大阪梅田のシアター・ドラマシティで上演されたミュージカル『パレード』を観に行ってきました。
2017年に上演されてから4年を経ての日本再演、待ってました!!初演を見たときに大きな衝撃を受けた『パレード』。2017年の個人的ベスト5で1位にしたほど私の心を大きく揺さぶった作品です。
※2017年公演感想↓
大阪は未だに新型コロナ禍の影響が色濃かったので正直出て行くことはかなり勇気がいったのですが、再演された折には這ってでも観に行きたいと思っていたので十分に対策をしたうえで大阪に向かいました。
『パレード』は東京で1月15日公演スタートする予定でしたが、カンパニーの中に感染者が出てしまったことで一時は上演されるのかどうかも危ぶまれる声すら…。祈るような気持で見守っていましたが、4公演分が中止になった後に無事開幕し東京公演楽まで終えました。途中武田さんのアクシデントなどあり心配しましたが、皆さんで助け合いながら東京公演を上演しきることができて本当によかったです。
ただ一つ残念だったのが、初演でローン判事を演じていた藤木孝さんがもういらっしゃらないことです…。再演も同じ役で出演が決まっていたのに、足早にこの世から去ってしまわれた。それだけが本当に悲しく居たたまれません(涙)。あの舞台にもう一度立っていただきたかったです…。
様々な困難を乗り越えての大阪公演、感無量でした…!観に行けて本当に良かった…!
本日から、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて大阪公演が始まります✨
17:00開演となっておりますので、ご来場くださる皆様、お気を付けてお越し下さい‼️ pic.twitter.com/Yws2MJi8nQ— ミュージカル『パレード』 (@parade_musical) February 4, 2021
劇場側の感染対策もかなりしっかりしています。話し声もほとんどありませんでした。観劇ファンの皆さんがこうして懸命に対策を取ることで舞台演劇は続くことができるんだと思います。
客入りは…正直かなり厳しいです。緊急事態宣言真っ只中ですし、4日は超良席だったにもかかわらず両隣は空席でした(自然とディスタンスされてたのはよかったけどちょい複雑だった 汗)。
今の時期は「絶対観に行った方がいい!」と大きな声で言えないのが本当に悔しい。確かにストーリー的には相当シビアなシーンも多々出てくるのですが、それ以上に魂が震える瞬間がこれでもかと押し寄せてくるすごいミュージカルなのですよ。こんな時代じゃなければもっと多くの人にこの作品の魅力を知ってほしかったなと…。
以下、がっつりネタバレを含んだ感想になります。
2021.02.04ソワレ~05マチネ in シアター・ドラマシティ (大阪・梅田)
主なキャスト
- レオ・フランク:石丸幹二
- ルシール・フランク:堀内敬子
- ブリット・クレイグ:武田真治
- トム・ワトソン:今井清隆
- ニュート・リー:安崎求
- ミセス・フェイガン:未来優希
- フランキー・エップス:内藤大希
- ジム・コンリー:坂元健児
- ルーサー・ロッサー:宮川浩
- サリー・スレイトン:秋園美緒
- ミニー・マックナイト:飯野めぐみ
- メアリー・フェイガン:熊谷彩春
- ローン判事:福井貴一
- ヒュー・ドーシー:石川禅
- スレイトン知事:岡本健一
初演と同じく、レオ役の石丸さんとルシール役の堀内さん以外は皆さん複数役をこなされています。
宮川浩さんはロッサー弁護士以外に2幕冒頭の黒人・ライリーを、未来優希さんはミセス・フェイガン以外に宮川さんとコンビで歌う黒人・アンジェラを演じるのですが、お二人のパワフルな歌声がとにかくすごい!!特に宮川さんは弁護士役の時にはほぼ歌がなくてもったいないのでその分ここではじけてる印象が強いですね(笑)。未来さんはフェイガン夫人とは真逆のキャラで実に痛快です!
第一発見者のニュート・リーを演じる安崎求さんも何役か他にも演じていらっしゃいますが、やはり一番強烈に印象に残るのは老兵師役だと思います。南北戦争から片足を失いながら帰還していて、北部人への恨みは人一倍強いと感じました。冒頭の歌の迫力と、ラストクライマックスでの威圧感がとにかくすごい…!!さすがだなぁと感服しまくりです。
秋園美緒さんの聡明で凛としたスレイトン夫人は終始カッコ良かったし、飯野めぐみさんの黒人家政婦・サリーも彼女の背景や環境の複雑さを繊細に表現されていてグッとくることが多かった。
メアリー役の熊谷彩春さんは体調不良で降板されてしまった莉奈さんの代役でしたが、とってもキュートで可愛らしく好演。みんなに愛されてた女の子というのが伝わってきて事件の悲惨さをより際立たせていたと思います。
他のアンサンブルの皆さんも実力派揃いで見ごたえがあります。個人的には初演と同じく石井雅登くんを目で追っちゃいますね~。看守、囚人など存在感を出してましたが、一番はやっぱりスレイトン家でのダンスシーンでしょう!!奇麗な顔立ちをされているので、あのキャラが石井くんだと気づかない人もいるんじゃないかと思います(笑)。今回もめっちゃ張り切って踊っててプリティも増してて面白かったww。
それから、メアリーの友人代表のアイオラを演じた吉田萌美さんもすごく良かったです。特に目力がすごく印象的ですね。他の役でも見てみたいかも。
あらすじと概要
ミュージカル『パレード』はブロードウェイで1998年に初演され、翌年のトニー賞で最優秀作詞作曲賞と最優秀脚本賞を受賞した作品。BWの演出は『オペラ座の怪人』などで知られるハロルド・プリンスが担当していました。昨年お亡くなりになったニュースが流れてきてとても残念に思います…。日本初演は2017年。1913年にアメリカのジョージア州アトランタで実際に起きた”レオ・フランク事件”を基に描かれています。
初演を見たあと、ミュージカルで描かれていることが実話だと知り大きな衝撃を受けパンフレットを熟読したのを思い出します。事件の内容は本当に理不尽で恐ろしい出来事としか言いようがないのですが、100年以上経った現在でもあり得そうな事件で心が抉られるような想いがしました。
事件の詳しい経緯についてはホリプロさんが細かくまとめてくれています。ただ、かなりのネタバレを含んでいるので先を知りたくない方は読むことをお勧めしません(けっこうショッキングな内容も含んでいるのでご注意を)。
でも、あらかじめ知っておいた方がより深くこのミュージカルを堪能できるとは思います。私も初演のとき、最初見た後にパンフやネットで事件のことを知ったうえで観た2回目のほうがより深く刺ささり作品への愛情が増しました。
ミュージカル『#パレード』31日まで東京公演上演中🇺🇸#石丸幹二 #堀内敬子 #岡本健一 #武田真治 #石川禅 #坂元健児 #今井清隆 #福井貴一 #安崎求 #未来優希 #内藤大希
【記事紹介】
ミュージカル『パレード』【解説】1913年 レオ・フランク事件まとめ【実話】
