。あの少年のグイグイ近づこうとする無邪気さは本当に見ててハラハラしてしまうほどだった(汗)。
最初は「見ちゃダメよ」とリトルボーイを諫めていたマザーでしたが、ターテと目が合った時に戸惑いつつ挨拶を交わしたことで微妙な気持ちの変化が現れる。オドオドしながらも礼儀正しい挨拶をするターテの姿にマザーは何か特別な感情が芽生えたようにも見えたかな(でも最終的には息子に「あの人たちは貧しい外国人」と語っていたけど)。こうして彼女はユダヤ人とも接点を持つことになります。こうして後から考えると、この物語はマザーがすごい起点になってたんだなと思いますね。

新品のT型フォード車でサラの元へ向かうコールハウスがエメラルドアイル消防団詰所前で足止めされてしまう場面。ここはもう、見ていて心のザワツキが止まらなかったです。消防団員たちは黒人をあからさまに差別視していて高圧的な態度でコールハウスが通ることを阻止する。特にコンクリンを演じる新川さんがめちゃめちゃ憎たらしいお芝居を炸裂させてて、見ているこちらまで屈辱感を覚えてしまいそうになるほどでした。
コールハウスはこの時点では彼らに盾突くことなくおとなしく引き下がりますが、後々この場面は最悪の形としてもう一度現れるんだろうなという余韻を残していたので、見ていて不穏な気持ちが拭えなかった。

ニューロシェルの家で鬱々とした日々を過ごしていたサラが歌う♪Your Daddy's Son♪はこの作品の中で初めて涙が出た場面でもありました。このナンバーの中でサラがコールハウスの元を飛び出した理由も語られるのですが(売れてきた彼は調子に乗りすぎて他の女性に目が行っちゃったのね 汗)、どんなに怒りや惨めな気持ちを感じても彼のことを愛する気持ちはどうしても拭えない想いが切々と語られてて涙せずには聴けませんでした(泣)。特に「それでもお前は彼の子」と歌う姿がものすごく刺さった…。これから一人でどう暮らしていけばいいのかという不安に襲われながらも、愛する人との子供を前にして必死に強くなろうとするサラの姿はあまりにも切なかった。
この場面を見て、ちょっと『ミス・サイゴン』のキムの姿が重なったかもしれない。サラが時々キムに見える瞬間もあったりして。

そのタイミングでコールハウスがニューロシェルの家を訪れる。最初の日はサラに拒絶され会う事もできなかった彼でしたが(マザーがサラに「あなたこれまでの中で一番長く喋ったわね」と少し皮肉る場面がちょっと面白かった)、毎週欠かさずT型フォードに乗って訪ねるようになる展開がいじらしい。
そのうち白人家族に受け入れられ、ピアノで”ラグタイム”の旋律を奏でるコールハウス。その音楽に衝撃を受け新しい何かが始まる予感を覚えるヤンガーブラザーの表情がとても印象深かった。

やがて冒険を終えて家に戻ったファーザーは、マザーが黒人の赤ん坊を世話している姿に驚愕。でも彼以外の家族はグランドファーザーも含めて受け入れてしまっていて、「私だけが新しい歌を歌えないのか」と嘆く姿はちょっと気の毒だなと思ってしまいました(♪New Music♪)。
これまで白人としてのプライドを持ち続けてきたファーザーとしては驚天動地な出来事だったと思うし、困惑してしまうのも無理はないなと。ファーザーは決して差別主義者ではなく、突然変わってしまった新しい環境を簡単に受け入れられないだけなんですよね。こういうところもすごく人間らしくて思わず共感してしまった。

♪New Music♪の旋律がやがて♪Ragtime♪の旋律と重なりコールハウスが部屋に閉じこもったままのサラに想いを伝える。この場面もまた涙無くしては見れませんでした(泣)。心の芯から揺さぶられるような感動が次から次へと沸き起こってきて…あんなドラマチックで壮大な愛の音楽にはそうそうお目にかかれない…。
彼は過ちを犯しサラを傷つけてしまったけれど、何度拒まれても諦めずにニューロシェルの家を訪ね彼女に誠実であり続けようとしていました。ここでついにサラの気持ちが動き彼の元へ駆け寄るわけで。二人が固く抱き合う姿は、今思い出しても涙が出そうになるくらい感動的なワンシーンでした(涙)。

