ミュージカル『手紙』 2022.03.24ソワレ

2幕

2幕の舞台は秋葉原の電気街からスタート。セットにはかつて見かけたことがある電気街の看板がたくさん掲げられていて、思わず懐かしい!と思ってしまいましたw。

直貴は新星電機の販売員として再就職する。黄色い法被を着て客引きする他の定員さんのテンションが異様に高くて面白かったw。そんななかで必死に自分を奮い立たせ仕事をこなそうと頑張る直貴。

その頃刑務所では、居場所が分からなくなった弟を心配した剛志が何とかそれを知ろうともがいていた。その姿を見た先輩囚人は「弟の本心を察してやれよ!」と詰め寄りますが、どうしてもそれを受け入れることができずにいる。世間から遮断されたなかで、直貴の存在だけが剛志の心のよりどころになっていたのです。でも彼は知らない、弟が兄の罪のせいでどんな辛く苦しい状況に置かれているのかを…。

そんなある日、直貴は由実子と祐輔から一緒に飲もうと誘われる。断腸の想いでバンドを離れた直貴のことを二人はずっと心配し親身に接してくれていました。ほとんどの人が彼と距離を置くなか、祐輔と由実子だけは変わらずずっと寄り添い続けてくれているなんて、ホントに泣ける…。それだけ直貴のことが大好きなんだろうね。彼らの支えがあったからこそ、直貴はこの世に留まり就職にまでこぎつけることができたんだと思いました。
だけど、当の本人は自分が生きることに必死だからか二人の存在の大きさをあまり自覚していない様子。大切な友達とは思ってるんだろうけどね…。

♪返事をくれないか♪

楽しい時間を過ごした後、由実子は酔いつぶれた直貴をアパートまで送り届ける。彼の部屋に入った時、彼女は偶然剛志から届いていた直貴宛ての手紙が目に入ってしまった。封も開けずごみ箱に捨てられていたそれを直貴に黙って読んでしまう由実子。そこに記された「はがき一枚だけでもいいからくれないか」と切々と訴えかける文面に張り裂けそうな気持がこみ上げてしまった彼女は、こっそりそれを持ち帰るのでした。

♪これは俺の人生(リプライズ)♪

数日後、直貴は会社に兄のことを知られたことをきっかけに埼玉の工場へと異動させられてしまう。その話を聞いた由実子は「抗議すべき」と説得しようとしますが、「無駄なあがきだ」と諦めたようにそれを受け入れる直貴。
初めて出会った日からずっと彼を鼓舞し励まし支えになってきた彼女としては、そんな直貴を見るのはさぞかし辛かっただろうなと思いました。もっと自分を信じてほしいと訴えながら歌う姿にすごく心打たれるものがあった。でも、今の彼にはその気持ち届かないんだよね…。切ない(涙)。

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埼玉の工場に勤務し始めたある日、直貴の前に社長の平野がやってくる。最初は”本社の人”という認識しかなかった直貴が”社長”だと知ってビビりまくる姿は可愛かったw。
平野はとても穏やかそうな器の大きそうな人物に見えましたが、直貴が埼玉に飛ばされたことに関して「会社の判断は当然だと思う」と厳しい指摘をしてくる。自分の味方かと思った人から辛辣な現実を突きつけられ、直貴は次第に気持ちがささくれ立ってくる。でも平野社長はそんな彼の心を見透かしたように「犯罪者は自分の家族にも苦しみが至ることを思い知る必要がある」と説く。このセリフはなんか、ハッとさせられるものがありましたね…。直貴にとってはものすごく残酷なことなんだけど、その通りだとも思ってしまう。