https://t.co/n1RLq9jFGD— ホリプロステージ (@horipro_stage) January 27, 2021
物語で展開される出来事は見ていてメンタル削られるシーンも多く、終わった後には茫然自失のような状態になってしまうのですが(汗)決してその感覚が「嫌」ではないのです。数あるミュージカルの中でも1-2を争うほどの悲劇モノなのですが、なぜか「もう一度あの世界観に浸りたい」と猛烈に思ってしまう。
何より、ジェイソン・ロバート・ブラウンによる歌詞と音楽がドラマチックで本当に素晴らしい。是非とも日本版CDを出してほしいところですが、現在はBW盤のみの発売となっているようです。初演を見た後、速攻でネット購入したほどこのミュージカルの楽曲に心奪われました。
簡単なあらすじは以下の通り。
物語の舞台は、1913年アメリカ南部の中心、ジョージア州アトランタ。南北戦争終結から半世紀が過ぎても、南軍戦没者追悼記念日には、南軍の生き残りの老兵が誇り高い表情でパレードに参加し、南部の自由のために戦った男たちの誇りと南部の優位を歌いあげる。
そんな土地で13歳の白人少女の強姦殺人事件が起こる。容疑者として逮捕されたのはニューヨークから来たユダヤ人のレオ・フランク。実直なユダヤ人で少女が働いていた鉛筆工場の工場長だった。彼は無実にも関わらず様々な思惑や権力により、犯人に仕立て上げられていく。そんな彼の無実を信じ、疑いを晴らすために動いたのは妻のルシールだけだった。
白人、黒人、ユダヤ人、知事、検察、マスコミ、群衆・・・・それぞれの立場と思惑が交差する中、人種間の妬みが事態を思わぬ方向へと導いていく・・・・。
<公式HPより引用>
神経質だけど、真面目で勤勉だったレオ・フランクがほんの小さなきっかけにより身に覚えのない罪で殺人犯に仕立て上げられ、ついには悲劇の最期を迎えてしまう。
この事件の背景にはアメリカ南部の「反ユダヤ感情」や南北戦争の影響による「北部出身者への憎しみ」、事件を過剰に報道し世の中を煽り立てたマスコミ、それに乗せられた人々、権力者の思惑など様々な感情というものがありました。南部は奴隷制度が色濃い事情もあり、比較的裕福だった北部人やユダヤ人に対するコンプレックスも強かったのかもしれません。
レオ・フランクの無罪が証明されたのは1983年…、事件から70年も後になってからでした(信用できる新証言が出てきた)。その3年後の86年にようやくレオの特赦が認められたそうです。しかし、アメリカ南部には未だにその決定に納得できずレオが真犯人だと信じている人が存在しているのだとか(石丸さんご本人もそういったエピソードを実際に聞かれたとのこと←パンフレットより)。なんだかやるせない気持ちにさせられます…。
そんな理不尽な事件を辿った物語ではありますが、無実を勝ち取ろうとレオとルシールの夫婦が必死に立ち向かうドラマも非常に丁寧に綴られています。二人を取り巻く環境は日を追うごとに厳しくなりますが、その時間を共に戦っていくことにより絆を取り戻していく。このあたりのストーリーにも大いに注目です。
全体感想
はじめに
まず、石丸さんと武田さんのお元気な姿を舞台で観れたことが本当に嬉しかったです。無事に回復されて本当に良かった…!!
基本的にセットや演出はほとんど変わっていなかったと思います。オケピも舞台下に配置してあるのでソーシャルディスタンスも保たれた感じ。上手と下手のオケピの上には小さな橋も設置されていて、キャストがその下から登場する演出も面白いです。
それから、背景にそびえている一本の大木が非常に印象深い。物語に直接関係してくるわけではありませんが、この大地にそびえる巨木は舞台上で起こる出来事のすべてをじっと見つめ続けているのです。無言の目撃者って感じでよりドラマを深いものにしていたような気がしました。
そして今回も圧倒されたのがあの無数のカラフルな紙吹雪です。
ミュージカル「パレード」、舞台監督さんから教えてもらった。紙吹雪は毎回新しいものを、色の配分をちゃんと考えて降らせてるんだそう。石丸マネ pic.twitter.com/m6158wUuh4
— 石丸幹二 (@team_kanji) May 31, 2017
初演の時も驚きましたが、今回も毎公演新しい紙吹雪を降らせているそうです。万単位の紙吹雪なので、いったいどのようにして制作されているのか気になるw(重さも相当だと思うし)。
しかもこれ、冒頭だけでなくて南北戦争の戦没者記念日パレードのシーンが出るたびに降ってますからね(驚)。さらに降らせた紙吹雪は片づけられることなくそのままずーーっと舞台上にあるので、セットが動くたびに盛り上がったりする。キャストの皆さんもその上で芝居しなければならないので足元とか滑らないように注意するので大変だと思います。
でもこのカラフルな地上に降り積もった紙吹雪と、舞台上で展開されていく黒い感情のドラマとのアンバランスさが視覚的にも強烈に印象に残るんですよね。森新太郎さん、すごい演出家さんだなと。
この物語を見ていて一番恐ろしいと感じるのは、人々に根付く人種差別感情とマスコミなどで煽られて同じ方向を向いてしまう群集心理です。アメリカ北部出身のユダヤ人だったレオ・フランクは全く罪を犯していないにもかかわらず、まさにその恰好の標的とされてしまった…。それが本当に悲しくて悔しくてたまりません(涙)。”憎しみ”の感情から生まれるのは何もない…、残るのはどうしようもない虚しさと苦しさだけだということを初演以上に強く感じた公演でした。
以下、印象に残ったシーンを振り返ってみたいと思います(思い入れが深いので超長いです 汗)。
1幕
ふるさとの赤い丘
最初に小太鼓による行進のリズムが刻まれ、徐々に不協和音が重なってきてこの作品の複雑さを音楽で示しているよう。この音の作り方がとても印象的で一気に引き込まれます。さらに、南北戦争へ向かう若い兵士が登場すると同時に背景のバックの色が真っ赤に染まっていって…この色がまた強烈に心に刺さるんですよね。
北部への憎しみを募らせた若者が戦場へと旅立ってから時代が50年近く経過します。意気揚々と目をギラギラさせていた若者は片足を失った老人として登場するのです。この入れ替わりの演出も実に見事。しかも、彼の後ろには”戦没者記念日”のパレードを一目見ようと人々が旗を振りながら熱狂的に集まってくる。未だに戦争を引きずる老人と、南部戦没者をヒーローと称えて盛り上がる人々の対比も印象的です。
このパレードに集まる人々のシーンの時にさっそく大量の紙吹雪が降ってくるわけですが、歌が盛り上がっていくにつれて降り方もめちゃめちゃ派手になっていくんですよねw。クライマックスに差し掛かった時なんか、紅白の北島サブちゃん「風雪流れ旅」級(もしくは昨年紅白の純烈級)の降らしっぷりでキャストさんの顔がはっきり見えなくなるほどですww。時には塊として落ちてるしねw。
とにかく、色んな意味でのっけからぐわーーっと持ってかれる感じが堪らなく高揚する!!
ここを我が家とどうして呼べる?