T型フォードの前でコールハウスがこれからサラと息子と共に始まる明るい未来を夢見て歌う♪Wheels of a Dream♪も本当に心が震えました(涙)。これも本当にドラマチックかつ美しい超名曲。

 新しく始まる3人の暮らしに胸を弾ませ希望を信じて…だけど二人の表情が明るければ明るいほど、なぜか見てるこちらの不安も募っていく。果たして進んだ先に彼らが信じた未来があるのだろうかという漠然とした不安がどうしても付きまとってしまう。「良かったね、二人とも」と祝福する気持ちと、「この幸せな時はほんの束の間なのではないだろうか」という恐れとが混在して、何とも言えない複雑な想いに囚われた場面でもありました。

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一方、ターテは新天地で新しい職を得たものの劣悪な労働環境に苦しみ雇い主への憎しみを募らせていました。彼による「いつかお前たちの墓の上で娘にダンスを踊らせてやる」といった激しい罵りの言葉が本当にショッキングでした。そんな移民労働者の待遇を見て先頭に立ち抗議活動の狼煙を上げたのがアナーキストのエマ・ゴールドマン(実在の人物)。
そしてその場に居合わせたのがヤンガーブラザー。世の中を変えたいと叫び声をあげる彼女の演説に耳を傾け大きく心が動いていく姿がとても印象深い(♪The Night That Goldman Spoke at Union Square♪)。これがきっかけとなり、やがて彼は白人世界から一歩外に踏み出すことになるんだろうなというのを予感させる場面でもありました(花火が見えたと歌うシーンで映し出された花火の切り絵映像がとても美しかった)。

苛烈な環境に耐えかねたターテはリトルガールを連れて脱出。怯える娘に愛情を注ぎながら優しく歌う♪Gliding♪も非常に心に沁みました。先行きが暗かったターテ親子でしたが、飛び乗った汽車の中で小さな奇跡が起こる。咄嗟に名付けた自作の「Movie Book」を車掌さんに売る場面はホッコリ温かみのある場面になっていたと思います。車掌役の准一郎くんの無邪気な笑顔がとても可愛らしかった。

T型フォードに乗って新たな旅立ちに出たコールハウスとサラには大きな悲劇が待ち受けていました。コールハウスが一度屈辱を受けたあのコールハウスがエメラルドアイル消防団詰所前…。もうこのシーン見た時に「なぜもう一度この場所を通るルートに来てしまったんだ!!」ともどかしく思ってしまった。だけど真っ直ぐな性格の彼はもしかしたら、正々堂々と差別主義者が立ちふさがる道を通り抜けたいという想いが強かったのかもしれないなぁ…(サラも「まったくあなたは正義感が強いのだから」と言ってたし)。サラと二人なら乗り越えられるという信念があってこその行動だったのかなぁ。
でも、結局その期待は無残に打ち砕かれる。コールハウスたち黒人の前に立ちふさがる壁はなんと分厚いのだろうかと心底哀しい気持ちにさせられました…。これが、あの時代の現実だったのかと。いや、今現在もそういった激しい差別による悲劇はどこかで起こっているのだろうと…。そう思ったらもう心が痛くて痛くて仕方なかったです(涙)。

新しい生活の希望の象徴でもあったT型フォードを潰されたコールハウスは激しい怒りに囚われ「もう絶対に差別なんかさせない」と裁判を起こそうとする。しかし、裁判所の手続きは複雑でたらいまわしにされるだけで全く相手にされない。これはきっとコールハウスが黒人だからという差別意識が強かったのも大きいだろうね…。
それでも諦めがつかないコールハウスは「この問題が解決するまで結婚できない」とサラに告げてしまう。問題を一緒に解決するのではなく、自分自身で決着をつけて問題を乗り越えたという自信をつけてからサラを迎えたいと思った節が大きかったのかなぁ…。彼女もコールハウスが闘い抜こうと決意した想いに心打たれ行動を起こす決意に至る。勇敢に差別と闘おうとした彼女を待っていたのは…大きな悲劇だったというのがもう本当に哀しくて悔しくて仕方なかったです(涙)。コールハウスと一緒に泣きましたよ、ホント…。

