ミュージカル『ファントム』を観に大阪まで遠征してきました。
待ちに待った『ファントム』上演!!決まったというニュースを聞いた時は歓喜して心の中で小躍りしたほど(笑)。前回と同じ城田くんの演出だし大好きだった和樹くんのエリックに再び会えるのも本当に嬉しくて、この日が来るのを本当に心待ちしていました。
この作品を最初に知ったのは偶然テレビで目にした宝塚版『ファントム』。ふだんは宝塚が苦手で積極的に行こうとは思っていないのですが(汗)あの時はなぜか作品の持つ力に惹きつけられるように見入ってしまったのを覚えています。エリックを演じてたのはたしか和央ようかさんだったかな(フランク・ワイルドホーン氏の奥様)。
そして、私をこの作品の虜にした決定的公演だったのが2008年~2010年に初演と再演公演の大沢たかおさん主演版。歌に関しては色々とマイナスな意見が多かったのですが(たしかに音楽の先生かと問われれば違和感ありましたが 汗)私はそれを凌駕するに余りある大沢さんの魂を込めた熱演に雷が落ちたんじゃないかってくらい衝撃が走ったんですよね。また、全編彩るモーリー・イェストンの美しくドラマチックな楽曲の数々にも大いに魅了されました。
それ以来、ミュージカル『ファントム』は私の中で3つの指に入るくらい大切な特別な作品となり上演が決まるたびに劇場へ足を運んでいます。
ちなみに2019年公演の時は「~もうひとつのオペラ座の怪人~」というサブタイトルが付いていましたが、今回の2023年版はそれが取れてオリジナルの名称に戻りました。
『オペラ座の怪人』というとどうしてもアンドリュー・ロイド・ウェバー卿の作品が真っ先に浮かぶ人が多いと思いますが、イェストン&コピット版はベースは同じガストン・ルルーの原作でありながらも物語や設定、さらに登場人物がほとんど違う。”人間”ドラマに非常に大きく比重を置いた内容で、セリフ劇も多く主役を”ファントム”という漠然とした存在ではなく一人の孤独な青年”エリック”として描き彼の内面に深く迫っていく印象が強い。初めて見る方はALW版を頭に入れながらも”それとは別作品”という認識で行かれたほうがいいと思います(結末も違うしね)。
あともうひとつガストン・ルルー原作から波及した『オペラ座の怪人』としてケン・ヒル版というのがあります。2024年の来日版が決まっていますが、こちらもALW版とはかなり毛色が違う内容ですのでご注意を。ちょっとコメディ路線寄りなのが特徴的で一番原作に沿った創りだとも言われています。一度だけ見たことがありますが、個人的にはあまり好みじゃなかった思い出が(苦笑)。
それにしても今回はチケット戦線がかなり厳しかったなという印象。ファンクラブ枠でも「落選」した回もあったし(←和樹くん楽が取れなかった…)。当日券予約の受付もあっという間に終了(苦笑)。
前回公演の時にはそこまでチケット取れない作品じゃなかったと思うのですが…、年月を経て期待度も上がったといった感じでしょうか。予定より行くはずの回数が少なくなってしまったけど(苦笑)作品の評価が高まるのは嬉しいことです。
ロビーには2019年公演のときにもあったカラフルな街頭が並んでいて懐かしさが込み上げてきました。舞台上にもセットとして登場するので、ロビーに入った瞬間からもう物語の世界観を感じられるんですよね。
ちなみに、前回公演のときにはロビーでアンサンブルさんがストリートオルガンを演奏するというパフォーマンスもあったのですが、今回はコロナ禍がまだ明けきっていないということも影響してかオルガンそのものの設置も無くなっていたのがちょっと残念でした。人がたくさん集まっちゃいますから(前回少しタイミング遅く行った時には音しか聞こえなかったほどw)…まだそういうロビーパフォーマンスは難しいのかな。
