音楽劇『ライムライト』を観に大阪遠征してきました(ちなみに前日にはドラマシティの上・梅芸で上演していた『ハル』を観劇w)。
今年はチャップリンの生誕130年に当たるということで、約4年ぶりの再演として上演されたようです。石丸さんはチャップリンに対する思い入れがとても深いので、まさに念願叶ってということではないでしょうか。
本当は27日マチネの大阪初日のみの予定にしていたのですが、後からソワレで「おまけ」が付くことが判明しまして…気が付いたら追加購入してしまい、気が付けばマチソワ観劇となっておりました(前日にハルを観てるので3連ちゃん観劇状態 笑)。
そのソワレで全員に配られた「おまけ」というのがライムライトのミニカレンダー。
しかも、「令和」の元号入りww。なかなか素敵な仕上がりです。良い記念となりました。
ドラマシティはロビーのスペースが広いのでいつも楽屋花が華やかに飾られてます。今回も石丸さんを筆頭に多くの花がロビーを彩っていました。
以下、ネタバレ含んだ感想になります。
2019.04.27 マチネ・ソワレ公演 シアター・ドラマシティ(大阪)
キャスト
- カルヴェロ:石丸幹二
- テリー:実咲凜音
- ネヴィル:矢崎広
- オルソップ夫人:保坂知寿
- ポスタント:吉野圭吾
- ボダリング:植本純米
- バレエダンサー ほか:佐藤洋介
- バレエダンサー ほか:舞城のどか
カルヴェロ役の石丸さんと、テリー役の実咲さん以外は2役以上を担当しています。
あらすじと概要
オリジナルは、1953年に公開されたチャップリンの長編映画『ライムライト』。チャップリンが初めて映像作品の中で素顔を出して演じたことでも有名です。
ちなみに【ライムライト】とは電球が普及する前に舞台照明としてかつて使われていた照明器具で、 【名声】の代名詞として使われる言葉なのだそうです。監督・脚本・音楽・主演と4役もこなしてるというのが凄い!本当に才能あふれた人だったんだなぁと思います。
あらすじは以下の通り
1914年、ロンドン。ミュージック・ホールのかつての人気者で今や落ちぶれた老芸人のカルヴェロ(石丸幹二)は、元舞台女優のオルソップ夫人(保坂知寿)が大家を務めるフラットで、酒浸りの日々を送っていた。
ある日カルヴェロは、ガス自殺を図ったバレリーナ、テリー(実咲凜音)を助ける。テリーは、自分にバレエを習わせるために姉が街娼をしていたことにショックを受け、脚が動かなくなっていた。
カルヴェロは、テリーを再び舞台に戻そうと懸命に支える。その甲斐もあり歩けるようになったテリーは、ついにエンパイア劇場のボダリンク氏(植本純米)が演出する舞台に復帰し、将来を嘱望されるまでになった。かつてほのかに想いを寄せたピアニストのネヴィル(矢崎広)とも再会する。
テリーは、自分を支え再び舞台に立たせてくれたカルヴェロに求婚する。だが、若い二人を結び付けようと彼女の前からカルヴェロは姿を消してしまう。テリーはロンドン中を捜しまわりようやくカルヴェロと再会する。劇場支配人であるポスタント氏(吉野圭吾)が、カルヴェロのための舞台を企画しているので戻って来て欲しいと伝えるテリー。頑なに拒むカルヴェロであったが、熱心なテリーに突き動かされ、再起を賭けた舞台に挑むが・・・。
公式HPより引用
音楽劇『ライムライト』は日本が映画を原作として制作した作品です。海外モノではなく日本のオリジナル作品ということになります。それが今回再演されたわけですから、日本スタッフとしては感激ものだったと思います。
日本初演は2015年で、私もそれを観に行っていたのですが…実はほとんど記憶に残ってなくて(汗)。印象に残らなかったわけじゃなくて、むしろ好きな部類だったはずなんですが…今回の再演を観て、前回の展開をほとんど覚えていなかったことに驚いてしまった(苦笑)。
覚えてたのは、テリーが絶望して自殺を図ってしまったことと、カルヴェロが彼女を励まし続けたことくらい。あとは、うっすらとネヴィルの存在があったなぁ~…みたいなw。
ということで、今回とても新鮮な気持ちで舞台を堪能することができました。胸にジンワリ沁みる良い作品と今度こそはしっかり胸に焼きつけることができてよかった。
