『酒と涙とジキルとハイド』 2018.05.12マチネ

三谷幸喜さん作の舞台『酒と涙とジキルとハイド』を観に東京遠征してきました。

ちょうど東京で観たい演目が重なっていたので、タイミング的にも助かりましたw。ちなみに前日に観たのは劇団四季『ノートルダムの鐘』です(前記事参照)。あまりにもタイプが違いすぎる作品ww。

 

東京芸術劇場を訪れたのは昨年同じく三谷作品の『不信ー彼女が嘘をつく理由ー』を観て以来だったのですが、あの時は地下にあるシアターイースト劇場のほうだったんですよね。

プレイハウス劇場は2階にあって。かつては「中ホール」と呼ばれていた場所でしたが改装してから名前が変わったようです。私は「中ホール」だった時代によく足を運んでいたのですが(ここで好みのミュージカル上演することが多かった)、プレイハウスとなった後に訪れたのは実は今回が初めて。


以前はこんなポップな印象じゃなかったのでちょっとビックリしてしまった(笑)。

だけど基本的に中に入った感じは変わってなくてホッとしました。相変わらずロビーは広々していて過ごしやすいです。池袋周辺は苦手な町だけど、東京芸術劇場の中は落ち着くしけっこう好きなんですよね。

以下の感想はネタバレを含んでいます。ご注意ください。

 

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2018.05.12マチネ公演 in プレイハウス(池袋)

キャスト

  • ジキル博士:片岡愛之助
  • イヴ:優香
  • ビクター:藤井隆
  • 執事・プール:迫田孝也

初演のキャストがそのまま再集結してくれました。

また、生演奏のミュージシャン・高良久美子さん青木タイセイさんも参加してくれてうれしかったです😀。この舞台の音楽は効果音的なものも含めて全てお二人が担当されているんですよね。今回も絶妙のタイミングで音楽を奏でてくれていてとても楽しかったです。

 

全体感想

4年前の初演の時、大阪公演を観に行きました。ちょうどあの頃は大阪に引っ越したばかりで色々と慣れないことが多かった時期でもあったので、この舞台に大いに救われました。そういえば、あの時上演されたのは・・・もう今は無くなってしまったシアター・ブラバだったっけ。うーーん、懐かしい。

そもそも最初に観に行こうと思ったきっかけは、私が片岡愛之助さんのファンだということでして。愛之助さんが三谷舞台の…しかもコメディに初参戦とあればぜひ観てみたい!と。
初演で初めて愛之助さんのコメディ芝居を観て、こんな引き出しも持っていたのかとひたすら観劇した思い出があります(笑)。もうあの時は、何もかも新鮮でしたね。

三谷さん曰く、この舞台は「終わった後に何も残らないものを目指した」ってことらしく・・・本当にただその場で見て大笑いしてっていうスタイルの作品。それだからか、実はセンセーショナルな場面ww以外は殆ど記憶に残っていませんでした😅。今回の再演を見て「あ、こんなストーリーだったっけ」とか「あんなシーンあったっけ」とか…とにかく忘れていた部分が多かった(笑)。
そんなわけで、断片的な記憶しかなかったおかげで再演も非常に新鮮な気持ちで楽しむことができました。

 

ストーリーの簡単なあらすじは以下の通り。

舞台は19世紀末のロンドン。ジキル博士が開発した新薬は、人間を善と悪の二つの人格に分ける画期的もので、それを飲めば、邪悪な別人格のハイド氏に変身する、・・・はずだった。

学会発表を明日に控え、薬がまったく効かないことに気づいたジキル博士(片岡愛之助)は、追い詰められた末、役者のビクター(藤井隆)にハイドを演じさせ「ふたり一役」の替え玉作戦で乗り切る奇策を打ち出す。

しぶしぶ引き受ける羽目になったビクターと替え玉リハーサルをしている最中、ジキル博士の婚約者イヴ(優香)が訪ねてきて鉢合わせしまう。博士の助手プール(迫田孝也)が機転を利かして急場をしのぐが、事態はさらに混乱していく・・・。

ホリプロ公式ページから引用

 