ただ、本編前のアンサンブルさん達によるお客さんを絡めたパフォーマンスは健在です。舞台の世界観そのままにオールアドリブで色んなことやってくれるのが楽しいので(ネタバレ感想のところでまたちょこっと触れます)、最初からしっかり楽しみたい方は開演10分前から客席入りすることをオススメします。
物販の売れ行きは好調…というかかなりの大人気で。この遠征が今季初ファントムだった私は「トートバッグどうしようかな」とか呑気に考えていたのですが、劇場入ってからその考えが甘すぎたことを痛感させられました(苦笑)。公式グッズはパンフレットとデザインTシャツ以外売り切れててびっくり!!材質確かめてから…どころじゃなかったww。
大阪公演終盤とはいえ、開幕してから2週間弱くらいですよ!?無くなるの早すぎでしょう(汗)。大阪公演は前売りの段階でほぼ全席売り切れ状態だったんだから、もう少し多めに入荷してほしかったかも。東京公演のときまでには揃うんだろうけど、私が行く頃にはまた無くなってる気がする(苦笑)。
ということでパンフレットのみの購入となったのですが、これは買いです!!2500円の価値はあると思う。写真がめっちゃ美しいし内容も非常に充実していて読み応えあり。売り切れてなくてよかった。
以下、ネタバレ含んだ感想です。けっこう内容に触れてるのでご注意あれ。
2023.08.03マチネ-04マチネ in 梅田芸術劇場(大阪・梅田)
キャスト
- ファントム(エリック):加藤和樹
- クリスティーヌ・ダーエ:真彩希帆
- フィリップ・シャンドン伯爵:城田優(3日)、大野拓朗(4日)
- カルロッタ:皆本麻帆(3日)、石田ニコル(4日)
- アラン・ショレ:加治将樹
- ジャン・クロード:中村翼
- 文化大臣:加藤将
- ルドゥ警部:西郷豊
- ゲラール・キャリエール:岡田浩暉
- ヤング・エリック:星駿成(3日)、野林万稔(4日)
<アンサンブル>
荒田至法、池谷祐子、伊宮理恵、岡施孜、上條駿、川口大地、川島大典、木村朱李、木村つかさ、關さやか、玉山珠里、照井裕隆、遠山さやか、轟晃遙、蛭薙ありさ、増山航平、松島蘭、幹てつや、横関咲栄
クリスティーヌ役のダブルキャストで配役されていたsaraさんですが、初日を迎える直前に体調不良で大阪・東京公演を休演されるという心配なお知らせが入ってきました。全公演出演できなくなってしまったとのことで、お体は元より精神面などとても気がかりです…。どうか一日も早く回復されますように。
前回公演の時にはアンサンブル的立場だった”文化大臣”が今回初めてメインに加わりました。加藤将くんは以前舞台版「銀河英雄伝説」の時にキルヒアイスを演じていたので印象に残っているのですが(2.5次元系の舞台に出ることが多かったのかな)、ここ最近は『エリザベート』など大型ミュージカルへの出演も増えてきて嬉しく思います。
それから、前回女性だったジャン・クロード役が今回から再び男性に戻されました。女の子の設定も斬新でよかったのですが(すごく可愛らしかった)、作品的にはやはり男性が演じたほうが感覚としてしっくりくるかなとは思いました。
アンサンブルさんも実力派揃い。こまめにSNSで舞台裏を紹介してくれる方も多くて色々とチェックする楽しみもありました。個人的には照井くんが演じる”絵描きさん”と”チケット探しのお兄さん”がかなりツボww。
ヤング・エリックは今回も逸材の子役さんたちで。出番こそ少ないのですが鮮烈な印象を与えてくれました。星くんも野村くんも、びっくりするほど美しい歌声で…まさに天使!!あの声に誘われて天から何かが降ってくるんじゃないかと思ってしまうほどの美声。そしてお芝居も本当に素晴らしかったです。星くんは透き通るような美しさと悲しみ、野村くんは幼心に受けた心の傷の痛みを繊細に表現していたと思います。日本ミュージカル界の未来は明るい。
あらすじと概要については2019年公演感想の記事を参照。なお、2023年版の概要については梅芸公式ブログさんが詳しく紹介してくれているのでそちらをチェックしてみてください。