ちなみに私の記憶の中に濃く残っていたのは…ライムライトが初演される2年前の2013年に上演された『スマイル・オブ・チャップリン』の方でした。チャップリンのデビュー100周年に合わせて2日間のみ上演されたのですが、3部構成になっていて内容も濃かったんですよね。
この時に大号泣しながら見た記憶がすごい残ってて…それと『ライムライト』がちょっとごっちゃになってしまった感は否めなかったかも。どちらも石丸さんが主役だったしね。
※スマイル・オブ・チャップリンの当時の感想記事↓
全体感想
この舞台の演出は荻田浩一さんです。荻田さんといえば、抽象的で独特な魅せ方をすることが多いので作品によって合う合わないが出てきやすいのですが(汗)、この『ライムライト』に関してはオギーイズムみたいな部分はあまり感じられなくてシンプルで見やすい印象があります。いつもこのくらいのテイストにしてくれればいいのにw。
過去と現在との行き来のシーンも2カ所くらいしかないので、初めて見る人にも分かりやすい作品に仕上がっているなと思いました(イヴサンローランの時はけっこう複雑だったからなおさらそう思えたのかもw)。
全体的には派手な展開があるわけではなく、どちらかというと静かに穏やかに…それでも時に情熱的にといった心に訴えかけてくるような雰囲気の作品。ジワジワと心の内側にカルヴェロたちの想いが浸透していく感じがとても心地良くて、いつの間にかすっかり感情移入して魅了され、そして涙を流す…。
人の想いに焦点を当ててじっくり丁寧に魅せているのがこの作品の魅力だなと思いました。
音楽劇ということで歌はセリフを引き立てる感じに歌われるものも多かったのですが、それでも♪エターナリー♪というビッグナンバーがあったり、舞台の上で様々な印象を与え何度も歌われる♪この男は誰?♪など印象的な曲もたくさんあるので、ミュージカルと銘打ってもいいんじゃないかなと思うんですよね。
個人的には♪You are the Song♪が一番印象深いです。この曲は涙なしには聴けない…!
バレエシーンも多く出てきますが、荻田演出独特な抽象的な感じではなくて、物語を美しく際立たせる場面として登場しちゃんとストーリーの一部として見えるのが好印象。こういうシンプルな魅せ方のほうが分かりやすいよ。
あと、カルヴェロ、テリー、ネヴィルを取り巻く人たちのコメディ芝居がすごく生きていて物語のいいスパイスになっているのも印象的です。演じてる皆さんは芸達者なので、自然に見ていてクスっと笑えるし間のタイミングとかも本当に絶妙だった。
彼らの存在が『ライムライト』という作品をより深みのある華やかな物語として成立させてるなぁと思いました。
1幕はカルヴェロが自殺を図ったテリーを励ましつつも、自分自身の人気の衰えと向き合い苦悩するシーンが中心に描かれています。どちらかというと導入部って感じですね。
親身になってテリーに尽くしていくカルヴェロの姿がなんだかとても愛しくて、テリーが知らず知らずのうちに惹かれていくのも納得。時にユーモアたっぷりに、時に真剣に怒ってくれるカルヴェロの存在は孤独を感じていたテリーにとって希望の光に見えたに違いない。カルヴェロとテリーがゆっくりと、確実に、心の距離を縮めていく光景は見る者の心を惹きつけるものがありました。
一方、テリーを励まし続けていたカルヴェロでしたが、途中から自分自身を鼓舞しているかのように見えてきたのも印象深かったです。
全盛期の頃は大勢のお客を魅了し何番目かの若い妻も娶ってブイブイ言わせていたわけですがw、その若い妻に裏切られてからは運命が暗転…、芸人としての立ち位置も失ってしまった過去があるカルヴェロ。それから年老いて酒に逃げるようになっていたところでテリーと出会ったわけで…彼女を励ましていくうちに「まだ自分は終わってないんだ」と気持ちを奮い立たせるようになったんじゃないのかなと。
でも、久し振りに入った仕事ではかつての芸は全く通用しなくて、退屈していたお客は途中で帰ってしまうという屈辱を味わってしまう。必死にやろうとすればするほど空回りしていくカルヴェロの姿は痛々しすぎてとても悲しかった…。「もう帰ろうぜ」っていう若い男の客(矢崎くんが演じてました)の言葉がグサッと刺さって見ていて私も泣きたくなってしまった(涙)。