人々が熱狂的に戦没者追悼パレードを見に集まっている最中、レオ・フランクは浮かない顔で勤務先の向上へ出かけようとしている。妻のルシールは「こんな日には一緒にピクニックへ行こうと思っていたのに」とガッカリしてしまうのですが、レオにはルシールの楽しみにしていた気持ちを理解することができません。
というのも、レオは北部ニューヨークの出身者で、ルシールの叔父から「割のいい仕事があるから」と誘われて渋々南部へ居を移した事情がありました。それゆえ北部人としてのプライドが高く南部人のことをなかなか理解しようとしない節がある。南部出身のルシールのことも愛してはいるんだけど、彼女の内面までは見ようとしてなくてつい嫌味の一つも出てしまうのです。
レオの悲劇は、おそらく彼のこんな性格が災いしたんだろうなと思わずにはいられなかった。でも、あの感情は当時は当たり前で「悪い」という意識を持つことすらなかったんだろうなと思うと、なんだかすごくやりきれない気持ちになりましたね…。
ルシールはレオとの生活に一定の満足感はあるものの「何かが足りない」ともやもやした気持ちを抱いてしまう。彼女が本当に得たかったのは、レオと心から気持ちを通い合わせることだったんだと思うと切ない…。
映画に行こう
同じころ、少年・フランキーは少女・メアリー・フェイガンを口説こうと一生懸命アピールしてました。ちょっとマセたメアリーがフランキーを手玉に取るようにかわしていくのが可愛い。でも最後は必死に「映画に行こうよ」と誘いまくるフランキーにOKを出してくれる。
でもメアリーはその前に働いている工場に給料をもらいに行くと言ってフランキーと別れました。テンションが上がってついつい違う女の子も映画に誘おうと口説いちゃうフランキーですがw、まさかこれが今生の別れになるなんて夢にも思っていないのが切ないシーンでもあります。
ミュージカル『#パレード』
物語の鍵を握る少年・フランキー役と、”事件”の被害者・メアリー役のお二人へインタビューさせていただきました📝【対談インタビュー】
作品の力に、役者の“負けない強さ”を乗せて届けたい ~『パレード』#内藤大希 × #熊谷彩春 インタビュー~ https://t.co/BkNscLR5bz pic.twitter.com/wYttep8QW4— ミュージカル『パレード』 (@parade_musical) January 19, 2021
フランキーとメアリーのシーンでのナンバーはライトなポップ調で、二人のウキウキした気持ちが伝わってくるような旋律なのが特徴的。でも笑顔で見ていられるのはここまでなんですよね…。
メアリーが訪れたのはレオが社長を務めている鉛筆工場。当時はメアリーのように学校へ行かれない子供も低賃金で働きに出ていることがあったらしい…。でもメアリーはそのことに対しては全く重荷だと思っている様子はありませんでした。
給料を受け取りに来たことを告げたメアリーに、レオは優しい笑顔を浮かべながら彼女の手にそれを渡します。給料を受け取ったメアリーはレオに何か告げようと振り返るのですが…、どんな言葉が交わされたのかはここでは描かれていない。実はこのシーンがラストにとんでもなく大きな意味を持ってもう一度出てくるわけで…、すでに内容を知ったうえで見るともう、やるせなくて切なすぎて涙がこぼれてしまいました(涙)。
捜査
その翌日、何者かに惨い状態で殺害されてしまったメアリーが発見される。容疑者として、警備員だった黒人のニュート・リーと、ユダヤ人で工場の社長だった白人のレオ・フランクが捕らわれの身となってしまう。リーは第一発見者であるにすぎず自らの無実を訴え、レオは犯行時間のアリバイを主張して無罪を訴えますが二人とも信用されない。
牢獄の中でレオは苛立ちを募らせていて、面会に来た妻のルシールのことも鬱陶しげに追い出してしまいました…。理不尽な状況に怒りを隠せずついその苛立ちを妻にぶつけてしまったわけですが、この時も彼は妙にプライドだけが高く嫌味な人間に映ってしまう。看守に対しても見下した態度を取ってしまうし…、もう見ながら「自分のプライドはこの際捨ててほしいよー」と何度も思ってしまった(汗)。
もし彼がもう少し謙虚な柔軟性のある人間だったら、結果は変わってきたかもしれないと思わずにはいられなかったよ…。
葬儀:救いの泉/意味が分からない
メアリーの葬儀は厳かに行われますが、このシーンで流れる「救いの泉」がまるで讃美歌のような美しく哀しい旋律で歌声を聴くだけでも泣けてきてしまいます。彼女の友達が思い出を語りながら棺の上に花を手向けるシーンは特に切なすぎて落涙…。さらにはメアリーのお母さんの哀しみっぷりがもう、見ているだけでも辛すぎ(涙)。
葬儀の最中、メアリーに思いを寄せていたフランキーは一人そこから離れ呆然としている。そんな彼に声をかけたのは新聞記者のクレイグだった。今回の事件を報道することで立場挽回を狙っていたクレイグは、メアリーの友人で彼女に恋をしていたフランキーに目を付け取材を進めていきます。
自分にとって彼女は陽だまりのような存在だったと歌うフランキーの姿が胸を打ちます。最初はとても優しい旋律で彼女の思い出を語るのですが、しだいに「なぜ彼女があんな惨い目に遭わなければいけなかったのか」という怒りとも憎しみともとれる感情へと変わっていき旋律もそんな彼の心情を抉るように音量が上がっていく。このあたりの盛り上げ方が実に巧みで、音楽が雄弁に物語を語っていることをすごく実感しました。
列の一番最後の一人となったフランキーはそっと棺の上に花を手向け、犯人への復讐心を胸にその場を立ち去っていきます。そして、彼が立ち去った後の誰もいない墓場に「反ユダヤ主義者」のワトソンがやって来る。棺に向かって優しい「子守歌」を歌う彼の存在がこの時点で少し不気味…。その後レオの人生に大きく影響してくることに…。
ビッグ・ニュース
幼い少女が殺害された事件ということもあり世間の目も厳しく一刻も早く犯人に鉄槌を加えろという論調が高まりますが、スレイトン知事はあまり関心を示そうとせず、検事のヒュー・ドーシーに「二人のうちどちらかをさっさと有罪にするように」と軽く言い残して去ってしまいます。その無関心さが大きな悲劇へと繋がっていくとも知らずに…。
このシーンでドーシーはスレイトンの妻に対しめちゃめちゃゴマをすりまくっている。「18歳に見える」発言は言い過ぎだろうと見るたびにツッコミたくなりましたww。こうして立場が上の者にすり寄っていくのが彼の処世術なんだろうなと思える場面でもありました。
スレイトンから全権を委ねられたと認識したドーシーは、「黒人をつるし上げるだけでは民衆の怒りは収まらないだろう」との理由だけでリーを釈放しレオを犯人としてつるし上げる判断を下してしまうのです。
この時のドーシーのリーを追い詰めるやり口が非常に恐ろしい…。最初に優しい顔を見せておいて相手に口を挟む余地を与えずに架空の話を「お前がやったんだろう」と言いながら押し付けていきます。あんな追い詰め方されたら洗脳されて犯行したと思いこんじゃう人だっているんじゃないかとゾッとした。リーはドーシーの威圧感から逃れるために必死に何かを呟いてましたが(たぶん聖書じゃないかな…)、精神的にかなり削られているようで痛々しかった(涙)。
一方のクレイグは完全に調子に乗ってテンションMAX状態で取材しまくっている。この時のナンバーが超ノリノリなロックで彼の快進撃が面白いように伝わってきました。特に「さぁ、さぁ!!」と矢継ぎ早に様々な証言を書きまくってるシーンがめちゃめちゃインパクト大。