この悲劇の直後にハーレムの葬儀場で歌われる♪Till We Reach That Day♪がまた、これでもかっていうほど激しく心を揺さぶってくる超大名曲で…!!ミュージカルの曲、というよりも、教会でゴスペルを聴いているかのような感動の波が絶え間なく次から次へと押し寄せてくる感じ。特にソロで入ってくる塚本直さんの魂のこもった熱唱には本当に胸打たれ後から後から溢れてくる涙を止めることができませんでした(体が震えるほど泣いてしまった)。

 

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どこかで見たことある女優さんだと思ったら、『RENT』のジョアンヌ演じられてた方だった。それであの超ソウルフルな歌声…納得です。なんかもう、思い出すだけでも涙が出てしまいます。

ここで1幕が終わるっていうのがまた衝撃というか。客電が点いてもしばらく涙が止まりませんでした(泣)。

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2幕

愛する人を失ったコールハウスはピアノを弾くことができなくなり、その代わりにを手に取り報復する道を選んでしまう。虚無感から激しい怒りと恨みの感情へと移り変わる♪Coalhouse's Soliloquy♪は非常に辛いナンバーでもありました。だけど、彼が過激思想に走ってしまうことを責めることもできないんですよね…。こうして憎しみの連鎖は起こるのだと思うと本当に居たたまれない気持ちにさせられました。コールハウスと仲間たちたちの凶行を白人たちが「関わりたくない」と歌う(♪Coalhouse Demands♪)なかでコールハウスたちの歌のパートが♪Ragtime♪の旋律になっているのも分断が象徴されているように思えて非常に印象深かったです。
それともうひとつ気になったのは、怒りに震え銃を手にするコールハウスを端の方でじっと見守っていたターテの存在。最初に見た時は彼がなぜそこに居たのかがよく理解できなかったのですが、あとから「この物語はターテの目線から描かれている」という大きなテーマを知って納得しました。彼はあの場にいる、という意味ではなく彼の頭の中で感じた出来事を俯瞰して見つめていたということなのかなと。

ニューロシェルの家では考え方の違いからファーザーとヤンガーブラザーが激しい言い争いになる。ファーザーはこれまでの平和で裕福だった頃の暮らしにこだわり、コールハウスが起こした事件に対して否定的な目で見ている。彼の境遇に同情はするものの、どうしても黒人を受け入れる気持ちにはなれないんですよね。それに対してヤンガーブラザーはコールハウスの境遇を受け入れ何とか助けたいという気持ちが働いている。エマの抗議活動を目の当たりにして心が大きく動いたのも影響していただろうなと。
マザーはサラと深く関わったこともあり、コールハウスのこともとても大切な存在と認識していたと思います。黒人云々というよりも、マザーは”人”として彼らのことを受け入れ愛したように思います。それゆえ、未だ黒人差別意識が抜けない夫に失望してしまったんだろうなぁ。

だけど、家族の中で自分だけが異質な存在となってしまったと感じ戸惑い混乱するファーザーの気持ちも分かってしまう。白人としてのプライドが人一倍高かった彼にとって、これまで接触を避けてきた黒人を受け入れるということはそう簡単にできるものではなかったんじゃないかなと。差別主義者ではない人物だということが伝わってきていたこともあり、家族の中で孤立してしまったファーザーの姿はなんだかとても哀れに感じました。
八方塞になった彼は、その空気から逃れるため息子を野球観戦に誘う。純粋なリトルボーイは「なぜ?どうして?」と家族の異変から答えを導きだそうと必死になっていましたが、父親の誘いに素直にコロッと「野球観戦に行きたい」と答える。そこがなんだかすごくリアルだった。

それから、ファーザーが歌うナンバー♪What a Game♪のなかで歌われる「こんな時代にスポーツは必要だ」という歌詞が特に印象的でしたね。戦争など暗く重い出来事やニュースが続くなか、少しでも気持ちを変えたいと縋る多くが”スポーツの話題”だと思います。これは今の時代でも変わらない。
ファーザーは気分転換にリトルボーイを野球観戦に連れ出したわけですが、彼が知っている観客席の雰囲気ではなかったというのがすごい皮肉。紳士的におとなしく野球観戦する時代は終わり、労働者風の荒くれ者の男たちが試合にヤジを飛ばしツバを飛ばしながら鬱憤を晴らす場となっていた。息子はその雰囲気に馴染んでいきましたが、ファーザーは困惑するばかりで結局最後まで馴染めず安らぐことができなかったというのがなんともお気の毒でした(ちょっと面白かったけどw)。

