全体感想
マチネは2階席の後方から、ソワレは1階席の前方から…と、この作品を広い目で観れたことがとても幸運でした。
というのも、近くから見ると役者さんたちの感情が直で伝わってきたり客席降りの演出の時に近くを通ったりという利点がありますが、遠くのほうから見下ろすと照明やセットの動き方などによって『ファントム』という作品のドラマ性がとても色濃く見えたからです。
2階席から見るとエリックとクリスティーヌの二人の時間の描かれ方がとても優しく、丁寧に紡がれていることがものすごく伝わってきて泣けました。
特に♪あなたこそ音楽♪では「あなたは私の音楽」と歌う二人のシーンがとても感動的。
余計なセットはなくて、舞台中央付近でピアノを挟んで歌うエリックとクリスティーヌを上から温かみのある色の光を照らし盆をゆっくり回す演出になってるんですよね。これだけで二人の心が温かく満たされていくのが手に取るように伝わってきました。孤独に生きてきたエリックがクリスティーヌに依存していくことへの説得力が増す場面にもなっていたと思います。
盆を回す演出は随所に見られましたが、どれもドラマチックで分かりやすく、ストレートに人物の感情が伝わるようになってました。ラストシーンも盆を回す演出になっていますが、これが♪あなたこそ~♪のシーンと見事にリンクしていて大号泣してしまいますしね。
演出の城田優くん、ほんとにすごいよ!!『ファントム』の持つ作品の魅力をとても繊細に描いてくれてる。彼がいかにこのミュージカルを愛しているのかが伝わってきて本当に嬉しかった。
私は2008年と2010年に上演された大沢たかおさんが演じた『ファントム』の記憶がいまだに色濃く残っていて忘れられない存在となっていますが、そのころと比べると新しいシーンが加わっていたりとだいぶリニューアルされた印象があります。
特にエリックの母親であるベラドーヴァのエピソードの描き方は見るごとに変わってる気がする。大沢さんバージョンの時にはベラドーヴァの存在がほぼ出てこないに等しかったですからね(08年の時は姿月あさとさんの声だけの出演だった)。
クリスティーヌと雰囲気が似ているという設定で2役になったのはたしか14年に城田君がエリックを演じた頃からだと思います(宝塚は見ていないのでどうなっているかはよくわかりませんが)。
今回のベラドーヴァの場面はダンスで魅せているのが非常に印象深い。ほとんどセリフは付けないなかで、ベラドーヴァの心情は体全体を使った踊りで表現されています。言葉で語るよりも彼女の深い心の叫びなどが不思議と心に刺さる演出がすごい。
彼女が転落の人生をいくなかで、ノートルダム寺院のあたりで怪しい薬草に溺れるという場面があるのですが、ここで思わず『ノートルダムの鐘』を思い出してしまった。そういわれて見れば、舞台は同じパリですからね。それに何となくあの作品と物語のテーマが被るところもあるからなおさら。
エリックが生まれたあと、ベラドーヴァが♪Beautiful Boy♪(2014年からの新曲)を歌う場面は何とも神々しい。その姿を思い出しゲラールが「一番悲しかったのは酷い顔をした赤ん坊を彼女が美しいと慈しんでいたことだ」と語る”残酷さ”と同居していて…何度見てもこのシーンは胸が痛んでしまいます。この時点で彼はまだ父親としてのエリックへの愛情というものが芽生えてなかったように思えます。
少年エリックが自分の姿を知ってしまった時、ゲラールは仮面を与えますが、それは「自分自身の気持ちを落ち着かせるため」という意味合いが大きかったりするんですよね。自らの姿に衝撃を受けた少年エリックが火が付いたような号泣を繰り返す場面は何度見ても心が痛くて泣けます(涙)。
♪パリのメロディー♪を歌うクリスティーヌにシャンドン伯爵が目をつけて「オペラ座で稽古を受けるといい」と誘うシーン。あまりにも思いがけない出来事にテンションが上がったクリスティーヌが思わず持っていた譜面をばらまいてしまうのがとても可愛くて好きです。