彼のやってることはレオにとっては不利益なものばかりなのですが、クレイグにとっては自分の記事が売れてくれるだけでいいわけでどんどん突っ走っていくわけです。この作品の音楽って、人の黒い感情のときにアップテンポな旋律になることが多いんですよね。それがすごく面白い。
あなたは彼を知らない
クレイグの取材に対し、聞かれた人々はどういうわけか事実と全く違うことをまくし立てている。おそらくそのように誘導したからだと思うのですが(汗)、彼の記事を読んだ人々はそれを本当だと思い込んでしまうのです。
しかしレオの妻のルシールだけは毅然とした態度で彼を退けます。「彼のことを何も知らないくせに」と鋭い射るような視線でクレイグを黙らせる場面はグッとくる。そんな彼女にクレイグは「無罪だとは主張しないんですね」と投げかけるのですが、ルシールは「あなたには告げることはない」と告げて去っていきます。この時のルシールの夫を信じる力強さは見る者の心を大きく揺さぶりました。
その頃レオは担当弁護士のロッサーから自分が起訴された身であることを知らされ絶望感に襲われる。聞かされる世間の声も身に覚えのないことばかりで彼らを軽蔑するようなことを口走ってしまうのですが、そんな彼に対してロッサーが「お高く留まった態度は今すぐ改めたほうがいい」と窘められた場面がとても印象的でした。今回の唯一のレオの至らないところは、彼自身のプライドの高さだと思っていたので、ズバリ言い当てられたなと。
ただ、この弁護士さんは「俺に任せておけ!」って自信満々だったんだけど…なーんか今ひとつ頼りなさがあって不安しかなかったわ~(笑)。
ルシールが再度面会に訪れた時、レオは神経質そうに支払いをきっちり済ませておくようにと頼み込んでいました。彼の中には「南部人からバカにされたくない」といった想いが非常に強かったんだろうなぁと…。北部人としてのプライドがここでもルシールを追い詰めるような恰好になっちゃう。
しかし、「メアリーの母親と顔を合わせるのが辛いから裁判には行かない」と本音を打ち明けたルシールにレオは大きく動揺し必死に「居てほしい」と訴えます。最初は「怖気づいたと思われたくない」という気持ちが強かったように思いましたが、最後の「居てくれなくちゃダメだ!!」という言葉には”ルシールに傍にいてほしいんだ”というレオの彼女への気持ちが含まれているような気がして切なかった…。
裁判:正義の鉄槌/マリエッタから20マイル
裁判は大勢の人の注目の的となるのですが、裁判所の外に群がる人々が「反ユダヤ主義者」のワトソンの先導によって、憎しみのテンションを上げながら傍聴席へとなだれ込んでいく演出がとてもスムーズで面白かったです。しかも「正義の鉄槌」の旋律がまたグイグイと前に押し出ていくような勢いを感じさせるもので、聞いていてめちゃめちゃゾクゾクさせられます。と、同時に群衆の心理が見る見るうちに「レオ憎し」でまとまっていく様が見ていて恐ろしかった…。
この現象、現代社会のSNSにも似たようなことありましたよね…。ある過激な発言に多くの人が乗せられその対象とされた人が孤立し追い詰められていくって…。レオの事件は決して昔の話なんかじゃないということを改めて思い知らされた気がしました。
そこへローン判事が入ってくるのですが…、最初にこのシーンを見たときに初演で判事を演じた藤木孝さんを思い出してちょっと目頭が熱くなってしまいました(涙)。あの場に立ってていただきたかったけど、でも、なんか…判事席からその気配を感じ取れるような気もして。きっと見守り続けてくださってると思う。
裁判を見に来ることに拒絶反応を示していたルシールでしたが、結局はレオのことが心配で裁判所に表れます。彼女の姿を見た瞬間に心底救われたような表情をしたレオにグッとくるものがありました。あれだけ針の筵状態になってましたから(弁護士のロッサーは「調子良さそうだね」なんて吞気なこと言ってるので頼りにならないww)救世主のように見えたんじゃないかなと思います。
しかし、ドーシーの演説が始まると場の空気はそれに飲み込まれるようにフランクへの憎悪がますます膨らんでいくかのよう。「マリエッタから~」の歌い出しがとても抒情的で、見ているこちらですらドーシーのメアリーに関する演説に聞き入ってしまう…。
そして演説内容は同情を誘うように「北部人のレオの会社は南部人の子供を奴隷として扱っている」と畳みかけ、さらに群衆の憎しみを煽っていく。
そして証人尋問へ。最初に呼ばれたメアリーの友達で彼女に思いを寄せていたフランキーは、メアリーが給料をもらうために会社へ行くと話したときに「レオから厭らしい視線を向けられるから本当は行きたくない」と言われたと証言。
でも、冒頭でフランキーとメアリーのやり取りの会話のシーンがありましたが、そんな雰囲気は微塵もありませんでした。つまり、フランキーは犯人がレオであると確信してしまっているがゆえに彼の中で架空の出来事を形成してしまい、それが現実の記憶になったんじゃないかなと思いました。思い込みって本当に恐ろしい…。それにおそらく、ドーシーが彼に色々吹き込んだというのも影響してたのかもしれない(実際、色んな人に工作行動やってましたからね)。
裁判:僕のオフィスにおいで
メアリーの友人だったアイオラは「工場長から如何わしい行為をされそうになった」と証言してしまう。このシーンの時、ライティングが妖しい緑色になり3人の女工たちにレオが厭らしい態度で接する姿が再現されるのですが・・・被告人席でちんまりしていたレオとは真逆の人物になってて見ていて「ひゃっ!!」って気持ちにさせられてしまう(笑)。演じてる石丸さんがめちゃめちゃ気持ちよさそうに「キモ男」になりきってるのがすごく印象的だったww。
しかも、このナンバーがジャズ調でカッコいいんですよね。不気味なシーンや黒い感情の時に限ってこの作品の音楽はノリがいい。だから思わず引き寄せられてしまうのかも。
そして次に登場したのはフランク家の家事手伝いをしていたミニー。彼女は固い表情で「奥様は旦那様から床で寝ることを強要されていた」とこれまた架空の証言をしてしまう。この言葉にルシールは「そんなことは絶対にない!」と猛反論し、レオも「嘘をつくな!恥を知れ!!」と激しく彼女を責め掴みかかろうとするところをロッサー弁護士に止められる。しかし、二人の反論を支持してくれる人はあの法廷には誰もいないんですよね…。それどころか、ワトソンの煽り文句に乗せられてますます憎悪が募っていくのが本当に恐ろしくてゾッとします。
それにしても、ここまでロッサー弁護士はほとんど活躍しておりませんw。やってることと言えばたまに「意義あり!」と叫ぶだけww。これじゃあの百戦錬磨なドーシーには叶わんなと思いながら見ておりました(笑)。
裁判:あの子は許すでしょう/彼はそう言った
この裁判で一番辛いシーンなのが、メアリーの母親の証言シーンです。ミニーの件で怒りに震えていたレオもルシールも、ミセス・フェイガンの番になると居たたまれない気持ちになってしまいルシールは目を合わせることすらできませんでした…。この時のルシールの気持ちを想うと本当に居たたまれない(涙)。
ミセス・フェイガンは娘への愛情を切々と歌い上げた後に「あの子はこの事態になったことを許すでしょう」と加えます。その姿はまるで聖歌を歌うかのように神々しい…。しかし、レオ自身のこととなるとどうしても憎しみの感情を抑えきれない様子で憎悪の眼差しを向けていました。
