ミュージカル『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』を観に大阪まで行ってきました。
東京・福岡とツアーを経て、大阪のこの日のソワレが最終公演でした。本当はその前にも予定を入れていたのですが、家庭の事情でどうしても行くことができなくなってしまい…結局この大千穐楽のみの観劇となってしまいました。
新歌舞伎座の前には梅の花の木があって、ちょうど気候も温かかったせいかほぼ満開状態で奇麗でした。
今回の演目はけっこう主役級の役者さんが多く出演していたので、ロビーのお花も華やか。大阪での公演期間は短いということもあり、大千穐楽のこの日もお花が元気でした。
劇場ロビーの天井にはなにやら丸い物体のようなものが浮いていて…たぶんあれ、UFOを表現していたんじゃないかなぁと。この作品「宇宙」がけっこうキーワードになってくるのでね。そういう遊び心も楽しかったです。
物販も人気が高かったようで、私が劇場入りした時にはパンフ以外のオリジナルグッズはすべて売り切れ。パンフレットも幕間の時間には無くなったそうです。最初に買っておいて正解でした(汗)。それだけこの作品がミュージカルファンに愛されてるってことなんだと思います。
以下、ネタバレ含んだ感想です。
2020.02.15ソワレ in 新歌舞伎座(大阪・上本町)
主なキャスト
- 三浦悠介:井上芳雄
- 折口佳代:咲妃みゆ
- マスター:吉野圭吾
- 春江:月影瞳
- 早瀬:上原理生
- 里美:仙名彩世
- ミラ:内藤大希
- 久保:照井裕隆
- テムキ:畠中洋
- ピア:土居裕子
あらすじと概要
『シャボン玉~』は1988年に”音楽座”というミュージカル劇団のオリジナル作品として最初に上演されました。原作は筒井広志による小説『アルファ・ケンタウリからの客』だそうですが、現在はデジタル版のみ発売されているのだとか。初演以来ほぼ毎年上演されていた人気作でもあります。
88年の初演時に折口佳代を演じていたのが、土居裕子さんです。音楽座といえば土居さんが真っ先に思い浮かぶほど、その後数々の作品で主演を務められました。
私はミュージカルファンに目覚めたばかりの頃(94年あたり)に初めて音楽座の存在を知ったのですが、観に行きたいなと思っていた矢先の96年に突然やむなき事情で解散に追い込まれてしまい当時大きなショックを受けました。もう少し早くミュージカルの楽しさに目覚めていれば当時の音楽座を観に行けたのになぁ…と今でも悔いが残ります。
結局テレビの劇場中継番組でしか見れませんでしたが、その中でも「アイ・ラブ・坊っちゃん」や「泣かないで」は印象深いです。私はこの2作品をテレビで見て畠中洋さんのファンになりました。
その後8年のブランクを経て2004年に”Rカンパニー”として新しい音楽座がリスタートし現在に至っています。『シャボン玉~』もコンスタントに上演されているようです。
簡単なあらすじは以下の通り。
悠介はシャイで少し頼りない青年。周りの人々からいつも心配されながらも、作曲家として身を立てるという夢を志して懸命に努力していた。
ある日、悠介はスリを生業としている少女・佳代と遊園地の迷路で出会う。
身寄りが無くひねくれて生きてきた佳代だったが、「いつの日か夢は叶う」と告げる悠介の姿は、佳代に忘れていた素直な気持ちを思い出させてくれるのだった。悠介は作曲家として認められ始め、佳代も小さな幸せを大切に過ごしていた。だが、佳代には本人も知らない秘密があった。それは悠介と佳代、そして周りの運命をも大きく動かしていき―。
公式HPより引用
日本発の日本オリジナルミュージカルという意味でも、この作品が長く愛されている意味は大きいと思います。ミュージカル草創期とも呼べる80年代後半に、こんな素敵な日本オリジナル作品が生まれていて、それが今でも多くの人の心に響き続けているのが素晴らしい。
解散前の音楽座に入団した役者さんたちのなかで、「シャボン玉~」に感動したからという理由を挙げている人はけっこう多いらしい。
また、今回ダブルキャストで出演していた元・劇団四季の福井晶一さん(東京のみでしたが)はこの作品と土居裕子さんに憧れてミュージカル界に足を踏み入れたことを公言しています。