その明るいシーンと対比で”ファントム”の暗いシーンへと移ってく、その物語構成の落差もこの作品の魅力のひとつ。
そうそう、オープニングの♪パリの~♪のシーンの演出も微妙に変化してました。確か以前は途中で街の人たちが顔を押さえて苦しむ仕草をするっていうのがなかったと思います。こういうのを挟んでくる演出をつける城田君のセンスがとても好き。
エリックの歌う♪世界のどこに♪は個人的にこの作品の中で1,2を争うほど好きなナンバー。これまで見てきた中で一番、エリックが美しい音楽への憧れを強く持ち、そしてもがいている気持ちがストレートに伝わってきてとても感動しました。
カルロッタのもとにクリスティーヌがレッスンを頼むためにやってくる場面。ここはかなりコミカルに描かれていて、カルロッタとショレーとの掛け合いが絶妙で楽しめます。特にクリスティーヌを衣装係に決めた後の二人のテンションは笑えるw。
これまでは「カルロッタのC」ポーズでヤンヤやってたけど、いつかここアドリブで別バージョンが来ないかと期待してる(笑)。
♪Home♪も名曲中の名曲!!このナンバーは始まった瞬間から涙があふれてしまうんですよね、美しく優しい旋律に。よくこんな美しい音楽を生み出せたなぁと・・・モーリーイェストン、ほんとすごい作曲家だと思う。
前回の城田エリックの時は衣装を挟んで同じ目線でクリスティーヌと最初の接触をしていたと思うのですが、今回は高い場所から衣装を挟んで語り掛ける感じになってました。たしか大沢エリックの時も高い位置から語り掛ける演出で、それがとても好きだったので戻ったような気がして嬉しかったです。
ビストロでの歌唱披露に成功したクリスティーヌがカルロッタの口利きで「主役」を任される場面。自分よりも目立つクリスティーヌに対する嫉妬に燃えるカルロッタの表情が見ていて面白いです。クリスティーヌを主役にと口添えしたのも、策略があると同時に「物わかりの言い自分」を演出することで周囲の注目を強引に持って来ようとする意図がある。
どこまでもしたたかなカルロッタですが、押しの強さと同時に何か憎めないところがあるんですよね。
そして次の場面転換までの間、客席ではクリスティーヌ主演のオペラを見に来るお客さんが練り歩くという演出。大沢さんバージョンの時は舞台上でのみ展開されていましたが、2014年公演からは客席降りがスタンダードになった感じですw。
その中で一番面白いのは、チケットが入手できなかったお客さん。実際に客席に座ってる人に「チケット余ってませんか!?」って聞きまわってるのが面白い。みんなこぞって首を振るわけですが、21日ソワレでついにチケットを渡そうとするお客さんが現れたww!!それに対してどう反応するかと思ったら…
「これ、100年後のチケットじゃないですか!これじゃ入れない~~」
と嘆いて返してました(笑)。なるほど、そうきたかww!!
ちなみに、大沢ファントム公演の大千穐楽ではたしかチケットもってる人に出くわしたっていうオチがついてましたが、今回はどうなるのか・・・最後まで目が離せません(笑)。
シャンドン伯爵の甘い言葉にその気になってしまうクリスティーヌ。二人きりで歌う♪思いもよらぬ君♪は『オペラ座の怪人』のクリスティーヌとラウルのラブシーンを少し彷彿とさせるものがありますが、雰囲気はかなり違います。『オペラ座~』は大人の男女といった印象があるのに対し、『ファントム』の二人はどこかライトでちょっと幼い恋愛といったイメージが強い。
それゆえに、見ているこちらもなんだかちょっと弾んだ気持ちにさせられる。でも、ライトなんだけど根底に流れている旋律はとても美しいので自然にうっとりした気分にもさせられてしまう。モーリーイェストンの音楽、おそるべし!!