家に戻り、敗北感と絶望とで思わずテリーの前で弱音を吐いて泣き崩れるカルヴェロの姿も切なすぎて泣けた…。あれは、なんか、後ろから抱きしめたくなっちゃうよ…痛々しくて…。
そんなカルヴェロを、今度はテリーが必死に励ます側に回る。彼の献身的な支えで気持ちを建て直し、もう一度歩けるようになってバレエができるようになりたいと歩行練習を始めていたテリー。そう思えたのはすべてカルヴェロが励ましてくれたからなんですよね。
だからこそ、彼が今回の舞台の失敗で絶望している姿を目の当たりにしたときにテリーは我を忘れて必死に檄を飛ばしたんだと思います。
そして、気づかないうちに自分の力で立ち上がり足を動かすことができたテリー。その姿にカルヴェロは絶望感から歓喜へと感情が移り変わる。
必要とされない自分の存在に打ちひしがれていたからこそ、テリーが自らの足で立ち上がった姿を目の当たりにしたとき、それがとても眩しい希望の光のように思えたんじゃないかな。なんか2回目に見た時はカルヴェロに感情移入して思わず涙がこみ上げてきてしまいました。
2幕はテリーの躍動とカルヴェロの苦悩が中心に描かれています。
すっかり元の体を取り戻したテリーはエンパイア劇場のバレリーナとして採用され輝きを増していきます。ところが、カルヴェロはその舞台にテリーのコネで出演を許されることになりますが老いを実感し衰えていく自分に落ち目を感じてしまいます…。
このタイミングであの有名な名曲♪エターナリー♪が歌われるんですよねぇ。その歌詞が「若者は輝き、年老いた影は消える」っていう内容になってるもんだから…もう、泣けて仕方ない(涙)。しかもカルヴェロはこの歌を涙しながら歌ってるわけで…切なくてたまらないよ(泣)。
しかし、テリーはそんなカルヴェロの心中に気付くことなく熱烈な愛の告白をしてくる。バレエのオーディションに受かったら告白しようと決めていたとのことで、何とも積極的(汗)。カルヴェロはそんな彼女がますます輝いて見えただろうけど、自分への負い目からかそれを断ってしまいます。勿体ない…!とも思うんだけど、そうせざるを得ないって心境になっちゃうカルヴェロの気持ちも痛いほど理解できて切ないんだよね…。
そんなとき、テリーと再会して恋心を募らせていたネヴィルが現れる。テリーもかつてはネヴィルに淡い初恋をしていましたが、今となっては想いの比重は完全にカルヴェロに傾いているわけで…なんともタイミングが悪い登場だよなぁ、ネヴィルよ(苦笑)。
本番の舞台が始まり、いよいよテリーの見せ場のシーンがやってきますが、彼女は緊張のあまり間際になって足が動かなくなってしまう。そんなテリーを見たカルヴェロは思わず後ろから強く抱きしめ励ますんですが…あそこはたぶん、唯一カルヴェロがテリーへの想いを行動に移したシーンだったと思う。励ましたい想い以上のものがカルヴェロを突き動かしたように見えました。だけどそれを言葉には出来ないわけで…切ないよなぁ、本当に…。
そのおかげもあってテリーは無事に大役を務め成功を収めることができるのですが、初日は踊っている最中少し体がグラっときて一瞬ひやりとしました。緊張していたテリーということでそういう演出なのかと思っていたけど、同じ日のソワレを見たら最後まで綺麗に踊っていたのでアクシデントだったのかもしれません。
テリーの評判は上々だったのに対し、カルヴェロの評判は散々な結果に…。興行主のポスタントはクビにしようとしますが、その人がかつて全盛期に一緒に仕事をしたカルヴェロだったと知ると(ちなみにカルヴェロは偽名を使って出演してました)その考えを覆す。
「客はお別れを言った、我々までもがお別れを言うのは酷だ」というセリフが心に沁みた…。ポスタントはカルヴェロのもがいている苦しさを理解してくれていたんだなと思うと、なんか泣けました…。普段は豪快でめっちゃおもろいキャラなのにね。吉野さんはこういう緩急つけた芝居が上手い。
ネヴィルは第一次大戦へ徴兵が決まってしまいますが、立ち去る前にテリーに正式に愛を告白します。それでもテリーのカルヴェロに対する気持ちは揺るがなくて…ネヴィルは思わず「それは愛ではなくて憐みだ」と言ってしまう。「君はまだ若い」って言葉も刺さるよなぁ…。でもそう言いたくなってしまうネヴィルの気持ちも分かるし。
