全体感想(2幕)
2幕は深くエリックの内面に迫る展開になっています。特に二つの愛の物語が実にドラマチックで毎回号泣させられてきたわけですが、今回は特に和樹くんの大千穐楽ということもあってか私の感情も頂点まで昂ってしまい、嗚咽状態になってしまって…声を殺すのに必死でした(汗)。
2幕はアントラクトが終わる寸前に劇場の明かりが不穏な形で切れる演出からスタートするんですよね。この、舞台全体が『ファントム』という作品の一部なんだって感じさせる城田演出が好きです。
♪君をなくせば♪
舞台上で倒れたクリスティーヌを自らの住処にエリックが運ぶ場面。前にも書いたけど、以前はここは船(ゴンドラ?)は出てこなくてすでにベッドルームだったので、非常に新鮮でした。
「君をなくせば僕は終わる」っていう最初の歌詞がすごく刺さるんですが、和樹エリックがとても刹那的な雰囲気で歌うので本当に切なく、見てるだけで苦しくなってしまった。歌詞の一つ一つに、エリックの心の叫びのような思いを繊細に丁寧に魂込めて歌っていた姿が本当に印象的で忘れられません。あぁ、和樹くん、エリックを生きてるなって…すごく思った。
部屋に到着した後、ベッドにクリスティーヌを寝かせるのですが、その寝顔に吸い込まれるように顔を近づけるんだけど寸でのところで思いとどまるエリック。この時の和樹くんのちょっと「ハッ」としたような表情もすごく哀しかったなぁ…。
その後かいがいしくドレスの裾をベッドの上に整えてあげたりと、彼にとっては幸せの時間が訪れているのですが、キャリエールの登場で一気に雰囲気が険悪になってしまう。
和樹エリックはクリスティーヌが危機に直面したことに対して激しい憤りを感じていて、キャリエールに向かって食いつかんばかりの勢いで激しい言葉をぶつけ続けます。何よりも大切な心の支えであり愛しい存在のクリスティーヌゆえに、「彼女を返すべきだ」というキャリエールの言葉がどれだけ鋭い刃として彼の心をえぐっているかが伝わってくる。
特に大阪で観た和樹エリックは本当に怖いくらいに激高していて…今にも壊れてしまいそうだったなぁ…。「黙って!!!」とキャリエールを一喝した時の勢いは東京で見たときよりも激しくて、しばらく息を整えるのに時間がかかっていたほどだった。
「僕が生まれた理由は彼女と出会うためだった」と泣きながら訴える和樹エリックの姿が本当に痛々しくて胸が詰まる想いになった。でも、キャリエールに「二度と来ないで」と告げたときには少し言葉の調子も落ち着いて、その流れで彼に対する感謝の言葉を口にする。
この、エリックの微妙な感情の揺れ動きを和樹くんはとても繊細に演じていたと思います。
♪世界のどこに(リプライズ)♪
キャリエールが去った後、エリックはクリスティーヌを傷つけた張本人を襲うために部屋を出ていく。
♪世界の~(リプ)♪の歌い方が、徐々に常軌を逸していく感じでとても危うかった。クリスティーヌを傷つけた者へのどうしようもない憎しみがどんどん膨れ上がっていってゾクっとさせられる感じ。
特に、ベッドの下からマスクとナイフを取り出した時の表情が「悪に乗っ取られた」かのような鬼気迫るものだった。
部屋から出ていくとき、クリスティーヌにちょっと視線を移した時だけフっとした笑顔を見せていた和樹エリック。そのあとすぐに興奮状態で階段を駆け上がって去って行ってしまうわけですが、このちょっとした表情一つだけでもクリスティーヌに対する依存度が並々ならぬものだと伝わってきました。
こういった細かい感情の移り変わりみたいなお芝居は、今まで和樹くんの芝居の中であまり見たことがなかったのでとても印象深かった。
♪エリックの物語♪~♪ビューティフル・ボーイ♪
この作品の中の一番の肝となるのが、キャリエールが語る「エリックの物語」です。
この話、聞けば聞くほど、キャリエールって酷い男だったよなぁと思ってしまうのですが(汗)岡田さんが演じるとなんだか感情移入してしまって「ひどい男」感が薄まっちゃうんですよねぇw。
エリックの母となるベラドーヴァを演じるのがクリスティーヌを演じてる晴香ちゃんと愛希さん。
晴香ちゃんは本格的なダンスが初めてとは思えないほど溌溂と美しい動きを披露していて素晴らしかった。キャリエールの告白を聴いた瞬間の凍り付いた表情がとても痛々しくて、そこから転落の道をひた走るベラドーヴァの姿を見るのがとてもつらかった。