そして楽屋の場面にいくわけですが…、シャンドンとクリスティーヌのキスシーンがかなり長いw。盆が回転してる間ずーっとキスしているので、ここは演じるほうはけっこう大変だなと思いました。
が…!!そのあとの切なさが過去最高で…これ、初めて見たときボロ泣きしました(涙)。♪崩れゆく心♪の場面は今回から新たに加わりましたよね。あの後ろ姿…そして歌詞の内容が哀しくてたまりませんでした…。特に最後の「それでも呼ぶよ、君の名を」の歌詞のところは涙なくしては見れません…。
♪タイターニア♪の衣装はなかなか可愛い。そういえば、大沢ファントムの時にオーベロンを演じていたのは四季に入団する前の中井智彦さんだったなぁ。
事件が起こった後にエリックが催涙ガスの仕掛けを施して天井からスーーっと降りてきてクリスティーヌをさらうシーンは美しく、そしてこの上なくカッコいい。目くらましに遭って身動きが取れないままのラウルを冷たく見降ろしながら去っていく姿がすごく印象深いです。
2幕冒頭、クリスティーヌをさらうエリックの場面ですが…ここの演出が『オペラ座の怪人』をオマージュしたような感じになっていたのが「お!!」と思いました。たしか、これまではエリックのベッドルームにすでにクリスティーヌが眠っている状態での場面だったんですよね(少なくとも大沢さんのときはそうだった)。
それが、今回見たら、大きな竜の頭が付いた船に気を失ったクリスティーヌを乗せて住処へ向かう演出に変わってた。このシーンは『オペラ座~』でファントムがクリスティーヌを地下へいざなう場面と重なるので、”もうひとつのオペラ座の怪人”というサブタイトルと被るのを感じました。城田演出家、やるな!!と思った場面でもあります。
ゲラールによる真実の話を聞いた後も残ることを決めるクリスティーヌ。しかしその裏でエリックはカルロッタに会いに行ってるわけで…そこの二面性というか残虐性がゾクっとさせられます。カルロッタとの対峙の場面は今回もけっこう凄惨な描かれ方をしてました。
大沢エリックの時はたしか階段のところで行動に及んでてすべてを見せる感じだったけど、城田演出は楽屋で、最後の部分は見せないようにしてた。これはこれで背筋が寒くなる印象だったかも。
この作品の中で一番残酷だなと思うのが、エリックとクリスティーヌのピクニックの場面です。
エリックにとっては幸せの絶頂な時間なわけですが、クリスティーヌのある一言によって心をかき乱されてしまう。このやり取りがまた泣けるんですよねぇ…。さらにクリスティーヌの歌う♪まことの愛♪がまるで聖母のような響きを含んでてこの上なく美しい。その雰囲気にエリックはついに真実をさらけ出す決意をしてしまうわけですが、決断に至るまでの葛藤がとても繊細に演じられていて涙なくしては見られない…!!
そして、真実がさらされた瞬間ですが…この演出がかなり変わりました。特にクリスティーヌの反応がこれまで受けた印象とだいぶ違います。そして、エリックの反応も…。
この場面についてはネタバレ度が高いので大阪公演を見てからまた触れようと思いますが…私はここで嗚咽に近いほど泣きました(涙)。
泣きながら戻ってきたクリスティーヌに対し、ゲラールが「なんてことを!」と嘆く場面がありますが、大沢エリックのときはそのあとに「中途半端な優しさが一番残酷なことなんだ」と諫めるセリフがあったと思うんですよね。それが今回見たらなくなってて、ひたすらクリスティーヌをいたわる対応に変わってた。前回の城田君の時もそうだったかな?
個人的には、ゲラールのあのセリフがけっこう刺さったので入れてほしかったなというのはちょっとあります。
自暴自棄になり追われることになるエリックは重傷を負ってしまいます。それを匿うゲラールとの父と子の時間が・・・これまた泣けるんです!!「ずっと言ってくれるのを待ってた」っていうエリックのセリフに涙腺決壊(涙)。
そんな息子に対するゲラールの父としての愛情がこれまた本当に温かくて…。特に演じてる岡田さんが実に愛しそうにエリックに接していたのでもう、ここも嗚咽レベルの涙でした(泣)。
そしてクライマックスへ行くわけですが…、殺陣シーンがかなりダイナミックになってます。特にシャンドン伯爵を追い詰める場面…あれはかなり思い切った演出だなぁと(2階席から見るとカラクリが見えるわけですが)。それだけ緊迫感を高めるシーンになってたのですが、くれぐれも最後まで怪我のないように乗り切ってほしいと思います。
それから、最後の”父と子”の時間の場面ですが、ここも大沢さんの時とかなり演出が変わってます。ロープに上った後から最後の瞬間までの時間がだいぶ短くなった印象。個人的には大沢さんのときの「父さん!!」ってセリフに大号泣したんですけど、前回からそれがなくなってしまって今回もかなりシンプルになってて…それがちょっと寂しかったかな。
あと、”あの瞬間”に音楽が流れなくなり静寂度が増したのも印象的です。クリスティーヌとの時間をじっくり丁寧に描いていてラストシーンはとても神々しく哀しくも本当に美しい瞬間となっていました。
大好きだった大沢さんバージョンは今も忘れられない存在ですが、今回の城田くん&和樹くんバージョンもそれと同等の深い感動を得ることができました。
マチネからソワレに行くとき入り口で違うチケットを出してしまうくらい呆けたし(指摘されてよかったw)、ソワレが終わって劇場を出た後も涙が止まらなくてしばらく駅にも行けないくらい心が昂った(汗)。とても濃厚なマチソワの時間を過ごすことができました。
キャストの感想は次のページにて。