♪ここから始めるんだ♪

さらに平野社長は「被害者は死をもたらされたことで人との繋がりを遮断されてしまったのだ」と告げる。直貴もこれまで多くの社会とのつながりを絶たれる憂き目を見てきた。でも、「社会的な”死”からは生還できるのだ」と諭すのでした。
このセリフもものすごく印象的だった、というか…気づきが多かったです。生きている限りは社会と繋がりを持とうともがくことができ、それを得るチャンスだって巡ってくるかもしれない。命を失った人にはそれができない。改めて剛志が犯した罪の重さを実感させられるような気持にさせられました。

どうすればいいのかと尋ねる直貴に対し、平野は「もう一度人生を築くために人との繋がりを増やしていきなさい。君はもう知らないうちに始めているのだ」と告げる。そして、由実子から届いた手紙を差し出しました。
そこには、直貴のことを想い必死に「彼にチャンスを与えてほしい」と切々と訴える内容が綴られている。この手紙のことは彼には秘密にしてほしいとあったけれど、直貴はそれを知る必要があるからとあえて平野はそれを見せたのでした。

この手紙を読んだ時、直貴のなかで初めて由実子という存在が大きく膨らんだような気がしました。彼女がこれまで自分にとってどんなにか救いになってくれたことか、やっと気が付くことができたんだろうなと…。涙をポロポロ流しながら文面に目を通す直貴の姿は涙なしには見れなかったよ(泣)。
そして、「差別のない世界を探すよりも今の世界をしっかりと踏みしめるんだ」と諭してくれた平野社長の優しさも沁みました。あえて厳しいことを告げながらも、ちゃんと直貴のことを想ったうえで接してくれたんですよね。敵ばかりだと思っていたなかでも、こんなにも想ってくれる人が確かにいるんだって思ったら、胸が熱くなって涙があふれて仕方なかったです(涙)。

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由実子への溢れる想いを抑えきれず、彼女の元へと駆けつけた直貴。しかしそこで彼は、由実子が自分に内緒で兄と手紙のやりとりをしていたことを知ってしまう。直貴に成りすますためにワープロを使って手紙を送り続けていた由実子…。それを知り、思わず激高してしまう直貴。兄との決別を誓ったのに、こうして思わぬところから繋がりができていたことを知って大きなショックを受けてしまったんだろうなと…。

♪逃げても逃げても♪

由実子は剛志の孤独な気持ちが理解できてしまう理由を語り始める。彼女の父も、傷害事件を起こして刑務所へ送られていたのでした…。由実子もまた、多くの差別の目を感じながら息を潜めて生きざるを得ない過去があったのです(涙)。直貴に初めて会った時から彼に惹かれていたのは、おそらく自分と同じ境遇を生きていると感じて共鳴するものがあったからなのかもしれないね…。
由実子は、どんなに繋がりを断とうとしても逃げきれない現実を知っていた。だからこそ、兄から逃げようともがき苦しむ直貴の姿は辛くて悲しくてたまらなかったと思います(涙)。

「大事なあなたが逃げる姿をもう見たくない」と涙ながらに訴える由実子を直貴は思わず後ろから抱きしめました。まるで彼女を守るように、そして縋るように泣きながら…。この場面の直貴の姿が本当に忘れられないです(涙)。
「兄のことを知るとみんな逃げてしまうなかで、君だけが逃げずに傍にいてくれた」と涙ながらに歌う直貴の姿に号泣した…。苦しんでもがいた果てに、彼はやっと、由実子という何よりも大切な存在に気づくことができた。ここに希望の光が見えた気がしてボロ泣きでした(涙)。

直貴と由実子は結婚。3歳になる娘もいて穏やかな生活が続いていた。由実子は剛志への手紙も送り続けていて、直貴が幸せになったことを素直に喜ぶ返事が返ってきている。
でも、その頃になるとだんだん二人の周りで剛志の件についてのが広まり始めてしまう。娘を保育園に預けたくても受け入れてもらえなくなる事態となり、由実子も肩身の狭い想いを募らせていく。直貴も会社で噂を回され次第に心が追い詰められていった…。どんなに時間が経っても、容赦なく襲い掛かる世間からの冷たい仕打ちは見ていて本当に胸が詰まる。

