ミュージカル『蜘蛛女のキス』2007.11.09マチネ

前回観劇した時はどうしても初演と再演の記憶が拭い去れず、正直かなりショックだった荻田演出の『蜘蛛女のキス』

あれからずいぶん自分の中で色々と葛藤しまして(苦笑)・・・“同じ題名・同じ音楽だけど別の作品である”とある程度腹をくくって今回観劇しました。 「別物」として観てみると・・・以前よりもこの作品を受け止められる余裕ができたような気がします。

それに今回は座席運がものすごくよかったんですよ!前回は前の方ながらも上手の端っこだったのですがこの日はなんと9列目ど真ん中。しかも、前二つがなぜかずっと空席だったので何も遮るものがなく・・・まさに絶好の集中できる環境だったわけです。そのおかげもあったかな。
ただ、受け止められたとは言っても「完全に」というのはやっぱりダメだったかなぁ。後半の演出が本当に全てだったと思う…。

以下、ネタバレだらけの感想です。しかも長いですし、結局プリンス版と比べてしまってる内容に…(苦笑)。 ご注意を。

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1回目に観劇した時は初日が空けて間もなかったせいか幾分役者さんたちの動きや心情が硬かったような印象もあったのですが、2度目の今回は公演を重ねてきたこともあってか良い具合に力が抜けている感じでストレートに感情が伝わってきて全体的にとても素晴らしかったです!
それが客席まで伝わっていたので、前回鈍かった反応もこの日はものすごく良かったのも嬉しかったですねぇ。たぶん一番嬉しかったのは石井さんかもしれません。前にも増してものすごく生き生きしてましたから(笑)。やっぱり客席の空気って大切ですね。

1幕については個人的に初演と再演に迫る感動が得られたと思ってます。

モリーナに関する最初の拷問が初演再演に比べるとちょっとくどくなってしまっているのだけは残念なんですが、それ以外はどのシーンもとても良かったんじゃないでしょうか。

特に心に染み入ったのは『Dear One』。モリーナ、ヴァレンティンがそれぞれ大切な人のことを想って歌うナンバーなのですが、過酷な状況下にいる彼らが想い描いた景色が本当に泣けるのです。個人的には“Dear One”のフレーズが無くなってしまった事は残念に思ってしまうのですが・・・それでもあの曲のクライマックス部分では思わず目を閉じて聞き入ってしまったほど感動的でした。

が!やっぱりあのマルタだけはちょっとどうにも受け入れがたかった…。いったいどういうイメージであんな宝塚メイクのマルタになってしまったんでしょうか…。あまりにも浮きすぎているしヴァレンティンとの釣り合いが全く想像できない(汗)。せっかくの美しいナンバーもあのマルタが出てくるせいで(演じている朝澄さんのせいではないんですが)、どこかちょっと興醒めしちゃってる自分がいるんですよ。それがなんだか悲しかったなぁ。

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もうひとつ1幕で泣けるナンバーが『マルタ』。狭い牢獄にたくさんの囚人を閉じ込めるという拷問の中でヴァレンティンが愛するマルタを想いながら歌うとっても美しいナンバーです。浦井くん演じるヴァレンティンの歌声はこのナンバーにかなり合っていたのではないでしょうか。繊細な心情が伝わってきてとても感動的でした。

が、演出的に牢獄の中ではなく外に出て歌う形になってしまっているのでヴァレンティンの哀しみが初演や再演の時ほど伝わってこなかったのがちょっと惜しまれます。宮川ヴァレンティンが涙を流しながら歌っていた姿に心から胸打たれたあの感動・・・まではやっぱりたどり着けなかったかなぁ。

ガブリエルの手紙のシーンも好きです。モリーナが心を寄せているウェイターのガブリエルですが、なかなかモリーナのほうを振り向いてくれません。「バレエのチケットがあるんだけど」とモリーナが嬉しそうに語っても「ごめん」と断られてしまって失恋した状態になっちゃうモリーナなんですが・・・この時の石井モリーナの表情がものすごく泣けます!!もう本当に寂しそうでなんか抱きしめてあげたくなってしまった。こういった心理描写が石井さん本当に上手くなりましたよね。感動しました。

これと平行して歌われるヴァレンティンの「最初の女」。歌詞が初演再演よりもちょっとリアルになってました(汗)。今回この「女」を擬人化して出しているあたりにちょっとしたショー的要素を感じましたね。

1幕でまたさらに泣けるのがモリーナと母親との交流シーン。モリヒネタンゴの合間に歌われる「恥じたりしない」は文句なしに泣けます。初風さんのお母さんが本当に優しくて温かくて・・・見ているだけで涙出てきますよ。そんな母親に罪悪感でいっぱいの石井モリーナが涙するシーンは何回見ても胸が詰まってしまいます。