いよいよ今月22日大阪にて開幕!🎭
梅田芸術劇場公式 #note では、今週から『#ファントム』を特集 🖋今回5度目の上演となる本作。
まずは『ファントム』という作品について、あらすじや注目ポイントを改めてご紹介します❣ご観劇前の予習としてぜひお読みください👓https://t.co/CNFJxG04u6
— ミュージカル ファントム 公式 (@Phantom_JP2023) July 6, 2023
上演時間は約2時間50分(170分)。
※東京公演は約2時間45分(休憩時間が5分短い)
内訳は、1幕80分(1時間20分)、休憩25分(東京は20分)、2幕65分(1時間5分)となります。
全体感想 -1幕-
最初の方でも触れましたが、本編開始の約10分前あたりからアンサンブルキャストさんが舞台上にわらわら登場されて客席交えながら様々なアドリブ芝居を展開させていきます。
2019年公演のときには客席降りもあって直接お客さんの近くで会話する、なんて光景もあったのですが(そういえばパンフレット販売とかもやってたなw)今回は舞台上からのみのパフォーマンスになってました。あのときは本当に良い時代だった・・・。
本編開始前なのでみなさんマイクはつけておらず生声。会話的なところは遠方席からだとよく聞き取れないのがちょっと残念ですが、警察コンビのお二人の「元気ですか?」みたいな呼びかけはよく響いていました。コミカルな動きでアピールする役者さんも多いので言葉が聞こえなくてもだいたい何が起こっているのかは理解できる感じw。
みかんやバナナ(屋台の売り物w)をジャグリングをするアンサンブルさんもいて視覚的にもめちゃめちゃ楽しめました(3日は子役さんとのチグハグだけど絶妙なやりとりが笑えたw)。この方の技が結構すごくて、4日には舞台袖からも拍手起こったらしく「ありがとうございます」と照れてらしたのが可愛かったw。前日に和樹くんが「本当は開演前の小芝居に参加したいけどファントムは地下の住人だから袖から楽しませてもらってる」みたいなツイートしてたので、もしかしたら袖の主は彼だったのかも!?
個人的には照井くん扮する画家さんが”「スマホ禁止」イラスト”を見せるのがツボww。これ前回公演のときにもあったんですよね。このタイミングで最後のルドゥ警部(西郷さん)による最後のアナウンスがあって、ボードを受け取ったアンサンブルさんがそれに合わせるように「これこれ」みたいにアピールしまくるのがめっちゃ面白いです(笑)。私が観劇した2日間はその効果があったようでかなり快適に物語に没頭することができました。ありがたや。
前回に引き続いての城田優くん演出公演ですが、セットや場面転換などは基本的に大きな変更はなかったですね。
開演前のお客さんとのキャッチボール的なアンサンブルさんたちの即興演技から本編への流れが非常にスムーズ。見ている側も『ファントム』の世界観にごく自然に入り込んでいける感覚がとても心地いいのです。2幕が始まる前の客電の落とし方も工夫してあって、前回あったアントラクトを大幅に削ったこともありドキドキ感がさらに増した演出になっていたなと思いました。
そして何より、城田くんがこの『ファントム』という作品を心から愛してくれているという想いが随所に伝わってくるのがとても胸熱で嬉しい。エリックの内面に寄り添うように、彼の心をより深く多くの人に伝えたいという気持ちが様々なシーンから感じ取れるんですよね。今回の公演も前回以上に繊細な”哀”と”愛”がたくさん詰まった心揺さぶる作品になっていたと思います。
この数年の間に彼の中でも様々な困難な出来事が重なり苦しい思いをたくさんしてきたんじゃないかなと。どうしようもならない心の痛みと苦しみと孤独を抱えた主人公・エリックの心情に投影したような印象もところどころ感じられて何度も胸がギュッと苦しくなりました。