キリスト教の観点から娘は今回のことを許すだろうと歌いながらも、レオは大事な娘を奪った憎き相手としか彼女の目には映っていない…。当事者であればこういう感情になるのは必然だと思ったし、致し方ないのですが…やっぱりやりきれない。彼は無実ですから…。
さらにミセス・フェイガンの証言のシーンでショッキングなのが、ドーシー検事がメアリーの事件当時のボロボロになったワンピースを一人一人に見せて回る場面。ルシールは夫の無罪を信じていますが、そのワンピースを持ってこられたときに目を合わすことができませんでした…。あまりにも残酷で哀しいシーンで見ているこちらも苦しかったです(涙)。
そんな重苦しい雰囲気の後にオケピ側から意気揚々と登場するのが、工場で清掃主任を担当していたジム・コンリーです。実は彼は前科者でしかも密かに脱獄してシャバに出てきていた超問題人物(汗)。裁判前にドーシーから弱みを握られたうえでレオに関する”証言”をするよう裏工作を受けていました。
まるで水を得たように嬉々として事件当日のありもしなかった出来事をべらべらと語りだすコンリー。この時のナンバーが実に迫力あるノリノリなロックナンバーで圧巻でした!!しかもここで盆が回転して客席にもコンリーがいかに得意げに作り話を歌っているかが分かる演出になっている。
それにすっかり影響されてレオへの憎しみをヒートアップさせていく傍聴人たちが非常に恐ろしくもあるのですが、俯いて必死に怒りをこらえているメアリーの母親の背中があまりにも哀しかった…。
裁判:ありのままの僕を
ジョージア州では被告人が身の潔白を語る機会が認められていなかったのですが、最終意見陳述をする権利だけは与えられていました。ロッサー弁護士は傍聴人の表情を見回した後行使しないと発言しましたが、レオはそれを遮り自ら語ることを選択する。
この時に注目したのは記者のクレイグです。彼は面白おかしく記事を掻き立てることに快感を覚えていましたが、裁判を傍聴するなかでレオへの憎悪が図られたように高まっていったことに疑問を覚えるようになっていたと思うのです。それゆえ、ロッサー弁護士が「行使しない」と発言した時に「なぜだ!」という表情をしていました。そんなクレイグの心境の変化というのも大きな見どころだったと思います。
まさに針の筵のような状況のなか、レオは「本当の自分を見てほしい」と切々と訴える。このシーンはもう、涙なしには見れません!!せめて客席だけは彼の味方でありたいと痛切に感じてしまう。レオの悲痛な表情、懸命な訴え、そしてあまりにも美しいメロディに激しく心が揺さぶられ…、思い出すだけでも涙が出る(泣)。
しかし、陪審員が下した判断は「有罪」でした。それにより、レオの絞首刑による死罪が告げられてしまう…。狂ったように喜び歌い踊る傍聴人たちの真ん中で、恐怖に震えながら立ち尽くすレオとルシール夫婦の姿が非常にショッキングでした。最後は舞台上に積もっていた紙吹雪を彼らに思い切り投げつけられる屈辱まで(涙)。
1幕の幕切れはあまりにも残酷で哀しすぎて、客電が付いた後も涙があふれてくるほどです。
2幕
ガタガタ騒いで
2幕冒頭で、宮川さん演じる2役目のライリーと未来さん演じる2役目のアンジェラが登場します。二人のパワフルでソウルフルな力強い歌声がめちゃめちゃ魅力的なシーンなのですが、歌っている内容はレオ・フランクの一件についての辛辣な皮肉。
特に印象深いのが、「黒人は首を吊るされても誰も注目しないのに、白人が吊るされるとなったら注目の的で多くの人が集まってきた」という内容のくだり。黒人に対する差別意識はこの時代、しかも南部は相当根強く息づいていたんだと思いますが、それが当たり前すぎてしまって皆「ふつうのこと」と注目しない恐ろしさを感じました。
そんな背景があるからか、ライリーとアンジェラはレオ・フランクの有罪に関しては羨望にも似た感情があるのかなとも思ったな…。人間として扱われない黒人の自分たちは気にも留められない存在だけど、白人のレオは大きなニュースとして取り上げられ北部からも人が集まってきている現実があった。そりゃ、皮肉も言いたくなるだろうなと。
さらに、レオには北部から多くの再審請求の嘆願書が届いていたという。「味方が現れて良かったな」と歌いますが、そこには皮肉しか込められてなくて”さっさと刑が執行されればいいのに”といった感情すら感じられてしまいました…。レオは冤罪被害者でしかないのに、彼を取り巻く人々は黒人も白人も悪意に満ちているのが哀しい…。
ちなみに、今回黒人を演じるキャストの皆さんは首に黒いネジネジマフラーを巻いています。確か初演ではサカケンさんが肌を黒くしたメイクをしてたと思うんだけど、複数役こなすこともあってかメイクしやすいように工夫したのかもしれませんね。
あなた一人で
刑を言い渡された後もなんとか覆す方法はないか独房でレオは資料を読み漁っています。面会にやって来たルシールも彼のために参考になる資料を届けてくれる。その時は素直にレオも彼女に感謝するのですが、彼女が独断で新聞記者のクレイグに接触したと知ると途端に不機嫌になってしまう。
ルシールはなんとかレオを助けようと必死で動いているのに、レオは何でも自分一人のペースで進めようとしてしまう。その一件でついにルシールはこれまでの溜まりに溜まった彼に対する不満をぶちまけてしまいます。
「私はいつも除け者にされてきた。そんなに一人ですべてやりたいならそうすればいい」
これまでずっと言いたくても言えない気持ちを、こんな切羽詰まった状況の中で告白しなければならなかったルシールが気の毒だと思ったんだけど、このシーンでの彼女はとても気高く見えるのです。レオを責める言葉が並んでいるのに、音楽は流れる川のように美しい…。ルシールの気高さをより高めているかのようにすら思いました。
この時レオは初めて妻の本音を知ることになります。無意識のうちに自分中心の意見を押しつけてしまったり、プライドに雁字搦めになっていた自分をついに自覚した。「私を見て!必ずあなたを家に連れて帰るから」と必死に訴えるルシールの手を憑き物が落ちたかのような表情で握るレオの姿がとても印象的だった。
素敵なミュージック
同じころ、スレイトン知事の屋敷では彼の知り合いを集めたダンスパーティーの真っ最中でした。冤罪で監獄に入れられているレオの状況と真逆の環境がすぐに出てきたので、なんだか心にざわざわした違和感を感じてしまう。
このダンスで注目なのは、最後のほうに登場する大柄の女性w。仕草とかめっちゃ可愛いので要注目です(雅登くん、ステキww)。
そしてもう一つ注目なのが、ドーシー検事と活動家ワトソンの出会い。ワトソンはドーシーの手腕を高く買っていて自分の新聞にも美辞麗句を並べているらしくそれを誇らしく報告するのですが、ドーシー本人は最初彼を鬱陶しい存在としか感じていません。
ところが、「あなたなら知事になれる」というワトソンの言葉にピクリと反応してしまう。この時はそのまま何も進展なく別れましたが、この言葉がドーシーの新たな野心を掘り起こしてしまったんですよね…。ワトソン、余計なことを…!!って思ってしまう(苦笑)。
そんなダンスパーティーに突然ルシールが押しかけてくる。レオの一件はスレイトンにも重荷となっていることから、何度も彼女から逃げようとしますがルシールは逃さない。そして音楽を強引にやめさせて再調査をしてほしいと懇願。それまで普通の主婦だったとは思えない行動力と信念には非常に心を打たれるものがあります。