石井モリーナといえば、ヴァレンティンを介抱したあとに歌う「彼女は女」も素晴らしかったなぁ。市村モリーナに匹敵するくらい好きでしたよ。ヴァレンティンへの切なくて苦しい恋心が痛いほど伝わってきて涙が出ました。
ただ、ヴァレンティンはそんなモリーナの気持ちに気づくはずもなくマルタの事を呼び続ける。でも、初演再演よりもモリーナへの気持ちの変化がちょっと乏しかったのが気になりました。結果的にこの違和感が最後まで続いてしまったという感じになったのかなぁ。

2幕に入ってからまずひとつ大きな見せ場がオーロラの再現映画“サンクトペテルブルクの悲劇”。モリーナがヴァレンティンに語る大好きな映画の話なんですが・・・ここはちょっとだけレベルダウンしたかも。

というのは、朝海さんのオーロラには感情の移り変わりみたいなものがほとんど感じられなくて感動的な「いい時代が訪れる」のシーンが全然胸に迫ってこないんですよ(ファンの方スミマセン)。初演と再演ではものすごく泣けただけに残念でした。 比べるのは良くないと思うんですが、麻実れいさんの素晴らしいオーロラを観てしまっているとどうしても朝海さんに魅力を感じないんですよね…(ファンの方、本当にスミマセン)。

そのあとに続くヴァレンティンの「Day After Tomorrow」。この作品の中でも特にビッグナンバーだと思うんですが、前回観たときよりも浦井くんがすごい頑張っていて良かったです。ヴァレンティンの心の叫びといったものが伝わってきました。

が、やっぱり如何せんどうしても声質が繊細なので体中にビリビリと染み入るような感動とまでいかなかったのがちょっと残念でした。初演と再演の宮川ヴァレンティンは本当に「魂の叫び」って感じがして頭から足先まで電流が通ったようにビリビリと感動したので、それとどうしても比べてしまうと物足りないんですよね…。浦井くんの頑張りはすごく認めるんですけど。

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逆に以前よりも感動したかもって思えるのがモリーナが母親に電話するところ。初演と再演では登場していなかったモリーナの母親の様子を舞台上に見せることで切なさが増していたように思います。ここは初風さんのママの演技が本当に泣けるんですよ…。それに呼応するように石井さんのモリーナがすがるように歌う… 感動的でした。

初演再演と異なり前回最も混乱したのがそのあとに展開されるモリーナ出所が決まったところから先のシーンです。ここからは本当に「初演再演を忘れる」ということに徹しました。モリーナとヴァレンティンの表情が見やすい席だったので、彼らに集中してみたんですが・・・そうすると浦井ヴァレンティンの葛藤というものが見えてきて以前とは幾分違う感情をもつことが出来ました。

モリーナ出所を機に革命の計画を実行させようとするヴァレンティンはモリーナが自分に抱いている愛情を利用します。前回観たとき、ものすごい浦井ヴァレンティンが策士のように見えて違和感を感じまくったのですが、今回は「それが罪だと意識しているが故に葛藤」して苦痛の表情を時折見せる姿が切なくて胸が痛みました。モリーナが捧げる無償の愛に対してヴァレンティンは偽りの形でしか過ぎない、それが残酷なことだと自覚しているのに革命への熱意は捨て去れないヴァレンティンという姿が見えてきて「哀しい、哀しすぎるぞ、ヴァレンティン」という気持ちが湧いてきちゃったんですよね。

ただ納得できないのがモリーナが出所して行った時のヴァレンティンの台詞。 「さぁ、うまくやってくれよ。お前は男なんだからな」 これはちょっとどうなのかなぁ。この台詞を言ってしまうと直前に交わされたモリーナへの「自分を辱めることはしないで」っていうヴァレンティンの気持ちが薄らいでしまうと思うんですよ。なんかここでヴァレンティンが一気に「黒」になってしまったようでやっぱり悲しかったなぁ。ちなみに初演再演では 「がんばれモリーナ、当てにしているんだ。男になれ!」 というふうにモリーナへの励ましの言葉に解釈できるようになってるんですよ。そこにヴァレンティンの優しさがあってモリーナはそんなヴァレンティンを愛していたんだと思ってきました。なので、荻田演出のヴァレンティンはちょっとあまりにもモリーナに対して冷酷だなぁという印象を持ってしまうんです。それが本当に残念。

そしてさらに違和感を抱いてしまうのがモリーナとヴァレンティンの別れ。これは前回も書いたのですが・・・モリーナの最期が映画版に近くなっているんですよね。つまり、モリーナはマルタへの電話をしている最中に捕えられてそのまま射殺されてしまう。