そんな時、娘を連れて自転車で出かけていた由実子が暴漢に襲われる事件が発生する。二人とも何とか無事ではあったものの、危険を感じた直貴は引越すことを提案。会社で社長に会った時に「正々堂々と生きていれば周りが受け入れてくれると期待するのは甘えだ」と厳しく指摘されたという。平野は相変わらず厳しい現実をズバリ告げてくるんだなぁと思いつつも、そこには彼らを見守る優しさも潜んでいるような気がしました。

病院で娘が回復するのを待っている間、由実子たちを襲った青年の母親が謝罪に駆けつけてきた。泣きながら息子の不始末を詫び「親としてできる限りのことはさせていただきたい」と訴える彼女でしたが、直貴はすぐにその謝罪を受け入れる気持ちになることができなかった…。
犯罪者の家族という立場と同時に被害者の家族という立場になってしまった直貴。これまでは憎しみの眼差しを浴びることが多かった彼が、この時初めて加害者家族への複雑な気持ちを悟る。なんという運命のいたずら…。

♪最後の手紙 直貴バージョン♪

事件後、直貴は久しぶりに兄に向けて手書きの手紙を送る。直貴と由実子の住まいも牢獄のセットで展開されているので、彼自身も鉄格子に囲われているかのような錯覚を覚えてしまった。このあたりの舞台演出もニクイなと思います。
剛志は久しぶりに直貴の直筆を見て素直に喜びますが、そこに綴られていたのは彼が期待していた甘いものではなかった。刑務所暮らしの世界しか見えていなかった剛志は、その手紙を読んで初めて弟が過酷な環境の中で必死に生きてきたことを知る。直貴だけではない、その妻や子供も周囲の差別の目に晒され辛い思いをさせられていたことも…。

「僕らの苦しみを知ることも、あなたの罪だ」とハッキリ刻まれた文字を読んだ時、剛志は初めて正面から自分の犯した罪の深さを自覚したんだろうなと思いました。これまで送っていた能天気な内容の手紙がどれだけ弟を苦しめていたかを思い知った剛志の心情を思うと、苦しくてたまらなかったです(涙)。

直貴は、被害者家族の気持ちを理解したことでようやく兄に現実を伝える決断ができた。そういうきっかけがなければ、出来なかったと思う。兄はいないと思っていても心のどこかでまだ情が残っていただろうし…。
直貴が最後に歌う「僕にはもう兄はいない、あなたには弟はいない。これが最後の願いです。これが最後の手紙です」というフレーズが私の心に深く棘のように突き刺さりました。直貴は涙をこらえ兄にその犯した罪の重さを突きつけた。それがどんなに身を裂かれるように辛いことだったかと思うと本当に居たたまれなくて涙が止まりませんでした…。最後に残っていた情も彼は切り捨てたんだなと(涙)。

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新しい場所に引っ越した直貴たちはひとまず穏やかな生活を取り戻していました。そこへ引っ越し祝いだと祐輔が遊びに来てくれた。慰問コンサートを始めた祐輔は、今度剛志のいる刑務所で歌うことになったから直貴にも一緒にステージに立ってほしいと依頼してきた。
それに対して「兄とはもう縁を切ったから」と頑なに拒絶する直貴でしたが、「本当に今のままで良いのか」という祐輔の言葉が心にのしかかっているようだった。剛志には絶縁状を突きつけたけれど、まだ兄に対する想いを捨てきることができていないんだろうなと思えて仕方なかったな…。そう簡単に家族との縁は断ち切れないよね。

