日生劇場で上演中のミュージカル『ジキル&ハイド』を観に行ってきました。この作品は初演の頃からずっと観てるほど大好きなのですが、前回で鹿賀さんとマルシアさんが卒業ということであの当時は再演の予定もなく不安に感じていました。それだけに、今回キャスト一新でのリニューアル公演は嬉しかったですね。もうあれから5年も経ったんだ…。
ストーリーや楽曲がかなり好みなので複数回行きたいところでしたが、今月は金銭的に相当厳しかったので1回限りの観劇ということになってしまいました(苦笑)。なのでもう、気合入れてガン見ww。…っていうか、相当かぶりつきの席だったのであちこち視線を向けるのに大変でした(汗)。
舞台のセットが前回とずいぶん変わっていましたね。木造2階構造のセットが舞台の周りをぐるりと一周していて、役者さんたちの出や入りで頻繁に使われてました。そういった意味では前回よりも運動量が多い演出になっていたかも。そのせいか、舞台全体がちょっと小ぶりに見えたかな。広々とした空間というよりも、密室での空間といった印象がけっこう強かったです。
それから印象的だったのがロープを使ったセット。ルーシーのいる酒場「どん底」には上からたくさんの輪っか付きの太いロープが下がっていて…始めに見たときに"これ、何に使うんだろうか?"なんて考えてしまった。けっこう怖いイメージ(汗)。これが1幕ラストであんな使い方をされるとは…!あの演出はちょっと驚きましたねw。
あと、鹿賀さんバージョンと比較して思ったのが…ユーモラスなシーンがほとんどカットされたなってことだったかも。以前は緊迫したシーンの中にもちょっとした息抜きみたいなクスッとなるような場面がいくつかあったのですが、今回はほとんどそれが見られなかった。最初から最後までずーっと緊迫状態みたいな感じ。それはそれでスリリングでいいんだけど、私としては前回までの演出のほうか好きだったかも。次回再演されるときには復活してほしいようなシーンとかいくつかあったな…。
キャストは全体的に以前よりも若返りました。特に若いなぁ…と思ったのが侯爵夫人。前回までは荒井洸子さんでしたからねぇ。なんか急に若返ったな…とか思ってしまったw。でも、皆さんなかなかの熱演で全体的にとても勢いがあって素晴らしかったです。
主なキャスト
ジキル&ハイド:石丸幹二、ルーシー:濱田めぐみ、エマ:笹本玲奈、アターソン:吉野圭吾、ストライド:畠中洋、執事プール:花王おさむ、ダンヴァース卿:中嶋しゅう、プループス卿:KENTARO、グロソップ将軍:石山毅、サベージ伯爵:石飛幸治、ベイジングストーク大司教:若泉亮、ビーコンズフィールド侯爵夫人:岡田静 ほか
以下、ネタバレ含んだ感想になります。
演出の点で気が付いたことをいくつか。
冒頭でジキル博士が父親に向かって歌うシーン、以前は「闇の中で」オンリーだったのが今回から「知りたい」というナンバーが追加されたようですね。なんだか聞いてて"あれっ、今までよりもこのナンバー長くないか?"って思ってしまったw。石丸さんが熱唱しててとても素晴らしかったのですが、これまで短いプロローグとして観てきたのでちょっと違和感も覚えてしまいました。個人的には以前の演出のままのほうがスッキリとストーリーに入れていいような気がするんだけど…。
ちなみにお父さんは精神病棟に入っているわけですが、以前のように囚人のように牢屋みたいなところにいるっていう感じの演出にはなっていませんでしたね。個人的にはこれに限ってはこの演出のほうが良いと思います。
あと、理事会のシーンでジキル博士が薬を持って現れるところ。たしか前回まではストライドに指名されてから出てくるまでに時間がかかってて参加者がブーブー文句言ってたと思うのですが(笑)、今回は意外とすんなり現れてて参加者たちは「早く終わらせろよ」と口々に文句言ってましたw。遅刻しなくなったんですね、ジキル博士(笑)。
どん底ショーのルーシー登場シーンは中央ではなく下手階段からということになりました。中央からババーンと出てきたほうがインパクトはあったと思うのですが、今回はセットの2階部分をかなり多用していたのでああいった登場もなかなかいいかも。でも、最初に色っぽい踊りをするところで、濱田さんが2階部分のかなり先端部分で動いていたので"落ちないかな…"とか余計な心配をしてしまった(汗)。
一番印象的だった変更点はハイドによる暴走シーンですね。