あくまでも再調査はしないと言い張るスレイトンに「あなたは馬鹿か臆病者のどちらかなのね!!」と吐き捨てるように叫んで走り去っていくルシールは非常に男前でグッときますね。あんな言われ方したら、そりゃスレイトンも動かざるを得ないんじゃないかなと。彼なりのプライドもあるし、何より裁判についての疑問もなくはなかったようですから…。
そのやり取りの一部始終を目撃していたドーシーは、ローン判事と釣に出掛けがてらレオの裁判のことについて密談をかわしていました。ローンは1幕では冷静な判断を持つ中立者のようにも見えていたのですが、実はけっこうな保守派でレオの判決は絶対であり覆されてはならないという考え方を持っていた様子。彼の裏の顔が見えてくるこのシーンはちょっと不気味です。
ドーシーはスレイトンに再調査には応じないように釘を刺すと約束。そんな彼にローンはさらに「君を知事に推す声がある」とも付け加える。これでますます”知事”という野心に火がついてしまうドーシー(汗)。穏やかで静かなナンバーではありますが、実に不気味でざわざわする場面でもありますね。
まだ終わりじゃない
さらに数日後、ルシールの捨て身の作戦が功を奏しスレイトンは再調査に協力することを約束します。知らせを受けたレオは妻に心から感謝し喜びのあまり、夜中にもかかわらず声高らかに歌い上げる。このナンバーが希望に満ち溢れたドラマチックな楽曲で本当に素晴らしいのです!!ルシールがくれた一筋の光に歓喜するレオの姿は見ていて涙がこぼれますよ…(泣)。
やがてその想いはルシールにも伝染し、二人はまるで共に行動しているかのような一体感に包まれます。この二人のデュエットがこれまた最高にドラマチックで涙なくしては見られない…!!スレイトンもよく決断してくれたと思うよ。
ルシールはレオの指示通りに裁判で証言した人たちをスレイトンと共に訪ね歩く。
メアリーの友人アイオラは友達と一緒にあの人同じ証言を繰り返しますが、追及していくと矛盾点ばかりが見えてくる。そこを衝かれた彼女たちはついに「ドーシーに教えられたとおりに証言しただけだ」と白状しました。雇っていた家事手伝いの黒人・ミリーに至っては、ドーシーに牢獄へ連れて行かれた上に脅迫されたことを告白。ミリーの行為は決して肯定はできないけど、黒人であるがゆえの哀しい身の上を想うと同情の余地があるんですよね…。ルシールもそれを理解し彼女を赦したように見えました…。
次々に発覚していく「嘘だった証言」に、レオとルシールは「まだ終わりじゃない!」と声高らかに歌い上げます。ここ、もう、本当に胸が熱くなる感動ポイントなんですよーー(涙)。これまで暗い気持ちばかり強調されてきたゆえに、ルシールによってもたらされる希望の光が力強く感じられてめちゃめちゃ泣けます…!!
ブルース:土砂降りの中で
しかし、一番手ごわいのは判決の決め手にもなってしまったジム・コンリーの存在です。これまでルシールを同行させてきたスレイトンも、彼は危険人物だからとそれを止めたくらい(馬鹿か愚か者にならないようにするよっていうスレイトンのセリフがキュートでカッコいい!!)。
コンリーは証言で「レオが事務所でメアリーと”イイこと”してる間の見張りをしていた」と語った故、共犯者として牢獄送りになってました。まぁ、もともと脱獄犯だったしね(苦笑)。この時の労働の歌が超ブルースでなんかめちゃめちゃソウルフル!!歌声の迫力にも圧倒されてしまい、これじゃルシールは来なくて正解だなと思ってしまうレベルなのがすごい。
スレイトンはコンリーに次々と矛盾点を指摘していきます。コンリーはそれを巧いこと誤魔化してさらりとかわしてしまうのですが、このやりとりのなかでスレイトンは彼がうその証言をしたのだと確信を持ちました。
それどころか、スレイトンが帰った後にコンリーはテンション高く当時を振り返って恐ろしいことを歌い出すのです。ここで客席は「真犯人が誰だったのか」悟ることになります…。まぁ、ドーシーから話を持ち掛けられた最初のシーンの時からめちゃめちゃ胡散臭い態度してたから気づきやすいんだけどね(苦笑)。
レオの冤罪を確信したスレイトンは、妻のサリーに自らの覚悟を話したうえで「大統領の妻にしてやれるはずだったかもしれないのにできなくなってしまった」と謝罪します。それに対してサリーは「臆病な大統領の妻になるよりも勇敢な元知事の妻でいるほうがいい」と胸を張る。ダンスパーティーの時にはルシールへの態度からちょっとお高く留まった人とマイナスなイメージがあったのですが、このセリフでひっくり返りましたよww。素敵な奥様じゃないか!!ちなみに彼女のこの発言は、実際にあったそうです。カッコいいですよね。
ところが、レオの刑を減軽し終身刑にする決意をしたと語ったスレイトンへの群衆の反応は想像以上に厳しく過激なものでした…。それでもスレイトンは自らの信念を必死に訴えるのですが、この内容がまるでキリストの物語のようだった。特に「私は無実のユダヤ人の血に染まりたくない」といったくだりの発言は、キリストの無実を信じながらも群衆の熱気が恐ろしくて死刑にするしかなかったピラトと重なるところがあります。レオもユダヤ人ですしね…。
ワトソンは群衆を煽り立てスレイトンの言葉を激しく非難するよう先導。怒りを増幅させた群衆はついには狂気の集団となりスレイトン夫妻を悪人として抹殺しようとするまでになる。このシーンは本当に群集心理の恐ろしさをまざまざと見せられている感じがして背筋が冷たくなりました…。
危険を感じた夫妻はその場から逃げるように立ち去ります。実際にも彼らは命の危険にさらされる事態となったためジョージア州から脱出しなければならなくなったそう。それと入れ替わるように意気揚々と知事の座に躍り出るのがドーシーです。フェイガン夫人を旗頭にしてレオへの憎しみをさらにあおっていく彼の行動には嫌悪感すら覚えたな…。
無駄にした時間
一方、減刑されて終身刑になったレオは秘密裏に違う刑務所へ移送されていて外部の狂気的な騒ぎを知る由もない…。看守も気立てがよく監獄での生活は以前と比べてとても穏やか。そこへルシールがピクニックの用意をしながら面会にやってきます。レオはそんな彼女の新しい服装にも目が留まるようになっていて…それが見ていてすごく嬉しかった。減刑を勝ち取ったことで二人の絆はより深まりやっと本物の夫婦になれたんだなって心が温かくなります。
刑務所長の許可も取ったからとルシールは牢獄のベッドの下にシートを敷いて持ってきた食べ物を並べていく。現実的には牢獄なんだけど、舞台上にはパレードの時に無数に降り注いだカラフルな紙吹雪が敷き詰められているので視覚的には花畑の中にいるように見えるんですよね。二人の穏やかで幸せな時間がより深く伝わってきて感動的です。
で、ここで『パレード』の中で唯一コミカルな場面が出てくる。”ワイロ”のワインを看守に渡すルシールがとにかく可愛らしいのです!!いかにも偶然を装ったお芝居してるんだけど、どことなくぎこちないのがこれまた最高!さらにワインに目がない看守さんもそれに応えるようにコミカルな仕草でそれを受け取るんですよね。この作品の中で唯一笑いが漏れるのがここなので、一番ほっとできる瞬間だったりもします。
そしてレオとルシールはお互いへの愛情を惜しみなく溢れさせながら「これまでの膨大な時間を無駄に過ごしてきてしまった」と歌います。愛し合いながらも余計な感情が邪魔をしたり、言いたいことを飲み込んだりしてギクシャクした夫婦生活を送ってきてしまったことを心から悔いるのですが…もう、ここは…二人の今の気持ちが分かりすぎてしまって号泣に次ぐ号泣(涙)。二人の希望と喜びを示すようなオフホワイトの背景も本当に泣ける!!!