コールハウス一味による復讐劇はさらに苛烈を極め、それと比例するようにニューロシェルの家の中もギスギスした雰囲気へと変わってしまう。その状況を打破すべくファーザーは心機一転として居を移す決意をする。引っ越し準備中もマザーのファーザーに対する態度は冷たいままで、それが見ていてなんだか痛々しい(汗)。

新天地に選んだニュージャージー州のアトランティックシティの浜辺では、人々が華やかに歌い踊る光景があった(♪Atlantic City♪)。その中に居たのがブランコ乗りのイヴリン・ネズビットと脱出王と呼ばれたハリー・フーディ(二人とも実在する人物)。
イヴリンは大きな事件に巻き込まれ一夜にしてすべてを失いますがブランコ乗り師として再起し人気を得ている人物。困難な状況でも逞しく明るく「ウェーーイ!」とw生き抜いてる姿が本当に羨ましい。ハリー・フーディは手錠をかけられ箱に入れられても上手いこと脱出してしまう名奇術師。二人に共通するのは、困難な状況からでも上手く”逃げる”ことができるという事かなと。

ここで驚いたのが、1幕ではその日を暮らしていくのも大変で苦しみ抜いていたユダヤ人移民のターテが”映画監督”として成功していたことでした。なんと汽車の中で売った自作の「Movie Book」がきっかけとなってあれよあれよという間に貧乏生活から脱出できていたと。わらしべ長者のエピソードとちょっと似た感じでしょうか。イヴリンとフーディーはターテの撮る映画の主人公役としてその場にいたのでした。演技が微妙でカメラ目線ばかりのイヴリンに「サイレント映画なんだから誰もあんたのセリフなんか聞かないよ」ってボソッとツッコミ入れてたのは面白かったww。
たまたま撮影中の現場に居合わせたマザーはターテと遭遇し挨拶を交わす。この時点でマザーはそれが以前挨拶したユダヤ人だということは気づいていないようにも見えたかな。でもターテは覚えていたように見えたかも。引力に導かれるように二人の距離が縮まりかかったところでファーザーが間に割って入り彼を諫めることに。

ちょっと微妙な空気になったところでターテは成功するまでの経緯を警戒に歌ってみせる(♪Buffalo Nickel Photoplay, Inc.♪)。これが非常に弾むような明るい旋律で聞いていて楽しくなりましたね。あんなに苦労していたターテの姿が嘘みたいに生き生きしていたのも嬉しかった。
そんなとき、リトルボーイが脱出王のフーディに向かって「大公さんに危ないって言って!!」と訴える。唐突なその言葉に混乱する彼でしたが、結局真意が掴めないまま別れることに。この場面がちょっと不思議でよく分からなかったのですが、あとから、あれはターテが紡いだ物語の中に登場する”一遍”だったのかなと感じました。”大公さん”とは誰だったのかは2幕のラストシーンでフーディーが語ります。つまりリトルボーイの訴えは「現実にこれから起こることの予言」でもあったというのがなんだかグッときました。

その後マザーはターテの撮影現場に時々足を運ぶようになり彼と親しくなっていく。子供たちはすっかり打ち解けた様子で無邪気に戯れていて…そうなるともう、ターテとマザーが近づいていくのも時間の問題だなと思いながら見ていましたw。浜辺で遊ぶ子供たちを見つめながら二人が歌う♪Our Children♪はとても優しく美しい旋律で心が洗われるような気持になったな。
歌い終わった後、ターテはマザーに「本当の私は男爵などではなく、ただの貧しい移民でユダヤ人です」と告白する場面はとても感動的でした。ただ愛する娘に綺麗な服を着せたくて、貧しかった頃の辛い思い出を払拭させたい一心でカメラを回しているだけだと語る言葉はとても心に響きましたね。何て愛情深い素敵なお父さんなんだ、ターテ(涙)。きっと亡くなった奥さんのことを心から愛した人なんだろうなと思うと泣けてきてしまった。