『ファントム』は本当に私の中では特別な作品の一つなので東京公演も数回予定しています。ということで、関西2公演についてはALW版との比較を絡めながら印象的だった場面を振り返ってみたいと思います。まずは1幕目から(←長くなること前提になってるのでご注意をw)。
最初に登場するクリスティーヌ、まだどこにも所属していない頃の彼女は自作の音楽を売り歩く田舎出身の素朴な少女。ALW版ではすでにオペラ座のバレエ団にいて踊り子をやっていることになっているので、このあたりの設定はコピット版とはかなり違いますね。
歌を売り歩いていた少女・クリスティーヌの才能に目をつけたのはシャンパン財閥の御曹司・シャンドン伯爵。彼の口利きで彼女はオペラ座への道が開かれることになります。このシャンドン伯爵というのが、ALW版で言うところの”ラウル子爵”的立ち位置になるのですが、コピット版は幼馴染設定ではなくて町で初めて対面したことになっているのでそれから先の接し方もかなり違って見えてきます。
この事件に関する主人公の内面の揺れを一番繊細に描いてるのがコピット版だと思います。エリック(ファントム)はこの一件が起こってしまうまではただ「脅し」をかけていただけですが、ブケーと不運な対面をしてしまったことで一線を超えてしまったんですよね。そしてその現実を受け止めきれずに動揺して混乱してしまう。ALW版のファントムとはこのあたりの描き方がかなり違います。コピット版の”ファントム”はとても卑屈で感情の振り幅も大きいのですが、基本的にとても臆病で怯えている姿がとても印象的です。
ここ数年のALW版「オペラ座の怪人」はファントムの描き方がとても豊かになった印象があり、人間的な部分が感じ取れることが多くなりました。コピット版とはキャラクターのアプローチがかなり違うので基本的には別人だとは思うのですが、以前よりも共通点を感じられる瞬間がちょいちょいあって。2つの作品に出てくる”ファントム”がリンクするように見えたのは個人的にちょっと嬉しかったですね(劇団四季の岩城雄太さんが演じるファントムのタイプが一番近いかなと思いました)。
エリックが初めて犯してしまった罪に動揺を隠せない場面、その話を直接聞けるのが解任されたばかりの支配人・キャリエール。彼はエリックの唯一の理解者で密かに庇護してきた人物(後に正体がわかりますが)で、解任されるのは不本意でしかなかった。ALW版だと前任の支配人・ルフェーブルは「ようやく辞められた」と大喜びして立ち去りますからww、このあたりの違いも面白いなと思います。
エリックとキャリエールが会話をぶつけ合う場面は前回公演のときはがっつり客席降りで展開する演出になっていましたが、なんと今回も同じ演出で行われていてびっくりしました。コロナ禍中は客席降り演出ができないことになっていましたが、5類になってからは少しずつ復活してきて。でも、まだ探り探り状態でこれまで見てきたコロナ後の舞台で客席降りを見ても役者さんは何もセリフを言わない状態だったんですよね。あとから聞いた話だと「客席降り演出の条件に、言葉を発しないというのがあった」とのことらしいのでしばらくその状態が続くと思っていました。
が、今回見たら前回公演と同じようにがっつりエリックとキャリエールが客席の上手と下手に分かれて通路を歩きながら激しい言葉の応酬を交わしているではないですか!コロナ禍以降で初めて客席降りでがっつり役者が会話してる場面見ました。なんかその光景を久しぶりに見て驚いたのと同時にちょっとホッとした部分もあって。こうして少しずつ舞台も自由な表現をやらせてもらえるようになっていくのかなと思うと心がじんわり温かくなりましたね。
『ファントム』には私の好きなナンバーがゴロゴロあるのですが、その中のひとつがキャリエールを追い払った後エリックが歌う♪世界のどこに♪。今回見たら歌い始めの前奏部分がちょっとアレンジ加わっていて、冒頭部分をセリフに近い感じで歌う感じになってました。エリックの追い詰められた心情が今までよりもまたさらにグッと深まったように思えて切なかったですねぇ…。