最初の音楽座メンバーで今回も出演しているのが、土居裕子さん、畠中洋さん、吉野圭吾さん、照井裕隆さん、濱田めぐみさん(東京のみ)、藤咲みどりさん。こうして名前を並べるだけでも、今現在も舞台の最前線で活躍している方ばかりです。特に土居さんと畠中さんは私の中では”音楽座のレジェンド的存在”の印象が非常に濃い。
約10年弱の活動期間の中でこれだけの役者を輩出してきた音楽座は改めてすごい劇団だったのだなぁと思います。令和の新しい時代に入って、音楽座ミュージカルの原点でもある作品に土居さんや畠中さんたちが参加しているって…すごいことですよ。非常に貴重な舞台でした。
全体感想
今回所見の作品でしたが、前評判はとてもよくて、以前この作品を見て大いに感動した友人も「これは絶対に泣くよ!」と太鼓判を押してくれていたので・・・あえて、何もあらすじを読まないまま観劇に臨みました。
結果、予想していたよりは泣かなかったんですけどw、心が温まる素敵な作品だなと思いました。号泣するのではなく、後半の要所要所でいつの間にか涙が流れてるって感じかな。いろんな場面に「愛」が溢れていて心がジンワリ温まる印象です。
主人公でちょっと奥手でシャイな悠介とスリ師佳代の出会いから結婚、そしてその後を丁寧に紡いだストーリーが肝になっているのですが、何も前知識なく行ったので最初の宇宙船の交信みたいな音声と、幼い佳代が虐待されてる場面が出てきたところはちょっと分かりづらかったかも(汗)。
事の始まりは、ある宇宙船がトラブルを起こして一人の宇宙人の命が危機に瀕したことだったわけです。その失われそうになった「生命体」を、地球上で育ての親に虐待され命を落とした佳代の体内に移したというわけ。この発想がすごいなと。
はじめは噛み合わない悠介と佳代でしたが、会話を重ねていくうちにお互いに興味を抱くようになる。徐々に心を開いた佳代が悠介に「自分の夢は結婚して子供を産んで幸せに暮らすこと」と語るのですが、彼は「そんな些細な夢」といって笑ってしまう。その言葉に深く傷ついた佳代を見て、悠介は自分の犯した過ちに気づき、「いつか夢はかなう」と励まします。
そんな悠介の優しさがすごく沁みて泣けるのですが、本当の意味で泣けるのが2幕のクライマックスシーン。ここで語られていたことが大きく意味を成してくる場面で・・・あれを見たときは私の涙腺もかなり緩みました(涙)。
新しい命を得た佳代は作曲家を目指してる気弱でシャイな青年悠介と出会い、お互いに心の距離を縮めていく。宇宙人年齢は地球人よりもはるかに長いということで、自然に命が消えるまで宇宙人たちは二人の関係を温かく見守る決断をする。
宇宙人と地球人では感覚の差みたいなのがあって、時に非情に聞こえるようなことも淡々と言ってのけたりするんだけど、悠介と佳代のお互いを必要としあう想いに今まで感じたことのない感情を抱きます。
土居さん演じる宇宙人・ピアが二人の愛し合う様子を目の当たりにしたときに目をぬぐうシーンがあるのですが、「これは、なに?」と自分の涙に戸惑うセリフがとても感動的でした。仲間のテムキから「それは涙というものだ」と教えられ「これが…」と戸惑いつつ二人の関係に感動しているピアの姿が泣ける。
周りの人たちの大きな愛に包まれて、悠介と佳代はめでたく結婚。
新婚生活に入るシーンで荷物を運んでくる引っ越し屋さんが登場するのですが、「小鳩引越センターです」ってアドリブが飛び出して悠介を演じてる井上くんが「今までそんなのなかったのに!突然ぶっこんできたな」ってボヤいてたのが面白かったww。私はこの1回しか見ていないのでオリジナルを知らないんですが、作品ファンで楽に駆けつけたと思しきリピーターの皆さんは爆笑してました。
こんな感じで、1幕から2幕の頭まではどちらかというとコメディが多め。楽ということでアドリブも随所に飛び出していたようで、客席のボルテージもかなり高かったように思います。初見の私はアドリブの違いが分からなくて、ところどころ一緒に笑えなかったのがちょっと悔しいw。
しかし、そんな平和な日はある日突然終わりを告げる。