ちょうど今年の3月にミュージカル『ジキル&ハイド』を観ていたこともあって、「あぁ、あの前日の出来事ね!」と妙に納得できてしまうものがありました。でも、あの作品はとても重厚で、こんなに笑えるような展開は一つもないw。だからこそのギャップとしても楽しむことができたかも。
初演の時にはジキル博士の存在しか重なるものを感じなかったけど、今回は執事のプールとか婚約者のイヴ(ミュージカルではエマ)も比較対象として頭に浮かんできたのでより楽しめたのは大きかったです。ビクターだけがこの舞台オリジナルなんですよねw。

参考 ミュージカル『ジキル&ハイド』感想

ミュージカル『ジキル&ハイド』大阪公演 2018.03.30マチネ〜03.31ソワレ
ミュージカル『ジキル&ハイド』を観に大阪遠征してきました。 ジキハイは鹿賀丈史さんが初演で演じたのを観て以来、上演されるたびに観に行くほど大好きな作品です。鹿賀さんは01年~07年まで主演をされて、12年~石丸幹二さんにバトンタッチ。今回の...

ちなみに、ミュージカルでジキル博士を演じた石丸幹二さんと今回ジキル博士を演じた片岡愛之助さんは交流があってとても仲良しなんだとか。インタビューで愛之助さんが「石丸さんのジキルもすごく気になる」って語ってたのが印象的でした。
いつかお二人の共演舞台を観てみたい!

 

初演の記憶はあまり残っていなかったのですが、全体を見た印象としては・・・明らかに濃度が増していたなと思いました。おそらくセリフとかはほとんど変わってないと思うんですけど、演じ手の熱量が明らかに高くなっているなというのはすごく思いました。

特に冒頭、イヴが研究室に来ていたのを喜んだジキル博士が「やったぜベイビー!!」という場面があるんですが、たしか初演ではあんなにテンション突き抜けてなかったはず(笑)。
ビクターのハイドっぷりも初演よりはるかにテンションが高く縦横無尽の活躍!フランスパンのワイルドな千切りっぷりには大笑いでした(笑)。イヴも表情が初演よりもずっと豊かで、セリフがなくても感情が直に伝わってくる感じがとても面白かったです。

そして明らかに存在感を増したなと思ったのが執事のプール。たぶん、初演とほとんど台本的には変わってないはずなんだけど、あれ、この人こんなに強烈な存在感あったっけ!?とビックリしたんですよね。
おそらく、演じてる迫田孝也さんに備わった4年間の経験の蓄積がそう思わせてくれてるんだなと・・・なんだかとても嬉しかったです。

 

『酒と涙とジキルとハイド』が面白いと思えるのは、全力で翻弄される人たちの滑稽さかなぁと。とにかくジキルもビクターもイヴもストーリーが中盤から後半に行くにしたがってのドタバタっぷりがハンパない(笑)。

人格を分ける薬を作ったものの失敗作に終わったジキル。発表会でどうしても披露しないといけないということで、売れない役者ビクターを呼び出して「背格好が似てるから翌日の発表の場で自分の代わりにハイド演じてほしい」って頼み込む。でも傍から見るとほとんど似てると思えないっていうのがまたツボww。
渋々受け入れたばかりのビクターの前に偶然イヴがやってきてしまって鉢合わせ。やけくそでハイドを演じたらイヴがなんと惚れちゃうっていうのもウケる(笑)。観てるこっちは笑えるけど、ジキル博士としては婚約者が自分の身代わりで演じたハイドに心奪われちゃってるわけだから気が気じゃない。そこがまた滑稽で面白い😂。
ジキルとビクター演じるハイドがイヴの前でコロコロ入れ替わりを展開しているうちに、最終的にイヴが「自分が薬飲んで変わればいいんだ」とジキルの失敗作の薬を飲んで”ハイジ”として大暴れw。キャラ変したイヴにジキルとハイドもビビッて逃げ回ってさらにドタバタ劇が加速(笑)。

非常にスピーディーなシチュエーションコメディで、息を切らせながらも全力でアタフタしまくってる姿に何度も笑わされます。本人たちにとっては一大事でも、観ている方は面白くてついつい笑っちゃうっていうコメディ作品ですね。
おそらく、私たちの立場と同じところに居るキャラというのが執事のプールだと思います。彼はどちらかというと当事者じゃなくて傍観者で、たまにオロオロしまくってる3人をさらに混乱に陥れようと画策したりもする(笑)。「つい面白くなっちゃって」っていうプールの台詞があるんですが、これはまさに見ている観客の気持ちをそのまま言い表してるのかなっていうのを感じました。
こういう冷静なキャラが一人混じると面白さってさらに増しますよね。こういうところが三谷さんさすが喜劇作家だなと思いました。