ただちょっと残念だなと思ったのは、一番最後の歌い上げのところで音を延ばさない演出方法になったことかな。リプライズも全部、声を延ばし切らずに打ち切って次の行動に移る感じになってた。それはそれでエリックの焦燥感がリアルに伝わってくるんだけど、音楽的にはグーッと延ばす方がドラマチックで好きだったのでちょっと寂しい気持ちにもなりました。回数見れば慣れると思うんですけどね。
シャンドンから紹介状をもらったクリスティーヌはルンルン気分でオペラ座に向かうのですが、仲介してくれるはずだったキャリエールがカルロッタとショレのせいで強引に辞めさせられてしまったが故に行き場を失いかけてしまう。だけど、ガックリする彼女を気の毒に思った楽屋番のジャン・クロードがダメ元でならとショレやカルロッタに掛け合ってくれて活路が見えることになります。
ちなみに、コピット版のカルロッタは大沢さん主演の時からずっと「強烈な個性と我の強さが出たオバチャン」的キャラという印象が強かったのですが(前回公演のエリアンナさんの迫力もすごかった)、今回はどちらかというと可愛い女の子を演じるような女優さんが扮していたので雰囲気がちょっと変わりましたね。見た目は可愛いくて綺麗なのに態度や言動が暴れん坊って感じなのが斬新で面白かった(笑)。
そんな彼女の尻にひたすら敷かれ大喜びしてるのがアラン・ショレw。彼はカルロッタが何をやっても全部ニコニコして許しちゃうし常に全力で妻一筋。この二人のおバカなラブラブっぷりの面白さは今回さらにパワーアップしていて笑いどころも多かったですw。
洗濯係としてオペラ座で働き始めたクリスティーヌは美しい声で歌いながら仕事をこなしていて、その声に導かれるようにエリックがこっそり聞きにやって来る。これが二人の出会い。クリスティーヌの歌声に感動したエリックは密かに彼女に音楽を教えることを約束します。ここの場面で歌われる♪ホーム♪がもう本当に心の琴線を揺さぶるような美しい旋律と言葉で紡がれていて何度聞いても涙が出ます(泣)。運命的な二人の出会いをより美しく温かいものに見せてるように思えて泣けるんですよねぇ。大好きなシーンのひとつです。
エリックとクリスティーヌが稽古してるのと同時進行で舞台に立ち続けているカルロッタが酷い災難を受けて大騒ぎになってる。上手と下手に分かれて二つの全く違うシーンを見せてるのが面白い。ルドゥ警部が「あの作品はコメディじゃないのか!?」と素でビックリしてる場面は個人的に毎回ツボです(笑)。あと、この場面見ると大沢さん主演の時に警官の一人を演じてた阿部よしつぐ君が千穐楽で「あられもない姿」になって登場し「早く服を着ろ!!」とツッコミ入れられまくってた笑撃シーンがどうしても蘇ってきてクスッと笑ってしまいますwww(当時の詳しい感想はこちら)。
「教えるべきことはすべてやった」とエリックがクリスティーヌに告げる場面。次は彼女の歌声を皆の前で披露する時を待つんだと心を躍らせるエリック。謙遜するクリスティーヌにエリックは不器用ながらも懸命にその歌声の美しさと素晴らしさを説きピアノを奏で、それに併せて彼女も一緒に声を合わせていきます。ここで歌われる♪あなたこそ音楽♪がこれまたもう、この上なく美しくどこか切なく、そして温かい希望に満ちていてボロ泣き(涙)。このシーンを見ると本当に心が浄化されていくような気持にさせられるんですよね。二人の想いが重なったような歌声は私の心をこれでもかというほど揺さぶるんです。