それでもなお、強くカルヴェロへの気持ちを主張するテリー、強し!!でも見ていてそれが本当の愛なのかはよく分からないんだよな…。かといってネヴィルと一緒になって幸せになれるかといえばそういう確信も持てないし…難しい(汗)。
ネヴィルは失望を抱えたまま去っていきますが、カルヴェロはこの二人のやりとりを偶然見かけてしまっていました…。その時の何とも言えない悲しげな表情が切なすぎて泣けた(涙)。でもその気持ちを隠してカルヴェロはテリーの成功を心から祝福します。
ネヴィルから愛を告げられたことが引き金になったからか、テリーはカルヴェロとの結婚を強引に進めようとしてしまいます。まるで自分が愛しているのはカルヴェロだって思いこませようとしているようにも感じられてなんとも危うい感じがしたなぁ(汗)。そんな彼女の申し出をカルヴェロは固辞。若いネヴィルと一緒になった方がテリーの将来の幸せに通じるって思ってしまってるからだっていうのが切ない…。年齢の壁は残酷です。カルヴェロはそのまま姿を消してしまう。
テリーは公演の成功を受けてヨーロッパ巡業公演に出演。ロンドン公演に出た時、一時帰還していたネヴィルと再会しますが彼と付き合おうという気持ちには至っていない。
そんな彼女を慮ってか、ネヴィルはカルヴェロの居場所を突き止めて会いに行きます。場末のスナックのようなところで芸人を続けていたカルヴェロは突然の思わぬ来客に動揺を隠せない。でもネヴィルは彼への複雑な想いを抱きながらもテリーの近況を報告してくれる。いい奴なんだよ、ネヴィルは…。恋敵でもあるけど嫌いにはなれない相手なんだろうなと思った。
その後ネヴィルはテリーにカルヴェロの居場所を知らせてやるんですよねぇ。好青年じゃないか!!テリー、彼のことも真剣に考えてあげてほしい…って思っちゃうんだけど、そう簡単には人の気持ちは変えられないのがもどかしい。
カルヴェロの元に駆けつけたテリーは「今でも愛してる」と再び熱烈に告白。「必ず幸せにする!」と迫るテリーの言葉にカルヴェロは表情をゆがめていきます。
「君は私を幸せにしてくれると思うけど、それが辛いんだよ!!」
彼女と一緒になれば幸せになれる姿は想像できる、でも、反面、負い目を感じ惨めになっていく自分の姿も同時に見えてしまってるんだろうね(涙)。与えられるだけで、自分は彼女に何も与えられない。もしかしたら自分が彼女の光を奪ってしまうかもしれないという不安がカルヴェロに押し寄せているんだと思うと、心が痛くて仕方なかった…。本当はテリーを愛しているからこその、苦渋の想いなんだよね(涙)。
それに、彼女の活躍に嫉妬してしまう自分というのも想像できてしまうのかもしれない。カルヴェロは落ちぶれてしまってはいるけど、まだすべてを諦めていたわけではなかったから。芸人としてのプライドはまだ捨てずに残っているわけで…色々と考えを巡らせるとテリーと一緒になれないって気持ちになるのは痛いほど理解できる。
カルヴェロの気持ちに触れたテリーは、ポスタントがカルヴェロの特別公演を企画していると話します。はじめは「お情けなんていらない」と拒絶していたカルヴェロでしたが、芸人として再び舞台に立つというプライドが沸々と湧き起り最後には出演を決めることに。この時の素直じゃない感じが可愛かったなw。
で、特別公演の日ですが…カルヴェロが落ち込まないように周りが色々と成功への裏工作をしてるのがなんとも(苦笑)。テリーまでもが客に”笑いどころ”を伝授してたっていうしw、大家のオルソップ夫人は「あの人のことなら分かってるから私がサクラとして盛り上げるよ!」とやる気満々になってるしww。でも、なんとかカルヴェロに自信を持たせたいっていう気持ちからだから責められないよなぁ。
だけど、この時のやり取りをカルヴェロはこっそり聞いてしまってるのが切ない…。でも優しさからくる裏工作だって分かってるからあえて知らないふりをする。メイクしてる後姿がこれまたなんとも切なかった…。
そして、再起をかけたカルヴェロの舞台が幕を開けるのですが・・・ここから先の展開は涙なしには見れない(泣)。最後の最後に輝きを取り戻すカルヴェロの姿、そして終焉へ…。クライマックスで歌う♪You are the Song♪はカルヴェロの想いの結晶ですよ、あれは。涙が止まりませんでした…。