そんな爆笑連続コメディ作品ですが、ちょっと心に残るようなものもあって。
優香さん演じるイヴは、何とかして今の自分を変えたいともがいていて・・・変わるために自分が薬を飲んで別人に変身。でも、薬は失敗作なので変わるはずがなくて・・・、結局は自分の激しい思い込みでキャラが変わってたっていう。
このくだり、とても面白くもあるんですが・・・ちょっとチクっとするものもあるんですよね。薬の力を借りて自分を変えようとしたものの、実はそれはただの自分の思い込みだったって・・・ある意味、喜劇の中の悲劇

誰にでも「自分を変えたい」っていう気持ちは芽生えたりするものだと思います。私もその一人。変えられるものなら今とは違う自分に変わりたいっていう気持ちを持ってます。だけど、それには勇気がいるんですよね。そう簡単に人は自分を変えられないと思うんです。
そこで夢のようなジキル博士の薬というものが出てきて・・・イヴはその力を借りて自分を変えようとした。だけど結局そんな薬は存在してなくて。そこになんだか切なさも覚えた私です。やはり自分は自分の意思で変えないとダメだってことですかね。

 

この作品はオチもなかなかに面白いです。正直、こうなるだろうなって読めちゃうんですが(笑)、それでも愛之助さんの絶妙な間があって笑っちゃう😁。最後まで楽しませてもらいました。

 

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キャスト別感想

片岡愛之助さん

初演の時に初めて現代劇でコメディを演じる愛之助さんを見て「思ってたよりもハマるもんだなぁ」と感心したのですが、今回はまたさらに前回以上にテンションがヒートアップしていたので最初少しビックリしました(笑)。
前述でも触れましたが、冒頭の「やったぜベイビー!!」とか「勇気モリモリですっ!!」とか・・・初演はあんなに全力で、しかもリアクション付きで演じてなかったはずなので(笑)、愛之助さん・・・めっちゃ頑張ってるなぁと圧倒されてしまいましたww。しかもそれが劇中でもスベりまくってたっていうのが、また、ね😅。面白いっていうよりもビックリっていう方が大きかったけどw、そう思わせるのも多分三谷さんの思い通りなんだろうなと。

冒頭だけじゃなくて全編通してとにかく全身使って笑いを体現!うおお~んって泣いたり、ルンルン気分で笑ってたり、オロオロびくびくしながら恐がったり、とにかくリアクションも表情もものすごく豊かだったのが印象的。
特にあのアクション一つ一つの大きさは歌舞伎ならではの動きみたいなものも彷彿とさせられるものがあって。なんか暴れてるように見えるんだけど実はちゃんと型みたいなものが見え隠れしてて、こういうところが歌舞伎役者としての動きが生かされているなぁと思いました。

あと面白かったのが、クライマックスで「女性化」したフリをする場面。たしか初演では見かけなかったような気がするんだけど・・・今回思いっ切り「歌舞伎の女形」として披露してくれてて(笑)。愛之助ファンと思しきお客さんは拍手喝采でございましたww。あ、私も久々に愛之助さんの歌舞伎な一面が見れて嬉しくて拍手してました😁。

個人的には一番ラストのポヤってした感じのジキル博士が一番お気に入りかな~。あれ、めっちゃ可愛かったよ😂。

久しぶりに舞台の愛之助さん見たけど、やっぱりとても魅力的な役者さんです。またいつか三谷さん舞台の…新作で観てみたいなと思いました(もちろん歌舞伎は最優先ですが)

 

優香さん

初演の時、優香さんは初舞台だったんですよね~。初舞台でこの役というのはかなりハードルが高く大変だったんじゃないかなと思ったのですが、すごく頑張ってて。だけど大阪公演は後半に差し掛かっていた時期だったので、喉を少し潰してしまっていたのを心配してしまった思い出があります。

あれから4年、昨年三谷さんの舞台『不信』で久し振りに見た時にはすごく余裕を感じて成長したなぁと思ったんですよね。そこから約1年後の今回の再演。もう上演が始まってけっこう時が経っていたのですが、声のハリも絶好調で生き生きと奔放なキャラを熱演している優香さんがそこに居ました。
なんていうか、もうだいぶ舞台経験積んだ女優さんのような舞台での立ち居振る舞いで…貫禄すら感じましたよ。素晴らしかったです!