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一方のヤンガーブラザーは家を飛び出した後ハーレムに足を運び、コールハウスに会わせてほしいと必死に懇願。黒人仲間たちは白人の彼を見て激しい敵意を向けますが、銃を突きつけられても動じず強い眼差しを失わなかった姿を見てその要求に応えることを決意します。この時のヤンガーブラザーの揺ぎ無い信念の強さには胸打たれるものがありました。差別と闘う黒人たちと想いを共にしたいという気持ちは本物なんだろうなと。

闇落ちしたコールハウスはふとサラと出会った日のことを回想する。自分のピアノを好きだと言ってキラキラした眼差しを向けてくれた愛する人を思い出すコールハウスの姿は涙無くては見られなかった(泣)。

 二人の想いが重なり合いながら歌われる♪Sarah Brown Eyes♪の旋律はとても優しく温かい…。あの頃に戻れたらどんなにか幸せだろうかと感じずにはいられなかった…。

コールハウスと対面したヤンガーブラザーが「人種は関係ない」と懸命に自分の想いを伝えようとする♪He Wanted To Say♪のナンバーも非常に心打たれるものがありました。「何をしに来た」と鋭い目で睨まれ一瞬言葉に詰まるヤンガーブラザーの胸の内を、「彼は言いたかった」と切り出し歌うのがユダヤ人活動家でアナーキストのエマなんですよね。彼女はその場にいないけれど、ヤンガーブラザーの心の中にずっとその存在は残っていて。あの時感じた胸熱くなる瞬間がそっと彼の背中を押してくれてるような気がして涙が溢れました(泣)。「何とか力になりたい」というヤンガーブラザーのストレートな熱い気持ちには泣かされたなぁ。
はじめは受け入れることを躊躇っていたコールハウスでしたが、やがて彼の気持ちに心揺さぶられ「爆弾の作り方を知っている」という言葉を信じ仲間に入れることを決意する。

ヤンガーブラザーを仲間に迎えたコールハウスたちの行動は常軌を逸し、ついには標的を白人の金持ちに移し襲撃を繰り返すように。そしてJPモルガン(実在の人物)のライブラリーを占拠し自爆すると脅迫する事件に発展。
彼らの過激な行為を激しく非難したのは、同じ黒人で啓蒙活動を行っていたブッカー・T・ワシントン。彼は白人との平和的な融和を目指す考え方の人で、暴力で対抗することを許さなかったんですよね。コールハウスは黒人のプライドをかけて”正義”のために行動を起こしたけれど、それはブッカーが望む世界ではなかったというのが悲しかった。

ファーザーはコールハウスたちを説得する要員として呼ばれたためNYに戻ることに。でもマザーが少し心配した素振りは見せたものの「では行かなければ」とどこか冷めた反応をしてたの、辛い…。出発前に夫婦の絆を取り戻すためにはコールハウスから預かった子供を手放すべきだと訴えるファーザーでしたがマザーは頑なにそれを拒絶。分かり合えないまま旅立たねばいけないファーザーの心境を考えると切なかったです(涙)。
彼もコールハウスをなんとかしたいという気持ちはあるのですが、これまで遠ざけてきた黒人を受け止めるだけの度量をなかなか持てなかったんだろうなぁと…。変化を受け入れる勇気を持つことは本当に難しいと思うし、それはいつの時代も変わらない。

ファーザーが出掛けた後にマザーが歌う♪Back to Before♪は、彼女が新たな道を歩み始める意思を固めたのだなと感じられる壮大なナンバー。これまでは夫の後ろについて平穏な日々を過ごしてきたけれど、もうその頃の自分には戻らないと決意を歌う。確固とした自立した考えを持つマザーは本当に強い人だなぁと感動したのですが、そんな気持ちを知らないまま旅立ったファーザーの気持ちを考えると複雑な心境になってしまった。
おそらく、この日を境にマザーはターテへの気持ちに真っ直ぐ向かってしまうのだろうなと予感させる場面でもありました。