そんな彼に由実子は、加害者の母親から手紙が届いたことを告げる。直貴は「相手の自己満足だ」と憤りを見せますが、由実子は「あの事件は忘れたくても忘れられない出来事なんだ」と訴える…。その話を聞いた時、直貴の脳裏にずっと置き去りにしてきた出来事が頭に浮かんだのではないかなと思いました。それは、兄が犯してしまった罪の被害者となった緒方敏江さんの家族に会うこと…。
これまでは自分と自分の家族が生きていくことだけで精いっぱいで、被害者家族に向き合う余裕を持つことができなかった直貴。でも、自分が被害者家族になったことでようやくその存在に目を向ける勇気が持てたのではないかなと。だけど、その場に訪れることがどんなにか恐ろしかっただろうと思うと心が痛んで仕方なかったです。

♪最後の手紙♪

被害者の敏江の息子・忠夫は母を失った哀しみや犯人への憎しみの感情を背負いながら生きてきた。剛志から届く何通もの手紙も何度破り捨てようかと思ったか知れない。でも、拒絶をしたら自分が事件を終わらせてしまうのではないかということが辛くてずっと受け取りだけは続けていました。被害者家族の悲しみと苦しみは、何年時が経っても薄らぐことはないのだということを突きつけられた気がして、忠夫の歌を聴くのはとても辛く苦しかったです(涙)。
加害者家族の辛さとはまた違う、終わりのない苦しみなのだろうなと…。それは想像を絶するものがある。

勇気を奮って緒方家を訪れた直貴は、10年間来れなかったことを心から謝罪する。そんな彼に、忠夫は剛志から届いた1通の手紙を手渡しました。それは、剛志が刑務所から送った「最後の」手紙だった…。忠夫はその1通にだけは目を通していたのです。
直貴がおそるおそるその手紙を広げると、そこには、自分が送り続けていた手紙で直貴やその家族をも苦しめてしまったことへの悔恨の気持ちが切々と綴られていた(涙)。それを読んだ時、直貴は初めて、兄から届く手紙が自分の支えでもあったことを自覚する。何度も苦しめられてきたけれど、心の底では兄と繋がってこれたことが嬉しかった気持ちが拭えなかったんだと思う。

忠夫、剛志、そして直貴のそれぞれの心情が重なって響き合う。それぞれの想いが痛いほど聴く者の心を揺さぶってきて…もう、たまらなくなって涙が止まらなかったです(泣)。あんなに切ない想いをさせられるナンバー、久しぶりに聴いた気がする。

そして最後に、忠夫は直貴にあることを告げました。あの言葉を口にすることにどれだけの気持ちを振り絞ったことかと思うともう切なくて切なくて…(涙)。そしてその言葉を受け取った時に号泣した直貴を目の当たりにして、何とも言えない感情がこみ上げてきて一緒に泣きました(涙)。忠夫も、直貴も、どれだけ重く苦しいものを背負い続けてきたのかと思ったら、胸が張り裂けそうになりましたよ、ほんとに・・・。

♪二人だけの兄弟(リプライズ)♪

ラストは、直貴が祐輔の誘いに乗り兄の刑務所で慰問コンサートの舞台に立つ場面でした。囚人の中には剛志の姿もある…。祐輔の紹介で、直貴は兄との思い出が詰まったジョン・レノンの「イマジン」を歌おうとする。

この後の展開は、涙なしには見られませんでした(号泣)。絆を断ち切ったはずの兄の姿を目にした直貴の表情、想い・・・色んなものが一気に押し寄せてきて胸が苦しくて仕方なかったです。そして、絆を断ち切られた兄・剛志の後ろ姿…。それはどこか神々しくて、でも哀しくて(涙)。

あの瞬間に交わされた二人の溢れんばかりの感情に想いを馳せるだけで涙があふれてボロ泣きしてしまいました。これまで色々なミュージカル作品を観てきたけれど、あんなに激しく心を揺さぶられたシーンはそう多くありません。そこに至るまでの人間ドラマが繊細に濃密に描かれてきたからこそのラストだったと思います。

キャスト感想は次のページにて。

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