1幕ラストに司教様がやられてしまうのですが、例のロープがここで生きてきます。寸前のシーンで街の人たちがやたらロープに荷物を括り付けていたので"何やってんだろう?"と不思議に思っていたのですが…このロープに吊るされた荷物がハイドに操られて司教に襲い掛かってくる演出になってたんですよ!あれはある意味怖い!!観ていて思わず"若泉さん、逃げてぇぇ"って思っちゃったよw。ボックスが落ちてくるところなんか手に汗握ってしまった…。いやぁ、あれ、お稽古も大変だったのでは?で、結局最後に落ちてきた荷物につぶされて、挙句に炎に追いかけられてついに…みたいなところで終わります。
これ、前回まではハイドが司教様を追いかけまわしながらステッキで刺しまくって最後は炎の中で串刺し…みたいなやたら残忍なシーンだったんですよね(汗)。これが今の時代にそぐわないと判断されたんでしょうか。今回はトドメの部分までは見せずに幕が下りたって感じ。前回までの記憶がかなり色濃かった私は"なんだかちょっとソフト路線になった?"とか感じてしまいました(爆)。
ところが、2幕の連続殺人シーンは…ある意味前回よりも怖くなってました(汗)。特にKENTAROさん演じるプループス卿のシーン。片目をグッサリ貫かれて大変なことになってました(驚)。かなり間近で見えてしまったのであれはさすがにゾクっときましたねぇ…。
さらに残忍さが増していたのが最後に殺されるサベージ伯爵。周りの人がみんな死んでしまって怯えまくっているわけですが、前回まではハイドがその様子をずっと見てて…それを目撃した伯爵がショック死してしまうって演出だったんですよ。鹿賀ハイドが「何もしないのに死んだ」って言うセリフが面白くて毎回クスッとなっていたんですけど…今回はそうじゃなかった。怯えながらベンチに座ってた伯爵の後ろから縄を持った手が出てきて絞殺されてしまいます…。「何もしないのに死んだ」っていうのを想定していただけになんだかすごいショックだった。このシーンは前回の演出に戻してほしい気がする…。
ルーシーとエマがジキルを想って歌う「その目に」の演出もちょっと変わりましたね。前回までは上手と下手奥にお互いの居場所があってそこから歌い階段から降りてきた二人に光が当たるみたいな雰囲気だったのですが、今回は無の状態から二人が上手と下手に分かれ、クライマックスのところですれ違い光を当てるといった感じになってました。どちらかというと精神世界って雰囲気だったかな。
二人がすれ違うシーンはとても印象的でよかったです。これ冒頭の「嘘の仮面」ナンバーのときにも二人が背中合わせになるって演出があるんですよね。このシーンと重なる感じでなんだかとても良かったです。
久しぶりにジキハイの音楽を聴いたわけですが…やっぱり素晴らしい!ドラマチックで勢いがあるしググっと惹きつけられる。ワイルドホーンの作品はいくつか見てきましたが、個人的にはやっぱりこのジキハイが一番だなぁと思いました。
指揮棒を振るっていたのはミュージカルファンにはおなじみの塩ちゃん、こと、塩田明弘さん。奏でられる音楽はやはり躍動感があり舞台を盛り上げてくれました。カテコでの超ご機嫌な笑顔が面白かった(笑)。
以下、キャストの皆さんについて少々。
ジキル&ハイド@石丸幹二さん
四季を退団されてから次々に新しい役柄に挑戦し続けている石丸さん。今回はまた相当難易度が高いものにチャレンジされたなぁと思いました。なにせ超二重人格ですからねぇ…。ジキル博士はどちらかと負担は少ないと思うのですが、ハイドは極悪非道の人物ですから…優しくて穏やかな石丸さんにはかなりハードルの高い難しい役柄だったのではないかと。精神的負担もけっこう大きかったようで、公演中盤あたりでは無理がたたり喉が調子悪くなっていたと聞いていて心配していました。
が、この日の石丸ジキル(ハイド)は喉の調子の悪さはほとんど感じさせず素晴らしい声量での熱唱でした!かなり近い席での観劇だったのですが…石丸さん、改めて見ると…本当にとてもきれいな顔立ちをしておられる。そのことにまず感動(笑)。印象的だったのはハイドに変わってからの目ですね。獲物を捕らえるようなギラギラした眼差しにドキリとさせられました。もう、とにかくの熱演で…!その姿を見るだけでもちょっと胸が熱くなりました。