でも、エリックを産んだ後の母性溢れる表情になるところはすごかったな。晴香ちゃん、まだ若いのにあんな表情で切るんだってビックリした。
愛希さんは元宝塚の女優さんということもあってダンスがとてもしなやかで力強い。その美しさにキャリエールが心を奪われてしまうというのも納得でした。転落していくときの崩壊っぷりのダンスがこれまたすごい鬼気迫っていてベラドーヴァの絶望感というものが痛々しいほど伝わってきました。あの表現はすごかった、ほんとに。
エリックを産んだ後の表情は慈愛に満ちていて、まるでそこが天国のようにも見えたな…。聖母のようだった。
醜い顔で生まれてきた我が子を優しく見つめながら♪ビューティフル~♪を歌うベラドーヴァの姿は何度見ても泣けます。まるで聖歌のような優しく温かい愛情あふれる音楽と歌詞が素晴らしい。
彼女が亡くなった後に少年エリックが出てきて、自分の本当の姿を知り嘆く場面があります。3人の少年エリックの中で一番見ていて痛みが伝わってきたのが熊谷くんだった。美しい祈りの歌を歌い終わってからの嘆きっぷりはまるでこの世の終わりのよう。ありったけの声を張り上げて泣き叫ぶ姿に今回も思わず落涙させられました。
キャリエールからエリックの物語を聞かされたクリスティーヌは「この話を聞いたらなおさら去っていくことなどできない」と申し出を拒絶。この時彼女はそれまで以上にエリックに対して同情心を抱いたけど、それは本当の愛情ではないわけで…キャリエールが苦い表情を浮かべていたのがとても印象的だった。
カルロッタの最期
このシーンは歌ではなくセリフ劇で展開されるのですが、鏡の向こうからカルロッタを呼ぶ和樹エリックの声が今まで以上におどろおどろしく憎しみが込められているように聞こえました。
この時エリックは突然グサっとやるんじゃなくて、最初に「逃げ道」の選択肢も与えてるんですよね。あんなに憎んでいるのに、その選択肢を加えるところに”悪”になり切れないエリックの純粋さを感じてしまう。
それにしても…大阪の和樹エリックの狂気はすごかった…!!特に鏡の向こう側に移った後。東京で見たときはほぼ無言で、しばらくしてから血で染まった花束を置くという仕草だったはずなのですが、大阪では獣のような声をあげて何度も凶行に及んでる姿を想像させる演出に変わってた…!!まるで悪魔のうめき声のようですごく怖かった…!!
さらに、血の花束を落とすときの悪魔がとり憑いたような表情が「悪」そのもの。あまりの恐ろしい形相に驚かされました。エリックの持つもう一つの顔を和樹くんはものすごく繊細にかつ大胆に演じてたと思う。
♪まことの愛♪
エリックとクリスティーヌの森の散歩のシーンは、エリックがこれまでの人生の中で初めて感じた幸福な時間です。和樹エリックは東京の時よりもやや興奮気味で、ちょっとびくびくして挙動不審になりながらもクリスティーヌと一緒に森を歩いていることの喜びが抑えきれない様子だった。声の調子もだいぶ上ずってたし、エリックの零れる感情がどんどん溢れ出てくるよう。
印象的なのは、クリスティーヌが道の途中で花を摘んでエリックの胸ポケットにさしてやる場面。クリスティーヌにとっては何気ない一瞬だったかもしれないけど、エリックにとっては一生で一度の幸福の絶頂の瞬間です。和樹エリックはとても大事そうに花を撫でながら嬉しさのあまり顔に出てしまう感情を抑えきれないかのようだった。その表情が本当に可愛らしくて…このすぐ後にやってくる悲劇のことを想うと切なくなったりもしてしまった。
愛する人との貴重な時間をどう過ごせばいいのか分からないまでも、不器用になんとか彼女との会話を保とうとする和樹エリックの涙ぐましい努力がまた泣ける…。幸福な時間を一分一秒でも長く伸ばしたいという気持ちが痛いほど伝わってきた。
そんななか、クリスティーヌが歌を歌う代わりにある交換条件を持ち掛けてくる。
「お顔を見せてください」
この言葉がエリックの幸せな時間の終わりを告げるわけで…。なんとかその話題から逸らそうとしても、彼女は「愛していないと言われるまであきらめない」と迫ってくる。逃れられない言葉にたじろぎ恐怖のどん底へ突き落されてしまう和樹エリックの心の葛藤が本当に泣けました(涙)。
♪まことの~♪を歌うクリスティーヌはそんな怯えるエリックの心を包み込むように優しく温かいのですが、それに応えてしまった後の彼女の反応を想像すると恐ろしくてたまらない。体を震わせて涙を浮かべながら逃れようとする和樹エリックがあまりにも切なくて愛しくて涙が止まりませんでした。
