2019年最初のミュージカル観劇は、ミュージカル『マリー・アントワネット -MA-』でした。
博多で公演が始まったのは昨年秋でしたが、そこからツアーに出たので最終地の大阪は年明けでの上演となりました。公演を重ねて熟成した作品が見られるというのはけっこう嬉しい(話題には遅れてしまうけど 苦笑)。
梅芸ではだいたい入口すぐのところに大きなパネルがあることが多いのですが、いつもそこが撮影で混雑してしまってちょっと大変なことになっていたんですよね。
それを鑑みてか、今回は一つ上がったロビー奥に設置されていました。あそこならスペースもあるし、比較的余裕を持って撮影できるので今後もそうしてほしいなと思います。
キャスト全員の写真にサインもついた豪華なパネル!なかなか素敵~!
でも、ふと気づいてしまった。フェルセン役が古川くんしかいないことに…。この時初めて、大阪に万里生くんが来ないことを知りました(苦笑)。うーーーん、残念!地方だと「来れないキャスト」っていうのが出ちゃうのがほんと無念なんだよなぁ。そういう格差はなるべくなくしてほしいんだけど…。
ということで、今回「全キャスト制覇」のつもりでチケット取ったんだけど・・・万里生くんだけは見ることができませんでした。なかなか難しい(汗)。
以下、ネタバレを含んだ感想になります。
2019.01.11~12 マチネ公演 in梅田芸術劇場(大阪)
主なキャスト
<19.01.11マチネ>
- マリー・アントワネット:花總まり
- マルグリット・アルノー:昆夏美
- ルイ16世:原田優一
<19.01.12マチネ>
- マリー・アントワネット:笹本玲奈
- マルグリット・アルノー:ソニン
- ルイ16世:佐藤隆紀
<主なシングルキャスト>
- フェルセン伯爵:古川雄大
- レオナール:駒田一
- ローズ・ベルタン:彩吹真央
- ジャック・エベール:坂元健児
- ランバル公爵夫人:彩乃かなみ
- オルレアン公:吉原光夫
アンサンブルで印象的だったのは、青山航士さんのロベスピエールと、杉山有大くんのダントンでした。
「1789」ではメインキャストだったロベスピエールとダントンでしたが、この作品では少ししか登場しないということでアンサンブルキャストということになっています。が、それでも二人の存在はとても輝いていてカッコよく凛々しかった!!
で、驚いたんですが・・・杉山君はこの舞台を以て役者を引退してしまうのだそうです(涙)。もっと大きな役で活躍できる役者さんなのにってずっと思ってきただけに本当に残念…。
でも、次の新しい人生も頑張ってほしいです。これまでお疲れ様でした。
マリー・アントワネット無事に終わりました
これで俺の役者人生の幕が降ります
今日の裁判のシーン、新たな発見がありました!
また明日も試したい!
という気持ちで終わるのも、俺らしいかな?と思います
5ヶ月公演やり切ってお腹いっぱい!