悠介が作曲家として成功してアメリカへ渡ったあと、佳代に大きな悲劇が訪れます。ここまで見てきていつかそんな日が来てしまうのでは…と危惧していた出来事だったので、この場面はとてもショッキングでしたね。その寸前まで隣に引っ越してきたと宇宙人3人組が謎の地球人wに化けてやってきたので、彼らが何とかしてくれるのではないかと期待したのですが…一歩間に合わず、それどころかさらに大きな悲劇を生んでしまった。
一気にシリアスな展開へと向かう後半は、1幕までの楽観的で楽しいシーンが嘘のように重い展開が続きます。が、そんな中でも悠介と佳代の愛情は色褪せることがなかった。たとえどんなことがあっても信じ、待ち、ありったけの愛を注ぐ。
ここで一つ個人的にちょっとテンションが落ちたのが、悠介の受難場面。もしかしたら悲劇の展開に…という予感はしてたんですが、飛行機事故っていうのだけはちょっとダメだったなぁと。いやわたし、けっこう飛行機利用してるのでこういうところでそういう話になると怖くて(汗)。
悠介が事故に巻き込まれる展開は、宇宙人のミラが佳代を庇って命を落としたこととリンクします。このシーンはなるほどなと・・・その先の二人の未来が見えた気がしました。
宇宙人たちの尽力で再び命を得た悠介は長い年月を経て佳代のもとへ帰る。そして、物語の冒頭で語られていた佳代の夢がその先の未来で実現していくことになるのです。ここは私もかなり涙が出ました。
そして、命を返す時がやってきて…最後に二人の息子が「二人はまだ違う世界で生きてるように思える」って語るんですよね。このセリフも泣けました。
音楽は素朴で一度聴いたら忘れないメロディーっていう感じではないのですが、どこか懐かしくて優しい温かみのある音色がとても心地いい。音楽座ミュージカルの音楽はそういうタイプのものが多い印象です。個人的にはやはり悠介と佳代のテーマ曲のようにもなっていた♪ドリーム♪が好きでした。
”虹色のシャボン玉、宇宙(ソラ)まで飛ばそう”
繊細で壊れやすい…それでも七色の美しさを持つシャボン玉は、「人の想い」だったり「愛情」だったりを表現しているのかもしれません。悠介と佳代の「シャボン玉」はラストシーンで寄り添うように宇宙(ソラ)まで飛んでいったんだろうなと…。そんなことを想像してまた涙腺が緩むのでした。
主なキャスト感想
井上芳雄くんの演じた悠介は頼りない雰囲気の中にとても温かい感情が流れていてすごく親しみやすいキャラクターだったと思います。佳代が心を開いていくシーンの説得力があった。歌声も素晴らしく、悠介の気持ちをストレートに歌詞に乗せていた印象が強くて、まるで語り掛けているような優しい響きでとても感動的でした。
咲妃みゆさんの演じた佳代は最初、みゆさんだと分からなかったくらいのハッチャケっぷりでちょっとビックリでした。これまでどちらかというとおとなしい印象の役しか見てこなかったので、バリッバリの関西弁をまくしたてるパワフルなキャラクターがとても新鮮でした。
後半悲劇に見舞われるシーンでも、ありったけの感情を爆発させていて思わず感情移入しまくってしまいました。
吉野圭吾さんはマスター役でしたが、これまでと違った落ち着いたキャラクターで…実は吉野さんも最初気づかなかったほどです(笑)。ダンスシーンはほぼなく封印した状態で、優しい頼りがいのあるマスターのキャラクターをとても丁寧に演じられていました。音楽座時代の吉野さんも見てみたかったです。
早瀬とゼスを演じ分けた上原理生くんも、今まで観たことがないようなキャラクターでとても新鮮でした。理生くんも最初分からなかったほどだったんですよww。あまりにもソフトなキャラクターだったもので。こういう柔らかいキャラもすごいハマるんだなと新発見したような気持でした。
テムキを演じた畠中洋さんもとても新鮮でした。音楽座時代からこの作品に関わってこられたからこその空気感みたいなのを感じましたね。宇宙人テムキはクールで物知りキャラですが、人間の心に寄り添おうとしたりと優しさも持ち合わせている。温かみのある役がハマる畠中さんならではの配役だったなと思いました。深みのある心地のいい歌声にも心打たれました。
かつて音楽座では悠介も演じたことがあるそう。畠中さんの悠介役も素敵だっただろうなぁ。
あ、畠中さんのもう一つの役フジはバリバリの東北弁のおばちゃんで面白かったw。山形出身の畠中さんとしてはやりやすかったかもw!?