それでも、最後の最後にエリックはクリスティーヌが受け入れてくれることに賭ける決意をする。怯え震えながらも、恐る恐る頷いて仮面に手をかけたとき、和樹エリックは笑顔を作ってた。クリスティーヌを傷つけないように優しい笑顔を浮かべてたよ…。
仮面を取ったあと、クリスティーヌに不器用な笑顔を見せる和樹エリックでしたが、彼女は想像を超えた光景に耐え切れずその場にへたり込む。そんな彼女を起こそうと手を差し伸べる和樹エリックの精一杯の笑顔があまりにも哀しすぎて涙腺大決壊(涙)。
しかし、クリスティーヌはその手を取ることなくその場を逃げ去ってしまうわけで…彼女に向けた笑顔が凍り付いたまま立ち尽くす和樹エリックがホントに辛かった。
だけど、今回の演出は今までのよりもかなり対応がソフト化してるんですよね。それまでは、エリックの顔を見た瞬間に断末魔のような悲鳴を上げながらクリスティーヌは逃げていってしまってたので(汗)。あの対応に比べれば、何とか受け入れようと努力する姿を見せる今回のクリスティーヌは優しいと思っちゃいますよ。ただ、どんなに頑張っても受け入れられなかったわけで、それがよけいにエリックの心を抉ってる気がして悲しかった…。
♪母は僕を産んだ♪
クリスティーヌが立ち去った後、凍っていた笑顔はやがて泣き顔に変わり後ろを向いて仮面をつける背中があまりにも哀しすぎた和樹エリック(涙)。あの後ろ姿だけでも涙腺が大崩壊ですよ…。
そして狂ったように暴れ、自ら築き上げた森の世界を破壊していくエリック。その時に胸に挟んでいたクリスティーヌからもらった花も投げ捨てるんですが、それも悲しいんだよなぁ…。
そして最後に破壊するとき、舞台の後ろにあった緑の幕を引き落とすと同時に大量の白い粉が降り注ぐんです。幸福の時間が破壊され、ガラガラと崩れる砂ぼこりのようにも見える。その中で激しく泣き叫ぶ和樹エリックのなんと哀しく…そして美しかったことか…!!!思い出すだけでも涙が出ますよ…。
で、そのあとしばらく涙で立ち上がれないほど泣き崩れるんですけど、東京公演の時は音楽が無の状態で、エリックが歌いだすのをじっと待っているかのような雰囲気だった。それが、大阪公演では低い1音がズーンと響いててその音に導かれるようにエリックが歌いだすといった感じに変わってました。
この場面は本当にエリック役者にとっては心身共に削られる一番キツイ瞬間でもあるので、最初の音を入りやすくするための配慮で音を一つ鳴らすことにしたのかな(違うかもしれないけど)。
それでも和樹エリック、最初の歌いだしの声を出すまでが本当に辛そうで苦しそうで、それ見てるだけで胸が張り裂けそうになってもうこの時点で嗚咽級号泣となってしまった私。
なんか、和樹エリックの哀しみと絶望が直接伝染したかのようで、あんなにゴーゴー泣きながら見たの本当に久しぶりだったなぁ…。なので、その直後のことをあまり覚えてない(汗)。ひたすら哀しくて哀しくて仕方なかった。
歌の後半で、エリックはクリスティーヌへの想いを激しく吐露します。何度も呼ぶ愛しい人の名前…そしてやがて募ってくる運命を呪う気持ち。
「愛して、呪って、愛して」
この錯乱状態で歌う歌詞を、和樹くん、ほんとにものすごい鬼気迫る感情で訴えるように歌ってて…クリスティーヌがくれた花を再び手に取って捧げるように絶唱してる姿がもう、目に焼き付いて離れない。そう、あれはまさに、絶唱だった。あんな血を吐くような歌い方してるの初めて見たよ。すべての感情があの瞬間に解き放たれてた感じ。
これを泣かずに見られようか…!!!万感の思いを込めた最後の「クリスティーヌ!!」の叫び声が今でも耳の奥にこびりついている。
♪君は私のすべて♪
泣きながら戻ってきたクリスティーヌは自分のしてしまったことを激しく後悔しますが時すでに遅し。理性を失い破壊行動へと突き進むエリックは次々と殺人を犯していってしまう。逃げる途中で銃弾が命中して重傷を負って潜んでいた彼を助けたのはキャリエールだった。
これまで父親であることを隠しながらも色々な面でエリックをサポートしてきたキャリエール。彼本人は「父親としての行動ではない」と思っていたようだけど、エリックはそれが「父の愛情」からくるものだということに気が付いてた。
キャリエールは重傷を負ったエリックの姿を見て、初めて「父親である自分」を受け入れたように見えました。エリックをいたわる岡田キャリエールの父性愛がとにかく泣けるのです…!!