最後にマリーアントワネットでみんなに会えて俺は幸せです pic.twitter.com/fcFU9sonS9— 次回配信2月7日! (@alihiro) January 15, 2019
そして、一緒に写っている真記子さんも引退されてしまうのだそうです…。ラ・モット夫人が最後だったのか…。
ミュージカルの舞台でよくお見かけしていた女優さんだっただけにとても寂しい。
新しい道でも頑張ってください。
あらすじ・雑感
このミュージカルはフランス王妃のマリー・アントワネットを主人公に、フランス革命の悲劇を描いた作品です。原作は、遠藤周作「王妃マリーアントワネット(上)(下)」になります。
マリー・アントワネットと同じイニシャル「M.A」を持つマルグリット・アルノー(架空)を登場させることによって、フランス革命当時のそれぞれの立場を対比して描いているのが大きな見どころ。
アントワネットは王宮で浪費三昧な日々を送っているのに対し、マルグリットは一日の食事もままならないほどの極貧生活を送っている。立場が全く違う二人の感情の歪みがやがて大きな悲劇へと発展してしまいます。
あらすじは以下の通り
18世紀、フランス。国王ルイ16世(佐藤隆紀/原田優一)統治の下、飢えと貧困に苦しむ民衆を尻目に王妃のマリー・アントワネット(花總まり/笹本玲奈)を筆頭とする上流階級の貴族たちは豪奢な生活を満喫していた。
パレ・ロワイヤルで開催された豪華な舞踏会で、圧倒的な美しさを誇るマリーは愛人のスウェーデン貴族・フェルセン伯爵(古川雄大)とつかの間の逢瀬を楽しむ。夢のような舞踏会の途中、突然飛び出した貧しい娘・マルグリット・アルノー(ソニン/昆 夏美)は民衆の悲惨な暮らしについて訴え、救いの手を求めるが、返ってきたのは嘲笑だけだった。マルグリットは貧しい人々に目もむけず、自分たちのことしか考えない貴族たちに憤りを覚え、やがて貧困と恐怖のない自由な世界を求め、フランス革命への道を歩み始める。
マリーはヘアドレッサーのレオナール(駒田 一)、衣裳デザイナーのローズ・ベルタン(彩吹真央)を抱え込み、最先端のファッションの追及に余念がない。が、宝石商のべメールから無数のダイヤモンドが散りばめられた高価な首飾りを売り込まれるも、国家予算が逼迫する中、さすがにその申し出は断らざるを得なかった。
同じ頃、それぞれの理由で国王夫妻を失脚させようと企むオルレアン公(吉原光夫)、革命派の詩人ジャック・エベール(坂元健児)、そしてマルグリットは王妃に関する嘘のスキャンダルを流す。マリーがべメールの持っている首飾りを欲しがっていたことに目をつけたオルレアン公の権謀術数によって、かの有名な「首飾り事件」を引き起こす。やがてその波紋は広がり、王室に対する民衆の怒りと憎しみは頂点に達するが、かねてより病床に臥していた皇太子が夭逝したこともあり、悲しみに暮れる国王夫妻には、革命への警告も耳に届かなかった。
やがて革命の波はパリにまで押し寄せ、国王一家は囚われの身となる。マルグリットは王妃を監視するため王妃の身の回りの世話をすることになる。憎みあっているマリーとマルグリットだったが、やがてお互いの真実の姿を見出してゆく。フェルセンは愛するマリーと国王一家を救うために脱出計画を立てるものの失敗し、一家はパリに幽閉されてしまう。
やがてルイ16世はギロチンで処刑され、最後まで王妃の傍にいた友人・ランバル公爵夫人(彩乃かなみ)も暴徒に襲われて命を落とす。マリーは公正さに欠ける公開裁判にかけられ、刑場の露と消える。今まで王妃に対する憎しみを原動力にしてきたマルグリットは、地位も、夫も、子供も、全てを奪われ、必要以上に痛めつけられている等身大の王妃を間近で見て、真の正義とは何か、この世界を変えるために必要なものは何か、自分に問いかけるのであった…。
公式サイトより引用
初演は2006年11月の帝国劇場。日本が世界初演の場となっていたので、当時大きな話題となりました。福岡と大阪のツアーを回ったあと、翌年2007年には再び帝劇で凱旋公演も行われました。
当時は関東に住んでいたので、初演と凱旋公演を観ています。初演4回、凱旋1回の合計5回w。
けっこうな回数を通っていますが…「気に入ったから」ではなくて「世界初演ってことだからと最初にチケットを多く買いすぎた」というのが正直のところだったりします(汗)。
過去記事を見ていただければ察するものがあると思いますがww、この作品に対するテンションは決して高くはなかったんですよね。ようやく3回目か4回目に「これもありかも」みたいに思えてきた…みたいな感じで、どちらかというと”辛口”な感想の方が多かったんです(苦笑)。