ただ、ファン目線を捨ててちょっと冷静に見てみると…、ジキル役はすごく石丸さんに合っていて誠実な雰囲気がいいなぁと思えたのですがハイド役になると凄味が足りないかなぁと思ってしまった。これは私がずっと鹿賀さんを観続けてきてしまったからだと思うのですが…どうしても頭の中で比較してしまうんですよね(汗)。石丸ハイドも精いっぱいの悪を表現してるんですけど、野獣のような凄味はどうしても鹿賀さんのほうがリアルだったし印象深かったんですよ。石丸ハイドは野獣というよりも亡霊ってイメージだったかな。あ、それだとトート閣下になっちゃうけどww。ハイド役にはもう一つ突き刺さるような何かが欲しいんですよね。狂気と痛み…みたいな。その部分がまだ石丸ハイドだとちょっとオブラートに包まれてしまっているような気がしました。
それから、ジキル博士。鹿賀さんに比べると本当にものすごい生真面目な印象だった。融通の利かない生真面目な石丸ジキル。その一途なまでの真面目さもある意味個性的でよかったのですが、個人的にはもう少しユーモア効かせても良かったかなと思ってしまいました。特に実験シーンで薬を飲んで記録するシーン。鹿賀ジキルは「塩味」とか「行動に異常なし」とか書くときのセリフ回しがなんだかちょっとユーモアがあって可愛かったんですよ。それが好きだったのでね…。石丸ジキルは超真面目にそこを演じてたので、同じシーン・同じセリフでもずいぶんイメージが変わるんだなと思いました。
でも、ジキルとハイドが入り混じって混乱するシーンなどは鬼気迫るものがあってよかったです。なんとなく、石丸さんご自身が新しいイメージを取り入れようともがいている姿と重なるような感じがして…そういった意味ではとてもリアリティのあるシーンだったなと思いましたね。次に再演されるときにはさらに進化した姿を見せてくれると思うので楽しみです。ちなみに、ジキルの髪型は公演途中で後ろに縛るように変わったようですね。それまでの髪型がけっこう不評だったようですがw、ある意味そちらも観てみたかった気がします(笑)
あ、カーテンコールのときの石丸スマイルは本当に癒されました~。あの笑顔が本物の石丸さんだな、なんて。お人柄がものすごくにじみ出てた素敵な笑顔でした。
ルーシー@濱田めぐみさん
四季を退団された濱田さんを最初に見たのは今年頭にあったミュージカルコンサートが最初でしたが、こうして舞台に立つ姿を見たのはジキハイが初めてになります。四季ではものすごい強烈な存在感を示していた濱田さんが外に出てどのように見えるのか…色んな意味で観る前から楽しみでした。ちなみに私が最後に彼女を見たのはアイーダでしたから…(マンマはある事情で敢えて見なかった 爆)本当にお久しぶりです。
ルーシー役に濱田さんが決まったと知った時には"合うかも"って漠然と思いました。すごい自分の中でピンときたんですよね。でも、これもどうしても以前のマルシアさんのルーシーと比べてしまう部分があって…。マルシアさんのルーシーは本当に鮮烈な印象でしたから、それに比べるとどうしても濱田ルーシーは線が細く見えて仕方なかった(汗)。特に「どん底」でのシーン。ルーシーはトップの存在として歌い踊るわけですが、今ひとつ迫力不足かなぁと思ってしまいました。あと一歩突き抜けたカリスマ性みたいなものが欲しいなぁ…なんて。マルシア@ルーシーの迫力がいまだに私の中で残ってるせいでもあるんですけどね(←あの当時、本当に圧倒されたので)。
それともう一つ、ルーシーのこれまでの生き様みたいなものが見えてこなかったのも少し残念。娼婦として生きてきた退廃的な雰囲気というものが特に1幕感じられなかったんですよね。何となくサラッとした感じ。もう少しルーシーの過去が見えるような芝居が観たかったなと思ってしまった。
だけど、それ以外の部分では本当にさすが!!の一言。線が細いっていうのはありましたが、そのぶん、はかなくて切ないんですよね。ものすごく繊細でポキッと折れてしまいそうな雰囲気。ジキル博士の前ではすごい乙女で可愛らしいんですよ。思わず彼女に感情移入してしまう。誰か支えがいないと生きていけないって感じの濱田ルーシーだった。これはすごく意外な発見。もっと気丈なグイグイした迫力あるルーシーになるかもって思っていたので、繊細な濱田ルーシーがとても新鮮に映りました。
一番それを感じたのが2幕の「新たな生活」。前回公演までのときもこのシーンは切なくてウルウルしていたんですが、今回はかなり泣きました(涙)。濱田ルーシーのあまりの健気な喜び方にこみ上げること数回…。少女のようにピュアで可愛くて、ジキルとの未来を純粋に信じていて…あんな幸せそうな顔で歌われたら本当に泣けて仕方なかったですよ(涙)。こういった感情表現ある歌い方は本当にさすがだなぁと思いました。そのあとのシーンがね…本当に残酷なので…それがあたまにありながら見ると…。とにかくここのシーンは本当に素晴らしかった!!