でも、ミュージカル版はモリーナとヴァレンティンの最期の台詞のやり取りがあるんですよ。初演と再演ではこの二人の会話に心から涙したので、今回の“モリーナが先に撃たれて、そのあとヴァレンティンがモリーナの魂と会話する”みたいな荻田演出がどうしても受け止められなかったし正直ショックでした。1回目に観たときはいったい何が起こっているのかわからなかったくらいですし(苦笑)。

あそこは“魂の会話”ではなく、“生の会話”にするべきでは。刑務所長もヴァレンティンに「お前もよく知ってる友達だ」と言っているわけで二人の実際の対面はミュージカル版では不可欠だと思うんです。

魂の対話だと、最後にヴァレンティンが「モリーナ!!」と叫ぶ意味がストレートに伝わらない…。ヴァレンティンの目の前で愛を告白したモリーナが撃たれることで最後の「モリーナ!!」が痛切に胸に響いてくるわけで…あそこを抽象的な演出に変えられてしまったのが本当に残念で仕方ありませんでした。 たぶんこう思ってしまうのは初演と再演を観て思いいれが深すぎる所以なんだろうなぁ…。 ラストの「Only in the Movie」で面白かったのが所長さんの立場。あまりにも現実世界で囚人達を酷使してきたがためにタンゴシーンでは誰も相手してくれずアタフタしてしまう結果に(笑)。看守さんたちはモリーナの世話係になってるし(笑)このあたりの演出は面白いなぁと思いました。 でも、ヴァレンティンとモリーナが踊るシーンがなかったことがすごく残念です。

そもそもこのシーン、プリンス演出だとモリーナが殺される瞬間に自分の人生を華やかに振り返るという意味で描かれていたのですが・・・荻田演出だとヴァレンティンも同時に殺されているように見えるので二人が描いた人生の夢舞台というふうに表現されているんですよね。だからなんだかあのシーンの視点がぼやけてしまっているように思えて仕方なかった。

なのでモリーナはヴァレンティンと踊ることが最後まで出来なかったし、ヴァレンティンはモリーナの目の前でマルタとイチャイチャしているまま・・・。 「あなたとの出会いが私を変えた」 というモリーナの歌詞があるのに、モリーナは一度もヴァレンティンと夢の中でも一緒に踊ることができないんですよ。これもショックでしたねぇ…。すべてモリーナの空回りで終わってしまっているようでなんとなく救われない。

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あと最後の最後、モリーナが蜘蛛女のキスを受け入れるというこの作品のテーマでもあるシーン。ここが暈かして終わってしまったのも実は違和感ありました…。キスをするかしないかのところで舞台の幕が降りてしまうんですが…そこはキスシーンを明確に見せてほしかったし、それを祝福する登場人物たちという演出も変えてほしくなかった。

疑問なのがマルタはヴァレンティンを本当に愛していたのかということ。マルタはモリーナからの電話でヴァレンティンのことを聞いても「関わり合いになりたくない」と言っているんです。それなのに、なぜか彼女はヴァレンティンにゾッコンのように最後まで描かれているわけで…なんだか彼女の存在が非常に分かりづらいんですよね。プリンス版ではマルタはあまりヴァレンティンに心から愛を捧げているようには描いてなかったのでさらに切なくなったわけなんですが…。

やっぱりあのヅカメイクが浮きまくってたのも一因かと(爆)。 あと、オーロラと蜘蛛女の境目が分からなかったのも残念。オーロラが演じている蜘蛛女という設定ではありますが、このストーリーの中では蜘蛛女は一人歩きしている状態でなければならないと思うんです。

朝海さんの蜘蛛女はオーロラの延長線上でしかなかったのが本当に残念でした。ダンスは美しくカッコイイしメイクも素敵でした。でも、印象に残らなかったんです…。ダンスシーンではアンサンブルのダンスのほうに目が行ってしまったほどでしたので(苦笑)。もう少しメリハリをつけた演技をしていただきたかった…。

なんだか最後は結局プリンスと比べてしまって愚痴が多い感想になってしまったような(苦笑)・・・すみません。それだけ自分の中で初演再演の「蜘蛛女のキス」の存在が未だに大きいと言うことを思い知らされたような気がします。 でも、石井さんのモリーナは本当に素晴らしかったし浦井くんのヴァレンティンも深みを増していたし、アンサンブルの皆さんの躍動感も見応えたっぷりでいい舞台でした。何より、再演してくれたことには本当に本当に感謝しています。 次回はやっぱりプリンス版の『蜘蛛女のキス』が観たいな…。このキャストでもう一度演じてほしいです。

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