そしてピアを演じた土居裕子さん。音楽座といえば、土居さんというくらい…切っても切れない間柄だと思います。音楽座時代は長く佳代役を演じられていたということですが、今回は宇宙人・ピア。一見ロボットのような機械的なキャラではあるのですが、発する言葉が徐々に熱を帯びていき温かみを増していく芝居は本当に素晴らしかったです。大きな愛に包まれているような感覚になる。土居さんはもう、絶対無二の存在ですよね。多くの役者さんがあこがれたというのも納得です。
今回、音楽座発のミュージカルを演じる土居さんが見れてとても嬉しかったです。
他のキャストの皆さんも個性的で印象深かったです。特に佳代の育ての父である源兵衛を演じた井上一馬さんの恐ろしさはこの作品の中で大きなスパイスとなっていました。めっちゃ怖かった!!
後述
大千穐楽ということで、カーテンコールでは全員のキャストがあいさつを行いました。メモをしていないのでだれがどんな…というところまであまり覚えていないのですが(汗)、皆さん一様にこの作品への尽きせぬ愛情を熱く語っていらっしゃいました。その合間合間に井上くんがツッコミ入れてたのも愛を感じたよ!
照井くんは25年前にこの作品を見て音楽座に入った経緯を話し、在団中は出られなかった「シャボン玉」にその当時の先輩たちと一緒に出演することができた、と感慨深そうにしてました。
井上一馬さんは役柄的に「僕にはさすがに黄色い声援はないですね」と自虐挨拶してたのが笑えました。その後すかさず芳雄くんが「ほんとはすっごい良い人です」ってフォロー入れてて和んだw。
理生くんはまだ宇宙人テンションが抜けないのかローテンションなしゃべりっぷりで芳雄くんから「もっと声張ろうよ!」って何度もツッコミ入れられてました(笑)。
吉野さんは明るい感じで「3階席のみなさーん、2階席のみなさーん、ちゃんとシャボン玉届きましたか??」って叫んでたのが面白かったな。「1階席は当然届いてますよね」って茶目っ気たっぷりに言葉かけてて笑いを誘ってました。
畠中さんは「今は放心状態で」となかなか言葉が出てこない雰囲気でした。畠中さんはこの作品に初演から参加していることもあり、特別な思い入れがあるんだろうなと言葉の節々から感じました。涙をこらえるようにゆっくりと、噛みしめるように「シャボン玉」愛を語られていた姿にジーンときてちょっと泣いてしまった。
そして土居さん・・・畠中さんと同じく特別強い思い入れがある作品ということで「令和の時代に新しいシャボン玉に出会っていろんな感情が湧いてきた」と語られていたのがとても印象的でした。
そして、あいさつの最後に…同じ音楽座の仲間だった石冨由美子さんについて触れられる一幕があって…。私、この時まで知りませんでした、石冨さんが亡くなられていたことを…。2月23日が命日にあたるそうで…ほんと、衝撃受けました。音楽座の女優さんだったことは知っていたし、対談した後の舞台も何本か拝見したことがあります。とても奇麗な方で…まだ亡くなる年齢ではないのに…。土居さんが涙をぼろぼろこぼしながら「由美ちゃん、ありがとうーーー!!」と宇宙に届くような声で叫んでいて、もうそれ見て私大号泣してしまいました(涙)。
みゆさんも涙ぐみながら公演を終えた感想を語っていました。稽古場では常にプレッシャーを感じていたそうですが、そのたびに土居さんから「いつでも味方だからね」って声をかけてもらえたのがとても嬉しかったそうです。他のキャストの皆さんにも泣きながら「ありがとうございます」ってお礼を言っていた姿にまたもらい泣き…。
最後に芳雄くん。「いろんな人に突っ込みすぎてすでに疲れました」と笑いをとりながらも、この作品を今の時代に上演できたこと、そして当時舞台に立っていた音楽座の皆さんが参加してくれたことに感謝の言葉を述べていました。「シーズン3くらいまで続けたい気分」と言うほどこの作品に惚れ込んでいたという芳雄くん。見に来てくれる役者仲間がみんな「この作品好きだったんだ」と語っていたそう。また是非この作品で皆さんにお会いしたいと最後に力強くコメントしてました。
この作品は、何度も重ねてみるとさらに良さが伝わるのかもしれません。また再演されることがあれば見に行きたいです。
音楽座作品としては、もうひとつ、「マドモアゼル・モーツァルト」見てみたいですねぇ。解散前の音楽座が最後に打った公演でもありました。一度も行けなかったので、いつか上演してほしいです。