いよいよクリスティーヌが皆の前で歌声を披露するビストロの場面。最初にカルロッタが先陣切って歌い出し皆の注目を集めるのですが(というか、目で圧をかけてそうしてる的なことも無きにしも非ずww)、シャンドン伯爵はその直後にクリスティーヌに歌ってほしいと彼女を前に出します。最初は緊張で上手く声が出ていなかったクリスティーヌでしたが、曲が進むにつれて何かに導かれるように歌の才能が大きく花開き周囲から大喝采を浴びる。彼女の歌がクライマックスに差し掛かった時、奥に座っていたキャリエールが大きく目を見開いてシャンパンを飲む手を止めるのがものすごく印象深いんですよね。その理由は後半詳しく語られるんですが、事情を知ったうえで見ると私はあそこでかなりグッときてしまう。
ビストロでクリスティーヌの歌声を聞いたシャンドン伯爵はすっかり彼女の虜になってしまいます。皆の前では「まさか自分が恋に落ちるわけない」なんて意地張ってたけどw、二人きりになるとクリスティーヌへの愛を朗らかに歌うシャンドン伯爵はなんだかとても可愛らしい。かなり積極的で彼女が思わず「ちょっと待って」と戸惑いストップをかけてしまうほど我を忘れてアプローチしちゃう姿がなんだかちょっと無邪気で高貴な見た目とのギャップに見えて萌えますw。
最初は戸惑いを見せたクリスティーヌでしたが、徐々に真っ直ぐに愛を伝えてくれるシャンドンに心を奪われ恋に落ちていくことになります。ちなみにシャンドンはこの時はクリスティーヌの額にチュッとするだけで留めるんですよね。彼女を大切に想う気持ちが滲み出てて素敵です。
ALW版でもクリスティーヌがラウルに惹かれていく場面がガッツリ描かれていますが、コピット版のように明るく軽やかな雰囲気ではないのが特徴的です。それもそのはず、クリスは直前にファントムの凶行を目にして怯えまくってますからね(汗)。ラウルはそんな彼女を慰めるのが先決で必死になってて、そのやりとりが続いていく中でクリスティーヌがラウルの愛情に縋るように身を預けて行くようになるという流れになってます(♪オール・アイ・アスク・オブ・ユー♪)。ちなみにロイドウェバー版では、気持ちが昂ったラウルはクリスにしっかりと複数回キスしてますw。
今回久しぶりにコピット版を見て、ALW版のクリスティーヌはこの時点で本気でラウルを愛し心を許したわけじゃなかったのかもしれないなと思いました。ラウルの方がどんどん恋愛に先走ってる印象が強い。それに対し、コピット版のシャンドン伯爵とクリスティーヌは恐怖心がない中でやりとりしていることもあってか恋愛感情がお互いに芽生えているというのが伝わってくる感じが強い。この違いもなんだか面白いなと。
クリスティーヌが初めて舞台に立つ日、エリックは緊張する彼女の前に「音楽の先生」としてやってきて励まします。でも本当は「彼女に恋をした男」の顔のほうがメインで…、励ました後にクリスティーヌに愛を込めた一輪のバラの花を差し出そうとする。ところがその絶妙なタイミングで恋人になったシャンドン伯爵が彼女の楽屋を訪れたため、エリックは鏡の中の秘密部屋へ身を隠さざるを得なくなってしまった。
シャンドン伯爵はクリスティーヌのデビューを心から喜び、大きなバラの花束を贈ります。それに感動した彼女は感極まってその胸に飛び込み二人は固い愛の抱擁を交わす。この光景の一部始終を、エリックは鏡の奥から目撃してしまうという悲劇…。鏡の向こうの明るい世界で想い人が違う男と恋に落ち抱き合っている姿を呆然と見つめているエリックの背中があまりにも哀しすぎて涙腺決壊(号泣)。
城田くん版になる前まではエリックが二人の様子を絶望しながら”見つめる”だけという演出だったのですが、前回公演から彼の提案でモーリー・イェストンが新たに曲を作ってくれて♪崩れゆく心♪というナンバーが加わりました。歌詞は高橋亜子さんが担当されています(コピットさんは21年に残念ながらお亡くなりになりました… 涙)。もうこのナンバーが、これでもかってくらいにエリックの心の孤独を抉り出してて…涙無くしては聴けません(号泣)。特に絶望のどん底のなかで「それでも呼ぶよ、君の名を」と泣きながらクリスティーヌを想う言葉を口にするエリックが切なすぎて…、思い出すだけでも涙が出ますよ(泣)。