クリスティーヌは悪気があったわけじゃないと諭すキャリエールに対し、エリックが「彼女は悪くない」と言い「怖がらせて悪いことをしてしまった」と話すのですが、この時の和樹エリックの憑き物が取れたかのような柔らかな表情がとても印象的だった。「ほんの一瞬、甘い空気に飲まれて愛していると勘違いしてしまっただけだ」と力なく笑う場面も悲しすぎて涙が止まらない…。
そしてキャリエールは自分が父親であることを初めて告白するわけですが、贖罪の気持ちからか歌いながらも涙を止めることができない岡田さんに心を揺さぶられた。そしてエリックも「あなたが父だと気づいていた」と返すんですが、そう歌いながらも告白されたことが嬉しいからか和樹エリックは苦しい息の中で嬉しそうな笑顔を浮かべてた…(涙)。
ようやく”親子”に戻れた二人が過去の出来事を笑いながら語る場面も本当に切ない。内容はとてもシビアなのに、昔の笑い話として語らってる姿は親子に戻れたことへの喜びであふれているようだった。
「最期の時はあなたの手で」とすがるように歌う和樹エリックの顔を、岡田キャリエールは愛しそうに何度も何度も包み込んでました。二人のありったけの愛情が非常にドラマチックで、号泣しながらお互いに抱き合っていた場面は嗚咽するくらい泣きました。楽は特に岡田さんも和樹くんも最後の親子の時間が過ぎてほしくないような雰囲気で、歌えなくなるんじゃないかと思うほど泣いてたなぁ…(涙)。
♪フィナーレ♪
キャリエールとエリックがやっと親子の絆で結ばれたところに、何というタイミングか…クリスティーヌを伴ったシャンドン伯爵がやってくる。その姿を目の当たりにした瞬間、穏やかになっていたエリックの心は再び乱れ狂気の道へと突き進んでいってしまう。
「クリスティーヌは僕のものだ!!」と絶叫しながらシャンドン伯爵に剣を向けて立ち向かっていく和樹エリックの姿は常軌を逸しているようにも見えますが、彼女を何としても自分のところへ引き戻したいという切実な想いが溢れていてとても痛々しかった(涙)。
まるで飢えた獣のようにシャンドン伯爵に剣を向ける和樹エリックはまさに「壮絶」そのもの…。クリスティーヌだけがただ一つ残された希望の光。それはきっと、キャリエールとの親子愛をも超えるものだったんだろうなと。
ゆえに、クリスティーヌを手に入れるために死に物狂いになっている息子を泣きながら見送ることしかできない岡田キャリエールが哀れで仕方なかった。
そして衝撃のラストシーン…。エリックは自分の引き際がここだということを見極めていたんだと思うとさらに哀しい…。そしてこの時、キャリエールに向かって「父さん!」と叫ぶ。それを聞いたらキャリエールは決意が鈍っちゃうよ…。
ためらう父の姿を見た和樹エリックの最期の「ゲラール!!!」という血を吐くような叫び声があまりにも壮絶すぎて…。楽の和樹エリックの絶叫はほんとに、体がバラバラになってもいい!くらいの勢いだった。それが本当に哀しくて、哀しくて、哀しくて・・・思い出しても涙が出ます・・・。
クリスティーヌの腕に抱かれた和樹エリックはすべての邪悪なものが剥がれ落ちたかのように穏やかで優しく、そしてこの上なく幸せそうだった…。あの激しさからは想像もできないくらいとても穏やかで、そして美しかった…。
ああ・・・和樹くん、ほんとに、ほんとに、エリックの人生を全うしたんだね・・・!!生き抜いたよ、生き切ったよ・・・!!
カーテンコールが始まってもしばらく涙が止まらなくてうまく拍手ができなかった。でも、最後に出てきた和樹くんの、膝をついての万感の想いがこもったお辞儀は心打たれるものがありました。まだそこにエリックの命が息づいているように見えたよ…!
特別カテコの様子については次のページにて。