カーテンコールでも会心の笑顔でしたね。この後も次々に舞台が決まっているようですし色々楽しみです。
エマ@笹本玲奈さん
これまで何人かのエマを見てきましたが、笹本さんのエマはとっても気品があってそれでいて気丈で印象深かったです。石丸さんと並んでいて…すごくしっくりきましたし。というのも、これまではなんだか親子に見えて仕方ないっていうコンビばかりだったので(笑)。ここにきて初めて二人並んで釣り合う姿を見られたなとw。
歌い方も最初は不安定だったとのことですが、私が観に行った日はとても安定感ありましたよ。貫禄すら感じたし。優しさよりも芯の強い女性ってイメージが大きかったかな。肌もつやつやで美しく気高い笹本@エマでした。
アターソン@吉野圭吾さん
始めキャスティング聞いたときに吉野さんがストライドではないかと思ったのですがw、アターソン…ジキルの友人でしたね。この役はダンスするシーンがないのですが、街に出てアンサンブルと一緒に出てくるときとかの身のこなしっぷりがさすがにすごくキレがあって目立ってました。
この芝居全体の中で唯一ソフトな部分を出していたのが吉野アターソンだったかな。石丸さんのジキルが本当に生真面目な雰囲気だったのでなおさら吉野アターソンの明るさが立っていたように思います。ラストシーン、銃を手にした自分に恐れを抱いて苦悩する表情がとても印象的でした。
ストライド@畠中洋さん
舞台の畠中さんを観るのは何年振りだろうか!ファンなんですけど、ここ最近はなかなか畠中さんの舞台が見れなかったのでご無沙汰になってしまいました(汗)。キャスティングされると知った時には嬉しくてアターソン役かなと思っていたのですが、敵役のストライドに。しかしどんな役でも器用にこなせる畠中さんならば面白いストライドが見れるんじゃないかなととても期待していました。
その期待に見事応えてくれる畠中さん!なんだかちょっとまたお若くなりました!?ジキルの前でのあの超不機嫌っぷりがやたら面白かったですよ。エマを自分のものにしたくてストライドはよくちょっかい出してくるわけですが、あの自信過剰な表情とかも目を惹きます。ジキルの前での露骨な嫌味な顔とか、本当にとにかく色んなイライラ顔を披露してくれてww目が離せなかった。石丸さんとは「ニューブレイン」で恋人同士だったのにねぇ、みたいに見るとさらに面白かったりして(笑)。
あとはやっぱり歌声!相変わらず透き通る美しいキレのある歌声で…!ストライドの悪っぷり溢れる声も聞いててスコーンと突き抜けていてカッコいいんですよ。やっぱり畠中さん好きだなぁ。石丸さんのジキハイも素敵だったけれども、芝居で魅せられるジキハイといった点では畠中さんのほうがもしかしたら上手くこなせるかもしれないと思いました…というか、観てみたいと思いましたね。
ダンヴァース卿@中嶋しゅうさん
エマの父親役の中嶋さん。この方はよくストプレでお見かけするのですが…ここまで歌う役というのは初めてじゃないでしょうか。エマの父親としての繊細なお芝居はとても良かったしカッコよかったのですが…歌がちょっと…(苦笑)。とにかく周りが歌える人ばかりでしたのでなおさら浮いてしまったのかも…。それが本当に残念だったな。
カーテンコールでの皆さんの開放感あふれる笑顔がとても素敵で、みているこちらも笑顔になりました。吉野さん、畠中さん、濱田さんが三人並んでいると…解散前の音楽座メンバーって思っちゃった。その当時の話をしたりしているんだろうか、とかいろいろ想像したりしてw。
何はともあれ、新生『ジキル&ハイド』もとても楽しめました!また近いうちにこのメンバーでの再演が見てみたいです。