そしてコールハウスが辿る運命のクライマックスが描かれていきます。彼らが立てこもってる建物の外では交渉人が大声で「新車は今修理中だし、仇であるコンクリンを連行してきたので出てきてほしい」と必死に呼びかけている。
後から知りましたが、コンクリンも実はアイルランド移民で白人たちからは差別的な目で見られる存在だったのだそうです。彼がコールハウスを執拗に侮辱した裏には、黒人でありながら凛とし自分自身への誇りを守り通そうとした姿に苛立ち嫉妬したことも原因だったのかもしれないなと思いました。かといってコンクリンのやったことは絶対に許されることではないんですけどね。

外の呼びかけを無視し続けるコールハウスたちを説得すべくブッカーが熱弁をふるう場面(♪Look What You've Done♪)はまさに魂と魂のぶつかり合いといった感じで息をするのも忘れてしまいそうになるほど没入してしまいました。
はじめは何を言われても頑なに受け入れようとせず抵抗の意思を見せていたコールハウスが、「自分の息子に黒人の真実を語るべきだ」と語りかけるワシントンの言葉に心を動かされた瞬間の場面は特に印象深かったです。それまで白人に復讐することしか頭になかったコールハウスの心に、ふと愛するサラとの記憶が蘇ってくるんですよね。ヤンガーブラザーが「騙されるな」と必死に訴えるなか、コールハウスの目にみるみる涙があふれ人間らしい感情が湧き上がってくるシーンは大きく胸打たれるものがありました(泣)。

残された愛する息子のためにも投降を決意したコールハウスが仲間たちに「お前たちの命を犠牲にはしない」と説得し解放する場面も本当に泣けた。コールハウスが仲間を思いやりながら熱く歌う♪Make Them Hear You♪も本当に素晴らしい名曲で涙腺決壊(泣)。特に白人でありながら彼の想いに共鳴し闘い続けたヤンガーブラザーとの別れの場面は本当に切なくてたまらなかったです…。やりきれない気持ちで子供のように泣きじゃくるヤンガーブラザーの肩を力強く抱きしめるコールハウス。二人の熱い友情に涙涙…。

その一部始終を人質として同じ空間で見つめていたファーザー。あの時間を共に過ごしたことで彼のコールハウスに対する気持ちは大きく変わったのではないかなと思いました。初めて同じ目線で彼と対峙しているように見えて…それがものすごく胸アツだった。コールハウスもその変化を感じたからこそ彼の前でだけ”弱音”を口にしたのではないだろうか…。「君の息子は元気だよ」と優しく語り掛けるファーザーの言葉にものすごくこみ上げてくるものを感じたんですよね(涙)。
でも、その平和な時間はほんの束の間で…。そこから先の展開にはもうなにも言葉がないというか…残酷すぎて胸が張り裂けそうになってしまった(号泣)。

この悲劇のドラマは決してファンタジーの世界だけのものではなく、実際に同じような出来事がアメリカで起こっていたのだろうな…。今もどこかで”負の連鎖”が繰り返されている。同じ地球に生まれた者同士なのに、外見や思想の違いで人は傷つけあい悲劇を繰り返してしまう。人間はなんと愚かな存在なのだろうと改めて思い知らされたような気がしました。

暴動事件が衝撃的な結末を迎えたその後もこの舞台では描かれている。ここでフーディーから「大公さん」のことが語られます。コールハウスとサラ以外の登場人物のその後がモノローグ形式で語られていくのがとても印象的でした。私が感じたラストシーンの光景は”希望”です。表現されていたのは、黒人も白人も移民も関係なく、人間同士が認め合う優しくて温かくて喜びに溢れた世界。

その後を生きる人々と、生きられなかった人々が笑顔で同じ空間に存在する光景に、有り得ないほど心が震え涙を止めることができませんでした(号泣)。この物語からしばらくすると、ターテたちユダヤ人にも暗雲が立ち込めることになるでしょう…。その未来がどうしても頭をよぎってしまい、幸せそうな笑顔を見ても胸が痛んで仕方なかったです。自分の中で色んな気持ちが混在するラストだった。

『ラグタイム』を見て何度涙腺決壊したか分からない。こんな素晴らしい名作ミュージカルに出会えたこと、それを演じ切ってくれたカンパニーの皆さんに感謝です。

長くなったので(汗)キャストの感想と後述は次のページにて。

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