私はこのシーンが本当に大好きで、初演の時から嗚咽に近いほど涙が出てしまうんですよね…。思い出しただけでもウルウルしてしまいます。
ミュージカル『パレード』が再び現代を映し出す - 山口宏子|論座 - 朝日新聞社 #パレード #ミュージカル #堀内敬子 #森新太郎 #石丸幹二 https://t.co/hUB5YkK2OO
— 論座 (@webronza) January 16, 2021
状況的にはまだ減刑されただけの厳しいものではあるのですが、その困難を経てレオとルシールは夫婦の絆を取り戻していった。そのドラマが丁寧に紡がれていたので、二人が真の愛情で結ばれるこの場面は涙なくしてはどうしても見られません。数あるミュージカルの中でも5本の指に入るほどの名シーンだと思います。
今回は、この先さらにネタバレに踏み込みます。ラストを知りたくない方は読むのを回避してください。
日が暮れた頃、ルシールは「必ず家に帰れるようにするから」とレオに誓い「また次の日曜日にね」と約束を交わし帰って行きました…。この場面を見るのが本当に辛い…!!!それが今生の別れになってしまうなんて思いもしない二人だからなおさら哀しくて仕方ないのです(涙)。
ルシールと別れたレオは軽装のまま幸せな気持ちで布団に潜り込みますが…その日の夜、複数の男たちに無理やり拉致されてしまう。関わった人物は、メアリーを想っていたフランキーと最初にレオを逮捕した警官二人、手伝いの男、そしてあの南北戦争の生き残りの老兵です…。レオ本人、というよりも「ユダヤ人」「北部人」といった部類でしか彼を見ていない人たちばかりだというのが恐ろしい…。
レオが拉致された場所はメアリーの生まれ故郷・マリエッタ。フランキーだけはレオ本人に対する憎しみを向けている。彼はレオが真犯人であると信じて疑わないんですよね、そうすることでしか精神的にも耐えられなかったから…。
しかし、警官の一人と手伝いの男はレオが本気で謝罪すれば助けてやってもいいと考えている。彼らは今自分たちが行おうとしている出来事から逃げたい気持ちが強かったんだと思います。
しかし、レオは「もう願い事をするのはやめたんだ」と呟いた後
「ここまで耐えてきたのはやってもいないことを認めることなんかじゃない」
と毅然として言い放つ。この時のレオの確固たる信念と強さに震えた…。そしてその言葉はある男に響いたようで、彼は一言「彼は犯人じゃないんだ」って確信するんですよね…。この時彼がもっと強い人間だったならって思わずにはいられないよ(涙)。
数人が恐怖と畏れのあまり怖気づくなか、スターンズ刑事は強引にレオの首に縄をかける。そして最後に動いたのは、どうしてもレオが真犯人であるという想いから逃れられなかったフランキーだった。「メアリーの為だ!!!」という叫びがあまりにも哀しく響き渡り、見ているこちらはもう息が詰まるように時が止まったような感覚にさせられてしまうのです。
レオはきっとあの瞬間、自分とキリストを重ね合わせていたのかもしれない…。
フィナーレ
全てが終わった後、記者のクレイグは自分の元に届けられていたというレオの遺品である結婚指輪をルシールに届けにやって来る。クレイグは裁判の後からどちらかというとレオたちのほうに気持ちが傾いている節があったので、この役目を担うには相応しい人物かもしれないなと思いました。
このやり取りの最中、後ろのほうでは事件当日のレオとメアリーのやり取りのシーンがもう一度出てくるのです。お給料をもらいに来たメアリーに優しい表情で袋を手渡してやるレオ…。1幕ではその後メアリーがレオに何かを言いかけたところで終わってしまいましたが、2幕ラストではその顛末が描かれています。
給料袋を受け取ったメアリーは帰りかけたところでレオの所に戻ってきて、ある言葉を告げるのです。
「フランクさん、追悼記念日、おめでとう!!」
このセリフが告げられた瞬間、私はもう涙を止めることができませんでした(号泣)。メアリーは明るい笑顔でレオにそう告げたのです。つまり彼女は、レオに対して嫌悪感を抱いてなんかなかった。それだけに、今回の事件があまりにも悲惨で哀しすぎて心が痛くて…堰を切ったように涙があふれて仕方なかったです(泣)。
クレイグはルシールに北部へ引っ越したほうがいいのではと提案しますが、彼女は鋭く毅然とした態度で「私は南部を離れない」と断言する。おそらくそれが、彼女なりの世間に対する復讐なのだと私は思います…。そして、レオの魂と共に南部で生き抜く覚悟をしたのだと。
レオとの優しい時間を想い振り返りながら歌うルシールは必死に涙をこらえ、クレイグから受け取ったレオの遺品の指輪をはめる。でも、その背景で戦没者記念パレードの声が聞こえてくると、溢れ出る哀しみの感情を止めることができませんでした(涙)。それでもポロポロ涙をこぼしながらも懸命に前を見据えて凛と立ち続けるルシールの姿は、誰よりも気高く、そして神々しかったです。
もしかしたらあの時彼女は、心の底から沸き起こるレオを葬った人々への憎しみを必死にこらえていたのかもしれません。”憎しみ”の感情が生み出す悲劇を目の当たりにしたからこそ、自分がその負のサイクルを断ち切るのだと…。あのラストシーンのルシールの姿には色々と考えさせるものがありますね。
ここで物語は終わるのですが、私も含めこの物語を受け止めるまでには時間が必要で…すぐには拍手が起こらないことが多いんですよね。大阪初日もそうでした。でも2日目はすぐに拍手が起こってて、そういう日もあるんだなって新鮮でした。
それでもやっぱりまた思ってしまうのです・・・もう一度この作品に戻りたいと!!すごいミュージカルだなと改めて実感した2日間でした。
主なキャスト別感想
石丸幹二さん(レオ・フランク役)
再演のレオは初演よりもさらに神経質度が増したかなという印象がありました。北部人であることのプライドを捨てきれないところとか、内面の未熟さも浮き彫りにされたお芝居をしていてよりリアルになったと思います。それだけに、ルシールの想いに気づき彼女と向き合わなければと決意した場面がより感動的にドラマチックに映りました。
歌声もシーンごとに変幻自在に変化させて繊細にレオの内面を表現。このあたり、本当に良し丸さんってすごい役者だなぁと思います。できることなら次の公演の時にもさらに進化したレオ役で私の心を揺さぶってほしいです。
堀内敬子さん(ルシール・フランク役)
堀内さんの歌声の力強さと芯の太さは初演よりもさらに際立っていた印象があります。言葉の一つ一つ、歌声の一つ一つにしっかりとルシールとしての想いが乗っていて真っ直ぐに見る者の心に届き激しく揺さぶってくる。ルシールの場面は私、ほとんど泣きましたからね。本当に素晴らしかった。
何と言っても、堀内さんのセリフの説得力がハンパなかったんですよ!ルシールに託したらきっと何かが変わる、希望が持てるって自然と思えてきてしまう。そしてあのラストシーンの涙を必死にこらえようとしながら前を向こうとする姿が忘れられない。カーテンコールも何度かありましたがずっと涙止まらなかったですものね。ホント、最高すぎるルシールでした。
武田真治さん(ブリット・クレイグ役)
実は初演の時にはあまり印象に残らなかった武田さんのクレイグだったのですが、今回はめちゃめちゃ存在感あったと思います。病み上がりだったにもかかわらず縦横無尽にフットワーク軽く舞台を駆け回り証言を集めていくシーンなんか躍動感凄くて最高でした!