凱旋公演に行ったときに至っては、初めて帝劇の客席が穴だらけというのを目の当たりにしてビックリしたことを今でもはっきり覚えています(汗)。
ちなみに凱旋に行った理由はたしか「キャストが少し入れ替わったから」っていうのがあって。キャストは熱演でよかったんだけど、いかんせんストーリーには最後まで納得することができなかったんですよねぇ。
そのあとドイツへ持って行くという話を知った時には「やめたほうがいいんじゃないか…」とすら思ったほどでした(苦笑)。現地の評判はどうだったかは知らないんですけど…どうだったのだろうか。
そんなわけで、この作品はもう再演されることはないだろうと思っていたんです。それ故に、昨年「MA再演」の話が出た時はめっちゃビックリしましたw。あの凱旋公演での帝劇のガラガラな風景も頭をよぎり…大丈夫なんだろうかと本気で心配したんですよ(苦笑)。
ただ、4‐5年前に韓国公演で大幅な改変が行われたということを聞いたので…それならちょっと見てみたいと、今回チケットを取ることにしました。12年前に感じた違和感だらけの作品がどれだけ変わったのか興味があったんですよね、観劇好きの私としてはw。
で、実際に見て感じたのは…初演よりも主題がハッキリとして見やすくなったなということでした。このくらいスッキリしていた方がいいと思います。とにかく初演は登場人物がやたら多くて、誰が主役になってるのか混乱することもあったほどだったので(苦笑)。
初演当時のまぁまぁ詳しい(?)感想は以下の記事に書いてあるので、興味がありましたらどうぞ。
全体感想
初演の記憶はもうほとんど薄れてしまったので、パンフレットやCDを持ち出してちょっと復習してみました。
まず一番大きな相違点は、登場人物が絞られたっていうことですね。マルグリットに味方していたシスター・アニエスや、怪しい存在のボーマルシェといった、初演でフィーチャーされてた人物が今回は出てきません。
個人的には、初演の時に最後まで存在理由が謎だった「カリオストロ」が登場しなくなったことが一番大きかったなと。演じていた祐一郎さんは存在感があってさすがだと思ったんだけど、ストーリーの中にいる必要性というものは感じなかったので出てくるたびに疑問符ばかりが湧いてました(苦笑)。
なので、今回登場しないことはちょっとホッとしたんですよね。
シスター・アニエスはマルグリットの理解者として描かれていましたが、今回彼女が登場しなくなったことでマルグリットの暴走を止める人がいなくなり、盲目に王妃排除へと突き進んでいく展開になっていたのも特徴的。
それ故、最後の最後にマルグリットがアントワネットを理解した時の切なさや悲しみというのが分かりやすくなっていたと思います。
暗躍してたボーマルシェがいなくなったところは、ヘアデザイナーのレオナールやマルグリットの協力者として近づくエベールにその役割が分担されていた印象でした。上手い具合に振り分けたなと思ったし、ドラマとしても分かりやすくてよかったと思います。
もう一つの大きな変更点は、主役の比重がマルグリットではなくアントワネットに寄ったことです。
初演はマルグリット側に比重が置かれていたので、アントワネットはかなり「浅はか」な人物として描かれていて、2幕で彼女が追い詰められていく展開になってもあまり感情移入できなかったし、最期の場面も淡々と見ていたような気がします(汗)。
今回はアントワネットに比重が置かれていたからか、以前とは違ってところどころ「そうなっちゃうのも仕方なかったかも」といった共感できる部分が多くなっていました。
アントワネットの変化として印象的だったのは、初演ではマルグリットに出会った時にシャンパンを彼女に浴びせていたところが、逆にひっかけられて「許します」と寛容な態度を示したこと。
以前ここでは「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」という貴婦人の言葉にアントワネットも一緒になって笑ってましたからね(汗)。再演ではその言葉が出た時にはフェルセンと一緒に席を外して聞いていなかったという表現に変わっていたので、アントワネットの【罪】な部分がなくなっていたなと感じました。
あと、ルイ16世が「浪費は控えた方がいいよ」と忠告したら素直にそれに従おうという姿勢を示したこと(初演ではアントワネットはルイのことをバカにしてる雰囲気がかなり強く出てたので 汗)。