優香さんってすごいコメディエンヌの素質ありますよね。それに、三谷さんが求めているキャラクターを忠実に再現しているなって思える。
イヴは表向きは超お嬢様なのに、心の中では過激さを求めてて。おとなしい恋愛よりも激しく罵られるような恋愛を望んでる超ドSなキャラクターなのですが、その複雑さをチャーミングで可愛らしく、しかも大胆不敵に演じていたのはすごいなと思いました。表情豊かで初演よりもずっとキャラクターが濃くなった感じ。

今後も機会があれば舞台で活躍してほしい女優さんだなと思います。

 

藤井隆さん

初演の時のハイドっぷりもかなり面白かったのですが、再演の今回のハイドもさらに熱量が上がってめちゃめちゃ面白かったです😂!!

この役の面白さは、最初はうだつの上がらないような地味な役者だったビクターが、成り行きで突発的に創り上げた”ハイド”を演じることになるってところ。演じることによって豹変するキャラがとにかく笑えるんですよね。あんなにシケた雰囲気だったのに、ハイドを演じていくうちに彼自身が自分を解放させてどんどんのめり込んでいってしまう(笑)。
そこの落差の部分を、藤井さんは実に巧みに表現されていたなと思いました。こういうところが芸人をやってるがゆえの才能なのかなぁと。

藤井さんの”ハイド”って、なんかちょっとナマハゲの「なぐごはいねぇが~~!!」っていうのと似たところがあって(笑)。そこをさらにデフォルメして思い切り滑稽に吹っ切って暴れまくってるのがたまらなく笑えます😂。
イヴもそんな”ハイド”に首ったけ状態になってしまうのでw、なんだか芝居を観ているというよりかはギャグマンガを読んでいるかのような感覚にすらなったりしてw。あの空気感を作っていた藤井さんってすごいなと改めて思いました。

 

迫田孝也さん

初演と再演とで一番変わったなと思ったのが迫田さんです。
そもそも、私が初めて迫田さんを知ったのがこの舞台の初演だったんですよね。あの時はポスターにも載ってなくて(今回は右端にちょこっと出てますw)、「あれ、予定にない人が座ってる!?」って思ったくらいww。

髪型も今回と同じくサラサラ金髪ロン毛キャラだったので、本当にああいった風貌の人なんだとしばらく信じていたくらい(笑)迫田さんのこと知らなかったんです。WOWOWの座談会みたいな番組を見て、初めて素の姿を知って。三谷さんはまた新たに良い役者見つけたんだなぁと思ったものでした。

だけど、初演ではどちらかというと3人を引き立たせることに徹していたキャラだったので、存在は目立っていたものの(あの風貌だしww)ストーリー的にはどちらかというと薄い印象はあったんですよね。
それが今回、ビックリするほど存在感が増していて!!あのポスターの右端にちょこん程度のキャラでは明らかになくなっていました(笑)。引き立たせる役割をこなしつつも、プールもどんどんと積極的に物語に絡んでいて、しまいには主演3人を翻弄させるまでに成長。

この4年の間で迫田さん自身が積み重ねてきたものの大きさを今回実感しました。やはり一番大きかったのは大河ドラマ『真田丸』に出演したことだったんじゃないかと。あれ以来の迫田さんの活躍は本当に目覚ましいものがあるし、自分のキャラも自由に表現しているようなところがありますものね。
それらの経験が今回の舞台の役者としての存在感に生かされていたのを目の当たりにできたのが特にうれしかったです。これからも様々な分野で頑張ってほしいです(今は大河ドラマ『西郷どん』の薩摩ことば指導も頑張ってますね)

 

後述

久しぶりの再演でしたが、色々な変化もあったりしてとても充実した楽しい観劇となりました。やはり舞台は生き物ですね。

「何も残らないものを目指した」って三谷さん言ってるので、おそらくしばらくしたらまた内容が抜けてしまいそうな気がしますが(笑)、それでもすごく笑ったという記憶だけは抜けないで残ると思います。

 

初演の舞台はDVDになって発売中です。

 

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忘れないためにもぜひ1本お手元にいかがでしょう(笑)。できれば再演もまた発売してほしいかも。

ちなみに、物販ではパンフレットを購入しました。コンパクトで持ち帰りにはとても助かりますw。

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