さらに、最後にエリックは渡せなかった一本のバラの花をシャンドンが去ったあとクリスティーヌに見つからないようにそっと楽屋に置くんですよね…。そして、エリックが去った後それに気づいたクリスティーヌが不思議そうな顔をしながらシャンドン伯爵のくれた花束の中に一輪差しこんでいる。この何気ないシーンがまた泣けるのです(涙)。
ちなみに、エリックがクリスティーヌの楽屋から去る時は客席通路を通る演出になってるんですよね。あまりの哀しさに涙を抑えきることができずむせび泣きながら去っていく和樹くんのエリックをすぐ間近で見た4日マチネ、体が震えるほど私も泣きました(号泣)。3日に見た時は途中で歩けなくなってガックリ膝を落とす瞬間もあったりして…もう、胸が引き裂かれてしまいそうになる(号泣)。
ALW版では1幕ラストにファントムがラウルとクリスティーヌの逢瀬を目撃してしまう場面があります。この時ファントムは舞台上の”エンジェル像”から見ていたことになってて(それができない劇場では舞台上のペガサス像の後ろにいることになってます)この演出が非常に印象的で哀しいです。ファントムは愛する人に裏切られたと身を裂かれるような悲しみに涙しますが、エリックほど大きく感情を崩すといった印象はないかな。か細く頼りない哀しみに満ちた声で歌う感じで、見る側はその姿に儚さと痛みを感じていく。
やがてその悲しみは”裏切り”と”嫉妬”に変わり最後は怒りのあまりシャンデリアを落とすファントム。コピット版ではひたすら孤独への哀しみと絶望の感情を押し出しているのに対し、ALW版ではそれと紙一重に存在していた”憤り”を一緒に表に出すところが特徴的だと思います。ちなみにコピット版にはシャンデリアは存在してません。
エリックの切なすぎる場面の後にカルロッタの悪だくみシーンが入ってくるのですが、全く雰囲気が違う場面になっていてその落差に気持ちが追いつくのが大変(笑)。悪だくみというかもう、実験教室みたいになってるww。大いに泣いた後にクスクスッと笑えるシーンですね、ここは。さらにショレさんの忠犬っぷりが可愛すぎてさらに笑えるのがまたww。
そしていよいよカルロッタはクリスティーヌ初日を失敗に導くための行動を実行。まんまとそれにハマってしまったクリスティーヌは本番中に声が出なくなるハプニングに見舞われて大ブーイングを浴びる羽目に。それを上から見つめていたエリックは彼女の窮地を救うべく大胆な行動に出る。この1幕ラストシーンのエリックの姿は視覚的にも非常に見応えがあります。幕が閉まる寸前にエリックに連れ去られていくクリスティーヌを救おうともがきながら気を失ってしまうシャンドン伯爵の姿も印象深い。そしてそれを冷ややかに見つめるエリックの姿もゾクッとするほど美しい。
ALW版「オペラ座の怪人」でも舞台でのトラブルシーンは出てきますが、こちらはクリスティーヌではなくカルロッタがファントムの策略にハマって声が出なくなる(カエル声になるw)という展開になってますね。クリスティーヌを主役に据えなかったことへの報復なのですが、ファントムがどのような作戦で彼女の声を潰したのかは明らかにされておらず、魔術師的な存在として描いているのが特徴的です。
ところがこの後クリスティーヌがラウルに気持ちを許してしまう展開となり、ファントムはその光景を目撃したことで怒りと悲しみを爆発させるというのが1幕ラスト。コピット版とは違い、ファントムは怒りに任せてシャンデリアを落としクリスティーヌもろとも傷つけようとしてしまう展開になります。一つの原作から色んな解釈が生まれるのが面白いなと改めて思いました。
ちなみに、クリスティーヌがトラブルに見舞われる舞台の作品も別物になってます。コピット版は『タイターニア』、ALW版は『イル・ムート』です。
2幕についてとキャスト感想などは次のページにて。