その他にも以前より尖った部分が少なくなったなというのを感じました。
初演では貧しい暮らしをしていたマルグリットに焦点が置かれていたので、アントワネットは敵としての”悪女”という側面が強く出過ぎていたような気がするんですよね。
改変された再演ではそれが薄らいで、アントワネットは彼女なりに王妃としての品格を備えていたし、他人を卑下するような性格でもなかったというところが表現されていたのはよかったです。
マリー・アントワネットの一番大きな罪は、恋人のフェルセンから再三忠告されていたにも拘らず現実から目を逸らし続けたこと。厄介ごとに巻き込まれるのを嫌って、ひたすら夢の世界にしがみつこうとしたことが彼女を破滅へと導いた。
その部分が浮かび上がるような展開になっていて、初演の頃よりもアントワネットの人間的な部分が鮮明になっていたのも印象深かったです。
マルグリットは2幕の途中までアントワネット排除に目をギラギラさせて突き進んでいくわけですが、初演よりも激しさが増したという印象が強かったかも。目的達成のためなら手段を選ばず的なところがクローズアップされてて、けっこうゾクっとさせられることが多かった。
ちなみに、マルグリットがオルレアン公の屋敷に飛び込んでくる最初の場面ですが、なぜ彼女がそこへ飛び込んできたかの過程は再演ではザックリと省かれていたので(汗)、そこの部分はハテナになる人も多かったかもしれません。
初演では、ボーマルシェがマルグリットから偽の金で花を買っていて、それに気づいた彼女が怒り狂って後を追ってきたらオルレアン邸だったという設定だったんですよね。再演にはボーマルシェが存在してないので、どういう目的で潜り込んだのかは「アントワネットに文句付けたいから」といった抽象的な表現にとどめていてちょっと分かりづらかったかも(苦笑)。
マルグリットの変化で一番印象的だったのが、女たちにバスティーユへのデモ行進を呼びかける場面。
マルグリットは今の世の中を本気で変えたいという意思があっての行動だったけど、他の女たちは「厄介ごとは御免だ」とばかりに彼女の呼びかけに耳を貸そうとしない。ところが、オルレアンやエベールが金銭をチラつかせた途端に態度が急変してバスティーユへと向かっていく。
この時にマルグリットの中で小さな心境の変化が見られたのがとても印象に残りました。心が荒んでしまった民衆の黒い感情に初めて気付かされたって感じで…、彼女はきっとこの時から自分の行動に少しずつ違和感を覚えていったのかなと思いましたね。
それ故、アントワネットの側にスパイとして潜り込んだ後、次々に悲劇に襲われていく彼女を見て攻撃心が薄らいでしまった展開に説得力が出てたなと感じました。
クライマックスで処刑場へ向かうアントワネットが崩れ落ちた時、思わず体が動いて彼女に手を差し伸べるマルグリットの場面はグッとくるものがありました。
フランス革命というのは、単なる正義の戦いではなく、心を病んで暴徒化した民衆の残虐性が引き起こした事件だったという側面が大きい。そのことを認識させるストーリーになっていたのも初演とは違ったところだなと思いました。
最新の研究で、アントワネットはかつて言われていたほど「悪女」ではない…といったことが分かってきたようなので、時代が変わって描かれ方も変化したのかなぁと。
”首飾り事件”の描き方も、初演よりも「アントワネットはこの件に関しては巻き込まれてしまっただけんだな」といった同情的な見方ができるような感じになっていました。
新しく加わったナンバーも多く(消えていったナンバーも多かったけどw)、登場人物の役割をハッキリさせていったことでストーリーのテンポも以前よりずっと良くなっていました。
ラストシーンも、ただ暗く重い雰囲気で幕を閉じた初演と違って、グランドミュージカルらしく全員で主題を歌い上げていたのもとても良かったと思います。
ただ、暗転が多く入るのはちょっと気になったかなぁ。ここ最近のミュージカル作品は場面転換もうまく繋げているものが多いので、シーンが終わるごとに暗転するといったスタイルがちょっと古く感じてしまった(苦笑)。
それから1幕で、マルグリットが民衆の先頭になって♪もう許さない♪のナンバーを歌い上げたあとに席を立とうとしたお客さんが多数w。
ビッグナンバーでバーンと印象的に区切った感があるので、「ここで1幕終るんだな」って勘違いしてしまっても仕方ないよなと思っちゃったけど・・・そのあとにアントワネットとフェルセンのストーリーが出てくるのでね(汗)。そこを予感させるような演出にした方がいいんじゃないのかな、とちょっと感じてしまった。