クレイグは最初はレオ事件のことを面白いショーくらいにしか思ってなかったのですが、裁判を傍聴した時を境に事件の本質を見極めようとする姿勢に変わるんですよね。そんな彼の心の微妙な変化を武田さんは実に繊細に表現していたと思います。
今井清隆さん(トム・ワトソン役)
初演では新納くんが演じていた役だったので、ずいぶん雰囲気が変わったなという印象がありました。新納くんの時にはどこか”妖しい”掴みどころのないファシストのような雰囲気でしたが、今井さんが演じるとどっしりとした揺るぎない男といった雰囲気に変わったように思います。しかも歌声が野太く威圧感もあるので、あの勢いでレオは有罪に違いないとがんがん歌われたら…そりゃ群衆も引っ張られてしまうよなっていうのがすごい納得できてしまいました。
内藤大希くん(フランキー・エップス役)
初演では小野田龍之介くんが演じていて澄み渡る歌声に魅了されたのですが、内藤くんはめちゃめちゃ情熱的にアツアツな歌声で劇場を圧倒していました!冒頭の若い兵士役の歌声からしてもう、私の心にビシバシとシンパシーが伝わってきて…いつの間にか涙が流れたほど感動的だった。っていうか、内藤くんがこんなにも迫力のある歌声を持ってると最初は気づいてなかったのでちょっと驚きました。
レオへの憎しみを青筋立てながら大熱唱するシーンも多かったのですが、痛々しいほどフランキーの哀しみと憎しみの感情が歌声から伝わってきたんですよね。倒れちゃいそうな勢いで歌うシーンも多かったのに、音程に全く狂いがなかったのも本当にすごいと思いました。
坂元健児さん(ジム・コンリー役)
初演の時も圧倒されたんですが、さらにそこからまたパワーアップした感じ!もともとサカケンさんの歌声はパワフルボイスで音程の狂いもなく完璧だという印象が強いのですが、ジム・コンリー役での歌いっぷりはその最高峰のものが見れると思います。もう、圧巻の一言!!あの歌声で開き直られたら、そりゃこっちはもう何も言い返せなくなるよって納得出来ちゃいますよw。
ちなみに、刑事スターンズも演じているのですがこちらも非常な性格のキャラ。歌はないけれども圧倒的な非情さで本当に恐ろしかったです…!
福井貴一さん(ローン判事役)
藤木孝さん亡き後、ローン判事を引き受けてくださった福井さんには本当に感謝です。初めて登場したシーンを見たときには藤木さんの面影に似てるなとすら思いました。裁判のシーンでは知的でダンディでとにかく渋カッコイイ!!判事としての静かだけど確かな貫禄がシーンを引き締めていたと思います。
対して2幕ではローン判事の保守派ゆえの本音みたいなのが出てくる。1幕の毅然とした姿とは違う後ろ暗い感情が表に出ていてまるで裁判の時とは別人のようだった。このあたりの演じ分けの繊細さがさすがでしたね。
石川禅さん(ヒュー・ドーシー役)
初演の時にはレオの前に立ちふさがる「悪役」の側面を強く感じた禅さん演じるドーシー検事でしたが、再演の今回は少しそれが薄まった印象がありました。レオを有罪とするために裏工作とかやったりしててそのあたりは”悪役”としての顔が強く出てる気がするんだけどw、根底には彼なりの正義があってそれに忠実に従っているといった側面を感じることがちょいちょいありましたね。北部出身のユダヤ人には制裁を加えなければならないというような信念が所々で感じられたかも。それゆえにかえって初演よりも恐ろしさを感じたかもしれません。禅さんはこういったお芝居が本当に非常に巧い!
あと印象的だったのがローン判事と釣をするシーン。魚を釣るときの竿の持ち方や餌の付け方、かかった魚を掴む仕草が実にリアルでびっくり(すべてパントマイムで演じます)。改めて禅さんの演技力の高さを実感した場面でもありました。
そのほかにパレードの見物客役も演じられているのですが、その時はおじいちゃんになっててめちゃめちゃ可愛い(笑)。ドーシーとは真逆のキャラを楽しまれているようでホッコリしましたw。
本日夜の部、
真ちゃん(#武田真治 君)
が初日を迎えました!
そして、
昼の部まで代役をつとめた
景一(#田川景一 君)に
心から拍手を送ります🤗「#パレード」東京公演、
まもなく折り返し地点です。
写真は、楽屋で健ちゃん
(#坂元健児 君)と。
楽しく過ごしています!禅 pic.twitter.com/SEocFhwVCR— 石川禅&STAFF (@zenishikawa) January 23, 2021
コロナ禍以来の舞台がこの『パレード』だったとは思えないほど完璧な歌とお芝居を披露してくれた禅さん。大阪まで来てくれて本当に嬉しかった!!
岡本健一さん(スレイトン知事役)
岡本さんは歌唱力の点からいうとほかのキャストに比べてやはり少し弱い印象があるのですが、初演よりもすごく安定している印象が強かったです。ソロナンバーはダンスパーティーの場面で出てくるんだけど、岡本さんのライトでポップな歌いっぷりがすごくマッチしていて良いんですよね!軽やかなステップと共に堪能させてもらいました。
印象深いのはやはりレオの死刑を減軽する決意をした場面ですかね。奥様に「弱気な大統領の妻より勇気ある元知事の妻のほうがいい」と言われた後の「そうなのか!?」の言い方が特によかったです。また、演説台で群衆のヤジに負けないように自分の信念を訴えてたシーンもグッとくるものがありました。
後述
新型コロナ禍の影響が色濃い状況のなか、客入りはどうしても寂しくなってしまっていたのですが…、それでも私が観劇した大阪初日と2日目はスタンディングオベーションでその日の倍くらいの迫力の拍手音が鳴り響いていました。それほどこの作品が大阪の皆さんの心にもしっかりと届いていたんだろうなと思い、私もとても嬉しくてまた泣いてしまった。舞台上のキャストの皆さんも感無量の表情でした(岡本さんは客席に向かって何度も拍手されていました)。
ストーリーは実話を基にしているということもありとてもシビアな内容が多いのですが、場面ごとにドンピシャな色とりどりの音楽がそれを緩和しているようにも思えます。おそらく私もストレートプレイだったらこの作品は辛すぎて見れない気がする…。あの楽曲があればこそ、この『パレード』という作品を受け止めることができるのです。
コロナが収束してきた頃、安心して観劇できる環境になった頃にまた絶対再演してほしい!っていうか、してください!!本当に多くの人に観てほしい作品なので。
公演は大阪の後、名古屋・富山と続くようです。こんな時代じゃなければ富山大千穐楽に駆けつけたかったくらいだよ(涙)。どうか最後までカンパニーの皆様が元気に駆け抜けることができますように!!また再会できる日を楽しみにしています。